【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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129話を投稿させて頂きます。

中等部一年の内里 歩は、ジョニーといった闇の子供達の事と自分自身を知る。
    
    


子供達の夢

    

    

その後、トーマスにMP7という銃を突き付けられた内里 歩は対処すら取れずにパニックを起こし、その醜態をトーマスに晒したことにより、トーマスから歩は昨今騒がしている維新派の一味ではないと判断すると、戦意を喪失し、歩に銃を突きつけるのを辞め、射線から外すのであった。

 

「……あー。つまり、お前は優の知り合いなんだな?」

 

無論、それだけが理由ではなく、優の今の症状、記憶障害の進行が予想よりも大きく進んでいることをトーマスは知っているので、恐らく優は歩のことを忘れている可能性が高いと判断したのだが……。

 

「えっ、凄い!……日本語ペラペラ?」

 

しかし、歩の間の抜けたような返答にトーマスは更に力が抜けるような気がしたのであった。

維新派の人間であれば、工作員のトーマスが居ることは承知しており、自分が日本語を喋れるかどうかということぐらい事前に知っている筈である。

 

今の歩のように尊敬しているかの様な表情をする訳がない。

 

「ああ、お前。……何と言うか、ちょっと良いか?」

 

トーマスにそう言われた歩は、トーマスを警戒することなく近付くのであった。……すると、トーマスは歩の耳元に口を近付けると、

 

「……良いか?アイツはノロの影響で記憶の一部を失っているんだ。今のアイツはお前のことを憶えていないから、それを頭に叩き込んで話せ。」

 

そう歩に注意を促すのであった。

それを聞いた歩は、トーマスは丹沢山で優が死闘を演じたことを隠そうとしていると気付いたため、トーマスのことをそういう人であると理解するのであった。

 

「……そうなんですか。トーマスさんって良い人なんですね。」

「……はぁっ!?」

 

そのため、歩はトーマスのことを『良い人』だと判断し、それを隠すことなく評したことに、トーマスは唖然とする。

 

「だって、優ちゃんのことを気に掛けているから、そう言っているんですよね?」

「…………。」

 

優のことを説明してくれたから、良い人だとあっけらかんと朗らかな顔で答える歩に、トーマスは遂に頭を抱えそうになった。

 

「……少し、気分を変えてくる。」

「え?あ、あの……大丈夫ですか!?」

「ああ、その間はお前に護衛を任せるわ。大丈夫だろ?」

「あ、はい。」

 

トーマスは歩にそう言うと、優の居る病室から出るのであった。

 

(……あの女、何考えてやがる。俺が『良い人』だと?)

 

そして、トーマスは頭を抱えながらそう思った。

 

(分かってんのかアイツ。……過去に反米国家を少年兵を使って非人道国家として“演出”し、地図上からその反米国家を消した男のことを『良い人』だと言って来やがった。)

 

歩の頭は何処かおかしいのではないかと。

……だが、考えてみれば歩は自分のことを知らないのである。ならば、致し方の無い部分はあるのかも知れない。

 

(……でもなぁ、銃をぶっ放した俺のことを『良い人』とかイカレてるとしか……銃をぶっ放した?)

 

だが、トーマスはそこで疑問を抱いた。……何故、威嚇射撃をしたのだろうか?と。

 

御刀が見えた時点で射殺すべきであった。もしも、歩ではなく本当に維新派の刀使であったならば、距離を詰められているのに悠長に威嚇射撃している時点で勝利は難しかった。なのに、威嚇射撃をしたのである。

 

嘗ての自分だったのなら、優だったなら、あの時点で有無を言わさずに射殺しているはずである。

……そこで、トーマスは思った。

 

歩がトーマスのことを『良い人』だと評したのは、昔の少年兵を使って反米国家を潰したトーマスでは無くなっている様に見えたのではないのか。……となれば、本当におかしいのは歩なのだろうか?優の護衛として最適解な行動を取らなかった自分自身ではないのか?と思い悩み始める。

 

(……俺は、俺は本当に弱くなっているのか?)

