82話を投稿させて頂きます。
オリキャラの静さんを書いているとき、そういえば刀使ノ巫女って家族との"絆"を描いた作品であったことを思い出せるんですよね。
今回も9000文字以上書いてしまったので、ゆっくり読んでください。
――――あるところに由緒正しい家系を持つ家から生まれた少女が居ました。
とはいえ、ごくごくありふれた一般家庭と大差の無い家庭に見えましたが、何処か複雑な家庭でした。
何処が複雑かと言えば、少女を完璧に“教育”し、仕上げるために少女の両親は“躾”と称して、タバコを肌に押し付けたり、壁に何度も突き飛ばしたり、腹や顔を何度も殴る蹴るをし、気絶した後に暗くて狭い部屋に押し込めたりしていました。
心も身体も悲痛に感じるほどの拷問をこの少女は何度も、いや何日も受け続けるという日々を過ごしていました。
そんな日々を過ごしていた少女はシンデレラという絵本の主人公を自身に重ねて過ごしていました。
「わたしにもきっと、はくばのおうじさまとであって、すてきなこいにおちて、ここからすくってくれる。」
少女はそれを夢見るだけで、少女の両親が行う“躾”と称する暴力の数々に怯えることなく、笑いながら耐えることができました。
しかし、少女の両親は暴力を受けても少女が笑っていることでまだ耐えられると思ったのでしょう。そのためなのか、少女の両親が行っていた"躾"は更に過激になりました。
ウォーターボーディングといった水責め。
充分な食事を与えないことによる、同年代の子達よりも低い身長。
そうして、過激になった"罰"に少女の
そんな中、その少女のことを不憫に思ったのかは分かりませんが御刀がその少女を選んだことで、刀使になれました。
しかし、ある事件が起こりました。それは、飼い猫に腕を引っ掻かれたのです。
……そのため、少女はその飼い猫を悪い子だと思い、両親と同じ“躾”を行いました。
不幸なことに、外の世界と他の家庭を知らない少女は、過ちを犯した飼い猫に“躾”をするのが当然だと思っていたのです。
しかし、暴力の加減を知らない年齢の少女が行ったため、その飼い猫は二度と動くことはなかったのです。
少女はその事にとてつもない罪悪感を感じますが、少女が認めた御刀はその罪科を知ってか知らずか、尚もこの少女を認め、迅移や写シといった術を使えるようにしてくれました。その事実に少女は、飼い猫を殺してしまったことは罪ではないと霊験あらたかなる神剣と言われる御刀が言っている様な気がしたため、少女はあの飼い猫を殺した事は罪ではないと解釈しました。
そして、両親が行っていたことは全て正しいことであったと理解してしまいました。
「おかあさんやおとうさんがくれたものは、すべてただしいことだったんだ。」
そのとき、少女は初めて両親から“愛情”を貰って育ててくれたのだと思いました。そうすることで、少女は心に在った殺意といった悪感情は取り除かれ、初めて幸福という物を知ることができたのです。
そうして、少女は両親から離れて伍箇伝の学校に通い、寮生活を送っていましたが、少女の両親が道に背いた行為をしているところを見てしまったので、少女は両親を立派に“更生”するべく、行動するのでした。
……御刀を握り締めながら、両親がまともになることを夢見て。
静の実家にある地下室にて、イチキシマヒメは静の手伝いをしていた。
とは言っても、手伝いというのは静が何処からか拉致した外国人らしきホームレスの男性が檻の中に入れられていて、その檻の中の秩序の維持と矯正予定のホームレスの人間の世話だったのだが、その世話というのが面倒なことばかりであった。
例えば、彼の食事を作ったり、ホームレスの人間が檻の中の清掃をこなしているかどうかといった各種の点検であった。
そして、その檻の中に入れられているホームレスは人名ではなく、管理番号で呼ぶようにすることを静との間で取り決められていたため、イチキシマヒメもこのホームレスを人の名前ではなく、管理番号で呼んでいた。
そうして、イチキシマヒメは下手なりに食事を作って差し出したり、檻の中の清掃をホームレスに命じていた。
……だが、不味い食事と、厳しい生活習慣を強いられていたこと、そして何よりも管理番号で呼ばれたことが原因で次第にホームレスはイチキシマヒメに対して反抗的になっていった。
