【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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55話を投稿させて頂きます。

再度言いますが、AH-64Dの事故内容は多分(ネットとかでの噂をモデルにしました。)フィクションです。




箱根山戦 〜その後〜

防衛大臣室――――。

中谷防衛大臣と甲斐陸将補が箱根山における荒魂掃討作戦について話し合っていた。

 

「幾許かは我々の思惑通りの結果になったな。」

「ああ、これで新型S装備とデータリンクシステムの運用データを元に、我が自衛隊のC4lシステムの運用能力の向上、及び多次元統合防衛力や海外派遣に役立てるというものだな。」

 

中谷と甲斐は荒魂掃討作戦にて、データリンクシステムと統合作戦の運用データを得られたことを喜んでいた。

何故ならば、その運用データを元に高機動パワードスーツと情報通信能力を高め、いずれ起こるであろう海外派遣にて発生する抵抗勢力との戦闘への参加、国内外で発生する災害派遣と非正規戦といった安全保障に関わる問題への対策として応用することが可能だからである。

つまり、この箱根山で行われた荒魂掃討作戦自体、自衛隊のC4Iシステムの運用下にある戦場において電子戦能力の無い相手(電子戦能力が無い相手とは、いわゆる正規軍並みの装備を持たない民兵組織。国内に侵入した敵特殊部隊。国家に所属しないテロ行為を行う非正規集団、いわゆるテロリスト等。)を想定とした電子戦を含む統合戦。及び、無人機を活用した間接標準による敵部隊への攻撃といった戦術がどれほど有効であるか、どのような運用が最適であるかを荒魂を使って試すという側面もあった。

 

つまり、他国に知られることなく荒魂掃討作戦を隠れ蓑にしつつ、C4Iシステムを運用試験。その戦術を確立させることが目的であった。

だが、そのために刀剣類管理局を利用していたという事実は変わらないのである。

 

「だが、甲斐。お前はそれだけのために此処へ来たのではあるまい?」

 

中谷の言う通り、甲斐は中谷に箱根山の荒魂掃討作戦で起きたAH-64Dの墜落理由の件で訪ねていた。

 

「ああ、すまないが先ずは、困ったことが分かった。」

 

甲斐はそう言うと、中谷にAH-64Dの墜落理由についての報告書を差し出す。

中谷は、防衛大以来の旧知の仲である甲斐が何か歯切れが悪そうにしていることに気付き、とても悪いニュースの前触れであることは中谷は分かっていたのだが、見ない訳にもいかなかった。

その報告書には、荒魂掃討作戦で起きたAH-64Dの墜落理由が書かれていた。

その内容は、主回転翼の羽根と回転軸をつなぐ『メインローターヘッド』内部の金属製ボルトの破損が原因で、羽根が分離、そのまま墜落したと書かれていたが、問題はその“金属製ボルト”は“米国の航空会社”から発注して貰った物であるという事であった。

米軍でも同様にAH-64Eで起きた金属製ボルトの耐久性に問題が有った件と何か深い関わりがあるのだろうと中谷は直ぐ様理解した。

 

「先ずはお前さんから報告させて貰った。」

 

つまり、今現在この情報を掴んでいるのは私だけということか、と中谷は理解していた。

だが、この報告書通りであるとすれば、調達予定のV-22の調達が遅れるか、今後取り止めることとなるか、もしくは既に配備されているCH-47といった米国製ヘリコプターまで追及され、最悪米国製ヘリ全てが飛行停止となり、在日米軍も防衛省も旧折神派の動きに対応できない恐れがあったため、中谷は苦悩していた。

 

要するに、この金属製ボルトの耐久性の問題は既に偽装されていたのか、何時から問題が有ったのかが不明であり、どこまで波及するかが分からないので、無暗に糾弾することができないのである。それと同時に、数少ない航空戦力を飛行停止で失い、不穏な動きをする旧折神派への対応が遅れるという事態を防がなければならなかった。

 

「きっと、野党は大喜びで米国製ヘリを使用することについて問題にしてくるだろうな。……何とかならんか?」

 

中谷は甲斐にそう尋ねていた。

もし、金属製ボルトの耐久性が昔からあり、他のヘリにも使用されていたならV-22の調達が遅れることになり米軍との共同作戦にて不都合が起きるかも知れないことと、最新鋭兵器とデータリンクシステムの統合運用により不穏な動きを見せる旧折神派への対応をするという戦略が根元から崩れる可能性が有るからである。

