つばくろーはしばらくこんな目に遭います。
鎌府女学院学長室――――。
「長船、美濃関、平城の刀使の帯刀権の一時的な剥奪、武装を解除しました。また、折神 朱音の行方は海上保安庁が全力で…」
「……糸見 沙耶香と柳瀬 舞衣の行方はどうなっている?」
鎌府女学院職員からの報告を遮った雪那は舞衣と沙耶香の安否をまず第一に尋ねていた。
「その二名も現在鋭意捜索中とのことで…」
「甘い!海自にも圧力をかけて捜査させなさい。」
それを聞いた雪那は海自にも圧力を掛けてでも協力させるように指示していた。
「ですが……」
「これまで我々がどれだけ連中に貸しを作ってきたと思う?それにだ、むしろ今まで静観して来た奴らの防衛力とやらを見せて欲しいものだと思わんか?」
雪那は若干苛立っていた。舞草の潜水艦の侵入と逃亡を許してしまったこともそうだが、所属が分からない工作員の動向、入手先がアンゴラやらと何かと喜ばしくない所から入手したであろう銃器類、それらの解決も協力もせず今まで静観していた防衛省にも協力と責任を取らせるように言っていた。
「ハッ!…失礼致します!」
そのことを理解した鎌府女学院職員は、足早に部屋を退室して行った。そして、学長室に一人残った雪那は、
(沙耶香…あなたの居場所はここだけなの……!)
そう心の中で呟いていた。
「誰?」
可奈美は開口一番に、潜水艦ノーチラス号に乗船してきた黒のトレンチコートと黒のハット、黒ずくめのマニッシュスーツを着用し、黒のサングラスという格好をした怪しげな女性達(ソフィアとその部下三名。)に向かって感想を洩らす。
舞草に援助の話をしたいと、突然通信に割り込んで要求してきたことには驚いたが、こちらの通信に割り込めるということはこちらの位置はすぐに特定できるということでもある。そのため、この黒ずくめの長身の女は堂々と潜水艦ノーチラス号の中に乗船していた。その後は、ソフィアの申し出通り、朱音・可奈美・姫和・優の四人とソフィアと部下三名だけで、会談することになった。
「朱音様、お初にお目にかかります。……私の名はグンルと申します。」
グンルという偽名を名乗るソフィア。無論、正体を隠すためである。
「……分かりました。ではグンルさん、援助をするとはどのような?」
「このままでは紫の元へは辿り着けないでしょう?私が海自の哨戒網を抜けられるようお手伝いして差し上げましょう。」
朱音は、このグンルと名乗るソフィアを警戒していた。海自の哨戒網を知っているということは少なからずとも、刀剣類管理局か政府側、紫派の人間であることは間違いない。
「……何故、そのようなことを我々に協力するのですか?」
朱音は相手の真意を探るべく、ソフィアに真意を訊いてみた。
「何故ですか?……そうですね、折神 紫率いる変革派に抗う者は舞草の他にも居るということは伝えておきましょう。」
「……理由はそれだけですか?」
「確かに貴女方は大荒魂討伐の英雄に祭り上げられ、紫は刀剣類管理局の長となり、特務隊の面々は伍箇伝の各学長に就任しました。しかし、紫の統制の下刀剣類管理局はより強化されました。それによってどうなったと思います?」
「…………。」
朱音は、ソフィアの話しを黙って聞いていた。
「各省庁への圧力と影響力は飛躍的に増してしまい、それを疎ましく思う者。S装備とそれらを運ぶコンテナ等の開発費により、政府予算を奪われそれを妬む者。紫という存在に危機感を抱き、失脚と破滅を望む者。……思いつく限りではこんな理由でも貴女方に協力したい者は沢山居るでしょう。」
「貴女はどれに該当するんですか?」
「ふむ……難しい質問ですね。……全て当てはまりますので。」
朱音はソフィアのことを警戒していた。しかし、舞草は壊滅してしまったため、選択肢のない朱音は、
「分かりました。ご助力感謝します。」
苦渋しながら、その申し出を受けるしかなかった。
「賢明な判断。ありがとうございます。」
ソフィアから手を差し出され、朱音は握手をする。契約は成立したかのように……。
それを見た可奈美は話が終わったと思い、ソフィアに尋ねてみた。
