【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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6話目を投稿させて頂きます。
沙耶香ちゃんを任務遂行率100%の刀使に見せたかったので多芸になりました。でも、みんなマネしないでね。
そして、可奈美ちゃんが優くんを過保護にする理由その2が発覚しました。
戦闘シーンは書くのが中々楽しいです。相手をどうやって追い詰めるために、事前に準備する行動を考えたり、心理描写を考えたりするのが今回は楽しかったです。





狂気の世界

「よし、全快だ――――。」

姫和は『一つの太刀』を使ったことにより、弱体化していたが2~3日休息を取れたことにより、以前の力を取り戻していた。

しかし、大きな物音に慌て、襖を開けると……部屋がゴミで散乱していた。

「……何をしている。」

「お世話になったから、せめて掃除ぐらいはと思ったんだけど………」

「……汚くしているだけだな…」

「うっ、」

姫和の辛辣な言葉に大きなダメージを受ける可奈美。しかし、寝食を提供して貰っている身の上である以上、部屋の掃除をするのは当然かと思い、姫和は晩御飯の用意をし、可奈美は掃除機とフローリング、優はゴミ出しと掃除をしていた。

可奈美と優は掃除が終わると、姫和の手伝いをしていた。

「あっ、すまない優、そこの包丁を取ってくれ。」

姫和は芋を擦っていた優にそう言うと、優は包丁を持ち一瞬で回転させ、峰の部分を掴んで柄を姫和に向けていた。姫和はその手捌きに沈黙し、少し間が空くが。

「……ありがとう。」

と言って、気にしてないように振舞っていた。

「あっ、でも、すごーい!姫和ちゃん料理上手なんだね。」

「以前よく、母親に作っていた最近は全くだが…。」

「お母さん?」

「長患いの末、去年亡くなったがな。……」

「そっか…姫和ちゃんのお母さんも。…」

その言葉に姫和は少し驚いた顔をしていた。も、と言うことは可奈美もそうなのだろうと思った。

 

 

 

「たっだいま~、おー!引っ越して来たばかりみたいに、綺麗。」

夜、累が家に帰ってくると、まずそのような感想を述べていた。

「お世話になったんで、優ちゃんと姫和ちゃん、三人で部屋の掃除をしました。」

と、笑顔で答える可奈美。

「おお、いい匂い。」

食卓の上には、ぶり大根、焼き鮭と擦り芋、それに白いご飯という純和風のメニューが4人分揃えられていた。

「仕事から帰って美味しいご飯が待ってるっていいものなんだねぇ、ありがとう。」

「姫和ちゃんが作ってくれました!」

と、笑顔で答える可奈美。累はぶり大根を箸で取り、口に運ぶと。

「うん、美味しい~~。姫和ちゃんって、意外に女子力高いんだ~。」

「べ……別にそれくらい…。」

姫和はそっけなく答えるが、照れているのが一目で分かるぐらい赤面していた。

「本当に美味しいよ、姫和おねーちゃん。」

しかし、満面の笑顔で優にそう言われると。

「そ…そうか……もっと、お替り、食べるか?」

「うん。」

9歳児の素直な言葉が余程嬉しかったのか、少し照れながらも姫和はそう答え、もっと食べさせようとし、その横で可奈美はニヤニヤとしながら見ていた。

「……。」

累はこの微笑ましい光景をずっと見ていたいと思ってしまったが、伝えなければならないことを思い出し、可奈美達に言う。

「……ええと、悪いんだけど、あとでちょっと二人に見てほしいものがあるの。」

「「?」」

可奈美と姫和の両名は不思議そうにきょとんとしていた。何を見せたいのだろうかと……。

そして、彼女達は大人に振り回されることになる。

 

 

 

 

「学長、居場所を特定できました。」

「何?」

「防犯カメラを解析し、衛藤、十条容疑者と思しき人物を追跡、タワーマンションの一室へ向かった模様。」

「上着を羽織っているが…、間違いない。この部屋の持ち主は?」

「部屋の持ち主は恩田累。元美濃関所属の刀使。10年前に御刀を返納。現在は八幡電子に勤務しているそうです。」

「見つけたな……。沙耶香を突入させろ。」

「お待ち下さい鎌府学長。まずは機動隊で逃走経路を潰し、数名の刀使を以って突入すべきです。」

真希は雪那にそう進言するが、

「沙耶香は特別だ、心配ない。……沙耶香に突入命令を。」

そう言われると、真希は立場上何も言えず、ただ黙っているしかなかった。そして、9歳の子供が無事保護されるよう祈るしかなかった。

 

 

