【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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52話を投稿させて頂きます。
刀使ノ巫女なのに、おっさんが多い。

まだまだ止まんないから…………。
 
 


箱根山戦4

箱根山の荒魂掃討作戦前――――。

とある研究所、或いは何処かの製造所にて、珠鋼を加工し、太く大きくトゲが付いた棒状の物に製造、そのうえ御刀と同等の能力を持たせたかったらしいが、今現在の技術を以ってしても不可能だったらしく、残念そうにしていた。

最初は、珠鋼で出来た棒だけの要求だったが、大荒魂の片割れに対する戦力確保、旧折神派の不穏な動き、関東を中心に頻発する荒魂事件、それに反するかのように刀使の離職率の増加といった多くの不安要素があった。そのため、戦力の増強と確保が第一とされ、御刀と同等の力を持つトゲの付いた太い棒の製作へと要求水準が上がってしまい、造ろうとしたが悉く失敗。そのうえ、特別希少金属利用研究所が珠鋼を媒介として、隠世から無尽蔵のエネルギーを取り出すことと、ノロと珠鋼を接近させノロの中にある“穢れ”を減少させるという研究を優先することを決定。

そうしたこともあり、希少金属の珠鋼をたかが棒を制作するのに使用するよりも特別希少金属利用研究所が研究する物の方が何倍も価値があるため、珠鋼製の棒を製造するために使用する珠鋼と研究資金、人員は全て特別希少金属利用研究所の研究に使われることとなった。

こうして、珠鋼製の棒を製作し、その関連技術で新たに御刀に近い物を製造と同時に不純物として取り除かれるノロを優の中に居る荒魂タギツヒメの強化のために使い、戦力を増強する計画はボツとなったのである。

…………そのことに、朱音がホッと胸を撫で下ろしていたと同時に、

 

あんだけ造れと言っときながら、もしかしたら出来るのかも知れないと不安だったけど、結局は失敗してる。…………ざまぁみろ。

 

といったような近いことを小声で口走っていたとか何とか証言する者が後年になって居たが、真偽の程は定かではない。

 

 

 

 

 

そんなことがあって、官房長官室にて甲斐陸将補と中谷防衛大臣の二人とこの事について協議していた。

 

「…………と、まあこんな訳がありまして、今現在の技術を以ってしても、御刀と同等、或いはそれに準ずる物は製作不可能、或いは不要であると判断致します。」

「…………ふむ。朱音の言っている通りとなった訳か……。」

 

御刀の製造方法の復興を目指す研究施設、並びにそれらを支援する関連企業から、御刀と同等の力を持つ物は現段階を以ってしても製作不可能ということを聞いた中谷防衛大臣とその隣に居る甲斐陸将補は官房長官に説明していた。

 

「ですので、無理に御刀やそれに準ずる物を製造しようとすればノロの総量が増すだけのこととなるかも知れません。となれば、我が国が得られる物は何も無いこととなり、刀使の負担は増加するにつれ、離職率も更に増えることとなると確信しております。」

「……分かった、総理と関係閣僚には私が伝えておく。甲斐陸相補、君の計画に添うようにしよう。」

 

その計画とは、今も不況が続いており、経済的な理由から社の数を減らしたかったため、討伐された荒魂の一部分及び御刀を新たに制作する研究は凍結。荒魂討伐でノロを得た場合は優に投与して市ヶ谷の姫に対抗する戦力として確保するというものであった。

 

「今はそれが最善かと。」

「関東を中心に荒魂は増加している中で刀使の離職率の増加といった現今の情勢下を思えば、頭が痛いことだな。……彼の少年には我が国の国益のための礎となって貰おう。」

「では、そのことを朱音局長代理に伝えておきます。これで、彼女は私達のことを少しは信用することでしょう。」

「……頼む。」

 

御刀を新たに製造する関連技術は国益となることと、荒魂を集約させることにより経済的な理由から社の数を減らすことができ、優に入れてノロの総量を結果的に減らすことができれば、荒魂の出現をより限定的なものにすることとなり、政権の支持率は上昇するということで決定されることなった。

 

(……これで、彼の少年の処遇は少しばかり優遇されたこととなり、朱音のこちらに対する心証は良くなるだろう。)

 

そして、甲斐は優を利用してこちらに対する朱音の心証を良くし、こちらの要求を少しばかりか呑んでもらえるようにするということを腹の中で考えていた。

 

 

