145話を投稿させて頂きます。次は二週間後になりそうです。
毎朝毎夕、改めては死々、常住死身に成て居る時は、武道に自由を得、一生落度なく、家職を仕課すべき也。
――――『葉隠』より抜粋。
智慧(ちえ)を磨き修行を積んで、迷いや煩悩(ぼんのう)や執着を断ち切り、悟りに到達して、いっさいの苦・束縛(そくばく)・輪廻(りんね)から解放された最高の境地をいう。
――――『涅槃』について、日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋。
優は誰であろうとも殺し、やがてはタギツヒメ達がひとりぼっちにならないようにするため、タギツヒメ達と同じ荒魂になろうとしていた。……しかし、
「ねえ、優ちゃん聞いてくれる?」
ある日のこと。
「……あんまり、人を殺しちゃうのはダメだよ。お姉ちゃん悲しむから。約束、約束だよ。」
可奈美が優に人を殺してはならないと言ってきたのである。
そのことに優は不思議であったが、やがて可奈美が強い刀使になるべく自分が斬られる荒魂であるという関係を保つことで、家族の一員にもなれると考えていた優は、可奈美の言う事を聞く弟として振る舞うことにした。
「んっ、分かった。」
……心の中で、ジョニーに人殺しをさせていた大人とか、ニキータやタギツヒメ、ミカといった子供達をいいように使っていた大人達とかは殺してはいけないのだろうか?とか、人々の安寧のために斬っている荒魂とそんな人達はどう違うのとか、そんな可奈美達は人と同じで悪い奴も良い子もいる荒魂を斬りまくっているのに何で人は殺しちゃいけないの?とか、訊きたかったことは沢山有った。
……沢山有ったが、可奈美を疑えば、可奈美が強い刀使になるべく自分が斬られる荒魂であるという関係が崩れ去り、自分が荒魂になれず、孤独になってしまうことを恐れたため、何も聞かずにそう返事をした。
だから、優はSTT隊員は手足を撃った。人々に災いを齎す荒魂なら、残酷なことするはずだと考えながら……。だが、それを行ったとき、
「おまえ、人を痛めつけてそんなに楽しいか!?おい!!」
STT隊員にそう言われるが、何を言っているのか分からなかったから、自分の首を掴むSTT隊員の指を躊躇いもなく撃てた。そうして、傷付いた部分を荒魂化させて、また一歩荒魂に近付いた。
自分が荒魂になるために必要だからこそ、自分が荒魂になるために必要で大切な可奈美の首を締めた夜見を肉の塊でしかないマイケルやシェパードを使って、夜見を気絶するまで殴打し、用が無くなったので雑に投げ捨てた。
……だが、不思議と優の中には高揚感があった。心が揺れ動いたのだ。
(……これが、楽しいってことなんだ。……そうだよね、そりゃ嬉しいよね、大切な人が喜んでくれたら。)
こうすればタギツヒメと同じように荒魂になれる。
こうすれば可奈美を強い刀使にすることができる。
こうすれば自分の世界が、自分の関係性を壊されることがないのだ。
――――良く頑張ったね。――――
――――偉いね。――――
そう可奈美が言っているようにも考えられたから、優は幸せだった。人を殺して荒魂になる理由ができた。
『荒魂化した人はもはや人ではない、』
その言葉が優は嬉しかった。荒魂になることは友達と一緒になれることだから嬉しかった。
舞草の隠れ里が襲撃された際、人であるSTT隊員をどう殺すか悩んでいた。
もし、自分が人を殺せば可奈美との関係が壊れるような気がしたから、どうやって排除すれば良いのか分からなかった。……しかし、
「“荒魂”が“人を荒魂呼ばわり”するか!」
それを聞いた瞬間、優はああ、そういう考え方があるかと姫和に感服していた。
西洋の中世ではジャンヌ・ダルクといった刀使のような聖女が魔女として扱われ火あぶりにされ、この国がキリシタンという聖職者を弾圧し処罰したように、今も続く荒魂という悪を倒す刀使を続けるように誰かを荒魂扱いして始末すれば良いのだということが分かった。
嘗て、優のクラスメートが誰かを“ウンコマン”にして、イジメの対象にして攻撃したように、悪者にしてしまえばそれで良いのだと理解した。
ボウガンの矢を受ければ荒魂化が進むから喜んだ。
奪った銃と武器で殺せば荒魂に近付けるから喜んだ。