「〈こんなところに連れ込ませて、マズイ飯しか食わせないってどういうこった!!?〉」
ホームレスに外国語で怒声を浴びせられると同時に、イチキシマヒメが一生懸命作ったご飯をゴミのように投げ捨てていた。その行為を最初の内は相手にするのも面倒だと思い、それも言葉が通じない外国人であるため、見逃していたが、やがて何度もやられているとこのホームレスに怒りを感じると共にイチキシマヒメはある事を一つ思い出していた。
それは静がイチキシマヒメにこの手伝いをさせる前に伝えていたこと、その内容は相手が反抗的になった場合は矯正させるために体罰を含めた罰を許可されていたことである。
そのため、イチキシマヒメは早速このホームレスを大人しくさせるために罰を与えた。しかし、流石のイチキシマヒメも過度な罰を与えるのは良くないだろうと思い、このホームレスの言葉が分かる静から腕立て伏せを数回させる程度の内容の言葉を教えてもらい、それをイチキシマヒメはホームレスに強制的に行わせていた。
それで、このホームレスも少しは大人しくなるだろうと思っていた。
「〈ふざけんなっ!!〉」
しかし、そのイチキシマヒメの思惑は外れ、ホームレスは更に反抗的になっていった。
それを見たイチキシマヒメは更なる過激な制裁が必要であると判断し、静に過激な罰を与える命令の言葉を教えてもらうと、早速それをホームレスに命令するも、その命令を聞かなかったため、イチキシマヒメはホームレスの自尊心を折り、命令を聞かせる目的で力技で服従させると、ホームレスの服を脱がして奪い、女物の服を着るように命じていた。そして、ホームレスが使うベッドも押収し、手足が伸ばせないほど狭く真っ暗なロッカーの中という別の場所へと監禁し、ホームレスが騒いでいるのも無視して放置していた。
そうして、一日が過ぎ、ホームレスが騒がなくなったので、ロッカーの外へ出すことにした。すると、そのホームレスは一目で分かるほど従順になり、過激な罰と管理番号で呼ばれた影響なのか本物の囚人であるかのように思い始め、また女物の服を着ていた影響のせいか、所々の所作が女性らしくなっていた。しかし、罰を与えたら、このホームレスは檻の中の清掃を励むようになったので、運の悪いことに静の言うやり方が正しかったとイチキシマヒメは認識してしまう。
この事がきっかけで、イチキシマヒメは人間を"力"で言う事を聞かせ、人として矯正させる方法を覚えたと思ってしまった。
そんなことがあって、イチキシマヒメは段々とこのホームレスの"看守"として振る舞うようになっていき、少しでも清掃が行き届いていなかったら、更なる制裁を加えて行った。
深夜に無理矢理起こして、足踏みさせる。
食事の回数を三回から一回に減らす。
素手で檻の中にあるトイレの掃除をさせる。
このホームレスの罪状記録(静が作った贋作で本当は無実。)を読み上げ、罵倒し、腕立てをさせる。
なお、イチキシマヒメは気付いていないが、この行為を強要させる事によってホームレスの人格性と自尊心を徹底的に傷付けることができたことにより、無抵抗でイチキシマヒメの命令に従うようになる。すると、これに味を占めたイチキシマヒメは更に罰の内容を過激にする。しかし、遂にそのホームレスの体力が限界を迎え、段々とイチキシマヒメの命令通りに動けなくなった。
理由は、食事の回数を三回から一回にしたうえ、深夜に無理矢理起こして足踏みと腕立てを長時間させたりしたことで、疲労が蓄積し、体力を失ったことが原因で命令通りに動けなくなったからである。
だが、ホームレスと言葉で通じ合えないうえ、疲れといったことが理解できないイチキシマヒメはもう少し過激な罰を与えて、指示通りにこのホームレスを動かそうと思い、静に相談していた。
「それなら任せてよ、イチ子ちゃん!!」
すると、イチキシマヒメのことをイチ子ちゃんと呼ぶ静は笑顔で即答し、ホームレスを椅子に縛り上げると同時に身体にクリップを付けていくと、ある物をイチキシマヒメに渡していた。
それは何かのスイッチであった。
「……これは?」
「押してみたら分かるよ。」
静にそう言われたイチキシマヒメは、スイッチを押すのであった。
