【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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153話を投稿させて頂きます。

ヨハネの手紙3章 17節
17 世の富を持ちながら、兄弟が必要な物に事欠くのを見て同情しない者があれば、どうして神の愛がそのような者の内にとどまるでしょう。
    
   


求めるニモ 求めた美奈都

     

     

最初にボクが目を覚ましたのは、ガラスという妙な透明な膜が四角となって形成されている所に……いや、その中にある祠みたいな物の中に有る壺みたいな物に入れられたのが物心付いた時の初めての記憶だった。

 

ニンゲンはどうしてボクをこんな所に入れたのだろうか?それが不思議で不思議でならなかった。

 

そうして、次はニンゲン達がボクに珠鋼を近づけてボクを放置した。そのとき、妙な温かさを感じた。……すると、

 

「フリードマン博士。想定通り、距離と時間に比例して穢れの減少は計測されました。」

「……そうか、やはりノロは珠鋼を求めている。……ということか。」

「やはりこれは、博士のおっしゃる通り、珠鋼という母を求めているということでしょうか?」

 

ニンゲン達がそう言っていた。

母?……母とは何だろうか?ボクにはそれが理解できなかった。何故ならボクには"母"という概念が分からなかった。

 

ただ、生まれた。塊となって生まれた。

それしか、分からなかった。

 

「フム。……なら、彼はニモ。寂しがり屋のリトル・ニモから取ってニモと名付けよう。この実験が成功すれば、人と荒魂の関係性は今よりもっと変わる物になるかもしれない。」

 

そしてボクはボクじゃなくなり、ニモとなった。

寂しがり屋のリトル・ニモから取ってニモ。母の温もりを求めているからニモ。母の愛を求めているからニモ。

 

でも、ボクは母の愛や温もりといった物の意味が分からなかった。

寂しがり屋のリトル・ニモから取ったニモなのに。母の温もりを求めているからニモなのに。母の愛を求めているからニモなのに……。

 

そんなことを考えていたときに、僕を呼ぶ声がした。

 

「……ねえ、何がそんなに寂しいの?」

 

僕を呼ぶ声。……御刀を持っているところから、刀使であることは分かった。

けど、僕のことを呼ぶ刀使も僕と同じように何処か寂しそうだった……。

 

「……私って、剣術が大好きなのかな?心の何処かで私、優ちゃんのこと疎ましく思ってる私って本当に何なのかな?」

 

僕にそう語り掛ける刀使。

 

……僕は、その問いに答えることができなかったけど、僕は何となく言いたいことが分かった。刀使である彼女は僕と同じ"寂しい"ということに悩んでいて、僕と同じように誰かを求めているということに……それで僕は分かった。

 

彼女の母になれれば、母のことが理解できて、母のことが理解できればニモの寂しいという意味も理解できるハズだと。

 

だから、僕は望んだ。……彼女の母になることを。そうして、僕は研究所の外に出ることができて……そして、イチキシマヒメという荒魂の中に入ることができた。

 

そして、イチキシマヒメの中にはある少女の記憶が入っていた。

 

……"静"という親の愛を受けて育った娘の記憶。

彼女は僕に凄惨な暴力が親の愛だと教えてくれた。

 

そして、イチキシマヒメの中にはある少年の記憶が入っていた。

 

……僕に語り掛けてくれた刀使の少女……名前は衛藤 可奈美。その娘の"優"という弟の記憶に彼女の母の姿があった。

 

そして、僕は彼女の母がどういった人間か一部分のみ知ることができた。……そのときの彼女、衛藤 美奈都は嬉しそうな顔をしていた。そして、僕に語り掛けてくれたまだ幼い少女だった可奈美は稽古ができて嬉しそうだった。

 

だから僕は、あの人のようになれれば、少女の寂しいという問いに答えられるような気がした。

そして、その問いに答えることが出来れば、寂しいという気持ちが分かり、そして母の愛が理解できるような気がした。

だから僕は衛藤 美奈都になりたかった。……だけど、少女の弟の記憶、これだけじゃダメだ。情報が足りないから本人になれない。だから、僕は少女の母親である衛藤 美奈都を求めた。

 

でも、ボクはニモにはなった記憶が有るからニモになれるけど、ボクは衛藤 美奈都の記憶が無いから衛藤 美奈都になれない、そう理解したとき、僕は絶望した。

 

母の愛が得られないから、自分の中に有る寂しさが理解できないのではと絶望したんだ。

 