鈍器でSTT隊員の頭を潰す、死体を銃弾の盾にしたり、STT隊員の首を踏んで骨を折るといった凶行を行えば行うほど、人々に災いを齎す荒魂になれると思った。
……優はそれ故に、襲撃してきたSTT隊員を殺し続けた。殺し続け、遂には動ける者は居なくなり、そうして優は折神家の本殿で大荒魂と対峙したときも大荒魂をも取り込もうとしたが、失敗した。
自分が大荒魂になって、可奈美が大荒魂になった自分を殺すことができれば、可奈美がいつも語っていた強い刀使になり、自分達を救ってくれると信じたからだ。
……だが、鎌倉での騒動以降の4ヶ月、可奈美は何もしてこなかった。それが不思議だった。荒魂を殺すのが刀使なのに、自分という目の前に居る荒魂を殺さないことが不思議だった。
それ故に、優は考え、考えた先に辿り着いた答えが、
①自分が斬られるに相応しい荒魂ではないからなのかもしれないという答え。
②自分を殺したくないから、強い刀使になるという打算も何も無いというありえない答え。
だった。
だが、優は、その打算も無しに行うというありえない②の答えの可能性が高いということに恐怖を抱き始めた。何故なら、そのありえない方の答えであれば、自分が友達と一緒に荒魂になれない可能性が高いからだ。
優は、それ故に鎌倉での騒動以降も殺し続けた。
STT隊員も、荒魂も、テロリストも、自衛隊の人間も、暴動に参加していた人も、……そして、ソフィアの部下の綾小路武芸学舎の刀使をも荒魂の仕業に見せかけて殺した。殺し続けた。
全ては、自身の中にある『優しさ』という欠けた部分を埋めるために、自分もみんなと同じ人々に災いを齎す『荒魂』になり、そして可奈美が殺すに相応しい『荒魂』を殺すことで強い刀使になってもらうために……三千人以上を殺したタギツヒメと並ぶ大荒魂になるために人を殺し続けた。壊し続けた。
「みんなと一緒が良いな。」
タギツヒメがひとりぼっちで悩むことが無いように殺し続けた。
……自分はこの社会から『サイコパス』という怪物の烙印を押され、排斥されたのだから何の後悔もなかった。むしろ、荒魂を殺しても無罪になるのに、人を殺したら罪に問われる世界で『サイコパス』という怪物にされたのだから、追放された方が幸せとすら思えた。
むしろ、タギツヒメやジョニー、ミカやニキータと結芽が居る荒魂の世界の方がとても澄んでいて綺麗だった。美しかった。そこにずっと居たかった。……だから荒魂を悪と決めつける社会が嫌いだった。どうすることもできなかった自分も嫌いだった。
だけど、そんな考えを可奈美や姫和が赦さないということを大荒魂を取り込んだことによって強くなった龍眼の力で段々と解かって行った。
そして、可奈美と姫和は自分を苦しめる世界から解き放ってくれる存在ではないということに気付き始めた。
だから優は、可奈美と姫和が自分を苦しめる世界から解き放ってくれる存在に変えようとした。
鎌倉での紫に取り憑いた大荒魂との決戦の際に自身の身体を荒魂に侵食させたことが可奈美と姫和に知られたとき、可奈美と姫和は泣いていた。理由が分からないが泣いていた。
そして優は、涙を流す可奈美と姫和の姿を見たとき、色んなものを犠牲にしながらも自分のために戦ってくれる可奈美と姫和の姿を龍眼を通して視ることができた。……それを見たとき、優の心に何かが芽生えていた。
「ああ、そっか。……これが『優しさ』なんだ。」
何かを捧げることが『優しさ』ということが理解できた優は、その『優しさ』を理解したいがために可奈美と姫和が自分のために尽くす姿をもっと見ることで理解したいというふうに思うようになった。
「……それと、可奈ねーちゃんと姫和おねーちゃんが荒魂との戦いで無茶して、まともに歩けないぐらいに大怪我して、僕に看病されることになったら、どう思ってくれるかな?僕を憐れむような、それでいて罪悪感に苛まれるような瞳で僕を見てくれるかな?」
それ故に、優は自ら進んで自分の身体を荒魂に侵食させた。その姿を見た可奈美と姫和が自分のために必死で戦い、そして荒魂との戦いで大怪我をし、身体が動かなくなったとしても自分が可奈美と姫和を甲斐甲斐しく世話をして、可奈美と姫和が自分を助けられなかったという後悔に涙し、悔やみ、そして自分のことを可哀想に見てくれることを想像した。
