【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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この小説を応援してくれた方々申し訳ありません。風邪とかでだいぶ遅れました。
最後の方で試験的に清涼剤的なものを書いてみました。辞めた方が良いという方は感想で教えて下さい。お手間を取らせますがお願いします。
あと、また増えますがオリキャラの紹介はあとがきにあります。


もう帰れない

可奈美達は二人の外人が乗っているミニバンに乗り、石廊崎へと目指していた。

「え~っと、このお二人と累さんはどんな関係なんですか?」

可奈美は累に質問する。

「え~っとね、実は私は“舞草”に参加していて、その仲間ってところかな?」

「“舞草”?」

可奈美はそう疑問を口にし、初老の男性が答える。

「まあ、お前さんがチャットの相手をしていたFinemanが“舞草”の幹部で、そいつが昔、経営していた会社の元警備員で今も雇われていると言えば分かるか?」

「Finemanの……?」

意外な顔をする姫和。

「そそ、運転している人の名前はローク、そしてこの爺さんの名前はトーマス。この二人、アメリカ海軍の元軍人さん達なんだよ。」

累が可奈美達にそう説明すると、ロークという男は運転しながら、累に一言注意する。

「累、あまりお客さんに所属とか、そう言ったことは説明して欲しくないんだけど…。」

ロークは身元がバレることを警戒してそのように言う。可奈美達が“舞草”に入るとは、まだ決まってないからだ。

「ローク、累、お喋りはそこまでだ、その先に警察の検問がある。左折して検問がまだ配置されてないルートをナビゲートするからその通りに行ってくれ。」

「了解です。」

「どうして、検問が有る場所が分かるんだ?」

姫和の疑問にトーマスは耳のイヤホンを叩きながら、答える。

「あいつらの無線を傍受しているからだよ。」

「そんな……ことが?」

簡単にできるだろうか?少なくともこの二人はただの元アメリカ海軍の傭兵では無いだろうと姫和は思った。この二人は懐に何か隠していることは分かったし、何よりも後ろの荷室に何か得体の知れない物があるからだ。中身は爆発物か銃器だろうか?

「名前は姫和と可奈美と優だったな、さっきの戦闘で疲れたろ、お前達は休んどけ。」

トーマスは可奈美達にそう告げ、休むように言う。

「ありがとう、トーマスおじいちゃん、ロークおじちゃん。」

「あ、ありがとうございます…。」

礼を言う優とそのあとにお礼の言葉を言う可奈美。

「…すみません。」

警戒しながらそのように言う姫和。

「ハハ、まあ、気にしないで。」

気にしないようにと可奈美達に伝えるローク。姫和はえらく気を使わせてしまったかも知れないと思った。

 

 

 

 

 

 

刀剣類管理局本部、鎌府学長室に沙耶香と雪那が居た、そこで沙耶香は雪那に説教をされていた。

「沙耶香!!所在を特定し、奇襲して討ち漏らすとは……、少し過大評価し過ぎていたようね……。」

可奈美達を襲撃したあと、沙耶香は雪那の命令を受け、車でその場所を離れ刀剣類管理局本部まで送って貰っていた。

しかし、当の雪那はイライラが既にピークに達していたのか、学長室はタバコの臭いで充満していた。そのため、12歳の少女でしかない沙耶香はその姿を見るのが辛いため、あまり言い訳めいたことを言わないようにしようとし、ただ一言しか言えなかった。

「……申し訳ありません。」

沙耶香はそれ以外に言えなかった。

「くだらない御前試合などに興味はありません。」

雪那は何かの呪詛の様に呟きながら、沙耶香の御刀妙法村正を奪い取る。

「でも、任務の遂行率は100%…それが、あなたの価値。」

そして、自らの夢である。彼女が世間に認められることが。

「少し……過保護に育て過ぎたかしら?」

雪那はそれだけ言うと村正を抜き、沙耶香に村正の切っ先を向けるが、

「っ……。」

雪那は誤って、沙耶香の左頬を傷付けてしまう。かつて自分が使っていた御刀の間合いを間違えてしまったのだ。そのことに雪那は顔を出さなかったが、心の中では激しく動揺していた。

