【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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133話を投稿させて頂きます。

いやぁ、スンマセン。休日に浮かれて一日遅れてしまいました。


どうもこの真剣での斬り合いというものは、敵がこう斬りこんで来たら、それをこう払っておいて、そのすきにこう斬りこんで行くなどという事は出来るものではなく、夢中になって斬り合うのです。
――――斎藤 一
    
     


冥加刀使

     

      

――――東京23区。

その区画で可奈美と静は今も打合い続けていた。

 

「ねえ!そろそろ聞かせてくれないかなあ!!」

「……!」

 

写シを張らない静に可奈美は防戦一方であった。

……いや、斬れなかったというのが正確な表現であろう。事実、可奈美は静を救いたい、助けたいと心の底から思っていた。そうすれば、彼女の心が救われ、母親も救われると思ったからである。

 

「……だって、お母さんは死ぬまで幸せそうだった。剣術だっていっぱい教えてくれたし刀使の仕事を誇りに思うって言っていた。」

 

可奈美の母である美奈都が言っていた言葉を呪詛の様に呟きながら、まるで親から受け継いだ物は澄んでいて、とても美しい物だということを証明したいかの如く。静は親から愛されていたのではなく、親から虐待されて不幸な目に遭わされただけであると、そう言いたいが如く、彼女は呟いていた。

 

そう真実を告げることで、彼女の心が救われ、母親の心も救われると信じたかったのである。

……"どちら"のということは考慮することもなく。

 

「私、母親から御刀で腕とかいろんなところ斬られたんだ!!だから、人に御刀を向けても良いよねっ!!人も荒魂も違いなんて無いんだからっ!!」

 

静は叫びながら、可奈美に向かって何度も御刀を振り下ろすが、ただ振り下ろすだけの攻撃だったため、可奈美はいとも簡単に捌く。

 

「あなたなら分かるよねぇっ!!剣での対話が出来るあなたなら分かるよねぇっ!!…写シの上でも肉を断つ感触とか人が痛みで耐えてる顔と心とかあなたに負けて悔しがったり憎悪したりする人の気持ちとか……分かるよねぇっ!!どんな痛みだったか、どんな苦痛だったか、どんな気持ちだったか、刀を振るのが上手なだけで学院の代表になるまで勝ち続けたあなたなら分かるハズだよねえぇぇっ!!!!」

 

しかし、尚も静は可奈美に伍箇伝の代表戦にて美濃関学院の代表に選ばれるまで勝ち続けていたとき、敗者の痛みと苦痛と憎悪を踏み台にしてきた筈だと述べると、その向けられた負の感情はどんなものだったのか、どんな気持ちにさせられたのかを尋ねるのであった。

 

「そんなもの……!」

 

そう尋ねられた可奈美は思い出そうとするが、思い出せなかった。

 

(……どうして!?)

 

“剣術を通して、よく見て、よく知ればお互いに分かり合える。”

 

可奈美の信条であり、自らが信ずる剣であった。だが、静の写シの上とはいえ、剣を通じていれば斬られた相手の苦痛を理解できるはずだという指摘をされ、それを答えられないでいる可奈美は揺らぎ始めていた。

 

何故、相手の苦痛を思い出せないのか?

思い出せないのではなく、見ていなかったのではないか?

いや、見ていなかったのではなく、見ようとしなかったのではないのか?

そうであるなら、自分が掲げる“剣術を通して、よく見て、よく知ればお互いに分かり合える。”というのは嘘だったのではないか?

ただの自分の考えの押し付けではなかったのではないのか?

 

……ならば、自分が行っている刀のぶつかり合いは全て、全て相手を打ち負かすだけのものだったのではないのか?