……けれど、イチキシマヒメが隠世に居るヒルコミタマの力も得ようと繋がったとき、微かに彼女を感じた。可奈美の母である美奈都という人を感じた。

 

この優という“美奈都の息子”という特別な繋がりがある人間が居なければ、隠世に漂う小さな隙間に居る美奈都を見つけることはできなかっただろう。だけど、僕はこの優ちゃんの記憶にある可奈美の振りをして、

 

「……可奈美?」

 

……不意を突いて僕は美奈都という、あの娘の母と一つになれた。

こうして、僕は美奈都になれると、母の愛を知らずに居る寂しがり屋のニモではなくなり、母の美奈都となって彼女の問いに答えることができる。僕があの可奈美という娘の悩みを解消できれば、寂しくなくなる。そうなれば、母の愛が理解出来ると信じていた。

 

だからなのかもしれない。ボクが……僕が母の意味を求めたのは、だからなのかもしれない。

 

 

 

 

僕は"ニモ"なのだから……。

 

 

 

だけど、母を求める余りに意識まで一つになろうとして……意識が……意識が混濁して……私、美奈都のように………いや、私は美奈都。

 

そうして、私は私の息子の優の記憶から、大災厄の後の世界を見ることができた。

 

私の息子の優の友人、ジョニーやミカちゃん達が私達の世界の裏側で少年兵となったり売春させられたり、身体を物の様に千切らされて物乞いをさせられることが有ることを知った。

 

親の暴力を親の愛だと思い込むことで心の辛さを和らげてどうにか生きることができた静という刀使の娘。

 

……本当に荒魂だけが悪いんだろうかと。あの子達を食い物にする大人が本当の邪悪なのではないのだろうかとすら考えだしてしまう。

 

私達が戦った後も、いや前からなのかもしれない。……人に危害を加える荒魂とか関係なく私達が守った世界は悪意で充たされていた。いや、それしか無いのかもしれない。

 

 

私が死んだ後の世界は、政治に介入したタキリヒメの記憶から国会前でも荒魂のように暴動を起こす人達が居るのだということを知った。……だから、私は、この世に存在する荒魂と人間の違いが分からなくなっていった。

 

だからこそ暴動を起こす人を知ったとき、荒魂や人間といったことに関係無く、たった一人の行動で混沌とした世界にすることが可能なのだというほどに世界は脆いのだということも理解してしまった。

 

……それだけでなく、私と篝が封印した大荒魂が居ても居なくても、この世は地獄であり、この世に生きる人は私達のことなんて気に掛ける暇も無い程に淀んでいるのだということにも気づいてしまった。

 

……そんな世界で、私の息子である優の記憶から可奈美が泣いていたことを理解した。だから、私はあの娘の悲しみを拭って、あの娘の寂しさや孤独を無くさなければならないという衝動とこの世界から救って上げなければという気持ちに身を任せた。

 

もう刀使の使命とかどうでも良い。

 

あんなのは、神や親から継がれる業とまるでそれが当然のことであるかのように言って、子供に何の疑問にも抱かせずに荒魂を斬らせる都合の良い言葉だ。

 

……だから、また、あの娘と一緒に過ごしたい。刀使や御刀が無い世界で平穏に過ごしたい。それの何が悪いの?私があの娘の母親だと理解したら、そう思うのが自然でしょう?

 

 

私はあの娘の母親なのだから。

 

 

ねえ?イチキシマヒメ?

……だから、貴女の身体を頂くね?貴女が可奈美を相手にすれば勝てないことは分かり切っていることだよね?貴女が死ねば、貴女が想っている冥加刀使と静ちゃんの想いは叶えられないよ?

 

………え?お前は刀使なのに、荒魂の脅威から人々を守らなくて良いのか?だって?

 

……だって、もうそんなことどうだって良いんだもの。

私の息子の優の記憶わ静ちゃんが教えてくれたんだよ?私と篝が頑張って守ったこの世は、剣術も刀使も政治に利用されただけの世界になって、銃と御刀は同じ物のような世界になったんだって、そんなことを知ったら、この世界がどうでもよくなった。

 

私が今望むのは、可奈美と共に永遠に平穏に過ごせる場所。

 

……私が一人で20年間という歳月で過ごしていたあの場所で可奈美と一緒に過ごし続けることだよ?あんな血生臭い物しか無い現世のことなんか忘れて、剣術の稽古でもいい。昔話で花を咲かせながら一生あそこで過ごすのも悪くないと思うんだよね。……そして、誰も踏み込むことができない隠世の果てで一生過ごす。

 

きっと、私が過ごした隠世の小さな隙間も今の現世よりもずっと居心地の良い場所だから、天国のような場所だよ?

