【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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48話を投稿させて頂きます。
二週間以上も遅れてしまい、すいませんでした……。

そして、今話からやべー奴が増えていく。

あと、岩倉 早苗さん、実戦の成績はひよよんよりも上らしいです。


壊れた歯車

米国政府の要請でトーマスは、優に対人を主とした戦闘訓練を施すために来日していた。

まず、トーマスは優の装備を選ぶことから始め、メインアームは主に米軍で使われ続けているM4を近代化改修し、ジャムといった故障を少なくさせたHK416にTroy typeと呼ばれるワイヤー伸縮ストックと銃身を9インチ銃身(228mm)に交換したショートカービンモデルのHK416Cにレイルハンドガード下部に射撃時の安定性と操作性向上のためバーチカルフォアグリップと耳の保護のためQDSS-NT4サプレッサーを装着したカスタムモデルをメインアームに採用したのは、優の薫よりも低い低身長と小さい体格を考慮し、尚且つボディアーマーで武装した相手にも5.56mmNATO弾で対処でき、トーマスが持つM4カービン銃(だが、ACOGサイトを装着し、カスタマイズされているが。)とSTT隊員達が使う89式小銃との間で弾薬共有できるよう5.56mmNATO弾を使用できるという条件に合っていたのが理由である。

そして、サイドアームには優の手の小ささから、9mmパラベラム弾を使うコンパクトサイズの自動拳銃が適当であると判断し、石廊崎の山中にて優が使っていたP226という自動拳銃と同じ会社製であり、個人の護身用や警察など、法執行機関の秘匿携行(コンシールド)用として開発され、P226よりも装弾数が7+1発(弾倉によっては6+1発)と少なくなり、トーマスが持つM1911A1と弾薬共有できないうえ、作動方式も違うが、小型の自動拳銃P238の9mmパラベラム弾仕様であるP938を採用し、ヒップホルスターに収めて携行していた。

そのため、二つの銃の扱い方を熟達するため、STT隊員達も使う射撃訓練場にて銃の訓練を施していた。

そして、優は射撃訓練後に周囲を確認してから、自動拳銃P938にセーフティをかけると、ヒップホルスターに収める。これは、射撃後に周辺警戒をして敵がいないことを確認する癖をつけさせるためにトーマスが教えたことである。

「……上出来だ。成長したな、偉いぞ。」

優の対人を主とした戦闘訓練を担当していたトーマスは、優が指示通りに人型の標的(マン・ターゲットのこと。)を全て二発ずつ命中させたためなのか、優に優しげにそう答えていた。

そして、銃はリアサイトとフロントサイトを一直線に合わせて標的を狙うことと、引き金を引く際は力み過ぎず弱すぎない力で引き金を引き、狙ったところの中央の部分からズレることなく狙って撃つことと、角の死角からの射撃とカッティングパイといった射撃技術を教えると、銃の反動と衝撃に恐れることなく直ぐに実践し、言われた通りの動きで的に当てたこと。

そのうえ、ナイフを何処かのアクション映画の様に水平に構えたり、左右に持ち替えたりせず、そして最初から急所を狙おうとはせず、ナイフを抜くと同時に敵の利き腕の腱か大動脈を切断後、足の大動脈か腹部を突き、痛みで膝を付かせると喉か頚動脈を切断、或いは頚椎を突くといった何通りものナイフでの戦い方を教えると、直ぐにその通りにできたこと。

それを見たトーマスは、初めは優のことを石廊崎の山中の戦いにて起きた夜見との狂気染みた戦い方を見て、不気味に思っていた。可奈美には人を活かす“活人剣”の才能が有るとしたら、優は“殺人”の才能が有るのだろうかということを考えてしまい、優の事をどう教育すれば良いのかという気持ちに駆り立てられていた。

……そんなことを考えてしまったからなのか、トーマスは優のことを気にし、そんな中で数ヶ月も接している内に人となりを知り、親近感を湧くようになっていった。

「トーマスおじいちゃん、ありがとう。」

優はトーマスにナイフと銃の扱い方を教えてもらったことに、疑うことを知らないかのような屈託のない笑顔で感謝の意の言葉を述べていた。

「…………。」

その姿を見たトーマスは優のことを利用しているにも関わらず、感謝の言葉を送られたことに何とも言えない気持ちになり、

『ありがとうございます、教官。』

『敵の首を持ち帰ってきます。』

『これで、国に居る友人や彼女のために戦えます。』

トーマスが教官だった頃のことを思い出していた……。

理想に燃え、キツイ訓練に音を上げず、素直に従っていた純朴な若い訓練生達のことをつぶさに思い出し、トーマスは嘗て指導していた訓練生達と優を知らず知らずの内に重ねて見てしまっていた。

