【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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127話を投稿させて頂きます。

ここのタギツヒメはヒメちゃんで優達によって“孤独”を忘れていた。そして、また"孤独"になるのを恐れていた。
    
    


カミサマになった後悔

    

   

――――こうして後悔を知らぬ獣となった私はフードを被り、あの子供、優の元へと向かった。走った。

 

ようやく、人と荒魂の垣根を越えられるのだと本気で信じた。……いや、今にして思えば、信じたかったのだろう。

 

あの時はそれを覆い隠すためか、それとも早くあの恋焦がれていた子に早く会いたかったのか、足早に動いていた。

 

「刀使のお姉ちゃん……だあれ?」

 

……きっと、この子は私のことを荒魂だと分からないのだろう。それだけで私は、この子は私を忌避しないという事に歓喜した。

騙していることに変わりは無い。けれど、それだけでも私は幸福だった。

 

きっと、私の姿を見たら、怖がるだろうから。白い肌に、耳を覆い隠すような鬼の様な二本の角を生やしている人間なんて、この世に居ないのだから、だから私は決意した。

 

――――その子に向けて、御刀を振り下ろすことを。

 

こうして私は、僅かに息をするこの子を抱えながら、あの狂った老人、スレイド博士の元へ向かった。

これで、私はこの少年と一緒に過ごせると。そう思うだけで、僅かな息をするこの優という子供が愛おしくすら思えた。そうして、私と一緒に生きていけると。

 

……けれど、それは違った。

 

「ありがとうございます。この子にノロのアンプルを打ちこみます。」

 

スレイド博士はそう言うと、優に躊躇いも無くノロのアンプルを打ちこんだ。すると、優は泡を吹き始め、一目で分かるほどに苦しみ、白目を剥いてもがいていた。

 

「お、おい!!大丈夫なのか!!?」

「大丈夫です!次はタギツヒメ様がこの子の中に入るのですっ!!!」

 

それを聞いた私は、急いで彼に取り憑いた。

すると、優は小康状態に戻った。それに、私は安堵したのだ。

 

「……良かった。死ぬかと思うたぞ。」

「ええ、私の声が聴こえますか、タギツヒメ様?」

「うむ。聞こえておるぞ。」

「それは良かった。タギツヒメ様、良いですか?今、貴女はこの子から出てはなりません。今の状態で貴女様が出てしまえば、優くんはノロで強化された肉体を失い、死んでしまいます!!」

「ハ?では、我が外に出たい場合はどうすれば良いのだ!!?」

 

しかし、そこで私は、優にとって残酷な宣告となることを聞くことになる。

 

「なあに、簡単な話です!!その子に他の荒魂のノロを吸収させ、その子の体内のノロの残留量を増やせば良いだけなのですっ!!そうすれば、何れはその子に必要最低限のノロを残したまま、タギツヒメ様は外へ出れますし、優くんも荒魂に近い存在になれます!!……それは荒魂化が進めば、優くんも荒魂となって、貴女様と一緒に過ごせる様になります!!!!」

 

優を荒魂にさせることで、私と一緒に過ごせると、とても人とは思えないようなことを平然とスレイドというこの狂った老人は言ってのけたのだ。

……だけど、バカな子供だった私は、

 

「……それは良い!!お主、良くやったぞっ!!!!」

 

これで優か私が死んでもずっと一緒に居られると、本気で信じたのだ。……だが、そんなときに鎌府の刀使達が現れ、全てが水泡に帰した。

 

――――このときの私は、邪魔をされたことに憤慨していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そうして、優は病院に移されて行った。

あと少しで私はこの子と一緒に過ごせると、そんなことばかり思っていた。

 

そこで私は、優の姉である可奈美に出会った。

 

……彼女は泣いていた。その姿を見て、私が行っていたことは私が望んでいたこととは掛け離れていたのだとようやく気付き、そして子供でバカな私はとんでもないことをしてしまったのだとようやく気付いた。

 

『……神様、お願い。……また優ちゃんと一緒に居たい……!だから、だから今度は理不尽に怒ったりしない。酷いことも言わない。……ずっと一緒に居たいから、せめてお母さんとの約束を守りたいから、優ちゃんだけでも全てから守りたい。ここからでも良いから!!』

 

可奈美が涙を流しながら、神に祈る姿を見て、私は取り返しのつかないことをしてしまったのだと理解した。瞳から涙を流した。だから私は、必死で優の中に有る身体のノロを操作して、心臓マッサージを行ったり、とにかく必死で命を繋ぎ止めようとした。

 

