バーサーカーのマスターかどうかを確認する為、慎二と凛はイリヤスフィールに接触します。
しかしイリヤの居城で慎二達は、衝撃の事実を知る事に……
結局慎二達は再びバーサーカーと闘う事になりますが、その最中にとうとう最後のマスターが現れます。
更にはその場に、もう一人のマスターが……
その日は午前の内に桜の病院に寄り、昼頃に遠坂と穂群原学園の前で待ち合わせた。
イリヤスフィールは、現在この学園の生徒だ。まずは、普段の彼女の様子を探ろうという話になったからだ。
僕達は六年振りに、穂群原学園の門をくぐる。僕は学生時代の衛宮を思い出し、少しばかり感傷に浸っていた。すると……
「慎二!ボーッと突っ立って無いで!」
そう言って、遠坂が僕の腕を引っ張って来る。
「とりあえず、職員室に行くわよ!」
僕はそのまま引き摺られるように、遠坂と共に校舎の中に入って行った。
職員室には藤村先生が居て、見学を申し出ると快く了承してくれた。その後僕達が校庭に出ると、丁度昼休みになったので生徒達が大勢外に出て来ていた。
「慎二さ~ん!遠坂さ~ん!」
そう呼ばれて後ろを振り向くと、美遊ちゃんが手を振りながらこちらに元気に駆けて来る。
その様子を見る限り、彼女は本当に元気になったようだ。加えて昔に比べると、より明るく活発になったようにも思える。当時は病弱なせいか学校にも行けず、殆ど家に閉じ籠っているだけだったから。
「どうしたんですか?今日は?」
「え?……ああ……せ……折角こっちに来たんだから、久しぶりに母校を見てみたくなってね……」
僕は、適当に理由をでっちあげた。
「そうなんですか?……で、どうですか?六年ぶりに訪れた母校は?」
「え?……いや……その……」
だがその場凌ぎの返答の為、後の対応に困ってしまう。
「施設や先生達は余り変わっていないけど、美遊ちゃんも含めて学生達の質は上がっているわね?私達の世代より、皆賢そうでしっかりしているわ」
「またぁ!遠坂さんって、本当にお上手ですね?」
遠坂のこう言うところは、本当にさすがだと思う。即興で、当たり障りの無い返答を返して来る。そうやってしばらく談笑していると……
「美遊~ぅ!」
美遊ちゃんを、一人の少女が呼んだ。
雪のように綺麗な銀の長髪の、小柄で赤い瞳の少女だった。
「あっ、イリヤ!……待って!今行くねっ!」
『?!』
美遊ちゃんの言葉に、僕達は揃って反応する。
彼女がイリヤスフィール?美遊ちゃんの友達だったのか?
「それじゃあ慎二さん、遠坂さん、ゆっくり見学して行って下さいねっ!」
そう言って美遊ちゃんは、その少女に向かって走って行く。僕らは手を振って、笑みを浮かべながら彼女を見送っていた。
すると、イリヤと呼ばれる少女とも目があった。その少女はにっこりと笑って、僕達に丁寧にお辞儀をして来た。釣られて僕らも、彼女にお辞儀を返した。
美遊ちゃんと合流したイリヤは、その後は振り向くこともせず二人で走り去っ行った。
「あの娘が、イリヤスフィールね?」
遠坂が言う。
「あんな可愛い少女が、本当にバーサーカーなのかい?」
「外見に惑わされない方がいいわよ。昨日貴方を襲ったアサシンだって、変身後に大きく体型を変化させたんでしょう?」
「だからって……あの娘とバーサーカーじゃ違いすぎるよ!」
「まあそれは追々調べるとして……私はちょっと、先生方にイリヤスフィールの事を聞いてくるわ。貴方はどうする?」
「ん?ああ……僕は、ちょっとその辺を見て回りたい……」
「そう……じゃあ、一時間後にまたここで落ち合いましょう」
そう言って、遠坂は職員室に戻って行った。
遠坂と別れた僕は、一人弓道場へと向かった。
昼休みにここに屯する部員はいないのか、弓道場には誰も居なかった。中に入り射場に立って、僕は回想に浸る。