 

「その金属製ボルトに使う腐食防止剤が劣化し、構成品同士が固着した結果、発生したことにしよう。それだけでもこちらの失点は大きいが、対外有償軍事援助を活用したアメリカからの正面装備調達費が膨れ上がり、今現在の陸自の台所事情は改善されるどころか悪化していることは事実だ。それを原因としよう。」

 

甲斐はそう言うと、更に続けて言う。

 

「そうして、整備、維持といった兵站関係の問題改善が急務であると報告。それが、今のところ一番妥当だろう。」

 

つまり、甲斐は墜落原因が件の“米国の航空会社から発注して貰った金属製ボルト”ではなく、“整備といった今も続く改善が見られない兵站状況の悪さ”が問題であるというふうに問題点を挿げ替えようとしていたのである。

そのうえ、

 

「……後は、数名の刀使達がヘリパイロットの救助に尽力してくれたことを大々的に発表し、感謝状を贈ろう。獅童 真希の性格を考えれば、そう言ってくれた我々のことを協力が無ければ荒魂掃討作戦は上手くいかなかったと述べるだろうしな。……そうすれば、この件を学園の土地代でご執心の野党はこれ以上探ろうとは思わんだろう。」

 

甲斐は真希の性格を考慮し、こちら側からそれなりの態度を見せれば、感謝の意を述べることだろうと言っていた。

無論、甲斐は社会的地位を落とした今の刀剣類管理局が数少ない協力者を糾弾する訳ないだろうが……。という腹積もりも有ったのだが。

 

「それに、彼の少年のお陰で荒魂についての色々な情報を得られた。この情報は様々なことに利用できるのではないか?それだけでも、充分過ぎる程の収穫だろう。」

 

そして、甲斐は優のお陰でノロと珠鋼を近付ければ時間共に穢れが減少することが観測されたこと、

珠鋼と御刀を併用することで能力はブーストされることが確認されたことから、優にはまだまだ利用価値が有るということを甲斐は中谷に告げるのであった。

甲斐はどこまでも、どんな人物でも利用できるところは利用しようという人物であった。

 

「…………わかった、そうだな。」

整備不良とも、操縦ミスとも取られない提案であるうえ、社会的地位が落ちた刀剣類管理局と優を実験して得られた情報を利用すれば、責を軽減することができ、この件を有耶無耶に出来るだろうと踏んだ中谷は甲斐の提案を呑む。

 

「今回の事故は人為的でも、故意でもない。不幸によって起こった事故だ。……そのため、私は涼しい顔をして、AH-64Dのしばらくの飛行停止処分と再発防止策を命じるとしよう。それで充分だ。」

 

中谷は重い声で、甲斐に背中を見せながら、そう伝えた。

 

「だが、これで多数の荒魂群の対処法として、他組織との共同作戦が有効である。ということが立証された訳だ。」

 

そして、中谷は他組織との共同作戦を確立したこの結果に内心喜んでいた。

 

 

 

『――――先日、箱根山にて刀剣類管理局と自衛隊の統合作戦による荒魂掃討作戦が実施されましたが、その際に陸自のヘリAH-64Dが“金属製ボルトが破断したことによって、墜落した”ことを発表し、中谷防衛大臣はこの件について、AH-64Dは飛行停止処分とし、関係部署と地元へは理解を得るため、再発防止策について説明をすると表明しており、――――。』

 

その後のニュースには、荒魂掃討作戦中にAH-64Dが“金属製ボルトに使う腐食防止剤が劣化し、構成品同士が固着した結果、発生したもの。”であると公表され、広く伝わることとなった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、真希は華やかな贈呈式とは逆に苦悩していた。

 

( どうしてこうなった? )

 

「――――また、貴女は箱根山にて発生した荒魂掃討作戦を成功させただけでなく、その作戦に従事した隊員一名の窮地を救うべくご尽力なされ、かけがえのない隊員の命を救って頂いたと同時に、現職隊員の士気高揚に寄与されました。」

 

それは、葬儀が終わった後、防衛省側から呼ばれたため、出向くしかなかったこの贈呈式の事である。

 

