【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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157話を投稿させて頂きます。
    
    


年の瀬の後

    

    

――――年の瀬の大災厄から数か月後。

 

「ほらみんな!腕が下りて来てるよー!」

 

よく晴れたグラウンド上で、可奈美は後輩達……刀使の卵というべき子達の鍛錬の担当官になっていた。そんな刀使の卵達の鍛錬を見ているときに舞衣が可奈美に近寄って来て、とあることを尋ねる。

 

「……可奈美ちゃん。大丈夫?」

「ん?……まだまだ大丈夫だよ。内臓のことで病院に行ったけど、これぐらいの運動なら支障は無い……かな?」

 

身体は大丈夫かと。

 

可奈美は、ノロの負の影響を受けた美奈都に乗っ取られたイチキシマヒメとの戦いで自ら腹部を損傷させたことで、辛うじて一撃を与えることができたが、それが内臓にも達していたことで致命傷となっていたため、タギツヒメがノロで傷口を塞がなければ命を失っていたであろうと言われたほどであった。

……だが、可奈美はその代わりとして、傷口を塞いでくれたノロが人体に悪影響を及ぼしていたため、内蔵の一部がガン細胞となり、内蔵の一部を切除しなければならなくなった。

 

そのため、以前のように激しい運動ができなくなってしまったが故に、可奈美は刀使の鍛錬の担当官という後方に下げらていたのであった。

 

「……でもさ、代表選はもう出れないかな。」

「可奈美ちゃん……。」

 

それだけでなく、可奈美は激しい運動ができなくなったことで、御前試合に出ることもできなくなった。……それを聞いた舞衣は悲しげに可奈美の名前を出していた。彼女はそれを悔やんでいないかと思って。

 

「でもさ、もうそれで良いと思ってる。……だって、剣を振るえなくても、あの子達がそれを体現してくれるよ。」

 

だが、可奈美は御前試合に出られなくなったとしても、後悔は無いと舞衣に答えていた。

何故なら、自分の剣は後輩達が継いでくれると信じられるから、可奈美はそう言うと、

 

「……そう考えたとき、お母さんが私に剣術を教えてくれた理由がやっと分かったような気がする。……きっと、お母さんも今の私と同じ気持ちだったんだろうなって思えるから。」

 

可奈美の母である美奈都はきっと自分の剣の精神を継いで欲しかったから、剣術を教えてくれたんだと答えていた。

 

「……それに気づいていたら、優ちゃんもタギツヒメも失うことにならなかったと思う。」

「……可奈美ちゃん。」

 

そして、可奈美は母の美奈都の剣の精神を理解していれば、きっと荒魂を斬る以外の方法を模索して、優もタギツヒメも失うことにはならなかったのではないかと舞衣にポツリと告げるのであった。

それを聞いた舞衣は、悲しげに可奈美を見ていた……。すると、可奈美はいつも通りの笑顔で舞衣にあることを尋ねていた。

 

「……舞衣ちゃん。私のことより、みんなは?元気にしてる?」

 

嘗て共に戦った仲間達のことを。すると舞衣は、沙耶香と薫のことを先ず話すのであった。

 

「うん。……沙耶香ちゃんと薫ちゃんは、特別遊撃隊に配属されたけど、薫ちゃんはいつも通りみたい――――。」

 

 

 

 

 

 

――――《うぉら薫!どこでサボってやがる!》

「警戒任務中だ……」

 

その件の薫は、御刀祢々切丸を横に置いて、ねねを枕にして寝転がっていた。

 

《遊撃隊の隊長はてめぇだろうが》

「沙耶香に任せときゃ大丈夫だよ。通信終わり。」

《って、コラーーーー!!!!》

 

沙耶香に任せとけば大丈夫だと薫は言うと、本部長を続投するハメに遭った紗南の怒号を無視して通話を一方的に切るのであった。

……そして、年の瀬の大災厄にて負傷したにも関わらず、1カ月もしない内に傷を治して元気になり、本部長を続投することになった紗南には薫も驚いたものの、その本部長を続投することになった紗南と話したせいか、紗南が本部長となった経緯を思い出していた。

 

雪那元学長は、ノロのアンプルを使った拷問で特務隊に居た頃まで精神が退行し、沙耶香が自分の学校に所属していたことだけでなく、自身が人体とノロの融合実験をしていた事すらも忘れているために、学長等の業務をとても行える状態ではなくなっていた。……ある意味、自分が人体とノロの融合実験という非道なことを行っていたということを忘れたのは、幸福だったのでは?と思えるほどに。