六年前、まだ衛宮が退部する前、僕と衛宮と桜が、一緒に居られた時間。思えばあの頃が、一番充実していた時代だったかもしれない。衛宮の弓は正に百発百中で、本気で狙ってあいつが的を外すところは見た事が無かった。桜は、そんな衛宮の射形に見惚れていた。それは男の僕でも、惚れ惚れするくらいだったから……
そんな事を考えていたら余計に哀しくなり、胸が締め付けられるようだった。とても居た堪れなくなり、僕は直ぐに弓道場を後にした。
その後も校内をぶらぶらと見て回り、一時間後に遠坂と合流する。先生達に色々聞いても、大した情報は得られなかったようだ。そうなればもう直接、本人に問い質して見た方が良い。遠坂はイリヤスフィールの住所を聞いて来たが、それが偽の住所である事を見抜いていた。そこで僕達は、学校が終わるまで学園の外で待つ事にした。
一旦学校の外に出て、僕達はイリヤスフィールが下校して来るのを待つ。
下校時刻が近付いた頃、一台の黒い外車が現れ校門の近くに停まる。かなり立派な金持ちが乗るような車で、どうにもうちの学校には不釣合いな感じがする。
しばらくすると校門から、仲良く話しながら美遊ちゃんとイリヤスフィールが歩み出て来る。それと同時に、黒い外車の後ろの席のドアが開く。
「じゃあ美遊!また明日ね!」
「うん!また明日!イリヤ!」
校門の前で美遊ちゃんと別れたイリヤスフィールは、開かれたドアからその車に乗り込んだ。そして、車は走り出して行く。
「追うわよ!」
「あ……ああ!」
僕達は予め呼んでおいたタクシーに乗り込み、その車を尾行して行った。
イリヤスフィールを乗せた車は、冬木市郊外の樹海の所まで行き、更に樹海の奥へとどんどん進んで行った。しかしタクシーはそこまで入っていけなかったので、僕達は樹海の前で降ろされてしまう。
そこからは歩きになってしまったが、遠坂が使い魔に車を追わせていたので道には迷わなかった。一時間くらいは掛ってしまったが、何とかイリヤスフィールの家には辿り着いた。
ただその屋敷を見て、僕は呆気に取られてしまう。そこはまるで、西欧の巨大な城だった。間桐の家も西欧風の大邸宅ではあるが、ここは桁が違う。まるでここの空間だけ、日本では無いかのようであった。
「行くわよ!」
呆然とする僕とは違い、遠坂はどんどん進んで行く。豪華な玄関の扉の前に立ち、躊躇する事無く呼び鈴を鳴らす。
しばらくして扉が開き、西欧の白いメイド服を着た女性が姿を現す。
「どちら様でしょうか?」
「始めまして。私、遠坂凛と申します。イリヤスフィールさんにお会いしたいのですが……」
全く物怖じせず、堂々と話す遠坂。僕は、唯々圧倒されていた。
「申し訳ありません。イリヤお嬢様は、アインツベルン家の御当主で有らせられます。ご予約の無い一般の方々を、おいそれとお通しする訳には……」
そのメイドは、遠坂を門前払いしようとする。
「セラ!」
ところが彼女の言葉を、後ろから少女の声が遮った。
「その方は、この地の霊脈の管理者である遠坂家の御当主様ですよ!無礼な物言いは控えなさい!」
それは、イリヤスフィール本人であった。
「は……はい!も……申し訳ありません!……遠坂様、ご無礼をお許し下さい」
そう言ってセラと呼ばれたメイドは、深く頭を下げて遠坂にお詫びをする。
「いいのよ」
遠坂は、それをさらっと受け流した。
イリヤは僕達の所まで寄って来て、改めて遠坂に詫びて来る。
「大変失礼致しました。どうぞお入り下さい……セラ、お二人を応接間にお通しして」
「畏まりました」
そうして僕達は、パーティー会場かと思われるような広い応接間へと通された。
しばらく待たされた後に、応接間にイリヤが現れる。既に学校の制服では無く綺麗なドレスに身を包み、正に貴族のお嬢様と言う姿に変わっていた。気品漂う雰囲気も、学校で見た時とは全く違っていた。
「ようこそおいで下さいました。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」
