69話を投稿させて頂きます。
「峰打ちとは、貴様できるな。」(ウシくん)
「いや、峰打ちでジワジワ全身をブチ砕いて嬲り殺そうとしただけだ。」(カエルくん)
――――パペットマペットのコントより、
今話の総指導者の言葉は、第19話「禍神の呼び声」のタギツヒメの演説と過激派が言っていたことを参考にしています。
『我々はイスラムの戦士。偉大なるアッラーの御言葉を護る真の戦士達である。そして、アッラーの御言葉に耳を傾けないお前達が言うところのテロリストである。しかし、我々はイスラム教徒が安らげる国家を望み、それを実現するために活動している。……そして、我等を追い立て、偉大なるアッラーの言葉にも耳を傾けない畜生共は我々の行いを“許されざるテロ行為”であると言う。』
走る車内にて、彼等はipadに映る偉大な総指導者様とか呼ばれている男の演説を見ていた。
『それ故に、我らのような真の戦士達との共存を望まぬ者がいる。テロリストの討伐を名目に大いなる暴力を手にし、その暴力に溺れ、耳を傾けるにも恥ずべき言葉で我々を辱め、貶めた者達。……そんな彼らは対話を求めた我々の声を一方的に無視し、言葉を、いや奴等の言う自由と人権を解さぬ者として撃ち滅ぼそうとしているのだ。その証拠に、我々の行いを“許されざるテロ行為”と叫ぶ国の軍隊は何をしているのか?我等イスラムの土地を不法に奪っているのは誰なのか?その者共が率いる軍隊が罪のない町の市民、いや罪のない女子供を“誤射”と言い殺しているのは皆は解っているのだろうかっ!?そのうえ、その蛮行に見て見ぬふりをする政府の聖職者たちは何の見解をも示さないのは何故か!?…然るに当たって、その者達に問う。誰がその畜生共から、か弱き町の市民達を守るのか?』
総指導者の男は興奮しているのか、声を上げて、自らの行いを批判する者達を非難する。
『故に、事態ははっきりしている!そのため、我々の信ずる理念と神を護るために我々は武器を持って立ち上がる。過去、広島と長崎に毒入りの爆弾を落とし続け、そうして女子供を無差別に虐殺した者達は今も平然と我々の活動を“許されざるテロ行為”と叫びながら、我等の土地に住む女子供を虐殺しているのだ!!……それを続けた結果、彼等は心を持たぬまま堕落したのだ!!それが、この世界に覆う対テロ戦争の真実だ!!』
車内にはマリファナを吸いながら、気分を落ち着かせようとしていた者が居た。今から、自爆ベストを着けながら、私は神の元へ召されると……。
『……これは、そのような蛮行を行う西洋が信ずる自由や人権という出鱈目なことを宣うために行う戦いではない。我々の心から信ずる者のために戦う聖戦である。断じて、畜生共が叫ぶテロではない!!』
総指導者の言葉を聴きながら、少女は覚悟を決める。
「……時が来た。」
アラビア語を喋る男は起爆スイッチを少女に渡す。
渡されながら、少女は思う。この国では、刀使と呼ばれる未成年の少女達が人々を守るため、化け物相手に奮闘し、化け物を討ち祓う少女達が居るということ。
……そんなジハードの戦士達のような刀使達になるようにと教えられたことを思い出す少女。
「……はい。」
少女は短くそう答えると、空爆にやられた家族のことを思い浮かべるが、復讐のためだけに行うのではないと、総指導者様が言われていた化け物のような畜生共を一人残らず追い出すための聖戦。その一歩の行動であり、人々を守り、化け物を討ち祓うことを教義とする刀使達も同様のことをすると強く自分に言い聞かせていた。
……全て、起爆スイッチを渡した男の受け売りなのだが。
『怒りを忘れろ、悲しみを捨てろ、ただ畜生共には情けを掛けることなく、我等の信ずる聖戦のために死を乗り越えろ。そうして皆が皆、ジハードの戦士となるための道標となるのだ。』
総指導者の最後の言葉を少女は聴きながら、『私はこのお言葉を聴いたから復讐の念に囚われることなく救われた。』と思いつつ、車から降りると、少女はマリファナを道に捨て、赤いパーカーのフードを被って顔を隠し、起爆スイッチを握り締めながら相馬原駐屯地へと向かう。
