【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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20話を投稿させて頂きます。
お気に入り登録と評価をして下さった皆さんの応援のお陰でゲージに色が付きました。人生初投稿の小説なので至らないところが多く、散々な評価が下されるのではないかと戦々恐々としていましたが、高評価を下さってありがとうございます。
本当に拙い部分が多いところがある文かも知れませんが、これからも指摘等、御愛顧のほど宜しくお願いします。




姫和とタギツヒメのしょうもない戦いは二人共自滅で終わり、朱音は気を取り直し質問を続けていた。

「……では、タギツヒメ。貴女はどのような経緯で姉さまに憑依し、どうやってこの少年に憑依したのですか?」

「そ……その前に……水をくれ……。」

「ふっ、ふん。お前は水道水で充分だろ?」

「何を言うかっ、乳無し!!」

「まだ言うかっ、変態!!」

朱音の問いに、タギツヒメはその前に水を飲んで咽の渇きを潤したいと所望するが、姫和の挑発に乗り、再度のどんぐりの背比べのような罵り合いに発展すると思われた。

「……二人共、少し静かにして。じゃないと、干からびるまで水を飲ませないよ。」

「うっ、……すまん、可奈美。」「申し訳ありません、お義姉さま。」

しかし、可奈美の静かな怒りの一言により、姫和とタギツヒメの両者は押し黙る事となる。

「勝手にお義姉さまと呼ばないで、まだ認めていないから。」

「そんなぁっ、お義姉さま~~っ。」

タギツヒメは可奈美のことをお義姉さまと呼ぶが、可奈美に拒否され涙ぐむタギツヒメは朱音に慰めてもらっていた。

朱音は少し思うところはあるが、努めて冷静にタギツヒメを慰めてどうにか復活させ、水を飲み終わった後、少し休憩させ、再び質問するのであった。

「……もう一度、お尋ねしますタギツヒメ。姉さまとこの少年とはどういう経緯で憑依したのですか?」

再度、タギツヒメに質問した朱音は、今のタギツヒメを見て落ち着くと、自然体で訊くことができた。

「紫とは交渉を持ち掛けて、賛同させた後に同化したぞ。……まあ、その後は紫が未来のお義母上様とそこの貧乳の母がその後どうなったか凄く気になっていたらしくてな、紫の身体が壊れては不味いと思った我等は、お忍びで見に行く事を許可してやったのだ。」

「……なるほど。」

未来のお義母上様という不穏なワードをスルーした朱音はそれを聞いて、安堵と不安を抱いてしまった。紫の精神は完全に乗っ取られていないのだろう。早く助けたいが、どうする事も出来ず、病弱が理由で刀使にすらなれなかった自分の至らなさに歯痒さを思う。

そして、貧乳と言われた姫和はタギツヒメを睨んでいたが。

「その時だったか、まだ3歳の伴侶と出会って一目で惚れてしまってな。そのときの紫は我の意識の侵食に抗ってて大変そうだった……。危うく、紫が我の伴侶を無理矢理押し倒すところであった。私はそこまで汚れたくないとか言って、紫はどうにか我の侵食に抗っておったぞ。まあ、それが発端となって、辛気臭い奴と面倒な奴に目をつけられてな、紫の中から追い出されてしまったわ。」

「そっ、……そうですか……。」

朱音はそれを聞いて、紫に対してなんとも居た堪れない気持ちを抱いてしまった。

「……まあ、我はかっ神でであるから、伴侶がが愛人の十人や二人くらい持ってても何にも抱かんしし、むしろそれぐらいの、それぐらいの甲斐性とかが無いとお、務まらんから何があったとしても、何があったとしても、何があったとしても、……我は心が広いから何の問題無いデスヨォっ!!」

朱音はそれを聞いて、タギツヒメが手とか足とか怯えるように震え、口調も変わり、早口で噛みながら説明しているのに気付き、こう思った。

(……手が震えてますね。少し早口でしたし。)

無理して虚勢を張っているのだろうと朱音には分かってしまった。

(…つーか、手が震えてる……。)

