「で? わざわざ俺を呼び出して何の用です?」
アズールレーン総本部・総司令室。そこにまた俺は来ていた。近いうちに出頭する予定はあったものの、予定より大分早い。何かあったのか、それともただの小言か。
「少尉、君は今でもあの女と会っているのかね?」
――は?
「お言葉の意味が分かりません」
「正直に答えたまえ。今すぐスパイ容疑で憲兵に引き渡していいのだぞ?」
「お好きに。それより早く本題に入ってくれませんか?」
そんな下らない小言を聞きに来たんじゃないんだよ、俺は。
「ふん……昨日未明、六十一鎮守府が襲撃された」
……聞き間違いか? なんかとんでもないことを聞いた気がするんだが。
「襲撃してきたのはセイレーン。幸い鎮守府の被害は軽微で済んだ。だが問題はそれじゃない」
「というと?」
「その襲撃の直前、不審な艦隊を発見し、鎮圧部隊を出した。が、酷い有様で撤退してきおった。それも“人型のセイレーン”にやられたと報告してきた」
「人型――何度か姿を見せたテスター型ですか?」
セイレーンには大きく分けて二つのタイプが存在する。以前遭遇した艦船型の量産タイプと、今話題に上がっている人型の二種だ。後者は戦闘能力も高く、人語を扱えコミュニケーションがとれる。まあ向こうにコミュニケーションを取る気はないだろうが。そしてそしてその人型は何度か姿を確認されている。その内の一つがテスター型というのだが……
「いやどうやら違うようだ。新型、それも空を飛んでいたとか」
「空を……」
それが本当だとしたらとんでもないな。そもそも新型の人型セイレーンが出たというだけでも結構不味い。そしてそれに六十一の精鋭がやられた――って
「状況は分かったつもりです。それで結局、俺を呼んだ理由と先の意味不明な質問は何です?」
「我々はね、その“人型セイレーン”があの女の一味ではないかと疑っている。あくまで可能性の一つだが。そこで君から何か聞けないかと思ってね」
バカバカしい。セイレーンと艦船少女を間違える奴がいるかよ。そもそも彼女なら
「そしてもう一つ、六十一の精鋭部隊と中佐が現在治療中でな、その間の代理指揮官を派遣することになったので君に連れていってもらおうと思う。君のところに“あれ”を配属するついでだ、構わないな?」
コイツ――
「……構いません、任務了解しました――ですがあの子をモノ扱いするのはやめて下さい」
俺の抗議には耳を貸さず、内線をかけ始める総司令。まあ抗議しても無駄なのは分かってるが抑えられなかった。艦船少女はモノじゃない、自我と意思を持つ共に戦う仲間だろうに――
「ちっ、無能共が……少尉、代理指揮官の出頭まで少しかかるらしい。先にあれを回収でもしてこい」
苦虫を噛み潰したような総司令の顔を見るに、どうやら代理指揮官というのも相当な問題児らしい。ああ、だから俺に投げたんだなコイツは。まあいい、そういうことなら先にあの子のところに行くとするか……
「あら指揮官、また来てくれたんですね」
部屋に入るなりローンが出迎えてくれた。俺が来るって連絡でもあったのか? にしても相変わらずガラクタでいっぱいの女の子らしくない部屋だこと。
「久しぶり。早速だけど、予定よりも早く君を迎えることになった。来てくれるか?」
「はい、喜んで」
差し出した手に笑顔で手を重ねてくれるローン。遅かれ早かれローンを迎え入れることは決まっていた。だって三十六は
「でも不思議ですね。あの時出会ったのが切欠でこうして指揮官の下に着任できる。指揮官も、私に会えたからこうして生きていられる……こんな偶然があるなんて」
偶然か……ローンはいずれどこかに配属されただろうけど、俺は運が悪ければ軍法会議一直線だったからな。いや俺が独房に入ってる間にお偉いさんが色々画策してたのは確かだ。そうじゃなきゃ軍事機密を知って独房程度で済むとは思えない。それだけローンの扱いに困ってたのか?
