いよいよ、ライダーとセイバー、慎二と士郎の最後の戦いが始まります。
圧倒的な力を持つセイバーに、果たしてライダーは勝てるのか?
そして、士郎がこの聖杯戦争を企てた目的は?
今、六年前に封印された、全ての謎が明らかになります。
アーチャーを倒したライダーは、現実空間の教会の礼拝堂へと戻って来る。
変身を解いて慎二の姿に戻った時、今出て来たガラス窓に士郎の姿が映った。
「……っ?!……衛宮?」
そこに、士郎が現れたという事は?……慎二は即座に、その事実が語る結果を認識する。
「勝ち残ったようだな?慎二?」
士郎は、淡々と語る。
「と……遠坂を……遠坂を殺したのか?衛宮?」
慎二は、拳を握り締めて叫んだ。
「……だからここに居る」
何を判り切った事を聞くのか?そのような口調で話す士郎に、慎二の怒りは頂点に達してしまう。
「え……衛宮ああああああああああああっ!」
慎二は思わず、デッキにライダーのクラスカードをセットしていた。
『Install……Rider!Medusa!』
仮面ライダーに変身した慎二は、士郎が立つ窓ガラスの中に飛び込んで行く。
しかしライダーが飛び込むと同時に、士郎は何処かへと姿を消してしまう。
「ど……何処に行った?出て来い!衛宮っ!」
『熱くなるな……決勝戦は、明日の二十一時だ』
何処からとも無く、声だけが響いて来る。
「ふざけるな!今直ぐ決着をつけてやる!僕と戦え!衛宮ああああああっ!」
『お前は、アーチャーとの戦いで消耗し切っている。戦いにはならない……少し頭を冷やせ』
「舐めるな!こんなのお前には丁度いいハンデだ!さっさと出て来て戦えっ!」
『明日、また連絡する……』
その言葉を最後に、士郎は完全に消えてしまった。
「逃げるな!出て来い!衛宮あああああああああああああっ!」
慎二はしばらくの間、半狂乱になって叫び続けていた。
その後言峰教会からようやく深山町に戻って来た慎二は、遠坂邸の前に来ていた。
慎二は玄関まで歩いて行き、呼び鈴を鳴らす。家主である凛が居なくなった為、いくら待っても当然誰も出て来ない。それでも慎二は、ひたすら呼び鈴を鳴らし続けていた。
そんな慎二の脳裏に、不意に凛の言葉が蘇って来る。
“あら?もしかして、間桐くん?”
“覚悟を決めなさい!慎二!”
“貴方が気に病む事じゃ無いわ……どちらにしても、ああなった彼女を救う術は無かった……”
“慎二、絶対に勝ちなさい!負けたら許さないわよ!”