(…手とか震えていて、しどろもどろに喋っていマスシ。口癖が私みたいになってマース……。)

そして、薫とエレンもそのことに気付いていたが、特に気にしなかった。しかし、やはりそれに気付いたタギツヒメは段々と赤面となると、

「うぅぅぅ……。」

自分で言っていたことを思い出しては部屋の隅に座り、落ち込んで恥ずかしがっていた。

それを見た朱音は厄介な性格だなぁ……とか、思いながら努めて冷静に喋りかけた。

「……てっ、照れないで下さい、タギツヒメ。」

「てっ、ててて照れてないぞ!神である我が照れる訳なななかろう!!かっ、勘違いするなぁ!……えーっと、えーすまん紫の妹!!」

タギツヒメは自分で言ったことを思い出し、照れてしまったことにより動揺してしまい、朱音の名前を忘れたので、そのことを詫びながら必死でそう言っていた。

「……まっ、まあ、そのだな、そんなこんなでノロの軍事利用という依頼を受けたスレイドという名のクズ科学者だったか。……そいつが我と愛しの伴侶を一つにしたのだ。」

そして、タギツヒメは誤魔化すため、別の話題に無理矢理にしかも不自然に変えていた。

(((やっぱり、恥ずかしかったんだ。))))

しかし、残念なことに皆気付いていた。

「……やっぱり、アイツも鎌府の研究に一枚噛んでいたか……。」

「グランパ、アイツってことは知り合いなんデスカ?」

タギツヒメがスレイドという名前を出し、フリードマンは知っているかの様なことを言うと、エレンはそれについて聞く。

「……まあね、彼はノロと人間を融合させ、強化・進化させる研究をしていたまともじゃなくなった奴だよ。昔は突っ掛かって来て、よく競い合っていて、真面目だった。僕と違って研究資金に苦労していたから、充分な研究が出来ず、日の目を見ることはなかった。その後は、…そこまで落ちぶれることになるとは思わなかったけど。」

「んで、今はマッド野郎になっていると?」

「二十年前に少し会ったけど、……昔の彼は間違ってもそんなことをするような人じゃなかったけどね。」

薫はスレイドのことをマッド野郎と蔑み、フリードマンにスレイドのことを訊いていた。そして、フリードマンはスレイドの人となりを語り、ノロと人体の融合をするような人ではなかったと答えた。

「ほう、ではそこな年寄りはスレイドのことを知っているそうだな、息災か?」

「……盗んだノロを使って、個人で人体実験をしたということで捕まっているので、今は刑務所の中に居ます。…どうして、そんなことを聞くんです?」

タギツヒメがスレイドの所在を聞いてきたことに、疑問に思ったフリードマンは訊いてみることにした。

「彼奴はな、我を謀ったのだ。……普通なら、“龍眼”によるあらゆる可能性を見せられれば、その力を抑えきれず暴走する。しかし、我が伴侶はそうならない、何故だと思う?」

「龍眼って何?あらゆる可能性?」

可奈美はタギツヒメにそのことを尋ねる。

「分かりやすく言うとな、可奈美お義姉さま自身がそこの貧乳を何度も何度も切り刻んでいる……いや、あらゆる方法で殺す光景を無理矢理見せられているとしたら、どう思う?」

可奈美は絶句した……。

優はそれに何度も耐えていたのかと思うと、居た堪れない気持ちになる。

「それを耐えるために、暗示や薬物によって精神を壊し、無理矢理安定させたのだ。自分の研究を人に認めさせ、見返すためにな!……その代わり、表情が豊かだった優は、感情の起伏は少なくなってしまったがな。」

タギツヒメの言うように、昔の優はよく可奈美の後ろに付いて行き、よく笑っていたし、泣き虫だった。けど、今は笑うときは有るが、基本無表情だ。きっと、スレイドに連れ去られたという影響で心を固く閉ざしてしまったのだろうと思ったが、違った。優を連れ去ったスレイドに改造されてしまったのが原因だったのだ。

