【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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61話を投稿させて頂きます。

彼女は暴力に怯える中、その逆境の中に“自分”を見出す人。




親の愛

とある夏の遠い日のこと――――。

 

刀使のとしての才能が有る妹と御刀にも相手にされない僕。どちらを優遇するかは子供の僕でも解りきったことだった。そして僕は妹よりも愛されなかった。いわゆるネグレストをする両親と共に日々を過ごしていくうちに、自分がいかに矮小な存在かを植え付けられる。

 

でも、そんな暗いことばかりの幼かった頃の僕の思い出には、いや僕が居た町には刀使さんが居て、その年上のお姉さんだけは僕に優しかった。……とても暖かくて、優しい人だった。

その人はこの町、古くて寂れたこの町にとっては有名人で僕とは正反対の明るくて、とても僕なんかでは真正面から見るのも眩しいと思うくらい、綺麗な人だった――――。

 

僕はそんな綺麗な人に初恋をして、幼いながらも恋心を抱いていた。けど、その当時、いや、大人になった今もそうだけど、今の僕にはこの心の中に在る愛を伝える勇気など無かったのだ。だからなのか、僕はその人を遠くから見ることしかできなかった。でも、それで僕はそれで満足だった。満たされていた。満足していた。

 

こんな僕を相手にしてくれる刀使さん。こんな僕に唯一優しくしてくれる憧れの人。あの人の瞳には、僕なんか映っていないのかも知れない。だけど、ヒーロー物によく出てくる一般市民Aぐらいには見てくれていると僕は思いたい。……でも、僕はそれで良かった。彼女が特撮物に出てくるヒーローだとすれば、僕は荒魂という怪獣に襲われ怯える一般人Aという関係だけでも充分だった。

それだけで、僕は彼女に優しくされている。僕は彼女の役に立っている。そう実感できるだけで親に無視され、期待されていない辛い人生の中でも生きていけた。

 

親に期待されなかったのは、僕が刀使じゃなかったから、そもそも僕が女として生まれなかったからだろう。そんな状況下において神様、僕に“男の刀使”とかの特典ぐらい付けてくれよと怨んだこともあった…………。

そんな日々を一日一日過ごしていたある日のこと。

その暖かくて、優しかった人は荒魂討伐から僕達の元へ帰って来た。

でも、あの眩しかった笑顔を見せてくれた人はもう笑ってくれない、もう初恋を抱いた愛しき人は顔も向けてくれない。何故なら、あの優しかったお姉さんは運悪く強い荒魂に出逢って、冷たい棺の中に入って、僕の住む町に帰って来たのだから――――。

なのに、お姉さんの頑張りを無下にするかのように、刀剣類管理局は鎌倉で大きな失態を犯した。だったら、あの刀使のお姉さん。あの優しかったお姉さんは何のために頑張ったんだろう――――?

 

だから、僕は鎌倉でノロを漏出した不甲斐ない刀剣類管理局が余計に嫌いだった――――。

 

 

 

「…………。」

 

その刀使のお姉さんは今の半ば荒魂と化した姿を見たらどう思うだろうか――――?

 

和樹は、あの優しくて、刀使だったお姉さんは今の自分の姿を見てどう思うだろうかと考えていたせいなのか、いつも尊敬していて、いつも優しくしてくれていた刀使のお姉さんが居て、その人に初恋を抱いていた昔の少年時代のことを夢で見ていた。

 

「……お姉さんはどう思う?……でも、僕は結月さんのことも…………。」

 

だけど、もうどうすることもできない。

 

(……もう、僕は荒魂のようなものだから、過去はもう振り返らない。振り返らなくてもいいんだ!)

