ここは厄介払いの前線基地   作:イヌ魚

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目覚めるとそこは

 柔らかな感触、ほのかに感じる暖かさ。微かに舞う風が優しく頬を撫でていく――

 

 目を覚ますと、漆黒に塗りつぶされた夜空が眼前一杯に広がる。いつの間にか夜になっていたらしい。

 

 その暗闇の中に星々を求め視線を動かす。ポツポツと光っているのは見つかるが、そんなに多くは無さそうだ。

 

 ――こんな風に夜空を眺めたのはいつ以来だったか――

 

 その日も確かこんな夜空で、静かな夜で、海も見えていて――“彼女”が隣にいて――

 

 ――“彼女”

 

 今は一体何をしているだろうか。元気にやっているだろうか。こんな風にまた夜空を見ているのだろうか……なんて、大丈夫に決まってるか。彼女の意志は本物だ。例えそれが正しかろうと間違っていようと、それを貫き通す覚悟はあるのだろう。俺に出来ることは彼女の無事と幸運を祈ることだけ――叶うのならば、肩を並べ、共に歩んでいきたい。でもそれは、今の俺には叶うハズのないことで……俺は彼女の理解者でありたいのと同時に、俺は彼女の敵なのだから――

 

 ――会いたい。もう一度会って、話をしたい。敵だからなんだと言うんだ、彼女がいたからこそ今の俺がいる。そんな俺が、どうして彼女と敵対できるものか……しがらみさえ無ければ、俺は――

 

「――ビスマルク」

 

「――どうしたの?」

 

「いや、こうしてビスマルクと夜空を眺めた時のこと思い出して」

 

「そういえば、あの夜もこうして二人で空を眺めたわね」

 

「そうだな……って、ん……?」

 

 ちょっと待て、俺は一体誰と話しているんだ……? その疑問に答えるように視界の端から顔が覗いてくる。

 

 流れるような黄金色の髪。透き通る蒼い瞳。十字マークのついた軍帽。見間違えることなどありえない――

 

「――ビスマルク?」

 

「なによそんな変な物を見たような顔しちゃって。まさか私のこと忘れちゃったのかしら?」

 

 ――そう、この女性こそ鉄血宰相ことビスマルク級戦艦の一番艦ビスマルクだ――

 

 

「あのさ」

 

「あまり動かない、落ちるわよ――でも吃驚したわ、こんな危険地帯の海をボロボロのあなたが漂流していたのだから」

 

「え? 俺漂流してたの? ――じゃなくって、あのさ」

 

「ああここ? ここは私達の活動拠点よ。勿論連合の目は盗んであるから安心しなさい」

 

「それって安心してもいいのか? いやいいか――いやそうじゃなくって、あのさ」

 

「ダメよ? 怪我が治るまではここにいなさい。どのみちCPボートもないんじゃ帰るに帰れないでしょ」

 

「いやまあそうなんだけどさ――ってあのなあっ!!」

 

「何よさっきから」

 

 こっちの話を聞かずに状況説明ばかりぺらぺらと……いやすっごい助かったし今がとてもまずい状況なのは分かったんだけどさ、まずはこの状態をどうにかしたいんだよ俺は!

 

「なぜ膝枕!?」

 

 そう、どういうわけか俺はビスマルクに膝枕をされていた。だから空がよく見えるし、上から声がするし、顔が覗きこんでくるわけだ――あと、チラチラ肉の塊が……

 

「そのほうが男性は喜ぶんじゃないの?」

 

「いやまあ一般的にはそうだと思うけど、ビスマルクは嫌じゃないのか?」

 

「嫌ならしてないわ。それとも、あなたはこういうことされるのは嫌?」

 

「…………嫌じゃない」

 

「ならいいじゃない」

 

 いいのか……それに起き上がる素振りを見せると凄い力で抑え込まれてしまう。俺だって一応士官の端くれ、もやしっ子ではないはずだが艦船少女ってのはやはり凄いな。その度に太ももに押し付けられるのはちょっと困りものだが。

 

