【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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もうこれだとおねショタタグ付けた方が良いんでしょうか?
そして、姫和ちゃんと舞衣ちゃんが壊れた。
あと、可奈美ちゃんが過保護にする理由が判明。




悪魔の証明

   ――――怖かった――――

朝、目が開いた時に一番先にやることがある。大切な弟が今も元気でここに居るか、消えていないか、或いは動かなくなっていないかと考える暇も無く、居る場所へ向かう。

好かった。遠くに行ってないし、消えてない、そしてまだ動いている。まだ此処に居てくれたことが素晴らしいじゃないか。

 

 

 

   ――――流した涙もきっと笑って話せる日が来る。――――

 

 

 

 

 

「じゃあ姫和ちゃん、優ちゃんをよろしくね~。」

と言って、既に可奈美は夕食を調達しに出かけていき、部屋には寝ている優と姫和が居た。

「…………」

姫和はじっと寝ている優を見つめる。そして、俵担ぎされた報復として頬を突いていた。

(や……やわらかい………これが9歳児の頬か……)

姫和は感慨に耽っていた。ここでも優は年上の女性にオモチャにされる。

(何故だろう……ずっとこうしていたい。)

姫和は楽しんでいた。だが、次の瞬間彼女は驚くことになる。

「ん……んにゅ………」

(うぉ?……お………起きてしまったか?)

姫和は悪いと思い、優の様子を見るが起きる様子は無いようだ、ホッとした姫和は再開しようとするが、次の言葉で止めてしまう。

「お……おとうさん………」

「…………」

姫和は悲しい気持ちになっていた。そうだな、この子も……そこで視線を感じ、ドアの方に目を向ける。

「……可奈美…」

「お邪魔だったかな~~。」

ニヤニヤした顔でこちらを見る可奈美が居た。

「可奈美、こっちに来て正座。」

姫和はちゃぶ台を叩いて、可奈美に正座を促す。

「えっ?」

「正座!」

「はっ、はいぃぃ。」

可奈美は即座に正座した。姫和は9歳児をこんなところまで連れてきたことについて説教しようとするが、

「ん、んみゅゅ……」

ちゃぶ台を叩いてしまったせいで、優が起きてしまった。

「……あれ、可奈ねーちゃん帰ってきたの?」

「あっ、う、うん、優ちゃん夕食にする前にコインシャワーに行ってらっしゃい。」

「うん。」

そう言って笑顔で答え、コインシャワーへと向かっていった。

「ところで姫和ちゃん、静かにしないとダメだよ。」

「あ、ああ、済まない。」

確かに夜に、逃亡中に騒いではいけないなと思い、姫和は静かにしようとする。可奈美に説教することを忘れてしまっていたが。

その後、可奈美達は就寝しようとするが、姫和は疑問を口にする。

「…その齢になっても、一緒に寝るのか?」

「えっ、部屋が狭いからだよ。」

「…可奈ねーちゃんのやりたい事をやらせたいから。」

「…そうか……」

姫和は、可奈美はかなりのブラコンではなかろうかと疑ってしまった。まあ、あんな素直で大人しい子が弟だと、ついつい甘やかしてしまうものなのだろうと勝手に結論付けていた。

「おかしな奴だ、私の目的も聞かないし。」

「目的って、ご当主様のこと?」

「そうだ。」

「…姫和ちゃんが喋りたくなったらで良いよ。」

「本当におかしな奴だ……。」

そう言って、姫和は眠りの中へ行ってしまった。

 

 

 

夢を見ていた。

ある日、十条 篝様という手紙が届き二十年前の真実を知る。そして、私は“復讐”か“忘却”かを選ぶ時、刀使の力を使い果たしてしまった母が年々弱っていき命を失う姿を思い出してしまう。だから私は“復讐者”となることを誓った、私は一人だ、目的を果たすまで進み続ける、だからこそ奴を憎む。それが私の存在意義だから……。後悔なぞ昨日にある。

「……あっ……」

朝になり、目が覚めた姫和は昔のことを夢で思い出していた。遠い記憶、母が亡くなったときの事、そして“忘却”を選ばず“復讐”を選択し決意した日を。だから、もう戻れない、この先に何が待っていようとも。姫和は自らの決意を再認識し、周りを見ると優が起きてることに気付く。

「起きたのか?」

姫和の問いにコクリと頷く優、そして……

「舞衣おねーちゃん達が来る。」

その言葉にハッとなった姫和は、可奈美の足を軽く蹴って起こす。起こされた可奈美は寝惚けながら、何があったのか聞いてきた。

「んあぁぁ……何?」

「追っ手が来る、早く此処を出るぞ。」

姫和は優をおぶり、小烏丸を持って、窓から外に出て行った。

「あっ、待って。」

可奈美も千鳥を持って、その後を追った。

 