 

自分のことを『良い人』だと言った歩の言葉は、トーマスにとってみれば、『弱くなった』ということと同じことなのである…………。

 

 

 

 

 

――――その一方で、歩は丹沢山でのことを優と話そうしていたのだが、

 

「……えーっと。」

 

歩は来る前に当の優がノロの影響で記憶障害となっていることを知らなかったがために、歩は出鼻を挫かれた形となり、先ずは何をどう話すべきか悩んでいた。

もしも、丹沢山での死闘を記憶障害で忘れていたら、記憶の齟齬で今の目に見えて弱っている優に対して、要らないストレスを掛けるかもしれないと思うと中々切り出せなかったのである。

 

「……ねえ。お名前は何て言うの?」

 

しかし、優の方から歩に話しかけてきたことで、歩は光明の一筋が見えたかのように感じ、若干早口で自分のことを話すのであった。

 

「あっ…わ、私は内里 歩って言うの!いつも優ちゃんのおねーちゃんとかに剣術とか教えてもらっていたから……それで、優ちゃんのことを知って、それで様子を見に行こうかなと思ったんだけど…………。」

 

歩は若干、無理矢理にでも笑顔を作って優にそう話すのであった。

実際、優の元へ向かう際に、可奈美の所へと向かったのだが、

 

『……ごめん。ちょっと行けない。』

 

と断られたのである。

理由は、優が記憶障害といった症状が出始めたのもそうだが、胃袋が隠世に繋がってしまったことで、今の優は点滴で直接注入するしか栄養補給が出来ないという状態になっているために満足な栄養補給ができない状態が続いていた。

……そのため、優は段々と痩せ細っていくことになり、嘗てスレイドの所から救出された時に、移送された病院で寝たきりの姿となった頃のようになっていたことで、可奈美は今の優の姿を直視して話すことが困難な状態となり、優から逃げる様に刀使の任務に没頭していた。

 

「……そうなんだ。」

 

しかし、優は歩が可奈美のことを話したにも関わらず、興味が無いかのように素っ気なく返答するのであった。

 

「その、寂しくないの?……一人ぼっちで?」

 

優の返答に冷たさを感じた歩は、一人で寂しくないのかと、可奈美に会えなくて寂しくないかと尋ねるのであった。

 

「……おねーちゃんに会えないのは寂しいけど、お仕事だから仕方が無いんでしょ?」

 

だが、優は仕方の無いことだと答えるのであった。そのため、その姿を見た歩は、優が我慢している様に見えた。

 

「それに、僕は荒魂だから……しょうがないんだよね。」

 

そんなことを言う優を見た歩は、優が堪え忍んでいる様にも見えたのである。それ故に、歩は必死で言葉を紡いだ。

 

「……そんなこと!……そんなことないよ。だって、私にとってみれば優ちゃんは優ちゃんで…だから、その、私は……。」

 

どうすれば良いのだろうか?

どう言えば納得するのだろうか?

 

そんな二つだけのことでも、反復するように何度も何度も繰り返しながら、どう答えれば良いのかと歩は考え続けていた。

……だが、どれほど時間を要しても次の言葉が紡がれることはなかった。

 

「……ねえ、おねーちゃんは良い人だね?」

 

そうして、歩の様子を見た優は、歩のことを『良い人』だと評するのであった。

 

「!……そうかな。……私、優ちゃんを見たとき、本当は怖かったんだ。……何て言うか、身体の半分も荒魂になっている所を見て……本当に大丈夫なのかな?って、こっちに向かって来て、殴ったりしてくるんじゃないか?っていう考えが頭の片隅でずっと考えていたんだ。」

 

しかし、歩は優に『良い人』だと言われたことで、それを否定した。

何故なら、歩は自分のことを半ば荒魂と化している優のことを怖がっていた小心者だと思っていたからである。

 

「だから私、良い人じゃないよ。……ごめんね。」

「……普通なら、僕のことを怖がらないって言ったり、気味が悪いと言って逃げたりするけど、おねーちゃんはどれも違うよ。……僕を怖いと正直に、言えるし、……僕から逃げなかったよ?」

 

だが、自分は優を化け物扱いしたと言って、自分は『良い人』ではないと述べる歩に対して、優は正直に怖いと話したうえで、自分から逃げなかったと理由を述べると歩は悪い人ではないと答えるのであった。

 

「だから、……“僕達”の秘密を教えてあげるよ。」

 