(……皆、皆、国に還れた。)

但し、その訓練生達は天使(KIA)になるか、病死するか、国に帰った後に自殺していたりであった。

「……ああ。」

トーマスは優の感謝の言葉に対し、気の抜けた短い返事をしていた。

そして、友人も、教え子も、マイケルとシェパード、ロークも自分の元から離れていったことを痛感していた。そして――――、

(……何で今更、こんな子供ですら使い捨てるように利用していたのに。……弱くなったな、トーマス。)

 

 

嘗ての自分なら、こんな甘さを出さなかったことにトーマスは“弱くなった”と痛感し、冷酷さを失ったことに焦りを感じていた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルーツタルトだ!」

時は戻り、東京都湾岸線に現れた荒魂を討伐した可奈美は紗南から貰ったケーキの箱の中にフルーツタルトが入っていたことに、思わず声を弾ませる。

「…………おいしそう。」

同じく沙耶香も甘い食べ物を貰えてご満悦なのか、顔を綻ばせていた。

「貰っちゃっていいのかな?薫ちゃんの分は残しとかないとだね。」

可奈美は、今しがた紗南に連行された薫の分も残して置こうと沙耶香と相談し、決めようとしていた。

「あっ、……うん、そうだね。あと、「あっ!衛藤さん、糸見さん!」

沙耶香は薫の分も残しておくという話から、とあることを思いつき、あることを提案しようとするが、歩が可奈美と沙耶香を見かけたため、声を掛けていた。

「あっ、歩ちゃん……。」

しかし、可奈美は声に少しばかり覇気がない返事をする。

「早速また会いましたね!」

だが、歩の方は、可奈美に会えたことが余程嬉しかったのか、今の可奈美の状態に気付くこともなく、可奈美とは正反対で弾ませた声を上げていた。

「あっ、ちょうど今、本部長にケーキ貰ったんだ。」

可奈美は、今の覇気がない状態を歩が気付くことに恐れ、無意識に歩にも紗南から貰ったケーキを分け与えて、気付かれないようにしていた。

「良いんですか!?」

歩は、その申し出が余程嬉しかったのか、顔を綻ばせていた。

だが――――。

 

「あっ、でも。薫の分も残しておかないといけないけど、優の分も残して置こう。可奈美。」

 

そして、沙耶香にそう言われた可奈美はそこだけはやけに良く聞こえたため、時が止まったかのように動きが固まり、凍り付いていた。

「えっと、優って誰のことです?」

歩は優とは誰の事か尋ねていた。

「可奈美の弟で、今ここで治療中。」

歩の疑問に、沙耶香は真面目に誰のことか答える。そのことに可奈美は“英雄の仮面”が剥がれ落ち、沙耶香のことを睨んでいた。

憧れている可奈美に弟が居ることを知った歩がどのようなことを言い、どのような行動を起こすのか可奈美には容易に想像できたからである。

「えっ!そ、そうなんですか!!?じゃあ、行きましょう!!」

歩は驚いた。治療中ということは身体が悪いということである。それに、子供が一人寂しく待っているのは良くないことなのだから、可奈美と優は引き合わせるべきだと歩は思ってしまった。

「……あっ、いや、その、悪い風邪だから歩ちゃんにも風邪がうつったら大変だから、歩ちゃんまで付いて行かなくてもいいよ。」

可奈美は顔の片方だけ口角を上げ、急なことだったため、碌な嘘を吐けぬまま答えていた。

そして、可奈美は今の状態の優を見せると、歩がどんなことを思うのか、容易に想像でき、それが現実となるのが恐かった。

「大丈夫です!私、それぐらいならどうってことありません。私の分のフルーツタルトもその優ちゃんに上げて下さい!私も一緒に行きますから!!」

歩は可奈美に気を使って、そう答えていた。優のことを気遣ってくれる歩に何も言えず、次の言葉が思い付かず、言葉が詰まる可奈美。

「さあ、行きましょう!!」

言葉が詰まった可奈美は、歩に何も言えず、沙耶香と共に優の居る病室へ向かうしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなとき、食事を済ませ、食堂を後にした姫和は優と共に病室に戻っていた。

