141話を投稿させて頂きます。
トーマスが死んだこと、優が死んだときのことを姫和が思い出していると、紗南が可奈美にこう命じていた。
「……衛藤、お前から帯刀権を剥奪し、謹慎を命じる。」
「…………。」
「……以上だ。良いな?」
紗南にそう命じられた可奈美は、無言で俯きながら、紗南を睨みつけていた。その一連の流れを見ていた姫和は、可奈美が危険な行動を取る前兆であると判断し、可奈美に声を掛ける。
「可奈美!……行こう。」
しかし、可奈美は声を掛けた姫和を振り切ると、紗南といった防衛省と刀剣類管理局の重役等が居るテントから出ていった。それを見た姫和は急いで可奈美の後を追い、肩を掴むと逆に可奈美が姫和にこう尋ねてくるのであった。
「……ねえ、姫和ちゃん。私のこと心配?」
「当たり前だろ?私も優を救いたかった。そして、三人で一緒に何処か行きたかった。だから……私も背負うと決めたんだ!!」
姫和はそう言って、可奈美の味方だと言っていた。
それを聞いた可奈美は、
「………じゃあさ、私の御刀取って来て。」
姫和に冷たい声で、御刀千鳥を取って来いと命じるのであった。そう言われた姫和は、
「……いや、STT隊員等が保管している御刀を私でも取れるかどうか。」
今や帯刀権を無くし、謹慎を命じられた可奈美の御刀千鳥を保管しているSTT隊員等の目を盗んで、それを取り返すのは困難であると説く。
「大丈夫だよ。姫和ちゃんが私の御刀を取りに来たとしても、だーれも警戒しないよ。……それに、姫和ちゃんは今まで優ちゃんのために刀使を続けたんだから、それぐらいできるよ。」
しかし、可奈美は尚も姫和に千鳥を取って来いと強めに、且つ詰め寄りながら、優のことを助けようとした姫和を話題にしつつ言うのであった。
「………優の仇は私が斬る!……だから、だから、可奈美。お前はそんなことしないでくれ。……私は、お前達を助けたいんだ!!」
可奈美が笑顔を浮かべながら迫り、圧を掛ける姿を間近で見た姫和は、可奈美の言葉の意味に気付いた。それ故に、可奈美が"優の仇"を取ろうとしていることに気付き、止めようとする。
人斬りではなく、剣術好きな少女に戻って欲しいと願う。
そして、優と可奈美を救おうと決めた姫和にだからこそ、優が死ぬだけでなく、可奈美が人殺しとなる結末を阻止したかった。故に、自分一人だけが"人殺し"の罪を背負おうとしていた。……しかし、
「ねえ、姫和ちゃん?"そんなこと"って何?」
「え?……いや、その……。」
突然、可奈美に胸倉を掴まれたまま、そう詰め寄られた姫和は、つい可奈美から目を逸らしてしまう。
「姫和ちゃん?私も約束したよね?姫和ちゃんの重荷を半分持つって?それすら私から奪うの?……私は優ちゃんを救いたくって今まで強い刀使になろうと……おねえちゃんになろうと頑張って来たのにそれが無くなっちゃったんだよ?お母さんの仇を討とうとした姫和ちゃんなら私が言いたいこと分かるよね?」
「それは……それは違う。可奈美、聞いてくれ。」
しかし、可奈美はそれで止まることなく、自分の中にあるものを奪う気なのかと非難された姫和は、逸らした目を戻し、可奈美を真正面から見るも、可奈美の姿が目に映った瞬間、弱弱しい声になるも、姫和はどうにか『違う。』と可奈美に返答することができた。
「本当?……御前試合の決勝戦。私は姫和ちゃんがどう攻めて来るかそればかり考えてた。姫和ちゃんのことで頭がいっぱいだったけど、姫和ちゃんは私の事なんか見てなかったよね?ご当主様をどうやって殺すかしか考えてなかったよね?私、あのとき結構頭に来てたんだけど?姫和ちゃんに無視されたこと。……そんな隠し事ばかりする姫和ちゃんの言うことを信じられると思う?」
「あ……え……いや、……その………。」
それだけでなく、可奈美は御前試合でのことを引き合いに出して、紫が大荒魂であること、それを周囲に悟られることなく一人で心の内に隠し、紫の暗殺を実行しようするといった隠し事ばかりをしてきた姫和の言うことを信じられないと可奈美は返すのであった。
「……そ、それは。」
「それは?……まだ言い訳するの?助けたい救いたいとか言っている私にすら隠し事しているのに?目を逸らさないでよ姫和ちゃん。私に酷いと思わないの?私、半分持ってあげるって言ったでしょ?信頼して預けてもくれないの!?」
