【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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81話を投稿させて頂きます。

今回は力溜め回でございます。本編の話しはそんなに進まないです。
  
  


ネバーランド

   

  

今日、和樹はベッドの上で縛り付けられて横たわっていた。

 

「……おはよう、おはよう。君は何故、あそこで横たわっていたんだい?」

 

スレイドにそう問われた和樹は思い出していた。

横たわっていた理由。あれは確か、今の体制の刀剣類管理局の権威を失墜させるべく、ノロの回収班を襲撃しようとしたが、警備が厳重になったことで諦め、他の回収班を襲撃しようと下水道を使って移動をしていたら、何者かに襲撃されたということを朧気ながら思い出していた。

 

………そうだった。下水道を歩いていたときに刀使に襲われたのだ。

だが、御刀を持っていたから刀使であると判断したが、荒魂パーカーを羽織り、親衛隊の制服を着用しているという一風変わった格好をした"刀使"であった。

だが、その刀使の剣戟は少し剣術をやったことがある和樹でも分かる程の鋭さが有り、斬ると同時に流れるかのような突きと連続攻撃。その恐ろしい技量から繰り広げられる御刀による攻撃を和樹は防ぐのに手一杯であったと同時に、理解していた。

 

……御刀による打ち合いでは勝てないため、逃げることを優先すべきであると。

 

しかし、拳銃を使ってこちらを攻撃したことで、不意を突かれた和樹は生身の部分に被弾。動きが悪くなり、その隙に懐に飛び込まれ、脇の下を斬られてしまう。

大量の血が流れてしまったことに、和樹は慌ててしまうが、その大量の血を媒介にして蝶型の荒魂を大量に出現させ、たまたま近くにあった水流の激しい川の流れに乗って逃げることに成功した。

 

……考えるだけで恐ろしい。

あの刀使は、間違いなく自分を殺そうとしていた。通常、人を殺すのに、躊躇ったり、動揺したりするものだが、その刀使は一切それが無かった。今、生きていられたのは幸運だったからとしか言いようがなかった。

いや、あの奇妙な刀使の剣戟に何処か見覚えがあることを思い出した和樹は、必死にそれが誰なのか思い出していた。恐らくだが、あの子供は荒魂パーカーを羽織っているとはいえ、親衛隊の制服を着用しているということは、

 

「………多分……管理局の……人間だ………そいつに………襲われ……た………。」

 

その刺客に襲われたということだろうと和樹は理解した。

恐らくだが、御刀を持っているということは刀使だろう。それに、見覚えのあるニッカリ青江を持っているということ、和樹が結月学長に憧れて天然理心流の道場に通っていた経験から、襲撃してきた刀使の太刀筋が天然理心流に見えたことから推測されることは、

 

(……燕………結芽か……。)

 

自分を襲ってきた刀使の正体が燕 結芽であり、燕 結芽は刀剣類管理局側ということであると和樹は判断していた。

 

(……あれだけ………結月学長に……助けて……モラッタノニ!!)

 

和樹は、結月さんがよく結芽の見舞いに行っていることは知っていた。

 

あれだけ甲斐甲斐しく見舞いに来てもらったのに、結月さんを裏切って管理局側についた。しかも、結月さんから天然理心流を教えてもらった癖に拳銃を使っていた………。それだけで怒りが沸いてくる。なのに、こっちは結月さんからそんな顔を向けられたことなど、一度も無いというのに………。

 

和樹は心の中でそう毒づきながら、結芽のことを嫉妬していた時のことを思い出していた。

幼い頃から、御刀に認められた神童であると同時に、刀使として活躍する年上の少女達に勝利し、将来を渇望され続けた少女は綾小路武芸学舎に入学し、刀使となり、華々しい活躍をするだろうと誰もが思っていた。和樹もその当時の結芽のことを結月を通して知っていた。

 

刀使にもなれず、剣術の才能も何もかも開花しない自分。

妹が刀使になったことを誇りに思うネグレストの親に無視されていた自分。

 

才能に溢れ、家族にも愛され、何もかも自分とは正反対に優れていた結芽を和樹は妬み、僻んでいた。……そして、羨ましかった。

だが、結芽が病に倒れたと聞いたときは結月の悲しい表情と共に悲しかったが、同時に何処か結芽が倒れたことに喜ぶ自分が居たことに辟易していた。

 

そんなことも遭って、和樹は結芽のことを覚えていた。

 

(だけど………結月学長の恩義を……忘れたクソガキだっ!!)