これは、復讐などではない。人を多く殺しているにも関わらず、美辞麗句を誇らしげに語る畜生共を追い出すために行うことなのだと、自らに語りながら、起爆スイッチを強く握り締めていた。
こうして、刀使の名声を利用して造った少女は総指導者の言葉通りに自爆ベストで“ジハードの戦士”となり、その後は総指導者の言葉通りなら、神の元へ召されたのであった……。
――――こうして、
荒魂を捜索するという仕事から一転、銃火は飛び交い、生死が隣り合わせの戦場へと変わってしまった群馬山中。
ここら一帯は特別災害予想区域に指定されており、それを伝える規制線も貼られているから登山者が間違って此処に来ないだろうし、銃弾が飛び交っているとしてもSTT隊員等の銃撃だと思うだろうと考えつつ、薫は現状を整理し、この状況を打破する打開策を考えるものの、思いつくことなく銃火に晒されないよう身体を低く沈めていた。
だが、薫はふと自分が刀使であることを思い出し、敵のところまで突っ込み敵を峰打ちか何かで気絶させようと立ち上がる。
だが、薫の頬に何かが掠めた瞬間、嘗て新人の刀使が戦いの空気に呑まれたのか、STT隊員等が荒魂に対して銃を撃っている最中にも関わらず突っ込んでしまい、銃弾を浴びるが写シのお陰で死ぬことはなかったものの、荒魂の目の前で写シを使い切ってしまった状態となり、一苦労したという話しを思い出してしまった。(そのうえ、息の合わないSTT隊員と刀使が同じ任務で一緒になり、そのSTT隊員の放ったライフルの弾が刀使の御刀に当たってしまい、弾き飛ばされてしまうことで荒魂討伐が大変だった話も思い出してしまった。)
一年前にも、サブマシンガンと捕獲用ネットで捕まった刀使が居たことから、その話しは事実なのだろうと思い出し、身を屈めてしまう。
……そのため、自分は何をしようとしていたのだろうか?と薫は思う。
自分が敵のところまで突っ込んだとして、刀使の力だけで勝てるのだろうか?それに、敵が何処に居るのか分からないうえ、正確な数も分からない。仮に虱潰しに適当に突っ込んだとしよう。運悪く敵の包囲のど真ん中だったりしたら、最悪味方の誤射と敵の銃火に晒され、一瞬で写シの力を使い切り、銃弾を浴びて死ぬかも知れない。それに、優が先制攻撃してくれたお陰でこうなっているが、敵はこちらを待ち伏せていたように感じる。ともすれば、刀使を相手にすることも想定されている筈なのである。
……ならば、刀使相手にも効果が有る捕獲用ネットのような物か罠といった手段を用意し、待ち構えていたというふうに考えるのが自然だろう。ともすれば、果敢に敵の前に躍り出てくれば格好の標的となるのは目に見えている。それに、銃弾をどれだけ浴びれば写シを使い切るかなんて薫には銃火に晒された経験が無いし、分からないのだ。
……それに、峰打ちという技は峰で相手を叩いて行動不能にする技なのだが、刃の部分だけでも2mは超える祢々切丸で、それを行えば、打撲骨折どころか死に至らしめることになるだろうということは容易に想像が付く。(というよりも、刀の峰で打とうが結局のところ鉄の棒でぶっ叩いていることには変わりないので、打ち所が悪ければ人を死に至らしめる威力は充分にある。)
それに、もし、もしもだ。写シを張っているお陰で銃に撃たれた痛みが半減され、撃たれたことに気付かぬまま突っ込み、運悪く敵の眼前で写シを使い切った状態となれば、そのまま銃を持った敵を相手にしなければならなくなる恐れもあったし、罠を受ける可能性もあった。
以上の事から、薫は写シの力を過信して、敵の所まで突っ込むのは辞めることにした。
「……爺さん!!任せて良いか!!?」
「任せろっ!!」
となれば、プロに任せるのが一番と薫は判断し、トーマスにこの事態の終息を一任していた。
それに、こちらが無理に反撃しなくても相馬原駐屯地の陸上自衛隊が銃声を聞きつけ、援護に向かって来れるだろうと判断し、トーマスにそう呼びかける。
