159話を投稿させて頂きます。
――――特別希少金属利用研究所。
そこに姫和は居た。………理由は、
『また姫和ちゃんの力を貸して欲しいって直々の御指名らしいけど…ちょっとややこしい事になってて。』
『と言うと……?』
『タギツヒメが隠世の向こう側へと行ったやろ?特別希少金属利用研究所…いや、フリードマン博士等が珠鋼を媒介として隠世からエネルギーを取り出す研究が行われていたんやけど、無尽蔵のエネルギーを留めるやったかな?それが可能でないから、その研究を隠世の向こう側に居るタギツヒメとコンタクトを取ることで隠世の知識を得る手段に使えないかってことになってるんよ。』
『はぁ……?』
特別希少金属利用研究所が珠鋼を媒介として隠世からエネルギーを取り出す研究が行われていたが、その膨大なエネルギーをこちら側に留めておくことが難しいということでその研究は、隠世の向こう側に居るタギツヒメとコンタクトを取ることで隠世の知識を得る研究にシフトしているといろは学長は姫和に述べていた。
「その研究に隠世から力を引き出せることができる人の協力が必要らしいんやわ。……それで、今の姫和ちゃんならどうかなって。」
そして、その研究には珠鋼を通して隠世から力を引き出すことができる刀使だった者が必要だと聞いた姫和は少し迷った。
『でも直ぐには返事できひんやろうし、……一度よく考えてから返事くれる?』
それを聞き、一晩考えた姫和は、特別希少金属利用研究所に足を運んでいた。
タギツヒメと会うためなのか、それとも何かしらやっておきたいと思ったのかは自分でもよく分からないが、自然とそんな行動を取ってしまった。
「…………。」
そのため姫和は、特別希少金属利用研究所の前で立ち尽くしていた。
何も考えずに足を運んだために、アポすらも取っていなかったので、どうやって研究所内へと入ろうかと悩んでいたのである。
滑稽な話である。
何も考えずに、感情で行動すればこうなるということは百も承知だったはずである。
なのに、コレだ。
そのため姫和は、早速後悔していたところ、
「姫和ちゃん?」
懐かしい声に呼ばれたと姫和は思い、振り返った。
そこには、可奈美が居た。
――――こうして、可奈美のお陰で特別希少金属利用研究所内に入れた姫和は、用意されていたパイプ椅子に可奈美と共に座りながら隠世の向こう側に居るタギツヒメとコンタクトを取る実験の用意を見ていた。
「……ねえ、姫和ちゃん。」
すると、可奈美が姫和に話しかけてきた。それを聞いた姫和は「何だ?」と答えていた。
「……最近、獅童さんと此花さんが特務警備隊に配属されたのは聞いてる?」
「ああ、聞いてるぞ。」
「それで、特務警備隊になった二人はこれから大忙しみたいでね――――。」
そうして、可奈美は姫和に特務警備隊となった真希と寿々花の話をするのであった――――。
その一方、真希と寿々花は、年の瀬の大災厄にてオスプレイではなく輸送防護車が活躍したことで、特別遊撃隊や特務警備隊といった精鋭の部隊をオスプレイといった航空機で迅速に荒魂事件の現場に送るという絵図を描いていたが、前述したようにオスプレイが年の瀬の大災厄で活躍できなかったために、現場の声も有って航空戦力が思うように得られなかったことで、刀剣類管理局の編制が輸送防護車といった車輛重視の編制となってしまった。
そのため、機動性を失った編制で各所に現れる荒魂事件の対処に追われていたのだが、
「――――ノロの分祀を行った神社周辺に不穏な動きが有ると?」
「ええ、私が放った"草"がそのような報告がありました。」
それだけでなく、国内に居る不穏分子の対処に追われていた。
寿々花の言う"草"は借金で頭が回らない者や半グレ、元警官やヤクザといった私立探偵といった人間を此花家の財力で従わせている連中達ではあるが、仲介屋を通して動かしているため、今のところは各国の諜報機関に此花家が主導していることは気付かれてはいないのだが、その"草"が不穏な動きを見せている連中が居ると寿々花に報告し、それを真希と情報の共有をしていた。
「中国の秘密警察やロシアの諜報機関だけでなく、中東の過激派が何やらノロを入手しようと動きを活発化させているようですわね。」
「ふむ。……ノロを?」
「恐らくは、ノロのアンプルの製造法を維新派の残党である山崎 穂積がバラ撒いていると考えられますわ。」
「……なるほど。維新派の残党は朱音様が主導するノロの分詞計画と刀剣類管理局の暗部を刺すことでこちらを悩ませることをしようという魂胆か。」