 

そして、結月元学長も、自身の生徒である綾小路武芸学舎の刀使がクーデターに参加し、多数の死傷者が出たことに自傷行為と自殺未遂等を繰り返すほどに心を病んでしまったことで雪那元学長と同様に学長等の業務がとても行える状態ではなかった。

 

その両者が心身共にそのような状態であるために紗南が本部長を続投することになったのである。

 

……とはいえ、紗南がその両者に毒を盛ったのではないかという根も葉もない噂が鎌府や綾小路内で飛び交っているのだが、紗南はそんなことを気にすることなく本部長の役割を勤めているようだった。

 

それだけでなく、刀剣類管理局は維新派のクーデターや年の瀬の大災厄を起こしたことで世論から否定的な意見が頻発したものの、荒魂による被害は昨年に比べればタギツヒメが荒魂を隠世の境目へと連れて行ったことで少なくはなっているのだが、結局は管理局以上に荒魂討伐に適した組織は居ないということで組織は存続されることになった。

 

雪那と結月という両学長だけでなく、維新派のクーデターに加わった刀使も粛清……いや、表向きは年の瀬の大災厄で死亡となっている(そして、優が今まで偽装していた"男の刀使"も年の瀬の大災厄による死亡リストの一員に加わっている。)ことで、刀剣類管理局は人員の不足と国内の世論からバッシングされるという非常に苦しい事情を抱えることになっている。

 

そして、刀剣類管理局だけでなく、防衛省も維新派のクーデターや年の瀬の大災厄という戦いにて夥しい数の死体を築き上げたことによる国内世論によるバッシングを恐れ、甲斐陸将補が重傷を負って意識不明の状態の時に全責任を擦り付けることに成功し、甲斐は陸将補を罷免させられることとなっただけでなく、年の瀬の大災厄にて自衛隊員が何名かの死傷者を出したことと、長期出向組の西田達は江仁屋離島での自衛隊員達の荒魂と人体の融合実験や年の瀬の大災厄にてタギツヒメが行ったことを口外させないようにするために中央基地システム通信隊に移動とすることで人員整理に追われているとかなんとかを聞いた。

 

……維新派のクーデターや年の瀬の大災厄という戦いの果てに在ったのは夥しい数の死体だけで、誰も得をしなかった。これが荒魂と刀使の戦いであると告げているかのようにも薫は感じていた。

 

「……いつまでも、こんなことしてる場合じゃねえんだけどな。」

 

薫はそんなことをポツリと零しながら、年の瀬の大災厄にはこの空は隠世の境目となっていて、タギツヒメはこの世界を守るために其処へ向かったことを思い出していた……。

 

 

 

 

 

 

 

「各隊員警戒急げ!配置に着き次第、攻撃に…」

 

荒魂が発生したとの報を受けた葉月は、部隊の指揮をしていたが、沙耶香がその荒魂の前に出ると、横に流れるように斬って討伐し、その様を見ていた周りの刀使は「糸見さん…」「特別遊撃隊の…」と言って流石だと称賛していた。

……だが、

 

「ゴメンね。……でも、あの子が帰ってきたら、もう何も考えずに斬ることは無くなるから。」

 

その称賛の声に反して、沙耶香は何処か悲しげにノロの塊へと還っていった荒魂にそう呟くのであった。

荒魂が人を傷付ければ荒魂と人との間に溝が生まれるが故に斬ったが、今もそれ以外にしか解決法が無い自分に悔しさも感じていた。

 

「…………。」

 

そして、沙耶香は彼女のことを思い出してしまったからなのか、ふと空を見上げていた。

 

『……沙耶香。荒魂と人間は共存できるかな?』

 

タギツヒメ……いや、彼女が望んでいたことを実現するには、まだまだ遠いだろう。テロといった政治信条だけでなく、この世の中には荒魂や人といったことに関係無く、飢えと怒りで見境なく暴れる者がこの世に現れることは沢山見て来た。

……それでも、いつかは、やがては、嘗ての自分の様に何も感じずに考えずに荒魂を斬って来たのを辞めて、みんな少しだけでも立ち止まって考えるようになるだろう。

 

