あっ、無理矢理出したヒッパーちゃんの出番もないです。
アズールレーン連合総本部。こここそが対セイレーンの総本山にしてGHQにして大本営。最後方のくせして最大の大きさを誇る鎮守府。任官直前まで俺がいた場所でもある。
ここのお偉いさん達――というかアズールレーンの大半は艦船少女を兵器として扱っている。命令に従うだけの駒を求めている。実際ここでの教習ではそう習ったし、話を聞くだけでも前線ですらそういう扱いが当然という風潮らしい。合理性を考えるならそれも間違いではないだろう。事実彼女達は生まれた時からあの姿で、艦船の記憶を持ち、唯一セイレーンに対抗する力を持っている。人間でない存在。心無い輩は化け物と呼んだりもするらしい。流石にそこまでいけば問題になり処罰されるだろうが……
「………………」
そして俺も、ほんの少しの偶然の重なりがなければそうなっていたのかもしれない。あの日、あの時、あの場所で、“彼女”に出会った。“あの子”に出会った……それが俺を変えたんだ。艦船少女もまた、意思を持った存在なんだと――
「何してんのよ、入るわよ?」
「ああ……」
ついボーっとしてしまっていたか、ヒッパーに呼ばれてることにやっと気付いた。どうせ逃げることは出来ない、ならとっとと済ませてしまおうとヒッパーを連れ、総本部の中へと進んでいく。
――じゃ、私はここで。まあガンバんなさい――
総本部に足を踏み入れてすぐ、それだけ言うとヒッパーはどっかいってしまった。あの方角は確か艦船少女の居住区のハズ。きっと妹に会いにいったのだろう。合流時間は決めてあるし、問題はない。それより、今はこっちだ。
総指令室と書かれた部屋の扉をノックする。しばしの間ののち、中から返事が返ってくる。ふぅ、と一息入れ部屋の中へと踏み込む。
「失礼します。三十六基地指揮官、出頭しました」
「ふん……まあかけたまえ」
総司令はこっちを一瞥すると、不機嫌そうにソファを勧めてくる。見るからに歓迎されていないが、それは承知の上なのでなんとも思わない。
「さて、なぜ出頭させたか分かるかね?」
「心当たりが多くて分かりかねます」
「……まあいい、貴様なぞすぐにでもスパイ容疑で牢屋に放り込みたいくらいだがな」
スパイ容疑……どうやら“彼女”はまだ見つかっていないようだ。でもスパイ容疑ねえ、むしろ俺が助けられたくらいだからなぁ。
「さて時間も惜しいのでとっとと本題に入ろう。基地の設備を拡充したいとか?」
「はい。予想以上に何もなく、正直困っています」
「知らん、そもそもお前にもあの基地にも何の期待もしとらん」
だと思った。この様子だと工作艦も無理そうだな。でも、ならなんで出頭させたんだ? “あの子”の機嫌取りか? なら必要ないと思うんだが、まあ堅物共には分からんか。
「次に工作艦だが……」
いいよどうせ無理なんだろ? 明石もヴェスタルも最前線であっちこっち働いてるとの噂だ。実際六十一鎮守府には今明石が来港しているらしいしな。
「ちょうど一隻余りがでた、持っていけ」
「ええ、承知しています。ですがせめて――え?」
「聞こえなかったのか? 工作艦の余りがでたから、持っていけと言っている」
余り? 工作艦の? いやいやそんなわけないだろ。工作艦なんて少ない艦種を俺のとこに寄越すのか? ――ん? 待て。今余りが
「あの総司令、質問が」
「却下だ。とにかく貴様はその余りを連れていけばいい。おい、連れて来い」
総司令の命令を受けて、部屋に待機していた一人が部屋を出ていく。総司令に視線を投げるが、まるで俺が見えていないかのように無視してくる。
十分程経っただろうか、再度扉をノックする音が聞こえる。どうやら例の余りとやらを連れてきたらしい。入れという総司令の言葉ののち、先程の男が入ってき、その後ろから一人の少女が入ってきた。
