【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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14話を投稿させていただきます。
夜見ちゃん頑張れ、後方支援として見れば物凄い優秀。



遠すぎた石廊崎

「畜生、パッパか撃ちまくりやがる。」

一人のSTT隊員は、撃っては移動を繰り返し、場所を特定されないようにしていたトーマス達の、敵の姿の見えない銃撃に愚痴りながらも応戦していた。すると、テントを御刀で斬って、テントの裏から真希が現れる。

「今、どんな状況だ?」

真希は軽く止血をしてもらったあと、戦線を復帰し、状況をSTT隊員から聞いていた。

「ハッ、現在正体不明の刀使4名の襲撃に寿々花隊員らが交戦中です。」

「……寿々花達は?」

「善戦しているようです。」

「善戦?……鎌府の子は?」

「ソフィア隊員と静隊員が交戦、善戦しています。」

真希は妙な話だと思った。昨夜は寿々花と二人掛かりで争い優は善戦していたのに、何故あの二人には苦戦するのか、疑問に思いソフィア達の戦いを観察することにした。

「……?」

妙だった……。

優の動きに先を読むかのような行動をしていないのである。つまり、相手が強過ぎるのではなく、状況が違っているからこそ苦戦しているのでは無いのかと思い、仮説を立ててみた。

「……もしかして、集団戦闘を知らないのか?」

真希は、優が多対多の戦闘の経験を知らないから、苦戦しているのではないのか?そう仮説を立てていた。そして、真希はこのあと確信する。

(……大村 静ですら一太刀浴びせている。やはり、そうに違いない。)

刀使としての実力は平凡である静でも、優を後ろから一太刀浴びせていたため、真希は間違いないと思い(気付いていないが、人を殺してはいけないという約束をしていることも要因の一つだが。)、腹の負傷をおして寿々花達のところへ向かおうとするが、一人のSTT隊員が倒れているのに気が付く。

「……あの隊員は?」

「彼は鎌府の子に憤りを感じたのか、一人で突出して行って、ものの見事に返り討ちになりました。……ですので、お気になさらず。」

STT隊員は、あの隊員を見捨てて先に寿々花達の救援に向かって欲しいと真希に伝える。

「まだ生きているか?」

「恐らくは。」

「分かった、少し待っててくれ。」

真希はそれだけ言うと、写シを張り、銃弾に臆することなく倒れているSTT隊員の救出に向かった。

そして、銃弾の雨を何事も無く進み、そのまま銃に狙われないように八幡力による跳躍でテントの裏に戻り、STT隊員を置いていく。

「頼む。」

「りっ…了解。」

周りのSTT隊員は皆、驚嘆していた。腹に銃弾を3発受けているにも関わらず、銃弾の雨に怯まず、一人のSTT隊員のために救出する彼女のタフさに。

「……すまない、少し89式を借してくれ。」

「はっ?……ハッ、どうぞ!」

真希は一人のSTT隊員に89式を貸して欲しいと言うと、その隊員は先程の行動もあってか、理由も聞かずに真希に自分が使っている89式を渡す。

89式を借りた真希は、先程の八幡力の跳躍により何か上空を飛んでいるのがたまたま見えたので、銃口を空へ向けると3点バーストで発射し、300m上空に居たドローンに3発とも当て、撃ち落としていた。

「……すげえ、刀使って剣意外も扱いこなすんだな。」

「あんな高い所を良く当てれるな。」

これには、STT隊員も賞賛の声を上げるしかなかった。そして、真希も、

(……当たって良かった。)

と思っていた。何事も無く当てることが出来て真希はホッとしていた。外しでもすれば、寿々花に何て言われる分からない。

「…ありがとう、君の手入れが行き届いている銃にみんな助けられた。」

そう言って、真希は89式を元の所有者に返す。

「ハッ!光栄です。」

だが、これで、此方の士気は上がるだろう。STT隊員の顔を見ると、活気に満ちていた。確実に此方に流れは傾いている、そう実感している真希だった。

「すまないが、僕は寿々花の所へ行く。」

「分かりました。……指揮官殿が敵に目に物見せてくれたぞ!俺達は撃ってくる奴等を全力で抑えるぞ!!」

皆、STT隊員の班長の言葉に大きな声で「了解!」と答えていた。そして、真希はその声を背に受けながら、可奈美達の方へ向かって行った。

 