雪那が刀使だった頃はこんな間違いは犯さなかっただろう。時間と過去、タバコと飲酒、ストレス(心の問題)という荒魂以外の化け物が彼女を刀使から、ただの心の脆い人へと変えてしまったのだろう。雪那はその事実を他でもない昔日の友でもある村正が自分に向けて言っているようにも思えた。そして今の自分が村正を持つに相応しくないとも……。

「……あなたはこの妙法村正の刀使として、この残酷で不条理な世の中に対して希望を与えなくてはならないの、そのための知識と力をあなたに与えた。全ては世間がこの研究とあなたの存在を認めて貰うため、あなたはそのためだけに存在するの、沙耶香。」

雪那は沙耶香と目を合わせることなく、沙耶香に背を向けながら言う。スレイド博士の研究で犠牲になった人、そして今も続くこの研究の被検体、自分自身……、沙耶香はその全てを救ってくれる救世主になってもらいたかった。あの男、スレイド博士と自分は違うのだと想いながら…………。

その直後に、ドアのノック音が響く。

「空いてます!」

部屋に入ってきたのが、親衛隊第三席皐月 夜見であることを確認した雪那は、

「何の用だ!」

と辛辣に言って、弱い部分を見せないよう強い自分を作る。

「紫様がお呼びです。」

「紫様が?」

夜見にそう言われた雪那は沙耶香に鎌府学長室に待機と命じ、紫が居る応接室へと向かうのであった。

 

 

「鎌府学長。」

「はっ、はい。」

紫にそう呼ばれ、裏返った声で返答する雪那。呼ばれた理由が沙耶香が任務に失敗したため、沙耶香のことを欠陥品扱いされないか気が気でならなかった。

「私は追撃の許可を出した覚えがないのだが?」

どうやら、独断行動による叱責だったようだ。そのことに少しばかり安堵したのかいつもの口調に戻っていた。

「反逆者の所在を特定しましたので、早期に捕らえるべきと判断致しました。」

「勝手な真似はするな……。」

しかし紫は、いつもより憤慨しているようだった。

「で…ですが、この機を逃してしまえば御刀を持った危険分子がどのような被害と行動を起こすか分かりません。」

雪那は、可奈美と姫和の両名のことを突然御刀を振り回す危険な子供達だと思っていた。それもその筈で、雪那は目の前に居る紫の正体が二十年前に鎮めたはずの大荒魂ということを知らないのでこのような結論に至っていたのだ。

「高津学長、お言葉が過ぎます。」

「貴様……、それは刀使としての発言か。」

夜見は雪那の立場を悪くさせないように言ったつもりだったのだが、雪那にとって見れば紫さえ無事であれば他はどうでも良いというような発言にしか聞こえなかったため、憤慨していた。本来の雪那であればその考えに賛同していたであろう。だが、スレイド博士という良心の無い人間になりたくないという思いからその考えを否定するようになっていた。

「雪那。」

「はっ?……はい!」

雪那はいきなり名を呼ばれたことに驚き、声が上擦ってしまう。

「貴様はやるべきことを果たせ。」

「で、……ですが。」

雪那は紫に叱責されるが食い下がる。もし、可奈美達が犯罪を犯してしまえば、最悪のデモンストレーションになるからである。資金と頼る場所が無い可奈美達がいつ罪を犯すか気が気でならなかったのもあるが。

「……もういい、下がれ。」

「……分かりました。」

雪那はそう返事をするが納得はしておらず、悠長にしていれば刀剣類管理局の権威は失い、可奈美達は犯罪者の烙印を押されることを恐れながら、応接室を退室する。それを心配そうに見つめる夜見に紫は命令を下すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

