一週間ぶりに訪れた六十一鎮守府は、見るも無残な姿と化していた。
そこかしこに付けられた弾痕。建造物はよくて半壊、ドックは集中的に砲撃を受けたのか原型を留めていないくらい壊されている。はっきりいってまともに機能しそうにないんだが……
「うわー、こりゃ酷いな。これじゃあ艦隊運用なんかできないね。あっはっはっはっ!」
その惨状をまるで他人事のように観察し、面白がるアーサー少尉。いやここ君の鎮守府なんだけど……
「まあとりあえず現状把握しないとね。君も付き合ってくれるんだろ?」
それは一向に構わないのだが、この惨状を復旧する方法も考えないとダメなんじゃなかろうか。アーサー少尉はリアンダー級三姉妹を連れ意気揚々と半壊した司令部に向かっていく。
「なんというか、変な人ですね」
「俺もそう思う」
隣に寄りそうローンと共に、俺達も司令部に足を進める。それにしても最前線の最精鋭基地が随分とやられたものだ。この規模の鎮守府を襲う作戦をセイレーンが行うなんて、この海域にそれだけの戦力があるってことなのか……?
「はいはーいちゅうもーくっ! 今から第一回円卓会議を始めま~す!」
一体どこから調達したのか部屋の中央の丸テーブルを囲うように一同が揃った途端、高らかに宣言するアーサー少尉。円卓会議って……いや確かに円卓っちゃ円卓だけど。そしてアーサーといえばまあ名前だけは確かにアーサーだけどさ。
ちなみにメンバーはアーサー少尉とリアンダー級三姉妹、俺とローン。懸命に復旧作業をしてくれていた明石と元々六十一所属で今後アーサー少尉の指揮下に入るアーク・ロイヤルとグロリアスの九人。人数足りてないし余所者いるんだけど? まあ気分的なものだろうしいいのか。
「それはいいのだけどこぶたちゃん? 議題は何なのかしら?」
「まず戦力拡充をしたほうがいいのでは? 私とアーク・ロイヤルさんを含めてギリギリ一艦隊しか組めませんし」
「グロリアスの言う通りだ閣下。そうだな、バランスを考えてまずは小型建造で駆逐艦をだな――」
なにやら暴走してるロイヤル空母がいるように見えるが、アーサー少尉は気にせず懐から一枚の手紙を取り出す。いや注意しろよ、駆逐艦談義始めてるぞ空母共が。
「皆色々意見はあるだろうがまずこれを見てくれ――総司令部からの命令書だ。心して聞いてくれ。えーっとなになに……」
総司令部からの命令書? 一体こんな状態の六十一に何をさせるってんだ? ていうか内容確認してないのか……
「んーと? 六十一鎮守府艦隊は三十六基地と共同で報告された人型セイレーンを討伐せよ。尚明石は即刻総本部へ帰投すること……んん? なんだこれ? 小学生の軍人なりきり手紙と間違えたかな? あっはっはっは」
「――って笑い事じゃないですよ!?」
どう聞いてもまともな命令じゃない! 六十一には一個艦隊しかないし、俺の三十六も大した戦力はない。どう頑張っても時間稼ぎにしか――
「時間稼ぎだ……」
「どういうことにゃ?」
「俺達を使って時間を稼いでその間で何かしら対抗策を打つつもりだろう。明石を呼び戻すくらいだ、きっと大規模艦隊を結成して一気に叩き潰すつもりじゃないか?」
我ながら突飛なことを言っていると思うが可能性はゼロではないハズだ。この戦力でこの命令、しかも明石は使うな。ダメ押しに俺とアーサー少尉はきっと上層部からは厄介者扱いされているはず。俺に至ってはスパイ扱いだ。使い潰すのに躊躇いなどないだろう。それに付き合わされる艦船少女達には申し訳ないとしか言えないが。
「ボクはやれると思うんだけどな~。エイジャックス様はどう? ボク達ならやれるよね?」
「無理よ」
「あふん」
