【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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26話を投稿させて頂きます。
あぶないおねえさんが増えた。
そして、しばらくはこんな展開が続きます。


辿り着く先

「折神紫親衛隊第四席燕 結芽。あーあ、間に合わなかったかー残念。」

「神社にいた刀使はどうした?」

聡美のことを案じた孝子が結芽に訊く。

「刀使?あれが?全然手ごたえ無かったんだけど。でもこの御刀持ってた人はちょっとはマシだったかな~。」

結芽は孝子の言葉を聞き、いつも通り自分が凄い人だと覚えてもらうため、煽るように言い、聡美の御刀を放り投げる。

(ああ、……こいつか……舞衣おねーちゃんと沙耶香おねーちゃんをイジメていた奴は……。荒魂だし良いか。)

しかし、優にとっては敵でしかなく、殺すべき“荒魂”だと認識し始め、どうやって殺すか考えていた。

「良し、孝子も今の内に早く潜水艦の中へ。」

「いや、あの子が……。」

トーマスは孝子に潜水艦の中へ入るよう言うが、孝子は9歳児の優を置いて逃げることができなかった。

「あいつなら自力でどうにかできる。……今、親衛隊と争って逃げ切れられる奴が居るとしたら、……あいつだ。それに、舞衣達を纏められるのはお前だけだ。」

「……分かりました。」

錯乱している可奈美と舞衣を慰められるのは孝子しか居ないとトーマスに言われ、孝子は大人しく従った。

(聡美。……すまない。)

孝子は聡美の御刀を見ながら、潜水艦の中へ乗り込んでいった。

「優!可奈美ねーちゃんを一人にするなよ!!」

トーマスも優にそう言って、必ず帰って来るように言っていた。それを聞いた結芽はお子様を相手にしなければならないのかと落胆する。

「やるの?あんたみたいな子供が?あの長船のおねーさんかなんなら可奈美おねーさんに助けてもらっ「要らないよ。」」

結芽は優に怪我しない内に孝子か可奈美のどちらかと代わってもらうように言う前に、優は鉄の棒を振り下ろし、大きな破壊音と共に砂埃を上げて姿を眩ませていた。

「!しまっ……。」

結芽は慌てて砂埃の中に入って行こうとするが、不幸なことにSTT隊員の血で足を滑らせ、転倒してしまう。しかし、幸運なことに足を滑らせたことにより、“何か”が飛んで来たのを気付くことなく躱すことができた。

「ちっ……!」

それを見た優は始末することができなかったことを残念がるが、その隙に御刀を取り出すと八幡力を使って跳躍し、ノーチラス号の甲板上まで着地。潜水艦の中に乗り込んでいった。

「うっ。」

そして、結芽は見てしまった。何に足を滑らせてしまったのかを……。

「……何これ?」

そして気付いてしまった。足を滑らせたものは親衛隊の制服を朱く染め上げ、ベットリと穢していったことに、結芽は寒気を感じてしまった。

 

左を向いても――――

 

右を向いても――――

 

後ろと正面を向いても――――

 

STT隊員の死体だらけであった。

ふと、先程飛んで来た“何か”を見ると頭がパックリと割れ、血だらけの無惨なSTT隊員の死体があった。

「!……うわあぁっ!!」

結芽は仰天の声を上げてしまう。そして、結芽はSTT隊員の死体が皆、漏らしていることに気付いてしまった……。そんな死体を見た結芽はいずれ自分も死んでしまうと、こうなってしまうのかと強く思ってしまう。

「……そんなの、嫌だよ。そんなのって無いよっ!!」

誰も居ない所で結芽は死にたくないと叫ぶ。そして、結芽は気分が悪くなり、口を左手で押さえ、四つん這いになり、血を吐いてしまう。……何度も何度も咳き込んで。

「……ハァ、ハァ。……怖いよ。ヒッグ、…ヤダよぉ。……そんなの……。」

血で汚れてしまった左手の手のひらを見て、結芽はやがて来るであろう“無惨な死”に恐怖し、ただただ無力な子供のように、孤独に泣き叫んでいた。

 

 

誰も居ない暗い洞窟の中で――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数時間後、潜水艦ノーチラス号内にて――――。

(何やってんだよ、お前。……お前、英雄にでもなりたかったのか?バーカ……。バーカ……。)