誰かのために尽くすことの意味を理解すれば『優しさ』というものが解るようになるような気がしたから、可奈美と姫和を必死に戦わせた。例え、二人が刀使ができない程の大怪我をしても、自分が甲斐甲斐しく世話をすることで『優しさ』というものが解るような気がしたから。
「……完全に荒魂になったら、可奈ねーちゃんと姫和おねーちゃんは僕に同情してくれなくなるから、今はまだ中途半端だけど、殆ど荒魂となった姿のままになっておこう。」
まるで、自傷跡を見せて同情を煽るミュンヒハウゼン症候群の人間のように、優は荒魂でも人間でもない姿のままでいることを決意した。
「……だって、可奈ねーちゃんはいつも言ってたもんね。"強い刀使"になりたいって。」
そうして自分が苦しめば苦しむほどに可奈美と姫和は自分のために今までよりも必死になって戦うということに喜んだ。
そんなことを口ずさみながら、優は可奈美と姫和との間に殺される側と殺す側という変えようのない関係性になったことに喜んでいた。
しかし、そんな喜びは束の間でしかなかった。
姫和に舌を入れる接吻を受けたからだ。……優にとってその行為は大人がするものであった。優にとってそんな行為をする大人はミカを散々苦しめていた黒い欲望を持つ悪魔のような大人がする行為であった。
そんな思いを抱く様になったのは、優がタギツヒメと融合した際に一緒に居たミカという路地裏の角で“花”を売っていた少女だった荒魂の記憶も受け継いだからである。そして、ジョニーもニキータもそんな黒い欲望を持つ悪魔のような大人の犠牲者である。姫和も可奈美もそんな黒い欲望を持つ悪魔のような大人のように思えたのである。
故に、優は理解した。……
身体に這いずり回るミミズのような舌――――。人間の言葉を喋り、人間の姿をして、欲望をぶつけてくる悪魔――――。他の子供達も同様な目に遭わされているという現実――――。
姫和がそういったことをする大人と同じように見えたのだ。……それだけでなく、可奈美も自分を恐れて会わないようにしてきていることも気付いてしまった。
……それ故に、優は可奈美が自分達を救う存在ではないことにタギツヒメ達が気付くことを恐れた。タギツヒメ達に『嘘吐き』と言われたくなかった。可奈美との関係が壊れることで、タギツヒメ達との関係も壊したくなかった。
それ故に、夜見の中に有るノロすらも吸収すべく戦った。辛くなりたくなかったから、人を痛めつけて心をやすらぎたかった。それ故に、自身の身体を更に荒魂に侵食させた。脳も捧げた。
そうして、丹沢山に現れた荒魂も夜見も取り込み、更に荒魂化を加速させた。……そうすることで夜見と結芽が仲直りした世界を見ることができた。それを見たことで、周りの“人間”という名の肉細工の塊が言う荒魂の居ない世界が清浄であり、正しいことだとは思わなかった。
……それ故に、紫に言われたことに歓喜した。
「……もし、できそうにないなら私に言え。私と共に隠世の果てに行こう。それで全てを終わらせることができる。」
自分が隠世の果てへと行けば、可奈美が自分達を救えない存在であるということをタギツヒメ達に覆い隠せることと、自分がタギツヒメ達に『嘘吐き』と言われることも無くなると歓喜した。
……そのうえ、この気分のままで隠世の果てまで行けば、ずっと隠していた昔から悩んでいた欠けた心が埋まり、満たされる様な気さえしたし、タギツヒメ達のことを穢れた存在だと罵る穢い大人が支配する世界から解放されると思った。
こんな穢い世界から一秒でも飛び出したかった。
だからこそ、優は簡単に、何の戸惑いもなく、隠世の果てへ行こうと答えることができた。
「今の優ちゃん、強い?」
だが、可奈美が優に対してそう言ったとき、歓喜した。……これは、剣術の手合わせを所望する時の声だということが分かったからである。
エレンや薫といった周りの人間は可奈美の手合わせを所望したことを咎めるが、優は分からなかった。
手合わせを受け、自分が斬り殺されることで可奈美が強い刀使になって自分達を救ってくれればそれで良いし、もし自分達を救うことができなければ可奈美を嘘吐きと言って非難すれば自分に咎は来ないのだから、受けない理由が無かった。
それ故に、優は可奈美との手合わせを受けた。
……だが、可奈美との手合わせは叶わなかった。