『お……おはよう……。』

 

そうして、私のお陰か、それとも可奈美が祈った"神"に祈りが通じたのかは分からないけど、優は息を吹き返してくれた。

それを見た可奈美は喜び、わんわんと泣きながら優を抱き締めていた。

 

一人は荒魂を討伐する刀使。もう一人は半ば荒魂と化した子供。

 

その二人を姿を見て、もうあの仲睦まじい風景は無いのだと、私が壊してしまったのだと、ようやく理解した。

それで私は、優と可奈美にとんでもなく悪い事をしてしまったのだと、強い罪悪感を抱いてしまった。

 

『……えっ、えっとな、我は、我は……。』

 

だから私は、優と最初に出会ったとき怖かった。嫌われてしまったのではないかと、怒らせてしまったのではないかと私の頭の中はそれで一杯だった。自身が積み上げた罪科に苦しんだ。

 

『じゃあさ、ヒメちゃんで良いと思う。』

 

けれど、優は私のことを責めることもせず、ヒメちゃんと呼んでくれた。

……不思議だった。けれど、『あなたは私が荒魂にしたのに嫌っていないのか。』と言うことが出来なかった。

自分を神だと自称し、タギツヒメという名前を騙ることで自分に虚栄を張るしか出来ない子供は、自分が愛しいと思える子に自分という者を伝える術を持っていなかった。

嫌っていると返答されるのが何よりも怖かった。

 

『!……う、うむ。ありがとう。』

 

だから私は、優のことを真正面から見ることができなくて、俯きながら答えていた。

そうして私は、優だけでなくミカやジョニー、ニキータと一緒に私達だけの楽園を創り上げた。

……私達だけの楽園を創り上げた理由は、彼等を見ていて不憫と思ったからだろう。

 

親の金のために黒い欲望に晒される者、親と信じて戦い裏切られた者、金のために身体を傷付けられる者、親と呼べる者が居ない者といった者が多かった。

 

――――私はそこで知った。

 

人の中には人扱いされることも無い、いや、許されない者が居るのだということ。大切な物を奪われた私はなんて不幸な存在なのだろうと思っていたけど、彼等の前だと私の不幸は自慢すらならない。

 

――――それだけじゃない。

 

『彼奴はな、我を謀ったのだ。……普通なら、“龍眼”によるあらゆる可能性を見せられれば、その力を抑えきれず暴走する。しかし、我が伴侶はそうならない、何故だと思う?』

『それを耐えるために、暗示や薬物によって精神を壊し、無理矢理安定させたのだ。自分の研究を人に認めさせ、見返すためにな!……その代わり、表情が豊かだった優は、感情の起伏は少なくなってしまったがな。』

 

――――私は嘘を吐いた。

 

優と一緒に居たかったから、ニキータやミカ、ジョニーといった皆を人間と荒魂の融合実験の材料にしたということ。

優と一緒に居たかったから、私は御刀を使って優を襲ったのだということ。

それらを隠すために私は嘘を吐いた。……本当のことを言って、皆に嫌われたくなかったから……。

 

『我は神ぞ。』

 

――――嘘だった。

 

嘘だった。嘘だった。嘘だった!!

 

私がミカやニキータ、ジョニーと優だけでなく、朱音や可奈美達に対して言っていた言葉。

私が『神』であると自称したこと。

 

……実際はどうだ。私は彼等の人生を奪っただけに過ぎなかった。ただの我侭な子供だった。嘘が暴かれるのが怖いだけの…………臆病な子供だったんだ。

 

『そりゃあ、人間とは違うなんかスゲェのなんだろ?そんなスゲェのになりたいからだよ。』

 

だけど、もう嘘とは言えなかった。言える訳がなかった!

 

私は皆から希望という灯を奪いたくなかった。

照らす道を無くすことで、皆を失望させたくなかった。

 

……自分のことを『神』だと名乗ることがこんなにも苦しくて、辛くて、友達を失望させて、心が痛むものだと知っていたら私は『神』だと名乗らなかった!!

