43話の虚偽の英雄~50話の箱根山戦2にて、“沙耶香”と書いていたつもりが、“紗耶香”となっておりました……。すいません。
あと、改行空白頑張ってみました。前の方が良いや今の方が良いといった感想もできたら下さい。
第二小隊に所属するSTT隊員の一人が双眼鏡にてブロックJ周辺の荒魂を環視し、第二小隊を指揮することとなった舞衣に報告していた。
「……柳瀬隊長、現在荒魂に動きはありません。」
この報告により、S装備刀使の作戦行動に荒魂はまだ気付いていないということが舞衣は知ることができた。
『解りました。そのまま、動きに変化は無いか監視し続けて下さい。』
ノロとの結合を求める性質を利用し、荒魂の近くにノロを置き、ブロックJに居る荒魂達を指定ポイントまで誘き寄せ、荒魂の隊列を伸び切らせると同時に、伏兵と待ち伏せでブロックJの周辺に居る荒魂を殲滅するべく、舞衣はS装備を装着した刀使達の展開が終了するまでSTT隊員に双眼鏡で荒魂の監視をさせていた。だが、STT隊員が双眼鏡で監視しているとはいえ、ブロックJに居る全ての荒魂を監視することは不可能なので、大型の荒魂のみを監視しすることになっていた。丁度、ムカデ型の荒魂の周辺に蟲型の荒魂が屯している状態であり、ムカデ型のみ監視するだけでも都合が良かったと言える。
『…投下します。』
舞衣からの無線通信が来たため、STT隊員等は気を引き締める。
何時、こちらに向かってくるか、思った方向に向かわないかも分からないので、双眼鏡で監視をしているSTT隊員は目を凝らして見ていた。
「…柳瀬隊長、予定ポイントに向かっていきました。」
そして、何事も無く、荒魂はこちらの思惑通りに誘導されていったことを確認したSTT隊員は舞衣に予定通りに事が進んでいることを報告していた。その報告を終えたSTT隊員は周りの隊員達に装備している短機関銃MP5SD6を構えるよう指示し、大型のムカデ型に狙いを定め、指示があるまで発砲は控えるよう周りの隊員達に厳命していた。
このノロを使った誘導による奇襲殲滅作戦はタイミングが重要である。
もし、S装備刀使達の展開と準備が終わる前にSTT隊員達が発砲してしまえば、荒魂達がSTT隊員達の方に向かい、せっかく良い位置に就いたS装備刀使達は奇襲に絶好なポイントを放棄し、STT隊員を守るために戻らなくてはならなくなり、奇襲を以って殲滅するどころではなくなるのだ。
そう思うだけで、STT隊員等は緊張が走る。しかし、不思議な物で訓練の賜物か、呼吸を整えていくだけで次第に思考がクリアになっていき、冷静になっていくことができた。これならば、例え目の前に荒魂が出てきてもパニックになることなく指示が出るまで発砲はしないだろうと誰もが思い始めていた。
『今です。』
そして、舞衣からの短いながらも火力支援を要請する通信を受け、即座に大型のムカデ型へと制圧射撃を加えるSTT隊員達。
ムカデ型の荒魂は音も無く、どこからともなく撃たれていること、後ろから刀使達が急に現れ、蟲型の荒魂を一方的に倒していく様に驚いたのか、慌てているようであった。
その隙に、STT隊員達は立ち上がると同時に発砲を続け、こちらの存在をムカデ型に晒すと、ムカデ型は御刀を持つ刀使を相手にするよりは良いと判断したのか、若しくは一方的に蹂躙されている仲間の仇か、いや、それとも獲物が間抜け同然に姿を晒してくれたと思ってくれたのか……。
どちらにせよ、あのムカデ型の荒魂は予定通りに罠とも知らずに向かって来てくれている。STT隊員達は荒魂が向かってくるという恐怖と戦いながら、囮の任務を全うするために撃つのを止めて背を向けることにした。そうすることで、こちらを獲物だと誤認してくれるだろうと思いながら、荒魂に背を向けて走るSTT隊員達。その狙いは的中したのか、更にこちらを追うムカデ型の荒魂はこちらを蹂躙することは叶わず、S装備刀使二名、可奈美と沙耶香の両名による待ち伏せと奇襲により、声を上げる間もないまま、ムカデ型の荒魂はノロへと還って逝った。
「スゥ、……フゥッ。……柳瀬隊長、ムカデ型の荒魂は予定通りにノロへと還りました。繰り返します、ムカデ型の荒魂は予定通りにノロへと還りました。」