灰のインナーに黒のジャケット。黒ニーソに黒い軍帽。どう見ても鉄血カラー。肩まで伸びた瑠璃色の髪、青紫の瞳はどことなく悲し気な海を思わせる。背丈は駆逐艦よりちょっと高いくらいだが、それに似合わず結構いいモノをお持ちのようで――そんな少女は敬礼もせずこちらをぼんやり眺めている――こんな艦船少女、いたっけな? 必死に記憶を辿るが全く思い浮かばず、うんうん唸りそうになった時、ようやく少女が口を開いた。
「…………鉄血の一号工作艦、ワスカラン」
それがこの少女の名前らしい――
総指令室を出た俺は横にちょこんとついてくる謎の艦船少女、ワスカランを連れ本部内を歩きつつ、先程までの会話を思い出していた。
このワスカランという少女、艦船少女に間違いはないのだが、どうやら不完全な状態で建造されたらしい。そもそも艦船少女には元になる素体というものがあり、艦船少女はその素体のコピーでしかない。そして素体がなければ艦船少女は建造することが出来ない。
だがワスカランという艦船の素体は確認できていない、らしい。総司令の情報だから間違いはないだろうが。ではなぜ素体の確認ができていない艦船少女ワスカランが建造されたかというと……分からないというのが上の見解だ。けど凡その予想はつく。どうせ素体抜きで艦船少女が造れないかテストでもしていたんだろう、“あの子”と似たパターンだ。
つまるところ、艦船少女ワスカランは想定外の産物ということだ。仮にこれから先、ワスカランの素体が発見されそのコピーを造ったとしても、目の前のこの子とは違う子が生まれるかもしれない。でもそんなことはいい、問題なのはワスカランが“失敗作”扱いされたことで――
「ワスカラン、だったか? いいのか? 勝手に配属先を決められて」
「いい。どのみちボクには居場所はなかった」
厄介払いついでに俺の元に配属されたってわけだ。
「まあどっちにしろ俺の元にいても碌なことはないぞ」
「そうなの?」
「俺もワスカランと同じ、厄介払いされた側だからね」
このあとワスカランの艤装を受け取り、ヒッパーと合流して基地に帰るだけだが、その前に寄っておかないといけないところがある。まあヒッパーとの合流はそのあとでいいか。
「さ、艤装を受け取りに行こう。で、それが終わったらちょっと付き合ってくれ」
「? ああ、構わないが」
工廠に向かう間、俺はワスカランのことを色々聞いていた。なにせ初めて聞く名前だ、何も知らないままあれこれ言う気にはなれないんだよな。その代わり、ワスカランにも色々質問され、他にも他愛無い話をしている内に工廠に着いていた。さすが最大規模を誇る総本部の工廠、あっちこっちで整備員が走り回っている。近くにいた整備員を捕まえ、ワスカランの艤装の場所とついでにもう一つ聞いてから奥へと向かう。そこにあったのはまるで蜘蛛みたいな艤装だった。直方体のパーツを中心にサブアームが無数についており、さながらアシダカグモのようだ。
「これがボクの艤装?」
「そうらしいな。よっと……結構重いのな、艤装って」
こんなのを背負ってセイレーンと戦うってんだから、艦船少女ってのはやっぱすごいよな。ひとまず台車に載せ、乗ってきたボートまで運ぶとするか。っと、その前に……
「あれか……」
工廠の最奥、仕切りで厳重に守られた一角。勿論ここからでは見えない。厳重管理ごくろうなことだ。
「指揮官、あれは?」
「……最新型の艤装を造ってるんだと」
あの様子だとまだ完成まではしばらくかかりそうだな。さて、ここでの用は済んだな。先に艤装を持っていこう。
「ごめんワスカラン、俺はちょっと寄るところがあるんだ。悪いけどボートで待っててくれるか?」
「
「問題を起こさなければオーケーだ」
ワスカランを置いていくことに多少の抵抗もあるが、この用事に付き合わすわけにはいかない。大人しそうな子だし問題を起こしたりはしないだろうしな。
そして俺は鎮守府内のとある建物へと向かう――
「警備ご苦労様、通りますよ」
入口の警備員に許可証を見せ俺は建物のゲートをくぐる。上に用はない。用があるのは地下だ。前来た時を思い出し地下への階段を降りていく。あの時はこんなに堂々とはしてなかったっけか……