可奈美達は累の協力者トーマスとロークの送迎のお陰で、石廊崎からまだ距離はあるものの伊豆まで来ていた。

「……すまんが此処までだ、そのパーカーを着たまま車から降りろ。」

トーマスはそう冷酷に可奈美達に伝える。

「えっ、何でです?」

可奈美は疑問に思い、トーマスに理由を尋ねる。

「ここから先は検問が多すぎて通れん、こっから先は徒歩で向かう方が良いからな。大丈夫、ここのサービスエリアで案内人を呼んでいる。そいつに案内して貰え。」

検問が多いというのは試験官に会わせるための嘘であるが、可奈美達はそれに気付かず車から降りてしまう。

「大変だろうけど……頑張ってね。」

累の労いの言葉に頭を下げて礼をする可奈美と姫和。その後、ミニバンは発進し可奈美達から離れて行った。

「……あんな子供がねぇ、……化け物退治の先兵か……。」

ロークは悲しげな表情でそう呟やいていた。

 

車内で寝ていたとはいえ、ずっと車に乗っていたせいか、可奈美は背伸びをしながら姫和と話していた。

「ねえ、姫和ちゃん合流地点までまだ遠いの?」

姫和はそれを聞き、可奈美に自らの決意を切り出す。

「可奈美、お前には色々と助けられた礼を言う。……だが、ここで別れよう。」

「えっ、ちょっと姫和ちゃん、私も付いていくよ?」

「昨夜の件で分かった。私の剣とお前の剣は別物だ。」

姫和は搾り出すように言う。

「私は斬る剣、対してお前は守る剣だ…。この先は……斬る剣だけで良い。だから、もう良い。」

「そんなの勝手に決めないでよ、姫和ちゃんが勝手にそう思っているだけだよ。」

「可奈美……人を斬った事があるか?荒魂となった人を……。」

「えっ、……写シしか無いけど…どうして?」

「ここ最近は人が荒魂化する事例はほとんど無い。だが、私の母の時代にはそう珍しいことじゃなかった。」

姫和は自らの心の内を吐露する。

「荒魂化した人はもはや人ではない、稀に記憶を残し、言葉を話す個体もいるが荒魂は荒魂だ。刀使が御刀で斬って祓う、それしか救う手段はない。私達刀使は人々に代わり祖先の業を背負い、鎮め続ける巫女だ。だが、これから私がやろうとしている事は荒魂退治かもしれないが、限りなく人斬りに近い。」

姫和は可奈美と優の二人と出会い、一緒に居るだけで不思議と復讐心が揺らいでいく自分が嫌だった。まるで、自分自身を否定しているみたいで。

「お前は斬れない……だから、ここで別れるんだ。その子もいっしょに。」

姫和はそう言って、優も一緒に連れて帰れと可奈美に言う。そして、優のことは最初可愛らしい子供だと思っていたが、あの鎌府の刺客と戦い、無表情で虫けらのように殺そうとした優がだんだん怖くなってきた。……まるで、人斬りとなった自分を見せられているような気分となっていたからこそ、姫和はここで別れるべきだと決意した。

「まっ、」

「来るなっ!!……お前達は戻れ、可奈美は荒魂から人々を守れ、それもまた刀使として大事な仕事だ。」

姫和は大声で可奈美を制止させ、戻るように言う、幸い優は可奈美の言うことは守るようなので、可奈美さえ戻るようにすれば一緒に帰るだろう。もうこれで見なくて済む……あの子達が血で濡れることはない。そう思っていた矢先、姫和誰かに手を掴まれる。――――小さい手だった、優の手だ。

「おい、何をする。」

姫和は凄んで言う、手を離せと言わんばかりに……。

「行かせない、可奈ねーちゃんのやりたいことをやらせたいから。」

「人斬りをやらせることが良いわけないだろ?」

「それをどう決めるかは可奈ねーちゃんだよ。それに、今更戻っても可奈ねーちゃんの罪は軽くなるだけで、消えないんでしょ?そうなると可奈ねーちゃんは姫和おねーちゃんの追っ手として戦わなければならなくなるよ、それが良いの?」

どう転んでも人斬りに近いことをやらせることになる、そう言ってきたのだ。姫和はなにか反論しようにも何も言えなかった。

(こいつは……。)

