【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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21話を投稿させて頂きます。
あと、可奈美ちゃんってアニメ本編を観る限り、刀使になれなくなったら心理カウンセラーに向いていると思うの。


偽りの姿

刀剣類管理局本部訓練場――――。

その中で、結芽とソフィアはお互いに迅移を駆使し、激しく凄まじい剣戟を繰り広げていた。

ソフィアは結芽の突きを振り下ろしで軌道を変え防ぐと、大太刀の利点を生かし、大脇差の利点を潰すため、横薙ぎに斬り、結芽をバックステップで回避させると距離を空けさせる。それに気付いた結芽は迅移で懐に飛び込むと胸辺りを狙って突きを繰り出すが、ソフィアは身体を僅かに横に逸らして躱すと、刀身を短く持って巻き上げるように斬るが、“少し遅れたため”なのか、結芽は難なく躱す。

突き、薙ぎ払い、袈裟斬り、振り下ろし――――。

幾度も打ち合い、長い時間が過ぎ去っていった。そんなただただ長い剣術の試合を見ていた穂積と静は、

「写シを一回斬らせたのは、わざとですね。」

「……時間を長引かせて症状を悪化させようとしているんでしょう。普段の隊長なら体格差を活かして戦う筈ですから。」

そんな感想を結芽には聞こえない声で漏らし、ソフィアと結芽の戦いを見ていた。

現在、写シを二回斬られた者の負けというルールの試合をしており、両者共に写シを一回斬られて残り一回となっていた。拮抗した戦いを見せているが、ソフィアが服を掴んで柄頭や肘で殴打したり、首を絞めたり目潰しをしたり足を踏んだりといった反則行為をしなかったこと、写シを解除して戦ったり、身体を掴んで持ち上げて斬ったりしないところから、本来の戦い方をせずに手加減して戦っていることが穂積と静には分かっていた。

「これ、いつまで続くの?」

「隊長がマズイと思ったら、即斬ると思いますよ。」

結芽の症状を悪化させるためとはいえ、1回戦からズルズル戦い、3回戦まで長引いていた。そして、穂積の予言通り、ソフィアが上段斬りで結芽の右腕を切り落とし、結芽の写シを剥がしていた。

