135話を投稿させて頂きます。
えた・ひにんの話は、
2 なぜ「えたやひにんとよばれる低い身分」の人々を「おいた」かというと,「農民や町人」の不満をそらしたり,「農民や町人」が団結して政治権力に反抗しないようにするためだった。
『江戸時代の被差別部落の歴史を見直す』
(2005年6月13日,学習院大学経済学部川嶋ゼミナール公開講演会要旨)
(財)信州農村開発史研究所 斎藤洋一
から一部引用しました。
引用元はえた・ひにん制度は無かったのでは?というものでもあります。
可奈美と和樹が邂逅している時、ソフィアは絶望的な戦力差から敗走になることを考慮し、隠世の扉を開けるために必要なイチキシマヒメを確保するため、静の救出を最優先とした後詰めの部隊を東京ホテルにて待機していたのだが、自衛隊の特殊部隊である特殊作戦群と対刀使用のボウガンによって敗走させられ、部隊が散り散りとなった後、和樹が出した蝶型の荒魂の騒ぎのお陰でソフィアは静を連れ出すことに成功していた。
「……隊長、すいません。」
静はソフィアにおぶってもらいながら、手を煩わせてしまったことに対して謝意の言葉を述べる。
「気にするな。……必要だったからな。」
すると、静の謝意に対して、ソフィアは振り向くこともなく、ぶっきらぼう気味にそう返していた。
「隊長がそんなこと言うと………不気味ですね。」
「……勘違いするな。私は、私の目的のために隠世の門を開けることが必要だっただけだ。」
「……ハハハ、そうですよね。でも隊長、これだけは言わせてください。……"ソフィア"であることを辞めないでくださいね?」
だが、静は例えソフィアにそう言われるのが不自然に思えたために忠告するのであった。
「………貴女は"ソフィア"だったから……世の中に不満を述べれた。……怒りを抱くことができた。……武器を持って戦うことができた。……貴女が"ソフィア"じゃなくなったら、冥加刀使となった者達はどうなるの?」
静の心にスッと入る声をソフィアは聴きながら、自らが"ソフィア"と名乗り、世界を舞台にして演じ続けた理由を思い起こしていた。
マフィアの懐を温めるだけの建物の下敷きにされたソフィア。
大人の黒い欲望によって、水と共に流れた赤子だったソフィア。
自分がこの手で殺し、自分を恨むような眼で見たソフィア。
それだけじゃない。
この刀使という物を前面に出すことでクリーンを装う刀剣類管理局という組織。世界平和を謳いながら自らが持つ消費という暴力がどのような結果をもたらすかを考慮しない国民性。そして、この資本主義という名の社会。
そうだ。全ては無遠慮に自分の目に入って来る暴力を使わない聖人気取りのこの社会が憎かった。……とにかく不気味で、気持ちが良いものではなかった。
破棄される物や食料を見ながら常に思い起こすのは、自国も含む発展途上国に対する"消費"という名の暴力。
それを理由にした「良い国に住めて良かったでしょ?」という同調圧力、徳川家康のえた・ひにんを想起させる抑圧委譲。
抑圧委譲に基づいた権力や権威に依存し、社会から外れた少数を排除することによって社会と同化したと勘違いする大きな子供。
しかし、それは、一方において権威への盲従と権威や権力についてどうあるべきかを考えもしない者を生産し、目に付き易い権威や権力に盲従することで比較的簡単に手に入る麻薬のような"甘え"の心理に気付かず、いや、気付かない振りをして、目に入れないようにしている唾棄すべき国民性と社会を壊したかった。
破棄される物や食料を見て、自国や発展途上国の貧しい人間を思い出すと同時に、無意味に大きいビルや建物を見る度に下水道で姉のように慕ったソフィアのことを思い出した。
この大きな建物の下には、目に見えない人の魂や産まれようとしていた無数の命があったのかもしれない。もしくは見えないところで他者の権利を害することで建てられたのかもしれない。……そう思い起こすだけで自然と怒りが常に湧き、そんな社会に生き、自分だけ享受し、狂った社会に呑まれようとしている自分が嫌いだった。そして、ソフィアを助けられなかった自分を責め続けていた。
……だから私は、怒りを原動力として、自分の目に無遠慮に入って来る大きな建物やこの腐敗した社会を、負い目を見なくて済むように破壊し尽くしたかった。
それを思い出すと、ソフィアは"ソフィア"の仮面を被って、静に話すのであった。
「……ああ、分かっている。もう後戻りはできない。」
「もう、……違いますよ!ゲホゲホ!!」
静は血を吐きながら、違うと言うのであった。
「……だって、貴女の知ってる"ソフィア"だったら……私を殺して、イチ子ちゃんの贄にしてるでしょう?」
「…………。」
そして、静にそう指摘されたソフィアは押し黙るしかなかった。
……確かに、私が望んだ"ソフィア"ならそうしていたと思いながら、返答を渋んでいた。
「ねえ、イチ子ちゃん。お願い聞いてくれる?」
(……ああ、何だ?)