「了解、任務を開始します。」

沙耶香は与えられた任務を果たすため、行動を開始する。

雪那から貰った情報から恩田 累が車を所有していることを知り“足”を潰すため、黒いコートを羽織りフードを被って、制服と顔を隠し駐車場に向かっていた。累の車を見つけた沙耶香はサイドガラスを専用の道具で音もさせずに一瞬で割り、ドアを開けハンドルを両断、車を走行不能にする。防犯ブザーが鳴らなかったのが助かったが(尚、沙耶香は知らないが防犯ブザーが鳴らない理由は累がやかましいという理由で切っているから。しかし、そういった車は車上荒らしに狙われるのでマネしないように。)、これで標的がバラバラに逃走し、見失うことはないと思った沙耶香は駐車場を後にする。そのあとは非常階段、エレベーターといった考えられる逃走経路を全て封鎖してから突入したかったが、今回は自分一人しか居ないので、奇襲を以って制圧することにした沙耶香はタワーマンションの窓から突入しようとしていた(尚、沙耶香は専用のピッキング道具を使って室内に潜入し、一人一人をストーキングで無力化することも考えていたが、発見されたときのリスクが高いため却下している)。標的は4人、情報通りであるならば、この中で注意すべきなのは刀使が二人、あとは女が一人と子供が一人だけ、二人いる刀使の中で最も手練れなのが衛藤 可奈美であると思った沙耶香は彼女を真っ先に戦闘不能にしたあとは十条 姫和のみ倒せばいいだろうと思っていた。姫和も相当な手練れではあるが“無念夢想”があれば勝てるだろうと考え、八幡力を使って跳躍し、黒いコートを脱ぎ捨てると同時に“無念無想”を使用する。沙耶香の目は淡く輝き、怪しげな虹色の光を纏い、不気味な雰囲気を纏いながら……。

 

 

 

 

――――沙耶香が突入する前――――

可奈美達は累に誘われるまま、パソコンルームに向かい、チャット画面を開いていた。そこにはFinemanと名乗る謎の人物がメッセージを送っていた。

《ようこそ。グラディのご友人達。我々は君達を歓迎する。》

「…これは、一体…?」

「好きに答えてみて。」

「グラディ?」

「私のこと。」

(Fineman?誰だ……?)

姫和はキーボードに《あなたは?》と打ち込み、Finemanにメッセージを送る。

《あなたは?》

《 Ally 》

味方と返ってきた。

《たった二人の謀反者達。》

《手紙は持っているな》

Finemanが次々とメッセージを送ってくる。

《立ち向かう覚悟はいいね?》

《 Yes / No 》

……姫和は決断を迫られていた。一瞬躊躇してしまった、もう二度と戻れないような気がして。…だが、何を戸惑っていると思っていた。あの日に全て決めたと思い、《 Yes 》と返信するべく、キーボードに打ち込みFinemanにメッセージを送る。

《 Yes 》

《今日という日は完璧になった!》

「これは……!」

《以下の場所へ。》

姫和はそれに注目する。だが、優がなぜか窓の方へと向かう…。何処から持って来たのか鉄の棒らしき物を持っていた…。すると―――

窓が割れ、鎌府の制服を着た刀使が襲い掛かって来た。つまり、鎌府から差し向けられた追っ手であると間違いない。

優は鉄の棒で横薙ぎになぎ払ったり、ガラス片を投げたりして、鎌府の追っ手沙耶香をベランダまで追い込み、外へ逃げた沙耶香と一緒に優も外へ向かって行った。

「おっ、おい。」

姫和は慌てて後を追おうとするが。

「可奈美、千鳥を持って来い!あなたは奥へ!」

可奈美はそう言われ、急いで千鳥を取りに行き、累は奥へ隠れていった。それを見届けた姫和は優のあとを追うため、ベランダから飛び降りていった。

そこには、とても異常な世界があった。

いや、全てが異常だった――――。

御刀を媒介として隠世と呼ばれる異世界より様々な超常の力を引き出す刀使が、9歳児と打ち合っているのだ。そのうえ、沙耶香は2段階以上の迅移を持続的に使用しているという離れ技“無念夢想”を使用しているにも関わらず、優が優勢であった。優が使っている御刀と打ち合っても欠けることのない鉄の棒は相当な質量と硬度を持つのだろうと妙に冷静な分析をしていた姫和も奇妙な感覚に既に囚われていた。

だが、優の横薙ぎに見せた足を狙った攻撃に、沙耶香は回避するがバランスを崩し、追撃の横薙ぎを脇腹に受け、沙耶香の写シが剥がれる。それを見た姫和はこれで決着が付いたと思っていた。しかし――――。

 

体勢の整わない沙耶香を優は無表情で、何も動揺することなく、沙耶香の頭をかち割るべく振り下ろしていた。

 

「なっ!」

本来ならば、姫和も写シを張らずに襲い掛かってくる沙耶香を斬る覚悟を持ってから挑むが、それに至るまで罪悪感を抱いたり、動揺したりするものである。だが、優にはそれが一切無く作業のように叩き潰そうとしていた。