「爺さん、陸自の人間が来るまで頑張れ!!」
「悪いが、駐屯地で自爆騒ぎがあって陸自の部隊はそれの対処に追われているらしい。増援が来るのは少し時間は掛かる!!」
だが、陸上自衛隊の援護は相馬原駐屯地で起きた自爆騒ぎの対処(ダーティーボムの可能性も有るため。)のため、しばらくは来れないらしい。
「陽動も仕掛けてんのか、何者だあいつらっ!沙耶香、姫和を抑えてろっ!!」
そう理解した薫は優のことを気にかけている姫和を抑えるように指示する。優をこれ以上人殺しをさせる訳にはいかないとか、言いだして敵のど真ん中へ突っ込みそうな気がしたからだ。
……だが、薫としても優にこれ以上殺人に手を染めて欲しくはない。そのため、
「……ジジイ、優に攻撃させんの止めろっ!」
と、トーマスに何とか近付いて指示する。
「断るっ。あいつはああいった相手なら、此処に居る誰よりも強いと確信を持って言える。俺が教えたからな!」
トーマスは薫にそう言って、どこか優のことを自慢げに言っていた。
「お前、こんなときまで何言ってやがる……!」
「なら、姫和に舞草の隠れ里が襲撃されたとき、潜水艦に入ろうとしていたSTT隊員を殺したことはどうなると聞いてこい!」
トーマスの行いに薫は憤るものの、舞草の隠れ里が襲撃されたとき、潜水艦の近くに居たSTT隊員を殺したときに、姫和と薫は何故非難しなかったのか、それを咎めなかったのかと問い詰めていた。
「……だとしてもだ。あいつにもこれからの人生があるだろっ!お前にも息子の一人や二人がそんなこと続けていたら嫌だろっ!」
薫にそう言われたトーマスは、少し考え込んだのか撃つ手を一瞬だが止めてしまう。だが、
「……今この状況を切り抜けるには、あいつの力は必要だ!」
「おい、待て!」
そう短く答えて、トーマスは前へ進んで行った。
薫はまだ話しは終わっていないと言わんばかりに、トーマスの後を追うかのように手を伸ばすが、届くことはなかった。
「………くそ!!」
薫にどうしようもない無力感が襲ってくる。
写シがどれぐらい銃弾に耐えられるかは分からないし、何発受けたか考えながら戦うことなんてしたことがない。正直、パブロフの犬のように反応し、銃声の音だけで驚く自信はある。
だが、それで諦める薫ではなかった。
「どうするんだ薫?このままじゃ優がっ!」
優を助けようともがく姫和。姫和をどうにか抑えている沙耶香を見て薫は一つの決断をする。
「……沙耶香、姫和頼むぞ。」
「薫?」
「なあ、姫和に沙耶香。この部隊の指揮官は俺だよな?」
「……薫?」
妙なことを口走る薫に姫和と沙耶香は違和感を感じ、薫を見つめる。
「だったら、姫和も沙耶香も優も俺の部下だ。……お前らはそこで伏せてろ。お前らだけに手を汚させる訳に行かねえからな。」
薫はそう微笑むと、敵の所へ飛び込んで行った。
「薫!!」
誰が叫んだのか、薫は分からなかったが、今度は銃声に臆することなく突き進んでいく。
(……少し、チビったかも……情けね。)
そう愚痴りながら、恐怖を抑えるため、猿叫をとにかく叫びつつ敵が居るであろう方向へ突き進む。このとき、集中放火を受けなかったのは幸運だった。
(……情けねぇけど、あいつばかりに背負わせるのはもっと情けねぇっ!!)
手が汚れるのは、指揮する隊長の自分だけで良い。そう納得しながら、誰かを斬ろうと覚悟を決めていた。部下だけにこんな汚れ役ばかりさせるのは、納得がいかない。
なら、一緒に背負ってやろう。一緒に地獄でも何でも付いて行こうと敵を倒そうとする。斬ろうとする。故に、たまたまマズルフラッシュが見え、それを頼りに近付くと敵らしき者を見かけ、斬り倒そうとするが、薫は躊躇ってしまう。
「――――نجاح باهر!!?」
目の前に居たのが、どう見ても自分よりも幼く、それに不釣り合いな大きな銃を持つ子供だったからだ。
(……おい、何の冗談だよ!?…………)
――――何の冗談だ?