「と……とお……さか……」
膝を落として屈み込み、慎二はその場に泣き崩れてしまうのだった。
ミラーワールドの中の、衛宮家の士郎の部屋。
士郎は、セイバーのクラスカードの契約を解除する。それにより士郎の前に、黒い鎧を着たブロンドの髪の金色の瞳の女性が姿を現す。
セイバーオルタは、少しきつい眼差しで士郎を見詰めながら問い掛けて来る。
「……シロウ、貴方は何故?闘いが終わる度に契約を解除するのです?」
それに対して士郎は、相変わらず不愛想に顔を合わせようともしないで答える。
「特に意味は無い……ただの気紛れだ、気にするな」
「私を試しているのか?……しかし、何度聞かれても私の決意は変わらない」
「だから、意味は無いと言っている……」
そう言って、士郎は姿を消してしまう。
一人残されたセイバーオルタが、何かを思い立って呟く。
「シロウ……貴方はもしかして?……」
一夜明けた決戦の日の朝、慎二は穂群原学園の前まで来ていた。
正門の近くの物陰に隠れて、登校して来る生徒達を眺めている。
しばらくして、美遊が登校して来る。彼女は慎二には気付かず、門を通って校内に入って行く。慎二は声も掛ける事はせず、じっと美游を見詰めていた。美遊の姿が完全に見えなくなったところで、慎二はその場を後にする。
続いて慎二は、桜の居る病室に行く。
桜の眠るベッドの横に座り、いつものように決して目覚める事の無い彼女を見詰めていた。
「……桜……」
しばらくして、慎二の口が開かれた。
「お前と、美遊ちゃんは悲しむ……いや、僕を恨むかもしれないが……僕は、衛宮を倒す……」
そこで慎二は、背後に自分を見詰める視線を感じる。後ろを振り向くと、病室の窓の中に士郎の姿が映っていた。
「……衛宮か?」
慎二はもういきり立つ事はせず、静かにそう言った。
「気持ちは落ち着いたか?」
「ああ……」
「では、戦う場所を決めよう……今夜二十一時、最初の夜に会ったヴェルデの前でいいか?」
「ああ……構わない」
「そうか……では、今夜また会おう……」
「待て」
慎二は、士郎を呼び止める。
「一言だけ言っておく……衛宮、僕はお前を絶対に許さない。必ず倒す!」
「……判った……だが、俺も負けるつもりは無い……」
そう言い残して、士郎は窓の奥に消えていった。
その日の夕方、商店街で買い物を済ませ、美遊は衛宮家に帰って来た。
食材を片付けた後、自分の部屋に戻って制服から私服へと着替える。その自分の姿をチェックしようと、鏡を覗き込んで思わず美遊は驚いてしまう。
「えっ?!」
自分の後ろに、黒い鎧を着たブロンドの髪の女性が立っているのだ。美遊は慌てて後ろを振り向くが、自分の後ろには誰も居なかった。
だが再び前を向くと、やっぱり背後にはその女性が居て、じっと美游を見詰めている。
「だ……誰っ?!」
「……ミユ」
その女性は、美遊に話し掛けて来た。
「あ……あなたは……だ……誰?」
「私はセイ……いえ、アルトリア……アルトリア・ペンドラゴン」
「あ……アルトリア……さん?」
「ミユ、シロウに逢いたいですか?」
「えっ?……あ……あなた……お……お兄ちゃんを……お兄ちゃんが、何処に居るか知っているの?」
「知っている……シロウに逢いたいですか?ミユ?」
「逢いたい……あ……逢わせて!お願い!お兄ちゃんに逢わせてっ!」
「ならば……来なさい!」
「……っ?!」
すると鏡の中から美遊の前に、アルトリアの右手が飛び出して来た。
「……」
一瞬怯えてしまっていた美遊だが、意を決してその手を掴む。
「あっ?!」
すると思い切り手を引かれて、美遊の体は鏡の中に入って行ってしまった。
同じ屋敷内のミラーワールド内の士郎の部屋。
士郎は部屋の中央に立ち、何者かを待っている。そこに背後の襖を開けて、セイバーオルタが入って来る。士郎は振り向きもせず、セイバーオルタに問い掛ける。
「これが最後だ……いいか?セイバー?」