……すると、椅子に縛り上げられていたホームレスは激痛を訴え、拘束を解いて欲しいと叫んでいるように見えた。恐らく、電気ショックであろう。
「……何の意味があるのだ?」
「まあまあ、右のダイヤルを回せば電圧を強くできるよ?それに、"電圧"は100ボルトまで上げても死なないから軽い気持ちでやってごらん。これで、質問をして従順かどうかチェックして、従順なら解放するの。そうすれば、イチキシマヒメの悩みはスルッと解決っていうのが狙いなの。」
「………しかし、良いのか?」
「大丈夫。私を信じて。」
イチキシマヒメは静に促されるまま、従順かどうかの質問をし、従順ではないと判断したら電圧を上げていった。しかし、ホームレスが助けてくれと叫んでいるように見えたため、イチキシマヒメは静に中止するべきではないかと問う。
「………大丈夫なのか?」
「大丈夫。イチ子ちゃんに責任は負わせないから。」
そうして、電圧を上げていくイチキシマヒメ。しかし、それと同時に電流も上がり感電死する恐れがある仕様になっていることにイチキシマヒメは気付いていなかった。
そのため、ホームレスは苦痛を訴える。
「………静?」
「いけるいける。人間、そんな弱くないから、まだまだ耐えられるよ。」
電流を流され続けていたホームレスは遂に意識を失ってしまい、その姿を見たイチキシマヒメは辞めるべきではないかと静に尋ねるが、静に続行するべきだと強く言われたため、イチキシマヒメは続行してしまう。
「………なあ、死んでしまうのではないか?」
イチキシマヒメの懸念通り、既に感電死する程の電流がホームレスに流れ、そのホームレスは息絶えていた。
「……静よ。これに何の意味があるのだ?」
イチキシマヒメが静の手伝いをしたのは、自身の目的を見失い、何か見つけれるかも知れないという提案に乗って手伝っていたのだが、これではただ単に人間をいたぶっただけでしかなく、何も見つけることができないと言って落胆していた。
「うーん、分かんない?じゃあ、イチ子ちゃんは何で途中で止めなかったの?」
「……それは、お前が命じたからであろう?」
「それ、違うよね?いつものイチ子ちゃんだったらスイッチ押す前に『無意味なことだ。』とか言って辞めちゃうよね?私に命じられたぐらいでやらないのが普通だよね?だけど、イチ子ちゃんは無意味なことだと気付かないままスイッチを押した。……どういう事か分かる?」
「…………。」
静にスイッチを押すことを途中で止めなかったことを指摘されたイチキシマヒメは、怪訝な表情で静を見ていた。
「ああ、一つ言っておくけど、それが異常なことだって指摘したい訳じゃないよ?それは普通の行動。変哲の無い一般的な行動なんだよ?」
しかし、静はそのイチキシマヒメの視線に動じることなく、いつもの朗らかな笑顔と共に返答していた。
「……どういう意味だ?」
「それはね、さっきイチ子ちゃんがやったスイッチを押す行動はね、ミルグラムの実験とかアイヒマンテストとか言われている社会心理学実験を元にしているの。その実験でイチ子ちゃんと同じ行動を取った人は40人中26人、つまり65%ほどの人が居るの。つまり、イチ子ちゃんみたいな人はこの地球上に半分以上居るってことじゃない?」
「……何が言いたい?」
「つまり、イチ子ちゃんはこの世界にとって何の変哲もない65%の人間と変わらないってことになるよね?もし、イチ子ちゃんが言うようにイチ子ちゃん自身が不要な存在だというのが事実なら、イチ子ちゃんと同じ行動をした65%もの人間が不要な生き物ということになるから、イチ子ちゃんが不要な存在なのは可笑しな話しだよね?」
詭弁だ。とイチキシマヒメは思うものの、反論できなかった。
自身の存在を肯定的に捉えてくる静に対して好意を抱き始めているからなのかは不明であるが、イチキシマヒメはただ黙って静かに聞いていた。
「しかし、周りが我を許さぬのだ。」
「それ、誰が言っているの?よく知らない人達のことを不要か必要であるかイチ子ちゃんは分かるの?」
「……わからない。お前は何故、我のことを畏れぬのだ?一体何を考えておる?我は荒魂なのだぞ?」
そして、イチキシマヒメは不思議であった。荒魂である自分に畏れることもなく、存在を肯定してくれる静が何を考えているのか分からなかったのだ。
