仮ドックの奥へ接岸したボートから降り立つ。その後すぐにローンとアーク・ロイヤルも降りてくる。さて、まずこの二人を紹介しないといけないのだが……あっ、いたいた。
「ただいま、ワスカラン」
仮ドックの名は伊達ではなく、工廠と一体化していると言ってもいい。別々に造るだけの余裕がなかっただけともいう。そして工廠を仕事場とするワスカランの姿を見つけるのは実に容易なことだ。
「ああ、おかえり指揮官――また艦船少女が増えているね?」
呆れたような訝しむような、よく分からない表情でじっと見てくるワスカラン。それじゃまるで俺が度々艦船少女を連れ込んでいるみたいじゃないか。いやあってはいるか。
「ローンとアーク・ロイヤル。詳しい説明は後でまとめてやるから、みんなを集めてくれないか? また厄介事が出来ちまってな」
「
「お、いいねえ。今度は何味?」
「極辛。文字通りぶっとぶ味らしいよ?」
「お、おう……」
それはぶっとぶ美味しさなのか? それとも味覚がぶっとぶという意味なのか? ちょっと怖いものがあるな……でも興味はある。今晩あたりワスカランを部屋に呼ぶか。そのまま抱き枕にしてもいいわけだし。どうせ毎日忍び込んでくるんだもんなぁ。
「指揮官にはもっと栄養のある食事をとってほしいのですが……ところであなた」
「ボクのこと?」
「ええ。どこのどなたかは知りませんが、これから同じ指揮官に従う者同士仲良くしましょうね?」
おお、ローンがコミュニケーションを図っている! いやあ心配してたけどこれなら思っていたより平和になりそうだな。ローンも四六時中発作を起こすわけじゃないもんねうんうん。
「ボクはワスカラン。鉄血所属の工作艦だ」
「ふふ、ご丁寧にありがとう。私は鉄血の重巡洋艦ローンです」
自己紹介までし合ってるし問題ないか。正直この二人とも周りと仲良くやっていけるか心配だったから、二人が仲良くしてくれるのはとても喜ばしいことだ。
「それで――あなたと指揮官は一体どういう関係なんです?」
――ん?
「どういうって、普通に指揮官と艦船少女だけど?」
「そうですか、なら良かったです」
「……どういう意味だい?」
「いえ別に」
なんだか不穏な雰囲気が漂ってきたような……なんで? ついさっきまでいい感じだったのに。
「ただやけに親密そうでしてので気になっただけです。でも指揮官は私の指揮官なんです。
また誤解を招くような言い方を……いや間違っていないが言い方をだな。ほら、ワスカランが何か言いたげにこっちを見てくるだろ。
「あのなワスカラン、ローンのあれは」
「気にしてないよ。指揮官がローンの物だろうと別に気にしてない」
「そ、そうか」
「ああ。だって
――それはそれでどうなんだ? お前も言い方をだな。というかワスカランに関しては俺何もしてないんだけど……
「指揮官殿、そろそろ移動しないか? ずっとここで話していても仕方ないだろう?」
あ、アーク・ロイヤルをすっかり忘れていた。いかんいかん、ここは指揮官としてしっかりせねば。
「悪かった、今から行くよ。あと、この二人はあまり気にしないでくれると助かる」
「なに、気にすることはない」
アーク・ロイヤル、いい人だ……突然駆逐談義始めた時は実は変な人なんじゃないかと思ったよ。
「そういう形の愛もあるだろう。参考になった」
「え」
「私も一層駆逐艦への愛を深めないといけないな」
――やっぱり変な人だ。
「というわけで報告が二つほどあります」
「またいきなりですね……」
呆れ顔のニーミを無視して話を進める。これもいつものことだ。ニーミには迷惑かけてばっかだな。
「はいはい静粛に静粛に~。とりあえずこの二人の紹介から始めるからなー。まずこっちがアーク・ロイヤル。六十一鎮守府から何故かついてきた。しばらくこっちにいるかも知れないからよろしく」
「ロイヤルの空母、アーク・ロイヤルだっ! 後ほど指揮官殿から詳しい説明があるだろうが、しばらく厄介になるかも知れないからよろしく頼む。特に駆逐艦の子達はよろしく頼むっ!」
「は、はあ……」
「ニーミ先生が困ってるだろ? その辺でやめておいて。そんでこっちがローン」
