【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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132話を投稿させて頂きます。

「そもそも傭兵は家族と疎遠な人間がほとんど。」
「むしろ家族から逃げてきたような奴が多かったです。」
「世の中、幸せな家族ばかりじゃありません。」
「虐待を受けてた奴もいる。」
「親とは二度と会いたくないとか、最初から家族はいないものと思ってやっているとか、そんな奴はざらでした。」

~日本人傭兵の危険でおかしい戦場暮らし(二巻)~ より。
    
     


過去の亡霊

     

     

――――私が冥加刀使になるのを志願したのは、単純な理由だった。

 

 

私との関係を『家族』として括る人達から逃れるためだった……。

というのも、私の経歴に書かれている両親として扱われている人達が“血の繋がった親”ではないからだ。

 

そんな『家族』が、御刀に選ばれ刀使となれる資格を有する私を養子として引き取り、その一員にしてくれたのは自分達の娘が刀使になって遺体すら残らずに帰ってこないようにするためだった。

 

……つまり、私はその『家族』の大事な娘の“写シ”でしかないのだ。私がその大事な娘の代わりとなって荒魂討伐すれば、その『家族』は自分達の“娘”を刀使として差し出しているという体裁を整えることができたのだ。

 

……本当は私は刀使になんかなりたくなかった。

刀使になった本当の理由は、使命とか荒魂が憎いとかそんな理由でなく、両親と死別した私なんかでも、刀使にでもなってれば生活には困らないから続けていただけだった。

 

けれど、そんな理由で刀使になった私でも転機が訪れた。

 

私の周りに居る刀使も、私と似たような理由でなった者が多かった。

 

理由があって嫌いな家族から逃げるために刀使になった者。

両親が荒魂事件で死んだから復讐のために刀使になった者。

友人の人生が荒魂事件で壊されたから、それに報いるために刀使になった者。

 

刀使の使命が大事だからとか、親がそうだったからだとか、剣術が好きだからとか……そんな聞きたくもない親自慢や恵まれた家庭環境に居たことが容易に想像できそうな理由ではない者が多く居たことに親近感を覚え、自然とそういった人達と友人関係が築かれていった。

 

――――だけど、その友人の一人が荒魂討伐の任務中に黒い袋に包まれて帰ってきたのだ。

 

 

そのときの私は泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いていた。

次は自分じゃないかと、次は親しい誰かなのかもしれないと明日の朝日が来るということすら恐れるようになっていた。

 

けれど、泣いていたのは最初だけで次第に諦めの感情が先に出て、その次は心が死んでいた。

 

……いつまで、いつまでこの戦いは続くんだろう。いつまで私達は化け物と戦わなければならないんだろう。いつまで私達は『家族』といった理由のために戦わなければならないんだろう。いつまで私達は生きていられるんだろう。いつまで私達はこの辛い世の中で生きていなければならないんだろう。

 

……そう、いつまで。

 

でも、そんな戦いに嫌気が差した私でも戦わなければならないという思いが強くなる出来事があった。

 

――――それは、こんな私にでも託された思いが在るから。

 

怪我をしたことで引退し、刀使だった先輩に贈られた言葉。

最期まで戦って、冷たい骸となった同僚の最期の言葉。

苦悩して首を吊った後輩や仲間が遺して逝った言葉。

 

「いやだ。」「しにたくない。」「たすけて。」

……そんな迫り来る"死"という絶望に呑まれ、濁った瞳で綴ってくれた言葉もあった。

 

「私の分まで頑張って。」「使命を果たせ。」「私のことを忘れないで。」

……だけど、最後まで抗おうとする炎を映した瞳で応えてくれた言葉もあった。

 

私はその言葉を背負って、今まで戦い続けた。……今まで死んだり、傷ついたりした仲間のために戦い続けた。

けれど、刀剣類管理局の頭が紫様から朱音に代わり、方針まで荒魂との融和政策に変わったことに初めて組織に対して"怒り"を覚えた。まるで、私と私の友達だった人や自分の人生を豊かにしてくれた人達の全てを否定され、冒涜されたように感じたから、私はどうしようもないほどの激情という感情に囚われた。