 

「別に打ち負かすものでも良いじゃない。周りを見てごらんよ?」

 

可奈美の心を見透かしたかのような静の言葉を聞いてしまった可奈美は、その言葉通りに周りを見てしまう。

 

斬られないようにするためか、敵の身体にしがみつく者。

我を忘れて、ただ夢中になって御刀を振り回し続ける者。

汗と血を流し続けながらも尚も戦い続けようとする者。

 

剣術の型も技も無く、無我夢中で剣を振り回し、獣のように叫びながら戦う者で溢れかえっていた。そのため、その場所は"獣の世界"とでも形容すべき場所となっていたように可奈美は見えた。

それ故に可奈美は、果たして刀使という存在は本当に素晴らしい者なのか?剣術という物は心を通わせることができるのであろうか?と強く疑念を抱くことになる。

 

……そして、可奈美の頭の中は、そんな疑問に支配されようとしていた。

 

 

 

『でも…うちのお母さんは死ぬまで幸せそうでしたよ。死ぬまでってなんか変ですけど、』

 

だが、可奈美は自身の言葉を思い起こす。

 

『剣術だっていっぱい教えてくれましたし、刀使の仕事を誇りに思うって。』

 

一つずつではあるが、母はそんな自分に剣術を教えてくれたこと。私がなった刀使の仕事を誇りに思うと言っていたことを思い出して行っていた。

 

「……違う。」

 

だからこそ、可奈美は静を否定できた。

 

「ぜっやあぁぁぁぁっ!!」

 

故に、可奈美は静の右肩を強く打つ。

 

「そんなの効か……ない?……あらら。」

 

だが、静の言うこととは裏腹に御刀を持つ右腕がまったく上がらなくなったのである。

 

「どれだけ強化された身体でも、骨までは強化できない筈だよっ!」

 

実は可奈美が左肩を打ったのは、静の鎖骨を砕くためであり、鎖骨を砕くことで腕を動かなくさせ、御刀を振るえなくさせようとしたのである。

御刀を振るうことができなくなれば、戦闘も行えなくなり、そうして拘束した後、ゆっくりと時間を置いて静を説得しようとした。……だが、

 

「……だったら、右腕を壊せば良いんだよぉっ!!」

 

静は御刀を右から左に持ち替えると、自身の右腕を嗤いながら、何度も刺し続けるのであった。そうすることで、右腕を荒魂化させると同時に砕けた鎖骨もついでに荒魂化させ、右腕を動かせるようにしていた。

可奈美は静が嗤いながら、自身の右腕を躊躇いもなく刺し続けるといったことだけでなく、静が着ていた綾小路の白い制服が鮮血の色で染め上がっていったことも合わさり、その静の姿に身震いしていた。

 

「……違うよね。」

 

しかし、可奈美は尚も静の言葉に、その異様な姿にも抗っていた。

静の剣から通じて感じた苦しいという心、苦痛という感情を知ったからこそ可奈美は「違う」と答えられていた。

 

「……私のお母さんは、最後まで幸せそうだったよ!最後まで刀使の仕事を誇りにしていたっ!!」

 

故に、何度も立ち上がり、何度もイチキシマヒメを体内に宿している静に立ち向かって行けたのである。

 

「静隊長っ!緊急メールでソフィア隊長が本拠地が攻撃を受けているため、至急戻れとのことですっ!!」

「……ちぇっ、もう少しで聞き出せるとこだったんだけどなぁ~。……まあいいや、みんな戻るよ~~!!」

 

……しかし、それに水を差すかのように静の部下の一人の冥加刀使が静に自分達のホームが攻撃されているため、至急防衛の任に就けとソフィアの緊急メールが有ったという報告を受けた静は、一応隊長であるソフィアの命令を反故にすることはできないと判断し、皆に本拠地へ戻るように指示を飛ばすのであった。

 

「まっ……待って!」

「待て!衛藤!!」

 

退却していく静を可奈美は追おうとするも、紫に止められ、何事かと思い紫の方へと顔を向けるのであった。

 

「……行かせてください!私は平気です!!」

「それ以上行くな……傷になる。」

「えっ?……それはどういう?」

「後に分かる。……命令だ。」

 

紫に止められた可奈美は、静を追わせて欲しいと懇願するが紫に意味深なことを言われた後に命令だと告げられたことで、可奈美は静を追うことを断念するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――維新派本拠地東京ホテル前、東京駅前広場。