「ほらね。」

「ほんとだ。」

穂積と静はそんな会話をしつつ、このただただ長い退屈な試合がやっと終わり安堵していた。

「あぁーもぉーっ!!もう少しなのに勝てなかったぁーーー!!」

結芽が悔しそうに手をブンブン振りながら、大きな声で叫んでいた。

「いや、結芽さんも中々手強かった。それでなのか、結芽さんとの手合わせが楽しく、つい夢中で時間が忘れるほど戦いました。」

ソフィアはそう言って結芽に手を差し出し、立ち上がらせる。言っていることは本心ではなく、嘘だが……。

「……うん、私もおねーさんと戦えて楽しかった。」

嘘を言うソフィアとは対照的に結芽は正直に、強い人と戦えて嬉しかったと答える。

「ところで、その鞘についてるシールとストラップ、……もしかして。」

「うん!親衛隊のおねーさんたちに買ってもらったの!」

ソフィアは鞘についてるシールとストラップを利用し、相手に親近感を与え、近付こうとした。

「おねーさんも、イチゴ大福ネコ好き?」

「最近知ったばかりなので詳しくありませんが、……知り合いに好きな人がいますので、良ければその者と一緒にどうです?」

「そっか!じゃあ今度、一緒にその人とも、お買い物に行きたいな!」

ソフィアの誘いに乗ってしまった結芽は、そう答えてしまう。

「良いですね、何名か誘って大勢で行った方が楽しいでしょうし、いつか行きましょうか。」

ソフィアは心の中で『行ける日が有ればな。』と思いながらそう答えて、結芽の信頼を得る。

「……ねえ、おねーさん。私達、違う形で出会ってたら、お友達になれたかな?」

そう言ってきた結芽にソフィアは信頼を得たと確信し、次の手を打つ。

「ええ、なっていましたとも。…同じ学院に居たとしたら、毎日試合を申し込んでいると思います。結芽さんの戦い方はずっと見ていたいので。」

ソフィアは結芽が病で苦しみもがく姿を想像し、それを見たいと心の中で思いながら、結芽にそう答えていた。

「同じ学校かぁ……。ふふ……とっても楽しそう。だからこそ……残念だなぁ、悔しいなぁ。」

「何がです?」

結芽の独白に、ソフィアは既に結芽の病については知っているが、尋ねる。

「……ねぇ、おねーさん。……私のこと、忘れないでね……。」

「ええ、貴女の戦い方は印象に残るので、ずっと忘れません。天然理心流の極地しかと見届けました。」

と、そんなことを言ってくれたソフィアに感動したのか、結芽は嬉しそうに答える。

「……ありがとう、おねーさん。また、試合してくれる?」

結芽にそう尋ねられ、ソフィアはそれを快諾する。

「ええ、勿論。」

「……うん、次はもっと強くなってくるからねーーーっ!!」

ソフィアに結芽はそれだけ言うと、走りながら訓練場から退室していった。

「……という訳だ。何か質問は?」

結芽が退室し、この場に居ないことを確認すると、穂積にそう言ってきた。

「結芽さんのことを気に入ったんですか?」

「どうして?」

「結芽さんのことを忘れないって仰ってましたが。」

穂積の問いに、「ああっ、それか。」と言い、ソフィアは穂積にこう答えた。

「あれはな、そう言えば喜ぶし、何より今後も病でアレが苦しむ姿を拝めると思えば、愉しめるし忘れられんだろう。そして、アレの心理を考えたら、ボロ勝ちして勝負を挑まれなくするより、僅差で勝った方がもう少しで勝てると思わせることができ、勝つまで何回も挑まれる可能性が高くなる。だから、そうしたまでだ。」

ただただ結芽の苦しむ姿を見て愉快に感じたかったから、一試合ずつ長期戦に持って行き、病状を悪化させようとしたこと。僅差で勝ち、勝負を挑まれるように誘導しようとしたことを告白していた。

「……なるほど、そんなやり方もあるんですね。」

「そう、あの歳で追い詰められたらどうなるか見物だろう。ああ、それを考えると愉しみでしょうがない。」

ソフィアはそれだけ言うと、邪悪な笑みを浮かべていた。

(でも、本音は結芽さんが恵まれていることに、嫉妬しているからこそなんでしょうけど。)