流石に荒魂に追われるのは、予想よりも精神的に多大な苦痛であったのだろう。
STT隊員達は気付かなかったが、多量の汗をかき、動悸が早くなっていた。STT隊員達はその状態から脱するために、息を吸って吐いてから、心を整え、舞衣にムカデ型の荒魂を予定通りにて討伐されたと報告していた。
一方、作戦区域の幾つかの地点を制圧した第二小隊隊長の舞衣の指揮下に居る沙耶香はブロックJ周辺に居る荒魂の残敵掃討をしていた――――。
苦痛でもがいている荒魂を見つけると、止めを刺してノロへ還し。そして、また苦痛で喘いでいる荒魂を見つけると、止めを刺してノロへと還す。それをプログラミングされた機械のように、何度も……、何度も何度も何度も何度も単純作業のように、無念無想を使っているかの如くそれを何度も繰り返してきていた。……まるで、心が無いかのように。
「…………。」
以前の“温かいもの”を知らなかった沙耶香であれば、斬られたことにより、もがき苦しんでいる荒魂に止めを刺すことに戸惑うことなく斬って祓っていただろう。しかし――――、
「……何で、こんなことしてるんだろう。……私。」
もがき苦しむ声を上げる荒魂、ノロを噴き出しながら痛みで呻く荒魂、恨めしそうにこちらを見つめている荒魂、仲間を庇っているのか死にかけている荒魂に覆い被さる荒魂。この光景を何度も何度も見た沙耶香は、……いや、今や“温かい感情”を知った彼女にとって、フリードマンに教えてもらったこと、
『ノロは人が御刀を手にするために無理矢理生み出されたいわば犠牲者なんだ。元の状態に戻すことができないのならせめて社に祀り安らかな眠りについてもらう。それが今の所我々にできる唯一の償いなんだ。』
を思い出し、人間達のエゴによって捨てられたノロが結合して生まれた被害者とも言える荒魂を何故こんなふうに斬り殺さなければならないのか、理解ができなかった。
「……何だろう、この気持ち、……何でこんなことを…………。」
嘗ての沙耶香は、天才と言われても何も感じず、任務を遂行するだけだった。
……空っぽでいることは楽だったから。
だが、心の何処かで天才と言われていたことに、誇りを感じてしまったからだろうか――――?
それとも、可奈美との立会いで“温かい”ものを感じてしまい、“剣術”や“刀使の使命”というものの考え方が変わってしまったからだろうか――――?
自問自答する沙耶香は、背後を狙う、又は一人が囮となっている間に致命傷を与え弱らせる。そんな不意討ち同然の真っ向勝負とは言えない戦い方をして、弱らせた荒魂を一方的に止めを刺している状況を、より正確に言えば虐殺染みたことをしていることに、言い知れぬ何かを感じていた中。
「ちっ、まだ“生きてる”っ!」
あるS装備刀使一名が舌打ちをすると共に、死にかけている荒魂を見かけると、足で踏みつけると同時に何度も何度も突き刺して、止めを刺していた。
「たく、邪魔くさいことして。」
そして、もう一人のS装備刀使は、仲間を庇うためか死にかけている荒魂に覆い被さる荒魂を邪魔そうに蹴り飛ばして退かすと、死にかけている荒魂相手に御刀で斬ってノロへと還すと、蹴り飛ばした荒魂も何の遠慮も無く足で抑えると何度も突いてノロへと還していた。
そして、舌打ちしていたS装備刀使と荒魂を蹴り飛ばしていたS装備刀使は止めを刺す際、非常にサディスティックな笑みを浮かべながら、荒魂を斬り殺していたことに沙耶香は気付いていた。
「……実戦て、結構呆気ない物だね!」
「これが、……S装備の力なんだ……。」
「この装備差なんだから、当然の結果じゃない!?」
周りの同じ第二小隊に所属する先程とは他のS装備刀使達も今まで苦戦していた大型の荒魂を一方的に倒せたことに、喜びを感じ、ある種の万能感に酔いしれ、一種の高揚感を覚えてしまったせいか、わざわざ荒魂を足蹴にしてから止めを刺していたり、わざと急所を外しながら斬り殺していたり、普段ならそんなことをしないであろう彼女達のどこか必要以上に行なう加虐的な行動を見た沙耶香は周りのS装備の刀使達の笑顔がどこか歪んだ顔をしているように、人間とは違う物に見えてしまっていた。
