150話を投稿させて頂きます。
マタイによる福音書13章 24設~26節
24 イエスは、別のたとえを持ち出して言われた。
「天の国は次のようにたとえられる。ある人が良い種を畑に蒔いた。
25 人々が眠っている間に、敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。
26 目が出て、実って見ると、毒麦も現れた。
私がこの国に来て、この国に対して、不思議な思いを抱くことがあった。
何故、荒魂が居る世界にて、皆がそれに応じた武装しないのかということだ。
平和は剣によってのみ守られた。
命は弱さを許してくれなかった。
自己をあらゆる武器で守ろうとしない制度は、事実上自己を放棄しているようなものだった。
……春を売るか強盗するしか生きられなかったストリートチルドレンだった私にとって、武装することは己を守ることだった。他人を殺して奪うのは当然のことだった。そうじゃなければ、いや、それを否定してしまえば獣の表情で私を守ってくれたソフィアが人間じゃなくなるから。
……だから、私は己の身を守ることをしない人達が不思議でしかなかった。ただ、生まれたから生きている。ただ、怠惰な平和を貪ることが権利と言わんばかりに生きている。そんな物は家畜……いや、ただ捕食されるだけの羊の考えでしかなかった。
だから、私は私の中に居る唯一人間だと認められる"ソフィア"を、私が信じたソフィアという暴力をまぬけ面で否定してくる平和だとかを宣う生物が嫌いだった。
私達を消費という暴力で贄にして見ることもなく、貪り続けるこの社会の象徴である鉄の塔が乱立するこの社会が嫌いだった。そこに住む人間も嫌いだった。壊したかった。全部……全て壊したかった。
私達を見降ろす"ビル"という名の鉄の塔が壊れるさまを、人々が苦しむ様を見たかった。
獣の表情になった姉のソフィア、私が強盗で殺した時に私を見るソフィアの顔、博物館で見た『皇女ソフィア』の憤怒の姿、だから私はこの感情と表現を"ソフィア"とも名付けた。
……この社会は際限の無い"怒り"で満たされ、何れ"私達の怒り"に怯え苦しむことになるだろう。私が育てた死の崇拝、テロリスト、無敵の人と名付けられた荒魂がこの世を席巻するだろう。
ここが聖書通りの天の国だとたとえるなら、……そう、人々が眠っている間に敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行き、毒麦という芽が実る。
私はその言葉通りに隠世の門を開いて、荒魂という毒麦を蒔いて、敵意という芽を"ソフィア"という感情を実らせた。
そして、毒麦を撒いた敵は悪魔、刈り入れは世の終わりを告げ、刈り入れる者は天使である。……そのように、何れは悪魔という毒麦は天使によって毒麦を集めるように刈り入れられ、集められた毒麦は燃え盛る炉によって、その火に焼かれることで、この世の終わりが告げられるのだ。
だが、悪魔は火にくべられて終わることはない。何故なら、それを見た者の中には泣きわめいて歯ぎしりする者が居るのだから。そうして、その感情から、過去の悪魔よりも強く新しい"ソフィア"が生まれる。それと同じ事が何度も何度も繰り返すのだ。
異常の定義が何度も繰り返すことであるのと同じであるように。
そうして私は、彼女達の……過去の悪魔の礎の一つとなり、新しくより強い悪魔の"ソフィア"の糧となるのだ。
そう思い、彼を見た。……何の抵抗も無く、笑って人の半殺しにする幼子、優という私以上の悪魔に、私の糧となるに相応しい者に、あの子こそが…いや、あの子のようになりたかった。そうすれば、そうすることで"ソフィア"は私以上となれる。
……だけど、彼は友愛を是とする者であった。私の望む悪魔でもなければ、私を見下ろし続ける鉄の塔を壊してくれる破壊の申し子でもなかった――――。
……私は、眠っていたのだろうか。
いや、眠っていた。戦争を望む私が……眠っているときに毒麦を蒔かれたらどうする。いや、その方が良いのだった。
何故なら、私は戦争を、天使が毒麦を刈り入れる時を望んだのだ。ならば、目覚めたときにそうなっていることを望むべきではないだろうか?そう自分に問答していた。