 

よく見る、よく聞く、よく感じ取る――――。

 

何一つ出来ていない自分を強く責めた。大事な弟だと思っておきながら、何一つ見えていなかった、何一つ理解しなかったことに、可奈美は自分自身が無様だと思った。

「ごめんみんな、少し外に出るから、優ちゃんのことよろしく。」

「あっ、可奈美ちゃん外まで案内してあげるから……。」

そして、山中での戦いで痛みに呻くSTT隊員のことを思い出した可奈美は気分が悪くなり、外に出ることにしたため、それに気付いた累も一緒に付き添うことにした。

「一つ訊いて宜しいですかな、タギツヒメ?暗示や洗脳はどのような内容なのですか?」

フリードマンはタギツヒメに優に施された洗脳の内容を尋ねていた。

「……人を殺すことに疑問を持たないこと、目的達成のためなら自己犠牲も厭わないこと、この二つだけの筈だ。」

所属する組織とその指揮官には忠実であることも入れる予定だったが、その組織も指揮官も居なかったので省かれているといったことは、流石にタギツヒメも言わなかったが……。

姫和はそれを聞き、思い当たる節があった。

初めて会い、敵対していた沙耶香と真希を動揺することも無く殺害しようとしたこと――――。

親衛隊の夜見との戦闘の際、御刀の力を使うため、何事も無く御刀を自分の腹に刺したこと――――。

これらの行動は、その暗示や洗脳によってなされた結果なのだろうと確信した。

(……となれば、そいつが……。)

姫和は静かにスレイドという者に対し、憎悪と怒りの感情を抱いていた。

「我はあるとき気付いたのだ。どんなに焦がれていてもだ、所詮我は荒魂で伴侶は人の子であった。そのとき、我は深い孤独を知った。…当初我は、人間共に報復をしようと思ったが、それを知って空しさを覚えてな、どんなに人間共をボッコボコにしても我はボッチで悪役のまま、気は晴れんだろうということにな……。それであろうなぁ、辛気臭いのとスレイドというあんな小汚い出世できなさそうな無能科学者のたわ言を聞いて、協力してしまったのは……。」

「どんな協力をしたのですか?」

タギツヒメの話を更に深く追求するため、朱音は先を促す。

「人体に大荒魂との融合を完成させることだ。……確かに、伴侶と一つになれた。しかし、我が伴侶から抜ければ、ノロで強化された身体は無くなり、投薬と暗示の影響で優は薬物依存と様々な副作用によって短命化することになるとは思いも寄らなかった。だからこそ、我は伴侶のために全ての力を出していない。出してしまえば伴侶がどうなるか分からんから傍に居てやるべきだと思った。……そういうことだ。」

「なっ、何っ……!」

そして、タギツヒメの説明に姫和は衝撃を受ける。たとえ、優から上手くノロを抜いても救えないのではないかと思ったからだ。そして、可奈美も辛いままなのではないのかと……。

