【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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41話を投稿させて頂きます。

一万文字超えたので二話分割します。



epilogue 1

鎌倉の騒乱から数日後、刀剣類管理局本部――――。

 

優と可奈美達は鎌倉の本部にて、傷を癒していた。

特に優は、大荒魂タギツヒメを取り込んでいることもそうだが、紫が大荒魂に取り憑かれていたという事実をしばらくは隠匿するという政府の意向により、刀剣類管理局本部の医務室に幽閉されていた。

優は、その医務室のベッドで意識を一週間ほど失っており、その間だけ優の中に居るタギツヒメ達と声だけだが、話すことができた。

『……でな、優と我の馴れ初めはな。』

『ふ~~~ん、凄いね。』

『その後はな、我を信頼してくれたのかかなり話せるようになってな!!』

『へぇ~~~。』

結芽はタギツヒメの惚気話に付き合わされているのか、そんな会話が聞こえてきていた。結芽の方は、ミカからいつもの病気だから気にしないでと言われていたので、空返事であったことに気付かない興奮気味のタギツヒメであった。

『……ただいま。』

優はそれを気にせず、意識のみでタギツヒメ達と話す。

『ふお!!おっ、おかえりなのだ!!』

『荒魂って、こんなのばっかなのかな……。』

話しかけてきた優にタギツヒメは驚き、口調はおかしくなっていた。フレンドリーに話しかけられ、それを見た結芽はタギツヒメのことを斬り祓う対象とは見なくなっていた。

『おお、大丈夫かーって、大丈夫じゃねえか。』

ジョニーはいつも通りに気さくに優と話す。

『ね、ねえ、やっぱりさ、私が意識乗っ取って、戦った方が良かったんじゃあ?』

一方、結芽は優に大荒魂と戦わせていたことに後になって気に病むことがあったのか、優にそう尋ねていた。

『……何で?』

『いや、何でって、私のワガママに付き合ってもらったような物だし、それに、私が意識乗っ取って戦った方が、優に痛い思いさせずに済んだし、……ううん、いややっぱり私の方が強いから私がやった方が良かったんじゃないかと思っちゃってさ。』

結芽は大荒魂との戦いが終わった後、皆自分の剣術が強いと証明するために戦ってくれたような物であると気付き、それならば優が戦って傷付くよりも、自分が意識を乗っ取って戦えば傷付かずに済んだかも知れないと思い始め、そう言おうとしたものの、つい強がりで自分の方が強いから自分がやった方が良かったと言ってしまった。

『……そうかもね。でも、腹に刺されるの自力で立てないくらい結構痛いよ?耐えられる?』

『……うっ!そっ、それくらい我慢できるしっ!!』

優はジョニーの少年兵だった記憶から、腹を撃たれたジョニーの仲間がもがきながら死んでいく姿や、ジョニーが腹を撃たれて自力で立ち上がれない程の激痛に苛まれていたことを覚えていたため、優はそんな思いを結芽にさせたくなかったため、そう答えていたのだが、結芽は強がりで耐えられると答えていた。

『べっつに良いじゃん。誰が意識に居ようとさ、誰がどう思っても結芽があの目ん玉倒したんだから、気にしなさんなって。』

ミカが後ろから結芽を抱き締めると、そう言ってきた。

『……でも、それって結芽自信が強いんじゃないよね。荒魂の力とか、優を痛い思いさせて自分は安全な所へいて偉そうに言ってただけだし、優が凄いだけじゃないかな。』

しかし、結芽は引き下がらず、自分が凄いのではなく、優が凄いだけではと言っていた。タギツヒメ達は自分は凄いと言ってくれるが、そうは思えなかったし、何よりも他人の功績を自分が掠め取っているようで嫌だった。

『な~~に言ってんの!荒魂の力だったっけ?そんなもんあの目ん玉が好き放題使ってたんだから、ズルじゃないわよ。それに、優は自分で決めてそうしたんだから、水を差すようなこと言いなさんなって、優はさ、剣術なんて知らなかった自分に剣術を教えてくれた結芽に痛い思いをさせたくなかったんだから、結芽の写シの代わりになるって言ってたんだよ。だから、あの目ん玉は剣術が一番強い結芽が居なかったら勝てなかった。だからさ、結芽はあの目ん玉をボコボコにするほど強かったんだよ。それで良いじゃん!』

