赤信号、みんなで渡れば怖くない。
ソフィア嬢、真っ黒。
先が見えない階段と鳥居がある場所。私は此処に来ていた。
「そっか、六人で行くんだ。」
「うん、みんなが姫和ちゃんや優ちゃんのために戦ってくれるから。」
かなりオブラートに説明したけど、気づいていないのかな?お母さんがただ黙って聞いてくれるのが、せめてもの救いだった。
「良かったね。……でも強いよ、紫は。」
お母さんがそう呟いて教えてくれた。
「分かってる。…御刀を持ってるところを一回見たから……。」
けど知っている。…勝てないかも知れないけど、もうやるしかない。みんな行っちゃうし、優ちゃんを一人にしたくなかったから。
「そっか、まぁ強いっていっても私程じゃないけどね~。」
お母さんは若干茶化して言っていた。
「え~、自分で言うそれ?」
「あっ、信用してないな?この~。」
そして私とお母さんは互いに笑っていた。何が可笑しいんだろう?でも、少しだけ気が晴れたような気がする。……きっと、私のことを気遣ってくれたんだろうな、ありがとうお母さん。
「……ねぇ可奈美。刀使って素敵だと思わない?人を守って、感謝されて、剣術も学べる。最高だよね。」
私は御当主……ううん、大荒魂と戦うことに恐れを感じていた。…けれど、今のお母さんの温かい言葉が心の隅まで届いたような気がして、私に進む勇気をくれた。
『違うよ、姫和ちゃんは御当主様、…人に化けた荒魂を斬るそれだけだよ。』
私は姫和ちゃんに話した自分の決意を思い出していた。そうだ、私は御当主様を倒すんじゃなくって、人に化けた大荒魂をみんなで一緒に倒しに行くんだ。だから、何も悪いことをする訳じゃない。ただ、刀使としてやることをやるだけなんだ。……だから、悪いことじゃないよね?
「うん!」
そう思うだけで私は自然と笑みがこぼれていく。これは正しいことだって、ハッキリと分かった気がしたから。
「そのうえ、福利厚生はばっちりだしね!」
そんなボケを言ってきたお母さんに私は笑いながら、「え~、そこ~~!?」とツッコミを入れていた。そして、私は目が醒めてしまった。
「可奈美ちゃん、そろそろ時間だよ。可奈美ちゃん!」
舞衣ちゃんが起こしてくれたみたいだった。
「ん……おはよう…。」
私は何か良い夢を見ていたのかな?すごく気分が良かった。
「……みんな、そろそろ横須賀だよ。準備はできた?」
累はどこか悲しげであったが、悟られないようにできるだけ普段通りに話していた。そして、舞衣は「はいっ。」と鋭い目つきで答え、可奈美達は御刀を携えていた。
「ねぇ!大荒魂を倒したらみんなで何処かおいしいもの食べに行かない?」
可奈美はこの戦いに勝利したら、みんなで何処かへ行こうと言っていた。
「そういうことなら、ここの潜水艦のコック長が『無事に帰ってきたら、食べたい物を何でも作ってやる。』って、言ってたわよ。」
累は、あとでコック長と相談し、こんな提案をしようと思っていた。
「オォ~~!お腹太いデース!!」
「わざと間違ってるだろ……。」
エレンのボケ?に対してツッコミを入れる薫。
「やった!姫和ちゃんデザートは勿論チョコミントアイスだよね?」
「人をチョコミントのアイスがあればいいみたいに言うな。」
「じゃあ僕が貰って良い?」
「いや、だからといって要らない訳じゃない。」
可奈美の言葉に姫和は反論し、それに優はチョコミントを代わりに食べると言うと、姫和はそれに反応する。
「コース料理は確定なんだな。」
そんな可奈美達のやりとりを見た薫はここのコック長は大変なことになりそうだなと思い、微笑みながら呟く。
「フフ……みんな無事に戻って来てね。」
そんな可奈美達のやりとりを見た累も少し安堵したのか、自然と笑みがこぼれ、無事に帰ってきてほしいと嘘偽りの無い本心を出していた。
「十条さん?」
ふいに姫和が近付いてきたことに気付いて姫和の名字を呼ぶ舞衣。