 

自分の身体は身体を這いずり回る激痛による寝不足とどうしようもない飢えと渇きに耐えながら、髪が白髪となっても歩いて行った。

そんな身体でも、和樹は荒魂の召喚という力を頼りに特別希少金属利用研究所へフードを被って向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、特別希少金属利用研究所――――。

 

「…………ま、まあ、ノロには意識もあり意思もある。……私が言いたいのは、ノロの穢れの正体は寂しさなんじゃないかと思ってるんだ。タギツヒメやねねを見ているとそう思えたんだよ。ノロを祀るというのは彼らを忘れず関心を持っているという意思表示に他ならないんじゃないかな。あの里でのお祭りのように。」

 

フリードマンは何とか気を取り直し、可奈美と舞衣に説明を続けていた。

ノロを敬い祀るのではなく、ノロと対話することが必要であり、善き隣人としているべきではないのかと……。

 

「ノロは……何をそんなに寂しがってるんですか?」

「彼らは、珠鋼を求めているんだよ。……人の手によって、無理矢理分離させられた分身をね。」

 

そして、フリードマンは説明を続ける。

ノロは人の手によって分離された珠鋼を求めていると。

 

「あの実験は珠鋼と近づけることで、ノロの穢れが清められるのを実証するためのものなんだよ。」

「実際、距離と時間に比例して穢れの減少は計測されていマース。」

 

フリードマンの説明に公威は補足する。

ノロに珠鋼を近づけさせ、どのような反応をするかという実験であったと。

 

「……それって、つまり。」

「……うん。荒魂の中にある穢れが清められることができるかも知れない。」

 

可奈美は優の中にある荒魂の穢れを清められるかどうかフリードマンに尋ねていた。

答えは清められる可能性があるということである。だが、フリードマンがどこか歯切れが悪かったことに可奈美は気付いていた。

 

「……そうなんですか。」

 

この研究が進めば、優を人間に戻すことができるかも知れないと喜ぶ一方、

 

『……そう、ならおねえちゃんに任せようかな、……お願いね、おねえちゃん。』

 

……任せてよお母さん、私はお母さんが言っていたように、大好きな剣術を学んで、荒魂から人を守って感謝されるような刀使になるんだから、優ちゃんもみんなも守るよ。と答えたことを思い出し、

 

『ねえ知ってる優ちゃん。お母さんが刀使は人を守って、感謝されて、剣術も学べる、最高だって言ってた。けど、私はこうも思うの、刀使は人を守って、感謝される、“正義の味方”なんだって。』

 

と言って、優に聞かせていたことをも思い出す。

もし、珠鋼で荒魂の穢れを完全に除去できたら、優は私のことをどう思うであろうか?

……私は、何の約束も守れない、何も守れないのではないのか?と。

 

「それって、まるで母親に抱かれて安心する子供のようだとは思わないかい?」

「でも……。」

「……そう、残念なことにノロと珠鋼を再結合させる方法はない。」

 

だが、舞衣とフリードマンの話から、まだ研究は成功していないのことに可奈美は気付き、その事実に安堵していた。

 

まだ、刀使でいられる――――。

まだ、“正義の味方”でいられる――――。

まだ、約束を守れる“理想の存在”でいられる――――。

……まだ、母から教えられ、研鑽した剣術は使える―――。

 

可奈美は、不安定な心を呪詛のような言葉を心の中で呟くだけで、不思議と心が落ち着いてきた。

そして、可奈美の推測通り、ねねも嘗ては他の荒魂同様渇望のままに暴れ回る存在であったが、歴代の益子と長い年月を経て過ごしていくと共に、穢れが抜け、小さく可愛らしい今の姿へと変わったのであり、優もそれが可能といえば可能である。だが、それは長い年月と数世代の時間を必要とするため、可奈美が生きている内に叶うものではなかった。

 

「あの子はね、ニモと言うんだ。寂しがり屋のリトル・ニモ。……私はね、あの子の声が聞きたいんだよ。本当に望んでいるものが何なのか、それを教えてもらうためにね。」

「私はこの話を聞いてここへの出資を決めた。刀使を辞めなくても良い、できれば将来お前にも協力してもらいたい。」

 

フリードマンは、荒魂は何を抱き、想うのかを解明することで、刀使が荒魂を御刀で斬って倒さなくてもいい未来の礎となる技術になると舞衣と可奈美に話し、理解してもらおうとしていた。