 

「……本拠地が攻撃されていたんだよね?」

「はい……そのように。」

 

静が部下の冥加刀使に先程言っていた本拠地の攻撃があるとの報告とは真逆に、何の攻撃の音もなく、不気味な程に静かであった。

 

「………そういえば、メールでそういう指示が出たんだっけ?」

「はい。こちらです。」

「……ふーん。」

 

静はふと緊急メールでその指示が有ったことを思い出し、どのような内容のメールだったのか気になり、報告して来た冥加刀使にそのメールの内容を見せるように言うのであった。

 

《現在本拠地が攻撃を受けている。至急、防衛の任に就くべく戻れ。≫

 

何の変哲も無い、機械的にすら感じる文が記載されており、送り主もメールといった物を調べてソフィア本人であることも確認した。

……確認したのだが、静は違和感を感じていた。

 

「……もしかしたら、ソフィア隊長は本拠地にもう少しで侵攻して来る敵部隊を抑えておけ、という指示を出すためにこのようなことを申したのではないでしょうか?」

「う~ん。そうかな?」

 

そして、別の冥加刀使からソフィアはもう少しで此処に来る敵部隊の足止めをして欲しくて、そういう指示を出したのではないかと私見を述べていた。

しかし、静は尚も違和感を感じていた。兵数からしてそんな余裕は無いし、そもそも打てる手が此方の最大戦力である冥加刀使達による力押しの一点突破しかないということは静にも分かっていたため、余計に違和感を感じていたのである。ここまで来るのにも苦労を……いや、していない。

 

そこまで考えた静は、そういえば何故、自分達が後退したとき、可奈美達が居る特別祭祀機動隊の部隊は追撃をしなかったのだろうか?という疑問を抱き始め、そして、件のソフィアが送ったとされるメール……それらを繋ぎ合わせると、ある事実が浮かび上がってきたのである。

 

「……誘い込まれた?」

 

そう静が思った瞬間、轟音が鳴り響き、静の耳には何も聞こえなくなっていった……。

 

 

 

 

――――刀剣類管理局所属特別祭祀機動隊仮本部。

 

東京駅前広場にて起きた99式自走155mmりゅう弾砲の砲撃による爆発をモニターで見ていた寿々花と甲斐が居た。

 

「……神仏から受ける恩恵を意味する冥加刀使も戦場の女神である砲兵の裁きから逃れられなかったか。」

 

甲斐の呟きに同じ冥加刀使である寿々花は、何とも言えない気分となっていた。

何故なら、市街地にりゅう弾砲による砲撃を可能にしたのは甲斐の尽力による部分が大きかったからである。彼は市街地による砲撃を可能にするため、米軍から155mm口径の誘導砲弾を冥加刀使相手にどれだけの効果があるのかを実験するためという理由でCIA長官から供与してもらったという経緯があるだけでなく、今まで射出してきたS装備のコンテナの弾道データが99式自走155mmりゅう弾砲のコンピューターに組み込まれているうえ、データリンクシステムによる戦闘のノウハウも刀剣類管理局への支援と称した荒魂討伐任務への参加によって蓄積されていた。

 

そのため、米軍支援のMQ-9リーパーという名を持つドローンによる観測の後、誘導砲弾による砲撃が支障も無く行えたという経緯があったことを寿々花は知っていたのである。

 

「最期はドローンによるミサイル……のようですわね。」

「ええ、これもCIA……アメリカからの要請でしてね。」

 

99式自走155mmりゅう弾砲の誘導砲弾による砲撃の後は、MQ-9リーパーによるミサイル攻撃の爆発の光景を見せられることになる寿々花と甲斐。

MQ-9リーパーによるミサイル攻撃は、99式自走155mmりゅう弾砲による誘導砲弾が大した効果がなかったり、新型S装備のGPS反応に反応せず命中しなかったときの保険として上空に配備されていただけでなく、荒魂によって強化された冥加刀使にどれほどの効果があるのかを日米共々実験したかったというのが本当の理由であった。

 