そんなことがあって、太く長いトゲ付きの棒ではなく、タギツヒメが持っている鬼丸国綱は柄の部分を長大にし、長巻のように改造した物を使用することとなる。

そのため、優が持っている武器は、

持ち易く扱い易いよう柄の部分のみ長くし、長巻に改造された鬼丸国綱。

メインアームとして使用するHK416Cのカスタムモデル。

そのサブウェポンとして採用されたP938。

対刀使用の数本の矢。

結芽の御刀、ニッカリ青江。

離職した刀使が持っていた短刀の御刀の鍔を取り、サバイバルナイフのように改造した短刀の御刀。

 

 

それらが優が持つ武器であった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は戻り、箱根山の仮野営地内の基幹連隊指揮統制システム搭載の中型トラック内――――。

「……此花指揮官。突然申し訳ありませんが、お願いがあります!!」

 

唐突に、綾小路からの出向組で箱根山の荒魂掃討作戦に第四小隊所属で参加している内里 歩は、寿々花にあることを進言しようとしていた。

 

「……貴女は、確か綾小路からのでしたわね。何か?」

 

歩の突然の申し出に、寿々花は何か用なのかと言いたげに尋ねていた。

 

「中等部一年内里 歩ですっ!……私を第三小隊の方へ向かわせて戴きたいと思い、此花指揮官に申し出ました!!」

「…………。」

 

寿々花は歩の第三小隊に加えて欲しいという申し出をどう受け、答えるかを考えていた。

 

 

内里 歩。

寿々花と同じ綾小路武芸学舎出身で、同じ鞍馬流の遣い手であり、表向きは先の東京湾の荒魂討伐にて活躍し、箱根山の荒魂討伐作戦に参加。

だが、実際は二十年前の大荒魂に取り憑かれていた紫の指示の下、ノロのアンプルを研究し、二十年前の大荒魂討伐の際には特務隊副隊長として活躍したこともあって、今も五箇伝内に置いても強い発言力を有する相楽 結月が衛藤 優の情報を得ることによって発言力が更に増してしまうことを危惧した刀剣類管理局と政府の上層部の意向により、特別任務部隊に長期出向中という経歴をざっと頭の中で思い出していた寿々花は、第三小隊に配置換えすべきかどうか考えていた。

 

(中等部一年で実戦経験は無し、そのうえ私と同じ出身校と流派、本来なら、怪我をして引退されるのを避けるため、実戦を積ましてから送るのが妥当でしょう。……とはいえ、私としては、このように自主的に仲間の危機に対して、やる気を出している後輩を無下に断り、士気が下がるのは避けたいところ。それに、この作戦で活躍したことにして、こちらの手元に置いておきたいのも事実ですし。)

 

寿々花は同じ鞍馬流で出身校であるせいか活躍の場を与えたいことと、歩の活躍によって中等部全体の士気を上げたいという気持ちもあり、結月に優の情報を得ることなく、こちらの手元に置いておきたいことも事実であった。

しかし、歩は実戦経験は多くないため、怪我をして引退になることは避けたいことでもあった。

 

(まあ、どうあれ私の一存で決めることはできませんわね…………。)

 

考えに考え抜いた結果、寿々花は前線の指揮を担当する真希の判断を仰ってから決めることにした。

その一方、歩は――――、

 

(衛藤さんの助けにならないと…………!)

 

寿々花が自身のことで悩んでいるということに気付かないまま、別のことを考えていた。

大した実力は無いことは歩自身一番解っていた。

 

(でも、私、衛藤さんの弟さん、……優ちゃんに酷いことしたから衛藤さんに悪いことしたから今度は……ううん、役に立たなきゃダメだよねっ!!)

 

だが、歩は化け物の様な目で優を見てしまったことを強く恥じ、可奈美と優に対して悪いことをしたと思い、ちゃんと謝りたい、今度は化け物のように扱いたくないといったことばかり考えていた。

だからこそ、可奈美に役に立てる処を見せて、少しでも頼りになるという処を見せようとしていた。

それ故に、可奈美に少しでも近付くために、第三小隊に配置を換えてもらおうとしていた―――。

 

「…………内里 歩さん。」

「……あっ、はいっ!!」

 

寿々花に名前を呼ばれ、反射的に応える歩。

 

「……真希さんから許可は得ました。岩倉 早苗さんの指示の下、無理は為さらないように。」

「……はいっ!!」

 

戦況の流れは此方が圧倒的に有利であること、第三小隊に配置を換え、優のことを知っている可能性がある歩が後方支援を任務とする第四小隊と前線部隊の援護を任務とする第三小隊で文武共に活躍したと報告し、前に寿々花がやったように綾小路から連れて行き、鎌府所属に換えて傍に置こうと判断した真希は第三小隊へと配置を換えることにした。