何コントやってんだこの二人……危機感がないなあ、良くも悪くも。リアンダーとアキリーズが可哀そうになってきた。
「いいこぶたちゃん? 私達は軽巡洋艦三隻に空母二隻だけ。そっちの指揮官さん、あなたのところは?」
「ウチは駆逐四隻、重巡三隻、工作艦一隻だ。前衛艦は多いが、主力艦がいない。実質一個艦隊だ」
「ナニっ!? 駆逐艦だって!?」
なんか急に反応してきた空母がいるけど放っておこう。害はない、うん。
「合わせて二個艦隊。しかも戦艦はいない。相手は未知の空を飛ぶ人型セイレーン。こぶたちゃん、これで満足に戦えると思う?」
「え? えーと……ボクは皆を信じているさっ!!」
ダメだコイツ、何も考えてなさそうだ。エイジャックスと話していたほうが建設的なのかも知れん。
「とにかく方針を決めないと。そっちはまともに活動できるようなるまでしばらくかかるだろう? 物資もいるだろうし、偵察や近海警備くらいならしばらくこっちがやるよ。そっちの準備が整ったところで一気に攻勢に出る。こんな感じでどうかな?」
「明石もギリギリまで残ってここの修繕と物資の融通をしてあげるにゃ。緊急事態だから今回はタダでいいにゃ……今回だけにゃよ?」
「異存ありませんわ。こぶたちゃんもいいかしら?」
「オッケーさ。いやー持つべきものは友達と女神様だなあ!!」
いつの間にか友達になっている……あと女神って。エイジャックスもなんだか嬉しそうにしてるし、この二人大分仲良しだよな。ここまでの関係が気付けるなんて羨ましい限りだ。
「指揮官。指揮官にはローンがいますよ?」
「何も言ってないから。だから急に腕を組むなって」
二人を羨ましそうに見てたのがバレたか? いやそもそもバレても構わないだろうそんなもん。というか静かにしていると思ったらこれだ。
「君とローンってすごく仲いいよね。あ、でもボクとエイジャックス様には負けるけどねっ」
「あ、はい」
「そんなつれない態度取らないでくれよー。そうだ、紅茶でも飲んでいかない? 君とはもっと話が――」
「――アーサー少尉、でしたよね?」
突然ローンが割り込んできた。しかもなんだかニコニコしているような……
「ローンちゃん、何かな? あっ! 君も一緒にどうかな? 鉄血の子には疎くて君のことよく知らないんだよね。ここは一つ親睦を――」
「私と指揮官の時間、そろそろ返してくれませんか?」
「――――え?」
あ、ダメなやつだこれ。
「よせローン、落ち着けローン。いいか? 今は大事な会議中なの。アーサー少尉がいくらあれでも今は会議中なの。オーケー? お前との時間は後でいっぱいあるから今は大人しくしてろいいな?」
「で、でも」
「返事ははいか
「や、
「よしいい子だ……すみませんアーサー少尉、後でちゃんと躾けておくんで勘弁してやってくれませんか? あと紅茶はまた落ち着いてからにしましょう」
「え? え? え? ……あ、うん? いいんじゃない? あっ、でも紅茶は今からが――」
「待て! 三十六の指揮官殿っ!」
ダンッの音に目をやると、アーク・ロイヤルが机を叩き俺を見ていた。気のせいか目つきが若干鋭くなっているような……もしかして、アーサー少尉を馬鹿にしたと思って怒っている? 困ったな、そういうつもりじゃ――
「警備任務、私も手伝わせて貰おう! 可愛い駆逐艦の子達だけにそんな辛い役目を押し付けることなど出来ないっ! 私が駆逐艦達を守ってやろうではないかっ!」
………………んん? なんか変なことになってきてないか?
やばいアーサーくん使い易くて困る。困らない。主人公君より目立ってない? ローンちゃん若干空気になってない? なんで?