仮面ライダーメドゥーサ   作:JALBAS

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遂に、士郎が慎二達の前に姿を現しました。
そして士郎は、慎二達にある提案を持ちかけます。
一切感情を表に出さず、冷徹に振舞う士郎。
果たしてその真意は?

一方慎二は、イリヤを失い悲しみに暮れる美遊に酷く心を痛めてしまいます。
そんな慎二を見詰める凛は……





《 第六話 》

 

ライダー、ランサー、アーチャーの前に、この聖杯戦争の仕掛人である衛宮士郎……いや、セイバーが現れた。

重厚な黒い鎧と仮面に包まれたセイバーは、丁度バーサーカーが消滅した辺りまで歩み寄って来て足を止める。

 

「皆、この場はこれで手を引け!」

『何っ?!』

 

セイバーの言葉に、その場の全員が驚きを示す。

 

「これで、残ったマスターは四人となった……そこで一つ提案がある。聞く気があるのならば、明日の二十一時に言峰教会の礼拝堂まで来い」

「お……お前!……いきなり現れて、何言ってやがんだ?」

 

セイバーの一方的な言葉に、ライダーは反感を示す。

 

「気に入らんな……」

 

そこに、アーチャーも不満そうに口を挟む。

 

「貴様、この我に命令する気か?」

 

アーチャーはそう言いながら、威嚇するかのように背後に現れている時空の歪をセイバーの方に向けて来る。

 

「勘違いするな。別に強制している訳では無い。ここで今直ぐ殺し合いたいのなら、勝手にすればいい。俺はただお前達に、相応しい舞台を用意してやろうと言うだけだ……どうするかは、お前達の自由だ」

 

そこまで言うと、セイバーは皆に背を向ける。そうして、元来た方向に歩き去ろうとする。

 

「ま……待ちやがれ!衛宮あああああっ!」

 

ライダーはそんなセイバーを逃がすまいと、彼に向かって突進して行く。セイバーの直ぐ後ろまで来ると、そのまま殴り掛かって行こうとするが……

 

『Sword Vent!……Barrier of the Wind King!』

 

セイバーはすかさずデッキにカードをセットし、振り向きざまに剣撃を放って来た。しかもその剣は光学迷彩されたかのように、カモフラージュされていて視認が出来なかった。間合いの見切れないライダーは、もろに剣撃を受けて弾き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅわあああああああああああっ!」

 

胸から激しい火花を飛び散らせ、その場に仰向けに倒されるライダー。

 

「み……見えない剣……ですって?!」

「ほう……」

 

驚くランサーと、感心するアーチャー。

 

「ぐっ……ううう……」

 

ダメージを受けてしまい直ぐには起き上がれないライダーに、セイバーは言い放つ。

 

「そんなに殺し合いがしたければ、他の奴とやれ……俺は今この場では、殺り合うつもりは無い……」

 

セイバーは再び背を向けて、どんどん歩き去って行く。

 

「くくくく……まあそれも良かろう。この場は、口車に乗ってやろうではないか……」

 

そう言って、アーチャーも姿を消してしまう。

 

「くそっ!……ま……待てって言ってるだろっ!」

 

何とか起き上がり、セイバーを追おうとするライダー。

 

「待って!慎二!……もう、時間が無いわ!」

 

ランサーに言われて、ライダーは自分達の体が消滅し始めている事に気付く。

 

「くっ……」

 

仕方無く、ライダーはランサーと共に現実世界に戻るのだった。

 

 

 

 

現実世界のアインツベルン城に戻った慎二達は、事の顛末をセラ達に告げた。

セラとリーゼリットと言う二人のメイド達は、かなり沈んではいたが大きく取り乱す事は無かった。逆に慎二達気を使って、

 

「これも、アインツベルンに生まれた者の運命です。どうか、お気になさりませぬように」

 

と言って彼等を見送ってくれた。

その帰り道、落ち込む慎二を凛が慰める。

 

「貴方が気に病む事じゃ無いわ……どちらにしても、ああなった彼女を救う術は無かったんだから……」

 

それは、慎二にも判っていた。しかし、イリヤの死を知ったら美遊がどれだけ悲しむか?その事を考えると、慎二の胸は酷く締め付けられてしまうのだった。

 

 

凛と別れた後、慎二は滞在先のビジネスホテルに帰って行った。臓硯が居なくなっても、もう間桐の家には戻らなかった。

慎二はベッドに横たわりながら、今日起こった様々な出来事を思い浮かべていた。

穂群原学園でのイリヤとの邂逅。

その後、アインツベルン城での彼女との会談。

イリヤの別人格、クロエの出現。

バーサーカーとの死闘。

そして最後のマスター、アーチャーの登場。

そこまで回想した時、慎二の脳裏にある疑問が浮かんでくる。

 

“ん?……そう言えば、アーチャーのマスターは誰なんだ?”