 

しかし、今の和樹は半ば荒魂と化しており、その襲撃した刀使からも……いや、燕 結芽から自身と同様に荒魂の気配がするということは彼女も半ば荒魂と化していることである。

とすれば、彼女が半ば荒魂と化しているという話しは本当のことなのだろう。そして、今の結芽は結月から教えてもらった天然理心流を捨てて、拳銃を所持しているうえ、人殺しを難なく行う非道さも兼ね備えてしまったと……。

だからこそ、和樹は決意する。

 

「………じいさん……俺を……オレをもっと……強くしてくれぇ………!!」

 

結月に結芽が半ば荒魂と化していて、銃を所持し、人殺しも行える非道な子供となってしまったことを悟られる前に、結芽を倒そうとしていた。

だが、今のままなら確実に勝てない。

 

 

――――僕は男だから、異能の力を使え、荒魂という化け物と対等に戦える刀使にはなれない。

 

――――だから僕はどう足掻いても、化け物と対等に戦える刀使には勝てない。それが悲しくて、悔しくて剣術を辞めた。

 

――――だけどこの世の神様は、いや、御刀はあの恩知らずの結芽を選んで、僕を選ばなかった。

 

――――御刀は僕の何が気に食わないのだろう?何でクソガキの結芽を選んだんだろう?

 

――――僕にだけ、最近よく読むようになった異世界転生物のように刀使と同等かそれ以上の能力を特典として少しぐらいプレゼントしてくれたって良いじゃないか。と刀使として活躍する妹を見て、いつも思っていた。いつも心の中で愚痴っていた。

 

――――そうなれば、刀使と同等かそれ以上の力を持てれば、結月学長も僕に振り向いてくれたのに………。

 

 

……そんな思いを抱きながら、和樹はスレイドに頼んで、ノロの量を増やし、自身を更に強化しようとしていた。

恩知らずの"結芽"を殺すために、全ては結月学長の笑顔のために。

 

荒魂の力に呑まれたせいか、それとも元々の人格故か、和樹は結月に対する一方的な思いを抱きながら、自身の身体の強化のために体内にあるノロの量を更に増やすことを決意する。しかし、その決定の代償かノロの毒性によって和樹は気を失いそうになるほどの激痛に耐えなければならなかった。

和樹が嘆き苦しむ様をスレイドは嬉しそうに、それとは対照的に遠くから見ているソフィアは結月はこの光景を見てどう思うであろうかと思いながら、嗤いながら見ていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の結芽は――――。

 

「うおぉーーーーん!!また負けたーーーー!!」

 

優の中に居て、タギツヒメに剣術を教えていた。

理由は、

 

『あんにゃろっ!!あのペチャパイ女!!あんなことしやがって!!』

『……どったのー、ヒメ?』

 

またなんか騒いでるなと思いながら、結芽はタギツヒメに話しかけていた。

 

『なあなあなあなあ、聞いてくれるか?つばくろー?』

『……ハイハイ、聞いてあげるから。』

 

何時の間にか"つばくろー"という渾名を付けられていたことに何とも言えない気持ちに結芽はなるが、まあ良いかという気持ちにもなった。

……そして、今までそんなふうに言われたことがなかったのだから、むず痒い気持ちにもなっていた。

 

『剣術教えてくれ!あの大和平野に勝ちたいのじゃ!!』

『………へえ。』

 

そのタギツヒメの言葉に結芽は少し顔を綻ばせる。しかし、

 

『あのペタリヒメ、優に……優にキスしよったんやぞっ!!少しばかり剣術使えるからって調子乗りおって!!我の方が剣術の才能とかあとは、む……胸とかすごいんだぞ。』

『ああ、うんそういうことね。(……露骨にトーンダウンしてる。)』

 

とりあえず、そのペチャパイ女だとか、大和平野だとか、ペタリヒメだとか言っている処から、恐らく優はその胸囲が豊かでない者に接吻でもされ、それを知ったタギツヒメが荒れているというところだろう。そして、その胸囲が豊かでない者は剣術が得意であり、その者よりも剣術が上手になって見返したいとかそんなところであろうか。

 

『た"の"む"ぅ"っ!!』

『…………。』

 