 

――――結局は自分を神だと名乗る者の本当の姿は、人一倍臆病で誰かと話すのも苦手で、外の世界を怖がり、一人の世界に入り込む様な子供だったのだ。

 

そして、悪い未来も教えてくれた。どんなに頭を振っても、それは変わらなかった。……私が持つ龍眼がそれを教えてくれた。

 

私が優の中に籠れば籠るほど、私の友達が悪者にされていくという未来。

 

だから私は、今度は私が彼等を守る番だと思った。私が外に出ることで、私の友達のことを皆が悪く言わなくなって行くんだったら、私はそれをする。

 

その代わり、あのように弱った優の状態で私が抜け出せば、優の『器』は壊れ、私はもう二度と優の中に入って、皆に会うことが出来なくなるのだ。それが辛かった――――。

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫だよ。……ヒメちゃん…………おねーちゃん達をよろしくね。」

 

優はそれだけ言うと、荒魂化した残った左腕でタギツヒメに手を振ると、可奈美達のことをよろしく頼むと言うのであった。

 

「……ああ、任せてくれ。まだノロを注入すれば、助かる筈じゃ。」

 

タギツヒメは優にそう言って手を振ると、寿々花と姫和と共に優の病室から退室するのであった。

すると、優が居る病室の扉の前には、黒いスーツに身を包んでいたガタイの良い男達が数名ほど居た。

 

「お初にお目にかかります。タギツヒメ様でいらっしゃいますね?甲斐陸将補と官房長官がお待ちです。」

「……そいつが何用だ?」

「貴女には、二十年前の大災厄の真実ついての"答弁"を行っていただきたいというのが、甲斐陸将補と官房長官のお考えだとお聞きになれば、お分かりになりますでしょう?」

 

……つまり、甲斐陸将補と官房長官はタギツヒメに、二十年前の大災厄について政府にとって都合の良い真実を"答弁"してもらうことで、東京のホテルにて演説動画を流していた維新派の発言を否定してもらうと同時に排除したい維新派の勢いを削ごうとしていた。

 

「そうか、そういう魂胆か。……分かった。」

 

タギツヒメは甲斐陸将補と官房長官等の目的を理解しつつも、それに乗るしかなかった。そうしなければ、優とミカやジョニーといった友達の身の安全が保障されないから。

 

「それでは、この者がタギツヒメ様のエスコートをさせて頂きます。十条さんもそれでよろしいですわね?」

 

寿々花に、タギツヒメと同行するようにと言われた姫和は驚くと、あることを尋ねるのであった。

 

「おい!優はどうなる?此処には刀使の護衛が私以外に居ないんだぞ?」

「その点はご安心ください。彼が居ますので。」

 

姫和の詰問に、寿々花は平然とそう答えるのであった。そして、寿々花の言う"彼"とは、

 

「俺だよ。……今日から、優のお守りは俺になった。」

 

トーマスであった。

 

「……なっ?彼は刀使じゃないぞ?優は体内にノロを多く持っているんだぞ?それに吸い寄せられた荒魂に彼が対処できる訳ないだろ?」

 

姫和は、トーマスが刀使ではないこと、優の体内に有るノロに引き寄せられた荒魂に対処できないことを指摘し、トーマスでは優の護衛には不適格であると述べるのであった。

 

「ところがな、優が居る病室にはスペクトラム計すら反応が無いように細工がされているのさ、……となれば、荒魂以外の脅威が差し迫って来るということを考えないといけない。となると、他国の工作員等が此処に来ることを考えなければならないから、俺が適任ってことになった訳だ。そんなもん、母親が持ってたスペクトラム計を持ってるお前さんなら分かるだろう……って、お前さん持ってなかったんだったな。そりゃ、分からんか。」

 

しかし、トーマスは冷静に優が居る病室にはスペクトラム計すら反応がないように細工がされていると返答し、受け流していた。

……姫和がスペクトラム計を所持していないことを冷やかしながらであるが。

 

「……分かった。もういい、じゃあ頼むぞ。」

 

だが姫和は、トーマスの冷やかしを意に介することなく、寿々花の命令通りにタギツヒメと共に同行しようとしていた。

 

「おいおい、どーでも良いのかよ?アダルトチルドレンちゃんは?」

「…………。」

「……お?何だ、怒ったのか?ホラッ、またあの時のように殴って来いよ?」

「…………お前が優を守るんだろ。警備員として。」

「ハッ、良い返事だ。」

 

姫和に無視されたトーマスは、姫和のことをアダルトチルドレンと差別的な言葉を使って尚も食って掛かるが、トーマスに警備員として働けとだけ言うと、タギツヒメの元へと駆け寄る姫和。

 

「……良いのか?」

「良い、今は何も考えたくない。」

 

タギツヒメは姫和に優の元から離れて良いのかと尋ねると、姫和は「何も考えたくない。」と返すのであった。

それに、姫和としてもタギツヒメに維新派の演説を否定してもらわなければならなかった。……そのあとに、邪魔者であるタギツヒメを処分すれば良いのだと考えつつ、私の母の仇でもあるのだからと必死で自分を正当化するように必死で、そんなことばかりを考えていた。

 

(……は?)