ドレスの裾を両手で上げ、西欧の貴族風の挨拶をするイリヤ。僕達も立ち上がって、彼女に挨拶を返す。
「遠坂家六代目当主、遠坂凛です」
「と……遠坂さんの高校時代の同級生で、城戸慎二と言います」
“間桐”とは言わなかった。事実上勘当されているし、間桐の後継者と見られるのも嫌だったからだ。
挨拶が済み、皆席に着く。
まずはイリヤが、口を開いて来る。
「遠坂さんは現在はロンドンの時計塔にいらっしゃるとお聞きしていましたが、いつこちらに?」
「はい、一週間ほど前から」
「こちらには、どのような御用で?」
「はい、知人に呼ばれまして。とある、儀式に関する事で……」
遠坂は、いきなり本題に入っていく。
「儀式……ですか?」
「はい……“聖杯戦争”という儀式です。もちろん、ご存知ですよね?」
「はい、当然知っています。元々私は、その為に生み出されたと言ってもいい存在ですから……ですがこの冬木では、もう聖杯戦争は無くなった筈ですが?」
「それが、また始まるとしたら?」
「それは有り得ません。だから、私もこうして普通に暮らせているのですから」
「これを、ご存知では無いですか?」
そう言って遠坂は、カードデッキを取り出してイリヤに見せた。
「おい!遠坂!それは……」
流石にそんな宣戦布告みたいな真似をされて、僕はつい狼狽えてしまう。
「何ですか?それは?」
しかし、イリヤの反応は僕達の予想を裏切るものだった。
「え?……ご存知無いですか?」
「はい……見た事も無い物ですが……」
これには、さすがに遠坂も怪訝な表情をしてしまう。
「もし六年前の……私が聖杯となる筈だった聖杯戦争の事をお聞きしたいと言われるのでしたら、お力になれるとは思えません」
「え?……それはどういう事ですか?」
「私……その当時の記憶が無いのです。この冬木に来てから、聖杯が封印されるまでの記憶が……」
『……』
僕達は、言葉を失ってしまう。
その後は、もうこちらからは何も聞く事が無かった。と言うよりも、聞いても仕方が無かった。
今起こっている聖杯戦争については、カードデッキやクラスカード等、キーとなる事柄をイリヤは何も知らない。六年前の行われなかった聖杯戦争に関する事は、完全に記憶が無い。これでは全く話が進まないので、続けても何一つ得られる情報は無い。
こちらがさじを投げてしまうと、今度はイリヤの方からいろいろな事を聞いて来た。それはもちろん聖杯戦争の事等では無く、穂群原学園に関する事だった。僕も遠坂も、あの学校のOBで(僕は、家出したから中退だが)彼女の先輩にあたる。現役の穂群原学園生であるイリヤにとっては、聞きたい事は山程あるだろう。
更に僕が美遊ちゃんと昔からの知り合いと判ると、今度は美遊ちゃんに関する質問の嵐になった。美遊ちゃんはイリヤにとって、初めての同世代の友達だったからだ。そんな質問をする時の彼女は、貴族のお嬢様では無くどこにでも居る普通の十七歳の女の子だった。
その後“是非夕食をご一緒に”と言われ、準備のために少し待たされる事となった。
イリヤは自分の部屋に戻り、僕達はバルコニーに出て外の風に当たりながら話をしていた。
「無駄足だったかしらね?」
そう、遠坂は言う。
確かに、彼女程マスターとして適した人間は居ない。聖杯の器としての機能は無くなったが、その体にはまだ常人とは比べ物にならない数の魔術回路が残っている。その上、彼女はアインツベルン家の現当主だ。遠坂と間桐が聖杯戦争で戦う運命だと言うなら、アインツベルンもそういう事になる。衛宮が、彼女をマスターに選ばない筈が無い。
しかし、彼女は何も知らない。カードデッキの事も、クラスカードの事も、現在既に新たな聖杯戦争が始まっている事でさえ。
「どう見ても僕には、彼女が嘘をついているようには見えないよ」
「私もよ。綺礼は例外だけど、全く動揺のそぶりも見せないであれだけ嘘を並べられる人間はまず居ないわ」
綺礼は例外って……じゃあ、あの神父は人間じゃ無いのか?