「そして、我は決意した。この礼はスレイドという奴にきっちり返そうと思っておる。……生皮を剥いでじっくり苦しめてやるとな。」

タギツヒメは物騒な決意を語っていた。それを聞いた朱音達は荒魂らしさを感じ、背筋が凍る思いをしたが、

「……なぁ、もう良いか?余り、身体を乗っ取り過ぎて嫌われたくないから、伴侶と変わりたいのだが……。」

タギツヒメは朱音にそう申し立てていた。

「あっ、はい。また何かお尋ねしたいときはお願いします。」

「ふん、我が伴侶がそれを望んだら、また表に出てやる。」

タギツヒメはそう言うと倒れ、優と変わる。

「……あっ、どうだった、何か分かった?」

優は半目で眠たげに朱音に訊いていた。

「ええ、あなたのお陰で色々と分かりました。ありがとうございます。」

朱音は優に本心でそう言っていた。まだ、姉が大荒魂に完全に乗っ取られた訳ではないことが分かり、少し安堵することができたからだ。

「ねえ、朱音おねーさん。ヒメちゃん悪口言ってなかった?」

「……えーっと、ヒメちゃんとは、誰のことですか?」

何となく察してはいるが、とりあえず朱音は優にヒメちゃんは誰のことか尋ねていた。

尚、優の中に居るタギツヒメは『紫の妹ぉ……!それ以上、我には無い大人の魅力で伴侶に近付くでない!!』と叫んでいたが。

「タギツヒメだから、ヒメちゃん!僕の大切な人。」

「そっ……そうですか……。」

二十年前の大災害を引き起こした大荒魂相手に渾名をつける9歳児に、朱音は妙な気分となっていた。

尚、ヒメちゃんと呼ばれたタギツヒメはキャーキャーと騒ぎ、ゴロゴロ転げ回りながら悶絶し、『ふぅ……。』と言って満足していた。

「色んな人に悪く言うけど、照れ隠しだから、気にしないであげて。」

と、笑顔で言ってきた優に朱音は、

「はい、存じております。」

と、優しく語り、朱音は優の頭を撫でながら微笑んでいた。

舞衣は、その光景を見て、ほっこりとした気持ちとなり、

エレンは、優がタギツヒメのことを渾名までつけて仲良くしていることを知り、荒魂と人間の融和は可能かも知れないと思い、

沙耶香は、タギツヒメの行動を見て、『……まるで子供。』という辛辣な評価を下し、

薫は、ショタコンとか通り越したナニかのタギツヒメと比べ、ねねはまだマシな方であることを再確認し、

ヒメちゃんことタギツヒメは、『ゆぅかぁりぃぃぃ!……の妹。伴侶の顔に無駄にでかい胸を近付けるな。』と言って、最後まで朱音の名前を言えず、胸の大きさで朱音に嫉妬していた。

そして、姫和は――――、

「おい、優、タギツヒメとは、……あいつ、タギツヒメとは仲が良いのか?」

ふと、そんなことを訊いてしまう。

「うん、とっても大事な友達だよ!」

そんなことを訊かれた優は、タギツヒメのことを大切な存在だと、笑顔で答えた。

「!…………そうか……。」

姫和は、優の笑顔が今まで見たこともないほどの笑顔であるように感じてしまう。そのうえ、父を奪った荒魂であり、母を殺したタギツヒメでもあり、今度は“大切な存在”さえも目の前で奪おうとしていると思った姫和は、優の中に居るタギツヒメに対して何かドス黒い感情を抱き、拳を強く、強く握り締めていた。

母のことを立派な刀使と言ってくれた優――――。

自分のことを大好きだと言ってくれた優――――。

唯一、自分のことを全て認めてくれる優――――。

それなのに、今まで見せたこともないほど、タギツヒメのことを嬉しそうに大切な存在だと語る優――――。

それらを一つ一つ思い出しては身が裂かれるような思いを抱き、ただただ苦しい気持ちになる姫和。小さな子供を思ってのことなのか、母の無念を晴らしたいのか、それともタギツヒメが羨ましく妬ましいのか、姫和は今も気が狂いそうな感情に支配されそうになっていた。

(……くそっ、今まで見たこともないくらい、何であんなに嬉しそうにするんだ!!そいつは大荒魂で、可奈美と優を苦しめている元凶で、化け物なんだぞっ!!なのに、何でこっちにはそんな顔を見せてくれないんだ。……なぁ、何故なんだ?何がいけないんだっ!?)

それが、どういった感情かも分からず、何故憤っているかも分からず、ただただ苦悩する姫和は心の中で慟哭していた。

父も母も他界し、折神紫の暗殺に専念するため徹底してクラスメイトたちと距離を取っていたため、ずっと一人だったことにより、見返りの愛を無意識に求めていることに気付かずにいた……。




荒魂×ショタ×刀使×故人というわけ分からん謎の四角関係に発展。
そして、脚本の髙橋龍也さんのツイートからひよよんの父親は小学生の頃に殉職していたとか結構ハードな人生を送っていたことに衝撃を受けました。

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