(……何が…………楽しいの?……)
沙耶香は、周りの新型S装備の装着した刀使達の顔が澱んで見えると同時に、嘗ては箱根山に施設が有ったことを示す標識が残っており、それと同時に『非核恒久平和宣言都市』と和やかな絵と共に書かれていたモニュメントを、その願いを込めた象徴をただ思うところがあったのかは沙耶香自身分からないものの、ただ、ぼんやりと見ていた。
「…………。」
その『非核恒久平和宣言都市』と和やかな絵と共に書かれているモニュメントを見て、何故だか、穴が空いた心の隙間に風が入って来たかのように、心の中に冷たい何かが入り込んで来たことに沙耶香は寒気を感じていた。
ここは、元々は人が溢れていて、穏やかな平和を願って建造したモニュメント通りに子供も大人も笑い合う素敵な場所であったのだろう。錆びている遊具が、店であった廃屋が何の店であったかを見るだけでそれを物語っていた。
そして、沙耶香は刀使の離職率の増加によって、関東のみに荒魂発生率が上昇したとはいえ、関東で遠く離れた所に住んでいた人達の処でも荒魂が発生してしまえば、対応が遅れるため、その対策として疎開同然に避難して行った者が居たということをニュースか何かで見たことを思い出し、この地帯もそれだったのではないのかと沙耶香は思い始めてしまう。そうだったなら、自分達は四ヶ月前の大荒魂との戦いで、何も出来ずノロを漏出してしまったことをしてしまったのだから、ここ意外も、いや、ここ意外の何処かに住処を捨てざる負えなかった人達はどれだけ居るのだろうか?
「……………。」
沙耶香はそれを考えるだけで、思考がそのことについて一杯となり、纏まらなくなり、心も罪悪感によって生まれた苦痛を燃料として、心臓の鼓動が早くなったことを痛感していた。
単純作業のように繰り返し、まるで、心が無いかのように荒魂に止めを刺すと同時に、“自分”が自分で無くなる感覚――――。
四ヶ月前の大荒魂との戦いで、何も出来ずノロを漏出してしまったことによる罪悪感から来る、“心”という魂が何処かへ逝ってしまう浮遊感――――。
温かい場所が寂れて、今や加虐的な行動をする者がその大地に立ち、誰も居ない冷たい場所となっていることを認められず、“周り”が無くなるかのような錯覚――――。
『私も舞衣と一緒。この温かい気持ちを捨てない!!』
何時の話だったか、誰の決意だったか、そんな遠い話の様に感じ、遥か昔の話だったような感じもしたが、紛れもなく嘗ての自分が雪那に向かって啖呵を切って言った嘗ての決意。なのに、何故そんな決意から遠く離れてしまうような所へ来ているのだろうか?どうして、こんなことをしているのか、今では求め欲した所から遠く離れた場所へ向かっているのか、解からなかった……。
どうしてこうなったのかが、解からなかった…………。
どうして此処に居るのか、解からないのだ…………。
どうしてこうなったのかが、解からない…………。
解からない。分かラない。解カらない。解らナい。解カラない。判ラない。解からなイ。わからない。解かラナい。…………ワカラナイ。
『沙耶香さん、心拍数と血圧が急に上がり、呼吸も上がっていますが、何か問題がありましたか?』
鏑木は沙耶香の心拍数と血圧、呼吸が急に上昇したことについて、何があったか優しげな声で尋ねていた。だが、鏑木が沙耶香に軽度のパニックの兆候が見られることを沙耶香に聞こえないようにマイクを握って、寿々花と西田に報告した後に尋ねていたことだったが……。
尚、マイクを握って沙耶香に聞こえないようにしたのは、パニックの兆候があることを聞かれると沙耶香の真面目な性格から無理をするだろうと判断し、聞こえないようにしたためであること。そして沙耶香の呼称はS2だが、パニックを起こしていることを考慮し、鏑木は沙耶香を落ち着かせるために名前で優しげな声で呼んでいた。
「……はい、……大丈夫、です……。」
沙耶香は途切れ途切れながらも異常が無いことを伝えていた。自らの心の内にある蟠りを無理矢理抑え込みながら……。