 

……だから、私は変革派の、今では旧折神 紫派と呼ばれている団体の誘いに乗った。

今までの戦いが無駄でなかったことの証明のため、荒魂を討伐し続けることで皆と一緒に居るため、ここが私達の居場所であり、犯してはならない聖域なのだという声を上げるため、新体制の刀剣類管理局を粛清するという話に乗った。……全ては共に戦った仲間達のために。

 

これが、私たちが受け継いだ絆(思い)なのだから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――寿々花の工作もあり、新型S装備を装着していた冥加刀使達は何処へ行こうとも待ち伏せを受けたり、又は誘い込まれたかの様に敵が待ち構えていたりしていた。

 

「ゔあっ!!」

「矢を射たれた者は下がれっ!下がれっ!!」

 

それだけでなく、待ち構えていた自衛隊の部隊から舞草の隠れ里で使われた対刀使用のボウガンの矢が飛んで来たのである。荒魂を体内に入れることで強化された冥加刀使と言えど、矢を数本も受ければ戦闘行動不能となるため、戦車だけでなく自衛隊が持つボウガンも脅威となっていた。

 

「矢を抜くな!抜くと写シの中に矢じりが残るぞっ!!」

 

しかも、写シの上でも体内に矢じりが残りやすいように、対刀使用のボウガンの矢じりを抜けやすくしているという細工がされていた。

 

何故そのような細工がされていたのかというと、写シの上でも体内に矢じりを残すことで、写シが解けた刀使の体内に残った矢じりで損傷させるためである。それを防ぐには、相手の刀使の写シを斬って矢じりを取り出すしかないのだが、それを行うには相手の身体に刃物を入れることと同意義であり、それを行った相手は仲間の身体を切り刻むことに精神が疲弊するために、そのような細工がされていた。

 

「来た!特祭隊だっ!!」

「負傷した者は下がれ!無事な者は殿を努めろっ!!」

 

そして、特別祭祀機動隊も自衛隊員からのボウガンの矢を一斉射された後、可奈美達が所属する第二班の刀使の部隊が声を上げて突撃してきたからである。

冥加刀使達も負けじとなのか、それとも荒魂を体内に入れたせいなのか人ならざる声を上げて第二班に向かって行った。

 

その両者の戦闘は御前試合等で見せる型通りの剣術ではなく、殴打、体当たりといった体術も含めた何でもありの戦いであり、正にソフィアが言っていた通りの“獣の世界“が其処に描かれていた。

 

それを何処か他人事のように見ながら姫和は向かって来る冥加刀使の応対をしていた。

決死の表情はしながら向かって来る冥加刀使の上段からの振り下ろしを御刀で受け止め、鍔迫り合いに持ち込んでいた。

 

「自分達が何をしてるか分かっているのか!」

 

そのため、姫和は冥加刀使に対して剣を置くようにと降伏を促すのだが、

 

「分かってますよ!!」

 

しかし、冥加刀使は姫和の降伏勧告を受け入れない様にするためなのか、大きな声を上げて反論していた。

……自分達がどんなことをしているのかを。

 

「でも、何で貴女がそんなところに居るんですっ!!貴女は荒魂が憎くて……憎いから刀使になった癖に、何で荒魂になった子供の世話なんかしているんですっ!!その子も殺せば良いでしょう!!」

 

そして、冥加刀使は返す刀で姫和に詰問する。何で半ば荒魂と化した優という子供の世話なんかしているのかと。

 

「私達は今の刀剣類管理局よりも純粋に刀使の役目、荒魂殲滅を掲げている私達に付かなかったんですか!!?貴女は荒魂は討伐すべきだという考え方だったハズ!!結局は母親の仇というのも嘘だったんですかっ!!!?」

 

そして、冥加刀使は更に姫和を詰問する。姫和は荒魂殲滅という目的を同じとする維新派に所属すべきであったと。

 

「……刀使の使命はそれだけだと思っているのか?」

「そりゃそうでしょう?刀使というのは、私達の友人や大切な人の命を奪う荒魂を倒すための武器である御刀に選ばれたんだからっ!!」

「刀使の使命とか御刀とか!今はそういう台詞を聞くだけで腹が立つんだ!!御託はいいから、さっさとかかって来い!!」

 