 

色々あり過ぎて、慎二も凛もその事を追及するのを忘れていた。

 

“あの声と喋り方は、言峰じゃ無かったな……だいたいあいつ、“神に誓って”とか言って否定していたし……随分偉そうな奴だったな?まるで王様みたいに……やはり外国人か?アインツベルンのように、貴族か何かなのか?“

 

そのような事を考えながら、慎二はそのまま眠ってしまうのだった。

 

 

 

 

その翌日、言峰教会。

二十一時になる数分前には、礼拝堂に慎二、凛、綺礼の三人が集まっていた。

彼等の他には、誰もその場には姿を現さなかった。この事実は、アーチャーのマスターが言峰綺礼である事を物語っていた。

 

「言峰っ!お前神に誓って違うなんて言っておいて、やっぱりマスターだったじゃないか?」

 

慎二は、強い口調で綺礼に詰め寄っている。

 

「私は、“アサシンでは無い”と言ったのだ。マスターで無いとは言っていない」

「なっ……何をっ!」

「待って!慎二!」

 

更に食って掛かろうとする慎二を、凛が制止して綺礼に質問をする。

 

「それよりも、あんた本当にアーチャーのマスターなの?」

「そうだが?」

「じゃあ、あの高飛車な俺様口調は何なの?あんた、あんな性格だった?声まで違ってたけど、何を王様気取りになってんのよ?」

「王様気取りでは無い、本当に王様なのだ。世界最古の英雄王“ギルガメッシュ”、それが私が契約した英霊だ」

「なっ?……」

「あれは、あんたが契約した英霊だったの?何で?英霊本体が戦ってんのよ?」

「本体は私だ。ただ、戦闘を支配しているのは彼の精神だ。それが、私と彼の契約条件なのでね」

「あ……ありかよ?そんなの……」

 

その時礼拝堂の中に、その場の三人とは別な者の声が響き渡る。

 

「……皆、揃っているようだな?」

 

慎二達が声のする方に顔を向けると、教会の窓ガラスの中に士郎の姿があった。

 

「え……衛宮っ!」

 

慎二は、今にも殴り掛かりたくなる衝動をぐっと抑える。

 

「相変わらず、ミラーワールドの中なのね?……それで何なの?提案って?」

 

凛は、いきなり本題を突く。

 

「……丁度四人残った。そこでここからは、トーナメント形式で戦いたいと思うが……どうだ?」

『トーナメント?』

 

全員同時に声を上げる。

 

「まず二組に別れて、一対一で戦う。そして勝ち残った者達で決勝を行い、最後に残った者が勝者となる。シンプルで余計な手間も掛からず、効率的だと思うのだがな?」

「その前に、一つ質問があるわ!」

 

凛がそこに、口を挟んで来る。

 

「……何だ?」

「貴方はどうやって?今回の聖杯戦争を起こしたの?この地の聖杯は、未だ封印されたままよ。いったい、どんなトリックを使っているのかしら?」

 

それはこの場に居る全員が、疑問に思っている事でもあった。

 

「……今回の聖杯戦争で利用しているのは、この世界の聖杯では無い」

『何だって(ですって)?!』

 

慎二と凛が、同時に驚きの声を上げる。綺礼はある程度予測していたのか、特に反応を示さない。

 

「俺は固有結界を使って、異世界の聖杯と接触する事に成功した。今使っている聖杯は、別な平行世界の冬木の聖杯だ」

「この世界の冬木の聖杯には、何の影響も無いのね?」

「ああ……」

「判ったわ……トーナメントについては、私には異存は無いわ。どの道戦わなきゃいけないのなら、その方がすっきりしていていい……下手な横槍も入らないでしょうしね?」

 

凛は、士郎の意見に合意する。

 

「私にも異論は無い」

 

綺礼も、これに合意する。

 

「僕も構わない……だけど、どうやって組合せを決めるんだ?」

 

慎二は合意すると同時に、士郎に質問を返す。

 

「まず、お前達三人で一組目を決めろ。方法は任せる。そうして残った一人が、俺の相手だ」

 

 

そう言われて、綺礼がくじを作る。

くじ引きを行った結果、慎二と綺礼が戦う事となり凛が残った。

 

「私があなたの相手よ、衛宮くん……それで、戦いの時間と場所は何処にするの?」

「時間は明日の二十一時でいいだろう?……場所は、お前が決めていい」

「あら?余裕ね……まあどの道ミラーワールドの中で戦うんだから、何処でも大差は無いか?……じゃあ、穂群原学園にしましょう!弓道場に集合って事で!」

「……いいだろう」

 