 

 

「……思ったより早いな、どうしてこんなに早く特定出来たんだ?」

「ごめん……私のせいかも…」

 

――――可奈美は語る。それは、可奈美が夕食を買いに外に出ていたときのこと。――――

 

夕食を買い終えた可奈美は舞衣を心配させないように、公衆電話を使って連絡していた。

「……舞衣ちゃん?」

電話の向こうから《かっ、…可奈美ちゃん?》という声が聞こえ、舞衣に繋がったことに安堵する。今、何処に居るのかと聞かれた可奈美は、

「あっ、えっとここどこだろう?」

片方だけ口角を上げて、嘘を言っていた。実際は宿を探す時、周辺地図を見て此処が何処なのか知っていたが、今見つかると大変なことになるのは分かっていたので、何処に居るか分からないという答え方をした。

「ええと、色々迷惑掛けてごめんね、私は大丈夫だから心配しないで…あっ!ごめん小銭がなくて…私の荷物預かっといて。」

それだけを伝えると一方的に電話を切り、そのまま宿に戻っていった。

しかし、可奈美は舞衣がその後、学長から捜索許可を貰い、執事の柴田に公共放送のデータを送って居場所を杉並区と荒川区辺りであると特定し、時間帯から宿かホテルに泊まっていると推測、柳瀬グループの力を使ってようやく泊まっている宿を見つけるが、既にもぬけの殻であった。しかし、舞衣は挫けず、布団を触ってまだ暖かいことに気付き、近くに居ると思い周辺を探す事にした。

 

「…多分、あの時…公衆電話で友達に連絡しちゃったせいかも……」

それを聞き、じと~と見つめる姫和に可奈美はごめんと呟いていた。

「まあ、どうせそんなとこだろうと思った。おかしな奴だと思っていたが、普通に友人を気に掛けるところはあるんだな。」

「これからどうすれば良いの?」

優が姫和にそう尋ねる。何処に行けば良いのかと。

「そうだな…人が多い所の方がかえって人に紛れて目立たないかも知れないな……」

そうして、可奈美達は一日世話になった宿を後にし、人が多い所に向かう、

「だからと言って……観光に来た訳じゃないんだぞ!」

「だって、人の多い所なんてここしか知らないもん。私達くらいの子とか制服の子もいっぱいいるし、見つかりにくいんじゃない?」

可奈美にそう言われ姫和は周りを見てみた、日曜のせいか人が多く居るようだった。

「確かに、人は多いが…」

そんな感想をもらす姫和は、優と手を繋いでいる可奈美に手を引っ張られ、

「そんな所で立ってたら目立つって、普通に楽しそうにしてた方が自然だよ!」

そう言われ、可奈美に導かれるまま、ぬいぐるみを見たり、パンケーキ屋に寄って行ったりして、彼女達は十二分に楽しんでいた、

「ごめんね~。借りたお金はいつかちゃんと返すから。」

姫和が持って来たお金で。

姫和はそんなことは気にせず、アイスクリーム屋を見つけると、何か閃いたかのように提案する。

「寄って行こう!今後の対策とか、どこに泊まるかとか、鎌倉に戻って行く方法とか、それ以外のこととか話し合ったりする必要もあるし!」

姫和は早口で可奈美にそう提案し、同意を促す。

「えっ…ああ、うん。」

可奈美は若干困惑しながらも、その意見に同意する。

その後、可奈美はオレンジ味のアイス、優はバニラ味のアイス、そして姫和はチョコミント味のアイスを選んでいた。

「姫和ちゃん、チョコミントが好きなんだ…」

「まあ…そうだな、アイスの中では比較的口に会う方だからかな…」

「でも、チョコミント味って苦くない?歯磨き粉みたいにスー「ばかっ!!」ばかっ!?」

可奈美はチョコミント味の感想を言おうとしたら、大きな声で中断され、否定された。『ばか』と言って。

「チョコミント論争でその例えはもう言い尽くされているぞ!禁句と言っていいッ!それに、チョコミントで歯磨きなぞ出来ん。」

どうやら、姫和はチョコミント風味の菓子を愛好する人のようで、可奈美はそのチョコミント好きの地雷を難なく踏んでいったらしい。

「チョコミントって、美味しいの?」

優の疑問に姫和は、

「美味いぞ、優も食べるか?まだ売って……」

姫和は今まで見せた事のない程の満面の笑顔で自信満々にそう答え、自分が食べていたチョコミントのアイスを優の前に突き出すようにし、『食べたい』と答えたら、お金を渡して購入させてチョコミント好きを増やそうとしていたが……