まあ確かにあいつなら、顔色一つ変えずに虚言を並べられそうだが……
自室で鏡を見ながら、髪を整え直しているイリヤ。その鏡の中の彼女の後ろに、突然ある男性の顔が映る。それは、衛宮士郎であった。
「えっ?……誰?」
イリヤは慌てて後ろを向くが、自分の背後には誰も立っていない。だが前に向き直ると、やはり鏡の自分の後ろには一人の男性が立って彼女をじっと見詰めている。そして士郎は、イリヤに向かって言って来る。
「敵のマスターが目の前に居るのに、何故戦わない?イリヤ……」
「ま……マスターって……」
士郎の顔を見ている内に、イリヤの様子が変わっていく。表情がどんどん強張っていき、目の焦点も合わなくなっていく。
「し……シロ……ウ……」
徐々に彼女の瞳も、狂気に満ちた目へと変貌する。
「シロウ……コ……コロス!」
イリヤの体から、只ならぬ魔力がオーラのように溢れ出し始める。
その魔力を、少し離れた場所に居る凛も察知した。
「……っ?!」
「ん?……どうした?遠坂?」
「何なの?……こ……この異常な魔力は?!」
血相を変えて、部屋の中に戻って行く凛。
「お……おい!遠坂!」
凛は部屋に戻るや否や、廊下へと飛び出して行く。そして膨大な魔力の元に向けて、全速力で駆け出して行った。
「おい!何処へ行くんだよ?」
慎二も、慌ててその後を追った。
凛はイリヤの部屋へと駆け込んで行き、慎二もそれに続いた。部屋に入った二人は、そこに立つイリヤの姿を見て愕然としてしまう。
「い……イリヤ?」
イリヤの妖しく光る赤い瞳は、完全に正気を失っていた。
そして彼女の全身からは凄まじい魔力と、異常なまでの殺気が溢れ出している。とても先程までの、気品漂うお嬢様と同一人物とは思われなかった。
「チ……チガウ……」
凛が彼女の名を呼んでいたが、イリヤはそれを否定して来た。
「え?……違うって……何が?」
「イリヤジャ……ナイ……ワ……ワタシハ……クロエ!」
「く……クロエ?」
「べ……別な人格が現れたの?」
イリヤ……いや、クロエの言葉に、慎二と凛は更に驚いてしまう。
「ミンナ……コロス……」
そう言いながら、クロエは左手を上げる。するとそこに、褐色のカードデッキが出現する。
「か……カードデッキ?!」
「あの色は?……」
更にクロエは、右手も上げる。右手には、バーサーカーのクラスカードが出現した。
クロエは左手のカードデッキを腹部に当てて装着し、そこに右手のクラスカードをセットする。
「ヘ……ヘンシン!!」
『Install……Berserker!Heracles!』
クロエの周囲に、巨大な鎧のパーツが出現する。それらは次々と、彼女の体に装着されていく。それによりクロエの体は、原型を全く留めていない姿に変貌していく。頭部にはまるで飾りのように仮面が乗って、褐色の鎧の巨人が完成する。更にはその全身に、血管のような赤い筋が現れて輝き出した。
「や……やっぱり、彼女がバーサーカーだったのね?」
「だ……だけど、クロエって何だよ?彼女は本当にイリヤなのか?」
「それどころじゃ無いわ!こっちも変身するのよ!」
「え?……あ……ああ!分かった!」
凛と慎二も、慌ててカードデッキにクラスカードをセットする。
『Install……Lancer!Cu Chulainn!』
『Install……Rider!Medusa!』
バーサーカー、ランサー、ライダーが、イリヤの部屋で対峙する。
『GUOOOOOOOOOOOO!』
バーサーカーは手に持った巨大な斧剣を、いきなりライダーに向けて振り下ろして来る。
「何ぃいいいいいいいいっ?!」
ライダーは、慌てて飛び避ける。その背後の壁は一撃で粉微塵に砕かれ、外に筒抜けの大穴が空いてしまう。