「はい……問題ありません」
セイバーオルタは即答する。
そこで士郎は振り向き、何も描かれていないクラスカードを彼女に向けて翳す。セイバーオルタは目を閉じて光の塊となり、クラスカードの中へと吸い込まれるように入って行った。
その日の二十一時。新都駅前のヴァルデの前に、二つの人影が現れる。もちろん、城戸慎二と衛宮士郎だ。
お互いに反対方向から現れて対峙した二人は、もう何も話す事は無いかのように無言でしばし睨み合う。先に口を開いたのは、士郎の方であった。
「では……始めるぞ」
「……ああ」
二人は同時にカードデッキを腹部に装着し、お互いのクラスカードをセットする。
『変身!』
『Install……Rider!Medusa!』
『Install……Saber!Alter!』
変身したライダーとセイバーは、向き合ったまま横に移動してヴァルデのショーウインドーからミラーワールド内に飛び込んだ。
ミラーワールドに入るや否や、ライダーは戦闘用のカードをデッキにセットする。
『Attack Vent!』
両手に鎖付の鉄杭を出し、ライダーはセイバーに先制攻撃を仕掛ける。
「うおおおおおおおおおおっ!」
セイバーも、即座に戦闘用のカードをデッキにセットして対応する。
『Sword Vent!……Barrier of the Wind King!』
セイバーは風王結界を纏った見えない剣を抜き、ライダーの放つ鎖付き鉄杭を難無く弾き返す。
その間隙を縫って、ライダーは間合いを詰めようとするが……
「むんっ!」
「のぉわあああああっ!」
見えない剣の為間合いがうまく掴めず、迂闊に近寄る事が出来なかった。
「くそっ!それならば……」
ライダー一旦後退して距離を取り、必殺のカードをデッキにセットする。
『Final Vent!……Qubeley!』
ライダーのバイザーが開き、石化の魔眼が輝きを放つ。
「ライダーキック!!」
そしてライダーはセイバーに向かって駆け出し、大きく跳び上がってキックを放つ。足元から炎の玉と化して、セイバーに向かって突撃して行く。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
しかしセイバーは、動きを封じられてはいなかった。
「はああああああああああっ!」
セイバーは一旦剣を引っ込め両手を前に翳して、そこに魔力を集中させる。そうして何と、炎の玉と化したライダーを受け止める。
「なっ?……なにぃいいいいいっ?」
「ぐぅおおおおおおおおおおおっ!」
「うわあああああああああああっ!」
セイバーはそのまま、ライダーを弾き返してしまう。
「ぐぅはああああああああああっ!」
派手に飛ばされたライダーは、後方の壁に手酷く叩きつけられてしまった。
「くっ……な……何で?……動けるんだよ?……お……お前?」
起き上がりながら、ライダーはセイバーに問い掛ける。
「セイバーの耐魔力を甘く見るな……石化の魔眼で、俺の動きを完全に止める事は出来ない」
「ちっ!……ま……またこのパターンかよ?」
「今度はこっちから行くぞ!」
セイバーは再び見えない剣を抜き、ライダーに向かって斬り掛かって来る。
「はああああああああああっ!」
「くぅうううううううううっ!」
ライダーは何とかそれを躱しているが、未だに間合いが見切れないのでどんどん追い詰められていく。
「こ……このままじゃジリ貧だ……それならっ!」
ライダーはアサシンのクラスカードを取り出し、それをデッキにセットする。
『Borrow Vent!……Assassin!Hide!』
突如セイバーの前から、ライダーの姿と気配が消えてしまう。
「ぬっ?!」
だがセイバーは慌てる事無く、静かに精神を集中させて周囲に気を配る。
するとライダーは、必殺技のカードを構えてセイバーの目の前に出現した。
『Final Vent!』