「……私の身体……あげる。」
静は消え入りそうな声で、イチキシマヒメにそう告げるのであった。
「……刀使と荒魂の融合は乗算……だよね?……それで、一応はまだ……刀使の私の身体を使って……隠世の門を開けて……。」
(……だが、それだと静は……。)
「死ぬってこと?……でも、私……そろそろ目の前がさ……見えなくて。……寒いだけで………痛みも感じないんだ。」
静は自身の命の灯が消えかかっていることをイチキシマヒメに告げていた。そして、自身の身体を完全に乗っ取ることで、更に強くなった力で隠世の門を開けて欲しいと頼んでいた。
「……だからお願い。……隠世の門を開けて……少しでも……この世の中を……風通し良くしようよ?」
(……静………。)
死にかかっている静を見たイチキシマヒメは、静の背中から上半身を出すと静を抱きしめていた。
「……私を認めてくれた者はもうお前しか居ない。……だからお願いだ。まだ死なないでくれ。」
「……ちょっと、重いよ。イチ子ちゃん。」
抱きしめたことに何か意味が有る訳ではない。そう理解しながらもイチキシマヒメは大荒魂であることも忘れ、ただただ一人の人間に対して生きていて欲しいと願った、この世から飛び立たないで欲しいと心から望んだ故に、そのような行動を取ってしまった。それを理解した静は、冗談混じりに 『重い』 と答えるのであった。
「……あっ。」
「!……静、どうした!?」
だが、静が突然何かに気が付いたかのような声を上げたことに驚き、声を上げてしまうイチキシマヒメ。
「……イチ子ちゃんって、人の身体みたいに…………あったかいんだね……。」
血が流れ過ぎたことで冷たくなった静の身体に、イチキシマヒメの体温が入り込んだことで静はその暖かさを感じていた。
静の冷たくなった身体にイチキシマヒメの熱が入り、自然と意識が覚醒し出したのか、それとも別の要因なのか、過去のことを一つ一つ思い起こしていった。
(……ああ、お母さん……お父さんゴメンナサイ。……私、お母さん達みたいになれなかったよ。)
少女は心の中で両親に懺悔する。
刀使であった母のようになれなかったこと。父の期待に応えられなかったこと。……そうして、いつも血を流すほどに怒られていたこと。
(………私、無駄にしちゃったよ……。)
私が間違ったせいで死んだ飼い猫。そして、その次の日には父と母が私に「これが死だ。」という教訓を与えるべく、その死骸を食べさせられたこと。
私が間違ったせいで死んでしまった父と母。父と母の"不貞行為"が公にされぬように、そして父と母の遺体を守るために地下室に埋めたこと。
その殺した者達のためにも母と父が行った"躾"の本意を知りたかった。
……いや、違う。
本当は辛かったのだ。痛いことをされることも、痛いことをすることも本当は辛かったのだ。
だからこそ、その辛かった傷を隠すために、両親の"愛"が否定されることで本心が暴かれることが怖くて、本心が暴かれたことで私が両親に愛された静ではなくなることを恐れて、いつも長袖の服を着ていた。
……そうして、私が両親に愛された存在だという証明のために、母と父が行ったことでも"愛"が存在することを証明したかった。それを以って、私は世間一般の子供と同じで両親に愛されていた子供だと証明したかった。
今はもう、指の一本ですら動かすことも困難であったが、イチキシマヒメの本当の愛が在る熱だけは感じ取れていた。
(……けど、今は本当に心地良いなあ………。)
イチキシマヒメから贈られてくる暖かさに、静は微睡を感じていた。
……何処か懐かしさを感じながら、目を瞑りそうであった。
(……ああ、そうか。……やっと、分かったよ。……ただ……相手を思って………これも……イチ子ちゃんの……無償の……愛の形…………なんだね。)
