67話を投稿させて頂きます。
ヨシ、おねショタだなっ!!(最後のところを見なければ。)
とある昔のこと、幼い頃の薫とねねが山の中で散策していた――――。
『ふんふんふふ~~ん。』
ねねの心配する声を無視して、薫は棒きれを振り回しながら、鼻唄を歌っていた。
『ついてくるな荒魂!ふふん!刀使は荒魂をやっつけるんだ!』
特撮ヒーロー物のヒーローに憧れていた薫は、人を襲う怪物のような荒魂を倒す刀使になろうとしていた。それ故に、荒魂であるねねと一緒なのが嫌だったらしく、ねねの声を無視し、小石を投げて近付けさせないようにしていた。
『ねね……。』
そんな感じである薫をねねは物哀しげな表情で見ていた。赤子の頃から、見知っている薫が今や反抗的なのが哀しいのだろう。
だが、その直後に何かが素早く通り抜けたことをねねは気付いた。
――――荒魂だ。
『むっ!荒魂はっけーーーんっ!!』
『ねねぇっ!!?』
ねねは危険を薫に告げるも、薫はそれすらも無視して、荒魂を追う。
『きえーっ』と薬丸自顕流の
声を、悲鳴を上げながら、何処へ向かうのか、何処に落ちるのか誰も知らぬまま滑り落ちていく。
結果、薫は帰り道が分からなくなり、何処へ向かえば良いのか分からぬまま時間が過ぎてしまい、夜の森を彷徨うこととなる。
『じーちゃん!かーちゃん!ばーちゃん!!……とーちゃん……うぅ。』
夜の山森の中は化け物が現れそうなほどの別世界のようであり、不気味であった。
そんな別世界の中で、まだ幼かった薫は一人で彷徨っていたために今にも泣き出しそうであった。
何故、自分は一人で先走ったのか?何故、自分はねねの注意を聞かなかったのか?
幼い薫は自分の行動に後悔しながらも、何時かは家に帰れると信じて歩みを止めなかった……。だが、今の薫はふしぎの国に迷い込んだアリスの様であった。
どれだけ歩いても、出口が見えない迷いの森の中に入ったかのようであったが、その森には助言を与えてくれる芋虫も居なければ、次の
『ひゃっ!』
草むらの中から何かが突然現れたため、じーちゃんから聞いた天狗か何かの妖怪が自分を神隠しに来たのだろうか、それとも追っていた荒魂が襲い掛かってきたのだろうかと驚き、自分はもう二度と家に帰ることはできないだろうと諦めかけていた。
『……ねね?』
『ねね!』
だが、よく見ると荒魂と言って蔑んでいたねねが助けに来てくれようであった。その証拠に、薫の擦り剝いた膝を犬のように舐めて治そうとしていたのだ。薫はその事実に……、
『ねー?』
『うぅ……ぐす。うう……うあぁっ!!』
――――号泣していた。
その後、薫はねねの先導のお陰で迷いの森から脱し、無事家族の元へ帰ることができたのだった…………。
その数年後、薫は晴れて長船女学園に入学でき、刀使となったが……、
『だって、益子さんって荒魂かばうんでしょ?おとうさんが言ってたよ!益子の家はそういう家だって……。』
『これから荒魂と戦うのに、そんな人と協力なんてできないよ!こっちが怪我するかもしれないもん!!』
『ほら、変な荒魂だって連れてるじゃない。これだって、何時私達に危害を加えるか分からないし……。』
他の刀使から、ねねへの批判が薫の耳に良く聞こえるようになっていた。
『……ねねはオレ達に危害を加えたりなんか絶対しない!!お前みたいな自分の頭で考えない刀使、こっちから願い下げだ!』
班を決める際、それを言われることが多く、その度に反論し、よく教室を飛び出していた。だが、後悔はしていない。
彼女等はねねのことを何も分かっていないだけだ。それどころか、大人の言いなりに、大人の言うことを素直に聞いてるだけなんだっていうことは分かっていた。だけど、許せないことは許せない。ただ、それだけのことだった。
何を言われようが貫くだけ、それが益子の……いや、益子 薫の生き方。考えて斬る、ということ。
薫は自身にそう納得させ、理解していた。
だが、薫は気付かない。
果たして、迷いの森を抜け出せた者は正気になったのか?狂気の世界の住人のままではないのか?
