とりあえず可奈美すまんな、男の刀使にしてやれんで。
そして今回は力を溜める回です。盛り上がりとかはさほど無いかも知れないですけど、お許し下さい!
其処にはその先が見えないほどの長い階段と鳥居が有って、私のお母さんがそこに居た――――。
「男子三日会わざればって言うけど、どうしてどうして捨てたもんじゃないね。良い顔している。」
私は長い階段に座り、その反対側にお母さんが一緒に座っていたことに気付いた私は、
「えっ、そ、そうかなぁ?」
と答えていた。私もそれを優ちゃんに実践すれば少しは変わってくれるかなっと、思ってしまう。
「何か覚悟を決めたね?」
お母さんが私の心を読んだかのように言ってくる。
「友達に比べたら、大した事じゃないよ。……でも、頑張るって決めた。」
「……なんで?」
「私は、その子を死なせたくないから。」
そのときの私の言葉に嘘偽りは無い。姫和ちゃんは優ちゃんと仲が良いから、きっとその繋がりを優ちゃんも大事にしてくれるハズ、だから私が強い刀使になる時までの時間が延びると思ったから、姫和ちゃんも大切な友達の一人。
「うんうん、分かるよその気持ち。私もさ、友達のためなら命の半分は惜しくも無いし。」
「そこは、全部じゃないんだ……。」
でも、私とお母さんの気持ちに“ズレ”が有るように何となく感じた。でも、そんなことをあっけらかんと言うお母さんを見ると、そんなことを考える私は自分自身のことを卑屈な人間だと思ってしまい、自己嫌悪してしまう。
「そんなことより可奈美、早くやろうやろう!」
「うん、今日こそは一本取るからね!」
私は勇ましいことを言って、お母さんに挑むも、結果はほぼ負けという結果に終わってしまう。そして、お母さんが、
「……可奈美、何か悩んでいる?」
「えっ、そ、そんなことは「嘘っ、顔に出てる。」…………。」
また、嘘吐くときの癖が出たのかな?直ぐにバレちゃった。
「ほれ、言ってみ。」
その言葉が今の私には辛いことを吐き出せる瞬間だと思った。だからお母さんには正直に言った。
「……ねえ、私は間違っていたのかな?」
「何を?」
「何で私の弟は暴力的なことを止めないんだろう。」
「……。」
「私、何か間違っていた?何も間違っていないよね?なのに、何でなの……。」
「可奈美。」
「御前試合の代表に選ばれるほど強くなっても、命懸けで無刀取りをやっても他人を傷付けることを止めないし、人を殺さないって約束をしても優ちゃんは他人を傷付けたり、優ちゃん自身が私のために傷付いて帰っていく。……それが辛いの、だから全てを薙ぎ払って、全てを守れるような力が欲しかった。そうすれば優ちゃんは戦わなくて済むハズ、……なのに、なのに何で何年経っても叶わないの?ねえ、どうして?どうしてあの子は酷い目に遭っているのに何で止めないの?あの子は私が救ってくれたから当然って言うけど私は何もしてないのに、何かしたことは無いのに、舞衣ちゃんみたいに姉らしいことも出来なかったのに、……どうして、私のためにあそこまでするの?聞いてみれば良いって言うかもしれないけど、それが今は怖いの!!何をするか分からない、分からないの……。」
お母さんは私の独白を黙って聞いてくれていた。そして、私の独白はまだ続いていた。
「神様は一体何をしているの?何を見ているの?どうして、御刀は女の子ばっかり刀使にするの?……ねえ、知ってる?優ちゃんは特撮モノのヒーローに憧れていたけど、叶いそうにないから私のために諦めたの、男の刀使がこの世に居れば、この世に有れば!優ちゃんは可笑しな子供だと言われなかったし!苦しまずに済んだ!!……私は皆に騙す必要も無かった。ねえ、どうしてそんなに神様は悪趣味なの?何か意味は有るの?教えてよ。」
「そうだね、……でもそうやって悩むことも必要なことだよ。」
それを聞いた私は「それって、どういう意味?」と聞く前に夢は覚めて、そして忘れる。そして、私は起こしてくれた姫和ちゃんに付いて行って朝食を取りに食堂へ向かう。昨日は晴れ晴れとした気持ちだったのに、今日は何か辛い、……何でだろう?
刀剣類管理局本部内の一室――――。
「沙耶香、来なさい。」
「……はい。」
雪那にそう命じられた沙耶香は席を立つと、雛鳥の様に雪那の後に付いて行く。
(親衛隊が二名もやられ出撃が困難な状況となれば……。)
雪那はそれだけ考えると、沙耶香をチラリと見る。
沙耶香がかつての自分の戦友とも言うべき妙法村正に選ばれたとき――――。
沙耶香はあまり自己表現が苦手だったが故に一つ一つ教えるのに苦労したとき――――。
沙耶香が―――――。沙耶香は――――。
様々な思い出が蘇っては消えるのを繰り返していた。何も思わないことは無い。天才刀使にするまで苦労して育てた沙耶香をノロを継ぎ足して強化改造することに嫌悪感を抱かないことはない。しかし、此処で立ち止まれば今まで犠牲になった者は報われない。ただ、死んだだけになってしまうのだ。それが何よりも許せなかった。
(認めてもらわなければならない。……鎌府、いや、沙耶香を!)