 

そこまで考えた姫和は、何故そこで母の仇だと考えたのか理解に苦しんだ。何故なら、姫和はもう優のためと称して、母の仇を討つことを捨てたのだ。荒魂を討つという刀使の使命を放棄したのだ。

そして姫和は理解した。いや、姫和は自らが抱える罪科を自覚し、心の中で告白した。

 

自分が述べた母の仇も、自分が語った刀使の使命も、全ては自分を飾るために利用し、自身が悲劇のヒロインとなれる物の様に扱ったのではないかと。

 

姫和はそれを考えるだけで罪悪感に囚われそうになる。溺れそうになる。ウサギの穴へと堕ちていく。

そして、姫和はウサギの穴に堕ちる感覚に囚われたせいか、気が滅入り、目の前に見える物や光景が不思議な世界の様に認識し、気分が悪くなってしまう。

 

「……ところでタギツヒメ様。貴女の御友人であらせられる優くんを改造したスレイド博士が維新派に在籍しているそうです。」

「!……なるほど、あやつが!!ならば、優を治してくれるかもしれんな。」

 

しかし、寿々花はタギツヒメにスレイド博士が維新派に在籍していると伝えてきていた。その二人の会話を聴いていた姫和は、優を改造したスレイドを維新派から探し出し、捕らえることで優を元に戻すことができる情報を得ることができればと考えていた。

 

……そうすれば、優を救えることができると。

 

そう考えた姫和は、新たな決意を胸に前へと歩き出せる気持ちで一杯であった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。彼女に始末してもらうと?」

 

……とある防衛省内の一室にて、密談が行われていた。その密談相手はトーマスやロークといった工作員を舞草に派遣し、刀剣類管理局並びに折神家を内部から親米派へと変えることで米国が隠世技術といった最先端の技術を独占するように内部工作を主導していたCIA長官であった。

 

「はい。彼女がスレイド博士を始末して下されば、全てを有耶無耶にすることができます。」

 

そして、そのCIA長官と話していたのは甲斐陸将補であり、その隣には中谷防衛大臣が居た。

 

「これには首相と官房長官も認可しております。……それと、維新派の行動に米軍は動くのでしょうか?」

「ああ、そこは任せたまえ。必要な支援は既に取り揃えている。……これは日米同盟もそうだが、これからは米軍も同盟各国の助けが必要になる。その際は20年前の大災厄は我々は関与していなかったということで宜しく頼むよ。」

 

中谷は首相と官房長官も許可していることだと話すと、CIA長官に米軍も支援してくれるのかと尋ねると、CIA長官は必要な支援は既に用意していると返答しつつ、20年前の大災厄において米国は関与していなかったことにしてほしいと注文を付けていた。

……つまりは、アメリカの輸送船が事故を起こしたという真実を覆い隠すために、その清算に来たのである。

 

なお、甲斐と中谷、そしてCIA長官等の企みに首相と官房長官といった政府側の人間が認可している理由は、近々日本に五輪が開催されるため、世界的に注目される祭典が始まる前に反政府勢力を一掃することで五輪による右肩上がりの経済効果を期待したからである。それだけでなく、タギツヒメが優のために維新派と敵対してくれる公算が高いことも説得材料として使われたが…………。

 

「そこはお任せ下さい。姫が20年前に起きたことを我々の脚本通りに証言して下さることでしょう。……あの姫は、彼の少年が大事なのですから。」

 

甲斐は、CIA長官にタギツヒメが優のために自分達の思い描く"20年前の大災厄の真実"に箔を与えてくれると答えるのであった。

それを聞いたCIA長官は、力強く頷きながらこう返答するのであった。

 

「よろしく頼む。……S装備やスペクトラムファインダーといった隠世技術を使った国際共同開発が進めば、我々は中露との戦いを優位に進められるだろう。」

 

これから日米は、中露といった敵対勢力と相争うことになることを想定し、日米の緊密な連携が必要であると。

 

「ええ、それに彼の少年はもう用済みですので、処分は彼女等に任せましょう。」

 

それを聞いた甲斐は、頷きながら優を維新派達に始末させる算段は付けていると答えるのであった。

……優を始末する理由、それは20年前の大災厄の真実を知るタギツヒメと同化していたこともそうだが、米軍の特殊作戦に深く関与していること、今後の中露との対立を考えると日米との同盟は最重要事項であったことから、日米同盟を潰しかねない情報を持つ優を処分する必要があったため、荒魂の殲滅を掲げる維新派に殺させようとしていたのだ。