『荒魂をあんな風に扱うからだ……。』
ねねを荒魂扱いした刀使達が大人に従うだけの狂気の世界に居る存在なのなら、薫もまた益子の家の教えに従うだけの存在でしかなく、この幼い少女のみを認める狂気の世界の住人の一人であることに薫は気付いているのだろうか…………。
「ここじゃ、みんな狂っているんだ。俺も狂っている。あんたも狂っている。」
不思議の国のアリス、チェシャ猫より――――。
「……じゃあ今日はここまで。暗くなると山は危険なんで早めに切り上げた隊長様に感謝しつつ、駐屯地の宿舎で疲れをとるように。」
薫は暗くなった山は危険であることを過去の経験上知っているため、早めに切り上げ、陸自の相馬原駐屯地相馬原飛行場に戻っていた。
「薫。私と優は先に部屋に戻っているぞ。」
「……おう、また明日。」
姫和は薫にそう言うと、優と共に宿舎にある割り振られた部屋へと先に戻って行った。それを見届けた薫も本部長の紗南と相馬原駐屯地の駐屯地司令に荒魂捜索の進捗状況の報告をしに行こうと思っていたところで、廊下で沙耶香とばったり会ってしまう。
「んっ?」
「あっ?」
薫と沙耶香の二人は予期せず出会ってしまったことに互いに驚き、少しの間だけ静寂が訪れたが、薫は冷静に沙耶香の様子を見ると、沙耶香がこちらを伺っているように薫は見えた。そのため、沙耶香が何か元気がないことを紗南が言っていたことを思い出し、何か話したいことがあるのかも知れないと思い、沙耶香に近付いて話しかけた。
「どしたー沙耶香。何か用か?」
「……あの、その……薫、笑わない?」
「ああ、笑わん。笑わん。」
沙耶香は薫の顔を伺うように見つめると、決心したのか、息を吸って吐くと、自身の悩みを打ち明けることにした。
「……あの、その、最近ね?」
「うんうん。」
「……荒魂を斬るのが、辛くなってきた。」
「おお、それで悩んでてっ、うえぇ!?」
流石の薫も任務第一の真面目ちゃんである沙耶香が荒魂を斬るのが辛いと言うと思わなかったので声を上げて驚いてしまう。
「やっぱり、おかしい?」
驚いた声を上げた薫を見て、沙耶香はやはり不味いことを言っただろうか?という気持ちになり、薫でもそれは可笑しいということなのだろうかと沙耶香は思い始める。
「……いや、そういう訳じゃねえんだけどさ、なんつーか沙耶香は任務第一の真面目ちゃんかと思ってたから、その、驚いたっていうのが本音だから……その、気ぃ悪くしたんなら、謝る。」
薫は沙耶香に思っていたことと、思ったことを正直に話す。それに沙耶香は頭を左右に振るという動作で“気にしていない”という意思表示をしていた。
「ううん、それより薫、私のことそう思ってたんだ。」
「まあな。寝る時も、訓練の時も何時でも任務に出れるように常に制服とは聞いていたから、そういう奴なんだろうなとは思っていたけど流石に入浴時も制服のまま入ろうとしたのは驚いたぜ。」
「!…そ、それは無かったことに!!」
薫にそう思われていたことに意外そうな顔をする沙耶香だったが、薫に嘗ての沙耶香が入浴するときに何時でも任務に出れる格好でいなければと思って制服のまま入浴して来たことを茶化して言われたことに沙耶香は顔を真っ赤にし、大きな声で無かったことにしようとしていた。
「ワリィワリィ、ちょっとからかっただけだって。」
「……むぅ。」
薫は沙耶香に少しからかったことを謝るが、それでも沙耶香は少しむくれていた。
「……そんな顔もするんだな。」
薫は沙耶香のコロコロと変わる表情を見て、微笑ましかったのか笑みを浮かべながら小さく呟いていた。
「……まあ、沙耶香は荒魂を斬るのが辛いんだっけか?」
「うん。」
「何時からだ?」
「……箱根山でやった荒魂の掃討作戦のときに、荒魂が可哀想だとか思っちゃって、それからノロは人が無理矢理段々と……かな。だけど、刀使は荒魂を討つことが仕事。なのに、荒魂は荒魂だから、放置すればいずれは人に危害を加えるかもしれないのに……こんなんじゃダメ、なのは分かっている……けど、どうしたら良いのか分からなくて。」
「そうか……。沙耶香は刀使は荒魂を討つのが当然のことなのに、それを忌避している自分に悩んでいるってことなんだな?」
「……うん。やっぱり、おかしいよね。」
だが、沙耶香本人はそのことで真剣に悩んでいるのだ。ならば、真面目に答えなければと思い薫は気を引き締めると同時に、沙耶香に話し始める。
「……ああ、そうだな。沙耶香の言うように荒魂を斬れない刀使は“普通”は可笑しいし、在り様としても正しくないかもな。」
薫は沙耶香の言う通り、荒魂を斬ることができない刀使は正しいとは思えないと言われ、しょげる沙耶香。しかし――――、
「だが、それは正しいけど、俺はそれが気に食わん。」