 

だから、私は可奈美さえ会って、其処で悠久の時を過ごせれば、それでいいんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういった声が私の中に入って行った。……これは、私がニモに語り掛けたことが切欠となって、こうなったということだろうか?こうして、お母さんはイチキシマヒメの身体を乗っ取ったということだろうか?

そんなことを考えていると、私は気を失っていたことに気付いて、バッと起き上がると、さっきまで私がお母さんと戦っていたヘリポートの上ではないことに気が付いてしまう。

 

そう、ここは……。

 

「……病院。」

 

白い監獄。何も写さない何も無い白い空間。嫌なぐらい静謐な白で満たされた世界。……そして、お母さんが死んだ場所。

 

そんなマイナスな語句が私の頭の中で一杯になるような世界が広がっていた。……そして、

 

「待っていたよ。可奈美。」

 

その声に惹かれ、私は声がした方へと視線を送ると、

 

「……お母………さん……?」

 

其処にはお母さんが居た。

だから私は、自然とそんな言葉が出ていた。いや、出てしまっていたんだ。……でも、違う。だって、母さんは、

 

「……違う。違う!!だって、お母さんは――――!!」

 

死んだ。と言おうとしたとき、私は口噤んでしまった。……心の何処かで私はお母さんが死んだことを否定したいのだろうか?

 

『でも……うちのお母さんは死ぬまで幸せそうでしたよ。死ぬまでってなんか変な言い方ですけど、剣術だっていっぱい教えてくれましたし、刀使の仕事を誇りに思うって。』

 

私はお母さんは幸せそうに死んだと言ったのに。

 

「そう、死んでいる。……私はさ、隠世の小さな隙間に居た藤原 美奈都をベースに貴女の記憶と優からの記憶から再現しただけに過ぎないけど、可奈美の目の前に居る私は紛れも無く衛藤 美奈都そのものだと言える。」

 

だけど、目の前に居る私のお母さんと名乗る人は……私と優ちゃんからの記憶から再現したお母さんだと言ってきた。

だから、私は言い返した。

 

「なら……なら、私のお母さんじゃない!!」

 

私のお母さんじゃないと!私はそう言い返した!!

……だけど、私の中に在る記憶の破片が私に『目の前に居るのは紛れも無く貴女の母親です。』と告げているようにも感じていた私が居たことも否定できなかった。

 

「落ち着いて、可奈美。」

 

その証拠に、私は目の前に居る母と名乗る存在の言葉に耳を傾けて、その言葉通りに昂った心が落ち着いて行く自分が居た。……心の何処かで目の前に居る人がお母さんであると認めている自分が居ることを否定できなかった。

 

「私が死んだ後も私は可奈美と一緒に剣術の稽古をしていた。……それは、間違いの無い事実で今も私は可奈美が私のことを『お母さん』と呼んだことを今も覚えてる。可奈美は覚えていないかもしれないけど……そのときはさ、お母さんじゃなくて師匠と呼ばせていたんだけど、可奈美と一緒に剣術の稽古をしながら過ごすのも悪くないと思ってた。」

 

そして、私はお母さんの優しい声に惹かれ、ただ静かに耳を傾けるだけだった。

 

「……けど、可奈美。貴女、此処まで来るのに、大変なことばかりだったでしょ?貴女の記憶を勝手に見たのは悪かったけど……でも、もう良いんじゃない?そこまで頑張らなくても?」

 

だけど、急にお母さんは私に対してこう言ってきた。

もう、良いんじゃないかと。もう頑張らなくて良いと言ってきた。だから、私は、

 

「お母さん……?お母さん、それはどういう意味?」

 

思わず問いかけてしまった。どういう意味かと。

 

「……可奈美。今まで私のために頑張ってくれたのは知ってるよ?……けど、可奈美の今までの戦いは酷いことばかりだったじゃない?そうでしょ?私の息子が、優がノロの軍事利用の被検体にされるだけでなく、私が誇りに思ってた刀使の力も戦争や政治の道具に利用しようとしていた人達ばかりだなんて酷いじゃない?」

 

お母さんにそう言われた私は、つい押し黙ってしまう。

……きっと、お母さんが生きていたら、こんなこと言うだろうと思ってしまったからだ。

 

