ゾンビになった…?別に肌が腐り落ちてるわけでも、一度死んで蘇ったわけでもおそらく無いけれど……。自分の体の血色がいつもより多少悪いのは心当たりといえば心当たりだろうか…。
「あのね、ゾンビと言ってもうあー…って言いながら歩くんじゃなくて、死んでも死ななくゾンビなんだ……!」
いつの間にか足元まで来ていた小梅が、目をキラキラと輝かせながら教えてくれる。
死んでも死なない…?
「し、死なない?朝起きたときに顔が焦げちゃってたんだけど…」
「大丈夫だよ…?もし死んじゃってもわたしがお話できるから……」
なんて恐ろしいことを言うんだ…というか、日光を浴びすぎると死んでしまうというのは予測通りのようだ。今朝人知れず死にかけてたのか…。
ふと、背筋にゾッとするような冷気を感じ、その場で振り返る。
いつの間に入り込んだんだろう、小梅と同じぐらいの小さな女の子が自分の背後に立っていた。よく注視してみると…なんだか透けている!
「うわっ!?」
存在感、というか実体感のない少女の影に驚きその場を飛び退くと、その影は床を滑るように移動し小梅の隣に並んだ。
薄く微笑んでいた小梅の笑みがより一層深まる。
「プロデューサーさんも…見えるようになったんだ……。おそろいだね…えへへ…」
隣に並んでいた少女の影が床から浮かび上がり、こちらと視線が合う。
表情に乏しく青白いその顔は意外に綺麗で、見つめているうちにその淀んだ目にだんだん吸い込まれるように感じ、すこしづつ意識が遠のいていった。
「―デューサーさん!プロデューサーさん!」
事務員の千川さんが自分を呼ぶ声で目が覚める。おかしいな俺はさっきまで一体何を…?
「ご、ごめんなさい…!プロデューサーさん…」
腕を小さな手に握られてそちらを向くと、小梅が申し訳無さそうな顔でこちらを見つめている。その隣には先程見ていた女の子が立っている。表情はよく読めないけどなんだかしょんぼりしているように見える。
「あの子が、見える人に初めてあって嬉しくなっちゃったって……」
見える人……なんとなくそんな気はしていたけど幽霊だったのか…。吸い込まれる感覚はもしかして命の危機だった?整理がつかない頭で考えていると、目の前に千川さんの顔が現れた。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど…特製ドリンクがありますよ!」
手にはいつも手渡してくれるおなじみのドリンクが握られている。人が倒れるのはドリンクでなんとかできる問題じゃないと思うんだけど……。
とりあえず親切はもらっておくタイプなので、手渡されたドリンクは普通に飲み干す。
うん、スタミナが全回復した気がする。
って言うか今何時だ!?慌てて左腕の腕時計を確認する。マズイっ!今日はベテトレさんのレッスンだ、遅刻はできない。
千川さんにドリンクのお礼を伝えるとすぐに体を起こし、小梅を抱えて部屋を出た。
「わわっ…す、すごいっ!」
小梅が軽いのもあるが、いつもよりパワーが増しているのか、女の子一人を抱えて階段を全力ダッシュするなんて普段の自分からは考えられない。
小脇に抱えられた小梅目線ではものすごく激しいアトラクションのようだろう。
レッスンスペースがある階まで辿り着き勢いよくドアを開けると、
「ずいぶんギリギリだな…」
腰に手を当て仁王立ちで待っていたベテトレさんと、その後ろに浮いているあの子が居た。
レッスンが終わり疲れ果ててしまった小梅をおんぶし、自宅へ送り届けるため車へ運ぶ。
小梅があの子と呼ぶ幽霊の少女は、意思の疎通ができるようで朝のことを直接謝ってきた。自分が気にしてないという意思を伝えると、その後営業周りをしている自分の周りに付いて来るようになり、今ではすっかり馴れたのか小梅をおんぶしている背中とは逆の正面にしがみついている。
カブトムシにたかられた木みたいな気持ちだが、好かれているみたいで悪くないし、暴走しなければ大人しいようなので無害だろう。
駐車場に付き、車に乗り込んで小梅を助手席に、この子を後部座席に置き小梅の家まで走らせた。
車を会社に戻し、自宅へ帰宅する。帰り道であちこちヒトガタの影を見ているが、関わらなければどうということはない。無視しよう無視。
家に帰り着き、ため息をつきながらテレビの前に座り込むと、テレビの後ろの壁からヒトガタの影が列をなして出てくる……。道でもあるのかひっきりなしに影が行き来してモニターが全然見えない。
「いや、テレビ見たいんだけど!」
思わず大きな声を出すと、なんだなんだお前見えるのかと、影たちがおっかなびっくりこちらへ近づいて周囲を囲み始める。
話し相手に飢えていたのか、次々と自分たちのしたい話をまくし立ててきた。
いや、邪魔……!結局この日はテレビを見ることもできず霊に粘着されて終わった。
布団に入ってくるなって!!
霊が視える弊害