そして、可奈美は隠し事ばかりをする姫和を酷いと非難するのであった。
その言葉の刃を受けた姫和は、可奈美に見捨てられ、また自分は孤独に、一人になるのではないかと焦燥感を抱き始める。
「……それとも姫和ちゃん。私にまだ何か隠し事してるの?それとも、私と優ちゃんを助けたいというのは嘘だったの?」
無論、それだけでなく、可奈美は姫和の中にある決意。優と可奈美を救うというものを否定した。
「……ち……違う、可奈美!………私は………私は本当に!!」
可奈美にそう言われた姫和は、その言葉を必死に否定する。その決意すらも、当人に否定されて、無くしてしまえば本当に何もかも失ってしまう。
それ故に、姫和は必死に否定し、可奈美に肯定してもらおうと口を動かそうとするが、平城学館に編入以降の姫和は、紫を討ったあとに他者に迷惑が掛からないようにするため、他者とのコミュニケーションを断っていたことが原因で、上手く口が動かせないだけでなく、頭の中に自分の言葉を上手く紡ぎ、表現することができなかった。
それ故に、姫和の頭の中は混乱し、どうすべきか、何を言うべきかに悩んでいた。…………だが、可奈美に優しく抱きしめられたことで、状況は一変する。
「……でもね、姫和ちゃん。私、姫和ちゃんが優ちゃんを助けることで私も助けたいって言ってくれたとき、本当に嬉しかったんだよ。優ちゃんだけでなく、こんな私のことも気遣ってくれる姫和ちゃんが大好きだったよ。……姫和ちゃんも私が半分背負うって言ったときは嬉しかった?私と同じ気持ちだった?」
「……う………うん。……そうだった。」
可奈美に優と自分を助けると言ってくれた姫和の言葉が嬉しかったと同時にそんな姫和が大好きだったと答える。
……それと同じ気持ちだったかと可奈美に訊かれた姫和は、まるで幼子のように同じ気持ちだったと可奈美に合わせて答えていた。
そうすることで、可奈美は精神的に疲弊した姫和の心に"可奈美を助けたい"という楔を打ち込むことができたのである。
「だから姫和ちゃん。私は御刀を盗られてとっても困ってるの。……それに、姫和ちゃんが罪を犯すなら、私も同じ罪を犯して、その罪の重荷の半分は持つよ?私は……姫和ちゃんが刑務所に入っても一人にしないよ?だから、優ちゃんが居なくなった私を一人にしないで?今の私はそれだけが救いなの。だから助けて、姫和ちゃん。」
そうして可奈美は、同じ罪を犯す、重荷の半分は持つ等の言葉を並べて、可奈美を助けることで自分も救われると姫和に思い込ませていく。
そうすることで、他人を使って御刀を手に入れやすくするのが可奈美の狙いであった。
「……分かった可奈美。……頑張って取って来る。」
「ありがとう姫和ちゃん。」
可奈美の御刀を取り返すと言う姫和に、可奈美は感謝の言葉を述べると共に"いつも通り"の笑顔で感謝の言葉を述べるのであった。
「私、姫和ちゃんが一緒に居てくれれば、どんな辛いことがあっても平気だよ。」
………姫和も同じ事をすれば怖くないという言葉も添えて。
姫和に御刀千鳥を盗って来いと言った私は、宛がわれたテント内でベッドの上に寝転んで待っていた。
ただ何もせず、時間だけが過ぎ去るのは苦痛だったけど、私はいつも通りの笑顔を貼りつけて、……心地良いから歌を口ずさんでいた。
「ラ~~ララ~~ラ~~ラ~~ラ~~ラ~~♪」
狂った音程で……いや、決まった音程も、何か流行りの歌を口ずさんだ訳でもないから当然かぁ。ついさっき頭の中に浮かんだ曲をただ垂れ流すように口ずさんだだけに過ぎない訳だから、少しズレていても問題無いよね。
それに、音程だけでなく曲調も酷く、聞いてられない程に酷いけど、私一人しかいないのだから、何も問題無い。
(……ああ、姫和ちゃんを騙しちゃったなぁ。)
いや、違うよね。……この心地良く出てくる狂った……小気味よいメロディーが私を癒してくれていた。
姫和ちゃんへの謝罪も込めて謡っている。……だから、私は悪い子ではないよね?お母さん。……でも、そんなことばかり考えていたせいか、近くにあったコップを手に取ろうとしたけど、
(……あ、コップが……。)
コップが落として……落ちた……堕ちた……私は堕ちた。
……何故だろう?そんな連想をしただけで、不思議と私の心の中は後悔が蝕むどころか、高揚感に包まれる気分になった。