荒魂という怪物扱いされ、心が怒りしかなかったタギツヒメだって、それを乗り越えたのだから、みんな出来る筈だとそう心の中で強く信じながら、他者を傷付ける物を斬り続けることでやがてはタギツヒメも帰れる場所になれると信じて――――。

 

 

 

 

 

「――――そんな感じで、薫ちゃんは沙耶香ちゃんに任せっきりみたい。」

「……薫ちゃんっぽいな。それに、沙耶香ちゃんも元気そうだね。」

 

舞衣の話から、薫は特別遊撃隊の隊長として、そして沙耶香はその隊員として活躍していることを聞いた可奈美は、朗らかな笑顔で嬉しそうに答えていた。

 

「エレンちゃんは?」

「エレンちゃんは――――」

 

 

 

 

 

 

「ノロにも意識はあり、意志はある。」

 

エレンは祖父であるリチャード・フリードマンの講演会に来ていた。内容は、

 

「穢れの正体が珠鋼から分離させられた"寂しさ"であるならば、我々はよき隣人となり、その声を聞こうではないか?……それこそが、珠鋼を荒魂を斬るためでなくノロを慰めるために使う新しい……」

 

荒魂が抱える“穢れ”は人の手によって珠鋼から分離させられた寂しさが元であるならば、その声を聞き、珠鋼を荒魂を斬るためでなく慰めることによって新しい技術の可能性が生ずると述べようとしたが、フリードマンの中に“技術”という言葉に何かが引っかかった。そして、

 

『――――探求心、行動力、そして好奇心。どれか一つ欠けてしまえば辿り着くことなどできないというのが私の考えである!!』

 

そして、思い出すのはフリードマンの……友人でもあったスレイドの研究発表であった。

 

『自己修復、思考の有無と形成、然るに荒魂は紛れもない生物であると私は確信しているっ!!』

 

スレイドは御刀以外による損傷は自己修復され、人間を最優先で襲うという行動と執念から、荒魂にも生物と同じく自己修復と思考が有ると論じていた。

 

『そして、荒魂化した人間は稀に記憶を残し、言葉を話す個体もいる言われている。なら、人体と荒魂を融合させることは必ずや荒魂の思考を読み解く鍵となる!!相互理解を素として我々人類は更なる発展の道へと向かうであろうことは明白なのだっ!!』

 

そして、スレイドは“知りたい”が故に、人間と荒魂を融合させるべきであると主張していた。

 

しかし、彼の禁忌の主張を受け入れる者は居なかった。

……当然だ。過去に大災厄が何度も有ったあの時代には荒魂を怪物とでしか見れなかったのだ。

 

『何故否定する!!何故当たり前の結論で満足するのだっ!!?旧約聖書、人は幾度も神罰を受けながら今日まで追い求めてきた!!スプートニク二号、人は命を糧に知識を得て生きてきたのだ!!そして、今の我々は広大なイマジネーションの大海原に漂う小舟に過ぎんのに何故火を起こす方法を知りたいと強く願うことが禁忌なのだ!?前に進みたければ、知りたいと強く願う。たったそれだけのことではないかっ!!?当たり前の結論だけでは、何も解からないっ!!!』

 

それ故に、スレイドは狂気の科学者と言われ、追放された。

……そして、年の瀬の大災厄で死んでしまったようである。

 

『……なあ、お前は本当はどこから来て、どんな物が好きで、此処に来るまでにどんな物や世界を見て来たんだ?教えてくれ。』

 

友人でもあったスレイドが死んだことによるものか、20年前の大災厄の元凶となったアメリカの輸送船のタンカーの中に有るノロに話しかけるというスレイドの奇行…いや、スレイドの行動を思い出したフリードマンは、手許にある原稿の続きである『……それこそが、珠鋼を荒魂を斬るためでなくノロを慰めるために使う新しい技術の可能性』と言うのではなく、

 

「……それこそが、珠鋼を荒魂を斬るためでなくノロを慰めるために使う新しい人間と荒魂の関係を築き上げ、私達は新たな可能性を得られることができる重要なことなのだと私は確信している。」

 

人間が荒魂との間に新たな関係を築くことで、可能性を得られる重要なことなのだと述べていた。

……禍神として恐れること、神として崇めること、ノロとして扱うこと、それら全てが間違いだったのだ。人間か荒魂か関係無く、ただ彼等もこの世に生まれた一つの命であると認める。それだけで良かったのだ。

 