薫は“刀使は荒魂を斬る者”という大前提が気に食わないといって、バッサリと切り伏せるかのように否定していた。
「……それが正しいなら沙耶香。お前、ねねを斬れるか?」
「えっ!?」
「もし、何時かは人に危害を加えるから斬るべきで、だから刀使は荒魂を討つのが当たり前だと皆がそう言うから、大人がそう言っているから正しいなら益子が絶賛放置プレイ中のねねを斬らなきゃならないよな?」
「…………えっ?」
薫に突然真正面からそう言われ、戸惑う沙耶香。
「斬れるか?沙耶香。」
「……ダメ、ねねを斬れない。」
薫に再度詰問されると、沙耶香は首を横に振って、斬れないと主張していた。
「……だとしたら、やっぱり私は間違っているの?」
「俺は間違っているとは思わねぇよ。それが今の普通の刀使の考え方ってだけだ。……けどま、刀使だからって何も考えずに斬るのは嫌だろ?」
「うん。」
沙耶香は自分のことを刀使としては間違っている存在なのだろうかと薫に尋ねるが、薫は間違っていないと答え、それが今の刀使達の考え方であり、沙耶香は無理にそれに合わせる必要が無いこと。それと、沙耶香に何も考えずに斬ると自身にとって碌なことにならないと伝えていた。
その薫の答え方に、沙耶香は頭を縦に振って同意していた。沙耶香自身、何も考えなくなる感覚は“無念無想”等で体験しているため、何も考えずに斬るのは忌避していた。
「だから、これからは任務だからって斬るんじゃなく、こいつみたいな荒魂も他にいるかもしれねぇとよく考えてから斬れば良いと思うぜ。それに、俺からして見れば沙耶香のその温かい気持ちをずっと大事にして欲しいと俺だけとなっても思い続けるからさ。」
「よく考えて……斬る…。」
沙耶香は薫の“よく考えてから斬る”という考えに感銘を受けているかのようであった。
「少なくとも益子の一族は昔からそうやって来たぞ。……最も、俺にしたって気付いたのは最近だから、偉そうなことは言えないんだけどな。」
「まだよくわからない…けど、だからこそ、よく考えて行きたい。……そう思う。」
「おう、とりあえず今はそれで十分だ。」
沙耶香は薫の考え方を聞いて、今後は薫と同じく“よく考えてから斬る。”ことを信条に進もうと決意していた。
「……あの、薫?」
「ん、何だ?」
「薫の話しを優にも聞かせたら良いかな?って思うんだけど。」
「……そうだな、そうすりゃ優も少しはマシになるかもな。」
沙耶香は優に薫の話しを聞かせてやれば、優の残虐性は収まると思い、薫に提案していた。それに、薫は同意し沙耶香にやらせようとしていた。全てはやる気になった沙耶香を成長させるためにやらせようとしていたのだが、どのような結果を生むのかそれはまだ誰にも分からぬことであった…………。
その後、報告を終えた薫と沙耶香は宿舎にある部屋に戻り、顔を隠していない優と姫和の二人と再会していた。
「なあ、優。話があるんだが。」
薫は優に話しがあると言ってきたので、優は何事かと思い、薫に近寄ってきていた。
「何?」
「実はな、沙耶香がお前に用事があるらしい。」
薫は優にそう言って、沙耶香と話させようとしていた。
「おい、何を話そうとしているんだ?」
姫和はむくれながら、それを遮るかのように優と沙耶香の間に割り入るかのように話しに入ってきた。
「大丈夫だよ。少し前に優がイノシシを殺しただろ?あの時は埋めたりしなきゃいけなかったから、大変だったけど、ずっとあのままの調子じゃ、あいつは生き辛くなるだけだろ?」
「……そうだな。」
「それの説得さ、ヒヨヨンも協力してくれ。」
優に聞かれないように小さな声で薫に言われ、頷くしかなかったヒヨヨンこと姫和。
優を普通の人間にすると約束した以上、薫の言い分にも耳を傾けなくてはならないと判断したからだが……。
「どうしたの?」
優は姫和と薫の二人が何かコソコソと話しているように見えたのか、何をしているのか尋ねていた。
「あ~、いや、この後も荒魂の捜索だから、今後のルートをだな?」
「ああ、うん、そうだ。その話しをしていて沙耶香達の話しを邪魔する訳にはいかなくてな。」
優に尋ねられた姫和と薫の二人は、その後の荒魂捜索のルートのことについて話し合っていたと述べていた。
「……ごめん、優、ちょっと良い?やっぱり、私は命は大事にすべきだと思う。だって、ねねは荒魂だけど、私が刀使だからってねねを斬ったら嫌だよね?」
「?……うん、そうだね。」
話を遮られた沙耶香は、もう一度自分が伝えたいことを優に伝え、それに優は意味は分かっていないがとりあえず頷いていた。
(……沙耶香おねーちゃんはそういう考えなんだ。)
しかし、つい先程イノシシを殺したことなど、とうに忘れている優は他人事のように理解して、
(……聞いてくれてる!このまま薫が言っていたことを知ったら、暴力的な思考を抑えられるかも?)
