【完結】刀使ノ巫女+α   作:tatararako

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92話を投稿させて頂きます。

もうしばらくはこういった暗い雰囲気の話しが続きます。
   
  


この小説はうら若き公務員たちの提供でお送りいたします。 2

   

   

――――LCRという小型のリボルバー銃が、いつも使っている御刀小烏丸よりも重く感じ、手を震わせながらも、銃口を妙齢の女性の方に向け、覚悟を決めて、目を瞑ると引き金を引いていた。

 

「……?」

 

しかし、姫和は引き金を引いたにも関わらず、弾が一発も出ることがなかったことに驚き、何度も何度も引き金を引くが何も起こらなかった。

 

「………引き金を引いたな。」

 

トーマスは、姫和の行動に賞賛も、慰めることもせず、ただ冷たく突き放すかのように言うだけであった。

 

「……ハハハ……ハハハハハ!!」

 

それを見たイスラム系の男は安堵したのか、狂ったようにどこか力なく笑っていた。

 

「〈安心しろ、銃を取り扱ったことの無い奴に弾が入っている銃を渡すような、間抜けな事はしない。〉」

「〈ああ、そうだよな!!公職の人間は法律を守らなきゃいかないよな!!?〉」

 

トーマスはわざわざアラビア語でそう言って、イスラム系の男を安心させるようなことを言っていた。……対して、イスラム系の男はそれに安堵していたのか煽るようなことを言って、自分を殺させようとしていた。……自分の仲間を、同志を守るため。

そのため、トーマスが腰に手を伸ばしていたことに気付かなかったため、次の展開に姫和とイスラム系の男は追いつくことができなかった。

 

二つの銃声と共に、妙齢の女性が腹部を赤く染め、痛みにもがき、苦しむという状況にイスラム系の男も、姫和も刻が止まったかのように止まっていた。

 

「〈おい、お前っ!!私の妻を殺したら、何も喋らんぞっ!!〉」

 

イスラム系の男は、先程のトーマスの行いを鬼気迫る表情で非難し、自身の妻である妙齢の女性の命を助けるように迫っていた。

 

「〈……オレを甘く見るなよ?今のオレは、公職の人間じゃなく、カンパニーに雇われただけの人間だ。お前が、勝手に、そこをはき違えただけだろうが。〉」

 

しかし、トーマスはそれだけを言うと、ノートパソコン一台を持って来て、イスラム系の男にとある映像を見せていた。

 

「〈それに、この女とガキの代わりは幾らでも居る。〉」

 

その映像は、イスラム系の女性が映っていた。

 

「……それは?」

 

その映像は、何なのかと尋ねる姫和。

 

「……コイツのもう一人の奥さんさ、コイツは真面目なんだか、欲望に正直になのかは知らんが、コーランの教えに忠実に従って奥さんが四人も居るのさ。だから俺達はこういった"尋問"を後3回はできるということだ。だから、この女を生かすも殺すもコイツ次第、ということさ。」

 

姫和の疑問にトーマスは、イスラム系の男がコーランの教えに従い妻を四人も持っていると話し、その四人もイスラム系の男の態度次第では同じようにすると答えていた。

それを聞いた姫和は、大人の男性は一人の女性だけを最後の女性として愛さないのだろうか?と思うのであった。そう思うだけで、優も何時かは自分ではなく、違う女の方へと、齢が近い女性の方へと向かうのではないかと人知れず焦燥感を抱いていた。そして、姫和が会った大人の男性はトーマスの様に自分を否定しかしこない人間とイスラム系の男の様に愛人の様な女性を複数持つ者しかいないと思い込みはじめ、小さい子供は純粋で穢れのない者であると一方的に且つ、そう勝手に決めつけていた。

 

「〈それと、コーランの教えでは妻にした女を平等に愛し、平等に大切にしないとな?どうする?今ならパソコンの画面に映っているお前の嫁さんと身体に穴が開いた嫁さんの二人を助けることができるぞ?〉」

 

トーマスは、コーランを使って、イスラムの世界を信じるイスラム系の男を脅迫していた。

 

「〈おい、頼む。それ以上はやめてくれっ!!傷付いた妻を助けてくれっ!!〉」

「〈アラビア語じゃなく、英語で喋れ。分からん。それと、お前が協力的なら助けてやる。〉」

 