 

 

 

そして、トーマスはドローンを操縦していた2名のスナイパーチームの驚愕した声を無線機越しに聞いていた。

『〈ウッソだろっ!ドローンを撃ち落としやがった!〉』

「〈何か有ったのか?〉」

『〈トーマス、ドローンが撃ち落とされた!〉』

トーマスは旗色がだんだんと悪くなっているのが、感じられた。刀使達は苦戦中、自分達もドローンの援護で敵の位置が分かり有利だったが、その支援すら無い。

「〈……スナイパーチームはスナイパースコープと双眼鏡で敵の位置を教えてくれ。〉」

『〈…了解。〉』

ドローンが墜落したことにより、此方の士気は下がり、敵の士気は大いに上がっていることだろう。確実に追い詰められているのは間違い無いとトーマスとロークは思っていた。しかし、可奈美達を置いて逃げることは出来なかった。そのため、トーマス達は可奈美達はSTT隊員に切っ先を向ける事はかなり難しいだろうと思い、なんとか可奈美達に行かせないように足止めするだけしか出来なかった。

「〈改めて見ると刀使って、すげぇな、トーマス。〉」

「〈…無駄口喋っている暇はそのうち無くなるぞ。〉」

マイケルが軽口を言うが、雰囲気を変えたいのと、緊張感を和らげようとしていること、そして自分の気持ちを切り替えたいのだろうとロークは思い、特に否定もせず軽口で返していた。

 

 

 

 

 

一方、優はソフィアと静の二人がかりを相手にしながら、可奈美達に向かわないようSTT隊員の動きにも注意を向けていた。

「……君、何人倒した?」

ソフィアは何となく優に訊いてみた。

「?」

「STT隊員……鎧を着込んだあの人達を何人倒した?」

「……知らない。」

優はそっけなく答える。

(…良い子だ、とても良い子だ。他人の生死に全く興味が無いのか。)

その返答にソフィアは喜んでいた。

(…何か気持ち悪いなぁ、この人。ニタニタしてるし。…むーっ、殺しちゃダメだったな。)

しかし、優はソフィアのことを気味悪がっていた。早めに消しておきたいが、それだと可奈美との約束を反故してしまうため、悩んでいた。

(どうしよっかな、手足を撃ち抜ければ良いんだけど。)

写シを張っているため、それも無理だろうと思いどうすべきか悩んでいた。

一方、薫の方も危機が訪れていた。

「待たせた。」

真希が薫の方へ向かって行ったのだ。

「……うわぁ。」

正直、勝てる気がしなかった。薫はこのときそう思った。

「……夜見、鎌府の制服の子を頼む。寿々花とソフィアは交代して、寿々花は静と夜見の両名を指揮しながら鎌府の子を確保。ソフィアはフードを被っている謎の刀使二名と応戦。僕はこいつを相手にする。」

夜見、寿々花、静の三名掛かりで優を倒し、ソフィアは可奈美、消耗している姫和の両名を相手取り、真希は薫の相手をするというふうに指示を出し、皆従っていた(ソフィアだけは不満気だったが。)。

そのため、寿々花と夜見、ソフィアの三名は迅移で移動し、今までとは違う者と対峙していた。

「そういう訳だ、貴様はどんな技を見せてくれる?」

ソフィアはニヤニヤと笑みを浮かべながら、可奈美と姫和の二人を相手にしていた。

「可奈美、相手は一人だ、一気に畳み掛けるぞ。」

「分かった。」

「……来い、刀使。」

ソフィアは“侮蔑”の意味を込めて、可奈美達に返した。そして、

「…!写シを解除した?」

刀使の基本戦術の写シを解除した事に、可奈美は驚愕するが、姫和は挑発しているように思えた。

「……貴様、舐めているのか!?」

姫和は激昂した。写シが無くても勝てるとでも言っているように見えたからだ。

「…すまんが、刀使が相手だと、こういった戦い方が一番好きなだけだ。そもそも、写シを使ったのは銃弾に当たって早々に退場するのが嫌だっただけのこと…。」

「そう言うことだろう!……まあ良い、すぐに片付けてやる!!」

姫和は峰打ちで相手を気絶させようとしたが、容易く弾かれ、柄頭による殴打の反撃を可奈美が割り込んで横薙ぎに斬って牽制し、姫和を守り、一旦ソフィアから距離を取る。

「大丈夫?」

「すまない、可奈美。」

可奈美は相手に峰の方を向けていた。

「……チッ、殺さずか。…羊め。」

ソフィアは心底不服そうな声を出していた。自分の理想とする世の中に、刀使も被食者も必要無いからだ。だから、不満そうであった。

そして、薫は真希と一対一で戦っていたが、既に薫は一回写シを剥がされていた。

「……やっぱ、強えぇな親衛隊は。」

「二度目か、あと何度張れるんだ?それで最後か?」

(…たく、柄じゃねぇけど……。)