しかし、ミカは結芽と優、タギツヒメ達が居なかったら大荒魂に勝てなかったと言い。そのうえで、結芽の今まで培ってきた剣術が紫を上回ったからこそ勝てたと伝えていた。

『……そんなこと言うの、ズルいよ……。』

ミカにそう言われ、涙が堪える結芽。

『まあ、良いじゃん。結芽があの目ん玉なんかどうってことないぐらい強いってことさ。なっ、皆!!』

結芽を宥めるかのように優しく言うジョニー。

『アレ~~~?いつものジョニーなら冷やかすのに、何でか妙に結芽ちゃんだけ優しくない?』

『ジョニーよ、今のお主結構分かり易いぞっ。』

『うっ、うっせぇやい!何かワリィかっ!!』

妙に結芽に優しくしていたジョニーに、何かを感じ取ったニキータとそれに乗っかったタギツヒメは一緒にジョニーを茶化すかのように言うと、ジョニーは歳相応に顔を真っ赤にして声を荒げていた。それを合図に、ジョニー意外のタギツヒメ達は年相応に笑っていた。

『そう言えば、同年代の友達ってこれが初めてなのかも。』

結芽は綾小路武芸学舎に入学してから、同年代の友人は居なかったことを思い出しながら、入学式以来の幸福を噛み締めていた。

 

単純だが、好きな人に囲まれ、幸福に包まれる。ごく平凡な世界であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、意識を取り戻していた優は、ベッドから無言で立ち上がっていた。

「君、まだ立ち上がると。」

「どうってことない。」

それを見た医者は、優に安静にするよう言うものの、優はそれだけ言うと、医務室から退室しようとしていた。

「…………。」

それを見た医者は、満身創痍であったにも関わらず、予定よりも早く立ち上がったことと、角を生やし、左腕が荒魂の腕となっている優の異形な姿も相まって、ただただありえない物を見るかのように見ていた。

しかし、そんなことも意に介さず、いつも通りの表情と仕草で廊下を歩いていると、真希と寿々花の二人が待ち構えていた。

「……おまけの人達か。」

「まだ、言いますのぉ?」

優はいつも通りに真希と寿々花のことを未だにおまけの人達と勝手に名付けた渾名で呼んでいた。そのことに寿々花は怒気を含めて、勝手に渾名で呼ぶことを非難していた。

「……何で名前で呼ばないんだ?」

真希は、寿々花をどうにか抑えながら、優にそのことについて尋ねていた。

「よく知らないし、憶えていても仕方ないから。」

「……そうか。」

真希は寿々花を抑えながら、親衛隊第一席であり、大会二連覇の実績を持つため、周りの人間はそのことに特別視しており、大体は賛辞を送るかライバル視してくるかのどちらかであったため、優の『知らない。』という返答は真希にとってある種の新鮮さを感じていた。

「ところで、君は何故結芽が使っていたニッカリ青江を持っているんだ?」

しかし、真希はそのことを尋ねたくて寿々花と共に、優を待ち構えていた。ただ無惨に結芽を殺して奪ったのなら、容赦はしないと心に決めて。

「?……何でそんなことを聞くの?結芽おねーちゃんのこと知ってんの?」

だが、意外な返答に思わず、真希と寿々花は動揺する。

「……何故、結芽だけおまけの人呼ばわりしないんですの?」

寿々花は、不満を隠さずに結芽のみおまけの人と呼ばない理由を訊いていた。

「それは、僕達の仲間だからだけど。……それよりも何で結芽おねーちゃんのこと知ってんの?」

寿々花は、「ややこしい子ですわね!!」と言って頭を抱えていた。

「僕等は親衛隊に所属していて、結芽も親衛隊所属だったんだ。」

しかし、真希はどうにか気を取り直して、結芽の仲間だと言わずに優の疑問に返答していたため優は、

「ふ~~ん、そうなんだ。」

と興味無さげに答えていた。もしも、真希と寿々花が結芽とは仲間だったと答えていたら、優は真希と寿々花も仲間として認識し、今後おまけの人と呼ばれることはないということに真希と寿々花は気付けなかった。

そして、優も結芽の記憶から真希と寿々花のことを知ってはいるが、石廊崎での戦いもあり、結芽と同じ所属先に居たとはいえ、こちらの味方とは限らないので警戒していたため、名前で呼ばず、渾名で呼んでいた。

「でもこれだけは言える。結芽おねーちゃんが強かったから、僕等は勝てたんだよ。」

結芽の剣術が強かったからこそ大荒魂相手に勝利できたことを、無表情だが優は念を押すように真希と寿々花に伝える。

「何故、そう言える。」

「僕の中に結芽おねーちゃんが居るからだよ。……そんでもって、一番強い剣術を教えてもらった。」

真希は優に真意を問うかのようにそう訊いてみた。すると、優は真希を見据えながらこう言っていた。結芽が強かったから、大荒魂を討伐できたと。優はそのことを伝えることによって、ただ何となくだが、結芽という人が居たことを一人でも憶えてもらうことができると思っていた。