トーマスはロークにそんな気持ちを抱いていた。死体袋に入っているロークに向かって……。

 

また、“大切な人”が“ただの物”となっていった――――。

 

また、友人が天国への水先案内人へと転職していった――――。

 

また、自分だけが生き残ってしまった――――。

 

「……そんな、……ロークさん、私のお陰で……日本語が上手になったって……言っていたのに。……これじゃあ、もう喋れないじゃないですか……。」

「ごめんなさい……ごめんなさい……ロークさん……私が、……わたしのせいで。」」

(お前まで、女子供泣かせてんじゃねぇよ。……お前までそんなことしたら、俺はどうすりゃ良いんだよ?……バーカ、……バーカ。)

舞草の刀使達と舞衣、そして累はロークの死体袋の前で嗚咽しながら涙を流していた。それを見たトーマスはロークにそんなことを思いながら、愚痴っていた。

(しかし、今後はどうするかだな……。)

今や自分達は大規模テロの容疑者となっている。となれば、アメリカ本国へ亡命しても帰される可能性が高い。

「……フリードマン。可奈美は“使える”か?」

「……全く、君は変わらないね。少しは気を使ったらどうだい?」

「柄じゃねぇ、今更。」

フリードマンは“使える”と言ってきたトーマスに注意していたが、トーマスは変える気はないと返答しロークの遺体がある部屋から退室するのであった。

 

 

 

一方、朱音は孝子から可奈美と舞衣のことを訊いていた。

「……そうですか。舞衣さんと可奈美さんは……。」

「ええ、舞衣は少し塞ぎ込んでいます……。可奈美はいつも通り振舞っていますが、どう見ても、あれは無理をしているだけです。」

孝子は、いつも通りにしている可奈美とロークが死に自身を責めている舞衣を思い出したのか、目を瞑り顔を伏せていた。

「……ですが、あの子のお陰で孝子さん達は――――。」

「ええ、だから私は可奈美に、あの小さい子にも、何も言えないんです!…………失礼しました。少し熱くなっているようなので頭を冷やしに行きます。」

朱音に言われたことに少し柄にもなく、ムッとしながら孝子は答え、朱音の居る部屋から退室していった。

(……可奈美には辛い思いをさせてしまった。……もしも、私が先に斬り込んでいたら……。)

だが、そのような仮定のことを考えていても無意味なことに気が付かないほど、孝子は思い詰めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞草の隠れ里跡地――――。

この日、結芽は気分が沈んでいた。

さっきまで一緒に居たSTT隊員の無惨な死体を直視したこと、そして自分も“いずれはああなる”のではないかと戦々恐々としていた。

「……ここで何をしているんです?」

取り巻きを連れたソフィアが近付いて話しかけて来た。結芽はそんな気分ではないと態度で表しながら応えていた。

「……何?」

「貴女にお伝えしたいことがあるので。」

一体なんだろう?結芽はそう思いながらソフィアの話を聞くことにした。

「STT隊員等が貴女の活躍のお陰で、助かったそうです。……皆、結芽さんのことを忘れないそうです。強くて立派な刀使が居ると……。」

それを聞き、結芽の瞳に活力が蘇ってきた。……そうだ、自分には“これ”があると。

「……そうだね。だから私はもっと戦おうとしていたんだったね。」

結芽は呟くように言うと、立ち上がり。前を向くようになる。

「……そうなんだ、だよね。……ソフィアおねーさん、私は真希おねーさんに言われたから鎌倉に帰らなきゃいけないんだよね。代わりに特別機動隊の人達に『ありがとう、私、頑張るよ。絶対!』って伝えておいて。」

結芽は満面の笑顔でソフィアにそう告げる。

「ええ、後のことは我々綾小路が引き継ぎますので……。」

ソフィアはそう言って結芽を見送り、舞草の隠れ里跡地に残るのであった。……そして、結芽が見えなくなったところで、

「…………意外にしぶとくて良かった。まだ死なれては困る。」

氷よりも冷たい言葉を結芽に投げかけていた。そして、携帯を取り出すと、

「……私だ。優くんだったかな?そちらの人達との会談を用意してくれ。」

舞草の内通者に話しかけ、会談を用意するように要請するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、姫和はとある一室で物音がしたので不審に思い室内に入ると、優が短機関銃のMP5のマガジンを抜いたり、レバーを引いたりして動作を確認しているところを見てしまった。