そう考えるだけで、自由になった気さえした。
何でもやれそうな気さえした。
……やらなきゃいけないことが一つに絞れば、もう色々なことで、
お母さんや優ちゃんや姫和や刀使や御刀やお母さんや優ちゃんや姫和や刀使や御刀やお母さんや優ちゃんや姫和や刀使や御刀のことで悩む必要が無くなる。
……全てはお母さんとの約束と優ちゃんの命を奪ったソフィアへの復讐なのだと思えば、ソフィアが全て悪いのだと思えば、荒魂になったソフィアが悪いのだと思えば、ソフィアさえこの世から消せば、全ては元通りに《/b》…………いや、ソフィアという荒魂を倒せば、まともな世界に……私が知っていた世界に戻るのだと私は不思議と思えた。
そんなことを何度も何度も復唱するかのように、念仏のように唱えるかのように、私は心の中で呟き続けていた。
私は、そう思うだけで、そう強く念じるだけでベッドの枕の下にあった拳銃を手にすることができた。
「可奈美!!」
私がソフィアを殺す理由…………いや、違った。ソフィアという荒魂を討伐する理由を考えていたら、やっと姫和ちゃんが戻って来た。
……遅くない?って言いたかったけど、そこは我慢した。それに、大声出さないでよ。私が姫和ちゃんを使って……うん?それは違う。姫和ちゃんに頼んで御刀を取って来てもらったのがバレちゃうし、それに何よりも神様の導きで手に入れた拳銃を私が持っていることがバレたら大変なんだよ?それを分かってるの、姫和ちゃん?
……でも、そんなことにすら頭が回らないくらい責めた私も悪いのかな?
「……姫和ちゃん。持って来てくれたんだ。」
「ああ。意外と簡単だった。」
まあ、いっか。……姫和ちゃんが犬のように喜んで取って来てくれたみたいだし、これでソフィアを殺せる……ああ、だから違うよね。荒魂を討伐できる武器が手に入ったのだから、万事オッケーだね。
「ありがとう姫和ちゃん。頼りになるね。」
「ああ、もちろんだ。……それと、可奈美。」
万事オッケーと思っていたら、姫和ちゃんが急にしおらしくなって、私に何か言いたげだった。……早く言えば良いのに。面倒くさい。
「実は……ノロのアンプルも手に入れたんだ。ソフィアとかいう奴も冥加刀使らしいから、確実に倒すにはこの力が必要だ。……だから、その、私は荒魂に近い者の家系らしいから、荒魂と融合ができるらしい。……それで、私はこのノロのアンプルを使って、荒魂の力で奴を倒そうと考えている。……だが、可奈美、お前は――――」
姫和ちゃんがノロのアンプルを見せて、冥加刀使に対抗するために荒魂の力が必要だと話して、私は姫和ちゃんがノロのアンプルを使わないで欲しいと言う前に、私は姫和ちゃんの手からノロのアンプルを一つ奪い取った。
「可奈美!!?」
それを見た姫和ちゃんは、私の行動に驚いていた。……何をそんなに驚くのかは分からなかったけど、私は取り返されないようにこう返すことにした。
「姫和ちゃん、ダメだよ。……重たそうだから私が半分持つよ。」
運命共同体で、共犯者で、同じ悪い事をする子供だっていうことを理解させたうえで、ソフィアを殺したい私は表向き剣術好きな少女だった私が姫和ちゃんに言ったことを話した。……半分持つよと。
「……可奈美。」
「大丈夫だよ。……姫和ちゃんが居てくれたら、もう怖くないよ。」
泣きそうな顔になった姫和ちゃんを見た私は、そう言って姫和ちゃんを説得していた。
でも、それだけだと姫和ちゃんは、私の目の前にノロのアンプルを持ってきたことを後悔するだろうから、あることを提案した。
「だから姫和ちゃん。……私が姫和ちゃんにノロのアンプルを打つから、姫和ちゃんも私にノロのアンプルを打って。」
私が姫和ちゃんの首筋にノロのアンプルを打つ代わりに、姫和ちゃんが私の首筋にノロのアンプルを打つということを提案した。
そうすることで、私は姫和ちゃんに対して負い目を感じ、荒魂になることの決意とソフィアという荒魂を殺すことへの意志が揺らぐことが無いようにしたかったから、私はそれを提案したのだ。
「……可奈美、分かった。」
「それじゃあ行くよ?姫和ちゃん。」
そうして、私と姫和ちゃんはお互いの首筋にノロのアンプルを近づけて……スイッチを押した。