 

「……なるほど、彼女等に殺させることで維新派との戦いに姫に加わらせるということか、それで維新派も始末する魂胆なのだな?」

「ええ、それだけでなくクーデターを起こした維新派を刀剣類管理局並びに自衛隊と米軍が共同となって対処致しさえすれば、自衛隊が米軍と協力することに国民は納得することでしょう。」

 

それだけでなく、決起した維新派等を自衛隊と米軍が協力した刀剣類管理局が事態を収拾したと広まれば、集団的自衛権といった物に好感触を抱く国民が増えることになるであろうと甲斐はCIA長官に答えていた…………。

 

 

――――つまり、最初から優と維新派は死ぬことを望まれていたのだが、タギツヒメはそれを知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――内閣府にある一室。

 

東京を拠点にする維新派に対する政府による緊急声明の内容を聞きに記者が集まっていた。

タギツヒメは、その様子を簾の奥から見ていた。

 

「本日はお忙しいところ、集まって頂きありがとうございます。」

 

タギツヒメが隠れる簾の前に毅然として立つ官房長官は、先ず定型文のような挨拶から始めるとつらつらと流れるように日本政府側の答弁を代弁していた。

 

「先ず、刀剣類管理局維新派なる組織が出した声明についてですが、関係各所に政府が問い質したところ事実無根の荒唐無稽なる話しであると、先ずは新聞各社にお伝えします。」

 

その話を聞いた記者達は、カメラのシャッター音と共に光を灯していた。その瞬きをしたくなるほどのフラッシュを受けながら、ある記者が官房長官に質問をしていた。

 

「官房長官。証拠はあるのでしょうか?」

「ええ、本日はもう一人詳しい話をできる方をお連れしております。……20年前の大災厄の大荒魂の一部であるタギツヒメ氏です。」

 

記者の質問に官房長官がそう答えると同時にタギツヒメを隠していた簾が上がり、事前に用意された机を前にタギツヒメは立ち上がる。

 

…………しかし、眩いと思える程のシャッター音とフラッシュを浴びたタギツヒメは驚いてしまう。それと同時にタギツヒメは机の上に自身が喋るべき内容が書かれた用紙があることも忘れ、頭が真っ白になってしまったのだ。

 

(……何を喋って良いのか……分からないっ!!?)

 

……元々タギツヒメは『人を見ようとしていなかった』うえ、心の奥底に在る『根源的な孤独感を埋めたい』という『対話』を求める子供なのだが、それを悟られまいと『神』と自称することでどうにか虚勢を張って生きていた。これは、荒魂が人間と共生するという考えが間違いであると思い込んでいたからこそ生まれた弊害であるのだが、それだけでなくタギツヒメは今まで優といった心を許せる者としか喋らなかったために見ず知らずの人と話すことは今日で初めてなのである。

 

……つまり、タギツヒメは多くのシャッター音とフラッシュを浴びたことも、大勢の見ず知らずの人に注目されながら話すことも無かったうえ、何時ものように自身を神と自称する虚勢を張れば、目の前に居る記者等を説得するのは難しいという状況であれば、タギツヒメはどうすれば良いのか分からないという心理状況に追い込まれ、もし失敗でもすれば20年前の大災厄のように周りの人間が自分を悪人のように扱うのではないのかとパニックを起こしたのである。

 

――――そうなってしまえば、優達まで石を投げられてしまう――――

 

そんな考えが過り、喋ろうとするがしどろもどろとなってしまう。

 

「あっ……え、えと。…………その。」

 

タギツヒメの消え入りそうな声をマイクが拾ってしまったことで、タギツヒメ達が居る内閣府の一室はその声で一杯になったのであった。

それを聞いた記者等の反応はポカンとしており、皆が皆、シャッター音とフラッシュを焚くことを止める程であった。

 

(……だ、だめだぁ。……私には……できない…………。)

 

時が止まったかのように静まった場の状況から、タギツヒメは思わず今までの口調が変わるほどに全てを諦めかけていた。

 

(きっと私、皆みたいに上手く出来ないんだ…………。)

 

優、ジョニー、ミカ、ニキータ、結芽、夜見の様に人と話すことなどできないのだろうと思い込む程に追い込まれていた。

 

――――しかし、何処からか、此処には居ないはずの親しい者の声が聞こえてきた。

    

    




    
   
タギツヒメの行動
「人間への怒り」→「人を見ようとしていない」→

次回、二週間後に和御魂のテーマにした話をする予定。
   
   
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