優はそう言うと意識を手放し、ベッドの上へと倒れ込むのであった。

 

「え?」

 

歩は驚き、止めることもできずに、何をするのかを黙って見ることしかできなかった。

そうして、優が目を覚ましたのだが、歩は何故か今の優が優ではないと感じた。

 

「うっ……身体が鉛の様に重たい……ねえ、そこのおねーさん。……ちょっと立たせてくれる?」

「え?……あっ、うん。」

 

その予感は当たったのか、優の口調はあからさまに変わっていた。そのことに驚きつつも、歩はベッドから優を少し起こすのであった。

 

「ありがとうおねーさん。……ところで、聞きたいことがあるんでしょ?」

「……うん。聞きたいことがあったから来たんだ。……でも、その前に貴女は誰?」

 

優の中に優ではない何かに対して、歩は貴女は誰なのかと尋ねていた。

 

「私は、燕 結芽……っていう刀使だった子供だよ。」

「えっ……?」

 

その優ではない何かが親衛隊第四席であった燕 結芽であることに驚く歩。……そして、その結芽が、優の中に何故居るのか疑問であった。

 

「何で?……優ちゃんの中に結芽さんが?」

「単純な理由だよ。」

 

歩に、結芽が何故優の中に居るのかと尋ねられた結芽は、苦しそうにしながらも、その理由を答えようとしていた。

 

「……小さい頃に御刀に選ばれて、それで有頂天になった子供が居たんだ。……あの時は世界が…世界が自分を中心にして回っているんだって思ってた。けど、私は病気に罹って、全て失っちゃった。」

 

嘗ての結芽は、神童と言われるほどであったと答え、その全てが一瞬で無くなったと答えるのであった。

 

「それで私は……すごい私のことを、強い私のことをみんなに焼き付けたいっていう願いを叶えたくなって、ノロを身体に入れて、病気の身体を無理矢理動かせるようにしたんだ。」

「…………。」

 

結芽がノロを受け入れた理由を語り、その話を黙って聞く歩。

 

「それで、私はコイツと戦うことになって、取り込まれた時にヒメちゃんっていう名前になってたタギツヒメから紫様は大荒魂に取り憑かれているということを聞いて、それで成り行きで仕方なく協力しちゃったんだ。」

 

結芽は優の胸を叩きながら語る。優と戦ったことがあること、優と共に戦った理由を、タギツヒメに協力した理由を、優の中に居続ける理由を。

 

「……刀使である私が荒魂であるタギツヒメに協力するのは、可笑しいと思う?」

 

それを聞いた歩は首を縦にすることも、否定することもできずに問うことしか出来なかった。

 

「……どうして協力しているの?」

「私さ、病気に罹って神童じゃなくなったとき、何て不幸なんだろうって思ってた。……けど、優の中には親と信じた人のために人を殺して、その人に裏切られた子や僅かなお金のために自分の身体を売らされる子、可哀想な子にして援助のお金を得るために手足と目を潰された子達ばっかりだったんだよね。……その子達と比べたら、私の“不幸”なんて自慢にもならなかったよ。」

 

結芽は語る。親の金のために黒い欲望に晒される者、親と信じて戦い裏切られた者、金のために身体を傷付けられる者、親と呼べる者が居ない者といった者が多かったことを。

そんな中で、病気で弱り神童で無くなっただけの子供の話なぞ“不幸”の内に入らないし、自慢にもならないと結芽は語るのであった。

 

「そんな中で私は……神童でもなく親衛隊の一人でもなく私を評価してくれた……私の大切な人達が言うんだ。『優のおねーさんは刀使だから、皆を救ってくれるって。』本気で信じているんだ。」

 

そして結芽は語る。自分を必要としてくれたジョニーやミカ、ニキータといった子供達の……単純だが、好きな人に囲まれるというだけだったが、幸福に包んでくれた同年代の友人達の夢がどんなものかを語っていた。

 

可奈美に自分達を救ってもらおうということを。

 

「…………。」

「でも……私は刀使だったから分かるんだ。きっとその可奈美って人は自分の弟が半ば荒魂になっちゃったから……不憫だと思ってそう言ったんだって。……だから、私も私の大切な人達もどうなるか分かっちゃうんだ。」

 

結芽は語る。その同年代の友人達が語る夢は叶うことはないと。

 