何故なら、荒魂の侵食に優が耐えられなくなったから点滴で栄養補給するしかないこと、歩くこともままならないこと、記憶を失ったことを、周りの反応から察することができた優は、悲しんだ……。
「…………。」
……歩くことも、荒魂になることも、可奈美に斬られる弟であることもできなくなったどころか、タギツヒメ達の記憶をも失うのではないかと恐れたのだから……。
病院のベッドで横たわるだけの日常、身体の激痛に苛まれるしかない身体。そんなことを考えながら、姫和がくれた線香花火を見て思った。自分は最後の力を振り絞るかのように一際大きな火花を散らすと、それを最後に消える線香花火のような終わり方を迎えるのではないかと……。
そう考えたとき、ある光景が目に浮かんだ。
自分が誰かに殺される前にタギツヒメを外に出せば、タギツヒメがみんなと一緒に居られる本当のネバーランドへ誘ってくれると。
その光景が見えたから、タギツヒメに自分が見た光景を話して外に出した。タギツヒメがくれた力だから信じれた……。
そう考え、タギツヒメを外に出した。……そして、維新派に捕まった。
そうして、自分が死ぬことでジョニー達も死ぬが、自分が言った『可奈美が強い刀使になったらみんな救われる。』という言葉が嘘にならなくなる。そうすることで、自分は友人のジョニー達から“嘘吐き”と言われなくなる。責められないで済む。それに、喜んだ。
「……まあ、……せいぜい……頑張ってよ。……強い者に縋った……悪者ごっこ……をさ。」
優の言葉を聞き、怒りで我を忘れたソフィアだった少女は優の首を絞め続けていた。
「早く……早く死んでよ………!!」
早く死ねと言われた優は、死について考え始めた。今まで自分が殺した者達のことを考えた。
綾小路の刀使を殺したこと国会前で暴動を起こしていた人間も殺したこと江仁屋離島での荒魂化した自衛隊員も殺したことイスラム過激派も殺したことSTT隊員も殺したこと小学校の庭で飼っていた鶏も殺したこと……そして、幼い時に蝉を殺したときのことも現在から過去の順に思い出していった。そうして、殺した蝉(せみ)が蟻(アリ)に喰われていく姿を見て理解した。
……この死んだ蝉こそが本当の『優しさ』を体現した姿なのだと。
この死んだ蝉の姿になれば、もう母と姉が望んだ姿になることを苦しむことなく、性といった黒い欲望に晒されることなく、タギツヒメみたいな大荒魂になる必要もなく、ただ大きな身体を持つ獣や小さな命の虫に自らの屍肉を捧げるかのように誰かに自分を捧げ続けるのだ。
自分という者が死んだことで、【自らの末路】という完成品を見せれば、可奈美は強い刀使になることを努力してくれるだろう。姫和は自分達のために努力してくれるだろう。タギツヒメは自分達をネバーランドへ導いてくれるだろう。……誰かに自分を捧げる。これこそが本当の『優しさ』なのだ。
そうすることで、可奈美も姫和もタギツヒメも僕達のことを忘れないのだから……。
「……ふふ……ふふふふふふ。」
そう考えるだけで、もうそろそろ命が消えるというのに笑みさえ浮かべる自分と今も生き続けなければならないソフィアと名乗る少女と比べたら自分はどれほど恵まれているのであろうか?……そんな考えが過ったがために、優は何かが充たされるような気がした。
「クソ、クソ、クソ!!何が可笑しい!!!!」
怒り狂った少女の手は、優の首を更に力を籠めて締め続けていた。
「……だって、……人を殺すぐらい……誰でも……できるよね?……そんなことぐらいで……最強の荒魂になれると思ってるのが……滑稽過ぎてさ……笑っちゃうよ。」
優は戦いを神聖視し縋る少女に対して皮肉気に言うと、少女は憧れた存在に自分の全てを否定されたことに裏切られたと感じ、この子は、人を殺すことにも戦うことにも何の感情も抱かないのだとやっと気づいた。人が何人死のうがどうでもいいのだ。
戦いを神聖視することでソフィアになることができる少女はその事実に激怒し、何事も力で捻じ伏せることで自分と"同類"だと思い憧れていた優の言葉を今は力で遮ろうと、更に自身の手の力を籠めて、優の首を締め続ける。
それだけでなく、タキリヒメを殺すのではなく、優を殺せばよかったのでは?という自身の中に芽生え始めた迷いを断ち切るかのように少女は優の首を更に強く締める。