「そうそうこの前見た時も思ったのだけど、どうしてあなたはこんな前線に? 戦力も装備も充実してるとは思えないし」

 

「あーそれねえ……」

 

 真面目に説明しようとするとちょっと面倒なんだよなあ。それに内容が内容だし……ていうかやっぱりあの時の艦船少女はビスマルクだったのか。もう一人は一体誰なんだろう……でもまあ、正直に答えるとするか。

 

「――ビスマルクと別れたあと、とある艦船少女に助けられてね。その子が例の計画艦で、何故だか懐かれちゃって……軍法会議もなんの処罰もなくこんな前線の廃基地に放り込まれたんだ」

 

「何よそれ……廃基地?」

 

「ああ。見たろあのボート? あれはウチの最新鋭CPボートだよ」

 

「……それは難儀ね」

 

 分かってもらえてなによりだ。電子機器すらまともな代物がないんだぞ? まあこれはビスマルクに愚痴っても仕方ないな。愚痴られたところでってなるだろうし。

 

「そういえばこの前は助かったよ。Bishopを倒してくれたのビスマルクでしょ?」

 

「礼を言われることではないわ。元々私達が追っていたのよ。それをたまたまあなた達が見つけちゃって」

 

 そうだったのか。あれ? なら別に無茶しなくてもビスマルクが対処してくれたのか……

 

「それにしても、よくやってるわね」

 

「何のこと?」

 

「ヒッパー。あの子の手綱を握るのは中々大変だったんじゃない? 悪い子ではないけど素直じゃないから」

 

「知ってる。いつもぷりぷりしてるし、もっと素直になれば可愛くて魅力的な子になると思うんだけどね」

 

 なにかとはぁ? と言ってくるし、文句は多いし、要求も多い。でもなぜか憎めない。ちょっと素直になれない女の子ってだけだ。

 

「ふふっ、随分ヒッパーに入れ込んでるのね?」

 

「そんなんじゃないって。ただヒッパーには魅力が多いなってだけだって。それに、そのことを教えてくれたのはビスマルクだろ?」

 

「そう言って貰えるとなんだか嬉しいわね。艦船少女と対等に接する指揮官――あなたのような指揮官があの時いれば――いえ、こんなこと言っても無意味ね」

 

「ビスマルク……」

 

 今のビスマルクの側には指揮官がいない。アズールレーンから離反したのだから当然だが――いつか、ビスマルクの側に立つ指揮官が現れるのだろうか――もし、それが俺だったら――

 

「なあビス――」

「なんだ宰相殿、ここにいたのか」

 

 背後から声がかけられる。どうやらビスマルクの知り合い、恐らく同胞だろう。生憎ここからじゃ見えないが……って膝枕見られてる!? ガバっと体を起こし何もなかったかのように横に座り込む。

 

「あらもう膝枕はいいの?」

「いいから。いいから放っておいてくれ」

「? よく分からないけど、そういうなら……それで伯爵、どうしたの?」

 

 なんでそこで分からないかなぁ……男として見られてない?

 

「そろそろ会議の時間だ。だというのに宰相殿の姿が見えないのでな――ところで、卿が宰相殿の言っていた指揮官か」

「そうよ」

「え?」

 

 一体何を言ったんだろう、そんな話題に挙げるほどのことしてないんだけど。それより、今やってきたこの艦船少女、どこかで見たことあるような……

 

「我はツェッペリン。グラーフ・ツェッペリン級航空母艦の一番艦だ。短い間だがよろしく頼む」

 

 グラーフ・ツェッペリン級航空母艦というと、未完成で終わった鉄血の航空母艦か。そんな艦船少女がいたなんて聞いたことないな……

 

「丁寧にどうも、よろしく――よろしく?」

 

 ちょっと待て、俺は一応アズールレーン所属の士官だぞ? そして一応彼女達はアズールレーンから離反したレッドアクシズの残党だぞ? なんでよろしくするんだ? その横でビスマルクがスッと立ち軍帽を被り直しながら俺を見下ろし、手を差し出してくる。

 

「ようこそ、“偉大なる鉄血(グロース・アイゼンブルート)”へ」

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