孝則もフリードマンの話を聞き、特別希少金属利用研究所へ出資することを決めたが、娘のために会社の金で出資すると言えば柳瀬グループに属する役員達が納得しないため、新興の大企業である柳瀬グループが社会福祉に貢献しているとアピールして会社の信用と知名度を上げること、珠鋼及び隠世関連の研究は国に莫大な国益を齎し、柳瀬グループにも巨万の富が得られる事業であると説明。そして、孝則自身も不本意ではあるものの、政府から会社が傾いた際は公的資金が得られることと政府側の助力も使って、柳瀬グループの役員達を説得したのである。

こうして、孝則は苦労しながらも何とか柳瀬グループは特別希少金属利用研究所へ出資することに向かわせることに成功したのである。

そして、孝則が「刀使を辞めなくても良い、」と言ったのは、舞衣の刀使を辞める意志が無いのなら、戦線から遠ざけ、後方に回せば良いだけの話しであり、フリードマンの研究を手伝えば、刀使達に貢献できると言って納得させようとしていたのだ。だが、孝則はできれば舞衣が特別希少金属利用研究所の研究にずっと協力してくれれば、とは思うものの、流石にそこまで無理強いすることはなかった。

 

「私は……。」

 

――――わたしには、何ができるんだろう?

 

フリードマン等の話を聞き、舞衣は刀使となった際に思い悩んでいたことの一つ、自分は何を成し遂げることができるのだろうか?で思い悩んでいた時期の頃のことを思い出していた。

最初は刀使がみんなを守れる仕事だから、立派な仕事だからという理由で刀使となったものの、本当は立派な仕事を目指したのではなく、みんなを守れる刀使に憧れただけ、憧れだけで良いのかと思い悩んでいた時期のことを思い出していた。

 

……なら、父の誘いを受けるべき、なのだろうか?

父もここを出資すると決めたとき、会社の人間を説得するのに大分苦労した筈である。父の苦労をそんな自分のワガママで水泡に帰して良いものなのかと舞衣は自問自答する。それに、鎌倉での漏出事件で、いままでのやり方ではみんなを守れる刀使になれるような気がしなかった。

そこまで考えた舞衣は孝則に、

 

「マイマーイ!カナミーン!お久しぶりデース!!」

「エ……エレンちゃん?」

「……どうしてここに?」

 

ピンク色のフリフリしたいかにも少女趣味満載な服装で来たエレンの突然の登場に、舞衣は出かかった言葉を飲み込み、可奈美は驚きながらもここにいる理由を尋ねていた。

 

「それよりも、今日もお二人は仲が良いデスネー。」

 

しかしエレンは、可奈美と舞衣の二人が一緒に来ていることから、二人は今日も仲が良いと言って茶化そうとしていた。

 

「違います。」「違うよ。」

「…………エッ?」

 

だが、可奈美と舞衣の親友と呼べるほど仲の良い二人が険しい表情で、それを否定するという意外な返答に仰天するしかなかったエレンだったが、その直ぐ後に孝則から昨日、可奈美と舞衣の二人が揉めたことをエレンは聞くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

特別希少金属利用研究所のテラスで舞衣と可奈美、エレンの三人でお茶会をしようとしていたが、可奈美がもう少し観ていたいと言ったため、エレンと舞衣の二人だけでお茶会をしていた。

 

「じゃあ、エレンちゃんは研究のお手伝いに?」

「イエス!それと、ノロを取り扱っていマスので、警備も兼ねて、って処デスカネ。」

 

ノロは荒魂を引き寄せる性質を持つ、故に刀使を警備に就かせることが不可欠であったのだが、エレン自身、父と母と同じ研究職に就きたかったため、その研究の手伝い兼研究所の警備を志願したのである。

 

「……そうなんだ。エレンちゃん、刀使を辞めた後のことも考えてるんだね。」

「いやぁ、それが警備の話を聞いたグランパが久しぶりに家族水入らずだーって喜んでいたんデス!でもこれって、公私混同ってやつデスよね?」

「違うと思うけど……。」

 

狙ってやっているのかは分からないが、何ともピントの外れた会話をするエレンを見て、舞衣は久しぶりに和やかな気分となるのであった。こんな穏やかな気分で会話したのは何時以来であろうかと思うほどに。

 

「エレンちゃん、その格好はもしかして……。」

 

舞衣は、エレンの趣味から外れているであろう服装はもしかして、と思い尋ねてみた。

 