ライダーは素早く腰を低して構え、右手に魔力を込めて渾身の拳をセイバーに向けて突き出す。アーチャーを倒した時の戦法である。
「ライダアアアアアッ!パアアアアアアアアンチ!!」
だがしかし……
「ふんっ!」
「何っ?!」
セイバーも左手に魔力を溜めて、ライダーの放つ右拳を受け止めてしまう。
「馬鹿め!さっきキックを弾き返されたのを忘れたか?」
動きが止まったライダーに、セイバーの右手の剣が襲い掛かる。
「ぐぅわああああああああああああああっ!」
胸部に激しい火花が飛び散って、ライダーは大きく弾き飛ばされてしまった。
「うっ……うううう……」
かなりのダメージを受けてしまったが、ライダーはよろけながらも何とか立ち上がる。
「ち……ちくしょう!……こいつ、接近戦も隙がねぇ……」
「騎士王に、不得手な戦闘など無い!」
再びセイバーは、見えない剣での攻撃を再開する。ライダーは防戦一方になってしまい、どんどん追い詰められていってしまう。
「こ……このままじゃやられる……こ……こうなったら……とおおおおおおおおおっ!」
ライダーは大きく後方にジャンプして、セイバーとの距離を取った。
「これならどうだ?」
ライダーはもう一枚の必殺のカードを、デッキにセットする。
『Final Vent!……Bellerophon!』
ライダーの手前にバイクのハンドルが現れ、ライダーは両手でそれを握りしめる。足元からは眩い光のカーテンが立ち昇り、ライダーの体を完全に包み込んだ。
『Survive!……Pegasus Cyclone!』
その光のカーテンを突き破って、ペガサスサイクロンに跨ったライダーが飛び出して来る。
「行くぞおおおおおおおおおっ!」
ライダーはアクセルを吹かし、ペガサスサイクロンでセイバーに突進して行く。
「ふん……ならばこちらも……」
対するセイバーも、必殺のカードをデッキにセットする。
『Final Vent!……Excalibur!』
突如見えない剣の周りに、激しい旋風が巻き起こった。
「はああああああああああああああっ!」
それをセイバーは、突進して来るライダーに向けて振う。それは猛烈な突風となって、ライダーに向かって来る。
「な……何だとっ?!」
凄まじい強風に、マシンのスピードが減速される。
「ま……負けるかああああああああああっ!」
ライダーは更にアクセルを吹かし、この突風を打ち負かす。風を切ったペガサスサイクロンは、セイバーの眼前まで迫って来る。
「はあっ!」
ところがセイバーは大きくジャンプして、ペガサスサイクロンの体当たりを躱してしまう。
「ちぃいいいいいいいいいいいっ!」
だがライダーも、これで諦めたりはしない。直ぐさま反転して、アクセルを全開にしてもう一度セイバーに突撃する。
「ライダアアアアアアッ!ブレイクウウウウウウウッ!!」
炎の塊となったペガサスサイクロンが、砲弾の如くセイバーに襲い掛かる。
しかしセイバーの一手も、避けてお終いでは無かった。ライダーが反転して迫って来る間に、セイバーはカモフラージュが取れてその姿を露わにした黒い聖剣を上段に構えていた。
「はあああああああああああああああっ!」
聖剣は凄まじい極光を放ち、黒いオーラの柱を天に向かって伸ばしている。
「エクス……カリバアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
セイバーは、聖剣を一気に振り降ろす。それにより天高く伸びた黒い極光の柱が、倒れるように迫り来る炎の塊を押し潰した。
「がぁはああああああああああああああああああっ!」
地面が抉れ、轟音と共に左右に激しい爆炎が立ち昇った。それは凄まじい粉塵も巻き起こし、しばしの間周囲の視界が利かなくなる。
粉塵が晴れて視界が戻った時には、抉れて何も無くなった地面の上に傷付いたライダーが突っ伏していた。
「うっ……ううう……」