「……私もね、最初の頃はお父さんとお母さんに愛されていたけど、その期待に応えることができなかったからタバコを身体に押し付けられたり、壁に何度も突き飛ばされたりしたの。ホント、親不孝者だよね?」
「…………。」
イチキシマヒメに尋ねられた静は、何故イチキシマヒメを畏れずに接するのか答え始めていた。
静も最初の頃は、両親から受けた期待に応えることができない不出来な子供であったとイチキシマヒメに述べていた。
「そんな愚図な子供だから、いつもお母さんとお父さんに怒られてた。……それで、私はもう限界だと、不出来な子供だと思っていた。そんなとき、お母さんとお父さんが私を殴ったり蹴ったりするのは、私を愛しているからって、厳しく躾てくれてるんだって思ったら、痛みを感じなくなったの。不思議だよね。」
静は、いつも実の両親から虐待を受けていて、その虐待も"躾"であって"暴力"ではないと言い聞かされていたこともあり、外の世界を知らない静はそれが常識であると疑わずに信じてしまったのである。
だが、信じているとは言っても、それだけで耐えられるものではなかった。だからこそ、静は両親から与えられる"虐待"は"愛情"であり、愛されていると思い込むことによって、自身の心を無意識的に守っていた。
「そうして耐え続けていたら、この御刀が私を認めてくれたの。そのとき、お母さんとお父さんは私が刀使になれたことに喜んでくれた。『流石、私達の娘。』『私達の教育の賜物ね。』と言って私を祝福してくれたの。」
静は痛みに耐えて耐え続けてきたからこそ、刀使になれたと語っていた。
「……でもね。そんなときに飼い猫に腕を引っ搔かれたの、だから悪い子には"躾"が必要だと思ったから、お母さんとお父さんが教えてくれたことを悪い子に教えようとしたの、でも未熟な私は失敗しちゃって悪い子は動かなくなったの。こんな失敗をする私は刀使にふさわしくないんだろうなって思ったの。……でも、私が持っている御刀はそんな私を刀使として認めてくれた。なら、これは罪ではないって、ようやく理解したの。」
そうして、刀使になった静は飼い猫に引っ搔かれたことで、飼い猫のことを悪い子と認識し、人を引っ搔くことが無い良い猫にするために両親が教えてくれた"躾"という名の虐待を飼い猫に行ったのである。……その結果、その飼い猫は息絶えてしまい、静は更生に失敗したと、無意味に生命を奪ってしまったと悔やんでいた。
しかし、飼い猫を殺したという赦されざる罪を犯したにも関わらず、御刀が今も自分を刀使として認めてくれたことは、静にとってみればそれは罪ではないということに他ならなかった。
「だから、お母さんとお父さんが私にしてくれたことは正しいことだったんだって、何一つ間違ったことは言っていないって理解できたの!!」
だから、両親がしてくれた“虐待”は“躾”であり、一点の曇りもない正しいことであると熱を込めて話す静。
「……ならば、我もそれをしろと言うのか?お前は。」
静の話しを聞いたイチキシマヒメはその考えに同意しろということなのかと圧をかけながら尋ねていた。
「え?違うよ。イチ子ちゃんにとって、この世は切り捨てられて頼る処が無い現世にただ生きるだけの辛い世界だと思っているけど、私みたいな愚図な子でも辛いことに耐えて行って、探して探しまくったら、こんなに美しいと思えることを知れる世界なんだって気付くようになると思うよ?荒魂と人を融合させるなんてこと誰も思いつかないと思うよ?」
しかし、イチキシマヒメの圧にかけられているにも関わらず、静は冷静に受け答えていた。
イチキシマヒメ自体が考えて、その行動に移したことが尊いことであると。
「……だが、だが、我の高すぎる理想は誰も欲さぬ。」
「間違っていると思うなら変えれば良いだけじゃない?未熟な私だって、失敗ばかりしていたけど、今じゃそう思うだけで気持ちが晴れやかになったよ?」
「……周りが我を許さぬ。」
「どういった理由で?そこがよく分かんないんだよねぇ~。」
「お前は、荒魂討伐を使命とする刀使であろうが?何故それが分からんのだ?我は穢れた荒魂なのだぞ?」
だが、イチキシマヒメは静が理解できなかった。
何故、この者は刀使なのに不要な我に話しかけるのか?