「い……いきなり何しやがんだ!戦うのは、ミラーワールド内でって決まりだろ?」
「無駄よ!完全に狂戦士化して自我を失っているわ!そんなルール、その怪物には通用しないわ!」
不平を言うライダーに、ランサーが解説する。
「じゃあ、どうすんだよ?このままここで戦うのか?」
「私達の方が、ミラーワールドに飛び込むのよ!間違い無く、あいつは追って来るわ!」
そう叫んで、ランサーはイリヤが使っていた鏡の中に飛び込んだ。
「よ……よしっ!」
ライダーもそれに続き、鏡の中へと飛び込んで行く。
『GUOOOOOOOOOOOO!』
ランサーの詠み通り、バーサーカーもそれを追って鏡の中に飛び込んで来た。
そうして全員が、ミラーワールド内のイリヤの部屋に移動した。
「とおおおおおおおおおおっ!」
「はああああああああああっ!」
ランサーとライダーは、直ぐに窓から城の中庭へと飛び降りる。狭い部屋の中では、思うように闘えないからだ。
『GUOOOOOOOOOOOO!』
バーサーカーも当然の如く追って来て、中庭で再び三戦士は対峙する。
「さっき変身の時、“ヘラクレス”って言ってたわね?」
ランサーが言う。
「ヘラクレス?……あの、ギリシャ神話の?」
「十二の試練を乗り越えて、神になったっていう大英雄よ!」
「十二の試練?……それってまさか?」
「もしかしてこいつ、十二の命を持ってるんじゃ無いの?そうでもなきゃ、あの不死身さは説明できないわ!」
「な……何だってぇ?」
そんな会話をしているところに、バーサーカーが巨大斧剣で襲い掛かって来る。
「のぉわああああああああっ!」
「きゃあああああああああっ!」
ライダーとランサーは、左右に別れてこれを飛び避けた。
「じゃああいつを倒すには、十二回殺さなきゃいけないっていうのか?」
「そう……それも普通の攻撃は効かないから、必殺技レベルの攻撃でね?」
「そ……そんな殺生な……」
『GUOOOOOOOOOOOO!』
バーサーカーは、そんな不平を言うライダーの方に向かって来る。
「やばっ!文句を言っている場合じゃ無いか……」
ライダーは急いで、必殺技のカードをデッキにセットする。
『Final Vent!……Qubeley!』
ライダーのバイザーが開き、魔眼が激しい輝きを放つ。それにより、バーサーカーの動きが……
『GUOOOOOOOOOOOO!』
「えっ?!」
「うわああああああああっ!」
止まらなかった。
「何だ?!……どうなってるんだ?」
間一髪で何とか斧剣の攻撃を躱して、その後も逃げ回るライダー。
「な……何でだよおおおおおっ!何で、石化の魔眼が効かないんだ?」
懸命に逃げるライダーを見ながら、ランサーは呆然と立ちながら呟いた。
「ま……まさか?」
バーサーカーから距離を取ったところで、ライダーもようやく反撃に出る。
「こ……こうなりゃ、魔眼抜きでやるしかない!」
そう叫んでバーサーカーに正対し、一旦腰を落として力を溜めてから大きく跳び上がる。
「ライダー!キィイイイイイイイイイイック!!」
ライダーは火の玉となって、向かって来るバーサーカーに突撃する。
しかし……
『GUOOOOOOOOOOOO!』
「うわああああああああっ!」
「何ですって?」
ライダーの火の玉は、バーサーカーの強靭な鎧に難無く弾き返されてしまった。激しい火花は飛ぶがバーサーカーは全くの無傷で、跳ね飛ばされたライダーはランサーの真横に落下した。
「くっ……ど……どうなってやがる?……キックも……効かねぇ……」
「い……一度受けた攻撃には、耐性が出来るのかも?」
「な……何だって?じゃあ、同じ技はもう通用しないのか?」
