【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

18 / 167
16話を投稿させて頂きます。
前話で大きな間違いをしました、脛じゃなく膝を蹴るという間違いを一週間後に気付いてしまいました……。
その後、読んだ後の人が混乱しないように、夜見ちゃんの膝も折ることに。足首をあらぬ方向に曲げるほど膝蹴ったら普通は膝も壊れるので。どうもすいませんでした。
皆、他人の膝を強く蹴っちゃダメだよ。



人と穢れの違い

刀剣類管理局本部内――――。

結芽は真希と夜見が本部内にある医務室へと担架で運ばれているところを生気を失った目で見ていた。真希は腹部に3発の銃弾を受ける重傷だったが、一番酷い状態なのは夜見である。夜見の左足の足首は強く捻挫しているが、左足の膝関節と左腕は骨折しているうえ、鳩尾と腹部辺りにアザが出来ており、完全に治癒するまでは出撃は不可能となっていた。

そして、結芽は一人のSTT隊員にあることを尋ねていた。

「ねえ、真希おねーさんと夜見おねーさんをあんな風にしたの誰?」

「……鎌府女学院の制服を着ていたこと意外は……。」

「そっ、分かった。」

結芽はそれだけ聞くと、踵を返すが、何故か自らの過去と自分の両親の事を思い出していた。

 

真希も―――――、

 

夜見も―――――、

 

寿々花も―――――、

 

紫様も―――――、

 

結月学長も―――――、

 

何もかも自分から離れて行き、居場所が無くなってしまい、不気味な白い部屋に白いベットという居場所に戻されるんじゃないかという焦燥感を抱いてしまった。

(……絶対、絶対に許さない。)

その鎌府の制服の子を必ず見つけ出して、真希と夜見の仇を取るということ、“親衛隊”という大切な居場所を守るということを自らの御刀ニッカリ青江をしっかりと握りながら決意していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、潜水艦ノーチラス号内にて、治療を終え私服となっているロークとコック長が食堂で何やら英語で喋っていた。

「〈……でかい鶏肉だな、太らせる気か?〉」

「〈これから、パーティーだからな。テーブルの用意をしろ、豪勢な食事を提供してやる。〉」

ロークは鶏肉やらWALTSというオレンジジュースやらを持って来たコック長の手伝いをしていた。可奈美達の辛労をねぎらうためにささやかなパーティーを行おうとしていたのだ。

「〈ロークはお嬢様方を呼んできてくれ。日本語が解るのはお前とトーマスだけだ。〉」

コック長はそう言いながら、日本語が喋れるロークに注文していた。

「〈分かった、お嬢様方のエスコートをしてくるよ。〉」

まだ、治療中で病院食を食べているエレンをパーティーに呼べないのを心苦しく思いながら、可奈美達を呼びに行った。

数分後、ロークは可奈美達を食堂へ案内していた。

「……今度は何の用だ?」

「あれ?でも良い匂いがするよ。美味しそうな匂い。」

さっきのトーマスの事もあって姫和は警戒するが、可奈美と驚異的な回復力で復活した優は、食堂から美味しそうな匂いがして期待していた。其処には、山中で共に戦ったトーマスの部下達がせっせと食事の用意と飾り付けをしていて、累と薫は既に食卓に着いていた。

「……キレイだね。」

優は自分達を暖かく迎え入れてくれる『Welcome to Mokusa.』と書かれている垂れ幕。見るからに高そうなテーブルクロスを敷かれた食卓の上に、高価そうな燭台とフルーツの山が飾り付けられ、これまた豪勢な食事に驚いていた。

「どういうつもりだ、貴族の真似事か……?」

姫和は何が起こっているのか良く分かっていなかった。それを見たロークは、

「お嬢様方とその小さなナイトに、三ツ星の味と最悪のサービスが売りのレストランの最高の御席を御用意させて頂きました。どうぞ、こちらへ。」

ロークは可奈美達を食卓の席まで案内し、座らせていった。

「お姫様方、テイスティングを。……本当はローストチキンにはシャルドネやリースリングといったワインが良いんだけど、それはこの戦いが終わった後も生き残ってからのお楽しみってことで。」