「…………。」

姫和は知らないことだが、前回の戦いでSTT隊員は山中の戦いにて突撃銃の89式小銃を使っていたが、舞草の隠れ拠点を制圧する任務の性質上近距離戦が多くなることを予測。精密に且つ迅速に銃を所持する外国人傭兵を制圧する必要があるため、STT隊員達はMP5を使うことにした。

(これ、持ち易いし使い易いな。)

警察向けとして造られ、多くの人々の命を守り続けていたであろうMP5は今や特殊部隊御用達短機関銃とも呼ばれていた。しかし、全長を短くすることもできるため身長の低い子供にも合い、そして反動がマイルドな上9mmパラベラム弾を安全に射撃することができ、クローズドボルト撃発のためか命中精度も高いこともあって当てやすい。そんなMP5を持っている9歳児の優を銃の知識が無い者が見れば、子供に使われる銃として造られたかのように見えてしまうことだろう。

「…………。」

実際、姫和の瞳にはそういう風に映っていた。

しかし、止めない。注意することすらもできない。

『“荒魂”が“人を荒魂呼ばわり”するか!』

 

――――自分の心ない言葉が引き金となって、この9歳の子供を殺人鬼に仕立て上げてしまった。

 

――――いや、この世の中がこんな子供ですら犠牲にするのに何も感じなくなっているようにも見えた。

 

――――子供を戦闘用に変えていくことに全てが賛同しているようにも感じられた。

 

「……それ、使えるのか?……」

何処から聞いたのか覚えていないが、銃を扱うにはそれ相応の訓練が必要であることを思い出してしまった姫和は何気なしに優に訊いてみた。そして、問い掛けられて姫和に気付いた優はこう答えた。

「うん、友達が教えてくれたから。」

「……そうか…………。」

自分は何を訊いているんだろうか?

「……ねえ、姫和おねーちゃん?」

「……何だ?」

珍しく優の方から何か尋ねてきたと思った姫和。

「……みんな何で泣いているの?」

何気なしにそんなことを訊いてくる優。そして、姫和は絶句する。

「みんな、ロークおじちゃんの前で悲しんでいるけど、何だかよく分からない。……おかしいのかな、僕?」

姫和はそれを聞いて、タギツヒメが言っていたスレイドという狂人が優の感情を奪ったことを思い出していった。

「……いや、…………おかしくない……お前は、おかしくない。……まだ子供だから分からないだけなんだ…………」

姫和はそう言って、優を抱き締める。

 

――――不安を感じないよう、

 

――――矛盾を気付かせないよう、

 

――――この関係が壊れないよう、

 

ただ優しく語りかけ、おかしくないと言う姫和。

(……なんだか…………落ち着く…………)

姫和に優しく抱き締められた優は眠りに誘われていた。まるで、自分の悩みごとが安心して、忘れさせてくれるようだった。

「…………。」

「……眠りこけてしまったか……」

こうなれば、子供にしか見えないのに、と思う姫和。しかし、誰かが覗いている気配を感じそこを見ると、

「何をしているのかなぁ~~。」

ニヤニヤした顔でこちらを見る可奈美が居た。

「……ちょうどいいところに来てくれた。可奈美、聞いてくれるか?」

「え?」

可奈美は少し驚いた顔を見せる。姫和は何を言うつもりなのかと思っていた。

「……決めた。私は決めたぞ、可奈美。……私はこの子のために戦う。」

姫和はそう言うと、寝ている優の頭を撫でながら答えていた。

「姫和ちゃん。お母さんのことは……。」

「少し、冷静になって考えてみたんだ。母の思いは一体どんなものか直接聞いていない。だから、本当に折神 紫を討つこと自体が、本当に母の思いを無念が晴れるのか分からない。」

それに、と言い姫和は続ける。

「……私の母がこんな子供を殺すことを望むなら、喜ぶのなら、……私はそんな思いを斬り捨てる。」

だから、と言い姫和は目を見開きながら決意を語る。

「……私も、優を救いたい。可奈美手伝って良いか?」

「でも、優ちゃんは……」

「あれは私が……考えもなく人を荒魂呼ばわりした罰なんだ……きっと。だから、私も背負う。この子を普通の子供に戻せば、また元通りに、三人で一緒に何処か行こう。……約束だ。」