「……そうか。」

真希はそれだけ言うと、優に対する戦意を失っていた。

「お前ら!何をしている!」

突然、そう叫ばれた真希はその声がした方に顔を向けると、鬼の形相をした姫和が居た。

「……何もしてませんわよ。」

寿々花は両手をヒラヒラさせながら姫和にそう答えて、何も危害は加えていないと伝えていた。

「そうか、ならもう良いな。行こう優。」

姫和は真希と寿々花にそれだけ言うと、優をひったくるように手を捕まえて強く握ると、真希と寿々花から離れていった。

「あっ、ちょっと……!」

「良いんだ、寿々花。」

それに驚き、話はまだ終わっていないとばかりに止めようとする寿々花だったが、真希がそれを遮っていた。

「もう良いんだ寿々花。結芽は……ちゃんと、必要とされていたからこそ、いや、結芽のことを大切に思っているからこそ、大荒魂を討伐した結芽のことを忘れるなって、言ってきたんだ。…………もうそれだけで充分だ。仇を討つことを考えていた、けどそんなのは居なかった。……だから、そんなことしてもきっと、結芽は喜ばない。…………今の結芽は幸せだ。だから、あの子を見守って上げよう。」

真希は涙を堪えながら、結芽が親衛隊から卒業してしまったことを受け止め、寿々花にそう話していた。

「……親衛隊に一人、欠番がでましたわね。」

「ああ、そうだな。……でも、元親衛隊の結芽はまだ居る。だから、笑われないように、僕達も強くなろう。一緒に。」

真希は、寿々花の手を握りながら目を真正面から見ながら、寿々花に自らの決意を語る。強くなろうと……。

「……良いですわよ、何処までもお手伝いしますわ。」

そして、その決意に同意する寿々花であった。

 

 

 

 

 

姫和は優と共に歩きながら強く、強く握りしめていた。

「……姫和おねーちゃん?」

優の手を包みこむように、もう二度と離さないかのように、手を離してしまえばもう会えないかのように、自分の魂が優ごとどこかへ去ってしまいそうな気がしたから、手を強く握っていた。

それを不思議そうに見る優。すると、姫和は突然振り返って、

「…………。」

じっと優のことを見つめていた。

鬼のような角を生やし、右目の瞳の色と右半分の髪の色が変わり、左腕が荒魂の腕となっている優を見つめていた。そんな優の状態でも姫和は優のことを荒魂として認めなかった。決して認めなかった。

「……優、私は平城に戻ることになった。けど……。」

そして、姫和は搾り出すように言う。

「……刀使は続けようと思う。」

自分の決意を語る。

「……だから、安心してほしい。ずっと側に居る。」

そうして、姫和は自身に解けない強い呪いを自らかけていた。

ただ、認めたくなかった。優が“荒魂”であることを、ただ、認めたくなかった。自分が思い描いた母の思いを自ら捨ててしまったのだから、最早、彼女に残っている選択肢は優と可奈美を救うことだった。

「……うん?」

優はよく分かっていないのだろう。首を傾げながら答えていた。それを見た姫和は、クスッと笑ってしまった。

「……約束しただろう?私は、私はお前を助ける。……だから、可奈美も助けたい。それまで、ずっと一緒にいる。だから、優も何処かへ行かないでくれ。ずっと側に居て、またチョコミントアイスでも食べに行こう。可奈美と一緒に三人で。」

「うん。僕もチョコミントアイス好きだから、待ってる。」

「ああ、チョコミントアイスが美味しいのは当然だろ?」

 

姫和は、今も飛べない子烏は鳴いていた―――。

 

ただ、優が消えることになってほしくない。ただ、ずっと側に居てほしい。それだけを願って…………。

 

 

 

 

――――だから、ずっと側に居てほしい。私は、私はそう願っている。――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――報告は以上です。」

薄暗い部屋の中でトーマスは本来の雇い主であるCIA長官にパソコンの画面越しでこれまでの経緯を報告していた。

『…………ふむ、望んだ結末ではなかったが、まあ、これで良しとするか。』

CIA長官の言う望んだ結末というのは、紫に取り憑いた大荒魂が優を殺し、タギツヒメと同化させ、それに激昂した姫和が“ひとつの太刀”で大荒魂を隠世の彼方へと送ってもらうことである。