……だが、私が眠っている間に私は敵に殺され、イチキシマヒメが討伐されたら、それはそれで喜ばしくない展開だ。
もう少し、見ていたいのだ。……私が嫌った鉄の塔。ストリートチルドレンだった私達を下にして築かれた鉄の塔のようなビルは、あんな醜い建物は焼かれて、原型を留めぬほどに壊れ去ってしまう姿となった方が心地よいのだ。
鉄骨が顕となったビルと血と業火によって彩られた大地と“平和”という私達を消費の暴力の下へと晒した声が怨嗟の声に晒される様を見たいのだ。
この世が、地球が原作品であるならば、その平和に毒された大地の上を汚す私自身の二次創作ような物で彩らせる。そうして、怒りを憎悪を復讐をソフィアという形で表現することで、この耳障りで不快な社会に私達は打ち勝つのだ。
……だが、私が毒麦を蒔いた結果だろうか?毒麦を刈り入れ、毒麦を炉に入れ込もうとする天使が現れたため、私は座っていた椅子から立ち上がった。
「……誰かと思えば、貴女でしたか?」
確か、天使の名は、衛藤 可奈美だったろうか?多分、そんな名前だと思う。
そんなことを考えていたとき、可奈美という者は私に銃を向けた。
……だが、身体を横にして、右手だけで拳銃のグリップを持つだけでなく、身体の中心に銃の標準が合っていないという一目で狙って撃つということからかけ離れているとしか思えない構え方からして、私にそうそう当たるような物ではないと直ぐ様に理解し、私は堂々と構えていた。
何故、そのようなことだけで判断したのかと言うと、銃という物は意外とデリケートな物で銃口が狙いより3ミリ少しズレるだけで10センチもズレる代物である。それ故に、身体の中心に銃の標準が合っていない構え方からして当たらないと踏んだのである。……だが、運悪く当たることがあるだろうが、一発当たったところで荒魂を体内に入れている私にとってみれば、何の支障も無い。
それ故に、私は可奈美という者が私に発砲するのを待っていた。……すると、爆ぜる音が聴こえたが、案の定に可奈美の放った弾丸は私の後ろの壁に風穴を開けるだけだった。
「…何で!!?」
それだけでなく、可奈美という奴は当たらなかったことに驚いたことで、彼女は銃という物は引き金を引けば当たる物となっていると思っている節があるのだろう。
……そう思い込んでしまった理由は、優という子供を見てそう思い込んでしまったのだろうか?
残念だが、引き金を引いただけでハリウッド映画の主人公のように簡単に当たる物であれば、世界の兵隊が素人を一人前にすべく3カ月もの期間を要する訳が無い。優という子供が銃を撃って外すことなく当てられたのは、タギツヒメの龍眼で弾道と敵の進路を予測して撃っているからこそ当てられた。ただ、それだけに過ぎない。
……無論、そういう私も、この情報は優を処分したいCIA側から齎された情報のため、当たっているとは思うが、私と優の共倒れを狙って重要な情報を伏せている可能性も有るために正確かどうかは分からない。
とはいえ、可奈美という者が、先程の声で銃を撃ったどころか、使い慣れていないということが分かった。
なら、やりようはある。そう即座に判断した私は、可奈美が少し前に右足を出しているという姿勢から、私から見て左に動き……いや、そういえば、右足が利き足の者は右利きであり、右利きの者は利き目が右という可能性が高く、利き目が右な者は左から流れて来る物よりも右から流れて来る物の方が素早く見ることができることを思い出し、それを実行しようと考えていた――――。
……姫和ちゃんを気絶させた私は、そのまま上へと目指して行った。上を目指しながら、姫和ちゃんを気絶させたときのことを思い出していた――――。
「あああぁぁぁ、うぅぅあああぁぁぁっ!!!!」
叫ぶ、叫んで、獣のように姫和ちゃんは叫んで、私に斬り掛かった。
……でも、これは私が追い詰めて、追い詰めて冥加刀使にした結果なんだと思うと、何も言えなかった。非難することもできなかった。
「ああぁぁ……あああユウ優ゆうユウ優!!!!」
写シを張っていなかったから、斬ることもできなかった。
……これが、私の罪なのかな?これが、私が姫和ちゃんに行ってきたことへの報いなのかな?