一方の沙耶香はそうなると淡い期待を寄せていた。
「だから、優もこれからは命を大事にして、考えて斬ってくれるって約束してくれる。」
「……うん、分かった。」
「……良かった、分かってくれて。」
とりあえず優は理解した振りをして、沙耶香に頷いていた。
それを見た姫和は喜んでいた。これで、優の暴力的な部分は抑えられ、真っ当な人間へと成長してくれると……だから、
「……薫、ありがとう。」
「……良いってことよ。」
様子を伺っていた姫和は薫に礼を言うと、優に近付いて抱きついた。
「?……姫和おねーちゃん?」
「優、いつまでもその気持ちを忘れないでいて、ずっと優しいままでいてくれ。」
姫和は、“姫和おねーちゃん”と
自分と同じように、チョコミントアイスが好きで、母親を失っているうえ、自分のことを悪く言わない優が、自分の言うことを従ってくれる優が自分にとって何よりも大事で、特別視していて、余計に愛おしかった。
この幼い子供を自分だけの物にしたい――――。
母と違って私だけを見続けて欲しい――――。
自分だけを見て相手にして欲しい――――。
様々な欲望を姫和は優に対して抱き始め、求め欲した。
『うん、とっても大事な友達だよ!』
しかし、姫和は、優がタギツヒメに対して今まで見せたことがない笑顔で話していたことを思い出したため、姫和の心の中はドス黒い感情で満たされていく。
だからなのか、
「人は……人は人と交わり子を成す。そして素質や宿命を連綿と受け継いでいく。私や可奈美がそうであるように……だが荒魂は違う。ノロは繋がる輪から外れた孤独な存在だ。だから……。」
優は人間で、タギツヒメは所詮荒魂でしかないと答え、タギツヒメ相手にマウントを取ろうとする姫和。何故なら、
優が自分に振り向いていないこと、タギツヒメの方が好きなことは分かってしまったから。
それに、タギツヒメは私の両親も、あまつさえ
だから、自分の身体を使ってでも優を自分の物にして、タギツヒメから奪い取って苦しめる権利は有る。
姫和の心の中に芽生えたドス黒い感情はタギツヒメ相手に更に肥大化し、9歳の児童を相手に愛を真剣に語り、その見返りを求めるという狂気染みた思考へと変化した。
思えば、幼少の頃から姫和は、STT隊員であった父が荒魂に殺された後も病で苦しむ母を一人で献身的に看病していた。それ故なのか、姫和は献身的で人一倍責任感が強い娘となってしまった。そんな彼女が自分が世話しなければならないと思ってしまう優と出会ってしまったことにより、その献身性は更に肥大化させてしまうこととなってしまった。
そのため、何時しか姫和は誰かを献身的に尽くす自分に価値を置いてしまった。
だからなのだろうか、姫和は周囲の目を全く気にせず、優を自分の物にするために誰もが驚愕するような暴挙に出る。
「ちゅ……」
姫和は舌を入れながら、優の唇を強引に奪っていた……。
その光景にポカンと見ていた薫と沙耶香だったが、時間と共に我を取り戻した薫に姫和は優から引き剥がそうになる。
「……なっ、おい何する薫!?」
「やかましいゴラァッ!!お前とりあえず距離取れっ!距離っ!!」
「何でだ!?可笑しな事はしてないぞっ!!?まさか、妬いているのか?」
「おーっし、自覚無しなのは余計にマズイわ、お前!!」
薫は第五段階の八幡力の力を使って何とか優と姫和を引き剥がす。
決して、薫は嫉妬から引き剥がしているのではなく、9歳の子供にやっていいことではないから、必死で引き剥がしていただけである。
「……姫和おねーちゃん、薫おねーちゃん、おトイレ行っていい?」
優は何事も無かったかのように、無表情で姫和と薫にトイレに行きたいと言うと、薫は「おお、良いぞ。」と言って返答したため、優はトイレへと向かって行った。
「何でだ、薫!?」
薫に何故止めたのか抗議する姫和。
「うっせぇ!!お前ガキ相手に何してんだ、管理局が大変な時期に現役の刀使が9歳児に淫行働くとかアウトだからな!!」