各国の諜報機関だけでなく、中東の過激派までもがノロを狙っていると聞いた真希は、神妙な面持ちで答えていた。
「それと、紗南本部長が我々に対して反抗を抱き、対抗する戦力をかき集めている動きがありますわね。」
それだけでなく、本部長を続投することになった紗南が自分達特務警備隊に対して不穏な動きが有るということも報告していた。
「……考えられうる動機は?」
「恐らく、私達が維新派に対して行ったことについて、反感を抱いたものと思われますわ。」
「……なるほど。あの人の性格を考えるとそう考えられるか。」
真希が、紗南が自分達に対して反感を抱く理由は何であるかを"草"を使って内偵していた寿々花に尋ねると、寿々花は数ヶ月前の維新派のクーデターに対する対処が非道過ぎる故に反感を抱いたのが原因であると真希に答えていた。……そして、国外に敵、国内にも敵が居るという状況を聞いた真希は、
「もし、タギツヒメ達が居てくれたら、そいつらを纏めて処理してもらうことができ、朱音様の宸襟を悩ますこともなかっただろう……亡くすべきでは無かったのかもしれないな。」
真希は、タギツヒメと融合していた優を殺すのはまだ時期尚早だったのかもしれないことと、その国内の不穏分子を優やトーマスの代わりに始末する者達は居るのかと寿々花に暗に伝えるのであった。
「……いいえ、そのようなことはありませんわ。我々は朱音様直属であり、諜報活動といったことを主とする特務警備隊ですので、彼等を排除する者達は第二席の私が"調達"できますわ。」
そのため、寿々花は自分達は刀剣類管理局の現局長である朱音直属で諜報活動も行う権限を有する特務警備隊なのだから、彼等を暗殺といった手段で排除する“人”を用意することができると真希に進言していた。
「……分かった。それらの仕事は君に一任する。」
その汚れ仕事を引き受けると言った寿々花に対し、真希は力無くそう告げていた。
そして、寿々花が段々と甲斐みたいな人間になりつつあることに気付くと、いずれ自分も甲斐のようにこの社会からも捨てられることになるのだろうと理解してしまった。
「……何か、ご不満なことがありまして?」
力無くそう告げる真希に何か違和感を感じたのか、寿々花は不満があるのか?と尋ねるが、
「いいや。……朱音様の宸襟を悩ます者が居なくなれば、不満は無いさ。」
真希は寿々花に不満は無いと言うと、タギツヒメが消えたとされる裂けた空が在った東京の澄んだ青い空を眺めていた……。
心の中では、国家公務員とされた御刀を持つ者は荒魂だけでなく、人間とも戦い続けなければならないのかと思いながら。
そして、真希のその懸念は遠からず的中することになる。
この先の未来には、東京でのオリンピックが中国から発生した流行病により、思ったような特需を得られなかったことで寿々花だけでなく現政権は批判の的にされる。
そして、それだけでなく、中東が燃えたことが発端となった物価高と年々高くなる税金(これには、刀剣類管理局の装備拡充を発端とした荒魂対策費と近隣諸国との軋轢によって生じた防衛費の増額も理由の一つとしてある。)により経済成長は更に止まり、刀剣類管理局だけでなく、その判断を下した政府にも強い批判の対象にされるのであった。
それだけでなく、ロシアが隣国に再度侵攻を開始し始めたことで西側諸国はその隣国に軍事支援をすることを決定するのだが、その軍事支援の中には荒魂事件と年の瀬の大災厄にて得た戦闘データを搭載した無人機と誘導砲弾が提供されることになり、刀剣類管理局と刀使は計らずも戦争協力させられたという形になってしまった。
これにより、敵性国家から刀剣類管理局は敵視され、それ以降は刀剣類管理局と刀使は敵性国家による工作活動にも対処せねばならなくなるのであった……。
そのため、真希と寿々花は今は知らないが、彼等の未来は国内の不穏分子といった人達だけでなく、国外の敵性国家による工作活動に従事する工作員という人にも対処しなければならなくなったのである。
……まるで、国家公務員とされた御刀を持つ者は荒魂だけでなく、人間とも戦い続けなければならないかのように。
「――――みたいな感じで獅童さんと此花さんは特務警備隊として頑張っているけど、色々と苦労しているみたい。」
「……そうか、刀剣類管理局は今大変なんだな。」
そうして、可奈美は真希達がオスプレイといった航空戦力を得られなかったことに四苦八苦していることしか知らなかったので、それを姫和に言うと、姫和は苦笑いするしかなかった。