相当のダメージを受けてはいたが、何とか消滅は免れたようだった。
「く……くそっ……」
必死に立ち上がろうとするライダーだが、思うように体が動かない。セイバーはそんなライダーに向かって、ゆっくりと歩み寄って来る。
「んっ……くうっ!……はあっ!」
ようやく体を起こしたものの、直ぐにまた尻餅をついてしまうライダー。
「うっ!……」
そのライダーの眼前に、セイバーの聖剣の切っ先が突き付けられた。
「勝負あったな……」
相変わらず不愛想に、そうライダーに告げるセイバー。それに対してライダーは、精一杯の強がりを言う。
「へん!……ぼ……僕は……まだくたばっちゃ……いないぜ……」
「強がりはよせ……立ち上がったところで、もうお前に俺を倒す手段は存在しない」
ここまでの戦闘は、完全にライダーの負けであった。全てにおいて、セイバーの能力はライダーのそれを上回っている。だがライダーにはまだ、隠された奥の手が残っていた。
「ふん……それは……どうかな?」
「何だと?」
「確かにライダーの能力じゃ、どうやってもセイバーには敵わない……だけど、お前は一つ大事な事を忘れているぜ。自分で作ったシステムの、最大の利点を……」
「最大の利点……だと?」
「俺には今迄倒した、他のマスターのクラスカードがあるんだぜ!」
そこでライダーは転がるように後退りして、一気に立ち上がる。そしてアーチャーのクラスカードを取り出し、それをカードデッキにセットした。
『Borrow Vent!……Archer!Ea!』
ライダーの右手に、乖離剣エアが出現する。
「何っ?!……ま……まさか?」
慌ててセイバーは、聖剣を上段に構える。ライダーも、エアを上段に構えた。
「エヌマ……」
「エクス……」
「エリイイイイイイイイイイッシュ!!」
「カリバアアアアアアアアアアアッ!!」
二人は同時に、剣撃を放った。
その威力はほぼ互角で、二人の間でぶつかり合ってしばらくは燻っていた。だが遂には、周囲を巻き込む大爆発を引き起こした。
「ぐぅわあああああああああああああっ!」
「うわああああああああああああああっ!」
セイバーもライダーも、完全にその爆発に呑み込まれてしまうのだった。
凄まじい爆煙が晴れた後、周辺一帯は何も無い荒れ地と化してしまっていた。
そんな荒れ地の中央に、二つの人影だけが残されていた。共に鎧が消滅してしまった、慎二と士郎である。
慎二の方は尻餅をついて坐っていて、士郎の方は立ってお互いに睨み合っている。二人の腹部では、カードデッキが激しい火花を飛ばしている。やがてそれは、小さく爆ぜて消滅してしまう。
「こ……こういう場合はどうなるんだ?カードデッキが破壊されたから、もう僕達はここから出られないし、助からない……勝者が居ないじゃないか?」
そう問い掛ける慎二に、士郎は淡々と答える。
「いや……勝者は……俺だ」
「何っ?」
「俺は……もう人間じゃ無い……この体は、サーヴァントも同然だ。だからこの中でも、消滅する事は無い……」
「ど……どういう事だ?」
「俺の肉体は、一年前に死んでいるんだ」
「な……何だって?」
そこで慎二は、今迄も士郎の行動を思い起こす。
確かに士郎が現れる時、彼は常にミラーワールドの中に居た。慎二達は少しでも長くミラーワールドにいれば、直ぐに体の消滅が始まってしまう。だが士郎だけは、あれだけ長く中に居ても全く消滅する様子が無かった。
「な……何だよそれ?最初から、そんなアドバンテージを持ってやがったのか?」
呆れたように、慎二は言う。
「お前から見れば、そうなるだろうな?このシステムを構築する代償に、俺は自分の肉体を失った……」
「そうか……じゃあお前の望みは、自分が蘇る事……の訳は無いよな?こんなシステムを作らなければ、命を落とす事は無かったんだから……」
「美遊だ……」
「え?」
「俺が蘇らせたいのは、美遊だ!」