 

          パク。

 

っと、優に自分が舐めていたチョコミント味のアイスを食べられていた。

しかも、自分が舐めていた方を何事も無く食べていた。

「うん、最初スースーするけど、その後にチョコの味がして味わい深いから、けっこう美味しい。」

その行動に、その行為に姫和は口を開けて、茹蛸のように赤面して硬直していた。

(これって間接キスというやつか?ということは…いやいやいや待て待て待て相手は子供だからそんなに気にする必要ないだろ十条 姫和、ちゃんとしろこんな事で動揺するな児童に口移しした程度だろう、口移し?口移しということはやっぱりそういう事じゃないか、ここら辺はやはり男女ということにきちんと説明すべきではないのか十条 姫和、いや待て今此処で貞操観念も含めて教えるのはどうなんだ、ただの変態ではないか、どうやったらこんなことあまりしないように出来るんだ?あっでも間接キスはキスの内に入らないと聞いたことあるから今のはセーフ、な訳ないだろ十条 姫和、キスはキスだ他の女にやるのは精神衛生上もとい不純過ぎて好くないからここは……)

などと、姫和は心の中で早口になりながらも考えていた。

「もうちょっと、貰って良い?」

しかし、優の申し出を聞いてなかったため、

「優、すこ『ペロッ。』……」

更に、ペロペロとアイスを舐められていた。その事実に更に赤面する。

「あっ、コラッ優ちゃん食べ過ぎだよ。ご、ごめんね、後でちゃんと返すから。」

「えっ、……ああ………うん……」

可奈美の謝罪に、姫和は言葉少なく頷くだけしかなかった。そして、姫和は難題に立ち向かうことになる。

(どうやって食べようか……どこもかしこも優に食べられているか、舐められている……か…間接……間接キス………キス………どうしようか、食べないと変に思われるだろうし、でも……まだそんな間柄でないし、まだ学生だから早いし、ううん……)

姫和は、優に食べられ舐められたチョコミントのアイスをじっと見つめながら、そんなことを考えていた。

「姫和ちゃん、新しいのを買って食べたら?」

( そ れ だ っ ! ! ! )

可奈美の提案に姫和は心の中で歓喜した、この難題から逃れられると思ったからだ。そして、姫和は持っていたチョコミントのアイスを優に食べていいと言って渡し、足早にアイス屋に向かい、新しいチョコミントのアイスを手に入れていた。だが、

(き……気になって食べられん………)

優に渡したチョコミントのアイスは元々姫和が食べていた物であったのだが、何事も無く食べ続ける優が気になって横目でチラチラ見続けていた。結局、姫和は新しいチョコミントのアイスをゴミ箱へ送るしかなかった。

 

 

 

 

「ねえ、姫和おねーちゃんどうしようか。」

優はこの後、どうすべきか姫和に聞いていた。

「すまん、ちょっと少しだけ考えさせてくれ。」

しかし、当の姫和は顔を赤くして蹲っていた。

「漫画喫茶とかで寝泊りするのが良いんじゃないかな?もう民宿とかは泊まれないだろうし、」

可奈美は、宿とホテルには柳瀬グループの手が回っていると考え、漫画喫茶といった宿やホテル以外の宿泊施設を利用しようと提案するが、

「可奈ねーちゃん、あっちに荒魂がいる。」

突然、優が指差して可奈美にそう言ってきた。

「…は?…んっ、音?」

姫和は優のその言葉に疑問に思うが、姫和の荷物から音が聞こえてきたため、中から取り出して見ると、かつて母が使っていた荒魂を感知するスペクトラム計が反応して震えていた。

スペクトラム計とは、荒魂を探知するアナログ計器。約5センチ程の強化ガラス球の中に、少量のノロが入っており、ノロと荒魂が引き合う性質を利用、荒魂が接近すると振動するという方位磁石のような形をしている探知器。それを見ると、中に入っている少量のノロが一つの方向を指しており、その方向に荒魂が居ることを可奈美達に教えてくれていた。そして、その方向は優が指差している方向と同じだった。