しかし、穂積はソフィアが別の理由で動いていることに気付いていた。

「……ゲホッ、ゴホッ!……ハァ、ハァ。待ってて、…もっと強くなって、……私、頑張るよ。」

このとき、結芽が一人で孤独に血を吐いていることに、誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

舞草の隠れ里にて、姫和は――――。

『紫の事は私とここにいる舞草がなんとかします。だから……。』

姫和は朱音の言っていたことを思い出し、外を出て思案していた。

子供ばかりに戦わせたくないということなのだろう、…言いたいことは分かる。

『…姫和おねーちゃんのことを何も知らない癖に悪く言う奴と邪魔する奴は一匹残らず僕がやっつけてあげる。』

しかし、幼子との約束を思い出し、これは自分が為すべきことであることを再確認する。

『……これだけは言えるよ。私の剣が守る剣なら私は、姫和ちゃんの目的と、優ちゃんと姫和ちゃんを守るよ。』

『…人に化けた荒魂を斬るそれだけだよ。それ以外は私が斬らせない、それが私の覚悟だよ。だから、姫和ちゃんの重たそうだから、半分私が持つよ。』

そして、恩義に感じていた人からの声援を思い出し、改めて決意する。紫は、タギツヒメは自分が討つと……。

『うん、とっても大事な友達だよ!』

「……。」

だが、優が言っていたことを思い出すと、胸が張り裂けそうな気持ちになっていった。

今まで見たこともないくらい、嬉しそうな顔をしていたことが気になって仕方なかった。

タギツヒメに対して嫉妬と羨ましく感じ、優に対しては憧憬の眼差しと恋慕の感情を向けて欲しいという綯い交ぜな感情を姫和は抱きつつあった。

「あっ……。」

しかし、累と一緒にいる可奈美の姿を見ると、その考えは吹き飛んでしまった。

「可奈美。」

ふいに、可奈美の名を呼んでしまう姫和。もう大丈夫なのか心配して可奈美に近寄る。

「……姫和ちゃん……。」

少し元気なさそうだったが、可奈美はいつものように返事をしてくれた。

「大丈夫か……?」

「うん、平気。」

姫和に聞かれ、目を合わせずに手をパタパタと振る可奈美。

「ごめん、姫和ちゃん。可奈美ちゃんに付いてもらって良い?ちょっと、用事があって……。」

「わかりました。」

累は仲の良い姫和と一緒なら可奈美も落ち着けるだろうと判断し、可奈美達から離れる。そのため、この場には姫和と可奈美の二人が残っていた。

「……姫和ちゃん、私一つも気付いてなかった。……姉としては失格かな?」

姫和は黙って聞いていた。何も言えなかった。血の繋がった兄弟姉妹が居ない一人の姫和には。

「でも、もう少しで優ちゃんとの約束を守れると思う。舞草がこの戦いに勝てば、きっと優ちゃんから荒魂を抜くことができて、普通の男の子になれるから。」

「……あっ、……そうだな。」

姫和は少し微笑みながら、そう答える可奈美に何も言えずにいた。

『荒魂を抜いちまえば死ぬな、多分。』

『しかし、我が伴侶から抜ければ、ノロで強化された身体は無くなり、投薬と暗示の影響で優は薬物依存と様々な副作用によって短命化することになるとは思いも寄らなかった。』

トーマスとタギツヒメ、この二人の話を知らない可奈美のことを思い出し、姫和はどう言えば良いか分からなかった。

もう優は人並みの生活を送れないと、真実を言うべきなのか、姫和はどうすれば良いのか分からなかった。

「……そうだな、そうだ。…それまで、一緒に半分持ってくれるか?」

「……もちろん。」

姫和は可奈美にそう言って、嬉しそうに反応する可奈美を見るのが辛かった。嘘を虚偽を吐いてしまった恥と罪悪感に姫和は押し潰されそうになっていた。

何故、本当のことを言わないのだろうか?ただ、単純にこの関係が壊れることが嫌だっただけなのだろうか?それとも、自分自身が非難されることに臆病なだけなのだろうか?……関係のないことまで考え始めてしまう姫和。ただ、ストイックに真っ直ぐに進む子は悩み、曲がりくねってしまった。

「……おい、何をしているんだ、こんなところで。」

ふいに、トーマスが現れると、警戒し身構える姫和と可奈美。

「……すっかり嫌われたな、俺。」

「当たり前だ。」

トーマスの軽口に、姫和は軽蔑していた。

「トーマスさん、一つ訊いて良いですか?」

「……何だ?」

「何で、優ちゃんにあんなことをするんです?」

可奈美はトーマスにそんなことを訊いていた。

「……んなもん、あの子供が荒魂だからさ、あと鎌府の制服を着せたのも“ごっこ遊び”させて人を殺しやすくさせるためと、高津学長の脅しだ。……ついでに言うとだ、次に親衛隊と戦闘になったら優か鎌府の制服を着ている沙耶香を囮にして、お前達は背後か側面を叩いてもらうつもりだった。」

「おいお前っ!……可奈美?」

姫和はトーマスの考えに怒るが、可奈美がそれを手で制すると、

「あの!トーマスさん!私と剣の立ち会いしませんか!?」

と宣う。その一言に思わず『ハァッ?』という表情をする姫和とトーマス。

「お前なぁ……、何のつもりだ。俺は剣術なんていう棒振りなんかやったことないんだぞ?小さい頃からコレしか知らん。」

と言って、懐から拳銃を見せるトーマス。事実、9歳の頃から30-06スプリングフィールド弾を使用するボルトアクションライフルを携え、父親と共に狩猟に出かけていたことから間違いではない。

「トーマスさんは一度も私達を見てくれてない、それじゃお互い歩み寄ることもできないから。……だから、…その、……お互いよく見れば私達の事もよく知り合えるんじゃないかなって……。」

「おい、拳で語り合えばどうにかなるみたいな考えじゃないだろうな……。」

「う、うん……。」

姫和とトーマスは若干呆れながらも、言いたいことは分かっていた。理解しあえば蟠りも無くなると。

「いいや、そりゃ無理な話だな、……刀を振り回すことに嬉々として行う殺戮者に何を語り尽くせばいい?……ただ言えることはお前達みたいなのが、人々に偽りの正義と栄光を見せ、憧憬の念を抱かせ、それに誘惑されたSTT隊員や刀使の数をいたずらに増やしていき、そんな夢みたいな幻想を抱いた者達がどれだけの血を流して死んでいったと思う?」