「まあローンのおかげで九死に一生を得たのは間違いないな。そのおかけで二人仲良く隔離措置とはお笑いだけどね。コーヒーでも淹れるよ、ゆっくり準備しててくれ」
例の代理指揮官が出頭したら連絡を受けることになっている。多少ここでのんびりする暇はあるってことだ。
「ふふ、私は指揮官と二人きりで過ごすのも悪くないと思いますよ? 一人なら気兼ねなく敵を潰せますし。それに、私を理解しようとしてくれる人は少ないですし」
……んん? 物騒なことが聞こえたような気がするがそれはいつものことだからいいとして、なんか変なことが聞こえたような……
「あのさローン……俺の基地、ローンの他にも艦船少女はいるんだけど」
「え――」
ローンの動きが止まった。しばしの硬直のあとこちらへ振り返った彼女はいつも以上にニコニコとし、可愛らしく首を傾げ――
「指揮官? どうして? 私と指揮官は二人で鳥籠に入るって決まったわよね? 二人っきりで……どうして、他の子がいるの?」
――ああ、いつもの発作が始まってしまったか。スイッチが入ったローンはかなり、かなり厄介だ。これがお偉いさんの言っていた問題の性格である。
「私はずっとずぅっと指揮官と一緒になることを考えていたんですよあの日指揮官と出会ってお話をして喋りあって笑い合って怒りあって私を理解しようして理解できずでも諦めずに私と向き合ってくれた私を恐れないでくれた怖がらないでくれた避けないでくれた私嬉しかったんですよ私を一人の女の子として見てくれる人間は初めてだったからなのになのになのになのになのに指揮官はあの女のことばかり分かっていますよ指揮官があの女に深い感情を抱いていることはでもでもでも今あなたとお話しているのは私なんですよどうして私を見てくれないの私を見てよなんで他の女の話をするの指揮官許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないあの女を憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで仕方がないのでも安心してあの女に手を挙げたりなんてしないからそんなことをしたら指揮官が悲しんでしまうもの指揮官の邪魔になるのなら私この身を砕いて引き裂いて磨り潰して溶かして燃やして埋めてバラバラにして海に放り捨てるわ私ね指揮官の力になりたいの指揮官のために頑張るって決めてたの二人っきりの世界で仲良くずっとずっと一緒にいるんだって思ってたのだからだからねどうして他の子がいるのねえねえねえねえねえどうして指揮官はローンの指揮官なんですよそれなのに許せない許せない許せない許せない許せない」
凄まじい勢いで捲し立てるローン。普段はゆるふわお姉さんって感じなのに一度でもスイッチが入ると別人かと疑うほど豹変する。流石に最初は驚き半分恐怖半分だったが、今ではもう慣れたものだ。こういう時は――
「ローン」
「あっ――」
抱きしめてやるのが一番いい。荒療治というかその場しのぎというか恥ずかしさも相まって人前じゃ絶対できない方法。でもこうするとすぐに落ち着きを取り戻すから非常に役立っている。ローンもきっと恥ずかしいのだろう、うん。
「まあ聞け、そもそも艦船少女が一人もいないんじゃ基地として成り立たないから仕方ないだろ? それに俺も助かってるし、面倒は極力起こさないよう頼むよ」
「でも……」
「まあ、元々俺とローンの檻らしいからローンを放り出したりはしない。よっぽどのことがない限り一緒にいるさ。それじゃダメか?」
どうせ俺とローンは離れることが出来ない。なら少しでも納得したうえで一緒にいて貰わないと困る。あとは問題を起こさないことを祈るだけだが、さてはて――またウチに厄介者が増えるわけか。
ローンは怪文書が似合うなあ(白目)。おいこれじゃただのヤンデレじゃないか(呆れ)。ローンはな、ただのヤンデレじゃなくってこう、もっとサイコサイコしてるサイコなんだよ(意味不明)。個人的にはいつも狂ってるわけじゃなくて普段はゆるふわだけど急にスイッチ入ってサイコるくらいだと思ってます。その一回が重いはずなのに重さが伝わってこないじゃないか……