「そうデス!これパパからのプレゼントなんデース!任務には向いてませんけど、折角だから来てる所を見てもらおうと思いまして。」

「そうだったんだ、私はとっても可愛らしくて似合ってると思うよ。」

 

舞衣はそう言って、乾いた口を潤すためにお茶を一口入れるのだが、

 

「……マイマイパパって素敵デスね。」

「す…素敵……?」

 

突然エレンが孝則のことを“素敵”だと言ったことに舞衣は驚き、口に入れていたお茶を零しそうになった。

 

「ここが閉鎖されていたらパパとママは路頭に迷う所デシタ。グランパはお金持ちデスから、その気になれば助けられたんデスけど、公私混同はよくないって。」

「ああ、だから素敵なんだね。」

 

エレンの両親が路頭に迷わずに済んだのだから、孝則のことを“素敵”だと言ったのだろうと解釈する舞衣。

 

「ところで、マイマイパパはどうしてここに資金を提供したんだと思いマス?」

「それは……珠鋼の研究はお金になると思ったから、かな?」

 

エレンの問い掛けに舞衣は内心間違っているのは分かっていたため、歯切れ悪く金のためだと答えた。

 

「違いマスネー。お金になる研究してたら、そもそも潰れそうになんかなりません。珠鋼でノロの穢れを祓えるようになったら、多分刀使は必要なくなりマース。マイマイが危険になることもなくなる。だから何としてもその技術をって、そんな風に思ってるんじゃないデスか?」

「…………。」

 

舞衣は俯きながらエレンの話しを静かに聞いていた。

舞衣は解っていた。金銭のためという理由だけで、父孝則が特別希少金属利用研究所に出資するはずがないことは……。それに、父は柳瀬グループの代表とはいえ、父の意向だけで柳瀬グループの出資を決めることなど不可能であることも、だとすれば、企業の役員や幹部を説得するのには大分苦労したであろうことを舞衣は容易に想像できた。

 

「うちの家族は特殊なんデス。パパもママもグランパもみんな研究に人生をかけているような人で、今はこうして同じ場所に居ますケド、それってとっても珍しいことなんデス!」

「……うちと一緒だね…。」

「でも、パパは私の誕生日にはプレゼントを送ってくれるんデス!顔を合わせる事はできなくても必ず毎年新しい洋服を、」

「じゃあその服……。」

「イエス!古波蔵エレン、16歳のバースデープレゼントデース!子供っぽいデスよね~。正直私の趣味じゃありません。わかってないんデスよね~。……でも、でもデスよ。この服にはパパの愛がそれはもう目一杯詰まってるんだ~って、それだけは断言できますよ。」

「マイマイ。あなたはどうデスか?」

「私は……。」

 

舞衣は、エレンの親の愛の話しを聞き、父孝則の思いを実感した今、父の話しに乗るべきだろうかと揺れ動きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大村 静とイチキシマヒメは静の実家にある地下室に居た。

 

「……はあ、陰気な所に閉じ込められるとは。」

「そんなこと言わないでよイチ子ちゃん。ここは私にとって、とっても思い入れのある処なんだよ?」

 

静は誰もが素直になる躾部屋だと言っていたが、イチキシマヒメはどこか不気味な雰囲気がある悪趣味な部屋としか思えなかった。

左を見ても、右を見ても異様な気配が在るのだ。むしろ、この部屋には何かが在るとしか思えなかった。だが静は、薄暗く、何かの気配がするうえ、赤い照明しかないこんな場所で雪那から鎌府の研究成果を訊き出し、しかもこの場所で何食わぬ顔をして寝食を行っていたのである。

イチキシマヒメは静が、自身と近い考えを持つ科学者スレイドと同様に常軌を逸しているとしか思えなかった。……いや、彼女等に保護を求めたのが運の尽きだったのかも知れない。とイチキシマヒメは考えを改めることにした。

 

ソフィアは元から何を考えているのか分からない女であり、あのマッドのスレイドと共にしようとは思えず、可愛らしい容姿の静と一緒に過ごすという選択をしてしまったのだが、その選択は間違いであったとイチキシマヒメは後悔していた。

