魔法少女終末旅行   作:PAPA

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第2話:棄てた者

昼食を終えたナルミ達は再び歩き出していた。

ガラス張りのビルが立ち並ぶビジネス街には恐らくあの日ここを行き交っていたはずのサラリーマンの持ち物だと思われる鞄や荷物が道に散乱していた。

そして散乱していたのはそれだけではなかった。

 

「いるね。魔法少女が」

 

「ああ。それも相当危ない戦いをする奴だな」

 

大量の瓦礫である。

それの元であっただろう周囲のビルはもはやビルとは呼べない程に削れていたり、完全に倒壊してしまったものもある。

他にも抉れていたり亀裂が其処彼処に走っていたり、激しい戦闘があったのだろう予想させるアスファルトの荒れ具合だったり、どうにも穏やかではない景色が先程から続いていた。

 

「ここら一帯から魔女も、あの使い魔の気配もないところを考えると、そいつの縄張りだろうな。ここは」

 

「魔女の気配が少ないところを探して通ってきたのが仇になっちゃったか」

 

「仕方ねえよ。ここを迂回するってなると、魔女の巣窟を抜けなきゃならない所だったからな。ま、ここの主が出てこねえ内にとっとと通り抜けちまおう」

 

「そうだね。ちょっと急ぐよユイ。大丈夫?」

 

ナルミの問いにユイはコクリと頷く。

 

「あたしが先導する。足元に気をつけて付いて来いよ」

 

ナルミ達はアカネを先頭に瓦礫の森の中を進んでいく。

アカネは中指の指輪を摩る。

あの日を生き残った魔法少女は大なり小なり何かを失った者たちだ。

悲しみや怒りに塗れながらも、それでも各々の理由で死にたくないが故に必死に生きている。

自分もその一人だ。

そしてその中には生きる為にかつての自分を棄てざるを得なかった者たちもいる。

自己で完結する様なモノになるならまだいい。

稀にいるのだ。

己の真理の為に他を排そうとするモノなってしまう奴が。

そして先程から感じ始めてきた辺りに漂う魔法少女の魔力の残り香。

まともに扱おうとする気すらなく、恐らくただ感情のままにぶつけただけの一撃。

そんな攻撃がこの辺りで何回も行われたのだろう。

無駄な魔力が飛散し、一帯がその魔力で飽和蒸気になりつつある。

まともな魔法少女ならこんな消耗の激しい戦闘はしない。

ここを縄張りとする魔法少女は恐らく。

 

「ナルミ」

 

ナルミは魔女以外に対する能力がとんと存在しない。

この辺りを漂う魔法少女の魔力にも気づいていないはずだ。

アカネはナルミに近づき、耳打ちする。

 

「たぶん、ここのはヤベー奴だ。覚悟だけしとけ」

 

アカネの言葉にナルミが苦虫を噛み潰したようになる。

 

「まいったね。かなりキテる感じの人?」

 

「少なくとも手当たり次第に暴れ倒す奴なのは間違いない。とりあえずユイは抱いてろ。んで何かあったら変身して走って逃げろ。そうすりゃ後は、あたしが何とかする」

 

「うん。信じてるよ、用心棒」

 

「任しとけ」

 

ナルミはユイを抱き上げる。

 

「ごめんね、ユイ。少しだけ我慢して」

 

ユイは不安そうな表情を浮かべながらも頷く。

 

「よし、じゃあ行──」

 

ほぼ反射的に変身する。

ナルミ達を抱えて、瞬時に後ろを飛び退く。

感じ取った気配の正体が目の前に落ちてきた。

 

 

ぐしゃり

 

 

「見ちゃダメ」

 

ナルミがユイの頭を抱え込む様に抱きしめる。

落ちた衝撃で真っ赤に染まったソレは辛うじて少女の形をしていた。

流れ出る真紅は徐々に染み込み、アスファルトを赤黒く変色させていく。

粘液を含んだ少女の一部が辺りに飛び散っており、その存在を鼻が強烈に示してきた。

あの日以来、ナルミ達は少なからずこういうモノは目にしてきたが、それがこんな悪意に満ちた弄び方をされるのを見たのは初めてだった。

 

「アンタだな?」

 

アカネは手に持った双剣で横から迫っていた巨大な手裏剣を叩き落とした。

飛んできた方を見据える。

瓦礫の影に佇む影。

 

「サプラーイズ! 驚いてもらえたかな?」

 

「屑が」

 

ケタケタと嗤う影にそう吐き捨てると、アカネはナルミの背中を軽く叩く。

それを合図にナルミは変身し、ユイを抱えて走り出す。

影がそれを追おうとした矢先、その足に剣が突き刺さる。

次の瞬間、影の首が飛んだ。

が、影は揺らめく様にして消える。

 

「おー怖っ。でも残念。それは分身──」

 