燕 結芽は刀使である。そして、目の前に居るのは紛れもなく今まで討伐してきた荒魂でもあり、二十年前に大災厄を引き起こした大荒魂の一部である。

だが、どう考えても20年近くも生きている訳であるから、間違いなく自分よりも年上であろうタギツヒメのこの必死さと刀使が荒魂に剣術を教えるという事態に何とも言えない気分となるが、久しぶりに剣術をやれるのは楽しいことでもあるだろうと思って天然理心流を教えようとした。

 

『おぉーーーー、上達早いじゃん。』

『フフン、我は頭が良いからな。直ぐにつばくろーに追い付いてやるわ!!』

本当(マジ)?なら、一回試合しよーよ。』

『良いぞ、良いぞ。』

 

しかし、タギツヒメは少しばかり上達したことで得意げに話してしまい、それが切欠となって調子に乗ったタギツヒメは結芽と試合をすることになってしまう。

 

「うおぉーーーーん!!また負けたーーーー!!」

「…………。」

 

だが、結果はタギツヒメの惨敗。

それで、タギツヒメは自信を失ったのか隅でいじけていた。それを見かねた結芽はタギツヒメを励ますために元気付けるために、声援を送っていた。

 

「いや、でもさヒメ。最初は誰も上手にできないよ?」

「…………。」

 

だが、結芽は諦めずにタギツヒメを何とか励まそうとしていた。結芽のことを見知っている者達からすれば、珍しいと思うであろう。だが、結芽がそうする理由があった。

……もう剣を振るうことは叶わないかもしれない。なら、自身が磨き上げた天然理心流を誰かが受け継いでくれるのは、そんなに悪いことではないと感じたからである。

 

「それに、私が教えるのが下手だったから、上手く行かなかったのかも、ゴメンねヒメちゃん?」

「いや、そんなことはないぞ!見ておれ、教えてもらった以上は先生であるつばくろーに恥はかけさせるワケにはいかんからな。」

 

それに、今のタギツヒメは動機が少し褒められたものではないが、真剣に学ぼうとする意欲は感じられたので、悪い気はしなかった。

 

こんな自分を誰かが必要としてくれていて、こんなふうに期待されたことは同年代の子からされたことはなかった……。

剣術を真剣に取り組んでいる者が居なくなるのは、悲しいことであることだと思わされたのは初めてであるから……。

 

だから、結芽はタギツヒメを励ましていた。

 

「おーっ、何やってんだ?」

「結芽おねーちゃん何してんの?」

 

そして、ニキータやジョニー等が寄って来て、話しを聞いたジョニーが「オレもやる!」と言って天然理心流をタギツヒメと共に一緒に学んでいた。そうすると、優やミカも何事かと思い、集まって来ていた。すると、段々とこの二人もタギツヒメ達と一緒にやることとなっていくようになり、何時しか皆で結芽の剣術を学ぶことになってしまっていた。

 

「………。」

 

その光景を見た結芽は、嘗て剣術に励んでいた頃の自分を思い出し、懐かしんでいた。……きっと、結月学長もこんな気持ちで剣術を教えてくれたのだろう。

そして、皆が皆、自分の剣術に、結月学長が教えてくれた剣術に興味を持ってくれて、真剣に学んでいこうとする姿に感動を覚えていた。

 

(………ああ、そっか。)

 

今まで結芽が一つも見ておらず、一つも気付けなかったこと、

 

『選ぶがいい。このまま朽ち果て誰の記憶からも消え失せるか、刹那でも光輝きその煌きをお前を見捨てた者達に焼き付けるか。』

 

ただ、最初は"すごい私をみんなの記憶に焼き付けたい"と思って親衛隊入りした。それだけだった。

そうして、強くなって、誰よりも強くなれば皆が私を認めてくれると思っていた。……けど、どこかでそんなことをしたところで何も達成できないと、何も成し得る物が無いと思う自分が居たことも事実だった。

 

「よ~し、次は我が勝つぞ、つばくろー先生!!」

 

だが、真剣に取り組んでくれたタギツヒメがそれを教えてくれたから、自分を見つめ直すことができた。

 