 

こうして、歩は第三小隊へと向かうこととなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、再編成を終えた第二小隊は指定された荒魂が居るブロックNを制圧後、ブロックOへと向かおうとしていた――――。

 

 

「えっ!?」

 

しかし、ブロックO周辺の数と規模の情報を司令部から貰おうとしたその時、

 

「ちょっ、ちょっと!?」

 

第二小隊に所属するS装備刀使三名が舞衣の指示も無く、勝手にブロックSへと勝手に向かって行った。

 

「待ってっ!其処はまだ、敵がどれくらいなのか!!」

「大丈夫ですよっ!!S装備があればどうってことありません!!」

 

そのうえ、舞衣の制止も聞かずに、ブロックS周辺の荒魂の正確な規模と数も解からぬままS装備の性能を信じ、突っ込んでいった。

先ずはUAVといった無人機が荒魂の数と規模、制圧する地形情報を入手、その情報を元に作戦を立て、殲滅することになっていたが、S装備刀使三名はそれを待たずに敵勢力下へと勝手に突入してしまう。そのうえ、

 

「……えっ?」

 

彼女達は運悪く、荒魂の大群が居る処へと向かってしまった。そのため――――、

 

「うっ、わあぁぁぁぁ!!」

 

驚いたS装備刀使三名は大声を上げながら第二小隊が居る方へ撤退した。そうなると、彼女等を見つけた荒魂もそうだが、更に運が悪いことに周辺の荒魂が彼女等の大声を聞いてしまったことにより追いかけてきてしまったため、数が劣る第二小隊は想定以上に居る大勢の荒魂と対峙することになる。

 

「皆っ!ブロックJへっ!!」

 

舞衣は完全に数的不利のうえ、横と正面という三方向からの攻撃を受けるという不利な状況に居ることに素早く気付いたため、後退を決断。

大群の展開に不利となる廃屋等の建築物や遊具等の構造物があり、防御地点としても適しているブロックJへ向かい、救援を待つことにした――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ブロックGに居た第一小隊の真希達は――――。

 

「何だと?」

『ええ、ですので、真希さんは直ちにブロックJに居る第二小隊の救援に向かって下さい。』

 

第二小隊が多勢に無勢ということを後方の寿々花から聞くこととなったため、真希は第二小隊の救援に向かうことを決断した。

 

「……分かった。僕らはブロックLの襲撃を中止し、ブロックJへ向かう。」

『支援は?』

「攻撃ヘリの航空支援、それと第三小隊もブロックJへ向かうよう伝えておいてくれ。」

『分かりましたわ。』

 

廃屋等が点在しているブロックJに居るということは、其処で防御体制に入っているのだろう。となれば、今第二小隊は包囲されているのか、それとも想定以上の大多数に攻め立てられて、危機に瀕しているかどちらかなのだろうと真希は推測していた。

となれば、直ぐに救援に向かい、第二小隊と第一小隊が荒魂の群れを挟撃し、包囲網を解くようにし可能であれば敵を殲滅するか、若しくは想定以上の大多数によって第二小隊が攻め立てられていれば航空ヘリによる航空支援と第三小隊の造園を受けると同時に撤退すべきかも知れないと思い、航空支援の用意と第三小隊を第二小隊の救援に向かうよう指示を飛ばしていた。

 

 

しかし、それが仇となるのはまだ真希も知らない。

 

 

そして、真希率いる第一小隊はブロックJに到達し、第二小隊の姿は荒魂の群れで見えなかったが、戦闘状況からして大型の荒魂が居ないことが幸をそうしたのか、廃屋らしき建物に籠ってどうにか防いでいるようであった。

 

「かなり囲まれているな。君は中央へ、他の皆は左右に展開!!」

「…………。」

 

真希はその状況を見るやいなや、第二小隊は荒魂の群れに包囲されている状態であると判断し、第一小隊を荒魂の包囲の外から攻撃、優を中央に配置し、荒魂の攻撃を優に集中させると同時に他の刀使達が荒魂の側面を攻撃、包囲網を切り崩してから、第二小隊の救援に向かおうとした。

尚、優のことを君と呼んだのは身元がバレないようにしているだけのことである。それを解っているのかは定かでは無いが、優は頷いて返事をしてくれていた。

 

「真希隊長、この子単独だけでは危険です!」

 