「お前が全体の指揮を執ってくれ、お前の指示があればきっと大荒魂に辿り着ける。」
「え!?」
「お前にはその力がある。孝子先輩達もそう言ってただろ?」
「十条さん……。」
「姫和でいい。舞衣、大荒魂を討伐して元通りにしよう。」
「うん。姫和ちゃん!」
舞衣と姫和は楽しそうに談笑していた。
(何で笑っていられるの?……人を殺してしまうかも知れないのに。)
しかし、そんな会話を見た沙耶香は、姫和と舞衣に何か危ういものを感じるのであった。
こうして、彼女達は立ち向かって行きました。……あの日へと。
横須賀湾――――。
聡美達、舞草のメンバーが揃って集結していた。
「聡美さん、まだ朱音様は来ていませんね。」
「……そうですか、なら折神 紫の手の者に見つからないよう、建物の陰に隠れて朱音様を陰ながら見守っていましょう。」
何故、彼女らが此処に居たのかと言うと、各地に居る舞草のメンバーに匿ってもらっていたのだが、横須賀湾に朱音が現れると聞き、居ても立っても居られず、横須賀湾に集結していた。
「……来ました、高津学長です。」
既に報道陣が来ており、強行手段は取らないだろうが、聡美達は念のために鎌府とSTT隊員等の動きを見張ることにした。
「……何も無ければ良いのだけれど。」
続々と朱音を確保するために集まってくるSTT隊員と鎌府の刀使達を見ては、聡美はそう願わずにはいられなかった。
一方、雪那側――――。
(折神 朱音、紫様の実の妹を捕えたということは秘匿し、あくまで折神家関係者を捕らえたと公表すべきだろう……。下手をすればこの一連の騒動、ただの姉妹喧嘩と言われかねん。何としてでも私の手で捕まえ隠居してもらうことにしなくては……。)
舞草の首魁折神 朱音が横須賀湾にて投降を申し出たため、紫は雪那に朱音を捕えるように命じていた。そのため雪那は車で横須賀へ向かっていた。しかし、
「何故、マスコミがいる?」
既に横須賀湾に報道陣が大挙していたことに驚愕していた。
「有事の際に備えろとSTT各員と刀使に伝えろ。……絶対に報道関係者を巻き込むな。」
雪那は、STT隊員を指揮しているサングラスの隊員に有事に備えて車の中に居たまま無線で命令していた。
『ハッ、既に隊員等は集結しており、複数の狙撃班は配置について即時対応が可能です。』
既に何班かに分け、狙撃体勢に入っており、命令が有れば即座に実行できるとサングラスの隊員は言っていた。
「……分かった。但し、折神 朱音を撃つな。後々、厄介なことになる。」
『ハッ?しかし……。』
雪那の命令にサングラスの隊員は納得がいっていないような、気の抜けた返事をしてしまった。
「投降してきた折神 朱音を撃ってしまえば、舞草の残党が何をするか分からん、それに報道陣の目の前で射殺すると、刀剣類管理局は投降してきた人間でも直ぐ射殺する物騒な組織だと言われかねん。…だが、山中での戦いで接触が有った武装工作員等が銃火器で武装していた場合は撃って構わん。」
雪那の朱音を撃てば刀剣類管理局は悪印象を与えかねないのと、トーマス達は重火器で武装していた場合は射殺しても構わないという返答に納得がいったのか、『了解しました。』と二つ返事で返していた。
「みなさんっ!私は折神朱音です、私の話を聞いてくださいっ!!!」
朱音は、報道陣にも聴こえるように拡声器を使っていた。その声と、言葉に報道陣は「折神 朱音!?」「本当か!?」という様々な反応をし、刀剣類管理局の局長である紫の妹が非人道組織と云われている舞草に所属していたことに皆が驚いていた。
「今、この国には大きな危機が迫っています!20年前、いえ、それ以上の災厄が起ころうとしているのですっ!!!」
朱音は声が潰れそうなほどの気迫を持って語り聞かせていた。その理由は、可奈美達を折神家屋敷へ行かせる支援をするためである。
そのため、朱音は自らが囮となって、投降を刀剣類管理局に申し出ていた。紫を警護する刀使を一人でも多く誘き出すために。