「ユウ優ゆうユウ優ユウ優ゆうユウ優ユウ優ゆうユウ優っ!!!!」
斬られても仕方がないことをしたと思っている。だからなのか、私は写シを一度、姫和ちゃんに斬られるのを我慢する。姫和ちゃんの罪悪感からなのか集中が途切れて、張り直した写シをもう一度斬られてしまう。それでも私は、何度斬られても私は、姫和ちゃんに対する罪悪感が一杯で斬り掛かることすら出来なかった。
『私、思ったんです。……こんな刀なんか振り回していても意味が無いって、そう思ったときに、刀を捨てた先にも道が有るんじゃないかって考え始めたとき、その道の先に有る物こそが優ちゃんやタギツヒメ達が本当に望んでいた物なんじゃないかって思えたんです。』
……それでも、
『……泣かないで……涙は……あの子達に取って置いて………それが……私の……贖罪になるから。……だから……あの子の下へ行って……歩いて……上げて。』
それでも、私はっ!!
もう一度、写シを張り替えて、
「ユウ優ゆうユウ優が一杯居るっ……《/xbig》優ゆうユウ優が一杯居るっ!!!」
私は姫和ちゃんの鴫の羽返しのように両手を広げて、もう一度姫和ちゃんの御刀を受ける。
「……うぐぅっ!!」
姫和ちゃんの一撃を受けた私は、その痛みに顔をしかめ、気を失いそうになる。だけど、姫和ちゃんが御刀を振り下ろした体勢になる。それが、私の狙いだった。
私はそのまま御刀の千鳥から手を離すと、姫和ちゃんの御刀である小烏丸の柄に右手で掴む。そうして、時計回りに回すと、姫和ちゃんの手から小烏丸を奪い取って、投げ捨てた。
「う?……可奈美?」
そうして、小烏丸が手許から離れたことに驚いた姫和ちゃんの顎を左手の掌底で打ち抜く。
握り拳で殴ってしまえば、この先の戦い、イチキシマヒメとの戦いにおいて指を痛めて御刀が上手く握れないということになるから、手の一番硬い部分である掌底で打ち抜いた。
そうして、姫和ちゃんを気絶させると、私は、
「……ゴメン、姫和ちゃん。」
私は、イチキシマヒメを斬るために進まなければならないんだ!!
そう思って、私は……、
『……だから私は、友達の理想のために、私は行くよ。……イチキシマヒメの所へ。』
私は重荷を背負うと言った姫和ちゃんを、自分の浅はかな考えの下に冥加刀使にして苦しめた姫和ちゃんを置いて先に進んだ。
歩ちゃんに言った言葉を思い出して、それで必死に罪悪感を誤魔化して。
『可奈美は優しいね。優しいし友達思いだけど冷たくて自分本位。』
どこまで行っても冷たくて自分本位な自分。相手の事情も考慮せずに剣術で理解し合えるという考えを押し付ける勘違いした人間。……そんな私に、友愛を述べる口なんて、友情を語る資格なんて無かった!!