何も考えていないようでいて、何か考えている子なのだと。

「だが、これは――――。」

「見つけマシタァーー!!」

しかし、突然の乱入者により話しを無理やり中断させられる。

「美濃関学園中等部2年・衛藤 可奈美と平城学館中等部3年十条 姫和デスネ。」

金髪碧眼の外国人らしき長身の女性がそう尋ねて来た。

「そうだけど。」

「長船女学園高等部1年古波蔵 エレン!」

可奈美がそう答えると、金髪碧眼の女性、古波蔵 エレンが御刀を抜き写シを展開、時代錯誤な名乗りを上げていた。

「で、隣にいるこっちが薫。折神家当主に刃を向けた不届き者!覚悟するデース!」

「クソめんどくさい。」

隣からエレンとは対照的に背が低いツインテールの脱力している子供が現れた。名前は薫というらしい。

「……今度の刺客は長船か!」

「2対2だね。」

姫和と可奈美はそれぞれ感想を述べながら抜刀し、写シを展開し身構える。

「ねえ、今度はあのちっこいのとでっかいのが敵なの?」

優の発言で、場は凍りつき時が止まったかのようであった。

「……うおーし!すっげぇヤル気出てきたぁ!!あのクソ餓鬼折檻してやらぁ!!!」

「……今回の薫はやる気満々デスネ~。」

薫はチビ呼ばわりされたことに憤慨し、刀身が長い御刀を構え写シを展開、殺意の目で優を睨む。一方のエレンはいつもそれ位やる気あればなぁとか思っていた。

「きえええぇぇぇぇ!!」

薫は凄まじい掛け声と共に御刀を振り下ろす。見ると、道路はズタズタにされ、砂埃が舞っていた。

(なんて、威力。……なら。)

懐に飛び込めば、と思い可奈美は間合いを詰めようとするが。エレンの肉体の耐久度と物理的な硬度を上げるが、短時間しか持続しない刀使の術の一つ金剛身を使った剣術と体術に翻弄され間合いを離されてしまう。

(タイ捨流と体術…!?間合いが!)

「可奈美!森の中へ行くぞ!!」

ここで戦い続ければ刀剣類管理局に通報されると思い、人目が付かない森の中へ姫和は優を抱えて向かおうとしていた。

「分かった!!」

あの長物は狭い場所だと不利かも知れないと思った可奈美はその案に乗り、森の中に入って行った。

「逃がすかぁ!!エレン行くぞ!」

「あっ、ハーイ。」

薫はチビ呼ばわりされたことに憤慨しているのか、真っ先に後を追う。それに続いてエレンも付いて行った。

そうして、戦いの場所は森の中となり。姫和と可奈美は距離を詰めようとするが、エレンによって阻まれてしまう。

「きえーーーーー!!」

そして、薫はその隙に御刀を振り下ろす。轟音と共に大地は割れ、樹木が倒れていた。

「だめ、この人達、息ピッタリで。」

「フフーン、私と薫はベストパートナーですカラー。」

薫とエレンの連携と統制の取れた戦いに思わぬ苦戦をしていた。

「ならば……。」

姫和はエレンに一直線に向かって行き、体当たりで薫との距離を空け、一対一に持ち込む。

「そう来まシタカ。」

「これで……。」

姫和は薫とエレンを分断させることに成功した。

「ふん。」

一方の可奈美は、薫が大太刀の御刀を投げてきたことに驚くも、それをなんとか避ける。

「何、荒魂?」

だが、小さい蛇の尾を持つ生き物が薫の御刀を掴んで、薫に投げ返す。可奈美はそれを見て荒魂かと思ってしまう。

「目が良いな、荒魂とは違うけど。」

「……なるほどね。」

可奈美は何か納得したような顔をしていた。

「よいしょ。」

が、優が倒れていた樹木を持ち上げていた。

「はっ?」

その光景を見た薫は間の抜けた声をあげる。そして、優はその樹木を薫に向けて投げる。

「嘘ぉ!」

あんな子供が何事も無く樹木を持ち上げて、こっちに投げて来たことに驚いていた。薫は御刀でこっちに向かってくる樹木を真っ二つにして、難を逃れる。しかし、振り下ろしてしまったため、大きな隙が出来てしまい、薫の喉下に可奈美の千鳥が突き付けられる。