「でも、可奈美。アンタは今まで頼る当ても無かった。帰れる場所も無かった。けど、それでも貴女だけは私の約束を守るために優のことを化け物のように扱わないように、おねえちゃんとして必死で頑張って、そして戦って来たじゃない?……けど、そんな貴女に対して管理局も国も、そんなに想っていた優を化け物として殺して、最期はその想いを踏み躙るように裏切ったじゃない?」

 

お母さんにそう言われた私は、視界がにじんでしまう。

……ああ、私の心の中に有った苦しみを理解できる人に出逢えたと。

 

「……だから、今度は貴女を裏切り続け、認めなかったあんな世界なんか捨てて、此処で過ごさない?……ここは、何でも願いが叶う場所だよ。」

 

お母さんにそう言われた私は、ただ立ち尽くしていた。

……けど、私の中には、この胸の中に在る『この世界を否定しろ。』という叫びが有ったから、私は立ち上がることができた。

 

「願いが……叶う?………どういうこと?」

「言葉通りの意味だよ。……ここは、龍眼の力によって望む世界を見せてくれる場所だけど、……私が居た隠世の小さな隙間の世界と酷似しているよ。」

「隠世の小さな隙間……?」

「そう、私が居たところは隠世にある一つ場所みたいなところで、此処みたいに自らの記憶から再現できる場所にもなっているんだよね~。……だから可奈美、私と一緒に其処で過ごそうよ?きっと、今の現世よりかは良い場所だよ?」

 

だけど、お母さんは私の心を否定するかのように、今度はその隠世の狭間で一緒に過ごそうと語ってくれた。

……そう、お母さんに言われた私は、

 

「……お母さんはそんなこと言わない。……だって、お母さんは、」

 

お母さんは死ぬまで幸せそうだった。剣術だっていっぱい教えてくれたし、刀使の仕事を誇りに思うって言ってくれた。そんなお母さんが今も現世で大災厄が起こっていて、そんな中で荒魂の被害に苦しむ人達を放っておこうと言うハズがない!!

 

「お母さんは……そんなこと絶対言わない……!」

 

……だけど、私は、そう力無く言うしかなかった。すると、お母さんは、

 

「……そうね。アンタの記憶に在る美奈都は刀使の仕事を誇りに思うって言っていたね。……でも、私がそれを言えたのは、未来がこうなることを知らないから言えたんだよ?」

 

そう私に返して来た。

 

「だって、可奈美が知っている私って、可奈美がどんな目に遭ったか知らなかったんだよ?……だけど、優ちゃんやそのお友達、冥加刀使の願いを叶えようとしたイチキシマヒメ、静という母の愛を受けた娘の記憶を見て、現世がどんな酷い場所かを知った私はきっとこう思う。……私が素敵と思った刀使も剣術も戦争や政治の道具にするあんな現世の世界よりも、可奈美と共に隠世の隙間で悠久に続く平穏の時を過ごしたい。……それを叶えたいと思っている。」

 

そしてお母さんは、向こうの世界、現世の世界が剣術も刀使も戦争や政治の道具にされる酷い世界になった現世の世界に失望していることを述べると、私と隠世の世界で永遠に平穏な時間を過ごしたいと答えていた。

 

……私の知っているお母さんは、荒魂と融合したことで変わったのだろうか?そんな考えが過るほどにお母さんは変わってしまったんだと感じてしまう。

 

「それに、可奈美は刀使の使命という物がどういう物か分かる?……分からないなら、私の記憶を覗いてみたらいいよ?」

 

お母さんはそう言って、私に近付くと、お母さんは自分の額を私の額にくっ付けていた。

 

「……大丈夫、可奈美は私のために冥加刀使になったんだから、それで荒魂になった私と一つになれた。……だから、私の記憶を見ることができる。」

 

お母さんはそう言って、私にお母さんの記憶を見せると言って、

 

「だから私の記憶を見て、そして可奈美の内に在る意志と覚悟……嘗て私が言っていた『刀使の使命』に問いかけることで、刀使を続けるかどうかを考えてもいいんだよ?」

 

そんなお母さんの優しい声を聞いて、お母さんの酷く歪んだ笑み――――いや、お母さんの笑みを見たとき、

 

「ああ、やっと、私の愛しの娘と一つになれた。……それに、これが親の愛なんだって、人の愛し方なんだって、ニモという荒魂もそれがようやく分かって喜んでいるよ。」

 

私はまた意識が深い闇の中へと沈んで行った――――。

    

     




    
   
ヨハネの手紙3章 18節
18 子たちよ、言葉や口先だけでなく、行いをもって誠実に愛し合おう。
    
    
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