イスラム系の男は、尚も妻の命と家族に害が及ばないように訴えていたが、トーマスはアラビア語では何を言っているのか分からないと言って、英語で喋るようにとすっとぼけ、他の仲間の所在や武器の入手ルートを吐けと脅していた。

 

なお、トーマスが妙齢の女性を撃ったのは、イスラム系の男の精神を激しく揺さぶることによって、妙齢の女性の命をどうにか助けてもらおうという思考の一極化へと誘導させることが主な理由である。そうすることで、イスラム系の男の選択肢を狭ませると同時にトーマスが得たい情報を手に入れようとしていた。

それに、腹を撃たれた妙齢の女性が死んだとしても、脅しのネタがノートパソコンに映るイスラム系の女性に変わるだけだと言われれば、イスラム系の男は黙秘しても、妙齢の女性の出血は止まることはないので事態は悪くなる一方だと強く思わせることができ、イスラム系の男を更に追い詰めることで自白させようとしていた。

 

「〈……本当に、私の妻は。〉」

「〈ああ、助けてやる。但し、一つでも嘘を吐いていたら………。〉」

 

そうして、イスラム系の男はトーマスの脅迫に屈したのか、トーマスの指示通りに英語で話していた。これも、指示通りに動いているかどうかの確認であるのだろう。しかし、トーマスはそれに気にするといったこともなく、イスラム系の男の証言にどれか一つでも嘘が混じっていたら、この幼い少女を処分すると言わんばかりに強く迫っていた。

 

「〈分かってる!!場所は――――。〉」

 

そうして、イスラム系の男は他の仲間の居所を知っていることの全てを喋ってしまう。

その一方で、アラビア語が分からない姫和は別なことを考えていた。

それは、トーマスが言っていた奥さんを複数持つことはイスラム世界において古くから守られているコーランの教え通りに従った結果であると聞いた姫和は、それが間違っているとしたら、古き慣わしに従うことは正しいのか?そうだとしたら、刀使の使命、所謂荒魂討伐といった連綿と受け継いだ物は、親から受け継いだ物は果たして一点の曇りも無いほどに正しいことであるのか?本当に荒魂は斬って祓うのが正しいことなのだろうか?という疑問を抱いてしまうのであった。

 

……その疑問を抱くだけで、姫和は不思議な物だと、ふと思ってしまった。

最初は、母の仇を自身の大義名分として、局長であった紫諸共大荒魂のタギツヒメを討つことを第一に考え、誰も巻き飲むことがないよう唯一気にかけてくれた早苗を冷たくあしらい、一人で、孤独で居た。

そうして、一人で、孤独で居たが、御前試合で可奈美と優に出会い、孤独で居ることができなくなった。孤独だったことを忘れることができた。

そんな中で、姫和は可奈美から、優が荒魂に取り憑かれた、半ば荒魂の様な存在であると言われ、荒魂は討伐するのが当然と言った罪悪感からか、優から目が離せなくなった。

しかし、優に取り憑いている荒魂がタギツヒメであることを知り、お互いに好意を抱いているということに嫉妬する様になった。いや、孤独感を無くしたタギツヒメが羨ましかったことも要因の一つだ。

そして、コーランの教えに書かれている妻を複数持てるという古来からの考えを穢れているとして否定しているにも関わらず、刀使は荒魂を祓い鎮める者であるという古来からの考えを今まで否定しなかった刀使の姫和。その矛盾の辻褄合わせか、それとも優を斬らなくても済む口実かは分からないが、荒魂を斬るのは正しいことなのかという疑問を持ち始める姫和。

 

……こうして考えていると、母の仇であり、刀使でもある自分が荒魂を討つこと、それが唯一の正しいことだと信じて旅に出た復讐鬼が、自分の抱いた決意が揺らぎ始めたために、辻褄合わせの様なことをして、荒魂と一緒にいる子供を助けようとしている矛盾だらけの自分が居ることに奇妙な、そして頑なに信じていた古来からの考えということに対して、複雑な思いを抱き始めたことに、姫和は妙な話しだとつい思ってしまった。

 

「〈お前、この期に及んでまだ嘘を吐く気かっ!?舐めんじゃねえぞっ!!〉」

「〈本当だ!知っているのはこれだけだ!嘘じゃない!!〉」

「〈いいや、お前はまだ嘘を吐いている!正直に話せっ!!話さないなら。〉」

「〈本当だっ!俺が知っているのはそれだけなんだ。だから、だから妻と娘だけは助けてやってくれぇっ!!〉」

 