しかし、沙耶香は“無念夢想”で回避、2段階以上の迅移を以って反撃するが、優に難なく鉄の棒で攻撃の軌道を変えられ、避けられる。

「おっ、おい、優!!」

姫和は優に止めるよう叫ぶが、聞こえていないのか両者共に止めることは無かった。

姫和は全てが異質で不気味にしか見えなかった。

姫和は止める事も出来ず、ただ呆然と見ているしかなかった。

次第に防戦一方となる沙耶香、沙耶香の頭に鉄の棒が迫って来る。しかし―――――。

「駄目ッ!!優ちゃんッ!!」

可奈美のその言葉にハッとなった優は後ろに跳躍し、沙耶香との距離を開ける。

「退いて、優ちゃん。私が相手する。」

「大丈夫?あいつ可奈ねーちゃんを傷付けようとしたよ?」

「大丈夫、お姉ちゃんに任せて。」

八相の構えで可奈美はそう宣言する。沙耶香を止めるには斬るしかないと思っていた姫和は、人を斬った可奈美を優に見せたくないため、遮るように言う。

「お前に、斬る覚悟があるのか!?」

「斬らない!!」

可奈美の強い宣言に、ハッと驚く姫和は黙って見守ることにした。

(この子の剣、前はこんなんじゃなかった。…剣から何も伝わってこない…?)

可奈美は知らないが、それもその筈で沙耶香の“無念無想”は自己暗示的に無心状態に入ることにより、神力の消費を抑え、迅移などの技の効果時間を延長させるという技だが、自己暗示的に無心状態に入ることによって、行動が単純化してしまうという欠点があった。それを可奈美は“剣から何も伝わってこない”と感じていた。

沙耶香は“無念無想”を駆使した最速の突きで可奈美に襲い掛かるが、

「そんな魂のこもってない剣じゃ―――。」

最速の突きを可奈美は見切って、沙耶香の御刀の柄を掴み取ると、力強く言う。

「何も斬れない!!」

可奈美は掴み取った沙耶香の御刀を時計回りに回して、沙耶香の御刀を奪い取って放り投げる。

「御刀を!?」

その光景に姫和は驚愕していた。あの速い突きを見切ったうえ、奪い取って放り投げたのである。恐ろしい程の動体視力、姫和はそう感じずにはいられなかった。

「覚えてる?一回戦で戦った衛藤 可奈美。あの試合すっごく楽しかった…ずっとドキドキしっぱなしだったんだよ!」

可奈美は沙耶香に手を差し出し、握手を求める。

「また、私と試合してくれない?」

沙耶香は戸惑うが、可奈美が沙耶香の手を掴んで、

「約束。」

笑顔で答える。沙耶香は空っぽだと思っていた自分の中に何か暖かいもので満たされていくような気がした。

(……私には、“斬る”という選択肢しかなかった。……だが、可奈美は……。)

可奈美は宣言通りに斬らなかったが、その弟の方は…。そう思った姫和は鉄の棒を何時の間にか持っていない優に詰め寄る。

「おい、何をしようとした?」

「えっ、…何って?」

「鎌府の……あいつの頭を何故叩こうとした?」

「えぇ?…悪い奴だから。」

「なっ?……」

意外な回答だった。だが、姫和は引き下がらず。

「おい、何で悪い奴なんだ?だからと言ってそれは良くないだろ?」

「何で?あいつ可奈ねーちゃんを傷付けようとしたよ?」

なんの抑揚も無く動機を答える優、それが当たり前のように、まるで、路傍の石を蹴るかの如く人の命を奪おうとしていた。

「……」

姫和は絶句し、優を見つめることしか出来なかった……。自分も人斬りに限りなく近いことをするため、反論することができない。

(この子は……)

何かが、おかしい――――。

何かが、壊れている――――。

何かが、ズレている――――。

姫和はそう思うも、この場を支配する狂気と不気味さ、そして異常さを払拭することができなかった。

そして、姫和はある決意をする。可奈美が沙耶香を握手しながら、横目でこちらをチラチラ見ていることに気付かないまま。

 

 

 

 

その後、沙耶香を累の家に置いて行き、Finemanに指定された場所石廊崎へ向かうべく、累の車がある駐車場へ向かう。だが、

「あ~~~!車のローンが~~~~!!」

沙耶香によって、見るも無残な姿になった愛車を見るハメに会った累は崩れ落ちる。

「あ、あの累さん、…色々巻き込んじゃってごめんなさい。」

「あぁ、いいよいいよ、応援呼ぶから……。」

累はそう言うと立ち上がり、スマートフォンを取り出し、何処かに連絡していた。

「あぁ、もしもしちょっと救援を……。」

累はスマートフォンで連絡したあと、県警が来る前に徒歩で累の家から遠くへ離れ、救援を待っていた。そこから、5分後可奈美達の前に一台のミニバンが現れ、止まった。既にミニバンの中にはガタイの良い外人が二人乗っていた。

「よう、大丈夫か?」

一人は流暢な日本語で安否を聞く三十代あたりの白人男性。

「これで石廊崎まで送る、乗れ。」

もう一人の方は初老の白人男性で、冷静な口調でそう言って乗車するように言う。

累が呼んだ救援だろう、累と可奈美達は乗車していった。

 




7月1日、色々あって、沙耶香ちゃんの突入する部分を少し変えてみました。

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