「あの……グンルさんの流派は何です?」
「……可奈美。」
灰色のテープを巻いていたが御刀らしき物をソフィアが携えていたことに、目敏く見つけた可奈美はいつもの様に流派を尋ねていた。そんな可奈美に姫和はいつも通りで安心するような不思議な気持ちを抱かせるのであった。
「……無住心剣術ですが、それが何か?」
「じゃあ、何時か立ち合いしませんか?」
「……それでは、何処かに降りれたらやりましょう。まだ哨戒されていない所がありますので。」
そうして、ノーチラス号は二人の立ち合いのためにソフィアに言われた場所へ向かうのであった。
ソフィアに指定された場所へ到着すると、朱音と姫和、そして優とソフィアの部下三名が立ち合い人となって見守る中、可奈美はソフィアと対峙していた。
(強い……、多分、今まで戦って来た人よりも。)
何度か打ち合い、そして、純粋にそう思った。無住心剣術と聞いていたが、その流派には無い技(柄頭で殴打、足を踏んできたり。)を使ってくるところから、ほぼオリジナルなのだろう。実際、可奈美の推測は当たっており、“人を何人か殺めて”鍛えた技であり、相抜けを哲理とする剣術とは真っ向から反する戦闘スタイルを得ていた。
(……良し、ちゃんと見てくれているな。)
一方のソフィアは優がこの立ち会いを見ていてくれているか、気になってチラリと何度も横目で見ていた。
ソフィアが可奈美の申し出を受けた理由は優に可奈美より強い自分を見せ、認めさせるのが目的であったからである。つまり、可奈美より、剣術なんかより、己の力を9歳の子供に誇示したかったという少し、いや大分問題のあることをしていた。
しかし、そんなことに当然ながら気付く可奈美は、
(この人、何で優ちゃんばっかり見ているの?)
何気なしに可奈美は、このグンルという女性は手を抜いているようにも思えた。そのため、可奈美は納刀するとソフィアにこんなことを尋ねた。
「……ありがとうございます。グンルさん、いや本当の名前は何て言うんです?」
これには流石のソフィアでも、驚いた顔をしていた。どこで気づいたのだろうか?と。
「……どこで気付きました?」
「山中の戦いで会ったことのある構えと戦い方だったのと、それにグンルっていう名前で呼ばれていた刀使が居なかったですし、それにその構えをした人は確かソフィアとか呼ばれていたような気がしたから、多分そうかな〜って。」
それを聞いたソフィアは御刀を納刀すると、可奈美に目と鼻の先まで近づくと、
「……確かに私の名前は織田 ソフィアと言います。」
仕方ないと思い、ソフィアは正直に本名を名乗った。
「但し、私のことを言い触らせば、この話は無かったことにし、貴女方の潜水艦を拿捕するようにしますのでどうかご内密に。そして、朱音様達もどうか賢明なる判断をお願いします。」
そして、ソフィアは、朱音達と可奈美を脅していた。
舞草が壊滅的被害を受けた次の日の朝。刀剣類管理局本部内にて、結芽は上機嫌であった。
「~~♪」
「どうしたんだ結芽?」
「……多分、真希さんが復帰できたからではないからでしょうか?」
それは、真希と夜見が戻った事が嬉しかったからである。そして現在、親衛隊四人全員、同じ卓で座っていることにも幸福を感じるほどに……。
「……夜見さん、真希さんより早く現場に戻ったそうですけど、大丈夫ですの?貴女の怪我が一番酷い筈ですが?」
しかし、寿々花は気掛かりなことが有った。夜見は、まだ万全な状態でもないのに戻って来たことに。
「私は主に後方支援担当なので、極力戦闘に加わらなければ何も問題は有りません。……それに、今は舞草を壊滅に追い込んだと言えども、油断のならないことには変わりありません。」
だが、夜見は寿々花の申し出を遮るように言っていた。寿々花もそれを言われると何も言えなかったのか、押し黙るしかなかった。
「……そういえば、結芽が一人で舞草の拠点を壊滅したんだってな。済まなかったな、一人ぼっちにさせて、辛くなかったか?」