可奈美達にロークはワイングラスに不釣合いだがオレンジジュースを注いでいく。それを飲む姫和は、

「……うまい。」

と言って、少し感動する。冷めていた心が少しずつ解けていく。

「これは、自慢のシェフが作ったチキンです。」

「〈これを食べてから美味いって、言って欲しかったな。〉」

そして、ロークは給仕係の様に優と姫和、そして可奈美にメインディッシュのローストチキンを置いていき、コック長はそんなことを英語でぼやいていた。可奈美はそのローストチキンを一口食べて、

「……これ、すっごく美味しいよっ!!」

笑顔で可奈美はそうロークに伝えると、日本語が分からないコック長はロークに可奈美が何を言ったか訊いていた。

「〈何を言っているんだ?〉」

「〈美味しいってさ。〉」

「〈当たり前だ、と伝えてくれ。〉」

コック長はぶっきらぼうにそう言うが、顔は綻んでいた。

「それじゃ、始めよう。乾杯!…cheers!」

ロークの乾杯を合図に、累と薫、飾り付けを終えたロークの部下達は食卓に着き、大勢の人数でパーティーを楽しんでいた。

 

可奈美が優にフルーツを取って来て、皿に盛り付けていったり、

 

薫がトーマスの部下達の分を掠め取ろうとし、怒られていたり、

 

累とロークがそれら一人一人を見守っていたりしていた。

 

その光景を一つ一つ見ていた姫和は両親が居た頃を思い出し、目に涙を浮かべる。

「姫和ちゃん……?」

可奈美は姫和が泣いていることに気付き、声をかける。

「……コック長、辛くし過ぎじゃね?」

「〈コック長、辛くし過ぎだろ。〉」

薫は日本語で、ロークは英語でコック長に姫和が泣いていることを誤魔化すため、コック長にダメ出しをした。そのため、コック長は意図を理解し、「Oh, ……sorry.」と答える。

「……いや、済まない。…そうじゃないんだ。……凄く美味しい。……今まで食べた物より凄く美味しいんだ。」

姫和は、そういえば、こんな風に大勢で食事をしたのは何時以来だろう。そんなことを思ってしまい、このパーティーで両親と一緒に居た頃を思い出して涙を流していた。

「それは、良かった。……それで悪いけど、少しお願いがあるんだが。」

それを聞いたロークは可奈美達にとあることを願い出る。

「……何です?」

可奈美がローストチキンを頬張りながら答える。

「……俺達の仲間が二人やられたろ?それをエレンには黙ってて欲しいんだ。」

ロークは真面目な顔でそう言ってきた。

「……何でなんだ?」

姫和は、ロークに顔を見られない様にしてそう答える。今の自分の顔を見られたくないのと、何故そのようなことを言ってきたのか分からなかったからだ。

「エレンがさ、研究職に行きたいらしいから、俺達の仲間が死んだことを気に病んでその足を引っ張る訳にいかないし、それにマイケルとシェパードの二人も敵にやられたなんて情けないこと言われたくないだろうから。……だから、黙っててくれ。」

エレンが研究職に専念してもらいがために、ロークは可奈美と姫和、薫、そして優にそうお願いしていた。

「あっ、はい、分かりました。私もエレンちゃんの夢が叶って欲しいですから。」

「俺も。」

「良いよ。」

「……はい。」

可奈美と薫、優はそろって承諾するが、姫和は優を見た後に可奈美を見つめると暗い表情をして応える。

「皆、感謝するよ。」

ロークは可奈美達が承諾してくれた事に安堵する。

(……。)

ロークのお願いで、姫和はこれまでのことを思い出していた。

母が成し遂げられなかった事から始まり、可奈美の思いを知る事ができたがそれが叶わない可能性が高いことを秘匿しなければならない自分、そして今のローク思い。それらの思いが姫和に重く圧し掛かって来るようだった。