プシッと空気が抜ける音がしたと思ったら、暖かくって中にドロッとした物が中に入って来る感触がした。
「うっ……うくっ………!!」
私の中にノロが入って来た感触がした途端、私の中に耐え難い渇きを、飢えを感じた。……だけど、その苦痛が私の身体の中に荒魂が入ってきたのだと実感することができた。
「……うっ……ぐっ!!……はぁっ………。」
姫和ちゃんも同じ痛みを感じているかどうか見ると、姫和ちゃんも苦しそうな顔をしていたのが見えた。
「……姫和ちゃん大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。」
だから私は、姫和ちゃんに荒魂を注入し終えた私は、姫和ちゃんに大丈夫かと尋ねた。
これから、ソフィアを殺すために一人で行くのは辛いこともそうだけど、私がソフィアを斬ることに躊躇しないようにしないと私は躊躇するだろうから、躊躇しないように、目の前に居る友達を荒魂にしたという"罪"の形が必要だった。……姫和ちゃんに酷いことをすることで私は、もう後戻りできないのだと私自身を納得させる。良い子の面を被らなくて良いのだと、いや、それを被る資格すらも無いのだということを刀使の可奈美に理解させる。……それが私の覚悟。
……自分で自分を殺す行為。
けれど、それが私の心の中で妙な心地良さが生まれ、とても気分が良くなった。きっと、みんなで壁に落書きするみたいに皆で悪いことをしたら、こんな解放感に溢れた気分になるんだろうな。とか私は考えていた。
「……姫和ちゃん。もう、後戻りできないね。」
「……ああ、そうだ。……私も半分持つぞ。」
(……お母さんごめんなさい。……わたし、良い子を辞めまぁあすっ!!)
――――一方、紗南と甲斐達は、
「――――衛藤隊員。並びに十条隊員は御刀を奪取するだけでなく、維新派から押収したノロのアンプルをも強奪したものと思われます。」
可奈美と姫和が御刀だけでなく、ノロのアンプルを強奪し、冥加刀使となった可能性が高いことを示唆する報告を受けていた。
「……まさか?本当に彼女等が?」
「恐らくですが、ソフィア氏を殺害しようとしているのでは?」
紗南は驚きの顔を見せるが、甲斐はそれに反して驚くことはなく、いつも通りの口調と声音で且つ内心は喜びながら、可奈美と姫和がソフィアを殺害しようとしていることに安堵し、それを悟られぬよう表情を変えることなく紗南に可奈美と姫和がソフィアを殺害しようとしていると述べるのであった。
何故、甲斐がソフィアを可奈美と姫和が殺そうとしていることに内心喜んでいるのかと言うと、甲斐は刀剣類管理局が警察の管理下から外れ、荒魂対策の予算を防衛省にも計上してもらう工作をソフィアにも協力してもらっていたのである。
……つまり、甲斐は結芽と夜見を間接的に死に追いやった者でもあった。
そんな経緯がある甲斐は、当初は優に江仁屋離島の自衛隊員と維新派に属する刀使の始末といった汚れ仕事と政治能力に長けたタキリヒメの始末をやらせ、その後に優は暴走した荒魂として処分される予定だった。……のだが、国会前の暴動をタキリヒメが鎮圧したという話しが大いに広がり、民衆の支持を多く集めたことで、防衛省と刀剣類管理局はタキリヒメに手出しができなくなってしまったのである。(もしも、民衆のタキリヒメへの支持が高い情勢下で、刀剣類管理局や自衛隊が直接タキリヒメに手を出そうものなら、政府への批判が高まり、最悪の場合は刀剣類管理局と自衛隊の権威が下がり、タキリヒメが"物騒な行動を起こさぬように"という理由で、刀剣類管理局と自衛隊の内部に介入する口実を与える恐れがあったのである。)
それ故に、第三者によってタキリヒメに殺されたということにするために、優にソフィアの部下でもあった綾小路武芸学舎の刀使を荒魂の仕業に見せかけて殺害させ、ソフィア達を追い詰めると共に、ソフィア達にタキリヒメを斬ってイチキシマヒメに吸収させ、戦力を増強させることで決起するように追い詰めていったのである。
維新派等を決起させた後は、維新派をソフィアと共に始末し、優も荒魂の根絶を願う維新派に優の居所を漏らすことで維新派に優を殺害してもらおうとするが、こちらの思惑とは違いソフィア達は優を攫ったことに驚くのであった。