「鉄血の重巡洋艦ローンです。今日からこの三十六基地の所属になります」
二コリと笑うローン。その姿はまるで優しい雰囲気のお姉さんそのものである。全くいつもこの調子ならいいのだが。見ろワスカランを。さっきからずっとローンを睨んでるじゃないか。
「鉄血の……ローン? 聞いたことないわね」
「む? そうなのか? 私は鉄血には詳しくないからな」
そして当然の疑問だな。まあ隠していてもいずれバレるし、アーク・ロイヤルに聞かれても問題はないか。アーサー少尉は艦船少女とコミュニケーションをとるタイプだし。それにこれからも付き合いはあるだろうからどうせバレる。
「ローンはちょっと特殊な出生でな。計画艦開発プロジェクトっていう極秘計画があってな、その産物なんだ。あ、一応まだ軍事機密だからあまり他言しないでくれよ? とりあえず言えることとすれば、ローンは艦歴を持ってない艦船少女だから知らなくて当然だ。あと
「指揮官、それだとまるで私が問題児みたいに聞こえます」
実際問題児だろう? 出会う前から“
「とにかく、ちょっと問題のある奴なんで仲良くしろとまでは言わん。あとローンに対する不満を受け付けないからな。いや愚痴くらいは聞く」
「それは、ローンさんに問題があった場合でもですか?」
「悪いけどニーミ先生の危惧してる通りだ。ハッキリ言っておく、三十六基地は
軍事機密に触れた俺を軍法会議にかけなかった理由。それは上層部が手を焼き制御できなかったローンをある程度コントロールすることができたからにすぎない。他の計画艦より早く完成したローンの実戦投入も兼ね、俺とローンを縛り付けるためだけにこの三十六基地は再稼働したんだ。それがまさかこんなに多くの艦船少女を抱えるとは思っていなかったが。
「というわけなので、ここは私と指揮官のために用意された鳥籠なの。色々あるでしょうけど、皆さんよろしくお願いしますね?」
ニコニコしながら挨拶するローンだが、若干声が低くなっている。コイツなに威嚇してんだ、せめて平常時は仲良くしろよ。
「最後になったが今日の本題だ。これはアーク・ロイヤルがここにいる理由でもある――本日一三〇〇時付けでアズールレーン総本部より指令が下った。我が三十六基地は六十一鎮守府と共同で、正体不明の飛行する人型セイレーン討伐を行う」
「――はぁ!? アンタ正気!? 六十一って襲撃されたばかりじゃない! それなのにそことウチでセイレーン討伐なんて……無謀よっ! 断りなさいよ!」
「気持ちは分かるが落ち着いてくれ。これは六十一に出された指令だ、俺に拒否権はないし向こうの指揮官にも拒否権なんかないはずだ」
「でもっ!!」
「現在六十一は襲撃からの復旧作業で手一杯だ。そこでしばらくの間三十六が偵察、及び近海警備を担当する。アーク・ロイヤルはその助っ人だ。もう一度いうがこれは総本部からの指令で、うちに拒否権はない。以上だ」
その突然の命令に頭が追い付かないのか、うちのメンバーは黙りこくったままだ。まあ、どう聞いてもまともな指令じゃない。俺がそっちの立場なら反発するだろう。
「「
ただ二人、ワスカランとローンだけはすぐに返事を返した。ワスカランはいつも通りの無表情で何を考えてるのかよく分からない。ただ少なくとも反発ではないだろう。ローンは……とびっきりの笑顔だった――ああ、これがローンなんだな――
「ところで指揮官殿っ!!」
「うおっ!? な、なんだアーク・ロイヤル」
辺りに漂う重い空気もなんのそのと目をきらきらさせたアーク・ロイヤルが俺を見ている――まさかコイツも戦闘きょ
「そこの可愛い駆逐艦達を紹介してくれないか!? ああそうだ、先程も名乗ったが私がアーク・ロイヤルだ。全身全霊をかけ守ってあげるから心配しなくていいぞ!? だから私と仲良くしてくれないか!?」
――戦闘狂ではないな、うん。
やべーやつとやべーやつとやべーやつを合わせるとやべーやつ以外が空気になる(白目)ナンテッコタイ
それにしてもアーク・ロイヤルって使いやすいね。ウチではきっとアーサー君と並んで空気ブレイカーになれる素質を持っている気がするよ