「薫っ!」

エレンが薫の救援に向かおうとするが、姫和が立ち塞がる。

「エレンとか言ったな、何故この場所が分かった?」

「フフーン、何故ですかね?」

エレンに詰問する姫和。もし、紫の命令で動いていた場合、向かう場所がバレているということであり、累達が危ないことになる。

「……荒魂?」

ふと姫和は可奈美の方を見ると、何か小さい生き物が可奈美の足に噛み付いていた。

「この子の言うことを聞くみたい。」

しかし、この小さい生き物は優に思いっきり尻尾を踏まれ、悲痛の声を上げ、口を開けたと同時に耳を掴んで可奈美から離す。

「ねねっ!……おい何すんだクソ餓鬼!!」

「そっちこそ、可奈ねーちゃんに何してんの?」

この小さい生き物の名前はねねと言うらしい。薫の非難の声に優は物怖じせずに反論する。

「荒魂を使役か……、質問に答えろ。」

「アッ、エーット、ワタシニホンゴワカリマセン。」

「ふざけているのか……。」

姫和はエレンの態度に若干怒りを覚えるも、平静さを保ち身構えていた。エレンはこれでいいと思っていた、あと5秒時間稼ぎすれば良いのだから。

「あれって…」

可奈美は上を見上げると、空から何かが降ってくるようであった。それに気付いた可奈美と姫和は迅移を使って退避していた。砂埃が晴れ、見るとS装備の射出用コンテナであった。

「あいつら、荒魂殲滅用の装備を出してきたのか?」

「え~っと、S装備って、これってピンチじゃない?」

「そうだな、あの装備は刀使の力を飛躍的に向上させる。」

姫和と可奈美は一気に形勢が不利になったことを悟る。

「お色直し完了デス。」

「完全武装薫、見参。」

S装備を纏ったエレンと薫が現れる。しかし――――。

「ダッセェ。」

エレンと薫の二人に、9歳児の正直で無意識な精神攻撃をモロに受け、二人とも両膝を付け、頭を抱えていた。

「うっ、うっせえぇぇぇぇ!!デザイナーとか結構頑張って考えたんだぞこれぇぇぇぇ!!!」

薫の悲痛の声が山中に木霊していた。その隙に可奈美と姫和の二人は優を連れてそそくさと逃げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、可奈美達は突然降り出した雨から逃れるため、元は何かの店であったろう廃屋の中に居た。

「さっきは邪魔が入ったが、雨が上がれば別々だ。」

尚も、分かれようとする姫和。しかし、

「もう私は戻れないから、姫和ちゃんに付いて来るよ。」

可奈美は拒否する。姫和にはそれが意固地になっているように見えた。だから、自らの目的を喋り、帰らせようとした。

「私が折神 紫を倒したい理由……お前には話しておく……。」

「……。」

「可奈美、二十年前に起こった『相模湾岸大災厄』は知っているな?」

『相模湾岸大災厄』――――。

江ノ島に突如現れた史上最悪の大荒魂を折神 紫と現在の伍箇伝の学長達で編成された特務隊によって討伐された、二十年前に起こった事件。

「…その中に私の母もいた……。」

「え、お母さん?特務隊って六人だけなんじゃ…。」

「記録には残されていない、世に知れ渡っている事件の顛末は何もかもが虚偽だからな。」

そして姫和は十条 篝様と書かれている手紙を出す。

「全ての真実は、この手紙に書かれていた。……この国いや世界の存亡を脅かすと言われたほどの災厄、忌むべき存在、純然たる穢れ、それが相模湾岸大災厄の大荒魂……そして、数多いる刀使の中で唯一やつを討ち滅ぼす力を持っていたのが、私の母だ。だが、完全には討ち滅ぼせなかった…やつは折神 紫になりすまし生き延びた。あの時、お前が見たものは英雄折神 紫の正体は討伐されたと伝えられるその大荒魂そのものだ!」