……故に、甲斐の言葉を借りれば、今まさに神仏から受ける恩恵を意味する言葉を名にした冥加刀使は、戦場の女神である砲兵の裁きを受けるだけに留まらず、MQ-9リーパーという死神の名を持つドローンのミサイルによって死をもたらされたかのように見えた。

しかし、

 

「……ん?何か動きましたわね?」

 

寿々花は砂埃の中から何かが動いたかのように感じた。

 

「そんなバカな。155㎜の砲撃とミサイルの直撃を受けて生きている者はいないでしょう。」

「……そうだとよろしいのですが。まあ、良いでしょう。一応、私も“保険”を掛けておりますので。」

 

寿々花は甲斐の言う通り、杞憂であれば良いのだがと返答するのであった。

 

 

 

 

 

……しかし、寿々花の杞憂は当たっていた。

 

「生きてる?みんな~~?」

 

イチキシマヒメの力で強化されていた静は生きていた。それだけでなく、

 

「……私は、大丈夫です。」

「………私も。」

 

静に報告してくれた冥加刀使だけでなく、数人ほど重傷ではあるものの、荒魂を体内に入れたお陰で動ける者が居た。

 

(……やられたなぁ、舞草の里で使った同じ手かぁ。)

 

刀使が荒魂化したという名目で行われた対刀使用のボウガンを携えての舞草の隠れ里への襲撃。それを、荒魂を身に宿した冥加刀使を名目に行われている対刀使用のボウガンの使用を含めての維新派のクーデターの殲滅。

ソフィア達が行った親衛隊を瓦解させるために行った遠隔操作ウィルスによる虚偽の造反。それを、スペクトラムファインダーにバックドアが仕込まれていて、遠隔操作でソフィアの携帯を操り、偽のメールを送ることで敵を一か所に集める。

 

という形で自分達に返ってきているように静は感じていた。いや、敵側がこちらのやり方をリスペクトしたと言ってもいいだろう。

とはいえ、これで残る戦力は確認できるだけでも冥加刀使が数人ぐらいだが、殆どが満身創痍であり、とても戦える状況ではなかった。

 

「……静隊長。一旦、本拠地へと戻りましょう。」

「……そうだね。一旦、戻ろう。……少し、痛むや。」

「了解。……軽傷の者は仲間を運んでやれ。」

 

そうして、比較的軽傷の冥加刀使達は重傷、遺体になった者を問わずに土煙に紛れて、東京ホテルへと這う這うの体で向かうのであった。

 

「……ごめん、目が見えなくて。」

「良いよ。」

 

そうして、静と冥加刀使達は足や目を失った仲間、遺体となった仲間を背負いながら、暗くなっている東京ホテルの中へと入って行った……その次の瞬間。

 

ボウガンの矢と銃弾が冥加刀使達に襲いかかってきたのである。

 

「ぎゃっ!」「ぐえぇ!!」

 

そして、ボウガンの矢と銃弾を受けた冥加刀使の何名かは獣を思わせる悲鳴を上げながら受けてしまう。

 

「待ち伏せだ!待ち伏せだぁっ!!」

「くそっ!暗くて見えない!!」

 

既に満身創痍の冥加刀使と静しか居ないにも関わらず尚も執拗に攻撃してきたため、静と冥加刀使等はどうにか部屋の一室へと逃れる。

 

「くそっ!この国の連中、私達を皆殺しにする積もりだ!!」

 

だが、その部屋の一室の中で、ある一人の冥加刀使は苛立たしさと切なさ、見捨てられたという感情が入り混じった声でつい叫んでしまう。

 

「嫌だ死にたくない、死にたくないよ。」

「腕が痛い!痛いぃぃぃっ!!」

「助けて……助けてママ、パパ!!」

 

その嘆きの叫びが他の者にも感染ったのか、恐怖の声が広がり、冥加刀使の中には居ない両親に助けを求める者まで出始める程に恐慌が広がりつつあった。

このまま、自壊する前に冥加刀使の体内に有るノロを全部回収しようかと静は考えるが、

 

「ねえ、みんなお願いがあるんだけど。」

 