だが、捕えた舞草のリーダー格含む、刀使が謎の集団によって逃げられたことを真希は結芽に気を使って伏せていたが。
「大丈夫!!あんな弱い人達、真希おねーさん達まで読んで手を煩わせる程でもなかったよ。」
結芽は負傷した真希達のことを気にして、STT隊員のことを伏せつつ、このように言っていた。
「……そうか、結芽、良く頑張ってくれた。」
「真希さん、報告したいことがあるのでよろしいですか?」
真希は、寿々花の報告の旨があることを伝えられると、「ああ。」と答えていた。
「紫様の指示で、各県警が長船、美濃関、更に平城まで大規模捜査され、各学長は拘束されたようですわ。けれど、真希さんは大丈夫ですの?いろは学長に会いに行く時間はありますけれど?」
報告しながら寿々花は“左手の甲を右手の人差し指で叩く”合図を送り、真希はそれに気付くが、自然に答えていた。
「問題ないさ。……直に本当にやっていたかどうか分かる。」
真希は、紫や折神家がクロであれば、いろは学長を助けようと心に誓っていた。
「…格好の良いこと、おっしゃいますわね。」
茶化したかのように言う寿々花。
「信頼しているからな。…それで、それ以外にも何か報告は有るか?」
真希は、寿々花を信頼していると言っていたのだが、あまり直接言うと気付かれる可能性が有るため、いろは学長を信頼しているようにも取れる発言をしたうえで、話を広げていた。
「…利害によるものか、或いは他に動機が有るのかも知れませんが、折神家関係者の女は紫様の妹君折神 朱音様だそうです。」
「そうか。……そのことはあまり誰にも言うな。結芽、良いな?」
「…私、そんなに子供じゃないよ。」
子供扱いされるのに不満げな顔をする結芽。だが、感情をよく表に出してしまうために、子供扱いされることには気付いていなかった。
「はい、承知しました。…刀剣類管理局内で紫様に不満を広げないように、ということでよろしいでしょうか?」
寿々花は、真希に確認を取っているようにしていた。
「そうだ、姉妹喧嘩に巻き込まれた、と思われてしまうとマズイからな。」
「ああ、そうですわね。機動隊員全体の士気に関わりますものね。」
今、気付いたかのように振る舞う寿々花。
「ああ、それに刀使の写シ対策のための武器を持って行ったらしいが、現場の機動隊員等には不評だったからな。」
「……楽になった、という訳ではなさそうですしね。…それに、刀使を撃った後も、刀使を相手にしなければならないのは、辛いものでしょう……。」
真希のSTT隊員達の辛苦の話を聞き、寿々花は悲しげな顔をする。
「……そんなことがあったんだ。後で何か励ましのお手紙を書いて送ったら喜んでくれるかな?」
結芽は、舞草の隠れ里に残っているであろうSTT隊員達に何かしてあげればと思い、そんなことを言っていた。
「……ああ、それが良いな、結芽が書いてくれたらきっと喜ぶさ。」
結芽の思いやりのある言葉につい破顔してしまう真希。
「…だからといって、汚い字で読みづらい、下手に大人ぶった文章はやめて欲しいですわね。」
本心ではないのだが、寿々花は結芽に少し辛辣なこと言っていた。
「もーっ、結芽だってちゃんと勉強してるもん!」
「…まあ、本当かしら?」
“左手の甲を右手の人差し指で叩く”ことをしながら寿々花は結芽を茶化していたが。真希は、結芽と寿々花が談笑しているのを尻目に寿々花からのサインを解読していた。
(……紫様の指示、…格好の良い、…利害によるもの、…はい、承知しました。…ああ、そうですわね、…楽になった、…だからといって、…まあ、本当。……これらを繋げると……。)
“左手の甲を右手の人差し指で叩く”という合図の間に喋った寿々花の会話の頭の文字を繋げてみると、
ゆ か り は あ ら だ ま
となったことに、真希は心の中では激しく動揺するが、表情としぐさは特に変わったところもなく、いつも通りにしていた。
(……尻尾は掴んだが、厄介なことになったな。……どうする?告発したところで証拠も無い。……一度、寿々花の家で作戦を練っておくべきか。いや、それだとゆか…いや、荒魂に感付かれるか?)