「な……何を言ってるんだ!美遊ちゃんは、ぴんぴんしていたじゃないか?あれで、どこが悪いって言うんだ?」
「美遊も、俺と同じだ……」
「なっ……」
「美遊は既に、六年前に死んでいる……今のあいつは、聖杯の力を借りて一時的に肉体を得ている……サーヴァントも同然の存在に過ぎない」
その言葉に慎二は、愕然としてしまう。
だが良く考えてみれば、衰弱して寝たきりだった彼女が突然何事も無かったかのように、健康体に戻る筈などは無かった。
「そうか……じゃあ、美遊ちゃんと一緒にお前も……」
「いや……蘇れるのは、美遊だけだ」
「はあ?何だよそれ?……二人一緒に蘇ればいいだろう?何で、美遊ちゃんだけなんだよ?」
「美遊は……特別なんだ……」
「特別?」
「あいつを助けるという事は、世界全体を救うのと同格なんだ……だから……」
「何を言っているんだ?訳が分かんないよ!」
「……」
士郎は、言葉に詰まってしまう。
「おい!最後くらい、ちゃんと説明しろよ!」
「……美遊は、聖杯と同じだ……」
「はあ?」
「あいつ自身が、どんな願いでも可能にする願望機なんだ!」
「何……だって?」
「お前達は、記憶も変えられているから知らないだろうが……六年前、この冬木で第五次聖杯戦争が行われなかったというのは、偽りの記憶だ」
「何っ?!」
「第五次聖杯戦争は、本当は行われていた……そしてそれは、最悪の結果をもたらしていた」
「最悪の……結果?」
「冬木の聖杯は過去の愚かな参加者のルールを破った召喚の為、“人を殺す”という呪いに犯されていた。その聖杯が完成してしまった事で、大いなる悪“アンリマユ”が世に放たれた。それにより、世界は滅亡の危機に瀕してしまった……」
「ば……馬鹿な……」
「その滅亡から世界を救う手段は、唯一つしか無かった。どんな願いでも可能にする願望機である、美遊の力を解放するしか……だがそれは、美遊の命と引き換えにしなければならないものだった」
「そ……そんな……」
「俺の親父……衛宮切嗣は、迷わず美遊の力を解放させた」
「な……じ……自分の娘を?」
「本当の娘じゃ無い……元から美遊は、この世界の人間じゃ無かった。第四次聖杯戦争から数年後に突如発生した時空の歪から、この世界に迷い込んだ異世界の人間なんだ!」
「な……」
「切嗣は美遊のその力に気付き、もしもの時のために養女にして俺と共に衛宮家で匿っていたんだ。家から外に出さずに、外界と完全に遮断してな。“病弱”というのは、それを貫き通す為の口実に過ぎない……」
慎二には、とても信じられないような話であった。
しかしこの期に及んで、士郎が慎二に嘘言う理由は無い。何よりそれ程の事でも無ければ、常に他人の幸せを優先する士郎がこんな戦争を自分から引き起こす筈が無かった。
「切嗣は世界を救うのと同時に、呪われた聖杯を二度とこの世に出さないように完全に封印した。聖杯戦争自体を無かった事にして、死んだ者も全て蘇らせた。そして聖杯戦争に関わった者、全ての記憶を書き換えたんだ」
そこで慎二は、ある疑問に気付く。
「ま……待てよ。なら、お前の記憶も書き換えられたんだろう?何でお前は、その事を覚えてるんだよ?」
「切嗣が死んだ後、隠されていた日記を見つけた。それに、全てが書かれていた。それを見た時に、俺の記憶は戻った……」
しばらくは衝撃を受けて呆然としていた慎二だが、ふと自分の体が消滅し始めている事に気付く。もう自分の命もあと僅かと悟ったところで、ようやく慎二は士郎の気持ちを本当に理解する。それと同時に、士郎の大きな間違いにも気付いてしまう。
「ふっ……全ては美遊ちゃんの為か……変わってしまったと思っていたが、本当は何も変わっていなかったんだな?お前は?」
「ん?……何を言っている?」
「他人の幸せばかり考えて、自分の事はいつも勘定に入っていない……だから、相手の本当の気持ちが分からないんだ!」
「相手の……本当の気持ちだと?」