しかし、真希が率いる第一小隊所属の刀使から単独のみの中央への攻撃は多数も居る荒魂の群れに突っ込ませるのは幾らなんでも危険であると諌めていた。

理由は親衛隊の制服を着用している優は公には世界初の男性刀使であるとされている。しかし、薫よりも低身長であることを考慮すれば、自分達よりも年下、それ処か小学生低学年の男児ではなかろうかと思われていても不思議ではなく、そんな子供を戦線に加えることに異議を唱えていた。

 

「大丈夫だ。“この子”は僕より、……親衛隊に入隊していたら一番と言えるほど強い。」

「!……はい!」

 

真希が優のことを自分よりも強いと答えて、皆を納得させていた。

とはいえ、大会二連覇を成し遂げ、親衛隊に抜擢された真希が自分よりも強いといっても、殆どの者が半信半疑であったが…………。

 

「……いくぞぉっ!!」

 

真希は攻撃の合図を大声で発すると共に、荒魂の群れに突っ込むと、荒魂の気配が強い優を中央に突っ込ませることによって、荒魂の攻撃を中央に集中させると同時に注意を左右に展開した刀使達から逸らせながら、荒魂を討伐するよう指示していた。

そのため、一番槍は優だった。

御刀ニッカリ青江を携え、真正面から荒魂の群れへと突っ込んで行った。

御刀ニッカリ青江は熊を模した鍔と、鞘はイチゴ大福猫のシールが貼られているという何とも少女趣味満載な御刀であり、それを使い荒魂を次々と討伐していく。

その姿を見た他の刀使達は彼の少年は凄まじい実力者であると再認識すると共に、男の刀使が使うには特徴的な御刀を使っているところ、突出した強さ、天然理心流を遣っているところから、ある刀使はこう思ったのであった。

 

(……あの子って、もしかして燕さん?ニッカリ青江だよね?アレ……。)

 

親衛隊の服を着ている少年の正体は現在行方不明であり、“荒魂の力に頼った刀使”として有名となった燕 結芽ではないのかと疑われていた。

 

(……でも、背が低いし、……違うのかな?)

 

そもそも、顔と姿が見えないのだから性別は男かどうか分からないうえ、特徴的な御刀ニッカリ青江を携えているのだから、そう思われてしまうものであろう。

しかし、一貫して無口であることから結芽とは真逆の性格であること、どうみても結芽より背が低いことから、結芽ではないだろうと結論付けられた。

だが、親衛隊の服を着た少年の活躍は目覚ましく、瞬く間に荒魂を討伐していった。

これには、他の刀使達も負けていられないと同時に、子供に情けない姿は見せられないと奮起していた。そして、真希は第二小隊と連絡しようとするも、通信状況が悪いのか、上手く繋がる気配が無かった。

 

「どうだ!繋がったか!!」

 

真希の声に応えるかのように、STT隊員が無線通信機を使って、第二小隊の者に何度か連絡を取ろうとするが、何故か上手く繋がる気配は無かった。

 

「……ダメです!繋がりません!!」

 

それを聞いた真希は、包囲され孤立されているうえ、籠城していることにより士気は下がっているであろう第二小隊とどうにか連絡を取って援軍が来たことを知らせ士気を回復させると同時に、近況を知りたかったため、どうにかして連絡をしたかった。

そのため、真希は誰もが驚くようなことした。

 

「分かった。少し待ってろ!!」

 

真希はそう宣言すると、荒魂の群れへと真正面から突っ込み、そのまま何事も無く第二小隊と合流していた。それができた理由は優が中央へ突っ込んだことにより、攻撃が集中してしまい、包囲が一か所だけ薄くなっていたところを真希が突破しただけである。だが、殆どの人間はそれに気付かず、真希の実力であると誰もが疑わず思っていた。

 

「どうした?」

 

まるで、馴染みの店に来たかのように廃屋の中に入り、舞衣に尋ねる真希。

 

「……すいません。私がS装備の性能を過信し、深追いしてしまいこのようなこととなりました。」

 

このような状況となった理由を尋ねられ、舞衣は自らの過失であると真希に伝えていた。

 

「違います!私が勝手にしたことが、こんなことにっ!!」

「私もです!!」

「舞衣隊長の指揮に問題はありませんでした!!」

 

それを聞いた新型S装備刀使三名は、新型S装備の性能を過信し、敵中枢部に深追いしたのは自分達であり、舞衣に過失はないと真希に伝える。

 