トーマスの大きな声でハッとなる姫和。イスラム系の男の話を聞き逃してしまった様だ。

そんな中で、トーマスはイスラム系の男が虚偽を話している可能性も考慮して、嘘を話していると一方的に決めつけて、イスラム系の男の娘である幼い少女を使って脅し、真偽を確かめていた。そのため、イスラム系の男は大粒の涙を流し、嗚咽混じりの声を出しながら、トーマスに懇願していた。

そのため、イスラム系の男が必死で涙を流しながら懇願する姿を見たトーマスは、確実な情報であると確信したが、イスラム系の男を操る指導的立場に居る人間や協力関係にある人物と銃器の入手ルートといったトーマス達が欲しかった情報を一つも持ち合わせていなかったことに落胆していた。

 

つまり、この苦労して捕らえたイスラム系の男は重要な情報を何一つ持っておらず、外れであったことになる。

当てになる情報を北京に居る金目当ての売国奴から得たと思ったのにな、と心の中でトーマスは愚痴っていた。

 

「〈なあ、もう全部喋ったろ!早く妻をっ!!〉」

 

トーマスは目の前に居るイスラム系の男は最早何の利用価値も無いことに気付き、ならばこの男が吐いた他の仲間の居所を虱潰しに襲撃し、芋づる式で欲しい情報を持っている者を捕らえるまでやるしかないと判断すると、言われたとおりに妙齢の女性を助けようとしていた。

 

「〈ああ、分かった。助けてやる。〉」

 

――――銃の発砲音と共に、痛みの苦しみから助けるという方法で。

 

「!!?」

 

姫和は驚愕した。

まさか、トーマスが拳銃(姫和は知らないが、コルトガバメントという45口径の自動拳銃。)で妙齢の女性を、しかもただの民間人を躊躇いも無く射殺したことに驚愕していた。元とはいえトーマスはアメリカ海軍の軍人であったため、殺人罪に問われるようなことは避けるはずだと思い、この尋問が終われば妙齢の女性に適切な治療を施すと思っていたからだ。

そのうえ、トーマスはイスラム系の男に非難される前に、幼い少女も素早く、妙齢の女性を始末するのに使った自動拳銃で物言わぬ骸へと一瞬に変えていった。

それを見たイスラム系の男は、

 

「あ、アアアアアアアアア!!」

 

と心の奥底から吐き出したかのような呻き声を上げ、姫和はその光景に呆然とするしかなかった。

 

「الشيطان!!ヒトゴロシ!!Killer!!」

 

その呻き声から一転、イスラム系の男は狂ったようにアラビア語で悪魔と、日本語で人殺しと、英語で殺人鬼と、此処に居る者達全てを非難していた。

姫和はそれを聞いただけで、イスラム系の男がこの惨事を招いたことに対して自分も人殺しと責めているということに気付き、とてつもない罪悪感を抱き、眩暈を起こしてしまう。そのうえ、紫を殺そうとした嘗ての自分のことを思い出してしまったがために、イスラム系の男の非難に何も言い返すことができなかった………。

 

「……これが俺の治療法だ。それに、この潜水艦と優のことを知っているお前達をタダで返す訳ないだろ。これは、暴動の被害を受けた民間人やその者達の礼だ。」

 

トーマスはそれだけ言うと、イスラム系の男を撃ち殺すのであった。そして、そのために暴動を計画したイスラム系の男とその家族ではあるが、民間人でしかない妙齢の女性と幼い少女の三名全員を殺したと言うトーマス。

それを見た姫和は、トーマスを大きな声で非難していた。

 

「何をやっているんだお前は!そんなことをする必要ないだろっ!!」

「……それ、お前が言うことか?むしろ、俺としては感謝してもらいたいんだがな。」

「何!?」

 

姫和は、トーマスを睨みつけながらどういう意味か尋ねていた。

 

「……内里 歩っていう娘が刀剣類管理局の特別任務部隊に配属されたことと同じさ。俺はお前と同じやり方で優のことを知っているから、優の身に危険を及ぼす前に排除したまでのことだ。」

 

姫和は、トーマスの話にビクッと反応し、青ざめた表情をするのであった。

 