「お前は、美遊ちゃんの気持ちを全然分かっていない……」
「そんな事は無い!俺は、美遊の幸せだけを考えて……」
「こんな事で、美遊ちゃんが幸せになると本気で考えているのか?」
「何?!」
「人の命を犠牲にして蘇って、美遊ちゃんが喜ぶと思っているのか?」
「美遊はその命を犠牲にして、世界を救ったんだ!そのくらいの権利はあるだろう?」
「それはお前のエゴだ!美遊ちゃんが望んだ事じゃ無い!それに、お前は一番大切なものを彼女から奪うんだ!それが分かっているのか?」
「一番大切なもの?……何だ?それは?」
「お前だよ!美遊ちゃんにとって一番大切なものは、この世でたった一人の兄であるお前なんだ!お前が居ない世界に一人で蘇って、どうして美遊ちゃんが幸せになれる?そんな事も分からないのか?!」
「なっ……」
終始冷静を貫いていた士郎が、この慎二の言葉に大きく衝撃を受け狼狽えてしまう。
ただ慎二の方も、偉そうに説教をしながらも自責の念に苛まれていた。
「ふん……僕も、お前の事を言える立場じゃ無いけどな……あいつの、桜の本当の苦しみを、全然分かっていなかったんだからな……」
「し……慎二……」
「あばよ衛宮……あの世で、目いっぱい後悔するがいいぜ……」
最後にそう言って、慎二は消滅していった。
慎二が消滅すると同時に、士郎の手に七枚のクラスカード全てが出現する。これで聖杯の召喚が可能となるが、士郎は硬直してしばらく動けなかった。唯々クラスカードを見詰めながら、慎二に言われた事を考え込んでいた。
「……お兄ちゃん……」
その時、士郎は後ろから声を掛けられる。
驚いて振り向いたそこには、美遊が立っていた。
「み……美遊?!ど……どうしてここに?」
「アルトリアさんが……連れて来てくれたの」
「あ……アルトリア?……セイバーか?あいつが何故?……」
「お兄ちゃん、もう止めて!」
「何?」
「慎二さんの言った通りだよ……私、他の人を犠牲にして生き返りたくなんか無い!」
「な……何を言うんだ……今の世界は、元々お前の犠牲で成り立っているんだぞ!」
「だからって、同じ事をしていいの?」
「え?」
「やられたらやり返すって事と同じでしょ?そんなの、ただ哀しみが増すだけじゃない?」
「だ……だけど……」
「お兄ちゃん、自分の立場だったらどうなの?そうまでして、生き返らせて貰って嬉しいの?」
「そ……それは……」
「それに私……お兄ちゃんの居ない世界で、一人で生きていくなんて嫌!そんな風に生き返ったって幸せになんか絶対になれない!」
美遊の目からは、大粒の涙が流れ出している。
「み……美遊……」
美遊は、士郎に抱き付いていく。
「こ……ここなら、ずっとお兄ちゃんと一緒に居られるんでしょ?……私、それで幸せだよ!」
「みゆ……美遊っ!」
士郎はクラスカードを手放して、その両手でしっかりと美遊を抱きしめる。
「ねっ……お兄ちゃん……だから……」
顔を上げて士郎を見上げながら、美遊は彼に何かを語る。
「……ああ……分かったよ……美遊」
士郎はようやく笑顔を見せ、地に落ちた七枚のクラスカードに左手を翳す。
カードは激しく輝き出し、宙に浮かんでいって抱き合っている士郎と美遊を囲んでいく。その輝きはどんどん強くなって広がり、士郎と美遊をも呑み込んでいった……
「いつまで寝てるのよ?慎二!」
僕は、その声で目を覚ました。
「えっ?……」
そこは、桜の病室だった。
更に、僕を起こした人物が目の前に居る。それは……
「とお……さか?」
「何保けてんのよ?」
え?何で?遠坂が?……そもそも僕は、消滅したんじゃなかったのか?
「姉さん、兄さんは疲れているんですから……もう少し寝かせてあげて下さい」
「何言ってんのよ!人をロンドンから呼び付けといて、呑気に寝てるなんて失礼じゃないの?」
「えっ?」
桜が?普通に目を開けて喋っている……それに今、遠坂を“姉さん”って呼んでたよな?