イチキシマヒメから贈られてくる暖かさに、静は心地良さと無償の愛を一身に感じていた。自身の中にずっと巣食っていた母と父の思いを継げなかったという苦悩と心苦しさが消え、母と父が唯一遺してくれた傷を気味悪がり否定しかしないこの世に対する息苦しさが無くなりつつあるイチキシマヒメの暖かさに、静は自然と身を委ねていた。
「……イチ子ちゃん………すごいよ。……イチ子ちゃんの中には………暖かい心が………あるんだね?…………。」
「…………。」
そうして静は、譫言の様にイチキシマヒメに対してそう呟くのであった。
血が大量に流れ、冷たくなった身体にイチキシマヒメの心と身体から贈られてくる暖かさに身を委ねた静は、思わずイチキシマヒメに向けて、暖かさを感じると言ってしまう。だが、ずっと孤独で心に虚無を抱えていたイチキシマヒメは、静に暖かい心が在る存在として認めてくれただけで、自身の存在をより認めてくれた様な気がしたのだ。
(……そっか、私が本当に欲しかったものは……誰かを刺したり、自分をって"痛み"を実感するんじゃなくて、……こうやって、暖かい気持ちにさせてくれることだったんだ……。そりゃ、見つからないよね。……ただ、素直な気持ちで……ただ、頭で考えずに……相手のことを思えば分かるのに……そんな簡単なことですら、見てなかったんだなぁ。……いや、違う。……見ないことで、辛い事から逃げてたんだ。)
そうして、懐かしさを感じたせいか、昔のことを思い出していた。それは、
服の上からだと分からない場所にタバコを押し付けられたり、顔にも腹にも殴られたり蹴られたりしたときのこと、それは静の
……そう思うことで、いや、そう思い込むことで、逃げることで辛いことも痛いことも乗り越えられた……。
それを思い起こし、イチキシマヒメがくれた"愛"が本当の愛だと、静はようやっと理解した。
「……ありがとう……おかあさん……ごめんね………お……かあ……さん…………。」
母と父が切欠で得た『不要な物は存在しない』という教訓のお陰で、イチキシマヒメと出逢えたことに対して静は、感謝と最後にイチキシマヒメがくれた本当の"愛"を実感させてくれたことに静は感謝し、母と父を殺してしまったことに対する謝罪とイチキシマヒメよりも先に逝ってしまうことに対する謝罪を述べると。その感謝と謝罪を籠めたその言葉を最期に静の瞳は瞳孔が開き、静という人物は物言わぬ肉塊へと変わって逝ってしまう。
こうして、幼い頃に読んだシンデレラのように素敵な王子様に出逢えることを望んでいた少女は、人生という長い旅路の果てにイチキシマヒメというシンデレラにとって道標を示す魔法使いのような存在に出逢い、そして12時の鐘が鳴ると美しいシンデレラは美しいシンデレラで無くなるように、静も静では無く他と変わらぬ人だった物へと変わって行ってしまった。
「……静、冥加刀使の皆。私を必要としてくれた者は皆逝ってしまった。」
イチキシマヒメは自らの存在意義、自分が存在する理由を求めた。それ故に、人と荒魂を融合させ、人を進化させることによって荒魂の存在理由が立証できると思っていた。
……だが、それらを可能にするはずであったノロのアンプルの現実は、自分を認めてくれた冥加刀使全員を天国への水先案内人として現世の先へと向かい、自分を受け入れてくれた静も此岸の向こう側へと向かわせただけであった。それ故に、イチキシマヒメは、人と荒魂を融合させることが可能となる自らが作ったノロのアンプルは不合理で不条理な物としか感じられなくなり、否定する思いを募らせていく。
「……だが、私には、私を必要としてくれたお前達が遺してくれた記憶や思い。……それが我が胸中に在る!!」
冥加刀使達の中に在った荒魂を通して分かる――――。冥加刀使等が遺して逝った思い――――。
偽の親の娘が傷付かないように、その娘の代わりとして刀使にされた憎悪の記憶。
大学へ行くための資金を得るために荒魂とずっと戦い続けることに対する苦痛の記憶。