「二十年前の災厄の元凶、大荒魂は再び蘇ろうとしています!…刀使のみなさんは感じていたでしょう?先程の不思議な現象を、それは大荒魂が現れる前兆です!最早一刻の猶予もない!!」
その言葉に雪那は眉をピクリと上げる。過去の経験から、もしや敵は他にいるのではと勘ぐり、鎌府の刀使達にも動揺が広がっていた。
「どうか皆さんのお力をお貸しください!!」
その言葉と同時に潜水艦のハッチが六ヶ所開いた。それに雪那は気付くが時既に遅く、六つのS装備のコンテナは打ち上げられていた。朱音には一筋の希望に見えたことだろう。
「これは攻撃ではありません!今飛び立ったのは、…私達の希ぼ―――」
次の瞬間、ここに居る刀使達全員にとっても、雪那にとっても、STT隊員達にとっても信じられないことが起こった。
朱音が全てを言い終わる前に突然倒れたのである。…たった一発の銃声と共に、腹部から血を流し、ノーチラス号の甲板に紅い花を咲かせている朱音を見て、STT隊員の誰かが命令を無視し、勝手に撃ってしまったのだろうかと雪那はつい思ってしまった。
「誰が撃った!!?」
『わっ、…分かりません!』
雪那も堪らずそう感情的に叫んでしまい、サングラスの隊員も困惑していた。雪那は報道陣の目の前で、最悪の結果を見せてしまったと実感していた。そのうえ、
「よっくもおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「外道共がっ!!!」
「まっ、待って!」
聡美は仲間の刀使に対して止まるよう叫ぶが、止まらない。里のことを、仲間のことを、そして朱音が撃たれたことにより思い出し、その仇を取ろうと血走った目と般若のような顔をして鎌府の刀使に向かって行く。
「なっ、何だ?長船かっ!?」
「各刀使は報道関係者と学長をお守りしろっ!!」
長船の刀使達が鎌府の刀使とSTT隊員等に突撃してしまい、混戦となってしまう。
「……くそ、これじゃあ味方に当たってしまう。」
そして、混戦となったことが幸いしてか、味方に当たることを懸念して、対刀使用の武器をSTT隊員等はまともに使用することもできず、援護すらできなかった。
だが、剣術の型も無く、ただただ暴力と怨恨、その他憤怒の感情のまま御刀を振り回す戦いがそこにあった。
「学長!今のうちに!!」
STT隊員等は、雪那を逃がすために肉の壁になり、ヘリで逃げるよう伝えていた。
「……済まないっ!そちらも無事で!!」
雪那も此処に留まっていては却って鎌府の刀使とSTT隊員等の邪魔になると判断すると、足早にヘリに乗る。
「本部まで、早くっ!!」
ヘリのパイロットに刀剣類管理局本部に戻るよう指示していた。恐らく、沙耶香は本部へ向かったのだろうと思い、雪那にとっては何があっても向かわなければならなかった。
「本部は今危険ですっ!!」
しかし、ヘリのパイロットはS装備のコンテナが打ち込まれた本部に戻ろうとする雪那を止めようとしていた。
「構わんっ!会わなければならない子達が居るっ!!」
ヘリのパイロットにそう告げて、雪那は本部に戻るよう強く命令していた。それに、根負けしたヘリのパイロットは本部へ向かうことにした。
そして、地上では――――、
「えっ?何っ、キャア!?」「なっ、何だ何だ!?刀使同士で刀を向け合っているのか!!?」「おいっ、ここは危険じゃないのかっ!!さっさと逃げるぞっ!!!」「現場は繋がっていますか!?刀使同士が戦闘をっ!!!」
各報道陣の目には、憤怒の感情のまま刀を振るう、血で血を洗うかのような抗争になったと映っており、自分達にも矛先が向くのではと気が気でならなかった。
命令に従い、賊に対抗しようとする者――――、
仲間を喪い、せめてもの弔いをしようとする者――――、
我先にと、恥も外聞もなく逃走する者――――、
この場に起こっていることは真実であると伝えようとする者――――、