砲撃により、目が見えなくなった一人の冥加刀使が皆に聴こえるように声を絞り出す。お願いがあると……。

 

「もう戦えない……私を殺して…………イチキシマヒメに私の身体の中に在る荒魂を……捧げて。……そうして、この中で一番強いイチキシマヒメを強くして………あいつらに……一太刀だけでも……一矢だけでも報いようよ?」

 

その願いとは、自らの体内に在る荒魂をイチキシマヒメに捧げることでイチキシマヒメを少しでも強化して、敵対する特別祭祀機動隊に一矢報いようとしていた。

 

「……そうだね。私も手と足が片方無いから、捧げる。」

「私は……砲弾の破片で腹が切れて……腸が出てる。……でも戦える人は……!」

 

その声に応えるように、満身創痍となり、戦えない者達はイチキシマヒメに自らの命を保ってくれている荒魂を捧げるべくイチキシマヒメを宿す静の元へと集まり始める。

 

(……静、助けることはできないか?)

 

彼女等を見たイチキシマヒメは、死に急ぐ彼女等を救いたかった。……荒魂と融合させる以外の方法で。

 

「ダメだよ、イチキシマヒメ。……これはあなたが始めたこと……あなたが最期までやらないといけないの。……じゃないと、その人達が可哀想でしょ?」

 

しかし、イチキシマヒメは静に最期までやらないといけないと叱咤される。

 

「……私の身体を貸してあげる。……だから、数珠丸を持って……彼女等を殺して……彼女等の中に在る荒魂を吸い出して……覚悟を決めろ!」

 

それだけでなく、重傷を負った冥加刀使の命を繋いでいる荒魂を吸い出して、自身の強化のために使うことに対する覚悟を決めろと静に言われたイチキシマヒメは、戦闘の継続が不可能となった冥加刀使を数珠丸を使って斬った。……斬り続けた。

 

ある者は切り刻んで、

ある者は刺して、

ある者は首を斬って、

 

……自分がこの世に存在する意味を求めた者が、自身を泣いて縋る程に求める者を殺すという矛盾にイチキシマヒメの心はズタズタになりそうだった。だが、そんな言葉を紡いでも、声にしても彼女達にとっての最大の救いにはならないということを理解していたイチキシマヒメは、そんな心を奥底に押し殺して!彼女等を斬った。……斬り続けた。

 

そうして、彼女等の肉を裂く感触、生温かい血潮を身体に被る感触、彼女等の末期の「頑張って。」「お願い。」「ありがとう。」という言葉を聞きながら、彼女等の命の燈火を消すとイチキシマヒメは負傷した彼女等の身体に今も宿り、辛うじて命を繋いでいてくれた荒魂を吸い出していった。

 

(…………。)

 

彼女等の骸となった姿と最期に魅せてくれた姿、そして彼女等の親と環境に恵まれなかった記憶を見ながら、イチキシマヒメは胸と目頭が熱くなっている自分が居ることに気付き始めた。

 

「ねっ?……不要な者なんて存在しないでしょ?……イチ子ちゃん。」

 

不要な者なんて存在しないという静の一言によって、イチキシマヒメは立ち上がった。

求めた理由は歪ではあるが、こんな自分でも必要としてくれた彼女等が最期に望んだ心の声、この理不尽しか存在しない世界を壊すということを。

 

(……ああ、静よ。お主も力を、身体を貸してくれ――――。)

 

 

 

 

 

 

――――一方、特別祭祀機動隊第二班。

 

「紫様!アレは!?」

 

遠くから爆発音が響いたことに驚いた可奈美は、紫にあの爆発は何かと尋ねていた。

 

「……あの爆発は自衛隊の砲撃と米軍の無人機による攻撃だ。」

「どうして?……どうしてそこまで!?」

「……理由が知りたいか?理由は荒魂化した刀使に対して誘導砲弾による砲撃と無人機によるミサイル攻撃はどれほど有効かを実証するためと……若気の至りで決起に逸った若い刀使に衝撃と畏怖を与え、早期の降伏を促すためだ。」