刀使を辞めるために迎えに来てくれる親が居る刀使が居るということの妬みの記憶。
荒魂が英雄視され、評価されることに対する矛盾にもがき苦しみ続ける嘆きの記憶。
友人や親が犠牲になった荒魂のことを考慮しない刀剣類管理局と政府への怒りの記憶。
――――そんな社会に対して、ただ破壊を求め、作り直されることを冥加刀使達は望んだということ。
そして、静も最後の言葉の中に隠世の門を開けて欲しいと願ったことで嘗ての願いを否定したイチキシマヒメの中に新たな望みが芽吹いてきたのである。
「……だから皆、安心して逝ってくれ。……何故なら、今から私はイチキシマヒメではなく、お前達とっての禍神であるイチ子ちゃんとなる……。」
そうしてイチキシマヒメではなくなったイチ子は、隠世の門を開けることを決意する。
本体を得るためではなく、自らを必要だと言ってくれた静と冥加刀使達の願いが叶ったことを何処に居ようとも届けるために。
「……我はこの社会を壊すほどの力はない。だが、我が禍神となり、隠世の門を開け荒魂共を世に放てば、この世を破壊する音と怨嗟の声が世界中に轟き渡る!……破壊と怨嗟の声が大きければ大きいほど、あの子達が望んだ破壊の音が此岸の向こう側へも届く。それだけであの子達のこの世に対する蟠りは、怨嗟は、憤りは晴れ、あの子達の魂は彼岸と此岸の境目でも迷うことなく逝くことができる。……それで、彼女等の魂は救われる!!」
こうして、無気力であったイチキシマヒメは、自分に力を与えてくれた冥加刀使と静のために隠世の門を開ける禍神イチ子ちゃんとなるのであった。
その一方、可奈美は荒魂化した和樹と戦っていた――――。
「刀使!御刀!他人から何もかも奪う悪魔の手先はみんな滅びなきゃいけないんだぁあァぁアっ!!」
血を吐くのではないかと思えるほどの声を和樹は上げながら、可奈美に向けて御刀を癇癪を起した子供のように振り回していた。しかし、可奈美は和樹の御刀を冷静に、何処か客観的に、他人事のように観察し対処していたが、こんなときにまるで他人を物扱いするかのような行動を取る自分が嫌であった。
和樹の剣を通じて、和樹の刀使に対する恨み辛みの声は最近のテレビに出てくる刀剣類管理局を批判することで視聴率を稼ぎたいテレビの意向に添ったものではなく、本当に刀使やそれ以外の怒りや怨嗟に包まれているのだと解かっているのに、真剣に取り組めない自分が嫌だった。
……真剣に取り組めない自分。それは、剣術の試合に挑んでいた時の自分。剣術が好きだからこそ、人の剣術が見たいがために試合を長引かせているというが、実際は神棚とかが置かれている道場や剣術の試合場が優から唯一逃れられる場所であり、自分だけの"逃げ場所"か"聖域"のように感じていた自分が居り、真剣勝負をする場所に逃げる場所と選んだ自分は本気で相手をしたことがあるのか?それは相手に対して良くないのではないか?という思いが重なり、遂にはそんな本気の相手に本気でぶつかれない自分が嫌いであった。
それを思い起こしたがために、相手に全力で挑めない自分もそうだが、他人を物扱いするかのような行動を取る自分も嫌いであった。
「お前等が!おねえちゃんを……僕に唯一優しかった人を刀使に仕立て上げて、奪っただけでなく殺したんだ!!」
それだけでなく、可奈美は"おねえちゃん"という言葉に過敏に反応し、荒魂化した優を思い浮かべたことで、この男を殺すことは優も化け物扱いすることだということを嫌でも抱かされていた。
……それ故に、可奈美は和樹に対して切っ先を向けることに躊躇い、そして上記の嫌いな自分を思い起こしたことで途惑いがちとなり、切っ先の鋭さが失いつつあった。そのため、和樹に対して有効打となる一撃を振るうことができなかった。
「……そんなに、そんなに憎いの?刀使が何でそんなに憎いの?」
そして、可奈美は立場上対立した相手でも、悲運な境遇に同情してしまう傾向が特に強い子であった。