しかし、沙耶香の預かり知らぬところで西田達と寿々花は、ノルアドレナリン値が急に上がると伴い、血圧と心拍数、呼吸が増大した今の沙耶香について仮野営地の基幹連隊指揮統制システム搭載の中型トラック内にて話し合っていた。
「……やはり、軽度のパニックに陥っていると思われます。誰かに交代させるべきでは?」
鏑木が、直属の上司である西田二等陸佐と総指揮官に任命された寿々花に異常が見られる沙耶香を後退するべきであると進言していた。
「只の戦闘によるストレスの可能性は?」
寿々花は荒魂との戦闘によって生じたストレスが心拍数と血圧を増大させ、呼吸も上がったのではないのかと鏑木に尋ねていた。
「他の隊員も糸見隊員と同様に心拍数は上がっていますが、糸見隊員の任務を遂行することを第一とする気質と中等部の頃に主力の一員として活躍していた経歴から、現在の状態を考慮すれば、荒魂の戦闘によるものであるという可能性は低いと思われます。」
寿々花の質問に鏑木は、沙耶香は元々内に不満を溜め込み何一つ文句を言わず指示に従う性格であることであること、中等部一年で荒魂の討伐任務に参加しているベテランであるにも関わらず、心拍数の増大と脳波に異常が見られるということは荒魂との戦闘以外によって生じたのではなく、何らかの外的要因によってストレスを受け、軽度のパニック又はパニック障害に陥ったと鏑木は考えていた。
そのため、心身に多大な負担を強いている状態の今の沙耶香を退げ、第三小隊の誰かと交代すべきであると西田は寿々花に進言していた。
「……つまり、沙耶香さんは荒魂の戦闘による物ではなく、何らかの理由でパニックに陥っていると、……あの子の生真面目な性格なら、考えられますわね。S装備の稼動限界時間は?」
その進言を受け入れた寿々花は箱根山周辺に居る荒魂全体に目立った動きが無いことを作戦区域の全体図を写し出している大型モニターで確認した後、S装備の稼働時間限界間近であることを理由に第二小隊のS装備のバッテリーを第三小隊の何名かに第二小隊に届けて来させる間に第二小隊を休憩させ、S装備のバッテリーを持って来させた数名の第三小隊と合流後、沙耶香を第三小隊の一人と交代させ、その数名の第三小隊と共に沙耶香を後方に退がらせることを決意。S装備のバッテリー残量の確認を担当する鏑木と古河にS装備の稼働限界時間を尋ねていた。
「S1からS5の稼動限界時間は約30分。」
「同じく、S6からS10の稼働限界時間は約30分。」
寿々花に尋ねられたため、定型通りに新型S装備の稼働限界時間を報告する鏑木と古河。
「でしたら西田さん、第三小隊の何名かをS装備のバッテリーを運ばせましょう。S装備のバッテリーを交換できましたら、第三小隊の中で腕の立つ人と沙耶香さんを交代。……それで行きましょう。ああ、あと沙耶香さんには私から指揮所に戻ってきて手伝って欲しいと伝えて下さい。そう言えば戻ってくるでしょう。」
あとは沙耶香に戻ってきてもらう理由を添えれば、沙耶香は従うであろうと踏んだ寿々花は鏑木と古河、西田に伝え、そう指示していた。
そんなやりとりがあったことを知らず、第二小隊の指揮を担当している舞衣は、
「第二小隊を預かる柳瀬です。指示通り、ブロックJ周辺の荒魂の反応は消滅しました。次は何処に向かえば良いでしょうか?」
沙耶香の状況を知らないまま、舞衣はオペレーターを務める鏑木一等陸尉に次に向かう地点への指示を乞うていた。
『……分かりました。では、次はブロックNをお願いします。この区画に居る荒魂を討伐することができれば、荒魂の戦力は約60%まで減衰します。ですが、S装備のバッテリー残量は残り少ないので、回収班と第三小隊の5名の刀使がS装備のバッテリーを持って、そちらへ向かうよう西田二等陸佐が手配しました。それまでS装備のバッテリーとノロの回収班が来るまで待機していて下さい。』
鏑木一等陸尉がそれに応え、既に第三小隊からS装備のバッテリーを持った5名がこちらに向かっているという援護の話を聞き、安堵する舞衣。
舞衣は当初、少しも笑顔を見せない鏑木一等陸尉が苦手であったが、こうして話してみると、……いや、今でもムッツリとした堅い顔で応答しているであろうことが声から分かるが、少しミスしてしまったときに焦ってしまうものの、鏑木から優しげな声で落ち着くように言われたときは心底驚いたものである。