『衛藤隊員!心拍数と血圧が急上昇しているわ!返事をして!!……一体何が有ったの!!?』
そんなことを考えているとき、霞さんの声が聞こえる。……だから、私は、
「……大丈夫です。ここからは私が一人で!!」
データリンクを切った。……そうして、私は、私は一人になった。
一人になった私は階段を上り、ある人に出会う。……その人は、
「……誰かと思えば、貴女でしたか?」
優ちゃんを殺したソフィアだった。その姿を見たとき、私は銃を構える。
だけど、それを見たソフィアは何でも無いかのように堂々としていることに腹が立ったから私は、
パン――――。
引き金を引いた。
爆ぜる音と共に、手に衝撃を感じたけど、私は自分の頭の中だけで想像したソフィアが私の銃弾に当たって後ろに吹き飛ぶ様を、映画やマンガのように敵が銃弾に当たったときのリアクションを想像しながら引き金を引いていた。……だけど、
「…何で!!?」
私が想像していたのとは違って、弾は明後日の方向へ飛んでいた。何故、それが分かったのかと言うと、私の目が着弾点を捉えたから。
でも、それにソフィアも気付いたのか、私が外した瞬間に私から見て右に動いていた。
「…くっ!?」
だからこそ私は、ソフィアに銃口を合わせるべく左に動かそうとするけど、身体ごと動かさないとならなかったために、右に動いたソフィアに銃口を向けるのが遅れてしまう。
それだけでなく、ソフィアは右から投げナイフを投げてくる。
「うわっ!?」
そのため、拳銃しか持っていない私は慌てて身体を捻って躱すけど、その隙に御刀を手に持つソフィアの接近を許してしまう。そうして、私は御刀で斬られる前に拳銃を手放して、急いで御刀を抜いてソフィアの御刀による斬撃を御刀でどうにか防いだ。
……間一髪だった。もしも、私が携えている御刀が抜くのに時間の掛からない刀身の短い千鳥でなかったら、刀身が長く抜くのに手間取る他の御刀を所持することになっていたら、私はソフィアに一度写シを斬られ、不利な状況で戦わされたかもしれない。
「……なかなか、しぶとい。」
ソフィアはそう言うと、私から距離を取って構え直していた。そうして、私が投げ捨てた拳銃を見ると、ソフィアは私に向かって話しかけてきた。
「ふふふ……ハハハハハ、遂に紛い物の神で出来た刀と剣術を捨てて、本当の"殺意"を手にしてくれましたか。それで、私の期待通りの獣になっているのですか?」
「……そう?でも、私は貴女のことなんかこれっぽっちも期待してないけど!?」
だから、私は返事をした。……お前のことなんかどうでもいいって。
「つまらないことを言うな。……お前も冥加刀使になってるだろう?」
「ふーん。何でも分かったつもりでいる気なんだ。……でも、最近分かってきたことがあるよ?……最初見た時の貴女は何処か子供っぽいって思ってたんだけど、でも今はそれがよく分かるよ。ただ、単純に自分がこの世で一番の悲劇のヒロインだと思っているんでしょ?」
だから、私は彼女を否定した。……お前は子供だと。
「それで、一番不幸な自分に気付いて貰いたくって、癇癪を起こして暴れているんでしょう?構ってもらいたくて、暴れるなんて子供のやることだよ?分かってる?」
だから、私は彼女を侮辱した。……まるで子供だと。
「私が癇癪を起こして暴れているだと?それは私だけのことですか?」
だけど、彼女は私にこう返してきた。……癇癪を起こして暴れる者は私だけかと。
「……ならば、この社会に"怒り"を感じない者など、何処に居ます?……復讐に駆られた者、横須賀湾での舞草と変革派の争い、国会前で暴れた人達、そして舞草での貴女達が行ったこと、貴女なら気付いているんじゃないんですか?」
だけど、彼女は私にこう返してきた。……"怒り"という感情に従うのは、誰なのかと。
「最早、平和など過去の遺物へと変わりつつあることを、これからは私が求めた"獣"や"狼"となった獰猛な戦士が必要となる時代が訪れることを貴女は理解しているハズだ。人間も荒魂と同様に互いに殺し合い、そして荒魂と同様に心の中に空いた部分から生まれた孤独と飢えに抗うことが出来ずに怒り出して他人を躊躇することなく傷付けることを。」