「……何が問題有るんだ?海外じゃキスは挨拶みたいなものだろ、妬いているのか?」
「そうか、なら可奈美にこのことについてじっくりと聞くことにするわ。」
薫は姫和の暴挙に抗議するが、聞く耳持たずの姫和にイラッとしてしまい、可奈美に連絡すると言って通話しようとすると、
「すまない薫。今のはやりすぎだった、今後はしないと誓う。」
姫和は薫が可奈美に先程の暴挙を伝えられると、それはそれでマズイので素直に頭を下げて謝罪する姫和。
「……本当だな?なら、右端のベッドはお前が使うとして、左端のベッドは優が使うことにするわ。」
「何っ!?優は一人で寝れないぞ?どうするんだ?」
「……大丈夫だ。ねねが居る。」
「くそ、その手が有ったか!!」
「……文句有るか?」
「いや、何も問題無いぞ。」
だが、姫和が素直に謝罪したからといって、薫は警戒を緩めず姫和と優の距離を空けるようにし、次いでにねねと添い寝させることで色々なことから守ろうとしていた。しかし、姫和はその決定に不満そうに口ずさんでしまったため、薫はスペクトラムファインダーのメール機能を使って可奈美に送る文章を見せながら、姫和を脅して黙らせていた。
その光景を見た沙耶香は漫才みたいだと思い、微笑みながら見ていた。
トイレの中で、優は便器を顔に近付けて、“もどしていた”。……心因性のストレスによる嘔吐である。
「……ハァ……ハァ……」
理由は、姫和も可奈美も薫達も知らないことだが、優の中にはタギツヒメ以外の元人間の荒魂が居るのである。
一人は路地裏の角で貧困であったために“花”を売っていたミカという少女だった荒魂の記憶――――。
その記憶には、大人が子供に“欲望”をぶつけ、そのうえ“玩具”にされていた記憶。そのため、優は多感な時期からそういった記憶を見て、体験させられていた。
身体に這いずり回るミミズのような舌――――。人間の言葉を喋り、人間の姿をして、欲望をぶつけてくる悪魔――――。他の子供達も同様な目に遭わされているという現実――――。
それらが鮮明に見せられ、体験もさせられたのだ……。
だからこそ、9歳である優は口づけや接吻、胸や性器を触らせるといった“性的なことに関する行為”を“耐え難い暴力的な行為”であると認識し、トラウマとなっていた。それ故に、優は姫和による口づけが原因で、姫和の姿がミカの記憶にある人間の言葉を喋りながら欲望をぶつけてくる悪魔に重なって見えたため、心因性のストレスで優は嘔吐をしていた。
心が落ち着いて来た優は便器の中を水で流し、トイレにある鏡を見ながら呟いていた。
その表情は目を見開いて、誰かを睨んでいるかのような今まで見せたことがない顔であり、誰かを殺しかねないようなぐらいの狂気が孕んだ顔であった。そんな自分の顔を優は幾度も呟きながら、見つめていた。
「……どんな顔だったけ?…………」
優はいつもの笑顔はどんな物であったかを思い出しながら表情を造っていた。
違う、これは可奈美や姫和に向ける顔はこんな感じじゃなかったと思いながら、いつもの顔を造ろうとしていた。
「……うん、これで行こう…………」
姫和おねーちゃんはボク等をすくってくれる存在だから、ヒヨリおねーちゃんは僕等ヲ救ってくれるソンザイだから、と何度も心の中で呟きながら薫達の居る部屋へと戻って行った。
しかし、姫和は気付かない。
優は繋がる輪から外れる
「日本」の狂い方が私達を苦しめ、徐々に「不思議の国」に近付いて行っているて言う人が居るけど。
ワイは「世の中」が狂ってきて、徐々に赤の女王もトランプの兵隊も居る「不思議の国」が漸増の一途に辿っているとような気がしてならない日々。
あと、口が半開きで、どこかぼーとしていたり、あるいはいつも窓の外を眺めて(解離症状が悪化し始めている場合など)いる。夏でも長袖を着る。公衆トイレを使用したがらない。身体検査等で服を脱ぎたがらないといった性的虐待を受けた児童の特徴に多く見受けられる子が居たら、
厚生労働省の児童相談所虐待対応ダイヤル「189」にご一報を。