「……可奈美。私は今確信した。…こいつはこういう外道だ。人々の代わりに祖先の業を背負い鎮め続ける巫女なんだということに理解などしない。」

理解し合えることなど無いとスッパリと言うトーマスに、姫和は冷たく言う。

「……これで分かったろう可奈美?俺とお前らとでは考え方がまるで違う。俺達の国に何故“銃”が必要かあまり考えたことないだろう?それと同じように、俺は少年兵のような刀使のことなんか理解に苦しむ。ここは女子供が武器を持って襲い掛かるベトナムか?……もっと言うとだ、優とお前達はどう違う?荒魂と化した人まで斬ってしまおうとするお前達とどう違う?」

「何が悪い?祖先の代から続け、母から受け継いだことだ。お前に何が分かる!?」

「フッ、ほらこれだ。そんな“呪い”にいつまで拘るつもりだ?いい加減気付いたらどうだ、お前なんかに人は殺せない、中途半端に終わるのが関の山だ。……代わりにあの荒魂、優に頼んだらどうだ?」

「何だと?」

「そうすりゃ、お前の恨みは晴れるだろう?母の願いだか何だか知らんが、タギツヒメを同時に始末できる。今の世の中、どう足掻いたところで戦いは無くならない。なら、最短の方法で決着をつけることが最善だろう?…だが、そんなことをする俺は悪辣か?それでも良いさ、喜んで呼ばれてやる。俺は刀使ではないからこんなことしか出来ん。だが一つ言える、正義でなんか世界は救えない。それを歴史が証明している。何も変わらない。」

姫和はトーマスの考えを聞き、相容れない存在だと理解するが、可奈美はこう尋ねた。

「じゃあ、何でトーマスさんは戦うんです?何も変わらないのに?」

「……何で戦うか、お前にしては良い質問だな。……そうだな、とある親友と『世界平和のために。』とかいつもバカみたいなことを言っていた。だがその親友はベトナムで靴磨きをしてくれた少年に爆殺された……。いいか、平和なんて存在しない、ありえねぇんだよ。」

可奈美の問いかけにトーマスは気付くことなく流暢に喋っていた。

「なあ、天国や神の国でも戦いが有ったことを知っているか?元天使のサタンやら、北欧神話やらを読めば幾らでもそんな話が出てくる。……天国や神の国でも穢れた戦争が起こる。戦争は人の営みだ、歴史だ、無くそうとするなんてバカげている。……いつもどうして、戦うんだと訊かれればこう返してやる。『ただ、勝ちたいだけ。』とな、お前だってそうだろう?試合に勝ちたいって思ったことぐらいあるだろう?」

そうして、トーマスは最後に憎まれ口を叩くが、可奈美はこう返した。

「……だいたい分かりました。トーマスさんも正義を信じたことが有る人だよ。」

「!……何を根拠にそんなことを言いやがる!!」

「根拠は有るよ。だって、本当に悪辣な人は自分で悪辣とか言わないし、世界平和を望んでいた親友を悪く言わなかったから。……見えた気がしました、貴方の事が。かつての貴方は正義の味方のようになりたかったんでしょう?私には貴方が何に裏切られ、何に絶望したかは分からない。けど、そんなことばかりしていても、何にもならないよ。いずれ本当の自分と向き合わないと本当に欲しかった物は手に入らない。……うまくは言えないですけど、これだけは言えます。」

このときのトーマスは可奈美の話を聞き、昔を思い出していた。

――――世界平和のため、安全な世の中を夢見て軍に志願した親友と自分。

――――戦争が終わり、地獄から自分の国に帰れば、“赤ん坊殺し”と、“殺人鬼”と罵られていた。

――――その後、昔の仲間は皆、クスリに溺れるか、自ら命を絶っていた。

――――戦友も、親友も国のために、理想のために戦ったが、賞賛されず孤独に消えて逝った。

何故かトーマスは、つぶさにそれを思い出していった。

「ハズレだ、ハズレ、お前に何が分かる。…バーカ。」

トーマスはそれだけ言うと、可奈美達から離れて行った。




ソフィア「後々病で苦しみもがきながら戦うとか、面白い物見せてくれるんだから印象に残るって。」(爆笑)
この人の本心はこんな感じ。

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