「姫和ちゃん?」

「……んっ?可奈美何だ?」

「姫和ちゃん、何か元気無さそうだけど。」

「そっ、そんなことないぞ、……ただ、此処まで来るのにいろいろあったなと思って。」

「そっか、……姫和ちゃん、これだけは言えるよ。私の剣が守る剣なら私は、姫和ちゃんの目的と、優ちゃんと姫和ちゃんを守るよ。」

「それは……、人斬りの手助けをするという事だぞ。」

「違うよ、姫和ちゃんは御当主様、…人に化けた荒魂を斬るそれだけだよ。それ以外は私が斬らせない、それが私の覚悟だよ。だから、姫和ちゃんの重たそうだから、半分私が持つよ。」

可奈美は姫和が一人で抱え込んで、苦しんでいるように見えた。だからこそ、可奈美は自分なりの覚悟を語り、姫和の負担を少しでも減らそうとしていた。

「……そうだな、ありがとう、それが叶ったらまた三人で一緒に遊びに行こう。」

「うん!」

この日、姫和は可奈美と優の三人であのときのように遊ぶ約束をする。……優が元通りになる確率は低いことと、大荒魂を鎮めるには自らの命と引き換えに大荒魂を隠世に引きずり込むというものであり、二度とこの世には戻れないことを隠しながら。

そうこうしている内にこのパーティーも終わる頃になる。

「ちょっと皆良いか?…注目してくれ、マイケルとシェパードに。」

ロークはグラスを掲げて言うと、この食堂に居る者全員はマイケルとシェパードに黙祷していた。

そして、次の日の朝食はとても侘しい物であったと姫和と可奈美は記憶する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上です。」

舞草の最大戦力の一つ潜水艦ノーチラス号にて、トーマスはパーティーに参加せず自室で、舞草の上層部とトーマスの本来の雇い主であるCIAの高官にノートパソコンの通信から先程の山中の戦闘の報告をしていた。

『トーマス、彼は必要かね?』

CIA高官が、優に対してトーマスがどのような評価を下しているか質問する。

「戦力として見れば親衛隊を退ける程ですので充分でしょう。しかし、あの子供は折神家にとってみても、舞草にとってみても、我が祖国にとってみても核爆弾のような“物”ですからな。」

『……あまり騒ぎ立てて、ノロと人体の人体実験を折神家が主導していたことが発覚せずに、事態を収拾することは貴方方も望んでいることでは?』

舞草の幹部の一人が意見を述べる。

『確かに、このような事が発覚し日米両政府に責任が問われ、遂にはノロの軍事利用が各国共に活発化するのを避けたいからこそ、兵と潜水艦をあなた方に渡しましたが、あの子供を保護する理由が特にありませんが?』

アメリカ政府のCIA高官は、政府からノロの管理を一任されている折神家の当主が大荒魂であり、そのうえノロの人体実験を行っている主犯だと発覚し日米両政府に責任が飛び火するのを恐れたため、折神家主導の刀剣類管理局ではなく、自分達が支援する舞草主導の刀剣類管理局にするためにトーマス達と潜水艦を舞草に送ったこと、優を永遠に折神家に対して使えるカードとしてこの世から存在を抹消し、早々に処分すべきと言っていた。

『ゆか……局長の中に居る荒魂が例の子供にも宿っていたら、舞草の戦力で処理できるでしょうか?幸い、“柊の娘”を確保出来ましたが、一人しか居ませんので今はそのときではないと思います。』

舞草の幹部の一人真庭 紗南は優の中に居るのが大荒魂であるという報告を聞いているため、すぐに“柊の娘”こと姫和の五段階の迅移で姫和と共に隠世の彼方へと逝ってしまえば。紫の中に居る大荒魂と対峙したとき、こちらには対抗手段が無いので、今はすべきではないという主張を紗南はしていた。

『……となれば、荒魂同士殺し合わせるのが、一番ということかね?』

「それがよろしいかと。」

トーマスは紗南が何か言う前に、それが当然のように答える。紗南は何か言いたそうな顔をしていたが、トーマスは気にする事も無く続けていた。

「それに、“柊の娘”と“例の荒魂”ですが、話していて気付いたのですが何か特別な関係になっていると見受けられます。」

『……と言うと、どういうことかね?』

トーマスの姫和と“例の荒魂”こと優の関係に対する私見をCIA高官に話すが、CIA高官は話の意図が分からなかった。

「“例の荒魂”は鎌府がノロの軍事利用から産まれた刀使に対抗できる兵器。つまり、本来なら殺し合うべきですが、その“柊の娘”は“例の荒魂”を慈しんでいたり、その話を聞いても斬ろうとはしなかったことを鑑みると、何らかの特別な感情を抱いていてもおかしくはありません。それを利用して“柊の娘”を戦いに引き込むというのが一番だと考えられます。」