故に、可奈美は少しでも和樹の心を助けたいと思い、刀使が憎い理由を尋ねていた。
「……刀使が憎い理由?……全部だよ全部!生まれや出自で決まるこの世の中と同じで全部だっ!!オレが生きることにも、死ぬことにも文句ばかり言う奴しか居ないこの世の中全体にもイライラするんだ!!!!」
だが、和樹の精神の情緒は不安定なのか、聞いていないことも答え始めるのであった。
「妹が刀使だったからという理由だけで蔑まれたよ。刀使になったから福利厚生に恵まれた妹と比べられたよ。妹が刀使だったからという理由だけで剣術やっても、刀使と比べられてそれを言われ続けたよ!みんなのおもちゃにされたよ!!……普通になりたかった。刀使と御刀に関わらずに済む世界で生きたかったよ。そうだったなら、そうだったなら刀使のおねーさんも死なずに済んだし、僕は刀使の妹が居た理由だけで比べられてイジメられることもなかったし、それで希望していた高校受験にも落ちなかった!!!!」
ただ、普通でありたかったと。ただ、刀使と御刀とは無縁の世界に生きたかったと。
「…………そうだったなら、そうだったなら僕も、妹が刀使だったからという理由だけで僕を蔑んできた一般家庭のタカシくんみたいに普通に高校受験を成功させて普通に就職して普通に家庭を持てたハズなんだ!それを、それを刀使と御刀、それを甘やかす世の中が僕の全てを奪ったんだ!!」
そして和樹は、自分のことを虐めた主犯格のくせにのうのうと自分だけは幸せな家庭を築いたタカシとそれと結婚した高収入目当てのブス女のことを思い起こしながら、自分の全てを奪った御刀と刀使、それを甘やかす社会が憎いと和樹は自分の言葉で答えるのであった。
「…………。」
可奈美はそれを聞き、そして和樹の持つ御刀を通じて分かる怨嗟と憎悪の深さに気圧されるだけでなく、迷いも生じていた。
テレビに出てくる人達とは違い、ここまで刀使のことを憎悪する者が居るとは思わなかったこともあって、戸惑う気持ちが強かった。
「…………違う。」
だが、可奈美は丹沢山で現れた荒魂化した女性のことを思い出すと、今度は、今度こそは荒魂化した人を助けたいと思い起こすと、瞳に光を宿す。
『ねえ知ってる優ちゃん。お母さんが刀使は人を守って、感謝されて、剣術も学べる、最高だって言ってた。けど、私はこうも思うの、刀使は人を守って、感謝される、“正義の味方”なんだって。』
嘗ての自分が、愛しい者へ送った誓いの言葉で自分を奮い立たせると、御刀を和樹に力強く向ける。
「……そうだよ。子供が信じている正義の味方だったら、ここで立ち止まらない。まだ、諦めない!」
可奈美はそう言葉を絞り出すと、死んだ人のために奮い立たなければならないと覚悟するのであった。
「……だって私は、優ちゃんよりお姉ちゃんだから!理由なんてそれだけで十分!!」
そうして、可奈美は叫ぶと、タギツヒメに対して有効打を与えられる千鳥を所持していることと油断を誘えることから、タギツヒメを身に宿す優を唯一倒せる刀使として認識されていることもあって、もう二度と荒魂化した人を殺さずに救おうとする。
「だから、貴方を救えば私は!」
故に最後まで抗おうとした。
荒魂化した人間を殺さずに済ませることで、優を救えることを証明しようとした。…………しかし、
「……掩護します!」
「可奈美隊員は今のうちに!!」
間の悪いことに和樹と可奈美の戦いを見ていた自衛隊員達が、和樹が一方的に攻めている状況から可奈美が不利であると判断し、可奈美が逃げられる時間を稼ぐべく手に持つ89式小銃で和樹に向けて銃弾を浴びせるのであった。
「ダメ!逃げて!!」
銃撃されたことで、和樹は怒りの感情のままに、荒魂でもない人である自衛隊員に襲い掛かって行ったのである。
「お前達もがあぁぁぁぁぁ!!」