「……。」

 

それを聞いた歩は何も答えることができなかった。歩も刀使であるがために荒魂化した人間がどうなるか知っていたのだから。

 

荒魂化した人間は最早人として扱われないのだと、稀に記憶を残し言葉を話す個体もいるが荒魂として御刀で斬って祓うことで救うしかないのだということを伍箇伝で学んだことを。

 

「違う!……違うよ!」

 

だが、歩は伍箇伝で学んだことを否定しようとした。

 

「私は、私は優ちゃんのお姉さんの衛藤さんのことを知っているんだ!だって私に剣術を教えてくれて、今でも各地で起こっている荒魂を次々にやっつけているし、無刀取りとかの技とか凄くて、それだけでなく色々な活躍も聞いているから本当に凄い刀使で……。」

 

可奈美は凄い刀使だから、優達を救ってくれると言って希望を与えようとした。……けれど、どれだけ可奈美が凄いと述べても、何故か自分の言葉が弱っていく感覚が強くなっていく様な気がしたのである。

 

剣術が凄い。活躍が凄い。

 

……どれだけ偉大な人かと述べても、どれだけ偉大さを並べても、可奈美はきっと自分の目の前に居る優と結芽達を救うことすらできないのだろうという思いが強くなっていっただけでなく、そんな事しか言えない自分の言葉の力の無さが悲しかった。何も出来ない自分が悔しかった。虚しさしか込み上げて来なかった。

 

「……だからさ、希望を捨てないで生きていこうよ?きっと……きっと、衛藤さんは……何も考えずにそんなことを述べないから、諦めないで欲しいんだ。」

 

それだけでなく歩は、胸が痛かった。嘘を吐いているような気さえした。

そして、可奈美は偉大な人間であると述べれば述べるほど、語れば語るほど、可奈美のことを勝手に過大に評価し、祀り上げているちっぽけな自分が居るということを強く……強く意識せざるを得なかった。

 

「……おねーさん、優しい人だね。」

「!」

「でもね、おねーさん。……私はさ、この大きいけどよく見たら狭い世界の中でその世界にとって要らない荒魂になっちゃったけど、"不幸"じゃないよ。友達になってくれた人が居てくれたら……みんなが居てくれるなら、寂しくも無いし、辛くも無いし、怖くもないよ。……でも、後悔していることはあるんだ。」

 

生きていて欲しいと願う歩に対して、結芽は今も後悔していることを語る。

 

「もしも、もしもさ、私達刀使が荒魂と違う形で出逢えていたら……タギツヒメみたいな……ううん、もうタギツヒメじゃないね。ヒメちゃんみたいな子と会えていたら、私とヒメちゃんはずっと友達だったのかな?戦わずに済んだのかな?もし、そうなら私のことをずっと覚えてくれる友達を傷付けていたことになるから、それが今も後悔していることなんだ。……だからさ、おねーさん。泣かないで……。私が居なくなった後の世界が私みたいな剣を振るしか能が無い子供でもヒメちゃんみたいな子と仲良くできたり、ヒメちゃんが居ても困らないぐらい広くて優しい世界にして欲しいな。」

 

荒魂も人間も関係無く生きられ、そして自分達の様な外れ者を迎え入れてくれる世界にして欲しいと歩に語る結芽。

 

「そうすれば、私みたいなバカな子が……力を振るえば自分を認めてくれると勘違いしている子が荒魂をただ斬る以外の方法で仲良くなって、……後悔する生き方をしない様になってくれれば……みんなみんな生きていけるんだよ。」

 

そして結芽は涙を堪えながら、自分みたいな力を振るえば自分を認めてくれると勘違いしている人が後悔しない生き方ができる世界にしてほしいと、自分達の様な者でも生きていても良い世界して欲しいと歩に告げるのであった。

 

「……そうだよね。違うよね。」

 

歩は結芽の声を聴き、絞り出すように、自分に向けて言うように述べていた。

 

「……私、鎌倉で憧れの人に会えたんだ。その人はとっても強い刀使で、私も早くあんな風に人の役に立つ刀使になれたらって……その人を見て思った事をすっかり忘れてた。……強くなるよりも、大切な事を忘れていたんだ。」

 