「お……おそらくね?」
「そんな殺生な?」
ライダーは、思わず泣きたくなってしまう。十二回も必殺技で倒さなければならないのに、一度使った技は二度と通用しないのだ。しかも今回の闘いでは、既にライダー・キックが使用不可になってしまっている。
『GUOOOOOOOOOOOO!』
再びバーサーカーは、斧剣でライダーとランサーを攻撃して来る。
ライダーとランサーはまた左右に分かれてこの攻撃を躱し、大きくジャンプしてバーサーカーを飛び越してその後方にて合流する。
「遠坂……あいつを十二回倒せるだけの、必殺技のストックがあるか?」
「あるわけ無いでしょ!」
『GUOOOOOOOOOOOO!』
バーサーカーは、また向かって来る。
「じゃあ、どうする?」
「一度で、何回分も倒せるくらいの大技を決めるしか無いでしょ!」
「あるのか?そんな技?」
「作るのよ!同時に必殺技を決めれば、その威力は何倍にも跳ね上がるわ!」
「判った!じゃあ、タイミングは任せる!」
ライダーはとっておきのカードを取り出し、デッキにセットする。
『Final Vent!……Bellerophon!』
ライダーの前方に、突如バイクのハンドルだけが出現する。ライダーが両手でそのハンドルを握ると、ライダーの足元から激しい光のカーテンが立ち昇る。
『Survive!……Pegasus Cyclone!』
その光のカーテンを突き破り、銀色に輝くバイクに跨ったライダーが現れた。
「行くぞおおおおおおおおっ!」
ライダーはアクセルを吹かし、バイクに跨ったままバーサーカーに突撃して行く。
『GUAAAAAAAAAAAAAAA!』
激しい火花が飛び交い、さしものバーサーカーも数歩側方に跳ね飛ばされる。但し倒される事は無く、バランスは崩すが直ぐに持ち直す。一旦駆け抜けて行ったライダーは数十メートル先で反転し、再度バーサーカーに突撃する。
『GUAAAAAAAAAAAAAAA!』
これを何度も繰り返し、時間を稼ぐ。
この間にランサーも、とっておきのカードをセットする。
『Final Vent!……Death Flight!』
ランサーの槍が、赤く激しく輝き始める。ランサーはそれを投槍の如く構えて、魔力を高めていく。そうして、十分に魔力が溜まった時点で声を上げる。
「慎二!今よ!……たあああああああああああっ!」
ランサーは叫びながら、その槍をバーサーカーに向けて思い切り投げ付けた。
一方のライダーは、アクセルを全開に噴かせて再びバーサーカーに突進して行く。
「ライダーブレイク!!」
ペガサスサイクロンは急加速して、摩擦熱により激しく燃え上がる。炎の玉と化したサイクロンが、バーサーカーに突撃して行く。
炎の槍と炎の玉、この二つが、ほぼ同時にバーサーカーに激突する。
『GIYAAAAAAAAAAAAAAAA!』
凄まじい爆炎が、バーサーカーを一気に包み込む。
そこから一塊の炎が飛び出し、数メートル先に降り立ってライダーへと姿を変える。
『……』
ライダーとランサーは、じっとその爆炎を見詰めていた。
だが爆炎が治まったその場には、まだ褐色の鎧に包まれたバーサーカーの姿が残っていた。
「こ……これでも……駄目なの?」
ついランサーは、そう漏らしてしまう。
ただバーサーカーの様相は、今迄とは少し違っていた。全身からは蒸気のように煙を出し、血管のように張り巡らされた赤い筋はその光を弱めていた。更に……
「コ……コロス……ミ……ミンナ……」
バーサーカーの声は、人外の叫びでは無くなっていた。変身前のイリヤ……いや、クロエの声であった。
「狂気が……薄れているのか?」