だけど、彼女は私にこう返してきた。……平和の時代は終わり、戦乱の時代が訪れるであろうことを。
「復讐に燃える刀使、テロリスト、無敵の人、私のような獣。……いいか、世の中の人間、いや、この社会は、この現世(うつしよ)と言われる世界はな、誰かに蹴落とされたり、誰かに大切な物や者を奪われたりした喪失感から来る"怒り"で満ち溢れてた人間だらけなんだよ!つまり、人間はもう喪失感から来る怒りで異形の姿となった荒魂なんだよ!!だから、私は本音は誰もが待ち望んでいる"獣の世界"を創ってやるんだ!!そうすりゃ、私を助けるために獣となったソフィアに何時でも会えるんだからなァ!!」
そして、彼女は感情的になったのか、私にこう告げて来た。
人間は…いや、この世に生きる者は全て荒魂なのだと。
そうして、私に斬り掛かったソフィアは御刀を前にして突っ込んで来た。だから、私は鍔迫り合いに持ち込んで、私の千鳥の鍔でソフィアが持つ御刀の鍔を持ち上げるように弾いて、胴に一本と考えるが、
「…え?」
その考えは読まれていたのかは分からないけど、ソフィアは自身が持っている御刀を私に向けて投げた。
「な!?」
それに虚を突かれた私は、ソフィアが投げたことで回りながら迫って来る御刀を私は御刀で防ぐけど、その隙にソフィアの接近を許してしまって、私の御刀である千鳥の刀身を彼女は掴む。……そうして、ソフィアは掴んだ私の御刀をぐいっと後ろに引っ張ると同時に私の鳩尾に肘打ちをする。
「ゲホッ!?」
……ソフィアの強烈な肘打ちを受けた私は、私が最も信頼する武器である御刀千鳥を手放すことになってしまった。刀使の最大の武器である御刀を捨てさせる。……いや、これは私が持つ最大の武器は剣術であり、そしてそれに適した武器は御刀であると想定した行動なのだと理解してしまった。
「くぅっ…!」
けど、写シのお陰で気を失うことは無かったために、直ぐに体勢を整えることができた。
「これで、貴女は剣術が使えない。」
勝利を確信したのかは分からないけど、私に対して笑みを浮かべたソフィアは掴んだ千鳥を放り投げた後にコートを脱いで、私服で身を包んでS装備を見に纏う歪な私とは対照的に綾小路の制服を見せながら自慢げに両刃のナイフを出して来た。
……けれど、
「……。」
私も、折り畳み式の片刃のナイフを用意していた。……神性なる御刀でも何でもない、ただの冷たい殺意の念が籠った片刃のナイフ。
「ほう、まだ殺意を隠していましたか。……だが、そのナイフと同様、貴女もそうでしょう?」
私のナイフを見て、ソフィアは私のことをお前も私と同じ"存在"なのだろう?と説いて来た。……その、何もかも分かったかのような不敵染みた笑みが苛つくが、私は気にせず、ナイフを構え続けた。
「誰も貴女の怒りを理解しなかった。……だから貴女は親から受け継いだ物も友情にも背を向けて、たった一つの居場所さえもかなぐり捨てた。……そんな貴女が、私の"怒り"を否定できるのですか?むしろ、理解できるハズでしょう?」
そう言って、ソフィアは右に持っているナイフで私に斬り掛かって来た。
それを私は横に少しずらすように躱すと、カウンター狙いでソフィアの左肩を刺そうとする。けど、ソフィアは空いている左手で私のナイフの刃先を掴み、そして下に流すと、次にソフィアの左手は私の二の腕を掴んで体重を加えて下で抑えつけるように振り上げられない様にしていた。……その一連の流れを見た私は、やっとソフィアが防刃グローブを着用しているのだと気付く。そうして、ソフィアはナイフを私に向けて振り下ろそうとするけど、私はソフィアのナイフがこちらに到達する前にナイフを持つ方の右の手首を掴んで、私に斬り掛かろうとしていた動きを制止させていた。
……そうして、私とソフィアは互いにナイフを持つ方の腕を抑えられながら、膠着状態へと入って行った。
(……ぐぐっ!何…この馬鹿力……!?)