「……なるほど、良く分かったがまだ巻き返せる。今から第一小隊で包囲に穴を開けるから、第二小隊はそのまま防御を維持してくれ!もう少しで、僕達以外の援軍はやって来て包囲を切り崩し、穴を開ける!そこから脱出してくれ、以上だ!!」

 

真希はそれだけ伝えると、また荒魂の包囲の中へ向かい、そのまま第一小隊に帰って行った。

それを見た第二小隊の刀使達は、

 

「嘘でしょ。」

 

と呟いていた。

しかし、この突飛な行動を見た誰もがこの後、真希は何事も無く第一小隊へと帰り、その指揮をしていることを疑わなかった。そして誰もがこの作戦の成功を信じていた。

実際、その通りに真希は第一小隊に戻り、普段通りに指揮をしていた。

仲間の危機から救いに来たことを伝えるためだけに、敵中枢を突破し救援に来たことを伝えに行き、帰りもそのまま何事も無く敵陣突破するという真希の姿を見た第一小隊と第二小隊全員の士気は上がっていく。その反面荒魂達は、勢いに圧されているのか、はたまた真希のどう見ても常軌を逸した行動に恐れをなしたのか、確実に浮足立ち、そして統制が取れなくなり、一匹、また一匹と荒魂を確実に討伐し、次第に包囲に穴が開き始めていた。

そして、第三小隊の足音とヘリの音が聴こえたことにより、形勢は完全に逆転したかのように誰もが思えた。

真希は念には念を入れて、撤退支援が必要かも知れないと思いヘリの航空支援を要請したが、この状況では必要無いだろう。ならば、他のブロックに居る荒魂がこちらに来ないよう陽動をしてもらおうかと思ったが、

 

 

異変が起きることとなる。

 

 

その異変は、AH-64Dの飛行が何か一瞬ふらつき、機首を下に向け、きりもみしながら墜落していったのである。

幸い、爆発炎上は無かったものの、墜落の音で荒魂はそちらに向かうだろう。そして――――、

 

『真希さん!AH-64Dのパイロット一名、生体反応ポジティブです!!』

 

AH-64Dのパイロット一名が幸運なことに生存していた。しかし、AH-64Dは乗員2名であることから考えると、一人は確実に死亡したことになる……。

 

『……墜落した場所は、ブロックM、ブロックMです。』

「……パイロット一名は生きているんだな?ブロックMに向かっている荒魂は何体だ?」

『はい、生きています。ブロックMに向かっている荒魂はおよそですがムカデ型が四体。』

「獅童さん、何かあったんですか!?」

 

包囲の穴を突いて、脱出していた第二小隊の隊長を務めていた舞衣がヘリの墜落音を聴き、何が起こったのか真希に尋ねていた。

そして、舞衣を見た真希はある決断をした。

 

「…陸自のヘリが墜落した。新型S装備を着用した者達のみ、そのヘリの搭乗員の救援に向かって、救助の隊員が来るまでムカデ型の荒魂を四体相手に持ち堪えてくれ、出来るか?」

 

陸自のヘリ搭乗員を救出するためには、強力な荒魂が迫って来ていることを考えれば、救助の隊員には実力のある刀使の援護が必要と判断。第二小隊に所属するSTT隊員は第一小隊へと編入され、第二小隊の新型S装備を着用した者のみで救援に向かうことを舞衣に指示していた。

 

「ヘリでの救助は無理なんですか!?」

「不運なことにヘリが着陸するのに難しい場所のようだ。」

 

不運なことに、AH-64Dはヘリが着陸できない場所に墜落してしまったらしく、へリボン等での救助が難しいとのことらしい。しかし、墜落地点の近くにヘリが着陸できるところがあり、そこから救助の隊員を送ることはできるが、荒魂と鉢合わせする確率が高いため、刀使の援護が必要らしく、そのためにS装備を着用し身体能力が上がった刀使ならば救助の隊員の援護に間に合うと判断し、第二小隊のS装備刀使のみで墜落地点へと向かうことにしたのだ。

 

「分かりました。じゃあ皆、付いて来て!!」

 

そのため、

第一小隊はブロックJに集まった荒魂の群れを抑え、墜落地点へと向かわせないようにする。

 

第二小隊はAH-64Dの墜落地点へと向かい、救助の隊員が来るまで持ち堪え、救助の隊員の援護をする。

 

第三小隊は第一小隊と共に荒魂の群れの殲滅。

 

箱根山の荒魂掃討作戦は第二ラウンドへと進んでいく――――。

 




思ったより、長くなりそう……。
3話で終わるはずが、倍以上になりそう。
墜落理由は次回以降。
 

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