何故、この者は刀使なのに不要な我を気に掛けるのか?
不思議でならなかった。だから、イチキシマヒメは静に尋ねる。どんな意図が有るのかと?
「だって、イチ子ちゃん……。」
静はそう言うと、おもむろに服の袖を捲り上げていた。
服の袖を捲り上げた静の腕は、イチキシマヒメでも身の毛がよだつ程の痣と傷だらけでとても見れるような肌ではなかった。その肌に、静は躊躇うこともなく自信の御刀で腕を斬る自傷行為を行っていた。
その傷だらけの肌に新たな傷が付けられ、血を流している事にイチキシマヒメは驚いてしまい、静を制止していた。
「なっ、何をしている!?」
「何って、御刀は人を斬ることができるんだよ?だけどみんな、みぃーんな、御刀は荒魂を斬って祓う物であると言ってるの。それってさ、可笑しくない?御刀が荒魂を斬って祓う物であるなら、私の腕が斬れることなんて無い筈だよね?悪い子になったお母さんとお父さんが斬れて動かなくなることも可笑しい筈なんだよ。」
慌てるイチキシマヒメとは対照的に静は、冷静に自分の持論を展開していた。
御刀が荒魂を斬って祓う神聖な代物であるなら、人間である自分の腕が斬れる筈がないと。二人とも不貞行為を働いたとはいえ、人間であるお父さんとお母さんを神聖な御刀で斬れて、そのまま死に至らしめる筈がないと。
「だからずっと、ずぅーっと不思議だったよ。何で御刀は荒魂と同様に人を斬れるんだろうって、何でそのことについてみんな気にしないんだろうって、ずぅーっと不思議だったの。……でも、こう思ったの、人も荒魂もそんなに変わらないんじゃないかって、そう思うようになったの。だって、荒魂化した人間が居るってことは人と荒魂が一つになれるんだよ?同じ者同士じゃなければ、一つになれないよね。その証拠に違う動物同士は遺伝子とかの理由でつがいになれないし、一つになれないでしょう?」
「…………。」
静の荒魂も人間も似たような物であるという持論に、イチキシマヒメはただ黙って聞いていた。
「それに……。」
更に静は物言わぬ死体になったホームレスの腹を御刀で掻っ捌き、腸の中を開いて"中身"を出したのである。
「!」
静のその躊躇いの無い行動にイチキシマヒメは動揺し、唖然とする他なかった。
「お母さんとお父さんがこんなふうになったとき、身体の中を調べてみたら、こんなに穢れた物が溢れていた。だから、荒魂が"穢れている"って言うなら、人間も中はこんなふうに糞袋が付いているから"穢れている"よね?だとしたら荒魂と人間の違いって何だと思う?」
そして静は、死体となったホームレスの腸の中を引きずり出して、イチキシマヒメに尋ねていた。
荒魂の特徴が"穢れ"ているなら、人間もまた腹の中には"穢れ"が詰まっているのだから、どう違うのかと?