「優、実は渡したい物があるんだ。」

姫和はそう言って、紙袋の中から灰色のパーカーとhominisと刺繍された帽子を優に渡していた。

「わあ、……ありがとう。」

優は綻んだ顔をして、姫和に感謝の言葉を伝えていた。

「はは、そんなに嬉しいか、だったら着て見せてくれないか?」

姫和はそう言って、優に灰色のパーカーを着せ、hominisと刺繍された帽子を被らせようとしていた。……理由は、姫和自身も意味が無いのは分かっているが、優に人間用の服や帽子を着せて、荒魂ではなく人間であることを証明しようとしていた。ただ、儀式めいたことをしようとしていただけであった。

「……姫和おねーちゃん。」

「どうした?そんな声を出して。」

優の悲しげな声に思わず振り向き、何事かと優しい声で尋ねる姫和。

「……ゴメン、帽子が上手く被れない。」

姫和はそれを見て、自分を強く恥じた。角が生えているのだから、上手く被れないのは当たり前である。どうして、そんなことですら気付かなかったのか……。自分は馬鹿なのかと強く責めていた。

そして、灰色のパーカーを着て、帽子が被れなかった優の姿を見て、灰色は白とも黒ともはっきりしない意味を持つところから、“荒魂”とも“人間”とも明確にはできない立ち位置に居て、帽子に刺繍されているhominisはラテン語で『人間』という意味を持つことを思い出し、hominisと刺繍された帽子が被れなかったことから、まるで、この世界も優のことを“人間”として扱わないと言っているかのように連想してしまった。

(……そんな訳ないっ!!こんなの何の意味も無いっ、そう意味なんか無いっ!!)

だが、姫和は自ら“人間”であることを証明させるために、灰色のパーカーを着せ、hominisと刺繍された帽子を被らせようとしていたにも関わらず、それを忘れ、捻じ曲げ、都合の良いように変えていた。

 

――――そして、姫和はこの世界が全て敵であるかのように思えてしまった。

 

「姫和おねーちゃん?」

呆然としていた姫和を不思議そうに見る優。それに気付いた姫和は、

「あっ、……ああ済まない。その帽子はサイズが合わなかったみたいだな。済まない、」

優の呼びかけに気付いた姫和は、誤魔化すように、帽子を取ると、紙袋の中にしまっていた。

「ううん。それ貰って良い?」

だが、優は姫和に気を遣って、帽子を受け取ろうとしていた。

「良いのか?」

驚く仕草を見せる姫和、内心は悪いことをしたと後悔の念で一杯だった。

「うん、良いよ。」

笑顔を見せる優。それだけで姫和の心は救われる気持ちとなっていた。そのため、姫和はhominisと刺繍された帽子を優に渡そうとする。だが、

「失礼します!あっ、あれが優ちゃんですか!!?」

そんな中に歩が突然入室してきた。そのため、姫和はhominisと刺繍された帽子を優に渡せぬままであった。

「誰だ、お前。」

姫和は突然入室してきた歩に警戒していた。

「あっ、え~っと私は内里 歩と言います!あの、衛藤さんと糸見さんの話を聞いて来ました。それと、可奈美お姉ちゃんが来たよ!優ちゃ……!!?」

可奈美が来たことを告げれば、優が喜ぶと思い、優ちゃんと呼ぼうとした歩は優の今まで歩の視点から死角となっていて見えなかった右側の顔が見えてしまった。その姿は、右額から鬼の角の様なノロの角が生えているのが見えてしまったため、歩は硬直していた。

「えっ、……あぁ、あの、えっと、……?」

歩は突然のことで、頭が回らなかった。

あれは、荒魂なのか、人間なのか、戸惑ってしまったのだ。

「どうしたの?」

沙耶香は歩の表情を伺うように見つめていた。何をそんなに強張った表情をするのか、沙耶香は分からなかった。

「えっ、あの、……?」

 

だが、歩には、優が荒魂にしか、化け物にしか見えなかった――――。

 

「あっ!可奈ねーちゃん、お帰りっ!!」

しかし、優は可奈美が帰って来たと思い、喜んで迎えて、可奈美に抱きついていた。

「……うん、……ただいま…………。」

可奈美は俯いたまま返事をしていた。そして…………、

(優ちゃんは次に私に何を言うんだろう、何を考えているんだろう、分からない、……分からない、分からない、分からない分からない分からない分からないっ!!)