 

可奈美に尋ねられた紫は、荒魂で強化された冥加刀使に対して近代兵器はどれほど有効打となるかを実証することで蜂起を二度も起こさせないようにするためなのが理由の一つであり、冥加刀使ではない決起に逸っただけの若い刀使達に砲撃の凄まじさを見せることで降伏を促すためであると答えていた。

 

「……でも、それだとあの人達が!!」

「衛藤、忘れたか?……刀使は人々に仇なす異形の怪物である荒魂を斬って鎮めるのが役目であることを……。」

 

可奈美は紫に対して冥加刀使達を殺めることに抗議するが、紫は普段通りの声音で刀使が人々に仇なす異形の怪物である荒魂を斬って鎮めるのが刀使の役目であると説くのであった。

 

「……そうかもしれない。荒魂を身に宿しているから荒魂かもしれませんけど、でも冥加刀使だと言っても、人と同じように怒ったり泣いたりする普通の人と同じじゃないですか!!?あの人達は……あの人達は荒魂じゃないです!!……そんなのおかしいですよ。」

 

しかし、可奈美は納得できず、紫に反論するのであった。

何故なら、それを認めてしまえば、殺人行為を是としてしまうだけでなく、弟の優を殺さなければならなくなってしまうことを認めたくなかったからである。

 

「……衛藤!それ以上は言うな。……それ以上は美奈都と篝、私の友を侮辱することになる。」

「あっ……。」

 

だが、紫は可奈美にそれ以上否定すると人が荒魂化することが珍しくなかった時代の刀使を、自分達の母親を侮辱することになると言われ、可奈美は冥加刀使を殺めることに蟠りを感じながらも、母のためにそれ以上は押し黙るしかなかった。

 

『緊急報告!緊急報告!!こちらの包囲を突破し、目標がそちらへ向かって進行中!繰り返す、目標がそちらへ向かって進行中!!』

 

しかし、そんな可奈美の心中を知ってか知らずか静と冥加刀使達がこちらへと向かって来ているという旨の報告が上がってきたのである。

 

「臨戦態勢を取れ!冥加刀使達が来るぞっ!!」

 

紫は、その報告を受け、即座に敵の狙いはタギツヒメであると看破し、迎え撃とうとしていた。

 

「みんな、イチキシマヒメのために道を開くよ!いいね!!」

「露払いは任せて、イチキシマヒメ。」

「タギツヒメを倒して、イチキシマヒメに力を与えるんだ!!」

 

事実、静と冥加刀使達の狙いは、第二班に居るタギツヒメの力をイチキシマヒメに吸収させることで禍神の力を獲得させようとしていた。

そのために、冥加刀使等は自身の手から御刀を落とさないように制服のリボンのタイを御刀に強く結び付けるだけでなく、怪我を包帯でわざと見せつけることで敵の同情心を誘おうとしていた。

 

「敵の狙いはタギツヒメだ!タギツヒメを守れ!!」

 

紫もタギツヒメをイチキシマヒメに取り込まれないように、周囲の刀使達にタギツヒメを守れと指示するのであった。

 

 

こうして、東京23区にて起きた特別災害予想区域での刀剣類管理局と維新派の争いは、荒魂のために道を作るべく死力を尽くす冥加刀使と荒魂を守ろうとする刀使、恵まれない者と恵まれた者とに分かれ、相争うという奇妙な戦闘へと変貌を遂げていった…………。

     

     




    
  
御刀
神性を帯びた稀少金属・珠鋼を精錬して作り出された日本刀。

MQ-9 リーパー
アメリカ製の無人攻撃機(UCAV)。リーパー(Reaper)は英語で『刈り取るもの』や『死神』などの意味がある。

砲兵
戦場の女神とも呼ばれている。


   
冥加
1 気がつかないうちに授かっている神仏の加護・恩恵。また、思いがけない幸せ。冥助 (みょうじょ) 。冥利 (みょうり) 。
2 神仏の加護・恩恵に対するお礼。
3 「冥加金」の略。
     
     
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