「……何で、そのことを?」

「少し調べりゃ分かることだ。……本部長を騙したくらいで調子乗るなクソガキ。それと、また優に無理矢理な事をしたら、容赦なくそれを可奈美や本部長にバラすからよく覚えとけ。」

 

更には、優を守るため、紗南を利用して歩にスパイ容疑を掛け、監視を含めた特別任務部隊への出向期間を延ばしてもらっている内に“荒魂討伐作戦中による戦死”を実行しようとしていたが、頓挫してしまったこと。

群馬の相馬原駐屯地内の宿舎にて、姫和が優相手にキスしたことの二つを可奈美と紗南に報告すると強く言って、黙らせていた。

 

しかし、トーマスが珍しく姫和に対して激怒しているという一点に当の姫和も、他の構成員達も気づくことはなかった。

 

「………だったら、だったらこの惨事はどうするつもりだ!!」

 

しかし姫和は、自分の行いをはぐらかすためか、イスラム系の男とその家族の死体はどうするのかと尋ねていた。死体が残っていれば真相を突き止めようとする者やそれを脅迫のネタに使おうという魂胆を抱く者などを引き寄せるからである。

 

「……コイツラをミンチにして、魚のエサにするっていうのを日本の暴力団が使っていたよな?今はどうかは知らんが。」

 

つまり、そうやって遺体を処分すると答えていた。だからこそ、この潜水艦ノーチラス号内にイスラム系の男とその家族を運んだのだろう。だが、それは『海底二万里』や『神秘の島』から名付けたであろう潜水艦ノーチラス号は、彼等にとっては苛烈な尋問と非合法活動を行う拠点としての秘密軍事施設のような一面があるということを言っているようなものであった。

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

トーマスは低い声で、姫和をそう問い詰めていた。

トーマスは幼い子供が性的虐待を受ければ、その幼い子供は生涯に渡って後遺症に悩むことになり、最悪そういった加害者側になることも有るのを知っているため、姫和を止めようとしていた。だが、それを説得ではなく、脅迫や交換条件のような取引めいたやり方で止めようとする自分にも、トーマスは嫌悪していたのだが……。

 

「………いや、その。だからといって、無関係な人まで殺す必要は無いだろう?そんなことが正しくないことぐらい分かるだろう!?」

 

しかし、姫和は先程の行いはただの犯罪行為であると、モラルが必要だと尚も食い下がっていた。

 

「……そうだな。だかな、オレらみたいなのが居るからこそ、この男から有益な情報を幾つか手に入れることができ、それを元に暴動を起こす者を殲滅することによって、この世の中は表面上とはいえ、この世は平和です、素晴らしいことですと取り繕えるのさ、そうだろ?タギツヒメという荒魂に対話が可能なほど知恵が有るという事実をこの国とオレの母国は隠蔽して、この世は平穏無事ですと宣っているのとどう違うんだ?」

 

トーマスにそう返される姫和。

子供を使った拷問、子供を利用した自国への利益誘導といった汚れ仕事をする者が居るからこそ、この世は天下泰平でいられると答えていた。そして、刀剣類管理局と自分のやっている事はどう違うのかと問いていた。

 

「……これからはこうやって戦争に勝つのさ。それの何が良くない?少年兵を使って反米国家を地図上から消すことの何が悪い?舞草が刀使を使って反政府組織ごっこをして組織を変えることの何が悪い?」

 

刀使の本来在るべき姿を取り戻すと宣い、その刀使である子供達を反政府活動に使う舞草と親衛隊といった人体へのノロの投与等の数多くの研究を隠蔽していた旧折神 紫派が争った結果、潜水艦ノーチラス号とタギツヒメやタキリヒメについて不都合な事実を隠蔽し、世の中のために戦っていると宣う刀剣類管理局と日米両政府。

世の中の平穏のために少年兵を使って、反米国家を地図上から消したり、尋問相手の子供や妻といった大切な者を脅迫の材料に使って情報を引き出すトーマスといった表向きは国家とは関わりが無いとされている工作員達。

 

トーマスは問うていた。悪人の自分は刀剣類管理局や日米両政府はどう違うのかと………。

その問いに、誰も答えることはなかった。

 

「そうさ、これが新しい戦場さ。ガキを使った戦争ごっこさ。ハハハハ、愉快なことだな!……それが嫌なら復讐ごっこを辞めて、何もかも忘れて静かに暮らせ。お前も“狼”にはなれない。なれっこない」