「……どうしたの、行こうよ?」

可奈美は荒魂を退治するため、スペクトラム計が反応している方向へ向かおうとするが、姫和が立ち止まっていることに疑問に思い、荒魂の居る場所に向かうよう言うが、

「いや、行くのは止めよう……管轄の刀使達に鉢合わせたら面倒だ……それに、私達だけで荒魂を退治してもノロの回収はできない、散らすだけだ。」

姫和は今は逃亡中の身なのだから、行くべきではないと主張する。

「でも、被害が出るよりはいいよ…行こう。」

可奈美にそう言われるも、姫和は自らの目的を達成するために行こうとしない。

「それが、姫和おねーちゃんのやりたいこと?」

今度は優が姫和に聞いてきた。

「…何が言いたい……」

「だって、姫和おねーちゃん、お母さんが大好きでしょ。」

「今、関係あるのか!!?」

姫和はそう言われて激昂した。母のこと、自分の目的を土足で入って踏み荒らされたような気がして、

「関係あるよ、刀使だったお母さんが大好きだから、姫和おねーちゃんは刀使になったんでしょ?」

「……」

違う、“復讐”のためだ。と言えない自分がいたことに姫和は不思議に思っていた。確かに、この子の言う事は当たっている、母が嫌いなら“復讐”をあの時、選ばない。

「それと、病院で可奈ねーちゃんが言ってたんだ。刀使は人を守って、感謝される、“正義の味方”だって。それを聞いて僕は、強い刀使になれない僕は、僕を助けてくれた大好きでカッコイイお姉ちゃんの助けになりたいと思ったんだ。僕と一緒で姫和おねーちゃんもそんなお母さんが大好きだから、刀使になったんだと思ったんだ。だから、僕は姫和おねーちゃんと可奈ねーちゃんのために頑張りたいんだ。」

何故だろう、この子の言う素直な言葉が一つも否定できない。本当に“復讐”のために刀使になったのだろうか?この子の言うとおり、母に憧れて刀使になったんじゃないんだろうかという気持ちと、この子の期待に応えて上げたいという気持ちが強くなっていくことに、不思議と安らぎを感じる姫和は決意する。

「……そうだな、そうだ今行かなければ刀使じゃないな、“正義の味方”でもない、行こう可奈美、悪い奴等をやっつけに行こう。」

「……うん。」

姫和はわざわざ、子供にも分かりやすいように『悪い奴等をやっつけに行く』と言って、可奈美と共に荒魂の居る方向へと向かう。

(…“正義の味方”か……)

可奈美は少し悲しげな顔と共に過去を思い出していた。

 

 

 

「特別祭祀機動隊です!荒魂から離れて下さい!!」

荒魂が出現した現場は騒然としており、逃げる人々で既に一杯だった。可奈美と姫和はそんな人々を守るため、パーカーを脱ぎ捨てて可奈美は美濃関学院の制服で、姫和は平城学館の制服で敢然と立ち向かう。

「意外に…大きい。」

「ここで食い止めよう。」

「僕はどうしたらいい?」

可奈美と姫和は、羽がついた大きい百足のような荒魂を見て感想をもらしていると、優が可奈美達にそう聞いてきた。

「お前は危ないから、隠れていろ。」

「大丈夫、お姉ちゃんに任せて。」

姫和と可奈美は、優にそう告げると可奈美が前に出る。

「私が追い込むから、姫和ちゃんは後方から支援をお願い。」

「分かった。」

可奈美は先行し荒魂を斬りつけようとするが、荒魂は羽を使って大きく飛翔し避ける。荒魂は姫和を狙っているのか姫和の方へ向かっていくが、優が投げた拳大の石が荒魂の頭の部分に当たる。それに怒ったのか、逃げ遅れた人間が居るとでも思ったのか、荒魂は優に襲い掛かる。

「優!!」

姫和はそう叫び助けようとするが、前回の戦いと“一つの太刀”を使ったことが彼女を激しく消耗させていたため、優の元へ迎えない、ただ手を伸ばすことしか出来ない姫和は死んでしまった母のことを思い出し、絶望に囚われそうになるが、優は荒魂の突進を難なく翻して躱していた。

荒魂はそれが気に食わなかったのか執拗に優を襲おうとするが、それが大きな隙となり可奈美に片方の羽を切り飛ばされ、飛行能力を失ったところを狙って、荒魂を両断しようとする。

だが、舞衣が突然現れ、荒魂を一撃で退治する。

 

「舞衣ちゃん!?ど、どうしてここに…」

可奈美は予想外の再会に驚くが、舞衣はこちらに御刀を向け、経緯を語る。

「可奈美ちゃんを追っていたら、荒魂の反応があってここに寄ったの……おかげでやっと会えた。」

「美濃関の追っ手か…」

「違うよ、舞衣ちゃんは私の親友で……」

「親友?なら、何故こちらに御刀を向ける。」

姫和の疑問に舞衣は答える。

「聞いて可奈美ちゃん。羽島学長が約束してくれたの、私と一緒に帰ってくれば可奈美ちゃんの罪も軽くしてくれるって、でも条件があるの。十条さん、あなたには折神家へ出頭してもらいます。」