紫に沙耶香のことを『完璧な刀使』として認めてもらえば、ノロを体内に入れられた人間のことを奇異の目で見られることは無くなる。ただの犠牲ではなく、少しでも意義の有る犠牲とするために、そう思い雪那は行く先が煉獄であろうとも前へ、前へと進まなければならなかった。
途中、美濃関学院の学長江麻とその生徒である舞衣を見かけるが、声をかけずに通り過ぎようとしたが――――――、
「沙耶香ちゃん!」
沙耶香を呼び止める声が聞こえ、その方向に目を向けると、舞衣と沙耶香が楽しそうに談笑しているのが見えた。
「出られて良かったね。」
「……うん。」
「私達も今、美濃関に帰る事になったの。」
「……そう。」
沙耶香が少し寂しそうな顔をしていたことを雪那は見ていた。
「じゃあ。」
そして、舞衣はまた会えることを夢見ながら、沙耶香から別れようとするが、
「?」
誰かが裾を引っ張ていることに気付き、舞衣は振り向くと沙耶香が裾を引っ張っていた。舞衣は沙耶香が何か話したいことがあるのかと思い、立ち止まる。
「……クッキー美味しかった。」
「うん、ありがとう!良かったら、また作るね。」
「……うん。」
「ねえ、携帯持ってる?良かったら連絡先を交換しよ?」
「うん。」
沙耶香はポケットから携帯を取り出すと、舞衣と連絡先を交換しようとする。
「沙耶香っ!!」
突然の雪那の大きな一声により、沙耶香は「はいっ。」と答え、直ぐに雪那の元へ駆け寄った。
「……。」
雪那は少しだけ沙耶香を見つめると、携帯を取り上げ、あの美濃関の生徒舞衣の連絡先を削除すべきか考えた。だが、あまりにも酷い事を考えている自分が居る事に気付き、己を嫌悪し、直ぐに取り止めることにした。
「行くぞ。」
そして、自分を誤魔化すように沙耶香に付いて来るように言うと、歩き出した。
進む――――、進む――――、
ただ進む。死刑執行の場へと赴く死刑囚のように重い足取りで、沙耶香と一緒に歩いていた。そして、研究所に到着し、沙耶香を手術台の上に寝かせ、安静にさせる。
「……沙耶香、貴女は私が見つけられた唯一の最高の器。」
ノロのアンプルをじっと見つめる雪那は更に呪詛を呟く。
「これは紫様から私が、いや鎌府に直々に命じられた大いなる研究の成果。これを満たしたとき、貴女という器は完成するの。何も考えず、何も感じることは無い。」
「学長、ノロのアンプルはまだ完成品ではありません。」
ノロと人体の融合を研究している現在の研究主任が雪那に、沙耶香へのノロの注入はまだすべきでは無いと抗議していた。
「分かっている。しかし、親衛隊の被検体三名が負けたのだ。例の組織の連中も我々同様の研究を成功し、実戦投入している疑いが有る。なら、紫様の御身を守るためには彼女の強化は必須だ。」
「……しかし。」
「分かっている。成功すればそれで良し、失敗すれば私の独断と言って置いてくれ。」
研究主任もそれを言われると何も言えないのか、黙ってしまい、事の推移を見守るしか無かった。
「……何も?」
それは、私が感じた熱くなった気持ちも感じることが出来なくなるのだろうか?
それは、私が感じた暖かい気持ちも感じることが出来ないのだろうか?
そうなった私は、それで良いのだろうか?沙耶香は一瞬、それを思ってしまった。
雪那はノロのアンプルを沙耶香の首筋に近づけ、頬に可愛らしい絆創膏を見つける。誰かが気を使って傷に貼ってくれたのだろうか?ならば、失敗し沙耶香が荒魂化したときのことを考え、その誰かが荒魂化した沙耶香に気付くことがないようにするため、その絆創膏を剥がすことにした。
「あっ。」
それに沙耶香が反応したことに気付かなかったため、雪那は沙耶香の次の行動に驚くことになる。
沙耶香が、雪那のノロのアンプルを持つ手を払い退けてしまった。それに、雪那は驚愕の表情で沙耶香を見つめる。
「……沙耶香?」
(……私は……?)