真希はどうにかこの状況をなんとか打破すべき策を熟考するも、どれも時間と人員が足りなかった。そして、刀剣類管理局本部職員が何人かで此方に近寄ってきていることに気付く。そして――――、
「折神家親衛隊第一席獅童 真希、同じく第二席此花 寿々花。先程、貴女方両名は折神家親衛隊の任を更迭されました。」
真希と寿々花、そして結芽もこの発言を聞いて、凍り付いたかのように呆然としていた。そして、先程の職員の発言の内容が頭の中に入った真希は、努めて冷静な態度と心を保ちながら、応対していた。
「どういう事だ?更迭の理由は?」
「獅童 真希、貴女のスペクトラムファインダーから五條 いろは容疑者と頻繁に通話とやりとりをしていたそうですが?」
「……そんな記憶は無いが?」
実際、真希はいろはとここしばらくは連絡はしていない。真希は本当に何を言っているのか分からなかった。
「失礼ですが、貴女のスペクトラムファインダーを渡す前に通話記録等を調べさせてもらいました。すると、いろは容疑者を通じて舞草と通じていたこと、局長を排除させる等の内容のやりとりをしていたことが発覚しました。」
「莫迦な、そんなことをしていない!!僕のスペクトラムファインダーを今調べれば分かるだろう!?」
「既に消去済みや改竄されている可能性があり、今調べたところで貴女の嫌疑が晴れることはありません。親衛隊内部に内通者が居るという情報を受け、局長も断腸の思いで内密に捜査をするよう我々に要請されました。結果、貴女が舞草と通じていた証拠を多数確認済みです。大規模テロの容疑並びにスペクトラムファインダーの改竄と外国人工作員への関与が認められれば証拠隠滅、外患誘致罪などにも見なされる可能性があり、本来であれば実刑を受けてもらいたいところですが。貴女の功績を考慮し、この事態が終息するまで貴女の親衛隊権限並びに帯刀権を剥奪、身柄を拘束させて頂きます。」
この職員は、淡々と真希に対する罪状とこれから予測されることを述べていた。一見、身柄を拘束するだけかと思われるが、異性同性問わずに人気がある獅童 真希が不正を行い逮捕されたと広まれば、刀剣類管理局内部が混乱してしまう可能性があるため、朱音を逮捕するまで拘束し、事態が終息した後に公表。親衛隊から除隊させ、帯刀権を永久に剥奪する気なのだろう。
「これはどういうことですの?一体、誰の権限で!?」
流石の急展開な事態に声を荒げる寿々花。しかし、
「此花 寿々花、貴女にも同様の嫌疑が掛けられている。加えて、貴女は綾小路の学生を唆し、内乱を誘発した疑いが掛けられている。貴女にも獅童 真希と同様の措置を取らせて頂きます。」
「…情報提供者は誰だ?そいつはどうやって調べたんだ?」
「“内部告発”だと言えば分かりますか?」
しかし、彼は定型通りの発言をしたつもりだったが、失態を犯していた。四名しか居ない親衛隊の“内部告発”と発言してしまったからだ。寿々花と真希は論外として、結芽にそんなことができるわけがない。だとすると、
(夜見か……、彼女はこちら側ではないのだな。)
「そっ、そんなの絶対何かの間違いだって!真希おねーさんがそんなことする訳ない!!」
結芽はそう叫ぶと、真希と寿々花を守ろうとし、おもむろに御刀に手を伸ばしていった。それに気づいた真希は大きな声で結芽に命令した。
「結芽!止めろ!!……分かった、大人しくしよう。」
真希は結芽の将来と身を案じ、結芽に強くそう命じると、真希と寿々花は大人しく御刀を職員に渡し、拘束され、連行されていった。
結芽は何が起きているのか分からなかった。ただ、この幼い少女でも、大事な人と大事な物が踏み潰されてしまったことには理解できていた……。
(……夜見おねーさん、……あんたが!)
そして、誰がこのようにしたのか結芽でも気付いていた。
次回で、何故夜見がこんな行動をしたのか説明します。