姫和がそう挑発すると、冥加刀使は斬り掛かって来るのであった。

 

「お前みたいな奴だけには負けるかバカ!…お前には言いたいことが山ほどあるっ!!!!」

 

姫和は斬り掛かって来た冥加刀使に対して叫ぶ。"刀使の使命"に縋る冥加刀使に対して言いたいことがあると。

 

「母さんのため?友達のため?そんな個人的な復讐のために、訳の分からない誰が頼んだのかも分からない使命に縛られて、何もかも捨てたのか!?……お前には、必要としてくれる人が他にも居ただろうがっ!!」

 

姫和は斬り掛かって来た冥加刀使に対しても叫ぶ。親や友人といった個人的な復讐のために、そして"刀使の使命"という誰が頼んだのかも分からない使命のために何もかも捨てたことを愚かだと断じていた。……冷たくあしらわれながらも常に気に掛けてくれていた早苗、いつも自分の傍に居てくれた優や可奈美達、そしてタギツヒメのことを思い出しながら。

 

「一人で勝手に思い込んで、周囲と距離を取って、それで"刀使の使命"とやらに浮かれて舞い上がっただけのガキが……それを理由にして逃げて、カッコつけたいだけのガキが偉そうな事を……大人ぶったことを言うなっ!!!!」

 

姫和は斬り掛かって来た冥加刀使に対して叫ぶ。お前は"刀使の使命"とやらに浮かれただけのガキであると。

 

「違う!私は……刀使の使命のため「嘘だ。お前は……お前は何も分かっていないガキだったから、それくらいしか縋るものがなかったんだ!!」

 

姫和は斬り掛かって来た冥加刀使に対して叫ぶ。……心の奥底で母である篝のことを思い浮かべながら、誰に対して叫んでいるのかと、誰に対して詰問しているのかと強く自身に問いながら……。

その言葉の圧に押しやられたのか、冥加刀使は姫和の剣に圧し負け、御刀を受けてしまい、写シを一回失ってしまう。

 

「……それでも私は……私は戦って……皆の元へ還れたなら!!それが私たちの救いだ!!それが救いなんだっ!!!!」

 

しかし、再度立ち上がり、尚も姫和に立ち向かおうとする冥加刀使を見る姫和。

 

「……憐れだ……憐れなんだよ!……お前も、私も!!」

 

姫和は、自身を重ねてもいるのか目の前に対峙する冥加刀使のことを「憐れ」と指摘しながらも、虚しさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――東京23区。

 

可奈美は七人ほどの冥加刀使等と対峙していた。

 

本来の時間軸では、可奈美は冥加刀使に苦戦していたが、事前に冥加刀使の情報を得ていたこと、そして何よりも可奈美も冥加刀使と同様に新型S装備を纏っているため、後は体内にノロを埋め込まれたことによる強化の差が自身の実力の方が上回っているか、冥加刀使達の連携が如何ほどのものであるかであった。

 

先ずは一人の冥加刀使が気合いの声と共に一閃振り下ろす。

その直線的過ぎる攻撃に対して可奈美は、容易く半身となって躱すと同時に抜き胴で相手の冥加刀使の写シを斬るのであった。

 

「……みんな……頼むよ……!」

 

そして、可奈美に容易く写シを斬られた冥加刀使はその言葉を残した後、どうっと倒れてしまったことを可奈美は確認した後、周りを見ると六人の冥加刀使に囲まれていた。

 

……おそらく、最初に可奈美に斬り掛かった冥加刀使は先程の言葉から推測するに、残りの六人の冥加刀使達が可奈美を囲むための時間稼ぎであったのだろうことが可奈美には容易に想像できた。

 

一流の剣術遣い(可奈美が冥加刀使のことをこう評した理由は、死に物狂いで向かって来る者は一流の武芸者と遜色の無い動きを見せることを優の動きから知ったからであり、最初に斬り掛かって来た冥加刀使の言葉と行動から、死をも恐れず向かって来ていると判断したからである。)の囲みの中に入ってしまえば、どれほど優れた剣術の名人であろうとも、無傷で居られるのは難しいものであるということを柳生新陰流の術理から教わっていた可奈美は、定石ではあるが先ずは包囲の一角を崩すのが肝要であると考えた。