名誉が、想いが、血が、狂気が、この横須賀湾を狂騒の舞台へと変えていった。
とあるビルの屋上。制服を紅く染め上げていた鎌府の刀使三名と青いアサルトスーツと防弾チョッキを紅く染め上げ地に倒れ伏す何名かの狙撃班がそこに居た。
「隊長、……折神 朱音を撃ちました。」
鎌府の刀使、いや、ソフィアのシンパが仲間と共に狙撃班を全員御刀で殺害し、警察の特殊部隊にも配備されている狙撃銃PSG-1を強奪。その狙撃銃で朱音を撃っていた。
『良くやった、……お前のことは忘れん。』
携帯から、ソフィアの指示を聞いた鎌府の刀使は「了解」と呟くと、携帯を切っていた。そして、その鎌府の刀使は傍にいる仲間二人に向かってこう言った。
「……みんな、先に逝くね。……後のことはお願い。」
その鎌府の刀使はおもむろに刀身を素手で掴むと、自らの喉下に躊躇うことなくそのまま突き刺して、自ら命を絶った。
「…………ごめん、また必ず迎えに行くから。」
その鎌府の刀使の仲間は、喉下を突き刺し自殺した鎌府の刀使を見てそんな言葉を投げ掛けると共にその場から速やかに離れて行った。
その後、朱音を狙撃した犯人は硝煙反応が出たこの自殺した鎌府の刀使であると発表される。そして、幾分かは舞草の自作自演では?紫の密命を受けた刀使なのでは?といった推測がなされ、しばらくは持ち切りになっていた……。
そして、静は少し離れた所から、その様子をほくそ笑みながら見て、ソフィアに報告していた。
「……隊長、これで良いんですよね?」
『そうだ、これで刀剣類管理局は俗悪な組織として映るだろう。』
ソフィアはその報告を聞き、喜んでいたようであった。
「でも、質問なんですけど、……何で朱音を射殺しなかったんです?」
しかし、静には疑問だった。朱音を始末すれば良いのではと……。
『撃って殺したらどうなると思う?』
ソフィアの問いかけに、
「まあ、舞草は壊滅しますね。」
静は思ったことをそのまま言っていた。
『そう、ただ舞草は潰れ、変革派の勢いは増すだけだ。だが、それでは意味が無い。…朱音を殺さぬよう苦しめれば、その姿を見た舞草は変革派を躍起になって潰そうとし、やがては舞草と変革派が互いに憎しみあい潰し合うだろう。…そして、その中から真の戦士たる“狼”が生まれる。我々は勝利を得るために此処へ来たのではない。この世に教訓を与えるべく本部に赴いたのだ。…お前も機を見て速やかに離脱しろ。』
「分かりました。」
そして、このソフィアと静のやりとりの数分後には、この横須賀湾に居る報道陣の一人があることに気付き、声を上げる。
「おっ、おい何だアレはっ!!?」
そして、その声に反応して見ると、都市の光が徐々に消えていくことに気付いた皆は狂騒し、やがてポツポツと全ての光が消えると、横須賀湾一帯と刀剣類管理局本部も停電していた。
この大規模停電と聡美達の乱戦の隙に、エレンは御刀を失い写シが張れない状態のため、狙撃される危険があるにも関わらず、決死の覚悟を持って朱音を救出し、ノーチラス号を横須賀湾から離れるように指示した。
その後、朱音を医療施設の有る部屋まで運んでいき、エレンは遠ざかる横須賀湾を見ては、全員無事であるようにと祈っていた。
「退け、退けっ!!」
聡美は朱音が乗っている潜水艦ノーチラス号が遠ざかっていることに気付くと、停電して暗闇となったこの機に乗じ撤退することにし、静達もまた暗闇に紛れて姿を消すのであった。
(……これで終わると思うか?お前達舞草は朱音を逃がすために報道陣の前で騒乱と大停電を起こしたと殆どの人は見るだろう。……そうなれば、変革派と舞草は憎悪しあい、互いに争いあう。)
ソフィアの宣言通り、世の中は暗闇となった横須賀湾の如く、更に混迷へと向かっていく。
『希望』って勝手に期待させてくれたり、裏切ってきたり、満たしてくれたりするよね。
次の話は可奈美と優の過去話の予定。