 

どこか狂った笑い超えを上げながら、トーマスは姫和に対して、お前は“狼”になれないと釘を刺すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!!」

 

その後、トーマスは不機嫌であった。

理由は、姫和に今回の作戦のことと優に対して妙なことをしたら、可奈美や紗南に歩に対して行った悪事を告発するという取引を持ちかけたことに苛立っていた。

姫和相手に、取引を持ちかけたことがトーマスにとって不本意であり、そんなやり方はトーマスにとっては不名誉な事だったからだ。

 

(………イライラするんだよ。ああいうの見ると。)

 

姫和が優に対して、献身的に尽くしていることは知っていたが、そのやり方にも苛ついていた。

 

(………だから嫌いなんだ。子供は。)

 

確かに、今の姫和は優を救って、助けるためなら、どんなこともやり遂げようと強い覚悟を持っているのかも知れない。

 

だが、馬鹿なことを言うなとトーマスは思った。

 

人を助けるというのは倫理的思考と経験に基づいた説得、更には現実的な行動、見たくもない現実を真正面から見る覚悟と考えたくもないリスクへの想像力。……つまり、もっと建設的で真面目なアプローチの積み重ねによって、初めて人を助けるというものがやっと成立するのである。

 

決して、『母の仇や幼い子供のため』という"目的"の言葉は、自身の自己正当化や自己弁護、自らの存在意義の立証のために使い、将来起こるであろうリスクや見たくない現実の回避のために使うものではないとトーマスは思っていた。

それに、どんな手段を使ってでも助けたいのなら、『泣いた赤鬼』のような末路も、自らも悪党として墜ちる覚悟がなければならない。

 

自分がベトナム戦争から『世界平和のために。』とかいつもバカみたいなことを言っていたその親友は、ベトナムで靴磨きをしてくれた少年に爆殺され、その戦友の遺骨と共に母国に帰った後、ヒッピーのような奇抜な格好をした反戦主義者達に『赤ん坊殺し』と戦友と共に蔑まれ、心が病み除隊するも、帰還兵ということで社会に拒絶され、行くあてもなく半ばホームレスのような状態まで落ちぶれたときCIAから傭兵として雇われ、非人道的なやり方で反米国家を地図上から消したり、アメリカの利益誘導の工作活動といった汚れ仕事に従事していた。

その時に気付いたことだが、ベトナム戦争に従事していた頃は『世界平和のために。』とか言っていた反戦主義者達に『赤ん坊殺し』と蔑まれていたが、CIAの汚れ仕事をしていたときに見た反米国家やテロリスト等の非人道的行為に反戦主義者達は何も言わなかったし、何か具体的行動を取ろうとすらしなかった。

 

どうやら、『愛』と『みんな仲良くしよう』と騒ぐ反戦主義者達にとって、それはどうでもいいことなのだろう。いや、彼等の望んでいる平和というものはこういうものかもしれないと思ったことがあった。……そして、反吐が出るとも思ったのである。

 

そこからトーマスは、陰謀や策謀、内部工作といった後ろ暗いことを上品に言った国家の努力による繁栄の下に国民が枕を高くして眠れているように、努力といった言葉や自分が育った環境は常に穢れの無い綺麗事ばかりで成り立っている訳ではない。だとすれば、人助けもアメリカンヒーローのような綺麗事ばかりではないのだ。

 

(子供のそういうところを見るのが嫌なんだ。負けて、搾取されて当然な姿を見せられんのが………。)

 

そうして姫和は、優を失ったらどうするのだろうか?

次の依存先を探すのだろうか?次の金科玉条の言葉を思い付くのだろうか?そうして破滅的なまでに自分を蔑ろにして他人に尽くしていくのだろうか?

いや、それよりも優に捨てられたらどうするのだろうか?

あの子はまだ9歳ではあるが、頭の良い子供だ。

トーマスが課した訓練を乗り越えたところからも、それが分かる。

自分がされたことが性暴力であると理解すれば、どうなることか…………。

 

その答えは、優が一人で抱え込んでいるということに誰も知らないままであった。

 

 

 

 

 

 

 

………そして、その数日後には、民間の安アパートに襲撃時と思われる写真が出回り、そのことについて、国会で審議されることとなる。

  

   




  
  
「ああいった国では、虐殺は大した問題ではない」
  フランソワ・ミッテラン


  
  
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