「分かりました。それまでここで待機します。…みんな、大丈夫?ここで一休みしよう。……沙耶香ちゃん?」
ふと、沙耶香の方を見やると、沙耶香が汗を多く出していることに違和感を感じ、沙耶香に何があったのか尋ねていた。
「沙耶香ちゃん?……沙耶香ちゃん!」
「……えっ、……あっ?」
やはり、何処かおかしい。舞衣はそう判断すると、
「……沙耶香ちゃん、どうしたの?休憩にしよう?」
「あっ、……うん、ごめんなさい。」
沙耶香を休憩させるため、優しく柔和なでそう言って、休憩するように伝え、沙耶香を岩の上に座らせる。
「可奈美ちゃん、悪いけど様子がおかしいから沙耶香ちゃんの傍に居てあげて。」
『…うん、分かった。』
沙耶香を座らせると同時に沙耶香に悟られないよう小声で、無線通信を使って可奈美に様子のおかしい沙耶香の傍に居てもらおうとしていた。
理由は、
「……第二小隊を預かる柳瀬です。沙耶……糸見隊員の容態が悪いので、後ろに退がらせて貰いたいのですが。」
この通信内容を沙耶香に聞かせないためである。もし、この通信内容を沙耶香に聞かれでもしたら、後ろに退がることを頑なに拒否することがあるため、可奈美に沙耶香を見てもらうと同時に監視してもらうことにした。
『……確認しました。第三小隊にはその旨を伝えておりますので、その場で待機をお願いします。』
そうして、鏑木から沙耶香を後方に退がらせることが容認されたことに安堵する舞衣。沙耶香は何かと我慢する子なので、気を使わないといけないと舞衣は思っており、もし沙耶香を後方に退がらせなかった場合は、無理にでもそうさせようとしていた。
「ありがとうございます。それで、どのようにするのでしょうか?」
『既にこちらのモニターで、糸見隊員の心拍数及び血圧といった値が異常を示しておりましたので、此花指揮官と協議し、第三部隊の人員と糸見隊員を交代し、糸見隊員は第四小隊へ、第三小隊の欠員は第四小隊から補充され、再編成される予定です。』
舞衣は、すんなりと沙耶香を後退させて貰えたことに感謝の意を述べていたが、沙耶香は中等部の頃から鎌府の主力として活躍していた実戦経験豊富な刀使である。
にも関わらず、何故こうもすんなりと受諾してくれたのか疑問に思い聞いてみると、新型S装備に内蔵されている各種センサーで体温、血圧、呼吸、心拍数、運動反応を測定することができ、その情報をリアルタイムで後方の指令所や作戦指揮所に送られることを思い出し、その情報を以って、沙耶香の状態が悪いことに早く気付いたのだろう。
そう理解した舞衣は、沙耶香の“お姉さん役”であるにも関わらず、何一つ気付かなかったことに恥じると共に、この新型S装備は凄い物だと感心していた。
リアルタイムで戦況とドローン等の偵察によって得た今から向かう作戦区域の荒魂の数と構成、地形を表示し続けてくれるのは、作戦を立てる際にはこれらの情報は必要不可欠であり、この機能は一見地味だが助かるのである。
そして、舞衣は新型S装備を見て、アップデートされる内容を思い出していた。このS装備は各センサーから収集した情報を元に機能を改善したり、荒魂の行動データが蓄積されている物、例えば美濃関学院にあるシュミレーターの様な物と連動することができれば敵の行動予測をし、疑似的にではあるが龍眼のように先手が取れることが可能となるよう順次アップデートされると聞いていたと同時に、舞衣は複雑であった。
理由は、そのアップデート内容に熱探知、暗視なども盛り込まれることとなっていた。つまり明眼の様な機能をも追加されることが明記されていたのだ。
(……何だか、機械で全て賄われていくみたい…………。)
そう思うだけで、数少ない明眼を使える舞衣としては何とも言えない気持ちとなっていた。
(……ううん、今はこの掃討作戦を成功させなきゃっ!!)
しかし、舞衣はそんな感傷的な気持ちを払い除けるかのように、今はこの掃討作戦を遂行することにだけに集中し、気持ちを切り替えようとしていた……。
これで、年内最後の投稿となりそうです。
また、来年も宜しくお願いします。