「うるさい……うるさいうるさい黙れぇっ!!!!」
そうして、遂には優の首が折れたと同時に優の口と身体は動かなくなり、憎かった存在の頬に水滴がぽたりと落ちていた。
その頬に付いた水が自分の目から落ちたものだと気付くと少女は、覚悟を決めなくてはならなかった。
「……それでも、狼の時代を……獣の世界を築いてみせる。」
少女ではなく、"ソフィア"として在り続けることを…………。
そして優とソフィアが居た場所に残ったのは、
最初は欠けた心を埋めるべく現世に彷徨い続けたが、自らの死を以って全てが充たされたまま逝った9歳の幼子。
最初は復讐を清算すべく現世に彷徨い続けたが、尚も自らの理想を打ち立てるために現世を彷徨い続ける少女。
生者が苦しみ、死者が祝福される世界だけであった……。
――――ずっと、辛かった。
僕が『サイコパス』と言われ、化け物のように見られたことが、それをずっと隠し続けていたことも。でも、そうしなければ僕のことを誰も相手にしてくれないから……隠し続けた。
だって、そうしないと自分の立ち位置が無いから、誰にも打ち明けることなんて出来なかった。
「それに、お医者さんが言っていたでしょ?大きくなったら身体が強くなれるから、強くなったら剣術を一緒に頑張ろう?ね?」
それだけでなく、いつも可奈美が言っていた言葉も重荷だった……。自分だけ親から受け継いだ剣術を自慢することが不快だったから。
父の言葉も煩わしかった。何が問題なのか分からなかったから。
「……あのね、僕の名前は衛藤 優っていうの。優しい子になって欲しいから『優』っていう名前にしたって可奈ねーちゃんから聞いたの。」
母の言葉も煩わしかった。
……僕はどう足掻いても衛藤家という剣術一家の一員にはなれない。
何故なら『優しさ』が分からなかったから、『剣を通しての会話』も分からなかったから、僕にとって可奈ねーちゃんが言う剣は人間という名前を付けられた肉細工を斬るための道具としか思えなかったから。
なのに、父と母と可奈ねーちゃんは努力すれば治るという言葉だけしか与えてくれなかった。それどころか、剣術に興味など無い僕にいつも剣術を押し付けていた。
だから、僕はこの刀使ばかり優遇する世界でひとりぼっちだと思った。自分のことを理解してくれる人は居ないと半ば諦めかけていた。
……けど、何処か心が欠けていたヒメちゃんに出会って、それだけじゃなくジョニーくんやミカさん、ニキータちゃんというヒメちゃんみたいな荒魂になろうとする人達が居た。そのヒメちゃん達の姿を見た時、僕は初めて思った。
この世界こそが唯一で全てだと。僕みたいな心が欠けた人が居られる場所なんだと。
だから僕は、刀使が崇高でヒメちゃんや僕達を怪物扱いして、爪弾きにするこの世界が嫌いだった。荒魂や怪物と呼ばれるヒメちゃん達が穏やかに過ごせるネバーランドみたいな世界でみんなと一緒に過ごしたかった。……けれど、この広いようで狭い世界にそんな場所などなかった。
……それだけじゃなく、可奈ねーちゃんも姫和おねーちゃんも僕が追い求めていた物を否定する存在であり、ヒメちゃんも心が欠けている僕と違って段々と心が充たされていった。……それが辛かった。また、ひとりぼっちになるような気がしたから、だから僕は決意した。
死は救済だということ、それは自分もそうなのだと……。
「……だから、死んだ先で待ってるね。」
こうして、僕達は死んだ先の世界で心が欠けた荒魂でもみんなが一緒に穏やかで過ごせる世界へと旅立った。
こうすれば、誰も僕達を穢すこともできない。誰も僕達が願った『荒魂になる。』という想いを壊されることも壊すこともできない。ジョニーくん達と永遠に別れることも友達という関係性も無くなることも変わることもない。
それは、きっと刀使の可奈ねーちゃんですら手に入らない物。それを僕だけが手に入れられる僕だけの物。
それが、それこそが、
こうして、優くんは欠けた心が埋まり、壊すことも壊れることもない不変なる物を手に入れ、可奈美が手に入れられない『荒魂になる。』という関係を抱いたまま、全てが充たされたまま死にました。
それが、
アンケート終了結果
優くんはサイコパス?
サイコパス1 / 50%
違う1 / 50%