エレンを助けられなかったこと、親衛隊が相手とはいえ無様に負けていること、可奈美達に流石に頼り過ぎていること、それらを思うと、薫は奮起し二度目の写シを張っていた。

「……ねね、やるぞ。」

「何か知らんが、終わらせる。」

真希は何かしてくると思い、警戒しながら、止めを刺すべくゆっくり近付いてくる。

「ふんぬぅ!!」

が、薫が横へ大きく振りかぶると、

「やられっぱなしは、癪なんだよおおおおお!!」

御刀祢々切丸をブン投げた。

「やけくそにでもなったのか?」

だが、真希は難なくしゃがんで躱すが、

「ねー!」

「なっ?」

ねねが祢々切丸を掴んだ反動を利用して、真希に切り掛かっていた。その背後からの奇襲に対応出来ず、真希はねねからの斬撃を受け、写シが剥がれてしまった。

「ねねっ!パァーーーッス!!」

そう言うと、薫は全速力で静の方へ向かい、ねねから投げ渡された祢々切丸をキャッチし、

「きええええええ!!!」

静に向けて、大上段から振り下ろしていった。

「ぐえっ。」

静は薫の大きな一撃を受け、ダウンしてしまう。

「優、森の中へ逃げるぞ!」

薫は発炎筒を寿々花に投げ、先に森の中へ。

「……分かった。」

優はそう言われ、ソフィアの方に向けて発砲し、右腕に当てる。

「可奈美、逃げるぞ!!」

可奈美は呆然とするが、姫和の声でハッとなり姫和と共に森の中へ逃げて行った。

それを見た優も森の中へ逃げて行くことにした。

「……頃合いか。」

ソフィアは撃たれた右腕を見て、赤く染まっていくのが見えていた。

(まあ、撃たれたので追撃は困難。言い訳としては充分か。……しかし、鎌府の制服の子は無事、舞草と合流してくれれば良いのだが。折神家に渡したくないしな…………。)

ソフィアはそれだけ思うと、静に近寄り、無事かどうか確認してみた。

「……大丈夫か?」

「……何とか、いやぁ凄い愛を受けましたよ。」

写シが剥がれたタイミングが悪かったのか、頭から血を流していた静は笑顔でこう返していた。この娘は暴力をその人の“愛情”として受け取る部分がある。ソフィアは静のそういった部分を思い出していた。

「また、あの“獣”に遭えると思うか?」

「……随分、気に入ったみたいで。」

「あの鎌府の制服の子は20人くらいは手傷を負わせたぞ。そんな素晴らしいのは、そうそう居ないだろう?」

「かも知れませんね。」

静とソフィアは楽しそうに談笑していた。

 

 

「深手を負った負傷者から先に治療を受けさせろ、それから……。」

そして、真希は負傷者の移送、追撃部隊の再編成といった雑務に追われていたが……。

「……。」

ふらぁっと、真希が倒れそうになったところを寿々花が後ろから支える。

「お疲れのようですので、私に。」

「……頼む。」

寿々花は真希を目立たせないように医療テントの中へ入れ、治療を受けさせた。そして―――――、

「報告、皐月 夜見隊員が、単独で追撃に向かったとの事です!」

寿々花は、その報告に驚きつつも、直ぐに付き合いが長く親衛隊の秘密を知っているほど信頼の置けるSTTの隊長と連絡を取り、負傷者の治療を優先しながら、追撃部隊の編成を行う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