それを見た可奈美は、優と美奈都を思い浮かべた影響か、私を助けた自衛隊員の人達が家庭を持っていたら、その家族の人達が深い悲しみに暮れることを考えてしまった。……だから、可奈美は決断する。
『だから、約束。…私はお母さんみたいに人を守って、感謝される、“正義の味方”のような強い刀使になりたい。だから、私は優ちゃんのことも怖い物から守るし、今度は何があっても救ってみせるよ。』
嘗て、荒魂が入っている優に語った言葉。……自分は人を守って、感謝される、“正義の味方”のような強い刀使になりたいと。
『……そうなんだ。だったら僕もそんな大好きでカッコイイお姉ちゃんの助けになりたい。』
それを聞いて笑顔になる優。……それを見て、自分は正しいことをしているのだと実感できた。
『……そう、ならおねえちゃんに任せようかな、……お願いね、おねえちゃん。』
弱っている母の美奈都に言われた言葉。早くに死んでしまう優に母親らしいことをしてやれなかったことを悔いて、可奈美に任せたいと言われた可奈美はそれを二つ返事で任せて欲しいと答える。
タギツヒメに取り憑かれ、荒魂化して行く優。
母親らしいことをしてやれなかったことを悔いる母。
その願いを一つでも叶えようと、"おねえちゃん"として奮闘しようとした可奈美。
それらを思い返しながら、心臓が早鐘を打ち、何度も何度も胸に叩く鼓動を感じながら、和樹の背中に御刀を刺した……と思う。
思うと可奈美が思ったのは、そこからの記憶が曖昧で自分が刺したかどうか確証は得られなかったからである。……だが、現実は和樹の胸には、可奈美が持つ御刀千鳥の刃が出ていたことから、背中から胸に千鳥の刃が出るほどに可奈美は和樹を深く刺しただということを千鳥が物語っているように感じられた。
「……あっ?…………あ、あがあァぁああアぁアあァ!!」
すると、和樹は可奈美を突き飛ばすことで、千鳥の刃を引き抜くが、荒魂に痛撃を与える御刀千鳥であったことで、あまりの痛さに和樹は悲鳴を上げながら仰向けになって悶え、叫んでしまう。
「たっ、助けて!!!!痛い痛い痛いィイイイイイイ!!!!」
故に、和樹は子供のように泣きじゃくると、唯一の理解者であった初恋の年上であった刀使の少女を思い浮かべ、それに助けを求めた。……しかし、
「あ、ああ、アぁあァぁああアぁアあァ!!!!」
助けを求めた少女は和樹の目の前に居た。侮蔑のような目を向けて。
その眼差しを受けた和樹は思い出す。……自分が結月学長を勝手な理屈で殺そうとしたこと。刀使を殺そうとしたこと。……それらを思い出した和樹は、罪悪感に抱き、救いを求め始める。
「いやだよ……もう、ツライよ。……この場所が、だから……助けて、タスケテ、たすけて……おねえちゃん、聞こえてるんでしょ!!おねえちゃーーーん!!!!」
和樹は子供に戻ったかのように泣き叫び、初恋の刀使の少女の幻影を求め、その刀使の少女に助けを求めた。……それを優という弟を持ち、母の美奈都に"おねえちゃん"を任せられた可奈美に向けて、訴えるのであった。
そして、それを訴えられた可奈美は、やけに"おねえちゃん"という言葉だけは人の言葉の様にハッキリと聞こえてしまった。
「……うっ……くっ………。」
その痛々しく、まるで子供のように"おねえちゃん"に救いを求める荒魂化した人を見て、可奈美は嫌でも優を連想してしまう。……もう二度と、荒魂化した人を斬らなくてもいいようにしたかった。斬らなくてもいいということを、それを証明したかった。
だが、これが"荒魂を斬る"という使命なのだと、可奈美は改めて実感することになる。可奈美はそれを見て、涙を流しながら、嗚咽混じりの声で呟くのであった。
「……ありがとう……おかあさん……ごめんね………お……かあ……さん…………。」
言うて和樹くん、子供相手にガチ説教したり、暴行を加えたりするところから、子供の居る所や弱い他人を狙う無敵の人ムーブをかましてるワケで……。