ゾンビPはめげない   作:桟橋

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マタンゴ

 突然だがうちの事務所の一角にはキノコの栽培用の培地が用意されている。もともと沢山のアイドルが居る影響で、それぞれの趣味の物品が事務所に置かれているため特に目立つこともなく周りに受け入れられていた。

 

 キノコの管理をしているのは星輝子さんというアイドルで、仕事もレッスンもない日でもキノコの面倒を見に来るぐらいキノコが大好きなそうだ。

 本人はキノコにシンパシーを感じているそうで、ジメジメした日陰を好んでいるらしい。

 

 小梅に交友関係を尋ねたときに名前が上がったアイドルの一人であり、普段の落ち着いた性格は小梅の大人しい性格と相性がいいようで事務所内で一緒に過ごしているところを度々見かける。

 輝子ちゃんがカワイイという話を本人の前で小梅からされたこともあり、「こ、小梅ちゃん……そ、その……気持ちは嬉しいけど……は、はずかしい……から……」と熱弁している小梅を遮ろうとする星さんは確かにCuと見紛う可愛さだった。

 

 そんな星さんが育てているキノコの中に、どの図鑑を見ても見当たらない奇特な形をしたキノコが生えたのがつい先日の話である。しめじが巨大化したようなそのキノコは不思議な香りを放っていて、つい時間を忘れて嗅いでいたくなるような芳醇な香りは事務所中に知れ渡り、連日見学者が訪れる人気スポットになった。

 

「う、嬉しいけど……ちょっと人が増えて……ボッチには……つらいぞ……」

 

「わ、私は……輝子ちゃんと、お話できて嬉しいよ……?」

 

「あ、ありがとう……私も……そう思っているぞ……ふひっ」

 

 人の行き来が増えた培地の辺りから、担当プロデューサーの机の下に一時的に避難した星さんは、その隣の机の下に星さんを真似て入っている小梅に複雑そうに語っている。

 仲がいいのは素晴らしいことだが自分のプロデューサーの机の下に入るところまで真似なくても、と注意すると「プロデューサーさんの机には……いっぱい友だちがいるから……だめ?」と恐ろしい理由で懇願されてしまった。家に霊の通り道があることを自覚して以来、自分の周りに霊がつきまとっているのはなんとなく見えていて、特に悪さもしていないので放置していたのだが……事務所のモノにも影響が出ているとは思わなかった……。

 

「コレが……そのキノコ……カッコイイだろ……ふひ」

 

 星さんが小さな鉢に入った例のキノコを自分にも見せてくれた。じっと見ると確かに変な形をしている気がする……それに、いい匂いがする……。

 ずっと嗅いでいたい……頭にはそれしか浮かばず、段々と鼻先とキノコの距離が縮まり……鼻が傘に軽く触れた。

 途端に、キノコから胞子が弾け飛び視界全体をを覆った。

 

「うわっ!?」

 

「な、なんだ……!」

 

「プロデューサーさん……!」

 

 近くにいた星さんと小梅も胞子に巻き込まれたようで驚きの声をあげた。

 あまりに突然で思いっきりその胞子を吸い込んでしまう。壮絶な息苦しさに頭痛を覚えながら見えない2人に呼びかけた。

 

「ふ、2人とも大丈夫か……!?」

 

 ケホケホと2人分の咳き込む声が聞こえる。なんとか大丈夫みたいだ。急いで窓のある方へ移動し開いて換気を行った。視界を遮る煙が薄くなり始める。

 少しづつ見え始めた2人の姿は明らかに人間ではなかった。

 

「なっ……」

 

 あまりの光景に絶句してしまう。2人の姿は例のキノコに変わってしまっていた。

 

「小梅ちゃん……大丈夫か……っ!」

 

「輝子ちゃん……?プロデューサーさんは……!」

 

 2人もお互いの姿を確認したのか驚きの余り固まってしまった。開かれた窓の方へ胞子が流れていき視界が完全に晴れると、そこには人のシルエットになったキノコが3株存在していた。

 

「こ、これって一体……」

 

 2人がお互いの体に触れ合って本当にキノコになってしまったのか確かめている。自分も顔や手を触って確かめると、確かにそこには人間の顔と手が存在していた。

 

「げ、幻覚を見てるのかも知れない……!し、新種だ……!」

 

 星さんが熱のこもった声で呟いた。幻覚、確かにそう考えるしかないだろう。少なくとも触覚は正常のようだ。動転していた頭が少しづつ冷静に戻り始める。

 

「これって……みんながあぶないんじゃない……かな……」

 

 小梅がふと呟いた言葉にハッとする。そうだ、人が多くて避難してきたから3人の被害で済んでいるが、星さんのキノコが多数置かれた部屋は今、見学者でいっぱいのはずである。

 

「マズイっ」

 

 キノコに触れないように伝えようとその場から走り出そうとしたとき、隣の部屋から甲高い悲鳴が一斉に上がる。遅かったか……急いで向かうと胞子が部屋中に充満していて、必死に窓を開けて換気していた。

 ざっと見て少なくとも2桁のキノコの影が見える……。

 胞子が窓から出ていき少しづつ互いの姿が視認できるようになり、明らかに人間ではない姿になった同僚たちを見てしまったのか、再度悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 結局、幻覚の症状が収まるまでの数時間は仕事どころではなく、事務所中が大混乱に陥ってしまった。症状が収まり混乱が収拾に向かうと、上からの命令で危険物処理班が星さんのキノコの回収に出動し、大層な名前の研究所に運ばれた。

 

「くぅ……元気にやれよ……お前ら……ぐすっ」

 

 次々と運び出されるトモダチたちに涙目になりながらも、今回の件の責任を重く捉えた星さんは止めることなく見守るだけだった。

 

 

 

 星さんのキノコ培地はあらかた撤去されてしまい、再度設置することも禁止されてしまった。しかし、いつもよりも一層しょんぼりしてしまった星さんを見て重役も可哀想に思ったのか、個人の机の下に置ける分だけ用意してもいいというルールに変わり、彼女の担当プロデューサーの机の下は小規模なキノコ農園となった。

 小梅とは机の下を行き交う仲になり、日替わりで互いの机の下に行きおしゃべりをしているらしい。

 トモダチ(キノコ)の数は減ったが、大切な親友(こうめ)が出来てわたしは幸せ者だ。とは星さんの談。




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