「おー、ボコボコにやられるの見とくはナイペッタンヒメ。」

「誰がナイペッタンヒメじゃ!クソガキジョニー!!次お前を叩いてやるからなっ!!」

「ていうか、ジョニーは結芽おねーちゃんのこと好きだもんね?」

「てっ、ちげーし!そんなことはまだねぇから!!そこは間違えるなよニキータ?」

「………好きなら好きって早く言わないと誰かに取られちゃうわよ?何か気になってる子がいるとか言っていたし。」

「えっ?ウソだろ?それはウソだよなミカ?」

「いや、それはウソに決まってるでしょ?」

「やっぱりかーーー!!お前、しょうもねえ嘘吐くんじゃねえよ!!あ、アドバイスありがとな優。」

 

そして、何かと騒がしいが、一緒に居て飽きない人達。その人達を見た結芽は、親衛隊の日々を思い出してしまっていた。

 

(……そうだった。私が。本当に欲しかったのは……。)

 

だからこそ、自分が本当に欲しかったのはこういう光景で、こういう場所だったんだと認識していた。

自分よりも弱い奴を倒して、粋がることじゃない。そう思うだけで、目の前がぼやけ、胸が苦しくなっていた。

 

「アレ?結芽おねーちゃん泣いているの?」

 

そうして、結芽の変化に気付いたニキータが何故、涙を流しているのかと聞いていた。

 

「……ちが、違う。………違うのぉ……私、……わたしがのぞんてたのは………」

 

涙を流しながら、結芽は慟哭する。

 

「……みんなに会えて、………ほんとうに、ほんどうによがった……。」

 

嗚咽混じりに、此処に居るタギツヒメ達に会えて本当に良かったと述べていた。

 

「………けど、……あたし、あたしは……しんえいたいさいきょう、……なのに、何にもやくに立てなくて………。」

 

そして、自分の力が及ばないせいで、今の現状がちっとも良くなっていないことを謝罪していた。

親衛隊最強という物を自負して、優にその力を授けたが、結果はさっきの様に荒魂と化した人間を殺したりする手伝いをさせられたりしただけであった。

 

結芽は、自分は強いと思っていた。けど、

 

「……そんなごど………ながっだっ!!」

 

そんなことはなかったと嗚咽混じりに結芽は答えていた。

何も変えることができない。何も助けることができない。それがもどかしくなって、そして無力感へと変わっていき、最終的には自分を卑下し始めるのであった。

 

「……えっ?だとしたら、我って迷惑な奴じゃった?」

 

タギツヒメも結芽の話しを聞き、その話しの通りであれば、自分はただの傍迷惑な奴なのか?と結芽に尋ねていた。

 

「……えっ、あう。………ぞ、ぞういうことじゃ………。」

 

結芽は反論する。

 

「………わだし……かんしゃじでる……だって、だっで……みんなに会えたから………いっぱい、いっばいがんじゃしでる!」

 

そういうつもりで言った訳ではないと、皆に会えたことにとても感謝していると答えていた。

 

「だげど、………わだしが、……もうすこし………もっどづよがっだなら、みんなに……みんなにめいわくかげながっだ!」

 

そして、急激に溢れ出すように思い出すのは、真希、寿々花、夜見といった親衛隊の面々と結月学長や紫といったお世話になった人達のこと。結月学長に剣術を教えてもらって、親衛隊入りした後はこうやってバカ騒ぎしたりしていたときは、一緒に笑って、一緒にその記憶を残して、一緒に居て寂しさが無くなって行った。

そんな親衛隊という居場所と同じくらい大事な場所となった此処も、自分が辿った末路、燕 結芽と皐月 夜見は"荒魂の力に頼った刀使"と言われ、そのせいで真希達に迷惑を掛けてしまったことと同じく、自分の非力さでこの場所も壊されてしまうのではないのか?と焦燥に駆られたのである。

 

「………大丈夫だよ。」

 

結芽の慟哭に、優は答える。

 

「可奈ねーちゃんがぼくらを助けてくれるって約束したから。」

 

可奈美が約束してくれたから、何も問題ないと結芽に伝えていた。

 

「………そうなんだ。」

 

衛藤 可奈美。

優の姉で、美濃関の刀使。嘗て、救ってみせるという"約束"をしてくれて、その約束を守るために奮闘していると聞いた。

 

「……もう、私は一人じゃないもんね。」

 

その優の返答を聞いた結芽は、その話しを聞いて安心したかのように振る舞うため、泣くのを止め、握り拳をぐっと握りながら、涙をぐっと堪えていた。

何故なら、可奈美と同じく刀使である結芽は気付いたからである。優の言う救う方法など、有りはしないことであると。ただ単なる姉が弟に気を使った言葉であると。……だからこそ、結芽は自分の考えていることを誰かが気付くことがないよう、優の言っていることが真実であるかのように振る舞うため、優の話しを聞いて安心して泣き止んだかのような演技をして、涙をぐっと堪えていた。

