年末になると色々有るので遅れましたが、なんとか年内には間に合いました。(私が遅筆のせいでもありますが。)お許しをっ!
「博士、例のアンプルは?」
「一応解析中だが、ここの施設で無理だった場合、長船の友人達に運んでもらいたい。」
「分かりました、アンプルが想像通りのものなら折神家と鎌府が行っている非道を白日の下に晒すことができます。」
「我が孫達が危険を顧みず手に入れたプレシャスだ。無駄にはせんよ。」
紗南の問いに、このアンプルを入手するまで犠牲になったシェパードとマイケルを思い出したのか、少し苦笑しながら答えるフリードマン。
「褒めてクダサーイ!」
「よーしよしよしよし。」
紗南はマイケルとシェパードが戦死したことにエレンが気付かれないようにするため、湿っぽくなった気持ちを誤魔化すようにエレンの頭を力強く撫で回していた。
力強く頭を撫で回されたエレンは「わふわふわふ。」と犬のような声を出して喜んでいた。それを見ていた紗南は幾分か心が晴れていく気分となっていた。
「これは賞与ものだな。期待してるぞ。」
「なら喜べ、もっと出世させて、もっと忙しくさせてやる。」
紗南の意図に気付いた薫が軽口を言うが、仕事量を増やし更に忙しくさせてやるという返答に薫は「お゛ぅい。」と奇声を上げ、やぶへびであったことを痛感するのであった。
しかし、そのアンプルに可奈美が見た“荒魂の目”が現れていたことに誰一人気付いていなかった……。
その後、舞衣と沙耶香はジャージに着替え、優と共に布団を敷いていた。
「こっちに来てすぐなのに凄い話聞いちゃったね……。」
「私はこれからどうすればいい?」
ふと、沙耶香は舞衣に尋ねていた。
「どうって…普通に……。」
「私は今まで戦うことしかしなかったから。」
「……沙耶香ちゃん。」
「でも、戦うと何も考えなくなる。それで、この温かい気持ちも失いそうで怖い。……でも、みんなの役には立ちたい。」
沙耶香は悩んでいるのだろう。雪那に温かい気持ちを捨てないと言ったが、その後はどうすればいいのか分からないのと、戦うと無心になってしまうのが怖いのだろうと舞衣は思った。だが、舞衣の方もどう答えるべきか悩むが、
「沙耶香おねーちゃん。戦いたくないなら止めないけど、勿体無いと思うよ?」
「えっ?」
突然、優がそんなことを言ってきたことに驚く舞衣と沙耶香。
「だって、大切な人のために戦うと嬉しいし、温かい気持ちになるって“他人”に教えてもらったから。それなら、沙耶香おねーちゃんが荒魂を退治すれば他人に感謝されるし、稽古に励んで剣術が上手くなれば可奈ねーちゃんも喜ぶから、きっと刀使を続けた方が温かい気持ちになると思う。……それに、沙耶香おねーちゃんは温かい気持ちを捨てずに頑張っているから、僕なんかじゃなれない、強くて立派な刀使さんになれているから。怖がらないで。」
「……。」
沙耶香は優にそんなことを言われて、嬉しかったのか、少し照れながら頭を撫でていた。しかし、優が言っていた“他人”は山中での戦いでバックマウントを取られたSTT隊員のことであることに舞衣と沙耶香は気付いていない。
「……ありがとう。優。」
「んっ、どう致しまして。」
沙耶香に頭を撫でられていた優は、気持ちよさそうにしていた。そして、舞衣はそんな光景を微笑ましく見ていた。
(うん、私、強くなる。……ずっと、自分は強いと思ってた。与えられる任務をこなすのは簡単だった。だけど、そんなのちっぽけだった。……今はもっと強くなりたい。強くなって……みんなの役に立ちたい。可奈美や、……姫和よりも、……そして、この子の目と期待に応えたい。)
沙耶香は内なる炎を燃やしていた。小さい子の期待に応えるべく。
明日に向けて、皆就寝するところ、
「ヤダ。優ちゃんと一緒が良い。」
男女別れて就寝すると決めたそんな中、優を抱き抱えた可奈美だけがそんなことを言っていた。
「いや、その歳でそれはなぁ……。」
薫はもう9歳だからローク達が居る部屋で寝かせれば良いと言ったら、可奈美が反発したので困惑していた。
「……あっ、えっと、薫ちゃん実は……。」
薫は舞衣の話を聞いて納得することにした。
曰く、母が死に、一人になったのが辛かったこと――――。
曰く、優がまた居なくなり、知らない内に消えることに恐怖していること――――。
可奈美はそんな精神状態だと知らされた薫はしぶしぶ諒解し、優に向けてこう言っていた。
「おうい、良かったな。こんな綺麗なお姉さん方と一緒の部屋に寝られて、素直に喜べよっ!!」
フハハハと高笑いしながら、薫はこう宣言していた。
「やったね!優ちゃん!!」
「お前が喜ぶんかいっ!!」
可奈美と薫がそんな大きな声でコントをしていたら、
「おまえらっ、煩いぞ。……早く寝ろっ。」
舞草の刀使のリーダー格の1人でもあり、戦闘指揮官の米村 孝子にこっぴどく怒られることになってしまった。