そのうえ、この静と共に過ごしていく中で特にイチキシマヒメが驚いた静の行動は“躾”というものであった。

 

「……なあ、静よ。それは“躾”になるのか?」

「えっ?知らないの?……と言っても、お父さんとお母さんに教えてもらったことだから今も私はそれを探求して、お父さんとお母さんが何を思っていたのか知りたいんだけどね。だから、これは“躾”なんだよ?」

 

背中を板に固定して頭に袋を被せ、頭を下に向けた逆立ちの状態で顔の上、あるいは袋に穴を空け、口や鼻の穴に水を直接注ぎ込むことを“躾”というらしいことをイチキシマヒメは知識として吸収する。あんな苦しいことが“躾”なのかと、あんなことが“教育”であり、この国の昔の人間はそれを乗り越えることが尊いことであるということに静から教えられ、イチキシマヒメは驚愕する他なかった。

 

「……そういうものなのか?」

「うん。あとはタバコを押し付けられたり、壁に突き飛ばされたり、腹や顔を殴られたり蹴られたあと狭い部屋に押し込められたり、そんな痛い思いをして乗り越えることができたら、親の愛と神様の愛が分かるようになるんだよ。」

 

イチキシマヒメの問いに、静は満面の笑顔で答えていた。これは“躾”なのだと、これは“教育的指導”だと、これは“修正”だと静は満面の穏やかな笑顔でイチキシマヒメに答えていた。

 

「……何故、そう言い切れる?」

「だって、お父さんとお母さんは『これは貴女を思ってやっているの。』と言って私に愛を注いで、『私の娘なら、これぐらい耐えてみせろ。』と言って期待してくれていたの。だから、これは“教育”で“親からの愛”なの。」

 

幾日もの歳月と、暴力に支配され、それに耐え続け、悠久とすら思える時間の中で静が辿り着いた答え。

それは、両親が与えてくれる水責め、罵られる言葉、身体に残る損傷とタバコの火傷跡だけが両親が唯一与えてくれた“愛情”なのだと認識し、一日一日を過ごしていったとイチキシマヒメに伝えていた。

 

「……そうか、お前は必要とされていて、我は誰からも必要とされていない……。」

 

イチキシマヒメは静の話を聞き、無性に物悲しくなった。何故かと言われれば、自分を神と言って敬ってくれる者はあの暑苦しいマッドだけであるという状況であれば、タギツヒメやタキリヒメであれ物悲しくなるものであろう、とイチキシマヒメは述懐していた。

 

「……はあ。」

「元気ないね。それに、イチ子ちゃんが不要ってどゆこと?」

「我は我がこの世界に存在する意味を求めた。我々荒魂はこの世界にとって不要な存在なのだろうか?不要なものが存在する意味は?模索しやがて見つけた。人と荒魂を融合させる術を、人という種を進化させる術を、我は見つけたのだ。この世界に存在する意味を、故に我は全人類を荒魂と融合させ、種としての人類の進化を促す。……だが、理解してくれる者はあのマッドくらいしか居ないということに我の思い描いた理想は正しくなかったのではないか、と思うようになってな。」

 

イチキシマヒメは意味のない行為だとは思うものの、静に自らの理想を言って聞かせていた。

だが、静はイチキシマヒメから深い悲しみを感じたのか、あることを提案する。

 

「目的を見失ったんだね?……なら、私のように探そうよ?」

「というと?」

「私もね、親から一身の愛情を受けて育ったんだけど、誰も私の親の愛を理解してくれなかったんだ。……だけど、私はこう思ったの、私は親の愛情を理解できなかったからみんな理解できなかったんだって。だから私は“躾”の探求をしてお父さんとお母さんの愛情を本当の意味で知る必要があると思って、悪い人を“躾”していったの。そうすることで、視えるものが増えたの。」

「……つまり、どう言いたいのだ?」

「イチ子ちゃん、私のお手伝いしてみない?」

 

静は天使のような笑顔で、イチキシマヒメに悪魔の様な提案をするのであった――――。





今話で、彼女にとって“親の愛”を受けて育った静の本性の一部を垣間見ることができました。
和樹のモデルは“病んだ青年”。
 
  

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