そうして、沙耶香は御刀を持って窓に向って走る。
「沙耶香、待ちなさい!!」
雪那は止めようとするが、それすらも聞こえていないのか、それとも振り払ったのか、それすらも理解できぬまま沙耶香は窓を割って、外へ逃げて行った。
「……ここは任せるっ!」
「はっ、はい。」
雪那に強く言われた研究主任はそう返事するしかなく、雪那の後ろ姿を黙って見るしかなかった……。
(……本当はこれで良かったんじゃないかな、最近のあの人を見るとそう思う。)
何かから逃げるように酒とタバコに溺れる雪那を見ていた研究主任はそうは思っても、他の研究員と共に沙耶香が割ったガラス片を片付けるしかなかった。
沙耶香は衝動的に外へ逃げ、何となくコンビニへ寄り、どうしてなのか舞衣に夜遅くに電話をかけていた。
『もしもし!?』
「!」
舞衣が電話に出てくれた……。それだけなのに、沙耶香は次の言葉が出てこない。任務をこなす、言う事を聞くだけしかしていなかった沙耶香は他人とコミュニケーションを取るのが極端に苦手だったのだ。そのため、
「……あっ、……えっと……。」
どういう風に喋れば良いのだろうか?
ただ分からない――――。
舞衣がどんな人か――――。
どんなふうに優しい人か分からない――――。
こうやって、間が空くだけでも沙耶香は辛かった。何かが咽の奥に引っ掛かっているような感触、思考が定まらず焦る気持ちが積もっていき、出口の無い迷宮へ入ってしまったかのような感覚に囚われ、不思議な間が二人の電話の中で出来てしまう。
『どうしたの、沙耶香ちゃん?』
それを聞いた沙耶香は、抜け出せない迷宮に救いの手が差し伸ばされたような気がした。だが、
「あっ、あの……。」
どう喋れば良いのか分からない。……何を話題にすれば良いのだろう?何の話題にしたら良いのだろう?思考が定まらない。今の答えで良いのだろうか?そんな不安を抱いていたが、
『早速ありがとう、電話をかけてくれて。……夜更かしさん同士、少しお話しよっか?』
問題無いようだったことに沙耶香は少し安堵するが、コンビニの店員に少し見られていたので、外に出て話すことにする。
『大丈夫、ちゃんと聞いているから。』
「……あの。」
『んっ?』
少しだけだが電話をして、話して、心が弾む。しかし、何を言えば良いのか分からなかったことと、舞衣に迷惑がかかるような気がしたので早々に電話を切ることにした。
「……やっぱり、何でもない。」
それだけ言うと、沙耶香は携帯電話から耳を離すと目を閉じて、『えっ、沙耶香ちゃん?』という舞衣の声を気にも留めず、終話ボタンを押してしまった。
無意味な静寂が訪れる。携帯に登録されている舞衣の字を見つめ、沙耶香は戸惑っていた。
「……どうして、私。」
何故、逆らったんだろう。その考えだけで頭の中がぐるぐる回っているようだった。
「ずっと、言う事聞いてきたけど、アレが入ってくると、……消える、消えちゃう。」
沙耶香はノロのアンプルを見て恐怖を覚えた、何か大切なモノを失いそうで……、理由は分からない。しかし、沙耶香自身が空腹であるという音が鳴り響き、どうしたものかと考えてしまう。
「あっ!」
声が聞こえ追っ手が来たと勘違いした沙耶香は逃げ出す。
「待って、沙耶香ちゃん!」
ついさっきまで聞いていた声に呼び止められ、沙耶香は振り向く。そこには舞衣が居たため、沙耶香は口を開けて驚いてしまう。
「見つけた、沙耶香ちゃん。……遅くなってゴメンね、この辺りのコンビニ全部回っていたから。」
「なん……で…私何も……。」
そして、再び空腹を知らせる音を沙耶香が鳴らしてしまい、舞衣に気付かれてしまう。
「お腹減ってるの?じゃあそこのコンビニで、…でも中学生が夜中に買い食いなんて駄目だし……。あっ、そうだ!」
舞衣はそう言うと、ポケットの中からお手製のクッキーを出し、沙耶香に渡そうとする。
「あっ、……クッキー。」
沙耶香は食べるべきかどうか悩むも、空腹には勝てなかったし、それに好意を無下にはできなかった。そのため、沙耶香は申し訳無く思いながら食べ、舞衣の話しに付き合っていた。内容は上の妹は基本的にわがままで、舞衣を困らせるのが趣味ではないのかと舞衣自信が疑う程であるらしい。
「その癖ね、本当に困ってる時に限って『助けて~。』なんて絶対に言わないの。おかしいね、バレバレなのに。」
「なんで…わかるの?」
沙耶香はそれが不思議だった。何故、仲違いしないのだろうか?
「分かるよ、だってお姉ちゃんだもん。」
(あっ、…これあの時と同じ……。)
舞衣に抱きしめられる沙耶香は、可奈美に握手してもらったときと同じだと思い、この暖かい気持ちは何なのか考えていた。
「沙耶香ちゃん、み~つけた。」
しかし、沙耶香を探していた結芽に見つかってしまう。
結芽が沙耶香を探していた理由は、雪那が沙耶香のことを探し回っているのを見て、結芽は自分が見つければ自分のことを認めてくれる人が増えるかも知れないという考えで探していたからであった。
ただ、自分を認めて欲しいが故に……。
どうして男の刀使は居ないのって?御刀が男子を選ばないから。
でも、沙耶香ちゃんはもう既にノロを注入されているのかな?そこが分からん。目が妖しく光っているから間違い無いと思うんだけど……。まっ、良いか。