「残念だが、それはできないな。」

「協力しなくていいです、私が力尽くでねじ伏せるだけですから。」

「待って!二人共お願いだから、御刀を収めて…」

対峙する姫和と舞衣、お互いが譲れないがために、可奈美の制止の声が聞こえなかった。

「親友だから、優くんも可奈美ちゃんも私が助けます。」

舞衣は決意の声と共に姫和に切り掛かる。小さい何かが割り込むことに気付かないまま、舞衣は御刀を振り下ろしてしまう。

そして、舞衣は気付いてしまった。優が姫和の御刀を手刀ではたき落とし、舞衣の御刀の刀身を掴んで押さえている事に。

「…っ!……」

舞衣が動揺している隙に、優は御刀を掴んだまま奪い取り、投げ捨てる。

「優、何している!!」

姫和は優の肩を掴んで絶叫するが、優は至ってマイペースに答える。

「可奈ねーちゃんのやりたい事をやらせたいから。」

「だからって、お前が怪我したら悲しむだろう!!あと、今隠した手を見せろ。」

「…やだ。」

姫和は、優が背中に隠した怪我した方の手を見せるように言うが、拒否される。

「何でだ?」

「姫和おねーちゃんと舞衣おねーちゃんがケンカするの可奈ねーちゃんが望んでないから。姫和おねーちゃんの望みは聞かない。」

姫和は、とんでもない答えが返ってきたなと思い、舞衣に停戦を伝える。

「おい、そこの美濃関、そういう訳だ。」

「え……あっ、……はい。」

舞衣は人を斬ってしまったと思い、呆然としていたが、姫和の声で我を取り戻した。そして、姫和は自分の脱ぎ捨てたパーカーを千切って包帯代わりにし、優の手に巻く。

「お前……手が真っ二つになったらどうするつもりだったんだ?」

「大丈夫だよ、刀って物打ちで斬らないとあんまり斬れないって聞いているから。」

切っ先三寸のことだろう、確かに刀剣は先端の方で斬る方が、より強く深く切れるということは事実だが、9歳の剣術未経験の子供がそんなこと知っている訳がないと思い姫和は、

「可奈美、あとで少しだけ話があるんだが。」

「わ、私そんなこと教えてないから!」

可奈美が犯人だと決め付けるが、当の本人は無罪を主張していた。そして、可奈美も舞衣と同じく呆然としていたが、姫和の声で我を取り戻していた。

「ええと…ごめん、舞衣ちゃん…私も姫和ちゃんもまだ捕まる訳にはいかないの………。」

「可奈美ちゃん!どうして……」

「私、見たの……あの時、御当主様が姫和ちゃんの技を受け止めた時、何もなかった空間から二本の御刀を取り出して、その時後ろに良くないものが……」

「御当主様?良くないものって。」

「おまえ…まさか、あの時に見えて……」

「うん、あれは荒魂だった。」

「…荒…魂?な…なにを言っているの?…だって、そんなこと…あの方は、大荒魂討伐の大英雄で…」

「違う!奴は、折神 紫の姿をした大荒魂だ!」

「……じゃあ、折神家が管轄する、刀剣類管理局も伍箇伝も……」

「その全てを荒魂が支配している。」

姫和が語る真実に言葉を失う舞衣。どうしてか、彼女の言っていることが嘘とは思えなかった。

「私も折神家を信用できない、だから、姫和ちゃんと一緒に行く。」

「本気…なんだね……。」

舞衣の問いかけに、可奈美は頷く。可奈美の決意に舞衣は――――

「…可奈美ちゃんのやることはいつも本気だもんね……分かっているよ。行って、後の事は私がやっておくから。」

「舞衣ちゃん……ありがとう。」

「あと、これ……荷物は押収されちゃって、返して貰えなかったんだ。」

「舞衣ちゃんのクッキー……ありがとう。」

「十条さん。」

舞衣に呼ばれ、姫和は振り返ると舞衣が頭を下げていた。

「二人のこと、よろしくお願いします。」

「……私は、自分のすべきことを果たすまでだ。」

そう言って、姫和は小烏丸を回収し納刀。そして、可奈美と優は舞衣に手を振ったあと、姫和の後を追って、その場所をあとにし、舞衣だけが残っていた。

舞衣も自分の孫六兼元を拾うが、優を人を斬った感触を思い出してしまい、公園の影で舞衣が食べていた昼食と再開することになる。

「人……斬っちゃった………」

舞衣は一人寂しく呟き、孫六兼元に映る自分が酷く歪んでいるように、やつれているように見えていた。

 

 


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