「指揮官、起きて下さい。朝ですよ?」
耳元で囁く声に目が覚める。いつもと同じ朝の始まり。気だるい身体を起こし顔を上げると、目の前にニーミの顔が見える。
「おはようニーミ。今日も一日よろしく」
「こちらこそ、指揮官閣下――それより、“
呆れたように布団へ視線を投げるニーミ。そこには寝息を立てながらぐっすりと眠るワスカランの姿が。この基地に来て以降毎日これだ。爆弾発言もされたが流石にそれはマズイってことでワスカランの部屋を用意してやったのだが、毎晩俺が寝た後ちゃっかり忍び込んでくる。鍵を閉めたことで回避した日もあったがそれも僅か一日、次の日には合鍵を作ったのかまた忍び込んでいたため若干諦め気味になっている。
「全く、指揮官はワスカランさんに甘すぎます。これでは他の士官の方に示しがつきませんよ?」
そのため毎朝起こしに来てくれる秘書艦であるニーミにとってはこの光景も見慣れたものだろう。理解も納得もしてないようだが、そればかりは俺にはどうしようもない。
「そんなに甘いか? それに俺は期待なんて大してされてないから外聞なんてどうでもいいよ」
「ですがっ! ……はぁ、もういいです。さあ、今日も一日頑張りましょう」
また溜め息を吐きながらもニーミは仕事に取り掛かり始めた。これもまた、いつもの光景である。
「備蓄資源の管理表は」
「これです」
「委託の計画表は」
「こっちです」
こちらが言い切る前に目当ての書類を差し出してくれるニーミは優秀で気配りもできてとても助かっている。流れのままずっと秘書艦をしてもらっているが是非このまま任せたいものだ。なんでこんなに優秀な子がウチになんて配属されたのやら。
「ワスカラン、連絡ボートの補修案はどうなってる?」
少し離れた場所で自分の艤装を弄っているワスカランに話しかける。仮工廠も出来たのでそっちでやればいいと思うが、何故かここでやりたがるのが謎だ。
「それならZ23に提出してある」
「あれ? そうなのか?」
ニーミからはそんな報告は受けていないが……チラッとニーミを見ると強張った笑みを浮かべたニーミがこっちを見ながら必死に書類を漁っていた。
「ニーミ?」
「あ、あはは……私の担当でしたね。忘れてた……」
……優秀なんだが、たまにちょいミスを起こすんだよな。でもまあ、そのくらい誰だってあるだろうし大した問題にならないのなら別に構わない。
「いいよそれくらい。補修案はあるんだろ? なら一緒に見積もりをやってしまおう。コーヒー淹れてくるから準備してて」
「あっ、はいっ」
インスタントで申し訳ないがな。一息入れてやればニーミも多少は気が楽になってくれるだろう。
「終わりました。はぁ……」
「お疲れニーミ」
見積もり作業自体は一時間程度で終わった。まあ見積もりといっても大したことはない。資材は例のガラクタでどうとでもなるからな。だってニーミは仕事を失念していたことのほうが堪えているみたいだし。
「ニーミのおかげで早く終わったよ、ありがとう」
「いえ、秘書艦として当然のことです。それに指揮官も手伝ってくれましたし」
「それこそ気にするな。元々この手の仕事は俺がやるべきことだ。ニーミに手伝わせてることこそ問題だ」
「いえ、ですが私は秘書艦なので……」
まあ確かに秘書艦は指揮官を補佐するのが仕事だから、ニーミの言葉も分からなくもない。けど当の指揮官よりよく働くのはどうなんだ? いや助かるっちゃ助かるんだが……俺が仕事しなさすぎなのか? いやそもそも仕事がそんなにないんだが……
「それで指揮官、残りの仕事は?」
「ん? あーそうだな……急ぎの案件はないし、今日はもう上がっていいぞ」
この基地の仕事なんて資源備蓄とそのための委託任務くらいだ。近海警備に回すだけの戦力はないし、それも近場の基地や鎮守府の連中がやってくれる。散発する戦闘にも演習にも召集されたことはない。そのため今日のように昼前に業務が終わることは少なくない。
「え? もうですか?」
ただまあそれが気になる子もいるようだ。ニーミみたいな真面目そうな子にはこんな窓際基地は合わないと思うことはしょっちゅうだ。それでもこの基地を離れようとしないのは不思議だ。やはり命令に従っているだけなのか? いつもならこの後も執務室でだらだら過ごし、大抵の場合ワスカランと一緒に飯を食うことになる。ちなみに今ワスカランは執務室にはいない。補給物資が届くタイミングだったので追い払っておいた。何かしら理由がないとアイツは執務室を離れないのはなぜなんだ……
「なあニーミ、一緒に飯でも食わないか?」