 

………もう、涙を流さないために拳をぐっと強く握り締めながら。

 

「それに、ヒメちゃんは僕にとってはティンカーベルだし、此処はネバーランドみたいだから気にしなくていいよ。」

 

そして、優はタギツヒメに自分の素直な気持ちを伝えていた。

 

「……おっ、おお。………なあなあなあ、つばくろーつばくろー?ティンカーベルとネバーランドって何じゃ何じゃ?

 

優の言葉に感動したかのように見えたタギツヒメであったが、ティンカーベルやネバーランドのことを知らないので、結芽にどういう意味なのか尋ねていた。

 

ネバーランドっていうのは、子供が子供のままで居られる理想郷のことだよ。……あと、ティンカーベルはそんな場所に連れて行ってくれる素敵な妖精のことだよ。

なら、我のこと好意的に見ているということで間違いないな?

「……間違っていないと思うよ。

「……そうか!つばくろーありがとう!

 

結芽は、タギツヒメのことを考え、優に聞こえることがないように、小声で結芽なりの解釈でティンカーベルとネバーランドのことを教えていた。

………だが、ネバーランドには『永遠の子供』や『不老不死』、あるいは『現実逃避』といったイメージが含まれていることに気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺れるヘリの中で、休んでいた優はトーマスに揺らされて起こされていた。

 

「……起きろ、もうそろそろだ。」

「……今、何処?」

 

もう少しタギツヒメ達と話したかった優は、不機嫌そうにトーマスに今居る場所を尋ねていた。

 

「もうすぐで市ヶ谷だ。」

「何でそこに行かなきゃなんないの?アイツ追っかけた方が良いじゃん。」

「……お前と話したい奴が居るんだとよ。」

 

優とトーマスは、和樹を捕らえるために追跡し、捕らえようとしていたが逃げられてしまい、その追跡の途上で急に市ヶ谷に向かうよう言われたため、和樹の追跡を辞めて市ヶ谷へと向かっていた。

 

「もう少しだったのに。」

「逃げられたんじゃ仕方ねぇさ。」

「……やっぱり、生かして捕まえなきゃいけないの?殺さないようにするの難しいんだけど。」

 

優は和樹が下水道の川の流れを利用して、逃げるとは思わなかったので、和樹を捕らえることができなかったことを悔やんでいた。そのため、優はトーマスに和樹を捕らえるのではなく、始末することを提案していた。

 

「だから言っているだろう。殺しちまえば、喋らなくなるし、こいつの黒幕が暴けなくなる。」

 

トーマスは優に和樹を捕らえる理由、上の命令で和樹を半ば荒魂化させた張本人を調べるために捕らようとしていることを話していた。

 

「めんどくさいなぁ……。そっちの方が楽なのに。」

 

タギツヒメ達と長く遊びたいため、和樹を殺して早く片付けることを提案する優。

 

「確かに面倒で、暴れる可能性を考慮すれば、奴を早めに消しておいた方が被害は少ないだろうが、こいつの背後関係は洗っておいた方が良い。」

「そんなものかなぁ……。」

「そんなもんだ。」

 

優は納得できるようなできないような気持ちでいた。

 

だが、優の知らないことであるが、今まで市ヶ谷に向かえなかった理由。それは、タキリヒメの安全を優先したタキリヒメ派の政治家連中がタキリヒメと接触させないようにしていたからであるが、朱音等がタキリヒメの居る区画に入らないことを条件に説得したことによって、どうにか市ヶ谷へ向かえたのである。

こうして、ようやく許可が下りた優も市ヶ谷へ向かうこととなった。

 

理由は、ある人物との接触であるが……。

   

   




  
  
ストーカー気質でキメェとか思われているかもしれませんが、和樹は本作の中では一番お気に入りのオリキャラです。
可奈美のお兄さんにして、オリ主にすべきかどうか悩んだくらいですね。

でもそれやると、少女に暴力振るうイキった奴になっちゃううえ、ただただ陰鬱な展開しかなく、バッドエンドしか思いつかなかったので、結局は没にしました。

次回、“家族の絆”がテーマ。
   
   

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