真希の目の前にいる陸自の方面総監は、新型S装備を装着させた精鋭のみで編成された第二小隊を陸自のパイロットを救出するために送ったこと、第一小隊と新人を含む第三小隊のみで荒魂の大群を相手に討伐し、荒魂掃討作戦を成功へと導いたことを評価し、述べているのだろう。

陸自側からにしてみれば、真希は荒魂に包囲され孤立してしまった第二小隊を敵陣突破し救出したり、その後も新兵(初の男性刀使と思われている優とか歩とか。)を率いながら自分の戦力よりも多い大群の荒魂を相手にするという危機的な状況であるにも関わらず、最精鋭の部隊を陸自のパイロットの救出のために送り救出を成功させ、負傷者は出たものの士気を失い統率を失うこともなくその大群の荒魂を討伐してみせたのである。そのことに、陸自の幹部は感動したらしく、こういった場を設け、感謝状を贈ろうということになったのである。

……そして、この陸自の総監も真希も、甲斐が若干脚色し彼と陸自の幹部に伝え、AH-64Dの問題から目を逸らすプロバガンダとして利用しようとしていたということには気づいていていない。

 

だが、真希にしてみれば、孤立し包囲された第二小隊を包囲から突破して救出できたのは優を囮にして包囲の隙を作ってそこを突破したという下劣な戦法を使っただけであり、大群の荒魂を討伐できたのも強力な荒魂が陸自のヘリに向かったのと優を中央に配して囮にして他の刀使達を側面攻撃させたという、これまた人道的に反するような戦法で勝っただけであり、真希的には褒められるようなことはしていないという認識である。実際に優は大怪我をして帰って来たのだから……。

 

「よって、ここにその功績を称えるとともに深く感謝の意を表します。」

 

他者から見れば、陸自が荒魂掃討作戦の指揮をしていた真希に陸自のヘリパイロットの救助に尽力してくれたことに対し感謝状を贈っているように見えたことだろう。

 

「ありがとうございます。……ですが、私の指示を信じて従ってくれた特別祭祀機動隊の皆、掃討作戦の際に防衛省、並びに米軍の支援が無ければこの作戦は成功しなかったでしょう。こちらこそ、多大なる支援を感謝しています。」

 

しかし、真希は必死で他の刀使達の奮闘と防衛省と米軍のお陰でもあると述べていた。

それを言う理由は、自分が荒魂掃討作戦の指揮をしていた責任者という立場上、リップサービスとして言わなければならないのも事実だが、この荒魂掃討作戦の目的は鎌府の刀使達の自信を付けさせることが目的であったのだ。

……だが、真希が孤立した第二小隊を敵陣突破して救出したり、そのうえ自身も新人の刀使を含む部隊を指揮しながら荒魂の大群を相手にしなければならないのに、第二小隊を陸自のヘリパイロットの救出に向かわせ、陸自のヘリパイロットの命を救ってしまった活躍をしてしまったがために、その活躍を聞いた幹部自衛官達はこぞって感動(甲斐の宣伝効果もある。)してしまい、特別感謝状を贈呈することとなったのである。

 

要は、鎌府の刀使ではなく、真希が活躍したという形となったのである。

 

「なんと……、謙虚な姿勢でしょうか。やはり、貴女に受け取って貰いたい!!遠慮せずに、どうぞ!!さあ!!!」

 

感謝状を贈呈しようとする方面総監は更に感動しちゃったのかは不明だが、やたらと暑苦しく、やたらと表情が激しくなったと真希は思った。

そんな幹部自衛官の勢いに負けたのか、それともその齢でもガタイが良いというせいなのか、真希は感謝状を受け取るしかなかった。

 

そんな話が陸自の中だけで広まったなら、問題は無かった。

問題は無かったのだ。

 

だが、問題はその前の前の事である。

 

第二小隊に配属されていた三名の刀使達が自分達が失態をしたにも関わらず、それを叱責するどころか、それを優しく諭してチャンスをくれたということと荒魂掃討作戦で真希が活躍したことを脚色を加えながら刀剣類管理局に広めてしまったのだ。

当然、その話は他の鎌府の刀使達も(尚、三名の刀使によってかなり脚色されている。)聞いてしまったため、鎌府の刀使達はこぞって真希に感動し、彼女を更に尊敬するようなったのである。

 