「効いているわ!慎二!……おそらく、残る命もあと僅かな筈よ!もう一度、別な手段で同時攻撃を……」
「待ってくれ!遠坂!」
更なる攻撃を提案するランサーの言葉を遮り、ライダーはゆっくりとバーサーカーに歩み寄って行く。
「ば……馬鹿っ!何考えてるのよ?……止めなさい!慎二!」
ランサーが必死になって制止するが、ライダーは構わず無防備にバーサーカーの前に立つ。
「コ……コロス……」
そんなライダーに、巨大斧剣を振り上げて攻撃しようとするバーサーカー。
「止めるんだ!イリヤ!」
ライダーはそう叫ぶが、バーサーカーは止まらない。容赦無く斧剣を振り下ろして来るが、ライダーはそれを躱しながらまた叫ぶ。
「もう止めろ!お前は、本当はこんな戦いを望んで無いだろう?カードデッキを捨てるんだ!」
「無駄よ!狂気が薄れても、そいつはもうイリヤじゃ無い!別人格のクロエよ!」
ランサーが再度苦言するが、それでもライダーは説得を止めない。
「お前が死んだら、美遊ちゃんも悲しむ!……美遊ちゃんを泣かせたいのか?」
「ミ……ミユ?!……」
この言葉に反応し、バーサーカーは動きを止める。
「と……止まった?」
それに驚くランサー。
「もう止めるんだ!お前は、戦うべき人間じゃ無い!……もう、マスターでは無いんだ!」
「チ……チガウ……ワ……ワタシハッ!」
しかしバーサーカーはまた動き出し、ライダーを巨大斧剣で攻撃して来た。今度はライダーも避けきれず、その一撃を胸に受けてしまう。
「ぐぅわあああああああああああっ!」
「慎二っ?!」
激しい火花と共に、吹き飛ばされてしまうライダー。
その時、今迄闘っていた三人とは全く違う、別な者の声がその場に響き渡る。
「ははははははははは!……敵を前にして情に流されるとは、まったくもって軟弱な男よな!」
「なっ……」
「だ……誰っ?!」
その声は、城の方から聞こえていた。
ランサーと何とか起き上がったライダーが城を見上げると、城の屋根の上に一つの人影が現れていた。それは黄金に輝く、鎧と仮面に包まれた騎士であった。
「な……何なの?あの金ピカは?」
「さ……最後のマスター?……アーチャーか?」
「テ……テキ?……テキハ……コロス!」
バーサーカーは、新たに現れた黄金の騎士にも敵意を示す。
「ふん、死に損ないが……疾く、塵になるがよい!」
だがその黄金の騎士……仮面アーチャーはそんなバーサーカーを鼻で笑い、一枚のカードをデッキにセットする。
『Attack Vent!……Gate of Babylon!』
するとアーチャーの背後に、無数の時空の歪が発生する。そしてそこから無数の武器が湧き出して来て、バーサーカー目掛けて放たれる。
「アアアアアアアアアアアアアアアッ!」
一瞬で、バーサーカーは串刺しになって沈黙してしまうる。
「……っ?!」
「い……イリヤっ!」
ランサーは唯々驚愕し、ライダーはイリヤの身を心配して声を上げる。
だがバーサーカーは直ぐに蘇生を開始し、再び動き出す。但しその様相は、更に弱々しくなっていた。
「ほう?まだ命が残っていたか?しぶとい奴め……では次だ!」
再び黄金の騎士の背後に無数の時空の歪が現れ、先程とは違う武器群が放たれる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
またもバーサーカーは串刺しになり、一瞬にして沈黙してしまう。
「ど……どれだけ必殺の手段を持っているのよ?あの金ピカはっ?」
それでも、バーサーカーは再度蘇生した。ところが……
「コ……コロ……ス……テ……テキ……」
明らかにもう限界のようで、ただ立っているだけのような状態であった。
「ふん!どうやら、今度こそ最後のようだな?」