「…………でも、歯磨き粉みたいなチョコミントは有るんでしょ?」

「ハァ?お前だけはあの味の良さが分からないようだな。優は分かってくれるのにな。」

「え~、うっそだぁ~~。」

「本当の話だっ!何で疑うっ!!」

こうして、チョコミントについて語る姫和の話しを聞きながら、可奈美は『ありがとう、姫和ちゃん。』と思っていた。

辿り着く場所も見えないまま…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この作戦も終わって帰れそうだな。」

「ああ、あんな殺人ボウガンはもう拝みたくはない。」

STT隊員達は、聡美達舞草に所属すると思われる刀使達を車で護送していた。

仲間が無惨な死体になってしまったことに思うことはある。だが、御刀で殺害されたのではなく、銃と何か物凄い力で潰されたことが死因であることを鑑みると、外国人工作員等が殺傷した可能性が高く、年頃の少女達に暴力を振るうことに抵抗感が強いのが理由である。

「……この子らも可哀そうにな、勝手な大人達に振り回されて……」

「ああ、捕まって、そのあと長船とかの生徒達はどうなるんだろうな……。」

この二人のSTT隊員は長船と美濃関、そして平城も大規模テロの容疑で取り調べを受け、その後も長船と美濃関、平城の刀使達が管理局内から、世間からも白い目で見られることになり、今後どのようになるのか不安であった。そんなとき――――、

「……おい!牛が通っている、止めろ。……何だってんだ?」

「どうせ、牧場から逃げ出した牛を戻してるところなんだろ。……ちょっと、聞いてくる。」

一人のSTT隊員が車から降り、牛を誘導している男に近付いて話しかけていた。

「どうしました?」

「いや、すいません。……牛が何頭か逃げ出しまして……申し訳ないが少し待ってくれ。」

STT隊員はやはりかと思ってしまった。そのため、少しでも手助けして早く護送を済ませようとしていたが――――

突如、STT隊員は地面とキスすることになる。

何が起こっているのか考え、自分は何者かに倒されたと理解するには少し時を要したが、何者かが即座に足でSTT隊員の両腕を抑えると、手際良く結束バンドで親指と親指を結んで拘束する。。

「なっ……何が?」

そして、STT隊員は状況を把握するため、周りを見ると既に他のSTT隊員達も自分と同じように拘束されていた。

バラクラバにゴーグル、深緑の戦闘服を着用している謎の集団のことをSTT隊員達は当初は舞草に所属する外国人工作員なのではと思い始めていたが、余りネイティブとは言えない外国語を喋っているところから違うのかも知れない。一体、何者なのだろうか?もしも、過激な団体だったら拘束し御刀を取り上げた刀使達が危ないと判断し暴れるが、ビクともせず、もがくので精一杯であった。

そのとき、STT隊員は首を絞められ、気を失ってしまった。

「少しは大人しくしろ。」

気を失う前にSTT隊員は、深緑の戦闘服を着ていた男達が日本語を喋っていたように聞こえた。

 

 

 

 

聡美達は驚愕していた。

深緑の戦闘服を着用している謎の集団は音も無く、気配も無くSTT隊員達を素手で気絶させ、拘束していた。事実、聡美達がここに集められるまでは一切気付かなかった。

「貴方た――――」

貴方達は何者なのか?と言い終わる前に聡美は両腕を拘束していた物が突然外されたことに驚き、不思議がると、聡美達は気付いてしまった。

「えっ……手が?……!!」

後ろに謎の集団と同じ格好をした者達が何時の間にか居て、その者達が拘束を外してくれていた。

聡美はこの謎の集団達が音も無く、気配も無く何時の間にか現れる幽霊のように思えてならなかった。そして、その謎の集団から指を指された方向を見ると、御刀が入っているであろうケースを見つけ、皆そちらに注意を向けた瞬間、謎の集団は既に消えていた…………。そのことに、聡美は何かが蠢いているように感じるのであった。




初期の構想では近藤 勇のように結芽ちゃんは肩を撃たれて、片腕が上がらなくなる予定でしたが止めて、少しやさしめにしました。
ついでに言うと、聡美さん達は謎の集団から逃走資金を得ています。

そして、
タギツヒメ「いや、抱き着かれて落ち着くのはそう!そう!!母親みたいに思っているからであって、特別な感情は無いハズだか(長いので省略)」
タギツヒメも壊れていた。

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