今迄ずっと、“遠坂先輩”じゃなかったか?
ここは……ひょっとして天国?
すると、遠坂が僕に目配せをして来る。“一緒に来い”と言っているようだ。
僕は、それに軽く頷いて立ち上がる。
「桜、ちょっと慎二借りるわよ」
「姉さん……あ……あんまり酷くしないで下さいね」
桜は、遠坂が僕に説教でもするのかと思って心配しているようだ。
僕達は病院の屋上に場所を移し、二人だけで状況を整理していた。
「私も、さっき目覚めたばっかりよ……気が付いたら、この病院に居たの」
「じゃあ、ここは現実で……僕達は、生き返ったって事なのか?」
「そうなるわね……でもいきなり桜が意識を回復していて、話したら“姉さん”って言って来るからびっくりしたわ。おまけに、私は貴方に呼ばれてロンドンから飛んで来た事になっていた……」
「他の皆も、生き返っているのかな?」
「さあ?……ただ、衛宮くんは居ないわ!」
「えっ?」
「存在ごと消えているわ!美遊ちゃんもよ!」
「ど……どういう事だよ?それ?」
「私にも分からないわ……桜に話したら、全く彼の事を知らないのよ。そして自分のアドレス帳を調べたら、彼の名前だけ完全に無くなっていたわ」
「何だって?」
その後僕達は、聖杯戦争に参加したマスター達の事を調べて回った。
僕達同様に生きている者が殆どだったが、二人だけ居なくなっている者がいた。一人は当然衛宮だが、もう一人は僕の祖父……間桐臓硯だった。
ただ生き残っている者達も僕達とは違い、聖杯戦争の事は全く覚えていなかった。元々戦いはミラーワールドの中で行われていたから、現実世界に実被害は殆ど出ていない。六年前の時と同様に、聖杯戦争自体が無かった事になっていた。
おそらく衛宮が、最後に望みを変えたのだ。僕達を蘇らせ、皆から余分な記憶を消したのだ。間桐臓硯だけを排除したのは、桜の為を思ってくれたのだろう。
冬木大橋の近くの公園で、ベンチに腰掛けて僕と遠坂は話していた。
「何で衛宮は、僕達の記憶だけは消さなかったんだろう?」
「桜との事を考えてくれたんじゃない?この事件が無ければ、私達と桜の距離は離れたままだった……」
「そうか……そうだよな?」
「それとも……私達だけには、覚えておいて欲しかったのかもね?」
遠坂のその言葉は、素直に納得出来た。
衛宮士郎、衛宮美遊、この二人についての記憶は、その存在と共にこの世界から完全に消えてしまっていたのだから。
< 完 >
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
龍騎とのクロスの割にはFate色が強いので、士郎と美遊の関係や士郎の立ち位置を出来るだけ龍騎風にしました。
“プリズマ☆イリヤ”の士郎とやっている事は近いかもしれませんが、あっちは“悪”と言っていながら読者から見れば“正義”に見えます。それは、士郎視点で話を見ているからだと思います。エインズワース視点で士郎を見たら、この話みたいな感じじゃないでしょうか?
士郎が悪側なので、セイバーを最初からオルタにしました。
汚染されていない聖杯を使っているのに何でオルタなんだと言われるかもしれませんが、その辺は大目に見て下さい。
エクスカリバーが、ラスボスのセイバーの最終兵器。
それに対抗するため、ライダーはアーチャーの剣を借りてエヌマ・エリシュを放つ。
本来のFateとは逆の展開となりました。
最後に、慎二を主人公にした為に、この話での慎二と士郎は本当の意味でかけがえの無い“親友”になってしまいました。
こういうのも、面白いのではないでしょうか。
台詞内容は殆ど変えていません。
描写が足りなかった所が多かったので、その辺りを結構書き直しました。