「ねぇ、姫和ちゃん。……なんだか不思議だね。こうしてみんなで一緒に寝られるなんて……。例のアンプルが手に入って、舞草の人達が本格的に動けるようになって、私達は助かるかも知れない。……だから、ありがとう姫和ちゃん。……姫和ちゃんの行動が起こした結果なんだから、姫和ちゃんの頑張りは間違いじゃなかったんだよ。……うん。」
可奈美は物思いに耽っていた。
最初は荒魂の目が見えたため、折神家のことが信用できず、当ても無く姫和と一緒に逃亡することに不安だったが。今はこうして沙耶香と舞衣が居ることに、仲間として戻って来たことに感動していた。
「可奈美……お前も折神朱音のように後は舞草に任せろと言う気か?」
「言わないよ。」
姫和は、可奈美に優が今どのような状態か言えていないのに、感謝の言葉を言われることに酷く罪悪感を感じていた。
「二人ともうるさいデスよ~、特にひよよん。怒られたくなければ寝てクダサイ。」
「なっ!」
孝子にまた怒られるのを見るのが嫌なのか、エレンは先程の事を言って、注意していた。
「黙って寝ろ。……明日は頼んでもないのに舞草の先輩方が稽古をつけてくれるんだ。マジでしごかれるうえに、これ以上怒らせると何されるか……。分かったなら、前みたいなタギツヒメと仲良くしていたお喋りみたいなことは止めて、さっさと寝るぞ。」
ねねも「ねーっ。」と言って声を出していて、薫もこれ以上孝子達を怒らせたくないので早く寝て備えるようにと言っていた。
それに可奈美は「はーい。」と答え、優を抱き枕にして目を閉じて眠りにつく。しかし、姫和は“タギツヒメと仲良くしていた”と言われたことに引っ掛かっていた。
姫和は夢を見ていた――――。
幼い少女が白い布で覆っている人に向ってすすり泣いている夢。
「……どうかしたのか?」
不憫に思った姫和は、その幼い少女に近付き声をかける。
「……母さんと父さんが死んだ……。」
それを聞き姫和は、その少女に「誰に?」と訊いてしまう。
「……荒魂。」
それを聴いた姫和は、おもわずその幼い少女の顔を見てしまった。
「……どうしたの、お姉さん、……怖いの?」
「……名前は?」
「十条 姫和。」
幼い頃の自分に似ているような気がする幼い少女が居た。そして、自分と同じ名前であることから、もう一人の自分のようなものだろうと姫和は理解していた。
「どうして荒魂なんかと仲良くする?そんなに相手にしてくれるのが嬉しかったのか?」
「……違う!あの子は、優は荒魂なんかじゃない!!ただの子供だ……。」
「嘘ばっかりだ!あの子自身が荒魂だと認めたとき否定しなかった!!だったら、あのトーマスとかいうジジイが言っていたように荒魂同士が殺し合えば荒魂を斬って鎮めることも、母さんの願いだってやり遂げることも出来たのに何でそれをしないんだ!!?」
自分によく似ている幼い少女はそう言って自分を糾弾していた。
「それは……。」
しかし、姫和は何も言い返せなかった。
「私はお前の考えが分かるよ。嬉しかったんだろう?自分はこんなに苦しんで頑張っているんだから、一人くらい自分を認めてくれる人がいて、その人が自分のことを賞賛してくれることを。……頑張りの見返りが欲しかったんだろう?だから、お前は母の形見でもあるスペクトラム計を潜水艦の中に置いて来たんだ。」
幼い少女は鬼女のように顔を歪ませ、姫和を激しく罵っていた。しかし、姫和は復讐鬼になるとこんなふうになると見せられているかのように思ってしまった。
「振動して中のノロが優の方に指し示すのを見ることになるのが嫌だから、……そんな理由で置いて行ったんだ。……母さんの思いを散々利用した挙句、踏み躙って捨ててきたんだ!!……そんなお前が母の使命だとか、人々の代わりに祖先の業を背負い鎮め続ける巫女だとかよく言うよ。……ただの単純に自分を良く言ってくれる子を周りに置いて、良い気になってるだけだ!!違うかっ!!!……そんなお前が刀使なんかであるもんか!母の思いを利用して気に食わない者を痛めつけたかっただけなんだお前はっ!!!」
「!!ちっ、違う私は……!!」
姫和は自分の言葉が段々と小さくなっていくのが分かっていった。分かっていたが、叫ばずにはいられなかった。
「タギツヒメを討つ理由はただ僻んでいるだけだろう?……父さんも母さんも荒魂に奪われ、今度は大切な者も奪われることにイラついたから斬るんだろう?」
「!……何時までも過去にしがみつく怨念が全てを分かったかのように言うなっ!!」
姫和は鏡に向って言っているような気持ちとなっていた。自らも“忘却”を選ばずに、“復讐”を選んだのだから。
「でも、これだけは言える。祖先はお前みたいな子供なんか認めない。ただの人殺しだって責めるだけだ。」
幼い少女は姫和に冷たく言い放つ。殺人鬼だと。