「……それと、舞衣ちゃんは近く特務警備隊へ向かうらしいし、沙耶香ちゃんと薫ちゃんも特別遊撃隊で頑張ってるみたいだし、それにエレンちゃんは荒魂を斬らなくて済む研究に興味が有るらしいよ。」
「……そうか、みんなそれぞれ、頑張っているんだな。」
それだけでなく、可奈美は自分の戦友達が向かった先について姫和に楽しそうに話していた。……それを聞いた姫和は、自分だけが刑務所の世話になるようなことを勝手に一人で行い。そして自分一人だけが牢屋の中で時を過ごしたことを悔やんでいた。
まるで自分一人だけが取り残されたかのように……。
「それと、歩ちゃんっていう刀使が居るんだけど――――」
そう思っていると、次は内里 歩という刀使の話をしたそうに笑う可奈美を見た姫和は静かに聞くことにした――――。
――――その件の内里 歩はリハビリを続けていた。
歩は年の瀬の大災厄にて荒魂に襲われたことで病院へ運ばれ、命を取り留めたものの重傷を負い、長く昏睡状態であったために足が歩ける状態となってしまった。
「大丈夫!?歩!?」
そのため、今も歩は田辺 美弥の付き添いのお陰も有って、リハビリに励むことができた。
しかし、リハビリの途中で倒れてしまった歩の姿を見た美弥は、歩につい「大丈夫?」と尋ねていた。
「うん!……大丈夫!!」
そんな美弥の声を聞いた歩は、笑顔で「大丈夫!」と答えつつ、駆け寄って来た美弥を手で制しながら、歩は必死で立ち上がろうとしていた。
「頑張って……また衛藤さんと一緒に……それと!!」
立ち上がることで、可奈美とまた一緒に歩くために………それだけでなく、
『――――私が居なくなった後の世界が私みたいな剣を振るしか能が無い子供でもヒメちゃんみたいな子と仲良くできたり、ヒメちゃんが居ても困らないぐらい広くて優しい世界にして欲しいな。』
タギツヒメ……いや、ヒメちゃんという友達を得た結芽が語った言葉を思い出した歩は、力を振り絞って歩き出すと、
「優ちゃんや結芽さん、それにあなた達の大切な友達が憧れる様な刀使にならなきゃいけないから……だから、ここで立ち止まっている訳にはいかない!!」
あの子達が憧れる人間にならなければいけないから、立ち止まる訳にはいかないと言うと、
「だって!……いつかは……私も、みんなも御刀なんて頼らなくて良い広くて優しい世界になるまで歩かないといけないから……早く歩けるようにならないと!!」
結芽の友達となったヒメちゃんや優、ジョニーやミカやニキータ達といった怪物扱いされる子達が生きていける広くて優しい世界にするために自身の足が歩けるようになると、歩は自身の決意を語りながら、脂汗をかきながらも歩き始めていた。
そのためか、歩は疲労で足がもつれ、倒れそうになるものの、
「……だったら、私も手伝わせてよ。だって、友達を助けなかったら、アイツにまた馬鹿にされるだろうし。」
美弥はそう言うと、タキリヒメのことを思い出しながら歩を支えていた。
「……アイツ?」
「そ、自分だって友達が居ないくせに私に友達を大切にしろと言ったアイツ。そいつにバカにされないようにしないとね。」
アイツ?と歩に尋ねられた美弥は、苦笑いしながらも穏やかな目で三日月宗近を見ながら、アイツのこと……タキリヒメのことを話していた。
「……多分アイツも、いつかは此処に帰ってくると思うから……だから、友達の歩のことを助けないとね。」
美弥のアイツの話を聞いていた歩は、恐らくはタギツヒメ…いや、ヒメちゃんと似たような人なのだろうと結論付けると「そっか。」と言うのあった。
「だから、頑張って!」
「……うん!!」
美弥の声援を受けた歩は自分の足で歩くために、リハビリを続けようと、再度歩き出すのであった――――。
「――――っていうことがあってね。もしかしたら、歩ちゃんは私以上の人になっているかもしれないから、楽しみなんだ。」
そうして、可奈美は自分の後輩が自分以上に成長するかもしれないことに喜びを感じていたのか、嬉しそうな表情で姫和に話していた。
「ふうん。……それは手合わせしたいとかいう意味じゃないよな?」
それを聞いた姫和は、冗談めかして可奈美に"手合わせがしたい"とかいう理由ではないよな?と尋ねていた。……すると、可奈美は、
「それなんだけどさ。……私、何時までも剣術好きな少女のままで居られないと思うんだよね。」
神妙な面持ちで姫和にそう告げていた。
それを聞いた姫和は、