可奈美の心は、恐怖に支配され、手が震え、心臓の鼓動が早くなったのを感じ、全てをかなぐり捨ててでも逃げ出したかったが、金縛りを受けたかのように動けなかった。この後、優は何を言うだろうか?そんな考えが可奈美の心を支配していた。…………嘘吐き、役立たず、出来損ない、裏切り者、のろま、嫌い、馬鹿、愚図、嘘吐き…………。

可奈美は、覚えている幾つもの悪口を思い出しては消え、頭の中でぐるぐるぐるぐると何時までも回り続け、思考が纏まらなかった。

歩は可奈美が頻発する荒魂事件で忙しいから、優にあまり会えないのだろうと思い、可奈美と共に優に会えば、優は歩のことを警戒することがなくなり、優と仲良くなれば、可奈美の代わりに優の面倒を見ることができるようになり、尊敬の念を抱き始めていた可奈美の助けとなり、可奈美と優は喜んでくれると思っていた。

「えと、あの、…………優くん、私はその、お見舞いに来ただけだから、その、私はお腹が大きいから、フルーツタルト食べる?」

……だが、実際は、その優が殆ど荒魂のようになっていることに、度肝を抜かれてしまう。そのため、歩は優から目を逸らしながら、フルーツタルトが入っている箱を手渡す。

目を逸らすのは良くないとは分かっていても、歩は優から目を逸らしていた。優のことを荒魂、いや化け物としか思えなかったから…………。

「!……歩おねーちゃん、ありがとう。」

フルーツタルトをくれた歩に、笑顔で感謝の意を述べる優。だが、優のことを恐れるかのような仕草を見せる歩に姫和は、

「……ええと、確か、内里 歩だったな?少し外で話したいことがあるんだが良いか?」

歩を呼んで、外へ出ようとした。

「えっ?……あっ、はい!」

歩は自分はとんでもないことをしたのではと思い、気が動転としていたところへ、有名な平城の姫和から呼ばれ、外へ出ることに同意してしまった。

「……済まないが可奈美、沙耶香、優のことをお願いしていいか?」

姫和にそう言われ、頷く可奈美と沙耶香を姫和は一瞥したあと、歩と一緒に外へ出る姫和。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩は有名人の一人姫和と一緒に外に出ていたことに、先程の件もあって気まずかったが、胸倉を突然誰かに掴まれ、驚く。

「うぐっ……!!?」

突然のことに息を詰まらせる歩。歩の胸倉を掴んでいたのは、鬼の形相をした姫和だった。

「……何を、…するんです?」

「お前っ、優を化け物扱いしたろ?荒魂扱いしただろ!?どうなんだっ!!」

歩は姫和が何故胸倉を掴むのか理由を聞こうとしたら、姫和は間髪入れず、歩が優を化け物の様に見ていたことを叱責していた。そのため、歩は有名人の一人でもある姫和が鬼の形相をしながら、急に胸倉を掴んできたため、

「だっ、だってどう見ても、荒だ「はぁっ!!?」…………。」

気が動転してしまい、歩は思っていたことを正直に口に出してしまう。

「誰が、誰が荒魂だって?よく聞こえなかったな?」

歩に対して、姫和は怒りを顔に出し、詰問する。

「……そ、それは「優だと言うのか!!?」…………。」

更に歩の胸倉を掴む力を強める姫和。それに、歩は恐怖のあまり、言葉がまともに発せないまま、条件反射的に何も考えられず頷いてしまう。

「……お前っ!!」

歩は心の中では、言ってはいけないことを言ってしまったと、言うつもりがなかったことを言ってしまい、後悔していた。姫和はそれを聞いて、振り上げた手を歩の頬に打ちつけ、悲鳴を上げる歩。

「お前なんかに何が分かるっ!!お前なんかに何がっ!!!」

確かに姫和の言うとおり、優を化け物、というよりも荒魂ではないのか?と歩は見て思ってしまった。だが、だからといって、姫和にここまでされる理由はないと思ってしまったのと、無理矢理そう言わせたのは姫和ではないのかと思い、歩は姫和に対して沸々と怒りが湧き上がってきた。