遠くアカネの背後に現れたのは紫を基調とした忍び装束に似た服を着た少女。

アカネを煽ろうとした少女の声が詰まる。

少女の腹に双剣の片割れが生えていた。

怯む間も無く、神速で距離を詰めたアカネの剣が少女の首に埋め込まれた紫の光を放つソウルジェムを破壊せんと迫る。

が、少女は首を無理やり捻って躱す。

曲がらない方向に無理に曲げ、ゴキゴキと首が不協和音を響かせる。

そのまま飛び退いてアカネから距離を取る少女。

逃す訳もなく追うために一歩踏み込んだところで、アスファルトを濡らしていた真っ赤なソレが爆散した。

瞬間、魔女の気配が発生する。

事態を理解したアカネが激昂した。

 

「外道が! あいつにグリーフシードを仕込んでやがったな!」

 

真っ赤なソレがいた場所から現れたのは四つのグリーフシード。

周囲の景色を飲み込む様に結界が発生していく。

凄まじい勢いで形成された結界に飲み込まれ、あえなくアカネは外界と切り離された。

 

「あー、びっくりした。速すぎんのよ。クソ化け物は仲良く化け物同士遊んでてね」

 

奇妙な方向に曲がっていた首を元に戻した少女は、発生した結界に飲み込まれて消えたアカネに悪態をついた。

 

 

 

 

 

後ろを振り返らずにナルミはユイを抱えて走り続ける。

無論、ナルミはアカネが勝つと信じているが、頭がトんでいるのが相手では何が起こってもおかしくない。

現につい先程、唐突に背後の方から複数の魔女の気配が現れた。

恐らく、相手の仕込みだろう。

理由は分からないが、明らかにナルミ達を狙っての行動。

最悪の事態も想定しておかなければならない。

腕の中のユイは怯えているのか、小刻みに震えていた。

とりあえず今はとにかくこの場から離れてユイを安全な場所へ隠れさせる必要がある。

仮に戦う事になってもユイを守りながらでは本当にどうにもならないだろう。

瞬間、左足に激痛が走る。

そのままの速度で転がりそうになるのを、なけなしの身体能力で何とか踏ん張る。

脂汗を浮かべながら、左足を見ると、クナイの様な刃物がふくらはぎを貫いていた。

 

「あれ、避けられると思ったんだけど。もしかして結構弱い感じ?」

 

背後に紫の忍び少女がいた。

最悪の展開に近い状況。

あのアカネを退ける相手では到底ナルミに勝ち目はない。

しかし、そう簡単に諦める訳にはいかない。

腕の中から怯えが伝わってくる。

大丈夫と小声で宥めて、目の前の少女に話しかける。

 

「アカネはどうしたの?」

 

「ああ、あの化け物は化け物同士で仲良くお遊戯してるよ」

 

予想は当たっていた。

アカネは嵌められ、魔女の結界に取り込まれたという事らしい。

少なくとも死んだ訳でないようだ。

ならば、やるべき事は決まった。

 

「どうして私たちを狙うの?」

 

とにかくこの場で時間を稼ぐ。

うまく会話を繋げつつ、相手の事も探っていかなければ。

 

「僕が用があるのはその子だよ」

 

腕の中のユイが一際大きく震えた。

落ち着かせようと少し強く抱きしめる。

 

「ユイを?」

 

「そ。んで君ら魔法少女は邪魔なだけ。どーせ連れてくって言ったら無駄に抵抗するでしょ」

 

「当たり前でしょう。あなたみたいな相手にユイを渡す訳にはいかない。第一にユイに何をするつもり?」

 

「何もする気はないよ。ただ少ししてもらいたい事があるだけさ」

 

「この子は何の力もない普通の人間なんだよ。何もできる事なんて」

 

少女の口が弧を描き、嗤う。

 

「だからこそさ。僕ら魔法少女じゃ出来ない事をしてもらうのさ」

 

少女の腕がぶれる。

ナルミの両肩をあのクナイの様な刃物が貫いた。

痛みでユイを抱く力が緩んでしまう。

 

「うっくっ……!」

 

「ちょっと喋り過ぎたかな。あんまりのんびりしてると、あの化け物が出てきかねないし」

 

少女の手がユイに伸びる。

渡すまいと痛みを堪えてナルミは腕に力を込めた。

どくどくと血が流れ出る。

 

「あーあ、せっかくここまでこの子を連れてきてくれたお礼に殺さないであげようと思ったけど、まだ諦めないんじゃ仕方ないね」

 

少女の手に小太刀が現れる。

そしてナルミのソウルジェムの髪飾りを狙って、構えられた。

 

「死んじゃえ」

 

そのまま小太刀が振り下ろされる───かと思いきや、少女がくるりと振り返り、背後に迫っていた剣を小太刀で弾いた。

 