 

「…………。」

 

しかし、それには脇差しや小柄といった何か投擲できる物を使って注意を逸らして、斬るのが一番であるのだが、それらを持ち合わせていない可奈美はどうするか迷っていた。闇雲に包囲陣の一角に突っ込めば崩れるであろうがその手を使えば、後ろから斬られ写シを一回分失うことになることは容易に想像ができた。まだまだ冥加刀使を率いる維新派との戦いが続くであろう状況を考えれば、写シを張れる回数は多く残しておきたいところではある。

……そんなことを可奈美が考えているときに、可奈美の真後ろに居た冥加刀使が声を上げることなく上段から振り下ろすように斬り掛かって来たが、可奈美は気付いていないのか、振り向くこともしなかった。

 

(……取った!!)

 

可奈美の背後を取った冥加刀使は、勝利を確信したのか笑みを漏らしてしまう。

しかし、その冥加刀使の確信通りにならなかった。

 

何故なら、可奈美は足だけでなく、力も入り易く、そして安定しやすい腰からひねるような回転で身体の向きを変えていたことで真後ろから斬り掛かって来た冥加刀使に素早く対応できただけでなく、冥加刀使の上段から振り下ろすような斬撃を合撃(がっし)で躱しつつ冥加刀使の写シを斬っていたからである。

 

合撃(がっし)……新陰流の秘伝の一つで、相手の上段からの打ちに対してわずかに遅れることで太刀筋をずらしつつ、そのままやや横移動をしながら相手を押し切る技である。この場合、相手は面打ちで仕留めたと思いつつも、剣先は鍔一つ分流され、自分が面打ちを食らっているという訳である。

 

しかし、この技を繰り出すには条件がある。一つは、刀の左右どちらから打たれても太刀筋が乱れない芯の入った太刀先と全身の力を剣先だけに凝縮することができる太刀が必要であること。もう一つは自らの人中路(正中線)を正確無比に保った太刀振り。更にもう一つは相手の先を取ることが必要であり、それには相手の考えと太刀筋を見切る必要があるのだが、可奈美はそれを真後ろの冥加刀使にやってのけたのである。

 

可奈美がそれをやってのけたのには理由がある。……それは、

 

(……視える。)

 

背後に居る冥加刀使の動き、表情、考えが視えたからである。

それ故に、可奈美は背後の冥加刀使に合撃で応対することができたのである。それ故に、左右同時から来た冥加刀使がどのように斬り掛かって来ているのか直接自分の目で見ることなく分かってしまったのである。

 

右は可奈美の首を狙う上段攻撃、左は足を狙う下段攻撃という同時攻めで片方が切られなければ良いという作戦。表情も鬼気迫るものであることから、それを狙ったものであることが見て取れた。

 

(……以前よりも良く視える!)

 

それを可奈美は体勢を低くし、思いっきり左の方へ踏み込んでの下段受けで右からの首を狙った上段攻撃を躱しつつ、足を狙った下段攻撃を止めていた。

それを見た上段攻撃をした冥加刀使は刀を反転させて、真っ向打ちをするが、可奈美はさらに踏み込むことで相手の間合いの内側に入り込むと同時に下段攻撃をしてきた冥加刀使の腋下に手を入れると同時に足を引っ掛けることで容易に冥加刀使のバランスを崩しつつ態を入れ替えることで、下段攻撃してきた冥加刀使を敵の真っ向打ちを防ぐ盾としていた。

 

そして、味方を斬ってしまったことに動揺する冥加刀使を右腕を伸ばして腹を突くことで、二人の冥加刀使の写シを斬り、呆気なく倒すのであった。

 