自分がその人に憧れた理由は"強さ"ではなく、その人の"在り様"であったと答えていた。

 

「だから私が衛藤さんに憧れた様に、優ちゃんや結芽さん、それにあなた達の大切な友達が憧れる様な刀使になるよ。……そうすれば……そうすれば、きっと私の声を聴いてくれる人が居てくれるようになって、それで優ちゃん達も受け容れてくれる社会をみんながみんな創る様になるよ!……だから、私を信じて!!」

 

だからこそ、燕の夢を聞いた歩は"人から尊敬される刀使"になると答えるのであった。

そして歩という少女は後戻りせぬように決意しなければならなかった。ただ単純に"強さ"だけを求める刀使になるのではなく、人から"尊敬"される人間になると。

 

「……うん。……ありがとうおねーさん。信じてるからね。」

 

それを聞いた結芽は、感極まったのか涙を流すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そうして、優の居る病室から退室した歩は部屋の外で待機していたトーマスと会ってしまった。

そのため、トーマスは歩に話しかけるのであった。

 

「……もう終わったのか?」

「はい。……私、自分を見失っていたんだと思います。」

「迷いは無くなったのか?」

「はい。……大切なものを私は貰いましたから、もう迷うことはないです。」

 

歩は迷うことなく、トーマスにそう返答していた。

 

「……ひとつ良い事を教えてやるよ。ああいうのを真正面から見れば自分が傷付くだけだから、もう見るな。」

 

トーマスはそう言って、歩に優達のことを引きずるなと言うのであった。そして、優とはもう関わるなとも言っていたのであった。

 

「忠告ありがとうございます。……だけど、私はもう決めたんです。あの子達に背を向けることはできないって。」

 

しかし、歩はトーマスの言葉に臆することなくそう答えるのであった。

 

もう、優達や結芽の友達達を化け物扱いしない。

もう、可奈美に過度な期待を掛けて困らせない。

もう、目に見える"強さ"だけを追い求めないと。優といった子供達が憧れる様な"在り方"を追い求めると。

 

もう、あの子達のために一切迷わないと。

 

「だから私は、見捨てることはしません。」

 

歩はそう言うと、トーマスを通り過ぎていくように歩き出して行くのであった。子供達の夢を抱きながら、歩は歩んで行くのであった。

それをトーマスは後ろ目で見ると、歩に苛立つのであった。

 

「クソっ!」

 

ガシャン!とパイプ椅子を蹴って苛立ちを紛らわせようとするが、それでも苛立ちが治まらないことにトーマスは不快感を抱いていた。

 

「…………。」

 

だが、トーマスは心の奥底で何に苛ついているのか理解していた。

かつての自分は"英雄"だか"ヒーロー"だかに憧れる子供であった。それ故にアメリカ軍に入隊し、ベトナムに送られ、多くの戦友を失いながらも帰国したときにアメリカの空港で言われた事は"赤ん坊殺し"や"人殺し"といった非難の声であった。その一方で、朝鮮戦争やイラク戦争帰りのアメリカ軍人と幼い少女が刀を振り回すという刀使ばかりが脚光を浴びていたことが許せなかった。

 

だから、嫉妬したのだ。この世界にも、刀使にも。

 

(……ああ、そうだったな。……疲れた。……本当に疲れたな。)

 

だが、そんなことを考えていたトーマスは急にドッと疲れが出て来たのである。

 

自分達がベトナムから帰ってきたときに自分と亡くなった戦友達に対して罵詈雑言を浴びせる祖国。

自分が子供やら何やらを使って国の政権転覆をした時に、素知らぬ顔で綺麗事を並べ立てる祖国。

マイケルとシェパード、それにロークといった自分が育てた兵士が死んだことに何も言わないし、元から存在しなかったかの様に振る舞う祖国。

 

その次は、自分が育てた優をただ見捨てろという命令を下してくる祖国。

 

(……本当に……何もかも疲れた。)

 

トーマスはそれだけ思うと、何もかも投げ捨てたい思いを抱きながら、優の居る病室の中へと入って行った。

      

      




    
   
優を見て、強さだけを求めることに疑問を抱く歩。可奈美のことを“強さ”だけ評価することを改める歩。

ていう展開は大分前に考えていて、書きたかったですね。
    
    
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