理由は、優の汚れ仕事の数々が維新派等に漏れ、それが公に晒されることを恐れてのことだが、結局はソフィアが優を殺害したことに甲斐は安堵するのであった。
……これで、優を殺害したソフィアを可奈美と姫和に始末してもらうことができ、自身の不法行為を完全に隠滅できると。
それ故に、甲斐は自分の指揮下にある別班を使って、可奈美と姫和が没収した御刀千鳥とノロのアンプル、そして拳銃が手に入り易いように“用意”したのであった。
「……紗南本部長。衛藤隊員と十条隊員の両名がソフィア氏を殺害してしまう前に、捕らえる必要があると思いますが?」
それだけでなく、衛藤隊員と十条隊員の両名を捕らえる必要があると言って、可奈美と姫和を荒魂化した刀使として処分する部隊をも動かそうとしていた。
「……ええ、分かっております。直ぐにスペクトラムファインダーを千鳥に反応するようにして、衛藤と十条隊員の行方を追います。」
甲斐に可奈美と姫和を追うべきであると言われた紗南は、スペクトラムファインダーを可奈美が所持している千鳥に反応するようにして行方を追おうとするが、
「報告!!首都上空……いえ、上空に謎の現象がっ!!!!」
それを遮るかのように、首都上空に謎の現象が現れたとの報告が来たことで状況は一変する。
「何事だ?もう少し分かるように説明してくれ。」
その報告を聞いた紗南は声を荒げながらも、首都上空がどうなったか気になった甲斐と共に作戦指揮用のテントから外に出て、上空を見上げた。
すると見上げた空は、一目で分かるほどの変貌を遂げていたのである。
「……何だ?空が裂けている?」
「これは……!」
上空を見た甲斐は、初めて驚愕の声を上げた。……何故なら、宇宙のように黒い闇の中にキラキラと輝く星々のように金色に輝く点が一本の線で無造作に繋がっている空間を中心に、灰色の雲に覆われた空が甲斐の目に広がっていたからである。それを見た甲斐は空が裂けているかのように見え、それを口に出してしまうほどに驚愕していた。
だが、驚愕の声を出す甲斐に反して紗南は、直ぐに20年前の相模湾岸大災厄時に起こった現象と同じ物であると理解した。
「直ぐに全部隊に警戒態勢を取れと言え!!」
「どっ……どういうことですか?」
「あの空は20年前の大災厄の時に見た。……早くしないと、あの空から荒魂が降ってくるぞ!!」
そのため紗南は、20年前の大災厄の時は特務隊の隊員であり、最前線に居たことであの裂けた空がどのような意味を持つかを簡潔に述べると、自身の部下に全部隊に荒魂出現の対応を取るようにと指示を飛ばしていた。紗南の命令と内容を聞いた部下は直ぐに東京に展開している自衛隊と特別祭祀機動隊に紗南からの指令を伝えようとする。
……しかし、
「……雪?」
季節外れの雪に途惑い、足を止めてしまう。それだけでなく、黒い雪という核による影響によって生じた死の灰を連想させるものであったから、紗南の指令を受けた部下は余計に呆けてしまい、足を止めてしまった。……だが、
「何をやっている!走れ!!それが荒魂だ!!!!」
それが、彼の命取りであった。
「あっ……荒魂!!?」
死の灰を連想させる黒い雪と思い、眺めていたそれが地に落ちたときに黒い靄が上がったときには、その靄は荒魂に変わっていた。
黒い雪から生まれた荒魂は、近くに居た紗南と甲斐を見つけると珠鋼を奪った人間への怒りを思い起こし、紗南と甲斐に襲い掛かるのであった。
そのため、荒魂から紗南と甲斐を守るべく自衛隊員とSTT隊員が手にした小銃で銃撃を加える。
「……本部長等はお早く!!」
だが、御刀でしか有効打を与えられない荒魂に効果があるはずもなく、紗南と甲斐を守ろうとした自衛隊員とSTT隊員は蹂躙されるのみであった。STT隊員と自衛隊員の悲痛な声を聴いた甲斐と紗南は此処に居続けても、STT隊員等も逃げるに逃げられないと判断し、荒魂から逃れるべく彼等を置いて逃れようとするが、
紗南と甲斐はそれらから逃れようとするものの、間に合うことなく、自身の血で大地を濡らすのであった。
――――その後、裂けた空から降ってきた荒魂に本部長と陸将補が襲撃され重傷を負ったこと、東京中に大量発生した荒魂の対処を最優先にしたことから可奈美と姫和の追跡は後回しにされた。……可奈美と姫和にとって幸か不幸かは定かではないが。
次回、グレーゾーンと灰色の世界がどんどん広がる。