それを見て取った別の冥加刀使は可奈美に上段斬りで迫って来ていた。

170㎝ほど上背が高いことと相手の表情が自信に溢れているところから、相手は自分の力に自信があるのだろうと見て取った可奈美は、御刀を左手に添えて受け止める。

可奈美が左手に添えて自身の上段斬りを受け止めたところを見た冥加刀使は力技で押し切ろうと渾身の力を持って刀を押す。

しかし、可奈美は冥加刀使の力技に力で押し返すことなく、右半身を後ろへ退くと冥加刀使の身体は少し前のめりになってしまう。

可奈美は前のめりになったことで冥加刀使の御刀の柄との距離が近くなり、その冥加刀使の御刀の柄を左手で掬い上げるように上へ上げることで冥加刀使は剣先が殺されるだけでなく、胴をガラ空きにされてしまう。

可奈美は、その隙だらけとなった冥加刀使の胴を右腕に持つ御刀で何度も刺突し、写シを解除させ、失神させるのであった。

 

 

こうして、可奈美は瞬く間に五人もの冥加刀使を倒してしまったのである。

 

それを見た残り二人の冥加刀使は、可奈美の左右に展開し、可奈美から見て右の冥加刀使が先ず横殴りで斬り掛かってきた。

 

可奈美は御刀を垂直に持ち、右の冥加刀使の横殴りの斬撃を鍔で冥加刀使の刀身を当てて弾くと、即座に上段斬りをする。

しかし、相手の冥加刀使は手練なのか、何事もなく御刀を左手で添えて受け止める。

そのため、可奈美は隙を作るために力で押すと、相手も力で押し返してきたことを可奈美は感じると不意に力を抜く。

すると、相手の冥加刀使はほんの一瞬だけ気が抜けてしまう。

相手が気が抜けてしまった隙を突くように可奈美は、冥加刀使の鍔を御刀千鳥の柄で弾くと同時に右手を柄頭に手を添え、可奈美の横で千鳥を半回転させるように冥加刀使を面打ちし、冥加刀使の写シを解除していた。

 

「冥加刀使になった私達を……なんて強さ……!」

 

そうして、一人だけになった冥加刀使は六人もの冥加刀使を倒した可奈美の強さに感嘆とし、勝てる見込みが無くなったことも理解していた。

……故に、特攻覚悟で立ち向かおうとするが、

 

突如、何かが通り過ぎたかと思ったら、可奈美を押し出している者が居た。

 

「ごくろーさま〜〜。そのまま後退していいよ〜。」

 

イチキシマヒメを取り込んだ静であった。

 

そして、静に後退するよう言われた冥加刀使は命令通りに後退すべく倒れた冥加刀使達を起こすと後退するのであった。

 

 

 

 

 

――――可奈美は、イチキシマヒメを取り込んだ静の力に負け、押されていた。

 

「くっ、この!!」

 

しかし、何時までも押されるだけでは不味いと判断した可奈美は、静の力を利用して巴投げで静との距離を空けるのであった。

 

こうして、可奈美は静との距離を空けた状態で対峙することになってしまうのであった。

 

(……確か、あの人がイチキシマヒメを取り込んだ人のはず。なら、龍眼を所持しているから、こちらから打ち込まずに……。)

 

そして、静がイチキシマヒメを取り込んでいるという情報を得ているため、龍眼を警戒して打ち込まずに引き下段で後の先を取ろうとする。

 

「……えーっと、衛藤 可奈美さんだっけ?何だったけ?剣術は相手のことを知って、それでお互いに歩み寄ることができる物だったけ?だったら、私も聞いておきたいことがあるんだけど?」

「……え?」

 

しかし、可奈美の予想とは違い、静が可奈美に優しげな声で尋ねるのであった。

その行動に流石の可奈美も動揺するしかなかった……。

 

「ねえ、可奈美さん。相手の写シを斬ったとき相手はどんな気持ちだった?」

「な……何でそんなことを?」

「だって気になるんだもん。……私、お母さんとお父さんが唯一くれたのがコレだったんだ。」

 

そして、可奈美に相手の写シを斬ったとき相手はどんな気持ちであったかを尋ねてきたのである。

何故、そのようなことを尋ねるのか理解できなかった可奈美は何故そのようなことを聞いてしまう。そのため、理由を問われた静はおもむろに自身の素肌を見せるのであった。……自身の傷だらけで痣も沢山残っている異形としか言いようのない肌を。