士郎は全く冷静さを崩さず、殆ど無表情で答える。

 

「ではな……もし決勝まで生き残っていたら、また会おう……」

 

慎二と綺礼にはそう言葉を残し、士郎はミラーワールドの奥に消えて行く。

 

「ま……待て!衛宮っ!」

 

慌てて慎二がそう叫ぶが、士郎はもう戻っては来なかった。

 

「くそっ!どこまで勝手な奴なんだ?」

 

そんな慎二に、綺礼は淡々と話し掛けて来る。

 

「それで城戸慎二、我々は何時?何処で戦う?」

「そんなもん、同じ時間にここでいい!」

 

殆ど投げやりに、慎二はそう答える。

 

「判った……では明日の二十一時に、ここで待っている」

 

この夜は、これで解散となった。

 

 

 

 

翌日桜の病院に寄った後、慎二は何気無く深山町の商店街を歩いていた。

 

“そう言えば衛宮と桜と三人で、部活の帰りによくここに来ていたな……”

 

そんな感傷に浸りながら歩いていると、商店街の外れの公園のベンチに美遊が坐っているのを見付ける。

 

“え?……美遊ちゃん?……何をしているんだ?”

 

美遊は、じっと俯いて座っていた。彼女の横には、ずっしりと荷物の詰まった買い物袋が置かれている。心配した慎二は、美遊に近寄って行って声を掛けた。

 

「美遊……ちゃん?」

「え?!」

 

驚いて美遊は顔を上げ、慎二の方に振り返る。その彼女の目からは、涙が流れていた。

 

「ど……どうしたんだ?」

 

美遊のそんな顔を見て、慎二は狼狽えてしまう。

 

「し……慎二さん?……ご……ごめんなさい!」

 

美遊は慌ててハンカチを取り出して、頬の涙を拭いている。

 

「な……何かあったのか?」

「い……いえ……な……何でも無いんです」

「そんな訳が無いだろう?……ま……まさか?」

 

慎二は、美遊が聖杯戦争の事……士郎の事を知ってしまったのかと思い、大いに焦ってしまう。

だが、次に出て来た彼女の言葉は……

 

「……じ……実は……お友達が……」

「え?……お友達?」

「学校のお友達が……い……イリヤって言うんですけど……」

「……っ?!」

 

士郎の事では無かったが、その名前も刃物のように慎二の胸に深く突き刺さる。

 

「今日突然……転校しちゃったって……私、何にも聞いてなくて……あんなに仲が良かったのに……ううん……わ……私が……そう思っていた……だけ……なの……かな?」

 

そう言って、美遊はまた泣き出してしまう。

 

「……」

 

慎二は何も言えず、俯いて泣く美遊をただ見詰めていた。

彼は知っている。“転校”と言うのは余計な心配を掛けまいとするアインツベルン家の気遣いで、イリヤは既に亡くなってしまっている事を。

だがその事実を告げれば、余計に美遊を悲しませてしまう。それだけは、絶対に口にする事は出来なかった。

慎二がしてあげられる事は、せいぜい泣きじゃくる美遊に胸を貸してあげる程度の事であった。美遊は慎二の胸に縋りつき、声を殺して泣き続けていた。

そんな慎二を、少し離れた木陰から見詰める一つの人影があった。

凛である。

 

“あの馬鹿……あんたは、桜だけで手一杯でしょうが?何でそうやって、何でもかんでも背負い込もうとするのよ?これじゃあ、どっかのお人良しと一緒じゃな……”

 

そう思いかけて、凛ははっとする。

 

“どっかのお人よし?……だ……誰?それ?……”

 

一瞬凛の頭には、何者かの人影が浮かんでいた。だが直ぐに靄が掛かったように、記憶があいまいになってしまう。今思い浮かんだのはいったい誰なのか?何度思い出そうとしても、凛はその人物を思い出す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

その後衛宮家に帰って来た美遊は、鏡の前で考え込んでいた。

未だに瞳は、涙で潤んでいる。

つい、思っている事が口に出てしまう。

 

「お兄ちゃん……イリヤ……どうして私の大切な人は、皆居なくなっちゃうのかな?」

 

また美遊の頬に、涙が流れ始める。

 

「い……いけない……夕食の支度……しなくっちゃっ!」

 

