「んぅ……ここは……?」
「気が付いたか?」
「……バカ指揮官?」
読んでいた本を置き、ヒッパ―へ向き直る。どうやら意識はハッキリしているようだ。この様子なら大したことはないだろう。
「ここは俺の基地。ったく心配かけさせやがって。覚えてるか? お前気絶してたんだぞ?」
あのあと一向に顔を見せないヒッパーを探してみたら通路で倒れてるんだもんな、正直焦った……ひとまず連れて帰り、ベッドに寝かせてから早数時間。目を覚ましてくれて本当に良かった。
「……ゴメン、指揮官」
「なんで謝る? あれは俺の確認ミスだ、俺のほうこそすまなかった」
「バカっ! なんでアンタが謝るのよっ! 私がアンタの指示に従わずに先行して、それで――っ!?」
急に立ち上がったせいかふらつくヒッパー。咄嗟に支えることに成功したものの、ヒッパ―はこっちに寄りかかったままだ。まだ本調子ではないのだろう。ゆっくりと彼女をベッドに横たえる。
「無理するな、とにかく今は休め。さて、俺はもう行くよ」
落ち着いたのか、静かになったな。さ、まだ仕事が残ってるし部屋に戻るとするか……
「……………………ありがと、バカ指揮官」
部屋を出る直前、ヒッパーが何か言った気がするが、良く聞こえなかった。まあ、大したことじゃないだろう。特に返事などもせずその場をあとにした。
「帰ってきたね、指揮官」
夜も更け、艦船少女達も寝静まった基地。今日は散々な目に遭ったのでとっとと寝ようと思っていたのだが、どうやら先客がいたらしい。
「どうしたワスカラン。夜も遅い、今日は疲れただろ? あっ、それとも部屋が分からないのか?」
「違う、指揮官に用があってきた」
「俺に? もしかして一緒に寝てほしいとか?」
「違う」
……まあこうなるんじゃないかとは思っていた。あの時口を滑らしてしまったからなぁ。身から出た錆か、仕方あるまい。
「じゃあ、一体なんなんだ? 俺はもう寝るとこなんだけど」
「指揮官はここで寝るのか? ……いやそれも問題だけどボクの用はそれじゃない――グロース・アイゼンブルートって、なに?」
やっぱりか、まあそうだよな……
「グロース・アイゼンブルートとはなんだ?」
「なにって……指揮官、ボクを馬鹿にしてるの?」
予想外の言葉だったのかワスカランは一瞬呆けた顔をしたが、次の瞬間にはこちらを睨んでいた。弁明するが、別に馬鹿にするつもりは微塵もない。けどなぁ、面倒な問題だからなぁ。
「そうだな、じゃあまず既知の情報から教えておくか――グロース・アイゼンブルートは存在しない」
「……どういうこと?」
「アズールレーン総本部はグロース・アイゼンブルートなるものの存在を関知していない。何ならデータベースでも見るか? 俺の権限で見れる範囲に限定されるけど」
「でも、さっきのあれは……」
「あれか、あれは
「レッドアクシズの、残党……?」
一気にチグハグな情報を与えすぎたからかワスカランは困惑しているな、頭の上に疑問符が見えるようだ。あれ? そういやワスカランはレッドアクシズのことは知っているのだろうか? 艦船の記憶が曖昧だとか言ってたし。
「レッドアクシズのことは知ってるよな?」
「……ゴメン、分からない。会った時も言ったけど、ボクの記憶は曖昧で……アズールレーンのことも、実はよく分かっていない」
これは、思ったより重症だな……確かに、厄介払いされるだけのことはある。一応、軽く教えておくとするか。
「多少長くなるけど、いいか?」
「うん」
「そっか……椅子に座ってろ、コーヒーでも出してやる」
「セイレーンに対抗するためアズールレーンが出来たのは知ってるな?」
「今知ったよ」
「あ、そう……でもセイレーンが敵なのは知ってるんだな」