そうして降りることしばらく、階段が途切れ金属製のゲートが立ち塞がる。扉を押すが開く様子はない。まあそう何度も空いてたら困るか。許可証をリーダーへ通すと、電子音と共にロックが解除される音が鳴る。もう一度確認すると、今度はちゃんと開いているようだ。そのまま奥へとすすみ一つの扉の前で止まる。“あの子”の部屋。来るのはあの時以来だが、さて昂奮してなければいいのだが。意を決して扉に手を開け、ゆっくりと開けてゆく。
「やあ、久しぶり」
そこは一言で言うと廃棄場だ。そこかしこに機械の残骸が散らばり山となっている。部屋自体は一人用にしてはそこそこ広いが、窓はなく人口の明かりのみが照らすのだが、それさえも今は消えている。
「あら指揮官、来てくれたんですか?」
その中心でゆったりとコーヒーを楽しむ女の子。黒を基調とし赤がアクセントで入っているお馴染みのカラーリングの軍服。ただし胸のところはグレーで、しかもその大きさからかボタンがはちきれそうになっている。ピンクがかった金色のショートヘアをしており、おだやかな表情を浮かべている少女。一見部屋の惨状からは想像できないが、この少女こそがこの部屋の主だ。
「野暮用でここまで来させられたからね。ならローンに会っていかないと損だろ?」
ローン――鉄血の計画構想で終わってしまった巡洋艦の名を冠する艦船少女。艦歴を持たない特別な存在、計画艦開発プロジェクトの産物、軍事機密の塊だ。俺もあの日ローンに合わなければ知ることもなかったんだが。つくづく“彼女”には礼を言いたくなるよ。
「私も指揮官に会えて嬉しいです。コーヒーでも如何です?」
「貰うよ。けどその前に、これを掃除しないと……」
部屋に散らばった残骸。この部屋に入れる者も入りたがる者も少ないため放っておいたら大変なことになる。前入った時は壁際の残骸が天井に届きそうになっていた。あ、そうだ。
「ローン、この残骸俺が引き取ってもいい?」
「いいですよ~? 私、もうそれに興味はありませんから」
まるで他人事のような反応をしているが、この残骸を生み出したのはローンだ。
既存艦より高スペックを誇る計画艦だが、その実現には苦労したらしい。なんでもイメージを形に変えるためにあーだこーだとか。まあ難しいことはいいんだ、俺の管轄外だ。問題なのは、ローンの人格に問題がある、らしいこと。普段のローンはこの通りゆるふわ系お姉さんって感じだが、こと戦いとなると性格が豹変し敵の全てを粉砕せんとばかりに暴れまわる。そしてそのことに疑問を抱いていない。そのことにお偉いさん方は危惧を抱いているらしいが……
「お前、ホント壊すの好きだよな」
「あら、私達艦船少女は敵を倒すためにいるんですよ? 敵を破壊することが好きで何が悪いのです?」
この通り、疑問どころか訝しむこちらを不思議に思うくらいだ。確かに歪んでいる。けどこれがローンの意思で、ローンが自分を制御できているのならそれでいいと俺は思う。
『私は自分の意思でこの道を選び、進んできた。そのことに後悔などない――』
“彼女”はそう言った。俺もそれに賛同したんだ。ならそれでいい、そのままでいい――そうだろ? 『――』
「いや、何も悪くないさ。コーヒー、いただくよ」
彼女の淹れたコーヒーを味わいつつ、今はこの二人の時間を楽しむことにしよう――
ローン
鉄血のガチでやべーやつ。ギューって抱きしめられつつ鯖折りされたい。説明終わり。
ワスカラン
ドイツ第三帝国海軍の工作艦一号。元々はドイツの貨客船。ドイツ海軍の基地があったノルウェーのローフィヨルドへ回航され、その地で終戦を迎える。シャルンホルストやグナイゼナウ、プリンツ・オイゲンなどの修理を行ったこともある。終戦後は名を変え国籍を変え各地を転々とし活躍する。以上ウィキペディア先生からの教え。間違ってたら教えてくだせい。
オリキャラワスカランちゃん。ドイツの工作艦が欲しかったんや……
小さめ青髪青眼軍帽被り黒ニーソクール巨乳ボクっ娘っていう俺の性癖欲張りセット。ニーソかタイツかで迷ったけど黒ニーソって響きが最高にグッドなのでニーソ。異論は認める