「だからさ、イチ子ちゃんが穢れた荒魂だっていう理由だけで不要になるなら、地球上に何十億も居る人間が不要な存在だっていう可笑しな論調になるよね?イチ子ちゃんが不要だという事にはならないよね?何よりも、イチ子ちゃんが理論を完成させた物がイチ子ちゃんを必要だって証明しているんだから。人間の様な考え方と行動をするイチ子ちゃんが不要だということにはならないよ。」
「静……。」
静の持論を聞いていたイチキシマヒメは、静の言っている通りに、この世界は自分が不要な存在ではないと言っているような気がし、自分の描いた理論は間違いではなかったと言っているように思えて仕方なかった。
それは、自身の存在意義を求めていたイチキシマヒメにとっては静が存在意義をもたらしてくれた様な気がしたのだ。
「………そうか、物事は一つだけでなく、違う角度から見るだけでこんなにも違うものなのか。心服したぞ静。」
そのため、自分の存在が不要な者ではないと証明したかったイチキシマヒメは、静が自分の存在が不要ではないと証明してくれたことに深く感謝し、お前ではなく下の名前で呼んでいた。
「しかし、その論理では我を含め、全人類が不要な存在であると思わぬのか?」
しかし、イチキシマヒメは静に感謝はすれど、新たに疑問に思った事を尋ねてしまう。
静の荒魂も人間も何も違わないという持論が正解だとすれば、世の中全ての人間と荒魂は不要な存在ではないのかと。
「それも考えたことがあるんだけど、なら何故この世に人間も荒魂も斬れる御刀が存在することを許したんだろう、何故この世は人間同士でも荒魂同士でも争い合えるんだろう、御刀の力を人間も荒魂も使えるようにしたんだろうって考えたの。そしたら、この世を創った神様は生き物が手に取り合って仲良しになるのも好きだけど、それと同じくらいに生き物同士が争い合って、血と汗を流してそれがドロドロに混ざり合う光景も大好きなんだよ。その証拠に、北欧神話やサタンの話しでは天国でも神様同士でも戦争をしている。だから、神様は愛も友情も讃歌も同じように、戦争も悲鳴も血飛沫も大好きなの。だから、神様は自分の好きな物を他の人に知ってもらいたいから、人間と荒魂を創ったの。だから本当はこの世に不要なものなんて一つも無いんだよ!」
だが、静は神という存在が荒魂が他の荒魂を吸収したり、人間も荒魂も斬れる御刀と人間が殺せる兵器の存在を許したのは、皆が手を取り合って築く平和な世界と同じくらい、人間と荒魂の双方と同族同士が斬り合って、血を流し、屍を重ねることによって成り立つ世界をも見るのが好きだから、それを彩るために人間も荒魂も必要なのだという持論を展開し、イチキシマヒメに答えていた。
静がそう考えられたのは親の"暴力"を"愛情の一種"であると思い込んだことにより、この思考へと至ったからである。
「……成程、静にとっては愛情も暴力も全て等しいものであると定義するのか。ならば、不要な物など存在しないだろうな。」
「うん、そうだよ。だから、探そうよ。この神様の愛に満ちた世界で私と一緒に。」
そして、静は人間の
………こんなに矛盾だらけの世界で、誰もが皆狂っている世界。異常な人間だらけなのに、誰も気にしないし、荒魂だけは怪物扱いし、静は無神経な人間の暴力を受け続ける。なら、自分がやるべきことは、と思いつつ自分の新しい目標を見つけるイチキシマヒメ。
「……分かった。静、一緒に探そう。」
「良いの?イチ子ちゃん?」
「構わぬ。静の言う愛の世界の方が見たい。」
この不憫な静に、生きる目標を提示してくれた静に幸福を与えるべく、静に協力することを誓うイチキシマヒメ。
そして、死んでしまったホームレスは地下室の壁の中に埋められてしまう。……静の両親が骨となって眠っている場所へ。
こうして、イチキシマヒメさんは特定の女の子の笑顔を守るために戦うのでした。
自身を傷付ける行為って、"誰かに苦しみを理解してほしい"ていう理由以外にも"自分が許せない"とか"思考がクリアになって辛いことから抜け出せる"からといった理由もあるって聞いたことがあるんですけど。
……理解できます?
あと、神様はこういった理由で刀使や荒魂を創ったんですよね?