――――何なんだこれは?
――――こんな現実が有って良いのか?
テロリストというのは、よくテレビに出てくるような若い男か髭面の強面のおっさんみたいな者達ばかりだと思っていた薫は、これには驚愕する他なかったうえ、動きを止めてしまった。刀使という存在も身も蓋も無いことを言えば、この幼い少年と似たような者なのかもしれないという一抹の不安を過らせるには、“考えて斬る”ことを信条とした薫にとって、充分過ぎる存在だったからだ。……まるで、
それを知らずに、動きを止めた薫を見た幼い子供は、それをチャンスだと見て取り、薫にフルオートの銃弾を浴びせる。だが、薫の運が良かったのか、はたまた幼い子供の運が無かったのか、薫は写シを張っていたうえ、途中で写シが切れることもなかったために致命傷にはならなかったものの、今ので写シを使い果たしてしまい、写シを再度張ることができなかった。
(……くそっ…………。)
――――殺られる。
写シを使い切り、眼前の幼い子供は不釣り合いと思える程に、慣れた手付きで素早くリロードを終え、銃口を薫の目の前に突きつけようとする。そのため、薫は身動きが出来ない状態のため、死を覚悟する。
だが薫に、死が訪れることも、与えられることもなかった。
薫に銃口を向けようとする幼い子供は優に足、肩、頭部を撃たれ、止めに短刀の御刀で頚椎を刺し、一言も発することもなく、力を失ったかのように膝を崩し、倒れたからだ。
「……うっ……。」
そのため薫は、幼い少年という“者”が、ただの肉の塊という“物”に変わる瞬間を見せられるハメに遭うのであった。
「大丈夫?」
薫は、声がした方へと顔を向けると、先程自らと同じくらいであろう幼い子供を殺した子供とは思えないくらいに、銃を持ちながらいつも通りに尋ねてくる優が居た。
だが、薫には理解ができなかった。優は自分と同じくらいの年齢である幼い子供を撃ったというのに、何の疑問も抱かないのだろうか?
薫はそのことに苦悩し、自分の在り方に疑問を抱き、動きを止めてしまったというのに…………。
「……お前こそ、大丈夫なのか?」
「何が?」
「だって、同じ齢の奴を撃って、何も思わねえのかよ。」
だから、薫は尋ねてしまった。
自分と同じ齢の人間を撃って、何も思わないのかと。そのため、優は薫の疑問に答える。
「だって、躊躇したら撃たれるし。」
殺される前に殺す。至ってシンプルな答えであった。そのシンプル過ぎる答えに薫は納得できなかった。
「………何だよ……それ、…………相手は同じ人間だろ?」
そんな簡単に割り切れるのだろうか?
と、薫は口に出してしまう。
「そういえば、薫おねーちゃん。」
薫は優に呼ばれ、何事かと顔をそちらに向ける。
すると、次の瞬間、幼い子供だった“物”の足を御刀と八幡力で捥ぎ取ると、その腕を茂みの方に叩き付けていた。
「………は?………」
薫は気の抜けた声を出しながら、優が何をしているのか分からなかった。だが、次の瞬間、地面から歯のような刃が現れ、優が叩き付けた足に噛みついていた。
トラバサミが仕掛けられていたのだ。
「そこの茂みにも罠があるから気を付けて。」
「……おい、何で分かるんだ?」
薫は何事もなく千切った敵の足でトラバサミに噛みつかせる優に恐れを抱いたのか、声が上擦っていた。
「ヒメちゃんのお陰だよ。でも、全ては視えないけど、直前ならある程度は分かるから。」
罠が有る場所は、未来視としての
「それと、あいつらが頭の中身出してるのに倒れないから気付いたんだけど、多分クスリで痛覚を鈍らせていると思うから、御刀で叩いても中々気絶しないのと、さっきみたいな奴もそうだけど自爆ベスト着けてる奴も居るから気を付けて。……それと罠のことも忘れずに姫和おねーちゃん達に伝えておいて。」
といったことを優は薫に言うと、さっさと次の標的を仕留めるべく迅移で移動していた。
狂ってる――――。