「うっそ、もう出てきたの! まだ1分くらいなのに幾ら何でも速すぎでしょ!」

 

少女の目に映ったのは鬼の形相で迫るアカネの姿だった。

所々、汚れているが、目立った傷はなく、ほぼ無傷で魔女たちを屠った事が見てとれた。

 

「ああ、もう、さっさとよこせ!」

 

力づくで少女はナルミからユイを奪い取ろうとする。

ナルミも抵抗したが、両肩に傷を負っている上に、まともな魔法少女と力で競って勝てるはずがなかった。

 

「あ、駄目ッ、ユイ!」

 

奪い取られる時にユイの顔が見えた。

クシャクシャに歪み、涙と鼻水に塗れた恐怖と絶望の表情だった。

 

「やばっ!」

 

少女がユイを奪ってこの場を離れるのと、アカネが辿り着いて、その剣筋を閃かせるのは同時だった。

少女の片腕が空を舞う。

切断された腕の断面から鮮血が降り注ぐ。

少女は片腕を失いつつもユイを抱えて、走り続けていた。

 

「逃すか!」

 

アカネが少女の後を追おうとする直前、少女の断たれた腕に握られていたグリーフシードが黒く輝いた。

放たれた結界がアカネ達を取り込み、外界から切り離す。

 

「ちくしょう、またか!」

 

悪態をつくアカネの前に現れる魔女───を幾筋もの光が貫いた。

溶ける様に消滅する魔女。

同時に結界も消滅していく。

 

「すまねえ、守ると言ってこの体たらくで」

 

「仕方ないよ。むしろ複数の魔女を嗾けられても、あの速さで戻って来てくれたおかげで、私は助かった。ありがとう、アカネ」

 

負った傷で血塗れのナルミがアカネの隣に立っていた。

 

「アカネ、あの魔法少女の魔力、追える?」

 

ナルミが魔女から戻ったグリーフシードをアカネに投げ渡しながら問う。

 

「ああ、きっちり覚えてるからな。いけるぜ」

 

渡されたグリーフシードでアカネが魔女との連戦で消耗した魔力を回復する。

 

「ならすぐに追おう。あの魔法少女、ユイに何かさせるつもりらしい」

 

「どうせロクでもない事に決まってる。背負うぞ、大丈夫か?」

 

アカネがナルミを背負う際に心配するが、ナルミは傷に構う事なく、がっしりとアカネに掴まる。

 

「私は大丈夫。追ってる間に治しとくから。早く行こう。これ以上、ユイに怖い思いをさせる訳にはいかない」

 

「わかった。しっかり掴まってろよ!」

 

アカネはナルミを背負って駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、僕らの城へ。お嬢さん」

 

片腕を失くした少女はまるで何もなかった様に、にっこりとユイに笑いかける。

ユイは少女に連れられ、あるビルの一室にいた。

服は抱えられている時に少女の肩から大量に流れ出た血で真っ赤に染まり、鉄臭い匂いが染み付いていた。

 

「あー、服ごめんね。僕の血で汚しちゃった」

 

ユイは今、恐怖していた。

今まで自分を守ってきてくれたナルミとユイは目の前の存在に害され、ここにはおらず、人を殺す事を厭わない相手と二人きり。

どんなに頑張っても涙は止まらず、震え続ける事しか出来なかった。

 

「ねえ、何か喋ってよ。じゃないと勢い余って殺しちゃうかも」

 

何も言わないユイに少女が痺れを切らして、脅しをかけるが、ユイは怯えてヒュッと息を詰めるだけで何も喋らない。

 

「うーん、もしかしてこれって。ねえ、害獣。お前はどう思う?」

 

「ひぃっ、痛いやめて! ごめんなさいごめんなさい!」

 

突然、聞こえた第三者の声にユイの身体が硬くなる。

恐る恐る見ると、少女が白い猫の様な動物を頭を掴んで、持ち上げていた。

 

「いや、謝られても困るからさ。どうだって聞いてんだけど」

 

ぼとりと白い猫に似た動物がユイの目の前に落とされる。

痛みに身体を震わせつつ、動物がその紅い瞳でユイを見る。

 

「こ、この子、声が出せないみたいだ。たぶん心因性のものだと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の山を飛ぶ様に疾走するアカネは一つの懸念を抱えていた。

先程の場所で飽和していた魔力と今、追っている魔法少女の魔力。

実はこの二つは全くの別モノだった。

あの無残に弄ばれた少女のモノでもない。

体に残っていた魔力とは一致しなかった。

つまり、あんな風に暴れた魔法少女がまだ他にいるという事になる。

この近辺で騒ぐ以上、もしかしたらそちらとも事を構える事態になるかもしれない。

 

「ナルミ、話しておきたい事がある」

 

一筋縄ではいかない。

そんな予感を胸にアカネは魔力を追った。

 

 

 

 

 

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