 

「!……それって?」

 

静の異形としか言い表せない肌に戦慄しながら可奈美は聞いてしまった。何故、そのような肌になったのかを。

 

「これは私のお母さんとお父さんが唯一くれたもので、唯一遺してくれたもので、唯一の教訓で愛してくれた証なんだっ!!」

 

可奈美に自身の肌のことについて問われた静は、嗤いながら答えていた。

 

これは、両親が与えたくれたものであると、遺してくれたものであると、私に“躾”という教訓を齎しただけでなく、両親の愛を受けて育った証であると可奈美に答えていた。

 

しかし、目が良く、他人の感情や言行に聡い可奈美は、静が言う両親から与えられたものはただ“の虐待”であり、ただの“暴力”であると看過していた。

 

「だからさぁ、私はお母さんとお父さんの“愛”を理解しなきゃならないんだ。……私、お母さんとお父さんが不正を働いていたところを見て、それでお母さんとお父さんが真面目になるようにと思って同じことをしたんだ。……でも、あのときは失敗しちゃってお母さんとお父さんは冷たくなっちゃった。」

 

そして可奈美は静の言行から聡った。

静は両親がまともになることを夢見て、自身が受けた虐待を実の両親に行い、殺してしまったこと。

 

「だからさぁ、私はあなたに聞いているの。……相手の写シを斬った感触、相手の苦しみ、痛みがどんなものだったか聞かせてくれるよねえぇぇぇぇっ!!」

 

静はそれだけ言うと、可奈美に斬り掛かっていた。

嗤いながら迫ってくる静に可奈美は驚くものの、どうにか静の御刀を自身が持つ御刀千鳥で受け止める。そして、刃を合わせたことで可奈美は理解した。

 

「私はあなたが感じた苦しみ、痛み、怒り、その全てを教えてよ!あなたの愛し方で!相手を斬ることで!ねえねえねえねえ!!だから御刀を持っているんでしょう!!?」

 

彼女の……静の剣には悦楽や喜びを感じるが、その奥深くには怒り、苦しみ、憎悪が宿っていることが分かった。

 

「本当は……辛いんでしょ?」

 

故に可奈美は、静に優しく語りかける。

本当は自分が耐えてきたことも行っていることの全てが辛いんじゃないのかと。

 

それを聞いた静は、ピタリと止まり、何か譫言のようなものをブツブツと呟き始めた。

 

「う……うん?何言っているの?私が、アタシは、静は、私が切ったり斬られたりするのが痛い思いをして嬉しいのはお母さんやお父さんが教えてくれたもので……でも、痛い思いをするって何?何で嬉しいはずなのに痛いっていう思いをするの?……おかしい。おかしいオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイ!!」

 

そうして静は、狂ったかのように叫び始める。何かに取り憑かれたかのように。

 

「お母さん、私どうすればいいの!!教えてお母さん!!」

 

そして、狂った静は母に助けを求める始めると、

 

「ホント、オマエはグズでどうしようもない子だよっ!!何度も言わなきゃワカラナイんだからっ!!」

 

そう叫びながら、誰かに、両親という過去の亡霊に取り憑かれたかのように静は何度も何度も自分の左腕を切り刻むのであった。

 

……そうして、いつもの穏やかでにこやかな顔で言うのであった。

 

「……お母さんも刀使だったんだ。この御刀も使っていたから、これで斬るとお母さんとお父さんのことを思い出せるんだ。……そうだったそうだった。私は“両親からの愛”を一身に受けて育った子だという忘れていたよ。お母さん、お父さんゴメンナサイ。」

 

可奈美はその姿を見て戦慄していた。

……そして、可奈美の中で新たな疑問が浮かび上がった。

 

 

親から受け継いだものは全て正しいのかと。

    

    




    
    
刀使ノ巫女が“親子の絆”を描いた作品であり、その中で母親の憑依芸というものがあったのを思い出しましたので、それを書いとかないとダメだなと思いました。

とはいえ、両親から与えられるものが“良いもの”か“悪いもの”かは運次第になった世の中。
    
   
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