「……刀使を辞めようと思ってるのか?」
可奈美にそう訊いてしまった。
姫和に刀使を辞めるのかと問われた可奈美はこう答えた。
「……そうだね。刀使は続けたいけど………内蔵が結構やられててさ、運動に支障が出るレベルだから、荒魂討伐に出られないって感じかな。」
自身の内臓は、タギツヒメが出血を抑えるために傷口を塞いでくれたノロが、人体に悪影響を及ぼしていたことが原因で内蔵の一部がガン細胞となり、内蔵の一部を切除しなければならなくなったことで、以前のように激しい運動ができなくなってしまったことを姫和に打ち明けていた。
「……それと、命も長くないみたい。」
「……そうなのか。」
それだけでなく、可奈美自身の命が長くないことも姫和に告げていた。
「でもね。考えてみると、舞衣ちゃんも沙耶香ちゃんも……そして姫和ちゃんも、みんなみんな子供から大人になっていくんだから、私も何時までも剣術好きな“少女”のままでは居られないってことだと思うから、これで良いかな。とか考えちゃうんだよね。……私の剣の真髄は、私が教えている子達に受け継がれていくと思うからさ。」
そして、可奈美は姫和に剣術好きな少女のままでは居られないと言うと、
「もし、刀使がダメになったら、この研究所がやろうとしているヒメちゃんとコンタクトを取ろうとしている研究に協力するつもりでいるよ。」
もしも、刀使の力を失ったらこのタギツヒメとコンタクトを取る研究に協力するつもりでいると答えていた。……それを聞いた姫和は、
「……そうか。刀使じゃなくなっても、お前は……可奈美はまだ進もうとしているんだな。」
停滞している自分とは違う可奈美の姿が眩しく思えた。
「うん。……それに、ヒメちゃんも言っていたんだ。……みんなに出逢えて本当に良かったと、心から思えたって。そんな思いがずっと続く、そんな世界になりますようにって。……だから、それを一つでも進めるために、頑張ろうと思うよ。」
それを聞き、タギツヒメが言っていたことを思い出した姫和は……そうか、そういうことだったのかと思ってしまった。そして、
「……そうか、まだ始まっていなかったんだな。……勝手に絶望して、勝手に決めつけて、勝手に停滞していたんだな。」
CIA長官を殺したことと、世の中を無茶苦茶にした罪悪感で勝手に絶望して、停滞していただけだと姫和は理解してしまう。
そう姫和は結論付けると、ある決意……いや、新たな決意を抱き始めていた。
「姫和ちゃん?」
「可奈美。……思い出したよ。」
姫和の呟きを聞いた可奈美は姫和の名を呼ぶが、姫和は自身が抱いた新たな決意を口にするのであった。
「私はもう少しだけでも、荒魂を……生きている人達を信じ直してみることから始めようと思ったよ。」
姫和がそう口ずさむと、特別希少金属利用研究所のスタッフが「隠世に居るタギツヒメとコンタクトを取る研究。『結びの巫女』プロジェクトを開始しまーす。」と告げるのであった。それを聞いた姫和は、
「……ああ、だから、私ももう少しだけでも良いから生きていたいな。」
「ええ?……姫和ちゃんは大丈夫でしょう?」
「……いや、私も長くはない。」
自分も長く生きていたいと言うと、可奈美は姫和は大丈夫だろう?と返す。すると、姫和も長くはないと答えていた。
「……え?」
「……刑務所に配膳された私の食事に……毒が仕込まれていたようだ。……何だか妙に……少し……息苦しくってな。」
困惑する可奈美を他所に、姫和は以前居た刑務所の配膳された食事の中に毒物が仕込まれていたと可奈美に告げていた。
……恐らく、これ以上騒ぎを大きくして日米関係が危ぶまれることが無いように姫和を始末しようということなのだろう。症状からしてリシンかボツリヌス菌かの毒を仕込んだのだろうと姫和はまるで他人事かのように冷静に判断していた。
「……だから……最後は………あの家で静かに一人で……と思っていたが……そうはいかなかったみたいだ。」
姫和は可奈美にそう告げながら、肩に寄りかかっていた。すると、
「……姫和ちゃん。……重たそうだから、私が……ううん、違うね。タギツヒメ……ヒメちゃんが居る世界を望むみんなが半分持つよ。」
可奈美はそう答えると、
「……そうか。……それは、見てみたかったな。」
姫和はそう返し、
「……多分。私もそう遠くない内に姫和ちゃんの居る所に向かうから。」
可奈美も、眠るように瞼を閉じた姫和にそう告げるのであった。
タギツヒメ「この世がほんの少しだけ……ほんの少しだけでも優しくなれたら良いな。」