そのため、私はS装備と自身の中に在る荒魂の力で力任せで外そうとするが、腕を下にして抑えつけているために体重が加わっているせいもあってか、ビクともしなかった。……S装備と荒魂の力を使っているにも関わらずだ。つまり、ソフィア……彼女は、かなりの量の荒魂を注入して強化しているということになることが今にして分かった。
「だが、そんな貴女でも私は評価している部分はあります。……荒魂のように内に抱えている"怒り"と"孤独"を武器にして暴れる様をっ!!」
そうして、ソフィアの頭突きを顔に受けた私は鼻の穴から血が流れる程の打撃を受け、怯むものの、首筋を狙おうとするソフィアのナイフが見えたために、一旦は後ろに飛び下がって形勢を立て直そうとしていた。
だけど、後ろに飛び下がったことを確認したソフィアは追撃に出るべく私に迫って来た。今の私は御刀も無いから、剣術が使えない……。だけど、
「ふっ!」
私は、右の刺してくるナイフを右半身にずらして躱しながら、相手の懐に潜りこむと下から左手でソフィアの二の腕辺りを掴むと、そのまま右のナイフでソフィアの腕を切っていた。
私がソフィアの二の腕を掴んで切りつけたことで右手に持つナイフを警戒しているであろうことは理解していたので、ソフィアにそのまま右のナイフで流れるように身体を切ろうとするのは悪手であると私は判断すると、そのまま右足でソフィアの右膝側面を引っ掛けるようにして蹴ってバランスを崩すと同時に足に意識が行くように誘導しつつ、身体のバネを利用する形で立ち上がると同時に空いた右手のナイフのグリップ底部でソフィアの顎を殴打した後、左手で掴んだ手をソフィアの腕の裾を引っ張ることに変えつつ、ソフィアの右膝を強く引っ掛けてバランスを更に崩して転ばせていた。
そのことにソフィアは驚愕の表情を浮かべるけど、私は柳生新陰流を学ぶときに柔術も少し学んでいた。理由としては私が学ぶ柳生新陰流自体が『無刀取り』といった柔術の体捌き等を取り入れているために覚えていたというのが理由だった。
「ぐっ!」
そうして、転ばせたソフィアの顔を足で蹴ろうとするけど、足蹴を脇腹に受けてしまったため、私は追撃することが出来ずにソフィアと距離を取ってしまった。
そして、私が距離を取ってしまったことでソフィアは悠々と立ち上がることができ、私は追撃のチャンスを失う。
「……仕切り直しですね。」
そう言われた私は鼻血を袖で拭いながら、脇腹がズキズキと痛む感触を感じていた。……だけど、私はソフィアの腕をナイフで切ったこと、ソフィアの顎に一発入れたことを思い出し、自分の体術とナイフが全く通じない訳では無いということを理解した。
だけど、ガッシャーンと窓が割れる音がして、その音に反応して振り向くとタギツヒメが居たことに気付いた。
マタイの福音書13章 38節~40節
38 畑は世界、良い種は御国の子ら、毒麦は悪い者の子らである。
39 毒麦を蒔いた敵は悪魔、刈り入れは世の終わりのことで、刈り入れる者は天使たちである。
40 だから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終わりにもそうなるのだ。
一旦、タギツヒメが出て来たところで区切ります。