つまりCIAの目的は、姫和を利用し、米軍がスレイド博士に依頼したノロと人体の融合という非道な人体実験の証拠となる衛藤 優と米軍への影響力を日増しに増す折神 紫の抹殺。この二人を抹殺し、刀剣類管理局による米軍への影響力を無くし、米軍がノロと人体の融合実験を行っていたという証拠を消すために舞草に兵を送る等して協力していた。

「……それは残念でしたな。」

『ああ、全くだ。このために君達を送ったり、自衛隊の制服組やら、日本政府の官僚やらに掛け合ったりしたのに、……結果は兵士を無駄に死なせてしまうわ、“例の荒魂”は処分出来ず刀剣類管理局の手の内となり、こちらの弱みを多く握られてしまった。……散々だ。』

トーマスは恨めがましく返答するが、CIA長官はそれに気にせず浪費しただけの結果に毒づいていた。

(よく言う、さっきまで見捨てようとしたくせに……!)

トーマスは、舞草が窮地に陥っていたときに連絡が取れないようにしていたCIA長官を心の中で非難していた。

『……まあいいさ、君の過去の報告通りなら、“例の荒魂”はまだ使い様はある。』

「と、言いますと?」

CIA長官の不穏な言い方に、怪訝に思ったトーマスは何をする気なのか尋ねてしまった。

『確かに局長と“例の荒魂”は始末できなかった。しかしだ、鎌倉でノロを漏出してしまい、騒乱も起こしてしまった。……それだけでも、充分なほど管理局は信頼を失墜したのだから良しとしようではないか?それに、そんな状況で管理局もおいそれと“例の荒魂”を公表しないだろう。仮に公表してしまえば、紫が大荒魂に支配されていたことも公になるだろうしな。』

「……。」

『無論、君にはこれからも“例の荒魂”とタギツヒメの処理を任せるよ。手段は問わない、君の手腕に期待している。』

CIA長官は、トーマスに優とタギツヒメの暗殺を命じていた。

「紫は如何しますか?」

紫も暗殺するのかとトーマスはCIA長官に問うていた。

『……紫も紫で、鎌倉に大量のノロを漏出し、土地を穢したことは心苦しかろう。“自殺”したとしても不思議ではあるまい。……しかし、もし“自殺”してしまえば折神家と管理局は大変なことになるなぁ?』

CIA長官はトーマスに、紫を暗殺すれば大量のノロを漏出したことへの自責の念で紫は自殺したとして処理され、折神家と管理局を貶めることができると言っていた。

「それに、相模湾大災厄のことを探られたくないというのも有るのでは?」

トーマスは意地悪く、CIA長官に言う。

『そうだな、当時の政府は愚かな選択をした。アメリカ国内に大量のノロを持ち込もうとするなど、アメリカ国内にも荒魂事件を起こそうという積もりだったのかと思うほどにだ。…荒魂関連の研究は在日米軍基地で行えば良いものをっ!何のための世界中に展開している軍事力だ!!』

「……輸送船が何故沈んだのか、貴方も貴方で探られたく有りませんからなぁ。」

『……トーマス君、君のお陰でノロを大量に運んでいた輸送船はアメリカの地に着くことは無かった。君はアメリカ国民とアメリカという国家を救ってくれた英雄だ。……それはこの国の裏の歴史に記される。』

トーマスが意味ありげな台詞を吐くと、CIA長官がトーマスを宥めるかのように、輸送船が沈んだお陰でアメリカがノロによって大地を汚すこともなく、荒魂事件に巻き込まれることもなくなったと伝えていた。

「汚れ仕事は今日に始まったばかりじゃありません。」

『だろうな、だからこそ君にこの仕事を任せられる。……次は紫に取り憑いていた大荒魂が三つに分離したらしい。“例の荒魂”をその三つと合わせた後のことを宜しく頼むよ。ああ、そうそう今回ばかりも日本政府は協力的であると思うよ。』

CIA長官は、暗に優を始末するようトーマスに伝えると、通信を切っていた。

「…………。」

だが、トーマスは返答することもなく、ただ真っ黒な画面しか映さないパソコンの画面をじっと見つめていたるかのように、動かなかった。

 

 

 

優と姫和の間に非道な者達の手が忍び寄っていた。

 




でも、個人的にあのアメリカが潜水艦とか慈善事業で送る訳ないよなとか思い、こうなりました。

あと、今回は明るめでしたが、次回は黒い展開となり、胎動編は終了となります。

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