ニーミのことをもっと知りたいと思った俺は気付けばそんなことを口にしていた。まあ一人悲しくカップ麺を食うよりはいいだろう。カップ麺はいいぞ、お手軽でジャンクな味が中々の中毒性を誇り俺を執務室から出そうとしない悪魔の食い物だ。買った覚えもないのにいつの間にか補充されているパンドラの箱。まあきっとワスカランがこっそり発注でもしてるんだろう、あいつもカップ麺中毒者だし。とにかく、俺はニーミのことをもっと知りたいんだ。
「私と、ですか?」
当のニーミは驚きの表情でこっちを見ている。まあそれもそうか、カップ麺野郎からお誘いされるとは思ってもないだろう。基本俺から飯に誘うことはない。誘われりゃいくけどね。
「そう、ニーミと。ダメかな?」
「あ、えと……分かりました」
なんとか了承してくれたな、良かった。さて、食堂にいくとするかっ。
「お待たせ。まあいつも通りシュバイネハクセとハーファーフロッケンだけどね」
料理を盛った皿をテーブルに並べ終わるとニーミの正面に座る。昼間っからこれはちょっと重いかな。
「これ、指揮官が作ったんですよね?」
「ん? まあな。まだ下手くそだから口にあえばいいんだが」
教えて貰ったレシピの通りに作ってるだけだからな、ニーミでもすぐ作れるだろう。俺だって最近まで料理自体したことなかったし。
「じゃあ、いただきます」
ニーミがシュバイネハクセを口に運ぶ。ゆっくり味わうように咀嚼していき、ごくんと喉を鳴らしそれを呑み込み――
「あの指揮官、そんなに見つめられると食べ辛いのですが」
「あ、悪い。そういうつもりじゃなかったんだが。気に障ったのならゴメン」
咄嗟に顔を背ける。気を悪くさせてしまっただろうか……
「いや顔を背けろとまでは言ってないのですが……やはり指揮官は変な人です」
「変?」
変? 変か? いや変か。自覚もあるし言われたこともあるしなあ。
「変ですよ。私達を対等に扱ったり、要望は大体聞いて、食事すら作ってくれる――第一、艦船少女を人間扱いしているのが一番変です」
「まあ確かに珍しいだろうな。あっ、飯に関しては違うぞ? 作ってくれって言われたから作り始めただけだ」
「そうなんですか? 一体誰が……」
すぐバレるだろうけどあえて俺の口から言う必要はないな。シュバイネハクセとビールの準備をせがまれただけだし。その延長でキュンネからハーファーフロッケンのレシピも教われたし。ちなみにシュバイネハクセの作り方はオイゲンから教わった。あの子は横でそうじゃないこうじゃないと騒ぎ立ててただけだった。
「まあそういうわけで変な指揮官なんだ。こんな俺についてきてくれるんだから要望や飯の一つや二つこなさないとね」
「それは……ですが就寝まで共にする必要はないのでは?」
「……善処します」
あれは俺のせいじゃなくて勝手に忍び込んでくるワスカランのせいなんだけど……示しがつかないのは確かなだけに反論できない。苦笑を浮かべるとニーミは呆れ顔になってしまった。よく愛想尽かされないな俺。
「こほんっ……まあそれに関しては情状酌量があるとして、私個人として指揮官に文句があるわけではないです。いえあるにはあるのですが、些細なことなので」
「あるのか」
「あります――私は、もっと上を目指したいです。もっと強くなって、仲間を守れるような……指揮官の下でならそうなれるような、そんな気がするんです。ですから、私の期待を裏切らないで下さいね?」
これはまた、責任重大だ。ニーミの真剣な眼差しを裏切るわけにはいかないな。
「ありがとう、期待に沿えれるように頑張るよ。だから一緒に上を目指そうな」
そう感謝の意を伝えたらニーミがポカンとした顔をしてしまった。なんでこの子達はたまにこんな顔になるんだ? きっと俺が彼女達から見て変なせいだろう、うん。
「一緒に、ですか?」
「ああ、一緒に。というわけで、美味しいコーヒーの淹れ方を教えてくれないか? ニーミの淹れてくれるコーヒーは美味しいからお気に入りなんだ」
「っはい、分かりました。さ、指揮官、こちらへ」
笑顔で厨房に向かうニーミを見るに、彼女に嫌われているってことはまずなさそうだ。さて、ニーミと一緒にもっと上の味のコーヒーの淹れ方を教わるとするか――
オイゲンの時の半分じゃねえかコイツこんなのでニーミ先生流行らせる気あんのかよ。改造絵公開した公式のがよっぽど有能だよな。見ましたあれ? 腋太もも横乳。そしてチラリと覗く黒パン。えっちえっち。かと思えば凛々しい表情とかっこよく翻るマントそして艦種間違えたんじゃないかってくらい凄い艤装。鉄血のランチャーかな? これはきっとバスターガンダム(年代バレそう)