 

だが、それを聞いてしまった長船の刀使達は、真希が防衛省を懐柔してから刀剣類管理局を乗っ取ろうとしているのではないのか?と疑うようになってしまう。

 

 

考えてもみてもらいたい。横須賀港にて鎌府女学院の刀使(まだ判明していないが、ソフィアもシンパである。)が朱音を撃ったこと、雪那が旧折神派であった二つのことから鎌府女学院自体に疑惑を抱き、その疑惑を抱いている鎌府の刀使達から信頼されている元折神家親衛隊第一席獅童 真希が防衛省から感謝状を貰ったのである。その旧折神派に対抗してきた舞草所属の長船の立場として見たら、疑惑を抱いている鎌府の刀使達から今も称賛を受け、旧折神派の頭目である紫を今まで警護していた元親衛隊の真希が防衛省から感状を貰ったのは、真希がこれを契機として自身の勢力拡大を目論んでいるのではないか?と在りもしない疑惑を抱いてしまうものである。

 

そして、真希の弱点は今現在他人からどう見られているかということに関して察することがあまり得意ではないのだろう(その証拠に寿々花が居る。)。

 

その証拠に、寿々花は真希が防衛省から特別感謝状を贈られることを真希から聞いたときは、

 

「…………そうですか、その後は大変でしょうけど頑張って下さい。」

 

と哀れむような目で寿々花は真希を見ていた。

 

「……?どうした寿々花?」

「考えても見てください。真希さん。鎌府と長船の関係が悪化しているこの状況下で鎌府の支持が多い私達が防衛省から感謝状とお礼の言葉を貰って私達が喜んだら、長船の刀使達はどう思うでしょうか?」

 

それを言われた真希は固まり、復活した後に鎌府と長船の仲のことに気付き、上記のことが考え付いたのである。

 

「……どっ、どうしよう寿々花?断ろうか?」

「いや、そんな話を理由も無く足蹴にしたら防衛省側も不信感を抱くでしょうから、辞退するのはお辞めになった方がよろしいかと。……ですので、頑張ってください。全く気付かなかった私もお供しますので……。」

 

断ろうとしたが、元とはいえ真希は折神家親衛隊第一席であり、朱音の身辺の警護と同行を許され、朱音と紗南にこの荒魂掃討作戦を一任された立場である。

下手に断ることによって防衛省側から要らぬ不信を抱かせるのは朱音に負担を増やすだけのことになるので、避けたいところである。そのうえ、長船と鎌府の仲が悪くなるから断りますとも言えないため、下手に断ろうものなら真希と刀剣類管理局のイメージが悪くなり、刀使達からも防衛省側からも信頼されなくなるかも知れないため、断ることができなかった。

無論、この感謝状を贈ったことでAH-64Dのことを有耶無耶にしようとしている甲斐がそれを許す訳が無いので、どの道不可能である。

 

(……じ、自分の仕事ぶりを評価されることは本来なら喜ばしいことなのだろう。しかし、しかし時と場合によるのではないのか……どうしてこうなった?)

 

早い話が当初の目的を忘れ大活躍をしたら、自分が所属している組織の対立が一層激化しそうでヤバイ!!

……ということである。

 

真希はこの苦難にどうするべきか考えてみた。

 

1、活躍を否定する。

無理。もう既に長船にも、鎌府にも、刀剣類管理局と防衛省に広く知れ渡っている。

 

2、隠蔽する。

無理。もう既に長船にも、鎌府にも、刀剣類管理局と防衛省に広く知れ渡っている。

 

3、デタラメだと言う。

無理。そんなことしたら、もう信用されなくなるし、組織対立は防衛省も混ざって更に混沌と化すかも知れない。

 

結果、無理だった。

……助けて、紫様!!と真希は叫びたかったが、そんなことができる筈もなく、結果諦めるしかなく、状況を受け入れるしかなかった。

 

そんな真希は自分の思惑とは真逆に順調に評価され、順調に出世できて行くのだろう。

争いが激化した渦中に飛び込むといったいろんなストレスを抱えながら。

そして、後進を育てるという目標の達成が離れていくのではないかと危惧しながら。




 
 
真希さんはヤケクソになった。

これで、箱根山戦は終わりです。皆様、長々と私の趣味嗜好に付き合って頂き感謝します。


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