「一体何なんですっ!!あなたに何の関係があるんです!?」

歩は声を荒げて、抗議していた。それに姫和は、

「お前がそんなふうに見ていたら、優は、……優はストレスを感じて、残り短い命すら無くなるんだ。もし、そうなったらどう責任取るつもりだっ!?」

と言って歩を非難していた。

「だから、あなたに何の関係があるんですっ!何を知っているんですっ!!あなたがそうやって周りを脅すから優くんの敵を作って荒魂だとか化け物だとか言われるようになって、余計に短い命を減らしているんじゃないんですかっ!!?」

だが、歩は姫和の非難に臆することなく、姫和の行動が優の敵を増やすことになると言って、姫和に言い返していた。

「何だとっ……。お前も知らない癖に、お前も、大荒魂を倒したのが私達じゃなく、優だということを知らないで……、お前みたいなのがっ!!優を批判してっ!化け物のように言って!!」

「……えっ?」

姫和は大荒魂を倒したのが、可奈美達ではなく、優だと言ってしまう。極秘事項であるということを忘れて、言ってしまう。歩は、その証言に驚愕するしかなかった。そこへ、

「十条さんっ!!」

早苗が大きな声で叫んで、姫和を羽交い締めにして割って入り、歩を姫和の拘束から開放していた。

「十条さん、何をしているのっ!!」

姫和を羽交い締めしつつ歩から離すと、歩の胸倉を掴んでいた姫和を叱責する早苗。

「それは!コイツが、優を化け物とか言うからっ!!」

それに対し、歩への暴行を自分なりの正当性を子供のように主張する姫和。

「十条さんっ!!……ごめんなさい、今の内に。」

それを聞いた早苗は、姫和を叱責し黙らせると、その隙に歩を逃がそうとしていた。だが、歩は驚くべきことを聞いて、呆然としていたため、立ち尽くしたままであった。

「早く行って!!」

早苗が大きな声を出すと、歩はハッとなり大慌てでその場から離れていった。

「何で、こんなことをしたの、十条さん?」

この場から、歩が離れていったことを確認した早苗は姫和への羽交い締めを解き、姫和に歩への暴行を働いた理由を子供に優しく諭すかのように尋ねていた。

「あの綾小路が、優を化け物だとか言ったのが悪い!!何故逃がしたっ!!」

だが、優しく諭すように尋ねた早苗でさえも噛み付く姫和。

「十条さん、……十条さんにとって、あの子は何?」

早苗は姫和を落ち着かせるため、ゆっくりと件の優のことをどう思っているのか聞いてみるのであった。

「それは…………。」

早苗の詰問に何も答えられない姫和。自分にとって、優はどんな存在なのだろうか?恋情、愛情、友情?どれに当て嵌まるのか姫和でさえ分からなかった。だから、答えられなかった。

「十条さん、少しおかしいよ。何であの子が絡むとそうなるの?」

「…………。」

早苗の問い掛けに姫和は上手く答えられなかった。

自分が何を求めているのか、答えられなかった。

「…………じゃあ、岩倉さんはどう思っているんです?あの子のこと。」

姫和は自分が優に何を求めているのか分からないからだろうか、早苗に優のことをどう思っているか聞いてみた。

「ええっ?え~っと、どうって言われると、良い子だと思うけど、やっぱり少し怖いかな、だって病室で暴れたって聞くから。」

「そうか、ならいいです。」

早苗の返答に姫和は愕然とすると共に、早苗に一人で勝手に失望し、早苗に対し拒絶の意思を示し、壁を作り始める。

「十条さんっ!!」

早苗は姫和の背中に大きな声をかけるが、振り向くことはなかった。そうして、一人自室に戻った姫和はベッドの上で優に何を求めているのか思案を巡らせていた。そして、

 

「……約束しただろう?私は、私はお前を助ける。……だから、可奈美も助けたい。それまで、ずっと一緒にいる。だから、優も何処かへ行かないでくれ。ずっと側に居て、またチョコミントアイスでも食べに行こう。可奈美と一緒に三人で。……三人で、……三人で。」

 

姫和は何かを思い出したかのように、一人だけで、呟くように、壊れた機械のように、呪文のように、目を見開いて、決意を持って、小鳥のように鳴いていた。

 

 

壊れた歯車に、誰もが気付かぬまま、誰もが動き始めていた――――。

 

 




 
 
ギスギスしていきます。次回、多分ですが箱根山中。

 
 

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