「よ、よろしくおねがいします……プロデューサーさん……えへ。」
「こちらこそ、担当のPと言います。これからよろしくっ。」
眼の前に居る小柄な金髪の少女が、どうやらこれから俺が担当することになるアイドルの白坂小梅さんらしい。パーカーのフードを深めに被り、こちらをはにかみながら上目遣いで見つめてくる仕草に心を打たれる。
逸材だ…!確実に人気アイドルになるだけの素質がこの子にはあると感じた。
たとえどんな事があっても、俺がしっかり支えて、導いて、いつかはきっときらびやかなティアラと美しいドレスを身にまとったシンデレラにしてみせると誓った。
このときにはまだ、白坂小梅というアイドルをプロデュースすることにどういう意味があるのか、全く考えていなかった。
「プロデューサーさんの手…白くてひんやりしてて…ゾンビみたい…………カプっ」
握手のために差し出した手をアマガミされても、変わった子なのかな?ぐらいにしか考えていなかった。
小梅さんと挨拶した初日は、互いに自己紹介した後、レッスンまでの送迎とレッスンの見学をしてレッスン後はお家まで車で送ってあげたぐらいで終了した。
ご両親には、小梅さんの担当になった事をご報告し自分は本当に幸せものですと本心から伝えた。お二人ともとても優しそうな方でますますプロデュースの意欲が高まる。
気になった事と言ったら、レッスンの途中で動きがやたら緩慢になる時があったので注意すると、「ごめんなさい…ゾンビになりきちゃった…」と言い訳?したことがあったぐらいだ。体力はある方ではなさそうなので、しっかり休憩を取らせつつその後のレッスンはつつがなく終わらせた。
自宅へ送った後、こんなに可愛い子を担当にしてもらえるなんて……と笑顔で事務所に戻ると、眩しい笑顔の事務員さんが「今日もお疲れ様です!」と栄養ドリンクを差し出してくれる。明るい緑色のスーツが特徴的な千川さんからドリンクを受け取り、感謝の気持ちを伝えると「サービスです!」ともう一本ドリンクが手渡された。
可愛いアイドル、綺麗で優しい事務員……最高の職場だな!なんて考えながら栄養剤の力を借り、明日の営業に必要な書類を作り退社した。
家につくと緊張の疲れもあったのか、最低限の支度をしたあとすぐに眠ってしまった。
「うぅ……」
カーテンが開けっ放しの窓から差し込む光の熱さに目が覚める。同時に、何かが焦げたような匂いを微かに感じた。
「うぅぅ……」
重い体を引きずって取り敢えず目をさます為に洗面所まで行き、顔を洗って鏡を見ると顔の半分が真っ黒に焦げている……。
呆然と鏡を見ていると、焦げ跡は少しづつ周りから崩れていき、五分ほどでもとの肌が再生して周りと変わらなくなった。
いや、よくよく見ると、もとの肌色ではない。白い方だとは思っていたがここまで病的に青白い肌では無かったはずだ。
「これって……」
少しづつ動きの鈍かった頭が回転しだすのがわかる。陽の光で灼ける青白い肌、異常な再生力……。気がついたら俺は吸血鬼になってしまっていた!!
そのまましばらくの間呆然として自分の顔を見ていると、手があたってしまったのか昨日シャワーに入る前に外して置いた腕時計が落ちる。拾って時間を見てみると遅刻ギリギリの時間である。
「ま、まずい!」
とにかく仕事をほっぽりだす事はできないと思い、皮膚が陽に当たらぬようにスーツを着て適当なハットを深めに被り、カバンを持って家を飛び出た。
時間ギリギリに事務所に着きドアを開けると、ソファーに座って待っていた俺の担当アイドルが無邪気な笑顔で振り返った。
「プロデューサーさん…おはよう…ごめんね?おどろいたよね…?
でも、プロデューサーさんだったら…すごくゾンビ、似合うと思って……」
微笑む口から覗く長い犬歯が、妖しく光った。