美遊は涙を拭って、ゆっくりと部屋を出て行った。

彼女が部屋を出て行った後、鏡の中に別の人影が現れる。その人物は実際の部屋の中には存在せず、鏡に映った部屋の中にだけ存在した。もちろんそれは、士郎であった。

士郎はミラーワールドの中から、じっと美遊の居なくなった彼女の部屋を見詰めている。その士郎の背後に、また別な人影が現れる。当然その人影も、鏡の中にしか居ない。黒い鎧に身を包んだ、ブロンドの髪と金色の瞳の女性……セイバー……いや、セイバーオルタである。

 

「シロウ」

「……何だ?」

 

呼び掛けるセイバーオルタに、士郎は振り向きもせず答える。

 

「良いのですか?今夜、貴方が闘う相手は凛だ」

「それが……どうした?」

「貴方に、凛を殺すことが出来るのですか?」

「何を今更……俺は既に、イリヤを見殺しにした。桜もそうしようとしている……もう迷いは、完全に断ち切っている。あとはただ、目的を遂行するだけだ……」

「そうですか……」

「そんな事より、お前はいいのか?」

「何がです?」

「俺が勝ち残っても、この聖杯戦争ではお前が聖杯を手にする事は無い。それでも、俺との契約を続けるのか?」

 

その士郎の問いに、セイバーオルタは少し間を置いてから答える。

 

「……私は前回、貴方の望みを叶えられなかった……誓いを果たしきれなかった……だから、今度こそ貴方の望みを叶える。そうしなければ、私は前へ進めない」

「そうか……ならば来い!」

 

ここで士郎はようやくセイバーオルタに向き直り、何の絵も描かれていないクラスカードを彼女に向けて翳す。

 

「はい……」

 

セイバーオルタが意を決して目を閉じると、その体は次第に光に包まれていく。完全に光と化した後、その光はカードに吸い込まれていきカードが一瞬激しく輝く。その輝きが治まった時、カードは剣士の絵が描かれたセイバーのクラスカードへと変わっていた。

 

 

 

 

慎二は美遊と別れた後、再び桜の病室を訪れていた。

二十一時になれば、また殺し合いに行かなければならない。相手はいけ好かない神父なので倒す事に罪悪感は無いが、それでも出来れば人殺しはしたく無い。

そもそもあのアーチャーは強敵なので、確実に勝てると言う保証も無い。桜を助ける為には、絶対に負ける訳にはいかないのではあるが。

 

「さ……桜……」

 

色々な感情を頭の中で巡らせながら、慎二は何も言わない桜の顔を唯々見詰めていた。

 

 

二十時が過ぎたところで、慎二はようやく重い腰を上げる。

 

「行ってくるよ……」

 

桜にそう言い残して、慎二は病院を出て夜の新都を歩き出す。行先は、言峰教会だ。

ところがそんな慎二の行く手に、一人の女性が待ち受けていた。

 

「と……遠坂?」

 

言峰教会へと向かう坂道の手前に、凛が立っていた。

凛は真剣な眼差しで、慎二に向かって言って来る。

 

「慎二……絶対に勝ちなさい!負けたら許さないわよ!」

「お……お前……」

「いい?聖杯戦争の決着は、遠坂と間桐でつけるのよ!」

 

慎二は少し考えた後、僅かに笑みを浮かべながら答える。

 

「分かった!……お前こそ、衛宮なんかに負けるなよ!」

 

 

 

 

< 仮面ライダーメドゥーサ……次回予告 >

 

「エクス……カリバアアアアアアアアアアアアッ!!」

「あ……あれが……セイバーの聖剣?……な……何て威力なのよ?!」

 

 

「馬鹿め!石化の魔眼など、効かぬと言ったであろう!」

「石化の魔眼なんて使わねえよっ!」

 

 

「お前には……妹の命という……背負ったものがある……衛宮士郎にも……同様に重い……背負ったものがある……」

 

 

「し……士郎……わ……私は……あなたを……」

「……遠坂……俺は、修羅の道を選んだ……」

 

 

『戦わなければ、生き残れない!』

 






この話のカードデッキシステムは、契約を交わすと英霊の魂はクラスカードに封じ込められます。
そうなるとマスターが契約を解除するか、聖杯戦争が終わるまでは英霊はカードの中から出て来られません。
よって一度契約したら、もうマスターを裏切る事は出来なくなってしまいます。だから綺礼とギルガメッシュみたいに、ある程度我儘を通せる形で契約する場合もあります。
士郎とセイバーオルタの場合は特殊で、士郎は戦闘の毎に契約と契約解除を繰り返しています。
それでもセイバーオルタは、士郎と契約し続けます。それだけこの二人は、信頼関係で結ばれているという事です。
Fate原作では無かった、士郎とセイバーオルタのペアですが。



全体書き直して、表現が不十分だったところは直しています。
公園で一人泣いている美游を慎二が見付けるところは、淡泊過ぎたので結構書き足しています。

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