「……そんなことはない!子供を殺すことに祖先が喜ぶはずないだろうっ!!」
「でも、お母さんの時代のときは多く居たんだろう?……お前はこう言ったじゃないか?」
幼い少女がそう言うと、『ここ最近は人が荒魂化する事例はほとんど無い。だが、私の母の時代にはそう珍しいことじゃなかった。』という声がこの二人っきりの空間に響くように聞こえていた。
「母さん達はこんなこともしていたかも知れないのに、お前が、お前だけが特別扱いされる訳無いだろ。」
「……。」
姫和は、幼い少女に責められ、何も言い返せなかった。そして、後ろから声がして振り向くと、
『オマエハ、デキソコナイダ!!』
『ヒトゴロシッ!!』
『シンジャエッ!』
『オマエナンカ、イキテイルカチナドナイッ!!』
非難の声がたくさんと聞こえていた……。
辛うじて、これだけは聞こえていたが、声を出していたのは自分の祖先だと何となく理解した姫和の精神に深手を負わせるのには充分であった。
「……ちっ、違う。私は人殺しなんかじゃない、……嫌だ!私を人殺しと言って責めないでくれ!!」
耳を塞ぎ、身体を小さくして蹲るしかなかった姫和は、懐かしい声がはっきりと聞こえた。
「……姫和?」
母親の篝の声だった。今の姫和にとっては一筋の光明に思えてならなかった。
「母さん?」
姫和は、ただ篝の声がした方に向って走った。顔を見ず我武者羅に。
「……姫和、大丈夫だった?」
「うん、母さんも……!」
しかし、姫和は見てしまった。
「姫和?……どうして、母さんを捨てたの?」
スペクトラ計を手に持ち、ゾンビのように腐乱した姫和の母の顔が目の前にあった。
姫和はそれに驚き、篝を突き飛ばしたあと。そんな篝から目を背け、逃れるように、慌てながら逃げた。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。
逃げていたが、姫和は遂に篝に手を捕まれ……。
「私の思いを踏み躙る貴女なんか……、産むんじゃなかった。」
と姫和は、ゾンビのような篝に言われたような気がした。
そこで目を覚ました姫和は息を荒げ、ふと隣にいる可奈美と優を見る。
月の光に照らされて、安らかに寝ている姉弟の姿がハッキリと目に映り、それを守りたい自分とタギツヒメを許せない自分という相反する自分が居ることに気付くもどうすることもできなかった。
「…………。」
しかし、潜水艦まで戻ってスペクトラム計を取って来る気にもなれず、可奈美と優と向かい合う形で眠ることにした。
本当は、またあの夢を見るのが怖いので可奈美と優と一緒の布団で眠りたかったが、そこは何とか向かい合う形で我慢し、目を閉じてどうにかして眠り、今度はあの夢の続きを見ることなく、眠ることができた。
刀剣類管理局本部――――。
「……特にこれといった故障は無いですね。」
「これといって、特に有りませんですの?」
山中での戦いにて、優から荒魂の気配を強く感じた寿々花は、スペクトラムファインダーがそれに一切感知しなかったことに疑問に思い、当初は銃撃戦も有ったので故障かと思い直してもらおうと修理してくれるところまで、足を運ぶが、
「ええ、山中での戦いでしたから電波状況が悪かったのでは?」
しかし、何の問題も故障もなかった。それに寿々花は強く疑問を抱くのであった。
何故、反応しないのか?答えは、優の中に居るのがタギツヒメであり、そのタギツヒメへの反応を強くすれば、紫自身にも反応してしまう恐れがあることと、特殊な出自故に反応させることが出来なかったからである。
そんなことは知る由もない寿々花だが、新たな疑問と疑惑を抱かせるのに充分であった。
折神家によって細工がされ、最新式ながら偽情報を流すスペクトラムファインダーで真実を探求する寿々花。それとは対照的に、アナログながら真実を示すスペクトラム計から目を逸らす姫和。二人はあまりにも違う道を行くことになってしまった。
「……そうかも知れませんわね。お手間を取らせて申し訳ありません。」
寿々花は自身のスペクトラムファインダーを診てもらった職員から微笑みの顔を向けると、スペクトラムファインダーを返して貰い、そそくさと退室していった。
(……まずは、真希さんが復活するまで、色々と早急に且つ気取られることなく調べないと……。)
そんなことを思いながら、寿々花は情報を集めていた。最悪の場合、折神家が敵に回る可能性を考えての行動だが、果たしてあの折神 紫に気取られることなく、真希がいない一人の状況で調べられるかどうか不安ではあるが、真希が帰ってくる前にやっておくべきだと思い、寿々花は行動する。
ただし、寿々花は結芽のことを見る暇もなくなっていったが――――。
沙耶香ちゃんの心は少し晴れる。
しかし、ひよよんの現在の心境はボロボロ。
これで、年内最後の投稿になると思います。
皆さん、来年もまた宜しくお願いします。