姫和の告白をただ黙って聞く優と可奈美。

「刀使の力を使い果たした母は年々目に見えて弱っていった……そして去年、私が見守る中……その夜、私は誓った。母さんの命を奪って、なお人の世に堂々と居続けている奴を私は討つと!……母さんの無念は私が必ず果たすと決めた。」

姫和は自らの決意を“復讐”を選んだ理由を話す。外は未だに雨が降り注いでおり、姫和の悲しみと怒りを表しているかのようであった。

「…私のやっている事のほとんどは私怨でしかない。だから、付き合う必要は――――。」

「そうだね。」

可奈美は姫和の目的を聞き、決心がついた。自分の目的を話す番だと……。

「優ちゃん、少し奥の方に居てお姉ちゃん達は大事な話があるから。」

「んっ、分かった。」

優は可奈美の言いつけを守り、奥の方へ向かって行った。

「大事な話しって何だ?」

「私ね、姫和ちゃんの剣を受けて感じたんだ、姫和ちゃんの剣はなんて重たいんだろうって、姫和ちゃんの剣には強い意志が乗っているんだ、目的を成し遂げようって意志だから…重いんだって。」

「何が言いたい?」

「私も同じくらい目的があって来たんだ、だから戻ることができないし、帰れない。」

「だから、何が言いたいんだ?」

姫和は可奈美が付いて来る本当の理由が聞けると思い、何度も聞き返す。

「ねえ、姫和ちゃん可笑しいとは思わない?たった一度だけ、少し荒魂の目が見えただけという理由で付いて来たのが…。」

「……。」

息を呑んでいた。姫和は次の言葉をただ黙って待っていた。

「私ね、あの荒魂の目を何度も何度も何度も見た事があるんだよ。」

何度も見た?何処で?姫和は何か恐ろしいことを聞いているような気がしてきた。

「あの荒魂の目、優ちゃんで見たことが何度もある……いや、中に居るといった方が正確かな。」

何を言っているのか姫和には分からなかった。いや、理解しようとしていなかったのか、したくなかったのか。

「優ちゃんの中にはね……たぶん、御前試合で見た荒魂が居るみたいなの……。それで、姫和ちゃん。」

……嘘だと言って欲しかった。そして、可奈美は聞いてきた。

「荒魂は荒魂だって言ってたよね?なら、優ちゃんも私の弟は荒魂か化け物なのかな?それとも姫和ちゃんも化け物って言うの?そんな事無いよね?仲良かったよね?今も好きだよね?ゾッコンだよね?あのときは嬉しかったなぁ~。」

いつもと変わらない可奈美の声なのに、今は悪魔の囁きにしか聞こえない。やめろ、そんなこと聞きたくない。姫和はそう叫ぼうと、可奈美を見た。

「でも、姫和ちゃんが優ちゃんを殺したら、……どうしよっか?……」

可奈美の顔は目を見開いて、こちらをじっと睨んでいた。今まで見たこともない顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※このSSが意外にも暗くなりそうだったので、清涼剤として急遽作ったとじよんみたいなもの。

刀剣類管理局本部、鎌府学長室。

雪那「沙耶香!!……なにその格好?」

黒いトレンチコートと黒の帽子、サングラスといういかにもベタな変装をした沙耶香がいた。

沙耶香「ええと、さっきのアニメ本編の真希さんやタギツヒメが着てた黒いコートじゃなく、これなら次の任務に失敗しないと思って……。」

雪那「沙耶香……!(ついに、自分で考えられるようになったのね、嬉しいわ!)分かったわ、汚名挽回して来なさい!」

沙耶香「了解、任務を続行します。」

 

数分後――――

 

雪那「沙耶香!所轄に保護されるとはどういう事!!」

 

 

当たり前である。

 

 





トーマス

元アメリカ海軍の少佐の初老の男性。実はフリードマンの弟。
除隊後、フリードマン博士の会社の警備員をしていた傭兵だったが、フリードマンに誘われ“舞草”に加入。


ローク

元アメリカ海軍の男性。40代。
トーマスとは長い長い付き合いのようで、相棒的存在。除隊後、トーマスと一緒に“舞草”に加入。


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