ガゼルこと涼野になってしまったのだが。 作:クララの能力値はGK型
「はあっ!」
ズドン。と、腹の奥まで響くような鈍い音が森の中に響く。その音に驚かされたのか、何羽かの鳥が飛び立っていくが、慣れたように留まったままでいる鳥もいる。
「フッ!」
もう一度、ズドン。鈍いながらも大きく、力強い音は森の木々を揺らし、静かな森を騒がしく変える。
まあ、その音の発生源は……タイヤと人の足なわけだが。
私という人格が生まれてから一年が経ち、小学三年生になった。お日さま園の子供達が、大きな庭でサッカーをしているのも、よく見かける。
私はそんな光景を傍目に、お日さま園の近くの山に抜け出して、こうして一人寂しく特訓だ。言ってて少し悲しくなるのは何故だろうか。
ともかく、一年も特訓をすれば全く力の無かった‘僕’も、こうしてタイヤを蹴られるようになる。‘俺’の知識から見れば絶対に有り得ない(タイヤの音含む)が、出来るようになったものは仕方がない。
タイヤを振り子のように吊るし、それを蹴る。そして、蹴ったタイヤの運動が止まる前に先回りして、タイヤを蹴る。その繰り返しだ。
しかし、ここは森。足場はあまりにも不安定で、タイヤを蹴ることも十分にできなかった。その上、先回りするのにもデコボコした地面や、落ち葉などで柔らかくなった土に足を取られ速度が出せず。また、タイヤを蹴り返せずに吹き飛ばされることも何度もあった。
しかし、慣れとは恐ろしいもので、半年もする頃には不安定な足場を捉える足腰の強さと柔軟さ、どんな体勢からでも十分な力を発揮できる体幹。純粋なキック力、タイヤに追い付くためのスピードを身につけていた。
……タイヤの特訓万能か、とかいう突っ込みが自分自身で行われたのは余談である。
しかし、同時にこの特訓は負荷が大きく、慣れたとはいえ一週間ぶっ続けでやる、なんて事はできない。というか、‘俺’の経験があるからやりたくない。
そのため週一で、タイヤの特訓は軽く済ませ、ボールコントロールの練習をする。
……結局やるのかって、やらないと勘が鈍って怪我する原因になりうるからな。ミスって怪我とか笑えない。一応隠れて特訓しているし。
「よし、戻るか」
独り言にも慣れてきてしまった。
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「よお、風介。今までどこ行ってたんだ?」
どこの世界にも、風変わりな奴、というものはいるもので‘俺’の知識にも、そんな奴はいた。イケメンなのに変態。普通なのにハーレム状態とか。ベタとか言うな。私もそう思うから。
この世界にも、というかこの世界だからこそ、風変わりな奴はかなりいる。例えば、目の前のチューリッ……特徴的な赤い髪の奴とか。
「別に。お前には関係ない事だ」
「ああ?なんだと……てか今イラっとしたんだが、何か考えたか?」
「知らん」
こいつは南雲晴矢。いつも一人でいる私に声をかける、まさしく変な奴だ。前にサッカー勝負を挑んできて、返り討ちにしたらそこから絡まれるようになった。
んで、こいつは会うたびに
「ふーん……まあいいか。それより風介、俺と勝負しやがれ!」
毎回、勝負を仕掛けてくるのだ。お前は目を合わせるとバトルせずにはいられないのか。どこの世界軸の人だよと問い詰めたい。
「飽きないのか、お前は……」
「はっ、負けたままで終われるかってんだ!」
「勝っても続ける癖に何を言うか」
「当たり前だろ」
何が当たり前なんだ……毎回毎回。少しは絡まれてる立場を考えて……
「風介との勝負、楽しいからな!」
……驚いた。いや、それと同時に呆れもしたが。
楽しい、か。確かに。南雲との勝負は、自分の中で特訓と思いながらも、一人の特訓とはどこか違うと感じていた。
けど、一人の特訓も好きだ。自分が鍛えられている感覚があるから。
毎回のことのように絡まれるのはゴメンだが、勝負すること自体は……嫌いじゃない。
「あ、でも、勝つのは俺だからな!」
「……私も、負けないさ」
ーーさあ、勝負開始だ。
南雲からのパスを‘左足’で受けて、互いに駆け出した。