薫はそう思う他なかった。つまり、姫和や沙耶香が峰打ちで殺さないよう気絶させようにも、敵は覚醒剤か何かの薬で痛覚を鈍らせているからあまり効果が望めないうえ、さっきの幼い少年は何処かで自爆しようとしていたということなのだろうか?それだけで、薫は身の毛がよだつような感覚がした。
「………ははっ……ハハハハ………」
乾いた笑いしか出なかった――――。
紗南や朱音、今は亡きロークや他の学長達なら、自分達が
(……そういや、腰に短刀の御刀を差しているんだったな。……そりゃ、迅移も使えるわ。)
八幡力や迅移といった刀使の力が使え、女子供だろうが一切の容赦もなく殺す事ができるうえ、“使える部分”を平気な顔をして使い、罠も龍眼によって見破れる。いや、それだけでなく龍眼によってあらゆる可能性を見通し、そこから最良の一手を選択出来るのだから、敵の動きも先読みでき、敵が移動したことも視えている筈、そこを狙って撃てば百発百中になるということだろう。そのうえ、半ば荒魂となっている優に近代兵器といった通常の武器に効果が有るのかどうか……。
『断るっ。あいつはああいった相手なら、此処に居る誰よりも強いと確信を持って言える。』
だから、トーマスは優を戦線から遠ざけることをしなかったのだろう。
「……くそっ、…………何だよ!何なんだよ!!」
特撮ヒーロー物に憧れ、刀使となった薫は、何も出来ない無力感に苛まれ、地面に向けて拳を振るう。
(……何だよそれ…………もう、どうすりゃ良いんだよ?……俺は、無力だ…………。)
薫は仰向けとなって力が抜けたように空を見ていた。
此処の空はよく見知った青く澄んだ色で美しいというメルヘンチックな感想を抱ける程の綺麗な空。
…………今日はそんな綺麗な空なのに、周りの音は銃声ばかり聴こえ、火薬の匂いしかしないという世界、赤ずきんも狼に喰われるだけの結末しか迎えない狼が支配する国に居るような気さえした。
『お前には隊長として、チームを率い、群馬に行ってもらう。』
『いや、俺パスポート持ってないし。』
そんな冗談を言ったせいで、此処は外国となったのだろうか?
此処は確か、自分の生まれ育った国であり、食べ物が上手くて、荒魂被害とか無ければ銃乱射事件も無く平和な国だった……。なのに、今此処に居る者達は、過去の伝承を信じて戦う子供も混じって殺し合いをし、クスリで写シのように痛覚を鈍らせて痛みを軽減させながら、頭を壊して狂った獣のように戦う。
何時の間にか此処は、何もかも食いつぶす狼しか生き残れないような国になったような気さえする。
こんな場所になることを想定して、優を連れてきたのか。
やはり、トーマスというジジイは
――――ならば何故、自分達が同行することを許したのだろうか?
あのトーマスの性格なら、この戦場には刀使は邪魔であることは気付くはず。なのに、それを許した。
何か理由があるハズだ…………。
優は、確かに刀使の力と龍眼を使え、人を殺すことに躊躇も無いうえ、半ば荒魂と化しているから、敵とトーマス達が持つ武器も効果が無い。正に無敵の存在とも言えるだろう。……だが、御刀なら斬れるという事実に思い至ったことから、薫はあることに気付く。
「……もしかして………俺達は!?……」
優を始末しなければならなくなった事態を想定して、俺や沙耶香、姫和を連れて来た。ということだろうか?
薫は、そう推論すると、トーマスに対し、沸々と怒りが混み上がって来たのであった。
「あんな戦いは初めてです。訓練など忘れてしまう。…頭や胸を狙って一発で倒すことなど出来ません。……相手はドラッグで興奮し。中々倒れないのです。」
「彼等は死ぬまで戦い続けるんです。……最後の瞬間まで引き金を引き続けています。」
「恐ろしいですよ。撃たれて脳みそがはみ出た男が、尚も撃ってくるんですから……。」
「5、6発銃弾が当たっても、まだ向かって来るんです。」
――――アメリカ海兵隊員、ジハードの戦士達について。
2018年10月16日、アメリカ合衆国財務省がバスィージとその系列企業を経済制裁の対象に指定した。少年兵をシリア内戦に送り込んでいること等を理由に挙げている。
――――真偽不明。