つまり、トーマスは姫和が優のことを大切な存在になっているならば、それを利用して大荒魂との戦闘に引き摺り込み、最終的には舞草のために戦ってもらおうという魂胆であった。

『可能かね?』

「“柊の娘”の友人らしき人物を説得しましたので、その友人は“例の荒魂”の姉で、姉についていく習性が“例の荒魂”にあるようなので、“柊の娘”は付いて行かざるおえないでしょう。」

トーマスは可奈美を優は荒魂である事をバラすと言ったり、優を元通りにする事ができるように教えたりして、舞草に協力しなければならないように誘導。これにより、可奈美は舞草に協力することになり、優もそれに付いて行くことになれば、二人のことが大切な姫和も付いて行かざるおえない状況に追い込むことができるため、優と可奈美を利用しようという話をトーマスはしていた。

『なるほど、それならその子供にノロを集約させれば、何も問題は無いか……。』

「刀使に対抗する兵器に、こんな使い方が有るとは私も思いませんでした。」

CIA高官はそれなら生かしておく理由になると納得し、トーマスもこれを思い付いたときは、ノロ漬けの子供にこんな使い道もあるのかと思ってしまったほどであった。

『……。』

紗南は無言でその話を聞き、それ以外の舞草の他の幹部達はその考えに揃って賛同していた。

「以上で、よろしいでしょうか?」

『……特に問題は有りません。』

紗南はそれだけ言うと、この会議の終了を宣言し、通信の回線を切ると、それに倣って他の舞草の幹部達も切る。そして、CIAの高官だけがトーマスとの通信を繋げたままとなっていた。

『〈“柊の娘”をそうやって追い詰め、自らの任務を完遂しようとするとは、流石だ。〉』

「〈少年兵(刀使)には複数の少年兵(荒魂)を、そのうえ、敵陣中枢で死亡してくれれば体内にあるノロがスペクトラム化、荒魂となって敵を壊滅させるという計画を思い付く貴方方ほどではありません。〉」

お互い英語で喋りながら、CIA高官は感心したという事をトーマスに言うが、トーマスは無表情でそう切り返した。

ノロの軍事利用は清らかな子供(刀使)穢れた子供(少年兵)に殺されるという計画の他にも、一つのチームにノロを投与させ、敵部隊の中枢でノロのスペクトラム化を起こし、刀使の居ない敵部隊を壊滅するという計画でもあった。だが、ノロを世界各地にばら撒けば、刀使の数を増やさなければならなくなるので、結局は折神家の権威と権力を集中させることになるため、この計画は中止したハズだったが…………。そのことにトーマスは疑問に思う。

『ノロで強化された人間の戦闘データをこれからも収集してくれ、引き続き可能であれば彼女の暗殺もだ。』

米軍にも影響を与える刀剣類管理局の権威を下げることと、今も政府によって御刀とノロの管理を任されている折神家がノロの人体実験を行っているということを隠蔽するため、紫の暗殺をトーマスに依頼したCIA高官はそうトーマスに言っていた。

「承知しております。」

トーマスはそう言うと、CIA高官はトーマスとの通信を切り、一人物思いに耽っていた……。

(しかし、刀使を見ていると、あのベトナムの悪夢を嫌でも思い出す……!)

今回の仕事は、反米国家の反政府勢力を焚き付けて親米国家にする工作よりも、敵国の銃を敵国の友好国にばら撒いて関係を悪化させたりする工作よりも、面倒な仕事を引き受けてしまったと思うトーマスがそこに一人ポツンと居た。




WALTSはアニメ本編16話で出てたオレンジジュースです。
やっと、結芽ちゃんが出せた、ワーイ。結芽ちゃんは個人的にやべー奴じゃないと思います。ちょっと自己顕示欲の強い子なだけなんだよ。12なら若さ故の過ちは結構やっちゃうよ。
しかし、トーマス爺……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。