「荒魂は異形の怪物でも禍神でも、ましては神でもない。……荒魂も全ての命を産み出す地球の上に居るただ一つの命であると認めることから我々は良き隣人への一歩を踏み出し、新たな関係を築けるのではないか?……珠鋼を神の力を有する物であるという考えから荒魂は禍神であるという偏見を持つのならば、いっそのことその考えから脱却する時期を迎えているのではないか?」

 

ただ、神でも怪物でもなく一つの命であると認め、語り掛ければ良かったのだ。

タギツヒメに過去のことを尋ねるスレイドのように、タギツヒメをヒメちゃんと呼んだ優のように、

 

「そうすることで私達は、もう珠鋼という石くれを神の力を有する物という偏見から脱することができ、この星に新たな命が芽生える瞬間をこの目で見ることができ、彼等と手を携え新たな関係を構築、そして新たな可能性に向かうことができると確信しています。」

 

……そう理解すれば、もう刀使は戦うことも無くなり、この星に新たなる可能性という命が芽生え、後に続く子供達に武器ではなく新たな愛と友人を与えることができるのだ。

 

(……最後は、君の方が正しく、私の負けだったかもしれないな。)

 

フリードマンは、友人だったスレイドのタンカーの中に有るノロに語り掛ける行動を心の中で評しながら、講演を締め括っていた。

講演を聞いていた観客達は拍手でフリードマンを送ったのであった。

 

 

 

そして、講演会が終わった後に外に出たエレンと累はフリードマンの講演会について話していた。

 

「刀使が荒魂を倒さなくても良い未来か……現役の刀使が興味を持つにしては珍しい分野ね?」

「……そうデスネ。……でも、私は刀使になれて嬉しいデス。刀使になってなかったら、きっと薫やねね。タギツヒメ達にも出会えませんでしたカラ。」

 

累に現役の刀使が荒魂を御刀で倒さなくて良い未来の話に興味を持つのは珍しいと言うと、エレンは薫とねねやタギツヒメ達に出会えることが出来た刀使になれたことに感謝していると言うと、

 

「だけど、刀使のチカラは期間限定。……ずっと、このままで居られる訳じゃないデス。……でも、チカラが消えたその時には尊敬するパパやママのような技術者の道に歩んで、タギツヒメ達が安心して過ごせる未来を築きたい。……今は御刀で、そして技術でタギツヒメがこの現世を護ったのと同じ戦いが続けられマス!」

 

エレンは、この現世を護ったタギツヒメの様に護る戦いをずっと続けられ、そしてタギツヒメ達が願った友人達と安心して過ごせる未来を築くことができると累に答えるのだった。

 

「……大丈夫?辛く、長い戦いになると思うけど?」

「大丈夫デス!薫とねね……タギツヒメを見れば分かるデス!!」

 

累は、エレンの決意が成就するには長く、そして理解されない者達から辛い目に遭わされることになるが大丈夫かと問われ、エレンは薫とねね、タギツヒメを見れば分かることだと言って返していた。

 

「……そだね~。」

 

それを聞いた累は安心したのか、エレンと同じく年の瀬の大災厄では、裂けた空となっていた空を眺めながら、タギツヒメのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それで、エレンちゃんは荒魂を斬らなくて済む研究に没頭しているみたい。」

「……そっか、そうだね!」

 

舞衣から、エレンが祖父のフリードマンと共に荒魂を斬らなくて済む社会を実現することに没頭していると聞いた可奈美は何処か嬉しそうだった。

 

……きっと、優やタギツヒメといった子達が悲しまなくて済むと想って嬉しかったのだろう。

舞衣は可奈美の表情から、そう判断した。

 

「……舞衣ちゃん。姫和ちゃんは元気?もう、帰ってこれる頃じゃないかな?」

 

すると、可奈美は薫・沙耶香・エレンと話が続いたせいか、舞衣に姫和が帰ってこれる頃ではないかと尋ねていた。

……しかし、

 

「……可奈美ちゃん、実は。」

「?」

 

舞衣は可奈美に答えていた。

実は姫和は、相模湾岸大災厄における米国の輸送タンカーのこと、可奈美と姫和が大荒魂を討伐したことで鎮圧されたとされる年の瀬の大災厄におけるタギツヒメが行ったことを世界に告発し、逮捕され、刑務所に投獄されるが、交代された政権と世論により恩赦を受けたものの、現在行方不明となっていた――――。

     

     




    
   
??「みんな、それぞれ向かって行く。」
    
   
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