ガゼルこと涼野になってしまったのだが。 作:クララの能力値はGK型
僕が眼を覚ますと、そこは部屋だった。一瞬、何処だと疑問に思うも、その答えは自然と僕自身の中から出てきた。
自分の部屋だ。いや、みんなの部屋と言った方がいいか。
お日さま園。僕と同じく、親をなくした子供が集まる場所。つまり、孤児院。
ここでみんなと勉強したり、遊んだりしている……記憶がある。いや、俺自身は体験した感覚がないのに、映像だけ頭に残っている状態……不思議だ。だが気分は悪くならない。そういうものだと、なぜか納得できた。
……お日さま園?どこかで聞いたことあるような気がするな……
……あぁ、‘イナズマイレブン2’に出てくる孤児院かって、え?イナズマイレブン?アニメとかゲームの世界だよな、そこって。
ーーサッカー、FF、帝国学園ーーサッカー好きなら出てくるワードを思い浮かべれば、内から出てくる詳細な説明。
ーー俺の世界にこんなのあったか?
ーー僕はこんなこと知っていたか?
繰り返される自問自答。
噛み合っていく常識。
統合されていく知識と経験。
ーー
その問いに、
……安心しろ、
その言葉と共に、微睡みの中にあった意識は一気に覚醒する。
頭の中にある、2つの人生の記録。
朝も夜もサッカーに明け暮れ、プロサッカー選手になることを夢見た一人の少年。才能か、それとも努力の成果か、やがて様々なメディアに取り上げられ、将来を目された。
小学校高学年になる頃には、彼の試合には必ずカメラが回るようになった。‘天才少年’‘次世代のヒーロー’。そんな呼び名で呼ばれるようになった少年は、その小さな体には大き過ぎるものを抱えてしまった。
期待という名のプレッシャーは、溢れそうになるほどの不安に繋がる。
そして、その少年が中学生に入ってすぐのこと。不安を消そうとする無茶な努力が、彼の身体を……破壊した。
中学一年の全中(全国中学サッカー大会)、準決勝。前回優勝校を相手に、前半を終了時点で5-0で圧倒していた。その、後半が始まり、その試合6点目を奪った直後、少年が足の痛みを訴え、途中交代。
……彼は右足後十字靭帯を断裂していた。手術をし、なんとか歩けるようにはなったものの、彼がサッカーボールに触れることは、二度となかった。
小学校に入る前に、親に捨てられた、もう一人の少年。お日さま園に引き取られたが、彼は一人だった。
お日さま園は、多くの子供達が笑顔で暮らせるような場所だった。けれど、彼は心を開こうとはしなかった。
居場所のない世界。トラウマに囚われている、弱い自分。どこか冷めた目で見てくる、大人達。全て、全て嫌いだった。
そんな状況に耐えられなくなった少年は……逃げ出した。もう二度と、‘表’に出られないように……。
私は、‘俺’でもあって‘僕’でもある。
……けれど、何者でもない。
ならば、私は果たそう。‘俺’の未練をなくしてみせよう。‘僕’の世界を変えてみせよう。
近くに落ちていた鏡を取って、自分の姿を見て、再度確認する。
私の名前は……涼野風介だ。
……ないな、うん。