「それは、なんだろう? 本能?」
「艦船少女としての本能か……まあいいや。でもセイレーンと戦う内に考え方の違いから二つの派閥が生まれてな。あくまで人類の力でセイレーンを倒すべきだと主張する側と、セイレーンの技術を利用してでも敵を倒さんとする側。両者の溝はどんどん拡がっていって、ある時セイレーン技術利用派がアズールレーンから離反した。これがレッドアクシズだ。
それが切欠でセイレーンそっちのけでアズールレーンとレッドアクシズの内戦が始まった。でもまあ、それも終結して結局レッドアクシズは解体、元鞘に戻って一つとなった。一部を除いて、ね――その僅か数日後、元レッドアクシズの艦船少女が脱走した。以降彼女達はアズールレーンから追われる身となっているわけ。そんな彼女達はアズールレーンからレッドアクシズ残党と思われてるってとこかな」
一息つくためにコーヒーを啜る、やはりインスタントのコーヒーはちょっと苦い。今度ニーミに美味しい作り方を教わるとしよう。
「長くなったけど、分からないところはあったかい?」
「いや、大体はわかったよ。それで、その残党がグロース・アイゼンブルートだと?」
「俺の口からはとてもとても。次憲兵にひょっぴかれたら間違いなく処刑されちまう。意味、分かるよな?」
アズールレーンが把握していない“
「一つだけ、いいかい? ――指揮官は、誰の味方なの?」
確かめるような、疑うような、縋るような――そんな目で俺をみつめるワスカラン。きっと不安なんだろう、自分も知る者も味方も誰一人おらず自分さえも分からない――俺には想像もできない不安に包まれているのは確かなんだろう――
「俺はお前たち艦船少女の、お前の味方だ」
「っ!! 指揮官っ!!」
ドンっ! と音がしたと思ったらワスカランが俺の胸に飛び込んできていた。そうか、そうだよな、不安だったんだもんな……うん、やっぱり放っておけない――そうだ、俺はこの子を笑顔にしてやりたい、守ってやりたい。そう思った――
「バカ指揮官、ちょっと話が――な、何してんのよっ!?」
「んぅ……?」
なんだ、うるさい……ああ、この罵倒はヒッパーだ。身体はもう大丈夫そうだな、こんだけ叫べてるわけだし。
「おはようヒッパー。朝から元気だなお前……」
「やかましい! とっととその子から離れなさいよっ!」
何言ってんだ? その子? おいおいここは指揮官室だぞ? ここで寝るようなのは俺しかいないって。未だにガミガミ叫ぶヒッパ―から逃げるように布団に潜り込む。と、顔に何かが当たる。あったかくて柔らかくてなんとなく安心できるなにか……それだけじゃない、布団の中には柔らかいなにかが。抱き枕だろうか。まあいいや、これでも抱きしめてぐっすり昨日の疲れをとるとしよう。ぎゅーっと……
「んんっ、指揮官……もっと、暖めて……」
……んん? 今抱き枕が喋ったような。いやそんなことないか。抱き枕だし――
「すー、すー……指揮官、ボクを――」
「うわぁ!? わ、ワスカランっ!?」
ワスカランだこれー!!?? な、なんで俺のベッドの中に……ってか、さっきの温かくて柔らかいのって、もしかして――
「こ、この……ヘンタイバカ指揮官!!」
「おぐぅ?!」
――何故かヒッパーにグ―で殴られた。お前には何もしてないじゃんかよ……
Q,“
A, ああ! それってレッドアクシズ残党?
アズレンとレッドアクシズの抗争が既に終わってる
でも一部が脱走して残党してる
え? 四行だって? 答えは三行だから……
艦船少女ってやっぱ柔らかいのかな? どんな匂いするのかな? やっぱ海の匂い? でも海の匂いってなんだよ。じゃあ女の子の匂い? 彼女いないからよくわかんね。でも柔らかそう……