そんな瀕死の状態でも、バーサーカーは闘いを止めようとはしない。
「や……やめろ……もう……止めてくれ……」
ライダーは、右手を握り締めて呟く。
「これで終いだ!」
アーチャーの背後に今迄の倍以上の大きさの時空の歪が発生し、その中からバーサーカーの腕の太さくらいはありそうな巨大な槍が顔を出す。
「やめろおおおおおおおおおおおおっ!」
ライダーの叫びも虚しく、無情にその槍は放たれてバーサーカーの胸を貫いた。
「……?!」
もはや断末魔の叫びも無く、バーサーカーの巨体は消滅してしまう。
その跡には、跪いたクロエ……いや、イリヤの姿があった。腹部のデッキは、既に消滅してしまっている。
「い……イリヤっ!」
ライダーは、慌ててイリヤに駆け寄ろうとする。
「ミ……ミユ……」
だがその眼前で無情にも、イリヤの体も消滅して消え去ってしまった。
「き……きさまああああああああああっ!」
これに激昂したライダーは、アーチャーに向かって突進を始める。
「だ……駄目よ!慎二っ!」
ランサーはまた制止しようとするが、怒りに我を忘れたライダーは止まらない。
「ふん!次は貴様が死にたいか?」
アーチャーの背後に、新たな時空の歪が現れる。
「そこまでだ!」
そこに突然、また新たな別人の声が響き渡った。
『?!』
この声で、その場の全員が動きを止める。何故か激昂していたライダーまでが、突進を止めてしまった。それ程までに、その声には異常なまでの威圧感があった。
そしてその場に、重厚な鎧の歩む音が響き渡って来る。少しずつ、少しずつ、その音の主が近付いて来て、皆の視界に入って来る。
その姿を見て、ライダーは叫ぶ。
「え……衛宮っ!」
それは遂に他のマスター達の前に姿を現した、黒く重厚な“セイバー”の鎧を纏った衛宮士郎、“仮面セイバー”であった。
< 仮面ライダーメドゥーサ……次回予告 >
『Sword Vent!……Barrier of the Wind King!』
「ぐぅわあああああああああああっ!」
「み……見えない剣……ですって?!」
「何を王様気取りになってんのよ?」
「王様気取りでは無い、本当に王様なのだ」
「貴方に、凛を殺すことができるのですか?」
「もう迷いは、完全に断ち切っている。あとはただ、目的を遂行するだけだ……」
「慎二……絶対に勝ちなさい!負けたら許さないわよ!」
「分かった!……お前こそ、衛宮なんかに負けるなよ!」
『戦わなければ、生き残れない!』
イリヤの中に、別人格のクロエが居るのは“プリズマ☆イリヤ”の設定の流用ですが、その有り方は変えています。
聖杯戦争が無くなって、聖杯の器としての機能が無くなったのと同時に、マスターとしての性格も無くなりました。でも無くなったんじゃ無くて、別人格としてイリヤの心の奥に仕舞い込まれただけでした。それがクロエです。
士郎により隠された人格のクロエが目覚め、士郎や切嗣への憎悪から聖杯戦争に参加します。クロエはイリヤの負の部分の塊なので、士郎には殺意しか抱きません。更に、バーサーカーのクラスの狂気に感化されて暴走しています。
表の人格のイリヤは、この事実を全く知りません。
ランサーの槍投げゲイ・ボルクですが、同じ名前だと紛らわしいので名前を変えました。
ベルレフォーンは手綱じゃ無くてハンドルに、天馬じゃなくてバイクを操ります。
そこはやっぱり“仮面ライダー”ですから。決め技は当然“ライダーブレイク”。
ちなみに、何でアーチャーはギルがそのまま喋っているのか……は、次回で。
全編書き直していますが、大きな変更点はありません。
細かい会話のやりとりや、終盤の戦闘シーンは少しだけ書き足しています。