その後、可奈美達は森の中でトーマス達と合流していた。

トーマス達も所々被弾しているのか、血を流していた。

「大丈夫かよ?」

「心配無い、どいつもタフだからな。」

頭から血を流しているロークは笑顔でそう答えていた。

「エレンも無事救出したし、これで石廊崎に着けば、ハッピーエンドだな。」

薫は軽口を叩くが、

「そうは行きません。」

親衛隊第三席皐月 夜見が可奈美達の目の前に居た。

「……おい、3対1で勝てると思ってんのか?」

「ええ、3対1と言っても、一人は消耗していて、もう一人は写シが一度しか張れないのは分かっていますので。……ですので、奥の手を使います。」

夜見はノロのアンプルを8本取り出し、自らに刺し、注入する。

「はっ、……ああっ、がっ!」

夜見は苦しみながらも、耐えていき、目から角の様な物が生え、片方の目は赤く輝いていた。その異形に、誰もが恐ろしい物を鬼でも見るかのようであった。

(これが手紙にあった人体実験…人とはこれほどまでにおぞましくなれるものなのか?)

姫和は今まで感じたことの無い畏怖を感じていた。しかし、逃げることはせず、薫と共に向かって行った。

「〈……なあ、ローク。〉」

「……?」

突然、マイケルが禁止されていた英語で喋ってくる。

「〈決して諦めない。〉」

それだけ言うと、薫と姫和は写シを剥がされていて、窮地に追いやられていた。それを見たマイケルとシェパードは、

「〈来いよ!俺達が相手だぁ!!〉」

「〈バカ!止めろっ!!〉」

ロークはロシア語でそう叫ぶが、マイケルとシェパードは足を止めず、走って行く。

窮地に陥った仲間を助けるためか、それとも10代の少女を前線に送ることに何かしら思うところがあったのか、理由は分からない。だが、最後くらいは英語で言うべきだったのかも知れない……。

異国の地で、他国の言語を喋らされ、アメリカ人として愛国者として扱われずに散って逝くことになるかも知れない。なら、最後くらいは英語を聞かせても良いだろうとロークは何故かそう思ってしまったが、自分は兵士だ、そんなことは出来なかった。

マイケルとシェパードはかなり被弾しているにも関わらず、夜見の方へ向かって行き、囮となっている間に優とロークは姫和と薫を夜見から遠ざける。姫和達も分かっているのか、何も言わなかった。

自分達は刀使が必要だからこそ、彼女達の弾除けにもなり、捨て駒にもなる。ロークはそのことを思い出しながら、マイケルとシェパードが夜見に斬られながらも、どうにか組み付いて、少しでも時間を稼ごうとしていたところを見ていた。……いや、見ることしか出来なかった。

しかし、マイケルとシェパードは宙を舞った、ノロで身体強化された腕力で投げ飛ばしていたのだ。

(畜生……。)

恐ろしい怪力、マイケルとシェパードの両名はそう思いながら、地面に着いたときに打ち所が悪かったのか絶命した。

「こっちだよ!次は私が相手になる。」

そして、可奈美が夜見の注意を引き付けようとし、数合打ち合うが、“何か”でぬかるんだ地面に足を取られ、転倒してしまう。そして、夜見は片手で可奈美の首を絞めていった。

「斬れ、可奈美っ!!そいつはもう…人じゃない!!」

可奈美はこのとき死を覚悟した。“殺さない、殺させない”という不殺の精神を貫くために、命を投げ出したからだ。

しかし、可奈美に死は訪れなかった。夜見は大きく弾き飛ばされたからだ。マイケル…いや、マイケルの遺体が飛んできたのだ。

「お前……、何してんの?」

優がマイケルの遺体を投げたのだ。そして、優の目も妖しく金色に輝かせながら夜見を睨んでいた。

そして、姫和は何故かスペクトラム計を出し、見てしまった。反応が二つある事に……、その方向は優と夜見の方に向いていた。




次回、やっと優を女装させた理由が書けるかも知れない。

夜見ちゃんはできる子。
①山狩りさんの部隊が頑張って、先陣を切って敵の陣形を崩す。
②敵が山狩りさんの部隊に兵を割く。
③敵陣の乱れを衝いて夜見ちゃんが敵陣の備えを崩し、こじ開けた間隙を更に大きくして、敵勢が浮き足立つところで全面攻勢に出る。

ほら、これで夜見ちゃんが物凄くエースの一人に見える見える。


えっ?真希さんとかが居ないとダメじゃんって?
うるせえ、紅茶飲ませねぇぞ!


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